お正月前に異世界転移?

15まる

第1話

 十二月三十一日に除夜の鐘で百十一回目を鐘を鳴らすことが出来た場合、異世界転移ができるという都市伝説があった。


 百九回目でも百十回目でもなく、百十一回目の鐘を鳴らす必要があり、これを実演にするには最低限、二人の協力者が必要となる。


 お寺の住職に怒られる事を前提として行われるミッションに協力してくれるのは幼馴染であり、長年悪友としてやってきた黒豆邪除くろまめ まよけ伊達巻教養だてまき きょうようだった。


 高校最後の思い出として一発やってやろうじゃないと意気込んでの挑戦が始まったが、百八回目以降に鐘を鳴らそうとすると住職に止められる為、高校卒業を控えている身としては強行突破は避けたいので、少しずつ数を騙す作戦を実行した。

 大晦日の大イベントの一つとなっている中で、三人が嘘の数を数えたからと言って誰もそれに合わせてくれるわけではなく、ただちょっとおかしい高校生がそこにいるだけだった。




「上手くいかなかったな」


 黒豆邪除くろまめまよけは肩を落としながら口を開いた。


「もともと、行き当たりばったりだったし。だけど、異世界転移したかったな」


「お前、Web小説にはまり出してからずっと言っていたよな」


「やっぱり憧れるじゃん。異世界って」


「そうか?俺は今のままでも十分楽しいけどな」


「実はさ、もう一つだけ試したい事があるんだよね」


 伊達巻教養だてまき きょうようは鞄から小さな鐘を取り出した。


「鐘を百十一回、鳴らす事ができたらいい訳だから、大きさは関係ないと思ったんだけど試してみる?」


 二人は驚きつつも伊達巻教養だてまき きょうようを見て同じ言葉を発言していた。


「「お前って天才だな」」


 チーン。さすが、百円のクオリティで音はしょぼいが鐘としての役割は果たしている。


「お前、異世界に行ったら何をするんだ?」


「そりゃあ、剣と魔法で世界をずばばばーんって戦うよ」


「いや、剣と魔法の世界だったら、この世界も一緒だろ?それに、異世界は夢や希望に溢れた世界じゃないかもしれないぞ?」


「でも、鉄の塊が空を飛んでいたりするんだよ?異世界ってすごいじゃん。それだけで夢が膨らむよ。しかも、月っていう場所にも行けるみたいだし」


「異世界じゃ、魔法が使えないみたいだぞ?」


「でも、魔法の代わりに科学っていうのが発達しているんだよね。勇者冒険記で読んだよ」


「だけど、勇者様は誰も自分のいた世界に戻っていないじゃん。つまり、戻りたくないような世界なんじゃないのか?」


「うーん」


「ここも十分異世界だと思うけどね。色々な世界の文化が混ざった世界な訳じゃん。百円均一って勇者の世界の商売みたいだしさ」


「・・・やっぱり異世界転移するの止めるわ。俺はこの異世界で色んな事を楽しむよ」


「そうか。俺もそれが良いと思うよ。やっぱり、お前が異世界に行ってしまうのは俺も寂しかったんだよな」


教養きょうよう、異世界転移は中止だ。帰るぞ」


俺の手が鐘に触れた。


チーン。


「この光って、まさか」


黒豆邪除くろまめ まよけが手で目を隠しながら光に包まれていく、餅好餅郎もちずき もちろうを見る。何かを叫んでいるようだが、彼の声は届かない。


「百十一回目の鐘を音」


伊達巻教養だてまき きょうようが呟く。


「おいー、何やっているんだよ」


話ながら横でチーン、チーン言っていたが、運良くこのタイミングが百十一回目なんて、そんな展開が起こるなんて誰が予測できるんだ。


黒豆邪除くろまめ まよけの叫びが遠くで聞こえる。


年明けから餅好餅郎もちずき もちろうの異世界転移生活が始まる。

※異世界転移できたって事はハッピーエンドだよね?

※続きません。

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