<HL-Ⅴ>

「ユクエちゃんのパパって、本当のパパだったのかな」

 ルミナさんの私室で。共に裸になっていた時、彼女は不図にそう言った。

「どうして血縁関係を疑うのさ」

「やっぱりおかしいじゃん。父親とセックスして、父親と作った生命の卵を腹の中にしまっておくなんて」

 珍しくまともな指摘をするんだな、と僕は驚きかけたが文芸部の中で最も常識人なのは意外にもルミナさんであるが故に、自然な発言だと見做される。

「彼女なりの愛情表現なんだろ」

「わたしには解らないな。これから先、何百人もの男に抱かれても絶対に理会できないや」

 そして、僕はその何百分の一に入っている。薔薇色の棘がほんの数分前迄突き刺さっていた彼女の隘路には、数多くのスペルマの跡が残っていた。

「ごめんねホオリくん。わたし、ホオリくんのこと好きでもないのに身体を許している」

「何故謝るの」

「だって、ホオリくんの最愛の人はエイセイだから」

「それは違うさ。仮に僕がエイセイさんを愛していても、エイセイさんはユクエさんを溺愛している。そしてユクエさんはパパを愛していた。三角関係は不成立で、トライアングルになりきれなった歪な三本の直線が硬直しているってことだ」

「本当に」

 互いの唇を重ね、ルミナさんは僕の身体をベッドに寝かせる。四つの膝関節がぶつかり乱れ、僕の眼路は彼女の顔一面で蔽われた。

「本当さ。エイセイさんもユクエさんも、僕への愛は無い。言うを俟たすルミナさんも、ね」

「一つだけ、ありとあらゆる柵から解放される方法はある」

「僕は知らない。ルミナさんは知っているの?」


「ある。ホオリくんがわたしとユクエちゃんのであることを世界へ向けて叫んでくれれば、皆が救われるよ」


「――」


 僕は言葉を失った。彼女は聡明過ぎた。いつか僕が打ち明けるべき真理を代理で言表してしまったのだ。然し、彼女の見識に偽りが無ければ、代わりに僕の驚愕が嘘になってしまう。自作自演の言語世界に引かれた一本の彼岸はすべからく《真偽》を示しており、乃至とは無関係である。

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