第46話2-11-4.インターハイ予選決勝④

「さすが・・・ご名答だね。アフロ・・・グループCの決勝戦は4勝1敗・・・でもなかなか各試合は接戦だったみたい。一応、決勝戦の状況を説明しようか?」

「うむ。頼む・・・こうしてもけから実況中継を聞くのは久しぶりだのう、桔梗・葵戦以来かのう。春はよく聞いておったがな」


「ああ、そうだね。早速。先鋒はプリン石川対フリッカーヌンチャク使いのえ~っと・・・」「“ジェノサイド・バルカン”の加藤我路であろう。相変わらず名前覚えんな」

「まあまあ、一撃の重さは輝皇大大剣のプリンでフリッカーの加藤の方は手数で勝負、後半加藤が分身したけどプリンは避けずに大ダメージを負いながらも競り勝った」「ほほう・・・」


「次鋒戦は“神の目”花屋敷華聯と“ソウルイーター”森口優美で」「女の名前は覚えとるのう・・・」「いいから。近接も遠隔攻撃も華聯が避けまくって一撃離脱を繰り返した・・・森田さんはカウンター上手いからね。5分フルで戦って華聯の優勢勝ちだった」「ほう・・・“ソウルイーター”に勝ったか」「あのソウルブレードを避けまくってた・・・大したもんだね」


「それから中堅戦はガリバー兄弟対ゾンビ姉妹で、ガリバー兄弟のコンビネーションをゾンビ姉妹が大幅にダメージカットしながら空中戦をしかけて・・・」「待てい!ゾンビ姉妹というのは甲賀倫と甲賀怜のことか。名前を覚えんか、キエ~!」この姉妹は普段から顔色が悪く無表情のためゾンビ姉妹と揶揄されているのだ。

「劣勢だったんだけどガリバー兄弟が突然お互いを殴り出してそこから流れが変わったらしい」「ほほう、自己強化するようなサードアビリティではないのか?」「いやあ見ていた範囲ではただ殴り合ってただけだけど、そこから何故か逆転したね・・・これで一応Z班第二部の優勝は決定」「むう・・・」

お互い一口ジュースを飲んで次を話す・・・まあ詳細は明日動画でも見ればいいし。


「それで副将戦は泉麻希が準決勝で負傷したらしくて、今日ずっと大将をしてた由良が副将で出て。相手はあの“フィアー&ファイアー”の出川美利でさ」「ほう、“ジェノサイド・バルカン”のポイントゲッターではないか」「そうそう・・・試合はもう結果出てるのにこの試合がまた激戦でさ、由良さんは回避と防御だけで精いっぱいで全身ボロボロでムチも焼けて千切れて・・・だったんだけど“ニューロリセクション”とかいう技で最後の最後にトドメをさしに来た相手を空中で麻痺させて勝っちゃったよ」「ほほう、それは誘い込んだのう。出川は2択が上手いからのう、その上を行ったか。由良殿は」


(おや?なんだ?)


「・・・ん?」

「どうした?もけ?」僕が怪訝そうにしていたのが分かったようだ。

「何かの気配がこっちに近づいてくる、攻撃的な気配ではないね・・・ちょっと見てくるよ」

「いっしょに行くか?もけ?」九鉄を影から取り出そうとしているが止めた。

「いや、いいよ。で、大将戦は毛利君がなすすべなく完敗してた・・・とういわけ」「であろうな・・・それより気を付けるがよい」というかどうもこの気配は僕に用があるようだ。


旧美術講堂からもう真っ暗の屋外に出ると、タイガーセンセが誰かと電話している。いろんな人から祝辞が届いているようだ、僕には気づいていない。

音も無く美術講堂の屋根に上る。


・・・少し風があるな。気配を探る。美術講堂の周囲は林になっておりすぐ裏は山になっている。人工物がほとんどないなめ非常に暗いが、まあ僕の霊眼には昼間と大差ない。


・・・いる・・・な・・。この美術講堂の周囲をこちらを伺いながら飛んでいる。当然、召喚士だな・・・女性か。もうすこし霊眼の出力を上げる。


(ん?ああ彼女か・・・なんの用があって・・・僕に用があるのかな。一応殺気は全くないが・・・)


彼女の気配は美術講堂から少し離れ裏山の木々の上を滑っていく。こっちに手を振っている・・・やっぱり僕に用事だろうか。

一瞬ためらったが、彼女と戦えるのは僕しかいない。


・・・行くか・。



―――旧美術講堂から少し奥へ行った木々の上だ。彼女は木の上に器用に立っている。

それにしても吸い込まれそうな目・・・きれいな人だな・・・纐纈君が羨ましい。


「あら・・・よかったです。気づいてくれるかもって思ったけど、さすがですね。第3高校の不知火玲麻です」木の上で器用に丁寧にあいさつする・・・怪しいな。

(挨拶は決勝戦後にさんざんしたし・・・何の用だ?よくないことしか思いつかない)

「ええ、気付いていましたよ。不知火さん・・・だから僕がきました」

(彼女はよく見ると私服姿だが・・・そんなことに騙されはしない。戦闘になれば範囲攻撃で僕以外のZ班は瞬殺だ・・・。覚醒魔法終息はヤバい・・・一人で来るべきだろう)

「・・・ええ!それはうれしいかも。神明全・・・クンって呼んでもいいですか?すこしお話ししたいの」両手を後ろで組んでまるで戦闘などしないとでも言いたげだ。

「それは構いませんよ」交渉で戦闘が避けられるならそれに越したことはないのだ。

場所を変える気?


少し飛んで太い木の太い枝に横並びで立った・・・さっきと何が違うんだ?

「あたし、あんまり戦闘は好きではないの。まあ必要に応じてなんて虫のいい感じなんですけど。」「ええ」まあとりあえず聞こうか・・・。

「校内ランク戦もポイントがカンストしてしまってからは全然面白くないし、まあ第3高校で戦えばまず勝ってしまいますからね」「でしょうね」自慢話か・・・?まあそんなわけはない。彼女は自分の髪をかき上げて整えているようだ。

「って言いますか、得るものが無いの。尊敬できる相手もいないし教官やコーチも正直大したことなくって。桔梗さんと戦えば勝てませんけどね、でもあの人に技術で負けているわけではないの。第3高校もしかりですけどみんな余裕なくってガツガツ・・・どうでもいいランクポイントをためて誰かの評価を気にして・・・ああ。ごめんなさい愚痴っぽく聞こえるわね」「いえいえ不知火さんならそうなるでしょうね」そろそろ攻撃してくる気・・・だな。なんらかの決意を感じ取れる。


ん?違うのかまだ話すのか・・・カウンターを入れそうになった。

「神明全クンって以前からすごく失礼な言い方だけど興味あってでもあたし中々お会いする機会に恵めれなくって・・・桔梗さんとの戦闘も拝見しましたし。それで今日も決勝戦はお相手してくれてうれしかった。ありがとうございました」「いえいえ」来る・・・。どこからきても回避できるようにしておかないと。伏兵はいないようだ・・・僕に隙は無いぞ。


・・・さあ来い。


まだ来ない・・・タイミングをずらす気か・・・やるな。

「予想通りの尊敬できる相手だと思いました。戦闘開始してすぐなにも通じず全く無防備なあたしの胸にその槍を突き立てる流れだったのに・・・しなかったですよね?今思えばすべてのあたしの動きはダメだった、そういわれている気がいたしました」僕は返事をしない・・・リベンジだということは大体分かった・・・覚悟には覚悟で迎え撃つ・・・でなければ今度負けるのはこちらだろう。


戦闘開始・・・?いやまだ会話する?

「6高で校内ランク戦もまったく戦闘を行わずに全クンはゼロポイントなんですってね」「ああ、いえまあね」タイミングが読めないな。何をする気だ?

「強すぎるといいますか。その余裕は極めしものの余裕なんでしょうか?周りが弱すぎて興味わかないんでしょうか?ずっと決勝戦が終わってからあなたのことばかり考えてしまって」「いえ余裕なんて。いつもギリギリですよ」いつもお腹すいて餓死寸前だし、いやしかし殺気はない。読みづらい人だな、決勝戦とは別人だ。


手強いぞ・・・いくつか危険な術のリミットを解除する必要がある。


「あたしには不知火玲麻には全然興味わきませんか?」「はい?・・・いやそれはありますよ。雷属性は強力ですし全体に非常に高いレベルです」ん?交渉・・・?

「全体にというのは。・・・ああ!ひとつ言っておくべきことがあります。あの一般にといいましょうか、あたし纐纈君の実家に実際に居候しています、これはあたしの姉が纐纈家と親しかったからでして。えっとつまりあたしと纐纈君がつき合っているみたいな噂があるようですけど」「はい?」なんのこっちゃ?学園敷地のすぐ外の纐纈家から通っているんだっけ。

「全くそのようなことはありませんので。つまり纐纈君と彼氏彼女ではありません。えーつまりお付き合いしている男性はいません。」「え?はい?」何を言ってんねん?

なんだろう・・・彼女の目はさらに透き通ったように見える・・・なんの術を使う気だ。

「まだるっこしいですわね、あたしらしくない・・・。・・・結婚を前提にお付き合いしてください!お願いします!」「ん?」不知火さんは頭を思いっきり下げた。え?なんだって?ケッコンってなんだ?


血痕だと?


・・・・・・結婚か??


・・・風が少し吹いている、木々が少しざわめく。僕も彼女も動かない。


(・・・なるほど・・・纐纈君とは恋人同士じゃないから・・・結婚したいと?・・・つまり・・・つまりどういう意味だ?)

丁寧に不知火さんはお辞儀をしたまま動かない。今なら攻撃できる!


チャンスだ!・・・こちらから攻撃すればいいけど・・・んん?


「し、不知火さん。こ、告白みたいな感じですね」

「告白です」

(間髪入れずにキッパリと・・・そうか・・・なるほど・・・・・・これは・・・聞いたことがるぞ・・・・)


ただ風が吹く・・・僅かに木の葉が舞う・・・深い夜空からは星々が降り注ぐ。


(・・・これは・・・このシチュエーションは・・・知っている・・・そうだ・・・青木君から聞いたぞ・・・ダイブツくんもだったな・・・これは・・・罰ゲームだな!・・・決勝戦を負けた責任を彼女は押し付けられて僕に告白するという罰ゲームなわけだ。・・・ひどいチームメイトだな・・・。アフロなら言うだろう間違いない罰ゲームだ自信を持てと、どこかからカメラで撮っているはずだ・・・周囲真っ暗だけど・・・)


しかしカメラの気配はない・・・遠隔視の気配もない・・・つまり・・・やっぱりこれは・・・なるほど・・・見たものを映像として念写するレマの能力か。あとでちゃんと告白しましたよとみんなに説明する必要があるからな。


しかし罰ゲームだと言うことが僕にバレると彼女は立つ瀬がないだろう。

なるほど、戦う気は無かったのか。


「あの不知火さん。」

「は、は、はい!・・・結婚は言い過ぎましたけど本心です、お付き合い・・・だめですか?本気です!」

「僕は今、とりあえず来年2月までは竜王家に関与する仕事がたくさんあってだれともお付き合いする気はありません」まあ本当に女性から告白されればすぐOKかもだけど。彼女できたことないし。

「あの全クン、彼女いないってうわさだったんですけど。もしお付き合いしている人がすでにいたり、好きな人がいるなら教えて欲しい・・・です」「いるわけないでしょう」そんなのいればもう少し幸せだよ。


無防備に身を乗り出してくる・・・攻撃されたらどうするんだ?

「彼女はいない・・・フリーってことですよね?・・・そのお仕事が片付けばあたしとお付き合いする未来があり得ますか?」「不知火さんが僕のことを嫌いになっていなければね、どうしてもやらなければならない事が今はあるんです」彼女の綺麗な目を見ていると本当に吸い込まれそうだ、空でも見ていよう・・・まあ・・・今年中に多分呪殺されるし来年のことなんか知らん。


まあそして僕を騙せるわけはない、低身長の僕に告白する女性なんているわけがない。


でも嘘でもうれしい・・・そう思う僕って不幸だな。


何か彼女らしくないが木の枝の上にへたりこんだ。

「よ、よかったぁあ・・・緊張しました・・・お断りではないんですね?本当なら、う、うれしい。すごく。告白したの、は、初めてなの」「僕もうれしかったです」たとえ嘘でも。

レマさんは心底ほっとしているようだ、芝居ではないだろう・・・罰ゲームをやり遂げたのだ。まあ良かったね。


さらに・・・なんでモジモジしてるんだ?魔力は感じないが。

「全クン。・・・あの一応お聞きします。非常に失礼かもしれませんけど。男性もそういう・・恋愛的な対象になりますか?・・・別にそれはそれで別に・・・」

「そういうって恋人ですか?・・・なるわけないでしょ」

彼女は吸い込まれそうな目を再度見開いた・・・。


―――まったく失礼な連中だな“DD-stars”はな。全員失礼やな!


なぜか嬉しそうにレマは帰っていった。



旧美術講堂に戻ると打ち上げはお開きになったらしい。

村上君と青木君は背中が遠隔視で見える・・・眠そうに寮に帰っていく。結局青木君は星崎さんとは進展なしか。星崎さんとダークアリスも帰るところのようだ、オールバッカーが一応送って行っているのか。ダイブツくんは美術講堂からそう遠くない木の上で寝ているようだ・・・意味わからないけど。

講堂の中にはアフロとタイガーだけ残っているようだ。何か話している。


「ああ、えっと、ただいま」

「おう!もけ」

「じんめクン何してたの?心配するでしょう?飛んで行ったの?匂いもしないし」

心配してくれたのか。タイガーは匂いで追跡してくるからなぁ。最近は追跡を避ける抗術もかけているのだ。

「大丈夫ですよ。鳥居先生」

「もけが妙な気配がするとか言うから一応な。待っておったのだ」

「ああ、それは申し訳なかったね。アフロ」

「で?なんだったのだ?」

「ああ、ただの罰ゲームさ。よくあるやつだね」

「・・・ばあつげえむ?・・・で、もけに会いに来た?・・・こんな夜中にか?」

「もう終わったよ」僕は自信ありげにうんうんと頷く。アフロは疑り深い。

「女が一人で悲壮な顔をして来たのではあるまいなあ?もけ」

「いやあ・・・」

「今の今までじんめクン女性と会っていたの?・・・うーーーん。特に残り香はないけど・・・」

「だから罰ゲームだったんですよ」「まあじんめクンが無事ならいいけれど」

腕ぐみしたアフロが顔を傾けつつため息を一つついた。

「うーむ。なんとなく予想がつくのだが罰ゲームではなく本気だったのではあるまいな?もけよ」

「なに言ってるんだ?アフロ。100%罰ゲームだよ」だいたいあんな美人が自分より身長が低い僕に告白なんてするわけがない、だいたい纐纈君っていう彼氏いるし。

分かっている・・・僕が誰かから好かれるなんて可能性は皆無なのだ・・・全員から嫌われているんだ。

腕組みしたままアフロは訝しんでいる。

「だいたい本気なら取り敢えずオッケーするしさあ」

「あの!じんめクン!OKするってどういう意味ですか?・・・あなたね、あたしの焦げるようなこの気持ちを一体なんだと思って・・・」「え?何が焦げてるんですか?先生?」

なんのこっちゃ?


「・・・」

「・・・」  

「・・・?」


アフロもタイガーセンセも僕も無言だ、話が進まない・・・。

「・・・じんめクンって時々ね・・・」二人はボソボソと喋り出した、なんなんだ・・・急に疎外感を感じている?

「もけは賢すぎて2周半回ってアレだからのう・・・人間不信も重症だのう・・・」

なんで二人して僕を可哀そうなものをみるように・・・まぎれもない疎外感を感じる。

「まあとにかく、じんめクン疲れているでしょう送ってくわ」「え?先生?別に僕は」

「もけ、いいから送られて来い、そして一発決めてこい!わかるな?もけ?」アフロが真剣な目をして肩を揺さぶってくる?


考えろ自分・・・。


「・・・?・・・?ああ!わかったよ。アフロ」

「間違いない!絶対分かっておらんであろう、まさに不毛」

「わかってないのよねえ、全部含めていとおしい君なんだけどねえ。・・・まあ先生じっくり待つわねぇ」なんやねん、おまえら。わかってるっちゅうねん。


―――そして結局。

何故かタイガーの自転車の後ろに乗せられて送られて・・・ん?どこ行く気だ?これってタイガーセンセのマンションに向かっているのでは・・・?

ところでアフロは帰らんのか?

霊眼で美術講堂を確認しておく・・・何してるんだ?


広くなった美術講堂の真ん中にアフロはいる・・・広くなった美術講堂は打ち上げをしたときとは別の装いで静寂に包まれている・・・アフロは魔装銃の九鉄を持っている、さっきは持っていなかったが銃身を天にゆっくりと向けていく・・・イメトレか。

(これから練習する気か・・・さすがだな・・・)


「じっくり待つ・・・か。・・・おまえは。・・・もけ。・・・時間が無いぞ。間違いあるまい・・・」


(!)


「ああ、わかってるさ。アフロ」小声で自転車の後ろで僕は目を細めて独り言のようにつぶやいていた。

「何か言った?じんめクン?」

「いえ何も」

風が吹く・・・ただ飄々と、夜空を見上げる・・・上手くいかなくても人生は面白い・・・ただ背中側で自転車をこぐタイガーセンセへの恩返しはできたことにしようか。


背中合わせのタイガーセンセは暖かい・・・。

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