第45話2-11-3.インターハイ予選決勝③

まじで勝った?勝ってしまった?

どうも解せないが。


そして勝ったとして―――桔梗戦と同じだな―――全く歓声が無いな。どうして?僕の時だけ?

そんなに嫌われているか・・・僕って。


嫌われてるんだ・・・。


ああそうか僕は嫌われ者だった、少しの間忘れてた。


その後地響きのような歓声に包まれたがちっとも僕の気分は晴れなかった。


ん?数名駆け寄ってくる・。殺気はない。

「じんめ君!さすがだわ!」最初に抱きついてきたのはタイガーセンセでそれからダークアリスとオールバッカ―と村上君と・・・、とにかくもみくちゃにされたのだ。

(みんな?何があったんだ?)

「もけさん!さすがです!もうもう・・・グスッ!」なんで泣いているんだ村上君は。

「もけクン?痛いところない?怪我は?どんな傷でも・・・え?もけキュンあの、キャー!オールバッカ―君とそんなに抱きしめ合わないで。いやぁもう」

「キエ―!怪我なんぞあるわけあるまい、間違いない!無傷でろう。十傑2位の猛者をなあ。ここ一番のもけの集中力はバケモノであろう、間違いない自信を持て」

「星崎さん、僕はいいから不知火さんを直してあげて。むこうのチームは回復屋がいないみたいだし。その辺の魔術系保健医は魔力切れみたいだし」纐纈君が駆け寄っているが不知火さんはまだ気絶中だ。うわ、みんな写真撮りまくっているな・。

「わかりました。優しいもけクン。回復してきます」星崎さんはとっとこ走っていく、ちゃんと靴はいているな。一連の合宿の流れで一番変わったのがこの星崎真名子だろう。

「グモオモモモン!グモモン!」ややこしいのが来たな、意味わからんよ?ダイブツくん。

「キエ―!ダイブツくんも喜んでおる!間違いない」この鳴き声は喜びなのか?わからんわ。

「あ、そうか全国大会出場決定か?アフロ」

「さすがです、もけさん!本当に銀河神話伝説白書になりましたね!ドララララウワッチュ、ボヘミアァアア・・・」青木君の歌も意味わからないけど星崎さんと上手くいくといいね。

「っけ!あたしは信じてましたよ!先輩は誰より強いって!・・ああでもすげえ感動した。あたし・・・。それはいいけど・・・そろそろ先輩から離れろババア!」

あれ?オールバッカ―は?真後ろで立膝しながら泣いている・・・。今日のMVPはしかし恐らく能力的にはオールバッカ―だろう、覚醒魔法が撃てるわけが・・・。

謎だ、氷竜レークスがまさか・・・。



そのまま表彰式が開始された。17時を少し回っている・・・。

「―――インターハイ予選、グループB優勝チームは第6高校チーム“Z班”です・・・・ここに栄誉をたたえ、大会本部より―――」

退屈な表彰は続くが、Z班のみんなはなぜか真面目に聞いているな。僕の右がアフロ、左がオールバッカ―だけど歴戦の勇者のような顔になっているな・。村上君はまだグスングスン泣いている。

・・・勝ったチームから恨まれないといいけどな・・・。まあでも校内予選で負けても地区大会で優勝か準優勝すれば全国大会には出れない事もないし・・・、大丈夫・・・かな。

表彰は終わったし、とっととこんなのとこは・・・、あ!

いかんいかん、準優勝のDD-starsの連中がゾロゾロ近づいてくるじゃないか。逃げるのか?とアフロを見るが逃げないようだ・・・もう一戦するのはちょっとな・。

(うわーこわ!)

こっちに恋人同士の纐纈君と不知火さんが並んでやってくる。

そしておもむろに、あれ!

ガッシ!と纐纈君と緑アフロ隊長が握手している。


(え?攻撃・・・じゃないのか)


「いやあ、いい試合でした。すごく楽しかったです。勉強になりました。Z班部長さん」なんだコイツ、何言っているんだ?

「いやいやこちらこそ、DD-starsさんの胸を借りられました、歴史に残る名勝負でありました、纐纈部長。間違いない」アフロはビシっと敬礼して握手している。


いつまで握手してるんだ。

(ああ?うん?なんだこれは?)

「え?」そして僕の前に目が特徴的な綺麗な女性がやってきた。

「こんにちはっていうか、初めましてでもありませんけど。お話しするのははじめてですね・。神明全・・・さん。あの・・不知火玲麻と申します」頬を赤らめながら何を言っているんだ?お礼参り・・・でもないのか?

「え?あ?はい。は、はじめまして」決勝戦の対戦相手になにを言っているんだ僕は。

「めちゃくちゃ・・強いですね。何もさせていただけませんでした」「いえ、偶然で」

(酷いことを言われるのは慣れている・・・どんとこい)

「今度是非いっしょに練習をご一緒させてください」「えええ?」

「神明全・・・さんってもっと怖い人かと思っていました」「え?ええ?」

「あの・・・握手させてくださいませんか?」「あ?どうぞ」握手怖いな。

えっとどういう状況だ。みんな楽しそうに談笑している、腹の中は何考えているかわからないけど・・・。まあそういう儀式なのかな。

「あの全さんの魔力のプレッシャーはすごかったです、のまれそうでした」「あ。す、すみません」手離してほしいんだけど。負けた相手にニコニコできるのか、すごい精神力だな。


他のDD-starsの選手とも全員握手することになった。和やかに両チームとも手を振って別れた。

・・・あぁコワかった・・・「長いこと不知火玲麻と話していたではないか、もけ?」「・・・」「相変わらず人間不信の塊だのう。間違いない・・・」「・・・」「武野島にも、以前からもけのファンですって言われておったのう写真まで一緒に撮っておったではないか」「・・・」「・・・難儀な奴だのう。とりあえず打ち上げすっか」「そうしよ。アフロ。逃げよう」さっさと衆目から逃れたい。表彰式も終わったのに結構観客が残っているのだ。


ダークアリスが何かしたのか知らないが、帰りのバスは僕たちZ班とその教官のタイガーだけだった・・・他の乗客は追い出されていた。

バスの中ではみんな、終始どっか壊れてんじゃないのかというほどハメが外れていた。

ダイブツくんが全部服を脱ぎ出してダークアリスからハイキックをくらい・・・青木君は星崎さんにまじでコロスといわれつつグーパンチをくらっていた。アフロと村上君は爆睡中。

「すまねえ、もけちゃん。」

「ん?なに?」

「おれっちが負けたばっかりに2敗で序盤がきっつくなっちまった。ずっと祈ってたんだけどよ」

「ああ、次鋒戦の事?」

「よかったぜ中堅から先はよ、3連勝でよ。アフロちゃんはよしょうがねえ。纐纈だもんなあ。相手はよ」

「なんだ?それでちょっと暗かったのかオールバッカ―」

「勝てると思ったんだがよ」あほか・・・思うなよ。勝てないでしょうが普通。

「いや格上だよ。武野島さんは強い」

「分かってるけどよ。でもよ、おれっちたちの情報はほとんどねえんだ。昨日よ、実はよ。もけちゃんと桔梗の戦う動画をスローにしてずっと見てたわけよ。死角からスピードで攻撃したりよ、おれっちバカだからよ。もけちゃんならどうするか考えたわけよ。最後は撃ち合いに持ち込めたけどよ。負けたら意味ねえ」あのさ、僕あんなことしないわ、でも確かにジャンプ攻撃は効いてたな、そのままギドで相手の武器を凍らすのも悪くはない。・・・細かいこと言っても仕方ないな。

「オールバッカ―、あのさ。前も少し話したけど召喚戦士としての才能だけならトップクラスなんだ。君の竜“レークス”は強くなるよ。でもしばらく覚醒魔法は安定しないだろう、まずはクラスターをしっかり磨いて。それから使わずに済めばいいけどレークスはいずれとんでもないブレスを吐くことになるだろう。魔法の撃ち方や距離感は竜のブレスにも応用できる。君が育てないとレークスは育たない、自分のためにただただ自分を磨く。言うは優しいけどね」

「おれっちあんまり褒められたことないからわっかんねえけど。もけちゃんの話はなんとなく感動するぜ・・・やるぜ。レベル上げてやる!・・・夏奈を取り戻さねえといけねえしな」

よく言うよこの留年ダービー筆頭男は・・・夏奈って名前だっけ。・・・まあ留年ダービー筆頭はダイブツくんだったっけ。そのダイブツくんはダークアリスに電気アンマされ殴られてす巻きにされてバスの荷台に乗せられている、タイガーセンセってダイブツくんは助けないんだよな・・・。

視線をちらっとオールバッカーに移す。しっかし氷竜“レークス”か、欲しいな。それにしてもオールバッカ―の決勝戦での覚醒魔法はおかしい・・・まさか竜気に目覚めかけている?・・・もう?

・・・アフロは九鉄に器用にもたれて熟睡中。村上君もずっと熟睡中。青木君は星崎さんにこっぴどくされたようで。カーテンに禿げ頭をいれて拗ねて詩でも作っているのか・・ブツブツ言いながら時折笑っている。がんばれ青木君。


・・・しっかし・・・いくらみんな竜族になったからって・・・このメンバーでよく勝ったな・・・予選優勝するなんて。


んーと。あと一人、星崎さんは・・・ん?こっちをみて驚いている。

「え?もけクン?・・・えええ!ええええええ!!」

なに驚くことがあるんだ?

「笑ってる!あの、もけクンが笑っている!」


どのもけクン???

「お、おれっちも見たぜ!」

なんだなんだ?


「え?真名子先輩!じんめ先輩がなに!」

「笑っていたの。あのもけクンが・・・もう笑ってないけど」

「えー!ちょまじかよ写真は?動画は?真名子先輩?なんで?」

タイガーセンセがすごいスピードで猫のような身のこなしでバスの前方の席からこっちまでやってきてオールバッカ―と僕の間に腰かけた。そこに席はありませんけど。

「なに?じんめクン笑ったの?そんなぁああああ!先生見て無いでしょう!仲間はずれですか?笑ってるとこ見たいでしょう」

「はあ?先生大丈夫ですか?」何言ってるんだコイツ等。

「逆に調子悪いとか?じんめクン大丈夫なの?」いやいや、僕の肩を揺すられても・・・。


そしてモメ出した。

「だからなんで触るんだよ!ババア!じんめ先輩疲れてんだよ!」

「やばいやばい、やばいもの見ちゃった。かわいすぎて夢に出そう。ミイロミューン。ほとんど天使だったね。やばぁい」

「ちょっと顔マネできる?星崎先輩?」星崎さんは頭を振っている。

「先生みてなかったの。もう一回できるわね?じんめクン?分かるわね?じゃあせえので笑おうね」


・・・できねえよ。分かりません。


「キエ―――!うるさいのう!全く!寝られんではないか!ああ運転手さん!コンビニに寄ってくだされ!打ち上げをせねばならんので。間違いない」

「ああ先生すっかり忘れていました。呆然としていました失礼。中央デパートに寄ってください。今日は先生この鳥井大雅がおごりますから」

またおごられてしまうのか。また借りができてしまうな。由々しき問題だ。




―――買い出しをしてバスの運転手さんの計らいで旧美術講堂近くまでやってきた。

・・・やっと帰還だ。ちなみに美術講堂内部は異空間化しておりまだ広いままだ。


村上君と青木君の凸凹コンビが背伸びしている。

「ただいま。ミイロミューンみんなを守ってくれてありがとう」

そうそう結構僕以外は回復してもらっていたもんな。


「キエ―!みなのもの!宴の準備じゃ!」


・・・といってもほとんどタイガーと星崎さんで宴の用意をしてしまった。高そうなお惣菜とかパンとかお弁当が所狭しと並んでいる。ああピザもあるじゃないか。


コーラ片手にアフロが何か話しているようだ。

「キエ―!まずは乾杯前に総括!鳥井大雅先生お願いいたします」

「それではコホン。みんな本当におめでとう!序盤からすごい勢いで勝ち進んで。準々決勝からは少しきつくなって。そしてそして決勝戦は歴史に残る激戦でしたね、春の全国大会の準優勝チームを倒してしましましたー!君たちは本当にすごい!心の底から・・・おめでとう」

「ではZ班部長もあいさつさせてもらう!俺たちは・最高だ!一人一人について話させてもらおうと思ったが以下省略!飯にしようぜ!ごみ溜めに咲くあだ花ども!・・・ではもけ!乾杯の挨拶、Z班の総合コーチだからのう」

「え?ぼ、僕?」自分を指さしてできませんアピールしたが無理やり立たされてしまった。何言うんだ?白紙だ。


(突然すぎる・・・ど、どうしよう)


「えっと・・・み、みなさん・・・ど、ドリンクはありますか?・・・えっとあの・・・あの・・・」一度深呼吸しよう、挨拶何て上手なわけが無いんだ自分らしく何かを「・・・僕は・・・僕は仲間何て信じてないし友情がなにものにも代えがたいなんて思わない。独立していない人間が組んだって烏合の衆だから。人間は成長せずできるものは成功し続けだめなものは底辺に這いつくばり続ける。それを規定するのはただ自分のありようだけだ。限界をこえて努力したのか、いつ死んでもいいように悔いが無いよう生きているのか・・・それは自分にしかわからない。集団としての評価何て僕にはわからないが。この大会で一番成長したのは目の前にいるみんなだろうと思うよ、そして続けなければ意味がない、自分を成長させるのも停滞させるのも自分の特権だ。まだまだみんなには先がある。・・・こういう挨拶慣れてないんでごめんよ・・・おめでとうみんな!乾杯!」


カンパーイ!


ああ多少みんな引いてるな。アフロめ・・僕に挨拶なんかさせるから・・・。

「じんめ先輩かっこいいわ、やっぱかっこいい。なんか感動しちゃった」

「もけちゃん。おれっちよ夏休みの宿題とかよ、計画通りいったためしがねえんだけどよ。今回はやるぜ、“レークス”を育ててやらねえとな!」夏休みの宿題ってなんやねん。


宴とやらは続く。


「―――そしたら村上大魔神が鋼鉄と化した僕をブンブン振り回して―――」

「ははは、自分では覚えてないんだよね」

みんな楽しそうだな。

「グモ―これ美味しいのじゃ!」

「ダイブツくんってお寿司に直接お醤油かけないでね」

「きったねえな!ダイブツ!脱ぐなよ!またす巻きにすっからな!」

「グモヒィー」

みんな・・・楽しそう。


なんなんだろう・・・この気持ちは。このろくでもない奴等は・・・。


コップを持ったタイガーセンセが後ろから近づいてくる。

「じんめクンいい挨拶だったわ。きれいごとだけ並べても人生は語れないよね。ほんとあなたって子供っぽいんだが大人っぽいんだか。不思議だわね」

「んなことより、もけ。決勝戦の分析が聞きたいのう」

「わりいな。おれっちが負けなきゃよ、もちっと楽だったのによ」

「キエ~!オールバッカ―が負けるのもほぼ想定シナリオ通りだがのう。我々はDD-starsより格下。先鋒、次鋒落としたことにより中堅の村上青木ペアがハマりやすくなるわけだがのう。ダイブツくんは無二の男、副将戦の勝率は100%だからのう」

「なにぃ!おれっち負けるのシナリオ通りかよ!アフロちゃんよぉ。全くよぉ」

「分析も何もアフロの言う通りだよ、アフロの策通りだ」

「にしても大将戦あっさり勝ったではないか?やはり桔梗とは比べられんか?」

「いやいや不知火さんの潜在能力は僕よりずっと上だよ。今日の時点では高速戦闘で慌ててたまたま対処できなかったみたいだけど」


・・・宴とやらは嫌じゃなかった。


―――騒がしかったが午後11時を回ると村上君とダークアリスは疲れたのだろう寝てしまった。星崎さんも眠そうだ。一生懸命に身体を倒して青木君は何の動きだ?・・・ああ・・・星崎さんのスカートの中が見たいのかな、まあがんばれ青木君。ダイブツ君は鏡の前でカンフーの練習をしているようだが・・・意味あるのかな。

オールバッカ―は誰かとチャット中。声が掠れているタイガーは外で大会関係者と電話中のようだ、応援しまくってたもんな。


ん?決着ついたな。遠くても気配で分かる・・・アフロは興味あるだろうか。

それにしても時間かかったな。

「グループC、城嶋由良率いるZ班第二部が優勝したみたいだね。アフロ?」

「・・・ほう、相手は・・・1高チーム“ジェノサイドバルカン”であろう?」


校内予選グループCは“ホーリーライト”と“DD-stars”との戦いを避けたチームが多数参加するために、参加チームが非常に多いのだ。試合数が多く持久戦になる・・・控えの選手がいないのに城嶋由良たちZ班第二部・・・よく勝ったな。


あれ?Z班は第一部も第二部も全国大会に駒を進めるのか・・・。


全国大会に行くのは“ホーリーライト・ザ・ファースト”と“Z班”、そして“Z班第二部王下竜騎兵団”がとりあえず決定・・・“DD-stars”も地方大会に後日出場して余裕で全国大会に来るだろうけど。

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