第43話2-11-1.インターハイ予選決勝①

―――「午後4時30分より第3高校、第一体育館におきましてグループBの決勝戦を行います。第3高校チーム“DD-stars”と第6高校チーム“Z班”の試合となります。両チームとも10分前には会場にお越しください、繰り返します―――」


携帯を片手に話すブロッコリーのような隊長の背中は自信に満ちている。

「おう!皆の者、そろそろ行くかのう。時にもけ、気付いておろうがグループAは“ホーリーライト”が現在決勝戦だそうだ」携帯端末いいなあ、誰かが速報流してるんだろうな。

「ああ見てるよ、今勝負着いたね。先鋒・次鋒・中堅で3連勝だね。優勝決定だ」

「・・・しかし今日、あの西園寺桔梗が全試合棄権しているようだのう?」

「副将の更科麗良も今勝ったね、圧勝だ。・・・朝から桔梗が棄権してるのは知っているけど・・・なんだろう、ヤル気しないのかな」

「あのタイラントがまさかな。その気ないのであれば出場しないであろう。しかも西園寺桔梗は個人戦をエントリーしてないそうだ・・・キエ~。どうもキナ臭い」

「桔梗。調子悪いように見えないけどねえ。あ、大将戦は棄権するみたいだね」

まさかこれは僕が原因ではないよね。情報を他者に漏らさないようにしている?余計なことを学習しないで欲しいな。もう桔梗とは2度と戦いたくないし5月からほとんど覗いていない、どんな練習をしてどうレベルアップしているか不明だ。まさか不幸の世界チャンピオンの僕に復讐しようとしている・・・?まさかねえ、全国大会団体戦で僕と当たる可能性がある?・・・いやいやまさか。


・・・桔梗のことは忘れよう・・・目の前のタイガーセンセ・・・最近タイガーは薄く青いジャージをよく着ているけど、黒と黄色のはもう着ないのだろうか。そういえば僕が着ているこの黒と黄色のジャージも結局もらってしまったな。うん、なるほど。Z班がBグループで優勝すれば問題教師タイガーセンセの株も上がるか。まあこれをもってタイガーへの恩返しとしよう。理由があるとヤル気がでるな。

「鳥井先生、先生のために優勝してみせます、まあやってみないと分かりませんけど」

「え?なになに?・・・え?いきなりジンメちゃん、そ、そ、それって。こ、こ、こ、こ、告白?せ、先生はいつでも準備できていますよ」

「はい?」なんで・・・手を握って来るんだ・・・熱い目・・・風邪か?


「ああ!そこまたくっついてる!ジンメ先輩に触んなっつってるだろ!鳥井!」何故か僕を突然うしろから抱えているダークアリスからバチバチ竜族の殺気が放出されて・・・。タイガーセンセまで殺気が?「なんですか?黒川さん?あなたこそ後ろから抱きつくなんて!」顔を傾けて目も怖いよタイガー、2人とも怖い。練習中はまあまあ仲いいのに。


・・・何で突然険悪になるんだアリスとタイガーセンセは?

何が原因なんだ?

女性は謎が多い、そういえば僕の友達も・・・。


「キエ――‼そこ!遊んどらんと集合せい!」おっとっと行かないと。


なにコレ・・・みんなヤル気の目だ・・・真面目な展開だな・・・まあたまには本当に頑張るか。

「キエ―――!円陣を組め!出来損ないども!手を出せ!いくぜZの旗印のもと!」

Zの旗印って初耳だが・・・鼓舞されているのは分かるが・・・なぜか心地いい。

「アフロ、今日初めてヤル気になったよ。生きるも死ぬも同じだ。行こう」

「おれっち今日はバリバリよ、夏美を見返してやるんだぜ!」

「星崎さん!この震える超合金青木のすべてをぉ!この勝利を君にぃいいい!」

「み。みなさん、が、がんばりましゅおね、あ、がんばりましょうね」

「グモ!グモリン!グモリャナ!グモッシャー!!」

「もし、無いと思うけど負けたらあたしが命張ってお礼参りに行きますんで先輩!」

「ミイロミューン・・仲間の命に祝福を・・・みんなを・・・青木君以外を守って」

予想以上の集中を感じる・・・?上手くいかない気がするけど・・・まあ目の前の敵に集中しよう。


行くぜZ班!!オオ――――!!


よくわからないが僕まで少しヤル気になった。



―――決勝戦始め!

相手は全国2位の“DD-stars”だ・・・闘技場を挟んだ向こう側に全員揃っている。


ほぼ全生徒・・・8000人が召喚士のこの降魔六学園において誰もが羨む最強クラスのチームの一つだ。特に第3高校では異常な人気で入部希望者が殺到するため新メンバーは募集しないことを公言しており2年生と3年生だけで構成される。


(如月葵が入れば面白くなったのだが・・・色んな意味で)


その“DD-stars”は全員が竜族で召喚戦闘の達人だ、TMPAはほぼ全員3万以上、一人の例外も無く既に高校生レベルではない。

降魔六学園十傑5位の先鋒、纐纈守人くんと降魔六学園十傑2位で大将の不知火玲麻(しらぬいれま)さんがいっしょにいて談笑している・・・余裕だな、美男美女で絵になるし。仲いいな・・・さすが恋人同士だ、この不知火玲麻は吸い込まれるような目をしている美人で第3高校で絶大な人気を誇り生徒会役員もしてないが戦女神と異名をとる。そして後ろに降魔六学園十傑3位で副将の姫川樹奈がいる、身体は小さいが恐るべき戦闘力で・・・あれ?でも大津留ジェニファーだけいないな、調子悪いのか。中堅ダブルスは代わりに誰が出るんだ?まあいいか・・・次鋒は武野島環奈だ、十傑に入ってはいないし、おっとりした女性にしか見えないがパワーは最強クラスの接近戦攻撃特化型だ。あとのメンバーも強力だ。


実力も人気もトップクラス。“ホーリーライト”はどちらかというと敬遠されるため人気はトップクラスどころか六学園でトップだろう。というわけで彼ら“DD-stars”の応援もすごい数だ。


対する“Z班”は説明不要の落ちこぼれ集団だ・・・同じ闘技場に上がることすらおこがましい。ダークアリスは超不良、気に入らない教師の頭を燃やしたり、趣味は弱いものイジメ、召喚士でないのに召喚士から恐れられる暴走女で放校寸前。オールバッカ―は昼に起きて午後は街へナンパにいくのが平日の生活ですべての教科で赤点とる強者だ、留年寸前だ。ハゲの青木くんはくわしく知らないがよく痴漢と間違えられて濡れ衣らしいが逮捕寸前。村上君はなんかでかい。星崎真名子は常に裸足で生活しニャンコブーメランとういう名前のウサギのヌイグルミを持ち、歩く放送禁止用語の異名で入院寸前。緑アフロ隊長は緑のアフロに黄色いツナギで常に部室にいる、授業行ってますか?・・・世を儚んで出家寸前。僕こと“もけ”は重度の人間不信と極度の対人恐怖症で人間社会になじめない。あとそう・・・ダイブツくんは無二の男で普段裸で生活し裏山で野犬の群れと戦っている・・・レベルが違う男だ。


実力も知名度も人間性も最低レベルだ。なんで決勝戦来ちゃったんだ?

・・・まあ次元環での短期集中合宿のお陰でアレだけど。


ああ、始まるな。


―――先鋒戦。

“DD-stars”纐纈守人くんと“Z班”緑アフロ隊長の戦闘だ。

(いやあキツイだろう・・・。ミスマッチだ。遠距離戦のみでもアフロが勝つのは難しいだろう)

戦闘開始だ。ここまで来れただけで十分な気もするが勝算は・・・。


―――部長!ファイト―!

珍しいな・・ダークアリスが声を出している、あ、みんなもか。

でも僕はそういう無駄なことはしない。


非常にバランスのいい纐纈守人くんは魔装はイエローかゴールドを基調としたフルプレートでメタリックでキラキラしている。魔装武器はミドルシールドにロングソードとオーソドックスだが非常に強い・・・遠隔魔法も強力であり、アフロが遠距離ファイターだと分かっていても距離をすぐには詰めてこない。


うーん、纐纈君。隙が無いな・・・。

しかしアフロも撃たないな・・・さすが・・・今撃つとマズイ。ただし纐纈守人くんはガードしてよし、魔法撃ってよし、接近してもいい。


霊眼で魔力の流れを見ると纐纈くんは盾を構えて接近だな・・・。やっぱり一瞬で接近してくるつもりだ、伝えられればな・・・。アフロはまだ知覚できていない。


ほぼノーモーションで纐纈君の金色の鎧が接近しアフロと一瞬重なる。


――危ない!アフロ!

シャッツ!

ブシャッ―――!!


纐纈君のロングソードが空を切る。よかった反応できてる。

“衝破一現”アフロの接近戦用の技だ、身体前面をバリアーのように細かく短波の魔法攻撃を数十発発射しその勢いで自分の身体は後方へ飛ぶ技で合宿で僕がアレンジしたのだ、相手へのダメージは少ないが攻撃しつつ距離が取れる・・・と同時に両手で構えた魔装銃九鉄が火を噴いた。纐纈くんの右肩に命中するが肩は装甲が厚い、ダメージは少ないだろう。


これを繰り返す気か・・・それは厳しいだろう。纐纈君は学習する・・・それもあっという間に・・・直撃くらってもこの程度のダメージと思っただろうし・・・。


・・・2人は数回この攻防を繰り返したがどんどん纐纈君に有意な形になっていく。


左右にダッシュしつつ距離を詰められ、あっと言う間にアフロは結界の壁際に追い詰められた。逃げ場はほとんど無い・・・。

纐纈君のロングソードが霊眼で見ると強力な魔力のエフェクトをまといつつアフロに襲いかかる、例の近接バリアーでは避けきれないが・・。


“衝破一現”!


・・・おぉ!器用だなアフロ、真上に逃げるか!


“魔光弾群現”で右肩を一点集中攻撃か・・・。さらに空中にいるアフロは反動で高く飛ぶ。

よく見るためにビジョンアイ・クラッカーモードを発動。アフロはゆっくり弧を描きつつ闘技場に降り立つ・・・。

アフロが降りる前に右肩を負傷した纐纈君が爆発的に魔力の回帰波を出しながら発動する。


“武神モード”!!


ああ武神モードはヤバい・・・纐纈くんのTMPA跳ね上がっているな・・・。

45000前後!?強いな!

諸刃の剣の“武神モード”をもう出すのか・・・。そんなに追い詰められていないはずだが・・・そうか決勝戦だから疲れてもいいのか・・・纐纈君にとって本日最後の試合か。


スピードも上がっている、アフロは反応できないだろう。


先ほどとは比べ物にならない迫力でアフロ隊長が闘技場に降り立つ寸前に着地点めがけてロングソードで横なぎに一閃され振り向きざまにもう一撃入れられた。アフロは防御は低めだ、TMPAも差があり・・・これで終わりだろう。


・・・勝負ありだ、先鋒は負けた。まあアフロの“魔光弾群現”はクリーンヒット、そこそこは纐纈くん慌てたはずだが・・・。


試合終了に伴い、闘技場を覆う円柱状の結界は解けていく。

・・・周囲の観衆は大歓声だ・・。

タイガーセンセと星崎さんがボロ雑巾のようなアフロのもとへ行く。九鉄も折れたな、後で直そう。

勝利した纐纈君が闘技場から出つつ仲間に何か言っている。「ハァハァ・・てこずった・・・みんな、とても手強いよ。心してください・・・格下だと思わないように」と言っているのが聞こえる。

勝っても油断はない・・か。

いやあ厳しい。


―――次鋒戦開始―――。

“DD-stars”の武野島環奈だ、ブラストハンマーを振り回し最強クラスの攻撃力の大和なでしこだ、“DD-stars”は全員竜族だし際立った弱点などない、強いてあげればスピード不足だがそんなこと武野島環奈は重々承知だろう。対するは全教科赤点のオールバッカ―・・・。戦闘中はもちろん声は届かないし指示も出せないが僕ならオールバッカ―くらいの能力があればそこそこ戦えるのにな。

うーん。オールバッカ―では絶対勝てない。オールバッカ―10人で10対1でも無理だろう。それほどの差がある。


戦闘開始だ・・・。

開始と同時に武野島環奈はブラストハンマーを担ぐ。

オールバッカ―は真後ろへ連続ステップして距離を取る・・・、まあこれしかない、武野島さんに近づかれれば終わりだ。


“氷柱一現”


ん?オールバッカ―が最初に仕掛けるが・・・いや・・・無意味だろう。

なんだこれ?

武野島環奈とのちょうど真ん中のやや中空に直径60㎝、高さ125㎝程の氷の円柱を出現させたのだ・・・なんで?


アイスピラーが降ってきて闘技場に刺さる・・・そもそも環奈を狙っていない。


えええ!

そしてオールバッカ―、距離を詰めるのか氷柱の影に隠れる気だ・・・バカか・・・氷柱ごと砕かれて終わりだ・・・。


対する武野島環奈も、やや慎重にだが遅れて氷柱に向かっていく、え?「ウオ――!」ってオールバッカ―さん?何する気?減速しない。


おおお?自分で作った氷柱に駆け上がりそのままジャンプして武野島さんの方へとびかかる・・・。

おおお・・・・これは・?バカか自殺行為だ!


―――いや、武野島さんビックリしている。氷柱でオールバッカ―が見えにくいにしても相手の状況探知能力は低いな。


オールバッカ―は無意味に声を上げつつ幅の広い魔装剣“ギド”(竜王家の宝剣だ)で武野島さんにジャンプ切りしているが・・・余裕でハンマーの柄の部分で受け止められ弾き飛ばされ転がされる。武野島さんの反応が良ければ勝負は着いていただろう。


弾き飛ばされただけなのにオールバッカ―の兜は顔面部分が砕けて少し鼻血が出ている、かなり硬く作ったのにだ・・・。

(“ギド”で遠距離攻撃に徹するしかないよ、魔法も隙が多いし。奇襲が通用するような経験の相手じゃない)

って予想外のことばかりするな、オールバッカ―は。


“氷結群現”!!


オールバッカ―はランク3魔法?いや意味ないだろ?

ん?あれあれ?オールバッカ―は魔装剣“ギド”を持ってない。


おお?武野島さんの“ブラストハンマー凶”の柄に“ギド”が氷でくっついている・・・そうか“氷結群現”はそうか・・・。


“ギド”だ。魔装剣をコアにして武野島さんを氷漬けにする気か・・・。

“氷結群現”の影響でブラストハンマーは“ギド”を中心にして巨大な楔上の氷の中に閉じ込められつつある。武野島さんはブラストハンマーを一時手離すしかないわけだが・・・。ブラストハンマーを氷で封印してもオールバッカ―の武器のギドも氷漬けだし。素手の戦闘能力差は変わらず圧倒的に武野島さんが優位だが・・・。


慌てない武野島さんは右手に魔力を集中して“氷結群現”の氷塊を割る気だ。ブラストハンマーが氷塊の中でガリガリ音を立てて震えているのが分かる。割って取り出すだけじゃないな・・・何かする気だな。格下相手の素人に手加減する気ないようだな。


ん??そっちは何してるんですか?オールバッカ―さん?“ギド”なしでそんな位置から強力な技がないでしょう・・・。もう一発、魔法攻撃する気か。

氷属性魔力の高まりを感じる・・・けど?


「覚醒魔法ぉおおおおお!!!!!」

な!何言ってるん?オールバッカ―?

できねって!バカか・・・。ランク5魔法なんて・・・いつか将来撃てるかもしれない覚醒魔法はいくつか存在だけは教えたけど撃てるわけねえじゃんか・・・。修行が数年は足りないよ・・・。


氷塊が音を立てて割れる。

ブラストハンマーが出てくるぞ!破壊的ならせん状の魔力をまとい、武野島さんその位置から遠隔攻撃する気か。あれか・・恐怖の“重積圧縮断層波”か!撃った後隙だらけの必殺技じゃないか。

いやそれは無理無理、オールバッ・・・


眼前の敵を潰せ!“重積圧縮断層波”!!

凍えろ!“氷紋輪覚醒三倍激”!!


ヅォ――――――ゴッドォ―――――――――――――ンンンン!!!!


目の前が白く染まる!

えええ?ええええ!え?

あ、あああ?

な、なんだ!なんだこりゃ!

闘技場は半分が凍り付き、半分は消し飛んでいる・・・。



覚醒魔法撃つなんて・・・なんだ今の・・・いや。あ?ああそんな・・・あ、相討ち?

相討ちに持って行った?

うそぉ・・・。


オールバッカ―は?この威力ではまさか・・・いや、生きてる・・一応・・気絶してるけど。この程度の傷って直撃をくらわなかった?覚醒魔法で“重積圧縮断層波”の直撃を逸らした?覚醒魔法3倍激って。全然魔力が足りないはず・・。


バッキィーン!

「がぁー!ぁああ」氷結から武野島さんの上半身が出てくる、魔装鎧は凍り付きボロボロだ。ガタガタと凍えて震えている。


・・・負けたけどこれは・・・両者のTMPAがもしももう少し近ければ・・・あるいはオールバッカ―が気絶しなければ圧勝だぞ・・・武野島さんは下半身凍っていて動けない、とても戦えない状態だ・・・。数値上のダメージは武野島さんの方が酷い。オールバッカ―が気絶したのは兜が破損していたからだ。


次鋒戦・・・敗戦だがこれは・・・。すごくないか・・・。まじか・・・。

いやでもちょっと待て。

“Z班”0勝2敗でもう後がない・・・。

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