第39話2-9.遅ればせながら新学期

学園にもどってすこし気になることがあった。

しばらく学園を霊眼で監視、観察をしていなかったのもあるが。


第2高校には三つの派閥があり、一つは義弟の神明帝を中心とする派閥、これは召喚戦闘4チームほどで成り立っているがメンバーも不明確でアライアンスも組んでいるわけだはない。二つ目は僕が六道記念大会の予選決勝で倒したプリン西川の派閥だ。これは1チームで残りはプリン西川のファンの主に女生徒で成り立つ。三つめは“五色曼荼羅”というアライアンスだ。リーダーは海老名雲鎌えびなうんれん、3年生、地竜の召喚士だ。この“五色曼荼羅”は公式戦では大した成績を残していないがチームメイトの親族に権力者が多く色んな意味で非常に厄介なのだ。海老名雲鎌本人はたいして強くないがカリスマ性があり様々なルールで仲間を関係者を縛るため一度アライアンスの入ると抜けるのも難しいようだ。以前から問題視しているのはタブーの無さだ、そして権力欲に取りつかれている人間は気を付けねばならない。もちろん霊眼で覗いていただけで、海老名雲鎌とは会ったこともないが。


この“五色曼荼羅”から連絡があったのだ、寮に手紙が届いており是非一度僕と会いたいと言うのだ。とにかく海老名雲鎌、同級生から様付けで呼ばれているような奴はロクな奴がいない、会うかどうするか。寮の自室でアビルからもらったお弁当でも食べて考えよう。


久しぶりに僕は自分の教室・・・3-Eの教室の前までやってきた。

「お久しぶりでございます、城嶋由良でございます。神明全さま」由良はうやうやしくお辞儀をしてくる。

「ああうん、由良さん、久しぶり」あれ?僕も様ついているか・・・。

「合宿大変お疲れさまでございました。放課後少しお時間頂けますでしょうか?」

「もちろんいいですよ」

なんだろう、よくない話じゃなければいいけど。


・・・日中はほぼ寝てしまった。合宿の疲れなどあったのだろうか。

日は傾きもう放課後だ。


城嶋由良とは同じクラスなのでご一緒にと案内されて第6高校の第一体育館へ案内された。途中、長身でショートヘアの花屋敷華聯も合流した。

「つきました。」

中に数人いる気配を感じつつ体育館に入る。


―――お疲れ様です―――!

練習したかのように全員こっちをむいて一礼する。統制取れているな、さすが城嶋由良だ。

ピンクツインテールの城嶋由良はくるりとこっちを向く。由良と華聯以外はだいたいバトルスーツ姿だ。みんな・・・全員こちらを向いていて普通に怖い、じろじろ見られるのは嫌いなのだ。

「神明全さま。長期の合宿お疲れさまでした。Z班第二部の・・・」


「おっす!お疲れさまでしたあー!」

「おっす!お疲れさまでしたあー!」


城嶋由良がガリバー兄弟をギロっと睨んでいる。ガリバー兄弟たちだけは両袖のない学ランで腕の筋肉がむき出しになっている・・・夏服はどうなっているの?


「ご報告がございます。数名、“Z班第二部王下竜騎兵団”に部員が増えました」

えらい大層なチーム名になったものだ。


バトルスーツ姿の女性が二人、前へ出る。

「第4高校から転校してまいりました、泉真希です、よろしくお願いします」

「同じくでもないですけど、第1高校より転校してきました根岸薫です。Z班第二部では選手兼マネージャー兼情報屋を兼任いたしております」

まじか、根岸薫、第1高校辞めたのか。なんのメリットがあるんだ?泉真希って名前は知ってるな。なんかで絡んだっけ?


両手を軽く広げつつ城嶋由良が続ける。

「まずこの二人の加入を承認して頂けますでしょうか?神明全さま?」

ん?僕がZ班第一部?の一人だから聞いているのだろうか?

「僕的には全く問題ないけど?いいんですか?第6高校なんかに転校してきてしまって?」


他に数名マネージャーが増えたようだ。


―――しばらく現状の報告を聞いたが、僕に話してもなぁ・・・アフロに聞いて欲しい。

「あとさらにご報告があります。夏休み前に神明全さまに指導して頂いた項目についてですがほぼ達成いたしました」

ん?なんだっけ?・・・ああそうか。夏休み前にどうしても稽古をつけて欲しいというので数日つきあって面倒だしぎりぎり達成できるかという課題を一人一人に与えたんだった。


僕の左眼が紫に輝く・・・霊眼で確認すると確かに、あれ?結構レベルアップしてるな。


「ぜひ、成果をお見せしたいのですが。お時間ありますでしょうか?」

「いや、由良さん、みなさん、一目見ればわかりますよ。えっと輝皇大大剣は明らかに使いこなせているし防御の弱点も克服できてるね」プリンなんだっけ名前が分からない。プリン石川?はフッとか言っている。カッコつけるのは治ってないな。


「そちらのお二人もクイックネスが格段にあがっていますね」この応援団二人の名前も分からない、なんだっけ、あせるわ。


「ありがとうございます。師匠のお導きのお陰であります!!」

「ありがとうございます。師匠のお助けのおかげだります!!」

ああ、まさか・・・。

「噛んだな!瀬川!鉄拳制裁―――!!!」

「オッス!!」

お、思い出した、鼻血が出ている方が瀬川さんだ。


「あ、あと由良さんもかなりTMPA上がっているね。2カ月で5千以上はすごいね、もともとスキルは高いので」

えっと、僕あの2カ月でTMPA少し下がってるんですけど蛹化のせいだけど、ミスったかな。

由良はしかし、顔を赤らめて嬉しそうだ。表面上はいい子なんだけどな、時々弱者を襲ったりするからな。とにかく全員褒めれば帰れるのかな?


「花屋敷さんも領域が1.55倍くらいになってるね」

「・・・すごいです、正確にわかるんですね、恐れ入ります」

そして大問題だ。あとどっちがどっちかわからない。最大公約数を考える必要がある。


「江藤くんと毛利くんも2つずつ術を新しく覚えているね」どっちが江藤くんだっけ?

「さ、さすがです、わかるんですね」

「達人の目はごまかせませんね」

江藤くんと毛利くん、生徒会役員なんだけど・・・どっちがどっちだろうか。


とうとう泉真希も思い出した。予選であたったな。

「泉真希さんも予選で戦ったときの雷属性反射への対処法ができているみたいだね、ランク4魔法だね多分、クイックネスも格段に上がってるね」

「聞いてはいましたけどなんか予想以上に感動します」なにをはにかんでいるんだ。


「わたくし根岸薫にはなにかございますでしょうか?」何にもない、ヤバいのかな。

何か何か・・・ないか。

「うん、髪型変わったね」

なんだ?根岸薫がくるっと回ってポーズを決めたぞ?怒ったのか?

「じんめさん。根岸薫、お役に立ちますわよ」なんだその決め顔は。


なぜか城嶋由良が跪くと全員が跪いた。

「お忙しいところありがとうございました。今後とも少しでもZ班第一部、ひいては神明全さまのお役に立てるよう努力する所存でありま・・・」

「よろしくお願いいたします!!それでは景気づけでございます!!」

「よろしくお願いいたします!!」


由良が止めようとしたが始まってしまった。


ゴーゴゴ!ゴーゴゴ!ゴーゴーゴーゴー!!

ゴーゴゴ!ゴーゴゴ!ゴーゴーゴーゴー!!


何言ってんねん。うるさいわ・・・。


―――第一体育館の外まで由良だけが着いてきた。

「神明全さま、あとこれを・・・」封筒を差し出してきた。これってあれか。

「夏休み中の神明全さまへの贈答品を換金いたしました、飲食物はすべて破棄いたしました、贈答主の名簿はこちらになります」

「えーでも悪いし、城嶋さんに・・・」

「それは前回お話しした通りでございます。どうぞお納めくださいませ。全さま。・・・それよりも何かお力になれることはございませんでしょうか?なんでもいいのです」

「ああ、それならもし良かったら調べて欲しいことがあるんだけど―――」


―――結局受け取ってしまった。城嶋由良と別れて一人、裏山の木の上だ。

封筒を開けて確認する。


・・・な、なな7万3千円もある。これはアブナイ。どーしよう。大金過ぎる。

由良は何を考えているんだろう。さっきも喜々として調査してくれるみたいだし。


彼女が僕を利用する気だとしても・・・そんなに見返りがあるなんて計算間違いだと思うけど。


しっかし、こんな大金が部屋にあると寝られないな・・・。



―――そうだ、そうだ・・・風を切って疾走する。かなりのスピードで寮に行き、一階の電話からアビルに電話する。


トゥルルー


「はい、もしもし」

「ああ、僕だ。全だ、今時間大丈夫?」

「もちろんでございます。アビルが仕えているのは・・あきらさま・・ただお一人でございます」

「合宿の食費さ、大変だったでしょ。臨時収入があったからテレポートで送金するよ」

「あの全様。お気持ちはありがたいのですが。少しお話いたしましたが鬼塚さまから食材など余るほどいただきまして、あと鳥井先生からも頂きましたのでお金は十分でございます。なにか好きなものにお使いくださいませ。気遣って頂きましてアビルは。アビルは大変うれしゅうございます・・・ぅう。全様のお食事一つ作ってあげられなくて・・・」

なんで泣き出すんだ・・・。


「―――もし心配でしたらゴールドカードがありましたでしょう?口座にあずければいかがでしょうか?あきら様」


電話は終了した。寮の電話を使うのは不便だな・・・自分の携帯端末ほしいな。

うーん?予想外にアビルは受け取ってくれない。

そんなに給料は多分高くないはずのタイガーセンセにあげようか。合宿では食材とか日用品とか無理して買ってくれたはずだから。7万円はタイガーにあげて自分には3千円でいいか・・・。

またお金を持っているとアフロにばれる危険がある。

そうか、口座にいれてしまう手があるのか。


“空間覚醒移送”

合宿ではお世話になりましたとメモを書いて7万円は女性教員専用マンションのタイガーの部屋に送っておいた。


・・・ゴールドカードすっかり忘れていた。自衛省からの竜王家長男への生活費が入っているのだ。矢富沢のせいで全く使えなかったのだが新しい後見人のクレアさまのお陰で好きに使えるらしい。

これさえあればアビルにあんなヒモジイ思いをさせずにすんだのだが。まあ矢富沢はまだ裁判中だが実刑は免れないだろう。


・・・口座には何年分入っているのだろう?墓地の管理人代理になった8歳からだと9年分・・・12歳からだと5年分か。

いや当初は矢富沢に直接渡されていたはずだから。制度が変わって・・・5年ちょっと分かな。月1万だと60万以上か・・・まさかね、そんな夢のようなことが、矢富沢は好きに引き出せたはずだし。

ATMを霊眼で探す、普段使わないからよく分からないのだ。


・・・ああ第6高校の我が校舎にもあるのかATM、何度も前を通ってるわ。寮の自室から空っぽの財布を素早く持ってくる。合宿の時以来ゴールドカードは財布に入れっぱなしだ。

“加速一現”

あっという間にATMの前だ。

暗証番号は・・・僕は合宿でもらったゴールドカードとメモを財布から取り出す。

・・・メモには暗証番号は“半月で4桁”と書いてある。

なるほど僕の正確な名前は神明半月全なので。半月で忘れないようにしてくれたか。


ATMを操作する、簡単そうだ・・・カードを入れる場所くらいは分かる。

・・・半月?4桁ってナニ?

暗証番号は数字のようだ。ハンゲツとは入らないMOONも入らない。

地球の周りを公転している月のことだよな・・・。

月の半径だろうか?・・・確か1737Kmかな。

取り敢えず1737と入れてみる。


・・・ああ正解だ。さすがクレアさま。暗証番号は僕の名前から月の半径にしましたというわけだ、シャレてるな。


・・・ああっと入金押すのかな。まちがえたら3千円なくなったりしないよな。

・・・ちょっと怖いな。3千円無くなったらマズイ。操作あっているのか・・・だれか通らないかな。

・・・いやそれもマズイ、おすそ分けが欲しいとか言われそうだ。


そもそもいまお金ほとんどないし3千円なら持ってればいいのでは。そうだ入金しなくても3千円ならいいか。


ん?残高照会?今いくら口座にあるのか分かるのかな?


・・・ん?んんん?・・ん?


8千・・・?

はっ8千・・・万円??んん?8千2百・・・万円???



・・・やばい、ゴールドカードこれはやばい・・・

10メートルほど掘って隠さないと・・・。


掘って掘らないと。


―――暫くして僕は落ち着きを取り戻した。

ゴールドカードは影に入れておこう。影に魔装化していない物質を入れて保管するのは難度の高い抗術だが、僕には特に問題ない。とにかく3千円もあるし忘れよう。


(8千2百万円も全部使っていいわけないし・・・軽く気絶しかけたよ全く、今度クレアさまに聞いてみよう・・・いや危ないからカードは返そう)


旧美術講堂に着くと、何故かZ班の連中は美術講堂の外にいた。

まさか練習しているのか。集中力もないのにみんな大丈夫か。


アフロが魔装銃“九鉄”を構えている。気配を消しているわけではないがまだ距離のある僕に気付いたようだ、召喚戦士として急速に覚醒、成長してるな。

「キエ―!もけではないか。我が九鉄は今日も調子よいぞ」

「・・・や、やあアフロ、練習中か。みんなも・・・」すこしずつ離れて裏山で全員練習しているようだ。オールバッカ―も魔装武器振ってるな、ダークアリスとタイガーは組手している。どうしちゃったんだ、みんな。普段通りなのはダイブツくんだけだ、なにか本を読んでいる。

「アフロ?ところでどうして全員外で練習を?」

「我らが部室はせまいのでのう。竜を7体ほど召喚したら人間が入れなくなったのである」

「・・・ああ、たしかに召喚戦闘の練習は召喚獣を具現化させていたほうが効率いいからね」でもまあインハイ校内予選まであと数日だし、この先ずっと続けるならTMPAアップに効果あるだろうけど。それでも合宿の8分の1くらいのレベルアップスピードだろうけどね。

「ああ、じゃあさアフロ。美術講堂内部を一時的に異空間化させて広くするよ。召喚竜同士も戦わせた方がレベルアップ効率あがるからね」

「キエ―!そんなことできるんかい・・・もけ・・・おまえまた術式を今から考えるつもりであろう?異空間化って普通な・・・空間計算、魔術構築、デバグとか複数の専門家のチームがいるぞ」


まあ面倒なところは霊眼で計算するからねぇ・・・。


「・・・計算終了だ、じゃあ広くしてくるよ」「まじか・・・何から何まで世話になるのう。もけ」




―――美術講堂内部はかなり広くなった。7体の竜が遊べる程度には。

「・・・キエ~?なんちゅう広さじゃ。この石畳はどこから一体・・・魔術は奥が深いのである」アフロは足で石畳の硬さを調べているようだ。

「とりあえずダメージをおさえつつお互いの竜が戦えるように設定したよ。ダメージを受けすぎると隔離されるようにもした」まあ竜にもしもがあっても蘇生できるし、適当でいいや。

「そうそう、いい機会だから僕のメンバーの総評を言っておくよ。」

「キエ―!是非参考にさせてもらおうか、友よ」


「まずアフロ、君は魔装銃をつかった遠距離攻撃はかなり強い、強いはこの場合校内予選のレベルではという意味で。近距離は攻撃と移動を同時に行う技だけどこの技で接近戦のスペシャリストと張り合うのは難しいだろう、基本的には距離を取って戦う、試合は限られた空間の中だからなかなか大変だとは思う。アフロの遠隔攻撃は弾速もありダメージもでかいがホーミングはほとんどしないので相手の行動をある程度読む必要がある・・・まあ分かってるとは思うけど」

「うむ、ほぼ理解できているイメトレ中である」

「オールバッカ―は氷竜が非常に強力だ、三つも技を覚えさせたから混乱するかもだけど、相手に近づいて魔装武器を振り回しているだけでかなり活躍できるだろう」雑魚生徒なら瞬殺だろう。ああ、氷竜欲しいなトレードできたらいいのにな。


「ダークアリスはTMPAは高いが召喚戦闘はもとより格闘技経験もない。能力差がかなりないと逆転される可能性がある、今タイガーと模擬戦してるけどまったく歯が立たないね」

「うむうむ、続けてくれ」


「中堅のダブルス担当、村上・青木ペアは非常に強力だけど村上君のバーサクモードはコントロールできないから運が絡むのと、最近わかったけど戦闘後にかなり反動があり消耗している。纐纈君の武神モードと似ているけど村上君のほうが戦闘能力アップ率はずっと上だ。コントロールできないけど。上手く使えばというところ。青木君はあの能力だとまず予選レベルだとダメージはほとんど受けないだろうね」

「多用は禁物であるか、もともと纐纈の武神モードと似ておるからバーサクモードと名付けたがひょっとするとDD-starsと戦う日がすぐ来るかもしれんのう」横顔は悪そうな顔で笑っている、結構楽しそうだなアフロ。


「星崎さんの能力は謎だらけだ・・・いまだ。ただ竜族でTMPA13000ほどあるから戦えなくはないけど、インハイ予選では回復要員として割り切った方がいいかもね」

「ふむふむふむふむ、星崎は要検討と」


「ダイブツくんは、すごい防御性能なんだけどいかんせん本体が弱いから、竜族でTMPA10000以上あるから・・・まあ本当に勝てるのは雑魚だけ・・・・・・ただし」

「うむ?ただし?なんじゃもけ」

「最弱Z班のうちが悪名高いドラオンになってしまっているし、その存在だけで周囲には相当な衝撃になるだろうね。」

「そうだのう、もけ。召喚士の憧れの竜族召喚士のみのチーム・・・ドラゴンオンリーのチームは嫌がられるからのう、強いし攻略は難しいしな。しかもうちは万年最下位で竜族なんて一人もいないはずだしのう、そういえばうちもドラオンになったか・・・相当な衝撃どころか・・・くっくく、面白くなりそうだのう・・・・・・時にもけ?臨時収入があったのではないか?」

「ぶっはぁああ?」え?どこで?いつ?気づいたの・・・?今の会話で?恐ろしい・・・。

「まあ、もけ。借金は完済されておる、特に問題ないが・・・ちなみに・・・いくらくらいなのかのう?」

えぇえええ・・・。


・・・僕が完膚なきまで精神的に負けを感じていると、残りの6人のメンバーとタイガーセンセもやってきた。竜と感覚が繋がっているために美術講堂が広くなったのに気付いたのだ。

「おお!すげえじゃん、もけちゃんよぉ!おれっちも夏美のためにかんばるぜえ」

「あたしの先輩やっぱすごいです!世界一ですよ」

「じんめちゃん、大丈夫こんな魔力使って?無理してないよね?何かあったら先生に相談してね?」

「もけさん、すごい拡張できるんですね」

「もけさん、ありがとうございます、これで竜も喜びますよ」

「今日もかわゆいもけクン。今日はいっそうかわゆいね」

「グモ――!これは大変なのじゃ!洞窟ができているのじゃ!何かいるのじゃ!」

まあインハイの校内予選でそこそこの成績になれば、アフロもタイガーも面目躍如だろう。

メンバーも公式戦で勝ったという勲章も手に入るし悪い話ではない、その後、僕の仕事を少し・・・安全な範囲で手伝ってくれるといいけど。まあZ班だし多くは期待しない。


―――その夜、城嶋由良たちに頼んだ仕事はあっという間に片付いて一応お礼を言って別れた。寮に帰ると寮母さんが待っていてタイガーセンセから呼び出しがあったそうだ。

(なんの話だろう。インハイ予選のはなしだろうか)


“空間覚醒移送”


タイガーセンセの女子教員専用マンションの部屋に直接テレポートする。男子生徒が入り込んだのを警備に見つかると色々面倒らしいからだ。


「あ、センセ?なんでしたか?」目の前にタイガーセンセがいた、突然現れた僕を見ても全く驚いていない。タイガーはグレーのワンピースにエプロンをしていた。

「いらっしゃい。あきら。ちょっとこっちに来て座ってくれる?」まさか今日もご馳走してくれるつもりじゃないよな。

既に週に一回食事を食べさせてもらっているしこれ以上タイガーに借りを作ると返せない気がするのだ。

「ハアイ‼ミスタージンメ」ああミランダ先生もいる。

「ハロー、ミスミランダ、今日は僕は長居しませんからね、すぐ帰ります」


と言ったものの全く帰るタイミングが無くて僕の分までしっかり3人分夕飯が容易されてしまっている。・・・とても美味しそうだが。

「べたべたしないの。ミランダ!追い返すわよ」

「How cruel you are!」


「あの先生、すごく夕飯はありがたいんですけど。あんまり甘えるわけには。これ以上迷惑を・・・」

「迷惑なわけないでしょう、あきら。毎日でもいいのよ。先生が好きでやっているんですから」

「いえでもあのですね一食一晩の恩というものは・・・」

「ところどころ古風だよね、あきらは。それよりもこのお金はなんですか?7万円も?」

「合宿の生活費の・・・」

「こういうことされると悲しくなるでしょう?返します」

「合宿を計画したのは僕ですし」

「教え子から受け取れるわけないでしょう」

貰ってもらわないと困るんだよな。7万円なんて危険だし。


「オ~、ジャパニーズ痴話ゲンカですね?ザッツライト」

「違いますミランダ!」


「ミスタージンメ。耳を貸しなさい、教えてアゲマショウ」

言われるがままに右耳をミランダに貸したものの・・・ん?んん?何をしてるんだ?この人は?くすぐった生暖かい?

「あああ!!!あきらの耳たぶを舐めるんじゃない!追い出すわよ!ミランダ!」

「つまりそういうコトなのデス、ジンメ?ドゥーユーアンダスタン?」

わけわかんねえ。

タイガーは7万円を受け取ってくれないので仕方なくミランダ先生に隙を見て渡しておいた、適当に折を見てタイガーに渡してくれるそうだ。

結局なにもかも出されたものは食べてしまった。




「それよりもあきら、いえこの場合じんめ君。インターハイ始まりますね。本当に団体戦だけなの?エントリーは?個人戦はもう出ないつもり?」

(公式戦は一応個人戦で全国優勝したし、次に個人戦に出れば対戦相手達は僕の戦い方を分析してくるだろう。そうでなくても情報を他人に知られるのはリスキーだし)

「そうですね、団体戦だけに集中します」とでも言っておけばいいだろうか。

「Z班はチームとしてビックリするほどどころか記録的な強化を遂げています、個人個人もまた飛躍的に強くなっています、バラバラだったチームを一つにまとめ上げるなんて!すごいです!結果は関係ありませんが全力を尽くしましょう!」まああいつらクズだから短期集中レベルアップにしないと離脱しそうだし、雑念を強引に統合しただけで一つになっているのかな・・・。

ああ、エプロン姿のタイガーが激しい天を突くような魔力に包まれて燃えている・・・。最近優しくて見る影もなかったけどそういえば熱血豪傑正義教師だったよな。


あれ?魔力波動が今度は妖しい感じになっている。

「ところで今日は・・・泊っていくわね?あきら」

「帰りますよ、ちょっと忙しいので」

「えええ!なんでよ!あきら」

「グンナイ、ミスタージンメ」

(何年も沈黙してきた姉上が突然使者を送って来るとは・・・なにか見落としているかもしれない。慎重に選択肢を吟味しないと・・・)


サクッとテレポートして5キロほど離れた自室にもどった。

(最近タイガーは僕を暖房器具か何かだと思っているふしがある、9月ってそんなに寒くないと思うけど)


あ?僕が去った部屋で二人の女教師がなにか言い争ってる?覗くのは良くないよね・・・。

「―――最近ハグだけじゃがまんできないのよ、いけないわ。いけないいけない」

「教育者にアルマジキ言葉デスね」

「よく言うわミランダ!・・・つまんない、帰って」

「乙女の心、子知らずデスネ?」

「そんなことわざありません!」


なんのこっちゃ。

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