第37話2-8-6.生命の裏庭―――それは次第に―――

―――合宿40日目だ。こんなに順調なんて夢のようだ。


そして買い出しの日でもある。オールバッカ―が少しでいいからと次元環の外に出たがったが断った。外へ出ると疲労が半端ないのだ。2年半、召喚獣との仮契約を続けている僕はもう慣れているが。


そして外へ出て驚いた。新しい後見人の鬼塚紅亜さまが例の顔色の悪い長身のバトラーをつれてアビルの所へ来訪されたらしい。予想通りの印象を残したらしくアビルが美人を通り越した麗人だと言っていた。ヘリコプターで大量の食糧と衣類とありがたいことにバトルスーツを各サイズ数十人分も置いていかれた。食料はあと20日前後で合宿が終わることを考えるともう十分足りる量だった。アビルの端末を使用して僕は丁寧にお礼を言った。


(さすがクレアさまだ。極悪人の西園寺御美奈と唯一競ることができる女性だ)


タイガーセンセとの買い出しはアビルが事前に必要なものをできる限り購入していてくれてとても少しですんだ。しかも失念していたが、この屋敷に僕にアビルに・・・ええいややこしい・・・アビルには給料が振り込まれているが、お金が全くないのは矢富沢の嫌がらせだったわけで。

自衛省から毎月出ている、本当は出ていた竜王家王子への生活支度金だ・・・つまりお金の入った口座を使用可能になったのだ。アビルのと僕の分、2枚のゴールドカードをクレアさまは置いていかれた。といっても使い方が分からないが・・・。とりあえず合宿が終わったら使い方とどれくらい使っていいのかをクレアさまに聞くことにしよう。月に1万円位出ていたのなら結構たまっているはずだ。



―――それから10日はほぼ問題なく安定していた。合宿も50日を超えた。


何故か何の問題も起きない・・・。


さて、TMPAの伸びは黒川有栖と村上君は僕の予想を少し超えていた。星崎さんとダイブツくんは思ったより伸びない。アフロ、オールバッカ―、青木君は大体予想通りだ。


そして、みんなかなり髪が伸びている・・・床屋も美容院も次元環にはないからな。


トラブルが無いのは、みんなは思ったよりも竜の召喚士としてのレベルアップを文字通り楽しんでいてくれたようだ。やってられるかとキレる部員は一人もいなかったのだ。


・・・男子部屋は今日も平和だ。

「グモ―――!やってられないないのじゃ!もっと美味しいものが食べたいのじゃ!」

「キエ――!しかし、順調だのう、もけ、驚くほどの魔力を身にまとっているのがわかる、しかも全員分の魔装鎧まで計算してもらって本当にすまんのう。業者に委託すると最安値でもだいたい12万円ほどになると言うしな」

「いやアフロ、初回は学園が半分払ってくれるから5-6万だろうけどね、召喚士保険もあるし」

「もけちゃんには合宿場といいヨ、世話んなりっぱなしじゃんな。おれっち強くなってよ、恩返しするぜえ」

「グモ―!帰りたいのじゃ!」なにかがジタバタしている。

「もけさんのお陰でバーサクモードが何とかなりそうですしね」

「もけさん。ほんとに感謝、感謝ですよ」青木君は星崎真名子に告白し、2回フラれたらしい。星崎さんは洗い場当番でここにはいない。


「グモ―!一体ここはどこなのじゃ!グヘェエエ!」ダイブツくんは恐るべき殺気のダークアリスに片手で首を絞められ持ち上げられている・・・いつの間にか男子部屋に入ってきた・・・結構なスピードだ。もともとしなやかな筋力の持ち主だが研ぎ澄まされてきている。TMPA換算だともうダークアリスは城嶋由良より強くないか。

「ここまで順調とはね、僕も驚いているんだけどね」

「じんめちゃんが頑張ったおかげよ」そう言ってタイガーが腕を組んで入ってくる「あれ?じんめちゃん少し身長伸びてない」そうなのだ、もう158㎝なのだ、ここ3ヵ月で止まっていた身長が5㎝も伸びたのだ。これは少しうれしいかも。

「ダー!!だから先輩の身体に触んなっつってんだ!ババア!」「先生にその口の利き方はなんです・・・」まあ一番変わったのはここにいない星崎真名子でしょうけどね。眉間の皺がなくなり裸足ではなくなりニャンブ―ちゃんとか言うヌイグルミも持たなくなり・・・普通の女子に見える・・・歩く放送禁止用語とまで言われていたのに。


「グモ―ここはどこなのじゃ、何しに来たのじゃ」



―――数日たった、いよいよ合宿も大詰めだ。


問題児だらけなにの順調・・・何故?


まあ、大詰めだし仕方なく僕はほったらかしにしていたダイブツくんを訓練することしにた。

能力特性がわからないと魔装鎧を組みにくいし、なにより特発株の能力は興味あった。近接攻撃はダメ、遠隔攻撃はもっとダメ。サードアビリティは才能無い、回復魔法は覚えれない。ん?どうしたらいいんだ?能力的にはバランスタイプなんだけど。彼だけTMPAが一万越えていないのだ。

「もうやりたくないのじゃ、もけ」修行開始して約3分・・・、まあよく持った方か。

「じゃやめよっかダイブツくん、よく頑張ったね」どうしようかな。僕のように抗術を覚えさせるか。


ん?アフロがとことこやってきた。ダイブツくんの巨大な顔に耳打ちしている。

「キエ~!ダイブツくん、竜の召喚士というだけでもモテるが。インハイで活躍するととんでもなくモテるぞい、やりたい放題であろうな。」

「グモ?」

「女生徒にめちゃくちゃにされるであろうなダイブツくん」

「グモモ?」

「エロいJDもほっておかんだろうな、毎日合コンであろう、ダイブツくん。間違いない、自信を持て」

「グモモン、グモモン!」

え、それでいいの?そんな会話で。何事も無いようにアフロはそのまま去っていった。

「もけ!すごい修行をするのじゃ」まじか、面倒だな・・・顔を見ていると酔いそうだ。いや頑張ろう。そもそもなんで能力が覗けないんだ?このカス。


・・・さらに時間をかけても分からない。霊眼に頼り過ぎかな。霊眼では見えないんだし。

「あれ?ダイブツくん怪我してるじゃないか背中に引っかかれたあとがある」

「黒アリスにやられたのじゃ、あの暴力女め」よく見ると擦り傷だらけだな。シャツもボロボロだ。

「星崎さんに一回、範囲回復してもらったら?キレイにしてくれるよ」

「全然治らんのじゃ」

「だから星崎さんに今日の夜頼めば」

「だからメンヘラ女の魔法は効かんのじゃ、黒アリスにやられた傷がここもここも残っておるのじゃ」一昨日みんなに範囲回復魔法かけていたけどダイブツくんいなかったっけ?


抗術でもゆっくりヒーリングはできるけど僕の手をダイブツくんにしばらく押し当てなければならないので嫌なんだけど・・・正直触りたくない。

「まあ傷を消してあげよう」


・・・消えない・・・。


「なんだこれ・・・」

傷が回復しない。回復魔法や回復抗術を拒絶する能力?そうだったらマジ使えない。

僕は移動系の魔法3種類しか使えない、遠隔属性魔法は使用できないが魔力を一瞬高めて一般人をぶっ飛ばすくらいの衝撃波なら使える。

彼の防御力は魔力換算で5000位。攻撃力を押えて魔力をダイブツくんに開放する。転倒するはずだ。


バッ!!


埃は立つがダイブツくんにはなんともないようだ。

・・・これはどういうこと?

次はもっと魔力の解放を強くして衝撃波を彼の身体にぶち込む。


ババッッ!!


ん?ダイブツくんは倒れない。

「何をしておるのじゃ?」

「なんともないの?ダイブツくん?」

ではと僕は小石を拾って指ではじく。小石はダイブツくんの眉間にヒットする。

「いたぁ!いたいのじゃ!何をするのじゃ!」

えええ!これはもしかして・・・オールバッカ―を呼んで検証することがある。

「ちょっと待ってて、ダイブツくん・・・小石を投げたのはあやまるから、ダイブツくん。とんでもない能力かもしれない」


冗談じゃないぞ・・・もしかして。




その日の晩だ。

夕御飯だ、今日はシチューか・・・すごくおいしそうだが。

しかし実は半分上の空なのだ、ダイブツくんの能力が分かって彼の魔装鎧を一から組みなおす必要が出てきたのだ。ダイブツくん・・・鍛えればとんでもない戦士になる。とにかく魔装鎧を考え直さないとそれも特殊な鎧を作らないといけない・・・。

「ちょっと!青木君ふともも触らないでください」

「ふふふ、ちがいますよ真名子、偶然ですよ。必要という名の偶然~」

とんでもない計算しないと作れないぞ。ハーネスでいいから素材を・・・。

「うめえよ、おれっち感動するぜ!今日はだれが料理当番なんでぇ?」

「・・・あたしだよ!文句あんのかよ!」

「あぁ、く、黒川か。おいしいです」

「今度口開いたら殺すからなオールバカ!」

昼間もケンカしてたな、合宿も長いからそろそろ限界かな。魔力の24時間持続消費は疲れるはずなのだ。しかし合宿中にダイブツくんのハーネスを作らないと。ここにしばらく来ないだろうし。

「じゃ青木小空、愛の詩を奏でます、ブラック・ラブラブボンバーラブ本場ー、2人の鼓動はキューティクルクル、愛の落とし穴キタ―――!・・・」

「すげえうるさいのじゃ!青木め」

「ほんとうるさいの青木クン、やめてください!」

うーん、一回ダイブツくんの竜の体組織を調べないと、そんな能力じゃあ・・・しかし霊眼では見えないはずだよな・・・。

「・・・じゃあ僕の悪いとこ言ってくださいよ!直しますから!真名子ぉ」

「呼び捨てにしないでよ、生理的に全部嫌なのよ。全部!嫌!」


ゴトン!


あれ?青木君の姿が消えた?

「あれ星崎さん、何かした?」

「青木くんはどこ?・・・あたしは何もしてないけど」

「どうした?もけ?」

あれ?青木君が突然いなくなったのだ。軽いミステリー。近くにいた僕とダイブツくん、星崎さんには突然消えたようにしか見えなかった。

「そうか、星崎さんの能力か。すこし魔力の反応があったもんね、術式なしでテレポートさせたの?」またわけわからない能力か?詠唱無しのテレポートならモノすごいけど。

つかダイブツくん目の前の人が突然いなくなってよくシチュー食べれるな。つか犬食いって言わないかこの食べ方、じゅるじゅる口をつけてすすっている。

「どうしたの?じんめちゃん」タイガーがやってきた。アフロもだ。オールバッカ―は音楽を聴いている。村上君はトイレかな。

霊眼の出力アップ、あれ?青木君近くにいるぞ・・・。人を透明にする能力?それなら喋れそうだけどな。

「青木君すぐそばにいるよね?喋れない?・・・霊眼で気配はあるのに見えない・・・」

「あれ。じんめクン、青木君の座っていた椅子の色が変わっていくよ」

「ほんとだわ、面白いわね。じんめちゃん」「先輩の頭に胸押し付けんな!何度も言ってんだろ!離れろ!ババア!」「あら黒川さん、先生に―――」

なんのこっちゃ?


腕組みしている緑アフロ隊長の目がキラリと光る。

「なるほどのう、そういう能力か星崎真名子・・・間違いないおまえの能力だ」

「え?今のでわかるの?アフロ?僕わかんないよ」

うーん、最近霊眼に頼り過ぎかな・・・反省しよう。


で?なんの能力なの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る