第33話2-8-2.生命の裏庭―――スクランブルエッグ―――

―――朝の日の出には僕たち8人はすでに渓谷へ降りていた。

直訳すると“最初の母竜の谷”と呼ばれる場所だ。かなり険しい道のりでしかも夜だったのだが僕の目には昼間と同じで、かつなるべく安全な道で来たわけだ。


そして僕は道中で世にも珍しい竜殺属性の竜、騎竜モルネを呼んだ。

モルネは翼も角も牙も爪も退化した甲竜だが後天的に竜殺属性を付与している。そのモルネで特徴的なのは頭から生えている一本角だが、退化しているが本来は角が生えていたであろう右目の上の凸の部分のところに竜殺の槍を改造して刺してあり角のように見えている。


最強の召喚獣が竜族であり、その竜族の中で最弱が甲竜。


思うところは色々あるが竜の召喚士になれたおかげで桔梗を倒し、この僕を陥れた連中に一矢報いることができた、そういう意味でモルネに感謝の念はある・・・まあでも甲竜以外のもっと強力な竜だったら・・・。




―――そこそこ険しい道だったが目的の場所に着いた、Z班のメンバーはそこそこ静かに行動してくれて助かった。僕は、僕らはかなり大きな岩の陰に隠れながら様子をうかがう、つまりこの向こう側は・・・竜族の生息地なのだ、気配は霊眼によって極力抑えてあるが近づきすぎれば気付かれてしまう。

しかし竜はここからでは肉眼では全くみえない。距離がまだあるのと木々や岩などの遮蔽物だらけだからだ。


岩場の陰で慎重に手短に話す。

「みんな手はずどおりにね、まずそれぞれ端末で動画を撮影してね」

そう言って全員を騎竜モルネの背中にのせてなるべく高い岩の上に登った。


全員が岩の頂上に竜の背中から降りるのを確認してすぐにみんなを伏せさせた。

もう一度念を押しておこう・・・なにせコイツ等はできそこないなのだ・・・降魔六学園のブッチギリの落ちこぼれ達なのだ。

「動画を撮影してね。みんな、行くよ」

そう言って僕と騎竜モルネは隠していた気配どころか、殺気交じりの魔力を周囲に爆散させつつ解放した。


(はっ!)


・・・そう竜殺属性の魔力を増幅させて解放したのだ・・・

ドラゴニックオーラで水増しし、TMPA換算で5万を超える竜を殺す気配を・・・あたり一帯にぶちまけたのだ。


・・・当然、渓谷にいる野生の竜族が一斉に飛び立つ。

そうここには野生の竜がいるのだ。この世で人間の住むこの現世でおそらくここだけだろう。野生の竜が生き残っていて繁殖しているのは。


数十体の竜が飛び立ちまっすぐ僕の気配から遠ざかっていく。


ここは野生の竜の生息地だ、この渓谷に以前調べた範囲では他の魔族やゴーレム等、危ないモンスターはいない。

渓谷の外には強力なゴーレムが何十体も配置されているが。


「みんな動画は撮れたかな。しばらく僕は竜殺の魔力で野生の竜を遠ざけるから。竜の卵を探してください。感覚合一の仕方は影獣化している通常の召喚獣の卵との契約とほぼ同じですから今まで最低一回はやっているはずで通常の契約の儀と同じで大丈夫です、不測の事態や危なくなったら渡したアラームを鳴らしてください。何か質問はありますか?」散々説明したんだから上手くいってくれ。


真横の端末画面を見ているオールバッカ―が何か言いたげだ。

「もけちゃん。おれっち頭悪くてわかんねえ。動画はなんの意味があんだ?」

「それはこのZ班の軍師が答えよう、竜の巣の場所が・・・つまり竜の卵の位置が予想つくであろう?」

「おおお!なるほどアフロちゃん、もけちゃん。あったまイイぜえ!卵の場所かよ」おまえが頭悪いねん。


この“最初の母竜の谷”には竜の卵は年中あるのだ、つまり恐らくこの結界のせいだろう、なかなか孵化しないのだ、孵化する確率そのものも低いようだ。そもそもここにいる竜たちは4000年前に感覚合一できず捨てられた竜たちの子孫なのだ。当時、竜は神格化されており召喚士の騎竜とならなくても直接殺すことも逃がすこともできずに結界で谷で封印されたのだ。

竜族に限らずだが卵から孵ったあとも素養のある人間と感覚合一する場合があり余計な竜の力の流出を防いでいたのだろう。


当所の予定通り、僕以外の7人は新たな召喚竜を探して前進していった。僕とモルネの竜殺の魔力によって野生の竜たちは超感覚の探知外まで逃げている。

野生の竜たち、おびえさせてすまないなと思いつつ。なるべく遠隔視でみんなの動きを監視するつもりだが、この渓谷の結界は霊眼を使った遠隔視がとてもしにくい。


アラームが鳴って駆け付けると手遅れでだれかが竜か何かに食べられていなければいいが。


・・・安全なはずだと僕は自分に言いきかせる。竜の繁殖地に竜以外はいない。竜族は最強だからだ。その竜たちは僕の気配におびえて遥かかなたまで逃げている。


・・・しかしと僕は考える、昨夜に僕は全員の召喚獣との各々の契約を解除したのだ。召喚獣との契約は一生に一回きりで破棄できないという4000年間信じられてきた定説を覆したのだ。契約を解除した召喚獣は魔晶石に封印しグロウスエッグなる宝珠として各人一つずつ作ったのだ。つまり前方の7人は今、召喚士ではない・・・戦闘力の低い一般人なのだ。


数年前にこの王城の禁書庫をこじ開けて使える情報を調べあげた。古文書は文字が古すぎて霊眼を使っても大変だった。契約中の召喚獣を魔晶石に一時的に封印し契約を一時解除する禁呪だ、これを復活させた。シャドウリムーバーと僕は名付け呼んでいる。

それを応用し死んだ召喚獣をゾンビ化させず完全に復活させる方法や、竜族以外の召喚獣との契約を強制解除して力のある結晶、宝珠を生み出す術を僕は作り上げていたのだ。まあコイツ等にいっても分からないだろうがかなり難易度は高かった。


難易度と言えば確率0.04%なのだ。素養のある人間から竜の召喚士が生まれる確率は2%、そもそも召喚士になれる確率も2%。感覚合一儀式、別名契約の儀を受けた人間の約0.04%が竜との間に結び付きができて竜族と魔力およびソウルを共有し竜の召喚士となる。


・・・低い確率だ・・・高い難易度。

1人でいい・・・成功してくれ・・・。


今、Z班の彼らは全員が召喚士ではなくただの一般人だが降魔六学園に入学している時点で召喚士の素養は当然あるわけだ、だが再度感覚合一できる状態と言っても、この谷に竜の卵しか召喚獣がいないとしても運良くて7人中1人、竜の召喚士が誕生するかどうかだろう。


1人でも使える味方ができれば僕がやろうとしていることを手伝ってくれるかもしれないし、いや騙してでもやるしかない。

僕が突然竜の召喚士になったことも第三者からの目をごまかしやすくなるだろう、竜の召喚士であることを隠すのは不可能に近い、桔梗を倒したことに目が行き重要な点をみんな見落としているのだが・・・いずれ検証しようとするものも出るだろう、権藤先生などはなはだあやしい。そして毒島先生をどうにかしないといけないし・・・。


Z班の中でぶっちぎりで使えるのはやはり緑アフロ隊長だろう。


さてさて、竜殺の魔力の解放はモルネにまかせて―――たまには役に立ってくれ僕の甲竜―――アフロのサポートでもするか。


ちなみに竜の生息地といってもここはほとんどが地竜の一種、毒竜の巣なのだ。

いろいろ調べて検証もしたが毒竜は知能は竜族の中では低く比較的好戦的ではない、竜としての戦闘能力は中の下といったところか。


そもそも、毒竜でよかったのだと僕は考える。

2年前にこの渓谷の一番奥の水辺で強力な竜と出会い、僕はその竜が長年守っていた卵と感覚合一を果たした。当時の僕はだ、召喚士でない状態で一人きりでここに来て、その時も本当に危なかったのだ。竜殺属性で竜を追い払ってくれる人もいないし。マジックアイテムは色々使ったが命を落としてもおかしくなかった。


竜族の卵と感覚合一できた時はうれしかった。やっとやっと竜の召喚士になれたのだ。だが卵がかえって驚いた。これほどのリスクを冒して竜族と感覚合一して契約して竜族最弱の甲竜とは・・・。


毒竜の卵を十数個もスルーしてここでは比較的珍しい水竜の卵もスルーして一番のハズレを引くとは・・・。運も才能の内なのだろう。オールバッカ―が言っていた物欲センサーというやつだろうか。欲しいと思えば手に入らないというやつだ。

そして甲竜との契約は一応試したが解除不可能だった。


騎竜が毒竜だったら桔梗戦ももう少し楽だったかもしれない。

たらればは仕方ない。竜殺属性は後天的な属性付与だがかなり強いし。

いろいろと考えながら高速で移動する。


(あ!いた!ブロッコリー)


緑のアフロに黄色いつなぎの緑アフロ隊長に合流だ。アフロは慎重に周囲に気を付けつつ一歩一歩進んでいる。


(僕のたった2人だけの友人の1人だし、なんとか彼には竜族になって欲しいのだが)


音も無く側へ降り立つ・・・。

「おう、もけ。手伝ってくれるのか。だが感覚合一は魂と魂の結びつきであろう、俺よりも何も無いところで怪我しそうなオールバッカーかダイブツくんに付き合ってやってくれい」おや気付いている・・・神経を研ぎすましている証拠だ。

「ダイブツくん?来てたっけ?」

ここへ来てダイブツくんを見た記憶がない、まあいい。確かに害のあるクリーチャーは全く僕の超感覚に反応が無い・・・だいたいダイブツくんに何かあっても・・・それは仕方ない。


・・・お呼びでないか、まあ安全ならいいか。そして確かに感覚合一は手伝えないし。20回感覚合一の儀式をしても召喚士にすらなれず放校になる生徒が結構いるのだ。黒川有栖ももうすぐタイムリミットだが。


とりあえず初日だし3時間をめどにみんなには最初の動画を撮った岩盤までもどってきてもらうことにしてある。

では健気に朝食でも作って待つか。僕もモルネを少し調整したいし、とりあえず追召喚覚醒魔方陣を解かないと危なくってしょうがない。

みんなには森には入るなと言ってあるのでよっぽどのことがない限り大怪我はしないと思いたい。


2年前にここにきて当時僕の召喚獣だった妖蟲族のブラオニーを魔晶石に封印して準備して・・・必死の思いで甲竜モルネと感覚合一を果たすまで命からがらで8日かかった。


Z班のみんなは一日2回、朝晩3時間ずつ竜の卵との感覚合一の儀を行って。数日まって無理そうなら・・・全員だめかもしれないし・・・全員だめだと怒られそうだな召喚獣を奪っただけになるし。


一人ぐらい竜族の召喚士が誕生してくださいよ・・・切なる願いだ。


・・・取り敢えず目玉焼きでも人数分作るか。

最近たまぁにタイガーセンセと料理を作るため少しだけ料理は覚えたのだ。今着ている黒と黄色のジャージもタイガーのだし、週に一回は夕食ごちそうになるし借りを返すのはいつのことやら・・・。あ、靴もタイガーのだ。そういえばタイガーから合宿用にエプロンをもらったんだった。僕は自分のカバンと荷物をひっくり返す・・・どこいったエプロンは?


しかしタイガーセンセは実は巨乳で美人だし、料理上手いしカレシは幸せだろうな。

よくわかんないマッサージも上手だし。でも酔って下着で抱きついてくる癖は今度やっぱり注意したほうがいいな。ついでにミランダ先生もだけど、ストレス多いのかな教員って、しかし海外の挨拶ってすごいな、顔をなめるようなキスをするんだよな、いくらお国柄でも生徒にするのはまずいのではないか。タイガーも怒るし、こんどやっぱりミランダ先生にも注意した方がいいだろう。


(料理は苦手だ、僕の特徴であるスピードを活かす場がないためだろうか)


なんとかガスコンロに火をともしてベーコンエッグなるものを作る予定なのだ。

しかし2ヵ月分って食料足りないよな。野菜はたしか兵舎の近くに少し自生してるが。ある程度自給自足しないと。水は兵舎付近に井戸があるからさらにそれを濾過して飲むか。考えることは多いな。


「あのじんめクン?」

「はい?」

誰だ?この美人?・・・星崎さんに似ているが・・・。目が違う、別人だ?

「あのじんめクンこれなんだけど?」星崎さんに似ている美人は僕に光る珠を差し出す。

「ナニコレ?」いやいや霊視してみよう・・・。


なにこの違和感・・・星崎真名子だよね?

「竜の卵だね。えっと星崎さん・・・だよね?感じ変わった?いつもは何か眉間に皺寄せてるよね?」そうかいつも睨んでるのに・・・睨んでないんだ・・・。


それはそうと霊視で卵をまじまじと観察する。

「かわった竜の卵だね、小さいね・・・記憶と照らし合わせても見たことない、まさか変異株かもしくは特発株とくはつかぶか」

(あれ??霊視すると・・・もしかして、もしかして、もしかして・・え?)

「ほ、星崎さん、竜と感覚合一というかもう感覚共有してるね。・・・え?もう?・・・始まってそんな時間たってないけど・・・え?竜の召喚士に・・・なって・・いる?」え?早すぎる・・・。


星崎さん似の美人が何か言っているが頭に入ってこない。

「なんかねじんめクン。呼ぶ声が聞こえたの。霧のなかからあたしを呼ぶ声が聞こえたの」

霊眼を最大出力で竜の卵を確認する、左目が紫に輝いているだろう・・・どんな能力を隠しているのか。

「すごいね。すごいよ。星崎さん。特発株だね。超レアだね」

遺伝形質の不明な召喚獣が稀に生まれる、変異株と呼ばれ大抵特殊能力があるが・・・ある程度の法則は分かってきている。その中でもさらに珍しく似たような事例が全くないのを特発株と呼ぶのだ。


まじか?歩く放送禁止用語の星崎さんが?


「みたことない属性だ。なんだこれは。あ!」能力がみえない?つか卵が割れる!

「あぁ!どうしようじんめクン。割れちゃう、どうしよどうしよ」

「孵化する、も、もう?」いや、えっと・・・ちょっと待て。


理解が追い付く前に勢いよく卵の殻が割れて小さな竜の幼生がでてくる、片手にのるサイズ・・・普通の竜の幼生の半分くらいの大きさだ。いやでも魔力そのものは強力だぞ、この竜。人間と感覚合一すると召喚獣は急速に成長するのだが、いくらなんでも孵化は早くないか。


「じんめクン。ミイロミューンって名前みたい。・・・かわいいこの子」

ええええ。特発株って大抵非常に強力な竜になるのだが、星崎真名子、すごいな、すごい才能だ。


たった2%なんだけど召喚士が竜の召喚士になれる確率。

つかまじか、軽く眩暈めまいがする。僕の竜は鍛えているとは言うものの最弱の甲竜ですよ。属性に名前すらない特発株の竜なんて。なんとかジャンボで1億円あたるくらいの確率じゃないか?


あんまり嫉妬という感情は感じたことないけど、しょ、正直羨ましい。いいなぁ星崎さん。

「かわいいといえば、じんめクン。なんてかわいいエプロン姿・・・。」

「え?これはタイガーセンセがあの・・・」


―――どれだけ霊眼で竜族特発種のミイロミューンを見ても能力が分からない。こんなこと、こんな属性初めてだ。数日後にさなぎになり第二段階になればなんとなく予想がつくだろうか。


いやいや僕の合宿の最大の目標はほとんど達成してしまった。あとはこの竜と星崎さんを鍛えるだけだ。


なるほどあらためて思うが、しかし星崎真名子を鍛えてパートナーにすることになるのか。全く予想の範疇はんちゅうの外側だ・・・っていうか普通に喋れるんかい星崎さん。

つかなんでこんな美人なんだ?いつももっと眉間に皺よせて変な顔してるのに。しかし霊眼で見て属性もわからないとなると、どうやって鍛えるか。竜族の特発種って世界で今、数体いるかとかいうレア度だし。


「取り込み中わるいな、もけ」む?アフロか?

「ああ、アフロ。見て!見て!・・・見てくれ竜の幼生だよ。星崎さんが感覚合一を果たして。いやあのすごいんだ。特発株だよ。竜族の特発株・・・おそらく非常に強力な竜に育つだろう」僕はエプロンの上にミイロミューンを抱いて霊視し続ける、やっぱり能力特性が分からない。

なんで分からないのかさっぱり分からない。


「あのな、もけ。竜の幼生が・・・」

「あ。うん。この子見てよ・・・はい??」

アフロ隊長の緑のアフロから何かが顔を出している・・・小さなものと目が合っている。


・・・えええ!!!


そんな?あれ?

「えええ!早くない?!か、感覚合一・・・してるよ!アフロ」

「リニアスカーだ、名前はな」などとアフロはしれっと言う。え、2体目?まじで?


おお?えええ?


「・・・毒竜の幼生だね、つか・・・もう孵化したの?早くない?」

いや毒竜もいいよ。機動力に攻撃力、サードアビリティ。潜在能力はすべて僕の甲竜より上だ。こっちだって甲竜より毒竜のがよかったのに・・・。

「ありがとう!もけ!心の友よ!」アフロがいきなり抱きついてきた。

「ああ、よかったね。アフロ」すごい。すごいよ。


一人も無理かと思ったのに二人もか!


これは凄い!


「あの・・・もけキュン、隊長、いけない想像しちゃうから止めて~いつまでしてるの~」

なんで星崎さんが赤くなって両手で顔を抑えているのかさっぱり分からないが。

「むう?星崎真名子?おまえ顔がかわったのう?」

「そうそう、別人みたいだよね、アフロ」二人で星崎さんの顔を覗き込む。

「なにも変わっていませんけれど?」いやそうは言うけど何もかも別人だ。


口元に手をやっているアフロが何か思いついたようだ。

「むううう、可能性として。星崎真名子、貴様。健診で視力はいくつだ?」

「はい隊長。左右とも0.01です」

「・・・ほほう、星崎、眼鏡はしてないな、コンタクトレンズは?もしくは視力回復の手術とか視力アップの魔術は?」

「全く何もしておりません、隊長」

「キエ――!星崎あそこのバックに何が書かれている?」

「アイアムアグリーですか?」かなり遠くの青木君のバックだ。

「なるほど。もけ。わかったぞ。竜族と感覚合一したことで極度の近眼が治っているようだ、というか星崎、眼鏡くらい買わんかい!」

そうか、ただただ目が悪かったんかい。召喚獣との契約で五感の能力がブーストされるのはよく聞くけど、視力って回復するのか?


他にもおかしなことが・・・ああ!そうだ、あれを持ってない!

「あ、そういえば大丈夫?ニャンブ―ちゃんを持っていないよね?星崎さん?」

「・・ああ何?ああ、あのヌイグルミのことですか。やぁだわ。まあいつまでもそんな年じゃないので」


なんだって?肌身離さず年中抱えていたのに・・・僕とアフロは顔を見合わせて言葉も無い。


「えええー。アフロ。これも竜との感覚合一の影響なのかな?」

「キエ―――!もけ、そんなもの知る由もない、間違いない。恥を知れ恥を」

ほとんど別人だよ、星崎真名子。さすがZ班の部員だ、謎しかない。


僕とアフロをしり目に食材を見ているけど妙なことをするに決まっている。

「もけくん、朝ごはん作ってくれてたんでしょ。手伝うよ」

もう一度僕とアフロは顔を見合わせる。言葉を喋っている・・・これじゃ普通の人間じゃないか。いやそれ以上だ、どうなってるんだ・・・。


あれ?・・・というか大事なことを失念していた・・・。

「あれ?この竜の幼生たち、僕の竜殺属性の影響を受けてない。恐怖でパニックになるはずなのに。・・・まさかミイロミューンか・・・周囲の竜殺属性を中和してるの?」

うっかりというか僕はモルネの竜殺属性の波動をそのままにしている。


「なるほどな。確かにな。リニアスカ―は頭に張り付いてさっきまで震えておったのだ、今はなんともないようだのう」リニアスカ―はアフロ隊長のアフロの中に生息している様子だ。便利な頭だな。

竜殺属性はもともと上級魔族の属性だ、それを中和するってどういう能力だ。どちらにしてもこの岩盤周囲の竜殺の気配をモルネに抑えさせる・・・ドーナツ状にしないと。


って言うか・・・料理してる?

んんん?つか、星崎さん料理が上手くないか?手際いいぞ。なんなんだこの人。


呆然としているとまた帰ってきたメンバーがいる、でもそれどころじゃないのだ、星崎さんのミイロミューンを調べてアフロの竜も育成計画を考えて・・・リスクは・・・。


「あのもけさん」

「あのもけさん」

だからハモるなよ。

身長150cmの青木君と205㎝の村上君だ。お互い一つずつ竜の卵を持ってきている。さらっと僕は霊眼で確認する。ああ、よかった。いやいや良くはないけど感覚合一できていない。

「二人とも、感覚合一していない卵を持ってきちゃだめだよ」ルール無用かコイツ等は。


「いやそれがもけさん」

「いやそれがもけさん」

だからハモるなよ、あのゴーゴゴ言うキモイ応援団思い出すから。


「声が聞こえるんですよ」

「声が聞こえるんですよ」

なにが?なんで?


「え?」彼らがもっているそれぞれ二つの竜の卵と二人のあいだに何の契約も見えない。霊眼の出力を上げてみる。


「・・・ん??」愕然がくぜんとした「えええ!感覚合一してるよ。青木君の持ってる卵と村上君が。それで村上君が持ってる卵と青木君が感覚合一できてる」なんで交差している?


いやちょっとおかしいでしょ。素養があっても2%だってば竜族と感覚合一できるのは。つかなんで持ってる卵逆なんだよ。


「まじか!青木!村上!よかったのう!」そして暑苦しくアフロ、青木君、村上君は抱きついて泣き出した。それもオイオイオイオイ。ちょっとうざいと思いつつ霊視する。

村上君は毒竜と感覚合一を果たしている。青木君は金竜と・・・。


金竜ぅぅぅぅぅう!!?


なんで?


えええ?なんで?どこにあったんだ?

「ああ!あの金属性の竜の卵なんてどこにあったわけ?ここ毒竜の巣なんですけど?青木君?」

「いえもけさん、湿地の窪みですよ」

「ああ、ちがうちがう、青木君と感覚合一してる卵は村上君が持っているほうなんだけど、ややこしい。村上君その竜の卵は一体どこで?」

「ああこれは岩と岩の隙間にはまり込んで痛そうだったから、つい助けてしまって。いけなかったかな」

毒竜も羨ましいけど、金属性の竜って防御力まさしく召喚獣最強のポテンシャルだよな。金属性の竜だったら桔梗戦とかももっと選択肢広がったのに。


金竜・・・めっちゃ欲しい・・・まじかよ。


そ、それに・・・いろいろ世界中で調べて研究して2%だよね竜族と契約できる召喚士は。みんな僕の甲竜より強力な竜と次々契約ってなんなの。しかも2時間しかたってないよね。えええ?2時間だよ。僕は準備に準備を重ねて命をかけて8日かかったのに。



「もけさん、竜の名前“超銀河時空次元振動斬”って名前にします」

やめて欲しいな。青木君・・・ダサいわ。ダサい・・・ツッこむ気もしない。

「もけさん。“フランソワーズ”って名前にします」

いやそれもなんとなくやめて欲しいな。村上君それ毒竜だし。

召喚獣の名前って内から湧いてくるはずなんだけどな。まあいいか。




―――ああ?

ああ、あれ?あれ?

よくないものの接近を感知してしまった。


冗談でしょ。


不良のできそこないがやって来ている・・・。

「おおお!もけちゃん!おれっちさ!聞いてくれよぉ―――」

「ああ、ああ・・・あああ。感覚合一したみたいだね。ああ・・・それはよかったね」破れかぶれに僕はオールバッカ―の顔を見ずに言う。別に羨ましくないぞ、どんな竜だって。


いやいや僕だって竜の召喚士なんだし。


オールバッカ―が近づいてくる、ちょっとまっていやだぁ。

オールバッカ―信じていたのに。なんで?なんですぐ竜と感覚合一してるんだよ、苦労しろよ・・・もう。

「きいてくれよ、もけちゃん。ぁれぇ?お前らもかヨ・・・まさか全員竜と契約してんじゃねえか!」

そうなんだよ。理解できないよ。確率的におかしいだろ、おかしいよ。しかも全員僕の竜より強力なんて。

羨ましくなんてないぞ・・・。

一応オールバッカ―の竜を霊視しておくか。信じてるよオールバッカ―。


・・・!!!!


げ!


「・・・まじか、まじか。まじか、まじで。オールバッカ―。君ってやつは・・・ひょ、氷竜だよ」

大人気の竜族、つまり強力で弱点の少ない竜。火竜、雷竜、氷竜。この中で最も珍しいのが氷竜だ。降魔六学園でも氷竜使いは第3高校DD-starsに一人とホーリーライトの補欠に2人と全部で3人しか知らない。


ちなみに僕が一番欲しかった竜が氷竜だ。


もうやってられない、よりにもよってオールバッカ―のところに氷竜あいすどらごんが来るなんて。


しまったぁあああああ!このバカを夏季補習へ行かせていれば・・・。


「あの一応聞くけどどこにいた?」聞いても仕方ないのだが、この谷に氷竜の卵があるなんて。決して欲しいから聞いているわけではない。


「ああ川のなかによぉ。キラキラしてるものがあるからよ、おれっち売ったらたけえんじゃねって思ったわけよ」


売るなよ、アイスドラゴン売るなよ、頭おかしいんか。


「・・・森には危ないから行ってはいけないと言わなかったっけ」

人の話し聞けよ。ああ、もうやってられない、氷竜は騎竜にしたかったのだ。いくつも強力なオリジナルの術を思いつく。ああもう本当にこんな奴にもったいな。

「もけちゃんのお陰だぜ!おれっちのために!」そう言って思いっきりコイツも抱きついてくるんかい、なんの感動もないわ。うっさいわ。お前の為じゃないし。

「いやぁ、もけキュン、それは!あぶないよ~」さっきから星崎さんは何に反応してるんだ。


うん?まさか?まさか?追い打ちじゃないよね?


「じんめせんぱーい!せんぱい!・・・ごめんね、聞こえちゃった、じんめせんぱーい!」

黒アリスが遠くから走ってくるのが見える。もう驚かないぞ、肩に何か乗っていても。


超不良女の肩に何かいる・・・。


「聞こえてるよ、黒川さん」冷静を装うのだ・・・。

「先輩!みて、この子。会話できるの、あと呼ばれたような気がしてさ森に入っちゃって・・・ゴメンあやまるよ」

「うんうん、あはは。感覚合一してるよ。竜と感覚合一果たしてるね、黒川さん」

「これが感覚共有!凄い!この子の考えが分かる、この子を感じる、これで先輩の役に立てる」

「あれ?木竜?木属性の竜か・・・毒竜の巣なんだけどな。毒竜の」

うーん。黒川有栖には一番毒竜が似合いそうなんだけど、そういう場合じゃないな。木属性の竜かタイガーセンセと一緒だ。五感に優れ自動回復能力があり、単独任務に向く。氷竜の次に欲しかったのが木竜なんだけど。


ああ羨ましい、いや羨ましいわけない。


なんだこりゃ?


ああ僕って一体なんなんだろう。


つか黒川さん泣いてる、鬼の目にもなんとかか。おお黒川さんにも抱きしめられた、これは少しそこそこ嬉しいかもしれない。いやショックの方が・・・。



岩盤の陰は大盛り上がり・・・楽しそうだなぁ・・・僕以外のみんなは竜の幼生を見せ合い、Z班のテンションはだだ上がりだ。

それに比べて僕は完全に意気消沈だ。全くうれしくない。竜族の召喚士になれる確率2%っておかしくない?一般人からしたら0.04%だよ。責任者出て来いよ。

一人でいいのに全員竜族になるなんて・・・。考えが上手くまとまらない。僕がどれだけ竜族になるのを苦労したか、もうちょっと苦労してよ。


つかお前らの竜の平均スペック高いわ・・・高すぎる。


苦労しろよぉ・・・。こんなに憧れの竜の召喚士いらねえよぉ。竜の召喚士ってそれだけで、どれだけのステータスになるか・・・降魔六学園でも一目置かれてさぁ・・・。



そして聞きなれた動物の声がする。

「グモ―――!グモモ!」

「そうかまだ君がいたね、頼みの綱のダイブツくんじゃないか」

恐る恐る霊視する。よかった竜と感覚合一してない。ああ、うれしい。

「いやあ残念だったねダイブツくん、まだまだ時間あるから何日かかけて一緒にがんばろうね」いやあよかった・・・僕は少し安堵した。3時間で全員竜族になるわけがないのだ。なるわけないのだ。


「おなか空いたのじゃ」

「そうだね、ハムエッグみたいのあるからね、ダイブツくん」よかった、希望の星だよ。ダイブツくん。これ以上は竜の召喚士はいりません、全然いりません。


「この卵をたべるのじゃ!」

「はあ?」

ナニコレ?


ダイブツくんはふところから透明な卵を取り出した。いや霊視したけど持ってなかったよね。ナニコレ。なぜ見えない?

「おおお!まさかもけ、全員いったのではないのか?」緑アフロから竜の頭が出ている。

「まさか、アフロ、ぜ、全員なんて」確率的にあり得ないよ。そんな絶望的な・・・。


霊眼で竜の?卵を見落とすなんて、なんだコレ。何度霊視しても素通りしてしまう。

「もけクン、竜の卵ですよね?これ、ちっちゃい竜が入っていますよ」

「え?星崎さん見えるの?」全然見えないんだけど。ミイロミューンの能力か?

能力が読めないどころかダイブツくんの卵は霊眼で見えない。

冗談でしょ。

しかも星崎真名子には見えている?

なんやねん・・・僕っていらない子か?


も、もしかして・・・。

「特発株だねえ、世界に数体しか報告のない竜の特発株だ、今日2体目なんて・・・あり?」

「スクランブルエッグにするのじゃ」食うなよ!レアな竜、食べちゃダメだよ!

感覚合一しているのか?それすら全く見えない。でも・・・ダイブツくんのTMPAは上がっている、間違いない・・・感覚合一果たしてしまっているようだ。


探知をキャンセルするような能力か?


えええ!

全員が竜の召喚士になってしまうって・・・初日の最初の3時間で。どんな確率だ。


世界が真っ白になる・・・なんで?


「キエ―!さすがだのう、もけ。恐るべき才能、恐るべき知己よ」

「もけちゃん、おれっち感動であふれてるわけよ、サンキュ!こんなうれしいこと・・・」

「もけさん、伝説の神話の始まりですよ、Z班サイキョーレジェンダリーですよ、戦隊ものとしては中の上を目指して・・・」

「もけさん、ありがとう。・・・ほっとしたらトイレに行きたくなってしまって」

「エプロンの似合うカワイイもけクン、ありがとね」

「じんめ先輩、あたしヤルよ。先輩の気持ちに報いるため、気合だけは誰にも負けないんだ」

「おなか空いたのじゃ。後、なんかわからんが用が済んだのなら帰るのじゃ」

召喚士を目指すものにとって竜族の召喚士になることは特別なことだ。竜族というただそれだけで恐れられ、一目おかれる。

だれでも一度は竜の召喚士になることを夢見るものだ・・・確率が低いのだ・・・こんな・・・こんなことって・・・。


Z班の連中が感動しているのを感じる。何人かが僕の肩を叩く。クズのくせに次々と感謝の言葉をとめどもなく送ってくる。


・・・ふざけんなよ!僕よりグレードの高い竜ばっかと契約しやがって。僕が2年前どれだけ苦労したと思ってるんだコイツ等!


ああ、悲しい。こんな奴ら連れてきたのが間違いだったのだ。


・・・泣きたい、泣きそうだ。


「おお、もけ。おまえもそんなに泣くほど喜んでくれるのか。」

全く喜んでない、深い悲しみだ。

「召喚獣を竜にげ替えるなんざ、とんでもないことだのう。出すとこに発表すれば勲章モノだぞ、なにか賞がとれるであろう」

勲章いらない、まじやってられない。




―――ショックで1時間ほど岩の上で呆けていたが僕は何とか・・・何とか復活した。

全員が竜の召喚士になるなんてきっといいことに違いない。でも絶対この方法は人にはもう教えないからな。



普通に考えると大成功だ・・・う~ん・・・大失敗だ!


そして地獄の特訓が始まるのだ。

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