第32話2-8-1.生命の裏庭―――強化合宿は唐突に―――
僕は夜の海にいる、夜の海の神殿だ。星はないが薄く明るい。真後ろに烏女がいる。最近は気配で分かる、姿を目で見ようとすると消えてしまうため見ないようにするのが肝要だろうか。海に入るのも慣れてきた。この間もなんとかとかいう氷竜と同化して共有して。何かと戦ったのだったか、よく覚えていないが・・・どうでもいい。
僕は静かな黒い海に入っていく。
(・・・え・・・人殺し・・・おまえ・・・・殺し・ぎて・・・)
烏女が何か喋っている?珍しい・・・言葉を発するのは。
人殺しとはなんだったか?思い出せないな。だってここは夢の中、目が覚めれば記憶はこぼれてしまい留めることはできない。
―――さて合宿初日だ。
期末テストもしばらく前に終わって・・・夏休みのちょうど一週間前だ。これから一週間強化合宿の許可をタイガーに取ってもらっている。一週間たてば夏休みだ、そのまま合宿を継続して9月も最初の週に一週間の強化合宿を申請している、そのまま5日間無断で学校を休んで今のところ63日間ぶっ通しで強化合宿する予定だ。
北関東にある一応僕の自宅住所である竜王家の墓地へ電車で向かっている、もちろん濃いZ班のメンバーもいっしょだ。僕の形上の自宅はそもそも竜王家の代々の墓守が住んでいた屋敷だ。いわくつきの場所でお参りする人もほとんどいない。こんなところに僕を軟禁してくれたおかげで今の自分があるわけだが。
「うぉおおおお!電車!楽しい!!旅は電光石火。うおおお!みんなは雨のシャワーですよ、みんなでハリケーンすれば怖くないぅ!」身体を揺らしながらテンションが異常に高いのは青木小空君だ、身長150cmで自分で頭をそっているハゲ・・・丸坊主だ。将来はプロの召喚士にならず実家のお寺も継がず・・・ハイブリット詩人になるそうだ。
隣の村上謙哉君、身長205㎝は正座をして背筋をピンと伸ばし窓の外に身体を向けている。
「うわぁー田舎だー。田舎ですよ、これは。ハハハハ」
竜王家の墓地はまあ田舎も田舎だ。
毎年夏と冬には帰っているし、そこそこ見慣れた風景だがZ班のデキソコナイどもといっしょだと違った趣がある。
「夏奈がさ、会いてえ会いてえ言ってくるわけよ。でもおれっち今回はバリバリじゃんよ。黙って待ってなって言ってやったわけよ、わかる?このおれっちの切なさ!」どうでもいいけどオールバッカ―、夏美じゃなかったっけ?フラれたのかな?
「キエ―!オールバッカ―、貴様な!赤点取り過ぎて夏休みの補習が強制になるところだったのである、猛省せい」
「いやあアフロちゃんよ、おれっち再試験は得意なわけよ、再試験はよ。一個も補習ないぜえ、バリバリ無敵よ。いあいあ、もけちゃんには感謝してるぜ。勉強教えてくれてバリバリサンキュ―――!」
本当になこのカス・・・。合宿どころか毎日夏休み補習になりかけて、それどころかこのカスは留年するかと思ったよ。
Z班の連中はかなりうるさいが、幸い冷房の効いている電車の中は乗客は少ない。
そして謎だ・・・黒川有栖は何故に紫の特攻服なんだ?・・・目立つし・・・ああ不良と目が合ってしまった。
「じんめ先輩、あたし今回気合入ってるんで。これに賭けてるんです。もし気い抜けてたら締めてください・・・先輩の為なら反吐がでるクズ共がどれだけデカくてもヘッドを潰して見せますんで、でも相討ちの時だけはあと頼みます」何言ってるんだ、途中から意味わからなくなった。だれと相討ちになるんだ?
「そうだね。頼りにしてるよ」すごいいい笑顔だ有栖、外見だけは全然問題ないよ・・・目立つからドギツイ紫の特攻服はあとで適当な理由で没収しよう。
「ニャンブ―ちゃん記念撮影だよ」そして星崎真名子はウサギのヌイグルミ・・・その名もニャンコブーメランの耳の中に携帯端末を入れて写真を撮っているようだ。もちろん裸足だ。様々な耳の奥の記念写真が撮れるだろう。つか裸足で来るんかい、楽しい雰囲気なのに目つきは悪い。
天然パンチパーマのダイブツくんは正気を保っており偉そうに足を組んでいる。相変わらず顔でっかいな。
「ふん、みんなガキくさいのじゃ、騒がしいのじゃ、村上!邪魔じゃ!外が見えんのじゃ!」
第6高校の留年ダービー筆頭のダイブツくんとオールバッカ―はなんとか再試験で赤点を免れ合宿に参加できることになった。僕とタイガーで何日も潰して二人に勉強を教えたのだ。
あと半年生きられるか分からないのに、こんなカス共に勉強を教える羽目になるとは。
国語教諭のタイガーセンセは今日まで授業を行って後日、合宿に参加することになっている。
「いや――。楽しみだのう。もけ。わくわくするのう。とんでもないスーパーレベルアップとやらの種明かしはまだか?」緑のアフロの緑アフロ隊長もニヤッといい顔している。一人くらいは成功してくれないと困るんだけどな。
この合宿の成功確率はどれくらいだろうか。
「ってなにしてるんですか?黒川さん?」紫の特攻服を来た上機嫌のダークアリスが僕の髪の毛を触っている。よく分からないが結わえているようだ。
「じんめ先輩の髪好きなんですって。今日はポニテにしていいですか?」うーん、みんなマイペースだな「髪型なんてどうでもいいよ。黒川さん」ダークアリスの目が妖しく輝いている。「じんめ先輩、最近思ったんですハイポニテ似合いますよ?」何語だよ、ああポテトサラダ食べたいな。
―――電車からバスに乗り換えて竜王の墓地のある渓谷まで着いた。
もうあたりは自然しかない、初夏で植物の緑が目に眩しい。いい匂いだ、墓地もいい味出している。
第二の故郷といったところか・・・第一がどこか分からないが・・・大阪の施設かな。
みんなバスを降りてめいめい背伸びなどをしている。
「ふぁ―――もけちゃん着いた?んっじゃいっちょ、おれっちの成長を頼んまっせ」自分で頑張らんかい。
「すごいです。もけさんの実家はすごい田舎ですね。季節の空気がおいっしいです」
「あぁああああ。ここが神話のトキメキの里ですか?」いちいち突っ込むのも面倒だけど。
「竜王の墓地です、青木君。・・・命がけだからね?オールバッカ―」
みんな危険だと言っても分かっているとは思い難い。
「もけちゃん、もけちゃん。あのねニャンブ―ちゃんがね。ポニーテールとシュシュ激烈かわいいねって、女子よりかわいくってガチ気持ち悪いって言ってるの」
「うんうん調子いいね、星崎さん」良かった今日は意味が分かる。
そしてこつらは・・・。
「キエ――――!」
「グモ――――!」
なんで奇声を発しているんだ・・・。
「キエ―!張り合わんでよい、ダイブツくん。皆の者、気合入れていくのである!」
「グモ―!いい加減になんできたのか教えるのじゃ!ここはどこじゃ!」
ま、みんな調子良さそうだ。
―――騒々しく、しばらく歩いて一応・・・僕の実家へ着いた。
かなり大きく古い西洋風の屋敷だ。古くて傷んでいるがよく手入れされている。
さてと、みんなの前に立って・・・もちろん諸注意が必要だ・・・なにせZ班だからな。
「みんな言っておくけど、ここはね。竜王家に代々仕えた御庭番の屋敷でなるべく発動しないように切っておくけど侵入者用のトラップだらけなのでね、特に地下の罠はOffにできないのがあるから行かないようにね・・・本当にクリティカルだからね。とくにダイブツくんとオールバッカ―はよく聞いてね」こいつらあほやねん・・・まじで。
「それはいいけど。もけ、ここに何をしにきたのじゃ?」ダイブツくんが何か喋っているようだ・・・よかった、今日は人間の言葉っぽい。
「じゃあ呼び鈴をおします、みんなよろしくね」
「もけ?ここには何しに・・・」
予想はしていたが僕の指が呼び鈴を押すまでもなく玄関のドアがガチャッと開いた。
待ってましたと笑顔のメイドが顔を出し・・・そして躍り出てきた。
「あきら様お待ちしておりました」
メイド服に黒髪で髪は緑のリボンで結わえている。左顔面には縦に大きな古い傷があり、実は服で見えないが左肩から胸、腹部へ続いている。8つ年上だから25歳、もちろん女性だ。
「みなさま初めまして。この屋敷のメイド長をしておりますといってもメイドは一人きりでございますがアビルと申します。以後お見知りおきを」そんなに丁寧にあいさつしなくっても。
「おお!アビルちゃんか。かっわいいね。今度合コンしない?カレシいても大丈夫。おれっち人呼んで合コン請負人・・・」必要もなくオールバッカ―は髪をかき上げるダサい仕草をしている。緑川君の方がハンサムだったな。
「キエ―!オールバッカ―やめんか。自分はZ班部長であります。この広い屋敷をお一人で・・・」そういって握手するんかい、触るんじゃないよアフロ。
「存じておりますよ。アフロ隊長様でございましょう?本当に緑のアフロなんですのね?」
「グモ――!お腹すいたのじゃ!」
「ニャンブ―ちゃんがただいま、おいでませですって」星崎さんは調子いいな。
「どうも知らないおうちは緊張するな、すみません。おトイレ借りれますか」
「あなたの宵の明星、青木小空です。ポエムができました、アビルさんに捧げます。弾けて砕いてダイヤモンドドッグという題です、では聞いてください。うぉおおお!パーク内の腐乱したメロンがぶっちゃけ一人歩き・・・」
「邪魔するよ、あんた気合はいってんね。あたしには分かるのさ。あたし?あたしは見ての通り外れものさ、ダークアリスってよばれて・・・」
こいつらマイペースの塊か。
なんとかしないと話が進まないじゃないか。
「みんな、落ち着いてくれるかな?・・・テンション高いね。アビル、大変だけどよろしくね、時間が惜しいから軽く食べたらすぐに合宿開始するからね」ん?アビルの様子がおかしいぞ。祈るように手を合わせて僕を見てモジモジしている。
「あきら様、なんてなんて素敵な髪型・・・アビルは、アビルは気を失いそうです」
はあ?両手を祈るようなポーズのまま後ろへゆっくり倒れていく・・・?
―――気絶したアビルを介抱した後で僕たちは遅めの昼食になった。
アビルの料理は久しぶりだ、サラダと野菜カレーか、うん懐かしい匂い。
2ヵ月間のみんなの食費が心配だけど、まあなんとかなるか。
こんなうれしそうなアビルを見るのは久しぶりだ。
大阪の施設から移されて僕は8歳でこの墓地の管理人代理になり、アビルと二人きりでこの広大な墓地に赴任してきた。アビルとはさっき降りた駅のホームで初めて会った・・・身寄りのないアビルは当時16歳だった・・・身寄りがないのは僕も似たようなものだったが。お金も無くて二人で畑をいくつも作って、この広い屋敷を、異様に広い墓地を掃除という名目で探検した。最初は広すぎて掃除なんてとても二人ではできなかった。
ふう・・・僕はアビルの横顔を見ながら思う、まだあのころアビルには顔の傷はなかった、緑のリボンは昔僕が彼女の誕生日にプレゼントしたものだ。
・・・刺客が来たのだ・・・ここへ来て3年たって刺客が来た・・・白昼堂々と。
11人も・・・。
それにしてもアビルの横顔は・・・今日はいつになく嬉しそうだ・・・来てよかったかな。
「あきら様、初めてですよね。お屋敷にお友達を連れてくるのは、あきら様も食べてください」
「そうだね。はじめてかな・・・アビル、あんまり無理しなくていいからね、僕は合宿の用意をしないとね。あとで食べるよ」
「いえ、アビルはうれしいんです、だって・・・・・・」
友達を連れてきたのだろうか僕は・・・ただ彼らを利用するつもりなのだ、利用するだけ。友達なんて呼ばれる資格は僕にはないだろう。まあギブアンドテイクでいい、その方が楽だ。
しかしZ班の連中は物怖じしないというか遠慮しないと言うか。さすがアウトサイダーの集まりだ。ん?ダイブツくん・・・なぜか顔面を負傷してるな。・・・黒アリスだろうどうせ。
「あらあら、大丈夫ですか?」アビルが心配そうにいつもよりブサイクなダイブツくんに聞くが・・・ほっとけばいいのだ。しょうがないなあ、抗術で直してやるか。
「ダイブツくん、顔がすごく歪んでるけど?・・・ん?黒川さん?」酷い顔のダイブツくんは黒アリスを指さしている。
「そんなじっと見つめないでじんめ先輩照れるでしょ・・・もともと歪んでるしコイツの顔。・・・怪我してるからって全部あたしのしわざじゃないしさぁ」
しかしダイブツくんは歪んだ顔で黒川有栖を指さしている。
「グモーグモーーグゲ!」迫力のアリスに睨まれてダイブツくんが固まった。
「仕方なかったんだって、だってコイツ突然脱ぎ出すからさ」アリスは口をとがらせて言う。ああダイブツくんはすぐ全裸になる癖があるんだった。
「キエー!自重せい!ダイブツくん」
なんとなく先が不安だ。
ん?青木君はカレーを食べながら何かブツブツいっている。「ふふっ、ふふふ。我命ずる!滅びの民よ・・・」聞かなかったことにしよう・・・滅びの民ってナニ?そして床にはいつくばっているオールバッカーはアビルの写真を下から撮りまくっている「本物のメイドだぜ、いぇーいぇ―――」まじで大丈夫かコイツら?
「ニャンブ―ちゃんが壁際が落ち着くって、ドンドンってお母さんお母さんって言ってるの」星崎さんは壁際でカレーを食べつつウサギのヌイグルミを器用に壁にぶつけている、今日はすっごく調子いいな。
そしてトイレに行った村上君は戻ってこない、屋敷内で迷っているみたいだ・・・直線なんだけどな。
・・・だめだコイツ等。とめどなく先行き不安だ。
4000年前に王都は200以上に引き裂かれそれぞれ次元環としてこの世と隣り合わせの別次元に封印された。
そしていくつかの次元環はまだ見つかっていないのだ。次元環内は基本的に4000年前の魔族襲来の日のままだ。生物はいない。人間は生物はすべてゾンビになっている。これが公式の見解だ。
こんな墓地に次元環として王城の一部が封印されているなんて僕とアビル以外は知らない。
かなり巨大な次元環だが入り口は小さな水差しだ。
この屋敷の地下には大小の壺が6000個以上ある、そのうちの一つが・・・一つだけが次元環の入り口だ。さらにその水差しの底にはメダルをはめる窪みがある。そのメダルは父上から5歳の誕生日に碧玉親王鏡といっしょにもらったもので、父が何らかの方法で殺害されて・・・竜王家ゆかりの宝物・遺物はすべて最近辞職した法務大臣に没収されたが唯一僕の手にメダルだけは残っていたのだ。
父はもちろん知らなかっただろう、そして代々続いた墓守の御庭番の一族も知らなかっただろう。
竜王家の長男を墓守にしたおかげで、カギとカギ穴が揃ったわけだ・・・皮肉だ。
子供だった僕は危険なこの屋敷の地下を探検した。
何日も何日もかけて6000個の壺を好奇心にまかせて調べた。メダルが水差しにハマることに気付くのはここに来て4年目、12歳のことだった。次元環に入るには自己の肉体にいくつかの処置をしなくてはいけないが、この地下でみつけだ次元環は肉体への処置が不要だった。つまりこの次元環の内部は瘴気に侵されていない・・・時間が流れているのだ。そうまでして隠されていた特殊な次元環になにがあるのか。
未知の大地を調査するのは、当時の僕は自分の人生に絶望しながらも多少は胸が躍ったものだ。
―――僕、アフロ、オールバッカ―、青木君、村上君、星崎さん、ダークアリスで7人、7人だっけ?もう一人いなかったか。まあいい。この人数を一度に入れる(転移)にはそこそこの術式を組まないといけない。次元環に入ると僕以外はしばらく出れなくなるので食料を持ち込んで基本的には自炊することになる。
トラップを切った後で僕はみんなを地下の一室に招き入れた。
膨大な魔力を使う僕はすでにフィーネの鎧を纏っている。フィーネの鎧は女性用だし、もともと僕は髪も長いし鎧の形で胸もあるしどこから見ても女性と見間違えられそうではっきりいって・・・この格好・・・嫌なのだが。魔装しないと術式が展開できない。
その僕を見てアビルはもう一度「この世のものとは思えない」とか言って気絶した。
みんな結構神妙な顔をしていて少し面白い。旅行カバンにリュックに、アビルに事前に用意してもらっていた食料に結構な物質量だ。
・・・この術式なら全部飛べるはずだが。ああダイブツくんもいたな・・・しかしなんで眉毛コンナ形なんだろ、顔はダイブツくんが一番面白い。由良にブサイクは罪だって言われてたもんな。
さてみんな揃ったな・・・。みんなで軽く円陣を組む。
「みんな準備はいいかな?しばらくこっち側に戻れないからね」
「もけ。準備はできておる」
「いくぜもけちゃん。愛する夏奈のために、おれっち生まれ変わらねえとな」
「はい、煌きの光に蛹化するのです、この神剣を捧げるのですぅ」
「は、はい。よろしくです。もけさん。でも緊張するよね?」
「ニャンブーちゃんが懐刀だって刀狩りに出向くんだっていってるの」
「先輩。あたし先輩とならどこへでも行けます。先輩となら・・・」
「グモモ?もけ、どこに何しに行くのじゃ?今日はお泊りなのか?聞いてないのじゃ?」
リスクは低くない。何人が脱落するだろうと思いつつ僕は術式を展開する。封印された王城へ次元を超えて空間転移を行う。
水差しを中心にして床に大きめの魔方陣が展開されていく。魔方陣は赤く光っている。
「みんなの気持ちはよく分かった。ハイリスクハイリターンだけど・・・よし。行こう」
シュッバ―――!
周囲の風景だけが地下の一室から真っ暗な開けた場所に変わる―――成功だ。水差しは消えている。
ここは4000年前の王城の、分かりやすく言えば裏庭だ。
その門兵たちが寝泊まりしたであろう兵舎にあたる場所。僕の魔力に呼応して天井と壁の明かりがついていく。かなり広い部屋だ。
僕たちは4000年前の王城の一番外側の城塞にいる。ここはほとんど崩れたりせず、ほぼ4000年前のまま残っている。しかも瘴気が全くないのだ。
荷物を置く場所を決めたら、部屋はいくつかある。
まあ男子と女子は分けた方がいいだろう。
(とにかく時間が惜しい)
「―――さて。もけ。そろそろ勿体つけずにスーパーレベルアップとやらの方法を聞かせてもらいたいのう」
「ああ、そうそう。アフロ忘れてたよ。計算することが多くてね、じゃあみんなに説明しよう。みんな座ってくれるかな。その方法を――――――」では説明するか。
「――――――以上を踏まえて極力リスクを減らして行う」
みんな出来損ないのクズのくせに話を大人しく神妙に聞いていた、一番のクズの僕の話をだ。なんとなく微笑ましい感じすらする。
興奮気味の緑アフロ隊長が椅子から飛び起きる。
「――――まじか!もけ!それはとんでもないわな!いくつかの召喚士に関する固定概念を覆したな!」
「まじか、まじかよ、まじか」オールバッカ―が左中空をみつつブツブツ言っている。
「そそ。それだけじゃない。それがすんだらスピードレベルアップを行う、黒川有栖さんだけは召喚士じゃないので最初の部分は飛ばして行うことになる」
「すごいのう!もけ!それは流石にすごかろう!」
みんなの静かなヤル気を感じる、もう一度みんなの方を見て言う。
「みんな。やり始めたらあともどりはできないよ、やめるなら今しかない」
「それは問題なかろう、今のままでは我々Z班から将来大学卒業時に召喚士国家試験に合格できるものはおらん、このままではどのみち召喚士では食っていけん。別の道を探すことになる」
「アンボリービバーバーですよ。もけさん」どういう意味?
「―――青木君、それを言うならアンビリーバブルだね」青木君は時々青木語をしゃべるために間違ったのかそういう言葉なのかそもそもわからない。
身長178センチの長身の黒川有栖も真っ黒い長髪をかき上げつつすっくと立ちあがる。立ち姿もビシっとしてる。見た目は完全にモデルで合格なんだけどね、この後輩女子は。
「あたし、じんめ先輩の役に立ちたい。やるわ。ドーセあたしこのままだと9月に放校だし、それに二ヵ月もあったら先輩と・・・」彼女のなにやら妖しいヤル気を感じる。
「ニャンブ―ちゃんが久しぶりに段ボールの中のブーメラン抜いたほうがいいって言ってるの」うんうん、星崎さんのヤル気を感じる・・・。
「グモ―ここはどこなのじゃ、もけの言ってる意味全然わからんのじゃ」
「もけさん。やる方向でいいですけど緊張したらまたトイレに行きたいんですけど」
少なからず僕は少し・・・結構驚いていた。
「みんなヤル気なんだね。すこし・・・」少し見直したと言おうとして止めた、大変なのはこれからだから。
「わかったよ。みんな。僕も珍しく全力で!サポートするよ・・・号令でもかけてくれるかな?緑アフロ隊長?」
ずいっとアフロが前へ出る。
「OKだ、もけ。そしてオールバッカ―、青木君、村上君、星崎真名子、黒アリス。聞いての通りだ。リスクはあるそうだ。だがそれがどうした。Z班の後ろにはもう何もない。俺たちはずっと背水の陣だ、人生に逃げ場はない。一度くらい一歩でいい自分の足で歩こうぜ!以下略!・・・行くぞ、みなのもの!」
気合入ってるな・・・。
オ――――!
珍しくまとまったな。
「あのもけさん、と、トイレはあの?」
「グモモモモ?ここに何しに来たのじゃ?卵をどうするのじゃ?」
よし!開始だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます