第34話2-8-3.生命の裏庭―――強化合宿は順調に―――
「―――起きなさい!あなたたち、もうお昼近いですよ。とっくにご飯できているんですけどね。ああ、じんめちゃんはいいのよ、もうすこし寝ていたら」
ん?タイガーセンセが僕の寝床に腰かけてまだ眠い僕を見下ろして青い髪を撫でている。頭が起きてきた、ここは王城兵舎の一室だ。女子部屋は2階にした。
すっかり忘れていたが食料を運ばないといけないし、屋敷に転移したら既にタイガーセンセが来ていたのだ。タイガーはアビルと優雅に紅茶を飲んでいて僕の中学の卒業アルバムを見ていた、恥ずかしくて倒れそうだった。
そして次元を越えて昨夜タイガーセンセも合宿に参加したのだ。
うーん眠い。
「とりあえずランニングからしましょう、さあ部長さん、みんなを起こして。ランニングしたらブランチにしましょうね」タイガーセンセはまだ僕の頭を撫でているようだ。
「そんなこと言ってじんめ先輩に触るな!このババア!」「なあに黒川さん」なぜか黒川有栖がえらい剣幕で男子部屋に入ってきた。
実は色々朝まで術式を組んでいてあんまり寝ていないのだ・・・眠いのだ。
「鳥井先生あの朝までみんなの術式を組んでいてまだ眠いので・・・」
「そう大変ね。いいのよ。じんめちゃん。じゃあ後でマッサージしてあげよっか?」
「とにかく先輩に触んじゃねえよ!料理途中だろ!センセ!今度触ったら洗濯物燃やすからな!」
なんなんだ?このタイガーセンセとダークアリスのやり取りは?仲悪いのか?
「・・・あのさ黒川さん、洗濯物燃やさないようにね・・・お金かかるから」なんで洗濯物燃やす気になるんだこの超不良は。
しかし元気だなみんな。村上君だけいないな、トイレかな。
とりあえず合宿での役割分担は、料理はアフロと星崎さんとタイガーセンセが。洗濯は黒川有栖と村上君と青木君が担当することになった。残りのオールバッカ―と僕が掃除係になったのだ。ダイブツくんは全裸で走る癖があるので服を脱がない係になった。
「グモォォオオ、よく寝たのじゃ」タイガーとアリスの真後ろにいる、持参してきた寝袋から昆虫のように出てきたダイブツくんは全裸で背伸びした・・・裸で寝てるのか。
「ハァッッッ!!!」ほんの一瞬後にダークアリスの右廻し蹴りをくらってダイブツくんは肉眼で見えないところまで吹き飛んでいった。あれだけくらえば良い目覚めとなるだろう。
タイガーセンセがぴったりくっついて何か言ってくる。
「あいつよ。じんめちゃん。あいつにこないだセクハラされたのよ」
「うん。知ってますよ、噛みつかれたんでしょ」なぜか噛まれた箇所を見せてくるタイガーはダイブツくんがちょっぴり苦手みたいだ「とてもすごく気持ち悪いのよ、守ってね。じんめちゃん」
「だー!じんめ先輩にセクハラしてんのはテメ―だろ!離れろ!鳥井ぃいいい!」「先生を呼び捨てにしないの黒川さん」「料理はどうなってんだよ!もう燃やすからな!」
女子の会話ってかわいいな。
もう少し寝よう。
「ぁ、先輩・・・かわいい」
「ほんとだわ、すごい、すごいわ・・し、静かにしましょうね黒川さん」
―――結局、みんなで朝ごはんを食べたのは午前11時50分をまわったところだった。
普通にめちゃくちゃおいしいじゃないか。パンって焼くと美味しいんだな。
「あの鳥井先生、お話があります。術式を組んでお互い邪魔にならないように召喚獣を鍛えていますので。特殊な方法で24時間ぶっ通しでです、普通は3時間が限界なんですけどここは24時間鍛えられるので・・・」本当は影獣化していない野生の竜だから可能なんだけど。
7ヵ所もトレーニングできるところを作るのは大変だった・・・夜通しかかってしまった。
「そう?そうなの?じんめちゃん。聞いたことも無い方法だけど。魔力は持つのね?24時間も?まあ君の言っていることですから間違いないと思うけれども」
「それで人間の本体のほうはなるべく負担をかけたくないので人体のトレーニングはしばらくやりません、ランニングとか模擬戦もです。しばらく召喚獣の基礎力をアップします。まあ竜王家秘伝みたいな感じと思って頂きまして。秘密の特訓ですのでご内密に」しばらくというかずっとだけど。いずれタイガーにばれるかな。
「きちんとしたプランがあるのなら問題ないわ。君たちが合宿しているだけで先生は胸いっぱいだしね」タイガーセンセに細かな話はしていないし、みんなが竜の召喚士になっていることも一応ヒミツにしてある。
何年もみんな全く成長していないZ班の面々だ、合宿しているだけでもプラスに考えてくれればありがたい。実際は24時間・・・つまり60日ほどぶっとおしでレベリングを行う。
みんなタイガーが来るまでにちょうど蛹化しもしくは蛹化がおわり第二段階に突入している。いくら8倍速でもやや早い気がするが。
―――4000年前の神話で春に竜の召喚士になりその年の秋に上級魔族と戦う竜騎士の叙事詩がある、最後は姫を守り不幸な
考えたのだ・・・仮説をいくつかたてた。そのうち一つがTMPAアップにもっとも関わるのは召喚獣の召喚時間に比例するのではと。権藤先生や赤髪の安藤先生も言っていた通り一日3時間、召喚獣を召喚しつつ修行するのがレベルアップの効率が良いと。3時間というのは魔力の供給が一日3時間程で安定しなくなると言うか限界を迎えるからだ。そもそも竜族は疲労しにくく召喚時間が3時間なのは召喚士である人間の方の限界によるのだ、それが成長の
結論は竜を24時間ぶっ通しで戦わせ続けるのが一番早くレベルアップする。本体は寝ていても問題ない。もちろん召喚戦闘は召喚士本人のスキルが重要だが。しかし実際TMPA1万がTMPA3万に勝つのは至難の業だ、TMPA(総合魔法能力)は攻撃と防御に直結し最重要なのだ。
モルネで検証したところレベルアップスピードは通常修行の約8倍になった。僕はその8倍レベルアップを2年以上続けているのだ。つまりモルネは不眠不休でまる2年間修業させている。普通の修行だと17年以上鍛えている計算になる。
竜族は卵から幼生になり数日で蛹になり半日から数日で第二段階になる、これも通常よりも早く7人中3人が蛹、4人が第二段階に突入している。第二段階のレベル100を成長の終着とするとレベル80から90になるのに7-8年の修行が必要になる。2ヵ月ここで鍛えれば通常の修行の16カ月分になる。16か月だとレベルで早ければ50前後まで行くかもしれない、レベル45くらいまではレベルアップが早いのだ・・・成長期というやつだ。
個体差はあるだろうが実際毎日3時間修行している召喚士は少ない。つまりだ、2ヵ月でTMPA1万5千をこえるだろうという見込みだ、おそらく全員がだ。ひょっとするとインハイの予選の団体戦でいい成績が残せるかもしれない、全員竜族のチームをドラオンというが、ドラオンチームなんてそうそうない、ドラオンで有名なのが1高ホーリーライトや3高のDD-strasというわけだ。
ちなみ第二段階でレベル80前後から蛹化して第三段階にクラスアップ可能になる。僕の甲竜モルネは第三段階のレベル90だ。第二段階に足すとレベル180くらいになる。第三段階に入ると一時的に竜は弱体化して、第二段階レベル80と第三段階レベル40は大体同じくらいのTMPA、戦闘力となるわけだ。
さらに第四段階はレベルが上がりにくくレベル55前後までいくのにトータルで30年はかかる。第五段階はこの世に無い。計算上、第四段階のレベル80に到達するには一日3時間負荷をかけて修行して250年ほどかかる計算らしい。
つまるところ最強クラスの竜の召喚士になりたければ第三段階のレベル90か第四段階のレベル45前後を狙っていく。ここまで育てるのに厳しい修行をして15年から20年かかるわけだ。
蛹化して段階があがると特殊な技や属性が使えるようになることがあるため。第三段階レベル90より第四段階レベル45の方が強いというのが一般的な竜族の知識である、あくまで一般的な。ただ弱体化している時に大会にはまず出ない、出れないために召喚戦闘選手やランクAサマナーやクラスAエージェントの多くは第三段階の高レベルを狙っていく。
第四段階はレベルが上がりにくく魔の第四段階と呼ばれ弱体化したまま召喚士人生を終える召喚士も少なくない。
で、僕の召喚竜、甲竜モルネはすでに第三段階レベル90というわけだ。現在TMPA44400ほどだがもうこれ以上強くならない。これ以上強くするには魔の第四段階への突入が不可欠なのだ。
今回の合宿の僕が立てた目標だ。
①みんなをできる限り竜族の召喚士にする。これはなんとクリアーだ、ムカつく。
②竜の召喚士になれれば2ヵ月のあいだ8倍速レベルアップを行いTMPA1万5千をめざす。
③Z班の連中に多くは望まない、疲れさせないように人体は修行しない。合宿が終わってから使える技を各人一つか二つ教えよう。特発株の2人は悩みの種だ。
④魔装鎧は竜王家の次元環で僕が以前みつけた強力なものを各人に計算して構築する。これは合宿最終日に微調整して戦闘力の底上げをする。ここでも特発株の2人には悩むことになるだろう。
⑤そして僕の竜モルネを第四段階にリスキーだが上げる、8倍速レベルアップにかけよう。
まあこんなとこだろう。ダイブツくんとかが全裸で街を走ったりして問題を起こし出場停止とかにならない限り9月末のインハイの予選でいいとこいけるかもしれない。
そして秘密兵器のグロウスエッグおよびフルグロウスエッグと・・・自分で勝手に呼んでいる宝珠だ。僕たちの召喚獣の経験を引き継げるはずなのだ。レベルアップがさらにブーストできるはず・・・。検証中だが。
・・・ごめんなさい。自分は怖くて作ったものの試していないのだ。
黒川有栖以外の全員に試してみた。契約を一時解除した召喚獣を封印した魔晶石を変化させて宝珠グロウスエッグを作る。それを竜の幼生が蛹になった時点で発動させる。
(大丈夫、大丈夫、多分きっと大丈夫。計算上は・・・・・・どうせ他人の竜だし)
かなり緊張して各人の蛹にグロウスエッグを使用した、もともと各人の召喚獣だし上手くいくはずなのだが・・・。
・・・なんと成功だった。最初に蛹から第二段階の竜に成長したオールバッカ―の氷竜は頭が大きくオオサンショウウオに羽が生えているような形だが。蛹の状態ではよくわからなかったが霊眼で数値化したところレベルが8だったのだ。レベルブーストアップ成功だ。蛹から出てきた竜は必ずレベル1なのだ。
青木君の金竜も村上君の毒竜も成功だ。村上君の竜は最初からレベル12だった。もうそこそこ戦えるレベルだ。
検証はもういいだろう。一人で僕は合宿しているみんなからかなり離れた崖下でモルネを蛹にした、魔の第四段階に突入させるのだ、以前から術式などを研究をしていた場所だ。
一時的にTMPA44400がダウンするはずだが仕方ない。常時発動のドラゴニックオーラも消えないといいが。
・・・そこまで戦闘力は落ちないといいけど。
この崖下の洞窟はいくつか結界をはってあり、もしもの時にも見つかりにくくなっている。
第三段階から第四段階の蛹の期間は最も長いといっても8倍速だ数日だろう。
全くなんの属性もない甲竜だ、なんとか何かの属性に目覚めてくださいと願かけしながら蛹化をおこなった。
まあ多分絶対ムリだろう。僕には才能が無いのだ、不幸なことこの上ない人生だ。
普通蛹化はそう命令するだけでいいのだが、竜殺の角入りで蛹にするためにいくつか慎重な計算が必要だった。変な障害を起こさないように計算しなければならない。
大幅弱体化は御免なのだ。
そしてフルグロウスエッグを使用した。なぜ僕の宝珠だけ名前が違うのかそれは簡単だ。僕の妖蟲族ブラオニ―は成長しきったのだ。これ以上蛹化もレベルも上がらない状態、これがどれだけレアかと言うとものすごくレアな状態だ。現在僕以外に生きている人間で報告例がない。過去に成熟した召喚獣の報告はあるが本当かどうか検証もできない状態だ。
―――フルグロウスエッグの元になった妖蟲族ブラオニ―との出会いは・・・約6年前・・・11歳までさかのぼる。11歳の時に11人の刺客を命からがら倒したが、それを問題にされたのだ。桔梗の姉の西園寺御美奈たちに・・・だ。11人の刺客は誤った命令で竜王の墓地を襲撃したというのだ。この僕とアビルだけが住んで当時3年めになる墓守の屋敷を・・・だ。
そしてアビルは顔に身体に消えない傷を、僕は左肩に解呪不可能の死の呪詛を受けた。
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