第29話2-6.無軌道最低最悪弱小チームは行くしかない件
―――今日は戦闘モードだ。仲間相手だが伝える内容と順番は重要だ。
城嶋由良と花屋敷華聯のお陰で登下校は非常に楽になっている。基本的に僕に用がある人達は僕が相手をしなくても良くなっていた。
すべて城嶋由良がプレゼント等を持ってくる危険人物を上手に捌いてくれている。
(彼女らにもいずれ御返しをしなければならないだろうか?)
また一人、1年女子が由良に捌かれている。
「あら、あなたまたお手紙ですか?」
「あ、秘書の城嶋さまぁ。またまたラブレター書いちゃいましたぁ。あ、じんめ様ぁ~こっち向いてぇ。あぁん気絶しそう~。あの城嶋さまぁ。こないだのじんめ先輩からのお返事はお言葉はなにかありましたかぁ?」知らない女子が僕の方を向いて手を振っている。どうしても慣れられない。こっち向いている、正直こわい。
「あなたのお手紙ですね、誤字脱字が3ヵ所ありましたのでじんめ様にお渡しておりません。赤ペンで添削いたしましたが今お返しいたしましょう。」由良は何かカバンから手紙のようなものを1年女子に渡している。
「そ、そんな、ひ、ひどい。読んだのぉ。生きていけないわぁ」
「じんめ様。お手紙の類はお見せするほどのものはほとんどなく破棄しておりますがよろしいですわね?」「あ、お世話になります」城嶋由良は今日も得意げだ。僕は知らない人が近くにいるだけで、つまり学校という場所のほとんどでストレスいっぱいなのだが、城嶋由良と花屋敷華聯はほぼ邪魔にならない、ストレスを感じないのだ。なかなか人間関係として上手な距離の取り方だ。華聯にいたっては話すことはないと言っていい。わざと僕の視界にも入らないようにしているようだ。
「ああ、じんめ様。でも他校からもファンレターが何通かきておりました、さすがじんめ様でございます。」
「へー」
「ウフフフ。全く興味ないご様子。その辺の有象無象とは全く異質で心酔いたしますわ。ただ一応ご連絡を。海風館高校なる四国の学校の生徒からでございますが、まあ失礼なことは書いてございません。どちらかと言いますと神として崇めるような内容でございます。何か特別なことをなさったのでしょうか?」
ああ、チンプンカン高校か。あいつら最低だった、お金払えよな。ナントカあかねとか言う人の竜を殺してしまって生き返らせてやったのに。うん?殺して生き返らせるか、今考えると自業自得な気がするな。しかしアフロなら9万円もぶん捕れるという、あぁ僕は才能がない。そして相変わらずお金も全然ないのだ。まあ週三日も夕飯が食べれる身分になってはいるが。ありがとう、ありがとう、タイガーとアリスと―――。「じんめ様?」
「あ、何にもしてないよ、何にも知らない」
「・・・そうでございますか。了解いたしました。一応破棄せずしばらく保管いたします」
「じゃ、それで」
「申し訳ございません、もう一点お伝えすることがございます、贈答品はすべて売りまして1万2千355円になりました、お金にならないモノは破棄いたしました、少ないですがお受け取り下さい」
「はあ?」え?なんだって?
「お受け取り下さい」いつの間にか茶封筒を持った由良が僕に渡そうとしてくる。
「いいえ、う、受け取れるわけが」
「これはじんめ様への贈答品でございます。使える形にいたしました」
「えー」こんな大金受け取れないし。いやまて罠では?罠か?
「なんの問題もございませんわ、それどころかでございます、贈答品が多くなることを考えれば換金しやすい贈り物をするべきですのに全く気が利きませんわ、品数は多いのにたったこれだけの値段でございます、・・・今後2週間に一回ほどお渡しさせて頂きますわ。だれが何を送ったかのリストも封筒に入っております」
「い、いやあのこれは城嶋さんと花屋敷さんが売ってくれたのならお二人のものですから。受け取るわけには」城嶋由良と花屋敷華聯は顔を見合わせている。華聯が珍しく口を開いた。
「神明さま。これはあなた様に受けて追って頂くためにただ二人で努力しましたので是非ともお納めください、役に立たねば我々意味がありません」
「それとも何かご入用のものがございましたら買ってまいります、ネットで注文するかもでございますが」由良も祈るような恰好で何を言いだすのか。
お金が欲しいと思ったらお金がやって来る―――不吉だな、凶兆か?―――もらっても差し支えないのだろうか。法律的にとか大丈夫なのかな。
「もらうとしても諸経費を考えると3等分が妥当ですか?」
「しょ、諸経費ですか。我々の仕事量など好きでやっておりますので」
「華聯控えなさい。そういうことでございましたら。諸経費を頂きます」そう言いつつ由良は茶封筒から355円を取り出した。
「残りは是非受けとってくださいませ」ああ、二人して跪きやがって。もらっていいのかな。
「ではまあ仕方ない、いいのかな」不安だ、不安でたまらない、こんな大金。
「よかったです、受け取ってくださらないかと一瞬思いました、出過ぎた真似をしたかと反省しておりました」
「いやもうお二人ともすみませんね。ランチから登下校まで助けてもらっちゃって。何かお返ししないと」
「いいえ全く結構でございます。わたくし城嶋由良は非常に充実しているのでございます。そして思い知ったのです。自分の思い違いを。トップになろうトップになろうと桔梗と張り合おうとしていた自分がもう遠い過去でございます。誰かに仕えている方がずっと安定するなんて思いもよりませんでしたわ」華聯も小刻みに頷いている。なんかかん違いしてるような。
「しかしじんめ様としばらくご一緒させて頂いて思うのですが、なんて奥ゆかしいといいますか、人格が素晴らしいといいましょうか。威圧的なところが全くございません。細かなこと全く気にしませんし器があまりにも大きくてうまく表現しきれませんわ。」僕、あの器ちいさいと思うんですけど。
「そうそう器がとでも大きいのは私にもわかります、4校が6校を襲撃したとき・・・、ああ由良さん睨まないで変なこと言いませんから。いつでも我々を倒せたのに、ほとんどなんの能力も使わずにジュウェリーズの襲撃を収めてしまったでしょ。あれを思い出すとすごいって思うのですよ、しかもわたしの透視能力をジャミングするだなんて、そんなこと可能なんですのね。笑えて来ちゃいます」僕は竜族の召喚士であることを隠していたからね、竜族だってばれると呪殺され易くなるから仕方なくね。
「ウフフ。華聯さん。たしかにですわ。力を見せつけるほどの相手ですらなかったというわけでしょう。じんめ様は桔梗戦をノーダメージですよ、神がかり的強さでございます。そしてわたしたち愚民とはことなる精神的次元にいらっしゃる、そんな気がいたします」いや桔梗に一撃貰ったら死んでるよ、あれしか勝ちパターンないんだってば。
精神的次元ってナニソレ。
―――さて部室である旧美術講堂前で僕は一人で佇んでいる。
いろいろ勝負だ。今日はみんなに話すこともあるし、それに大金を持っているのだ、気づかれないようにしないとあのZ班のハイエナ達には。1万2千円はさんざん悩んだ挙句に右の内ポケットに入っている。贈答品とやらがずっと来るとは考えにくい。もう二度と現金は僕の懐には来ないだろう。であれば大事に使わないと。
年末に呪殺されるとしてぇ、一カ月に2千円ほど使える計算になるぅ―――つまり―――なんて豪華なんだぁ―――。
金銭的にヨユーだ。ああ生きてるってスバらしい。
とにかく大金を持っていることがZ班の連中に知られたらどうなるか分からない。
―――大丈夫だ。僕以外に霊視できる奴はいない―――
「キエ――!」
(び、びっくりした)
「や、やあアフロ」いつも通りの僕は美術講堂玄関でブロッコリーに挨拶する。
「キエ―!もけ!今日も部活に来るのが早いではないか感心である」そもそもまだ授業中だよ。
「ああ、今日はちょっと話したい事があってね。みんなを集めてくれるかな?」
「キエ――!間違いない!悪だくみであろう?期待しておるぞ」
「そそ。さすが話が早いね」さすがだなアフロ。
上半身裸で乾布摩擦しているアフロを置いて講堂へ入ることにする。
「・・・時にもけ?なにかイイことがあったのではないか?」背後から声が聞こえる。
「ぶはぁ?・・・な、なにもないよ」ば、バレるわけがない。
「・・・その反応は臨時収入があったのであろう?」
「ぶっふぁ?・・・な、なにをきょんきょに?」ば、バレるわけがないのだ。
「貸した金返してもらおうかのう?もけ?」
「まじかよアフロ、いまゲットしたばっかなのにぃ、勘弁してよぉ。そもそも。か、借りてたっけ?」
「金の貸し借りだけは親兄弟でも許さんぞ。250円だ」
「ちょうど2年も前じゃないか、時効では?アフロ?」
「もけ?利子つけて欲しいんかい?」
「払うよ。アフロ。払わせて頂きます。・・・お、お釣りはあるよね?」アフロの目が妖しく輝きだす、よくないことの前兆だ。
「キエ――!この程度の短いやり取りで虎の子のお札を、あのもけが崩すとは。臨時収入は5000円?・・・いや一万円以上と見た!一万千円以上だな、千円札があるわけだから」ぇえええええ!えええええええ!!マジかよ。
「―――えええええ!ちょ、超能力者かアフロ?魔力の反応は全くないんですけどね?」慌てて霊眼を発動する、なんのわずかな魔力の残り香も周囲に感じない。
「おまえな。もけ。読みやすすぎる。小心者でかつ器が小さいのである、間違いない自信を持て。おまえはもけだ」
「さっき器が大きいって言われたバッカなわけなんだけどさぁ?精神的次元なんだってさ」
「器は小さい、小さすぎて大きく見えるのであろう。異質なものは測りがたく、価値観は相対的であろう、・・・どうせ女から言われたのだろう。異性とはそういうものである。間違いない」
ぐうの音も出ないね、完敗だ。すげえ役に立たない能力だけど天才だ。
―――Z班メンバーがほとんど旧美術講堂に集まったころ―――
みんな相変わらず個性的だ。予想外に早くタイガーも合流してきてしまったがダイブツくんは来ていない、まあそりゃそうか。タイガーにはあまり聞いてほしくないのだ。いつもとすこしタイガーは髪型が違うな、高い位置でポニーテールにしている
「あの先生、ダイブツくんがいないので申し訳ありませんけど探していただけませんか?ちょこっとみんなに話したいことがありまして」
「わたしに言っているの?じんめちゃん?」小首をかしげられてもね。この場にセンセはあなたしかいませんよ。
「そうです。鳥井大雅先生。先生は木属性ですから五感はとても鋭いですよね?ダイブツくん、裏山にいるのは間違いないのです、できれば連れてきてもらえませんか?あと髪型変えましたね?」
「うれしい。フルネームで呼んでくれるのね。このヘアスタイルどう?気に入った?」タイガーは最近機嫌いいな「どうって、似合ってますよ」「そう、よかった。・・・ところで、あの子も呼ばないといけないの?」言いたいことは分かります。ダイブツくん、言葉が通じるかどうかも分からないからな。講堂の壁の鏡の前で髪型チェックが始まってしまった。
「先生しか頼る人がいないんです」
「じんめちゃんの頼みだったらなんでもどんなことでもするわ」うん?どうもタイガーは僕に優しすぎる、何か裏があるのだろうか。あとなんか目がうるうるしている、花粉症かな。
「おい!先輩にあんまりベタベタすんなよ、鳥井!」
風のようにタイガーセンセは上機嫌でダイブツくんを探しに行った。
ダイブツくんお願い・・・時間を稼いでください。あんまりタイガーに聞かれたくない。
(さて、いよいよ全く役に立たないが、そんなに嫌いじゃない仲間みたいな連中に危険な話をするか。)
「みんな、悪いんだけど集まってくれない?」
「キエ―!みなのもの!集合!集合!」
ヤル気をみなぎらせてアフロは待ってましたと言わんばかりだ。
モデルみたいに歩きながら無言で黒アリスもやってきた、見た目は美人なんだけどな。こっちにウインクしてる、調子悪いのかな。
「なんですか?もけさん」
「珍しいですね?もけさんが改まってお話しするなんて」
村上君と青木君の凸凹コンビは相変わらずセットで動いているな。そんなに気が合うんだろうか。
「もけちゃん、ちょっち待ってくれよ。おれっちさ夏美とちょっちチャットしてるわけよ、愛の軌跡なわけよ。わかる?愛よ?愛?」
「あのねニャンブ―ちゃんが隅っこならいいよって、いってらっしゃい、ごきげんようって言ってるの」
オールバッカーと星崎真名子は何言ってるのか相変わらずよく分からない。まったく慣れられないのだが星崎さんはなんで裸足でかつ世界中を睨んでいるのだろう。
さっさと始めたい。僕はみんなに手招きする。
「美術準備室に入ってくれるかな」
美術準備室はふだんダークアリスが独占している場所だ。照明は暗く悪だくみするには雰囲気は悪くない。
「みんな入ってくれる?・・・話し声が漏れないようにスパイされないように結界を張ります」そう言って抗術と符術を使って僕は結界をはる、何かやばい話なのはみんな察しがつくだろう。
「悪いんだけどオールバッカ―、結界内でチャットはできなくなるよ」
「しっかたねーな、まあ、おっけーだぜ!もけちゃん」
「な、なんかドキドキするよねー、ドキドキしない?」人一倍身体のデカい村上君は肝試しで気絶したことがあるらしい、ぶっ倒れないといいけれど、マイルドに話そう。
「わかったぜ!もけちゃん!女の話しだな?」・・・違うわ。
「それはないでしょう、オールバッカ―さん。女性陣もいますから」
「だまれよ!オールバッカ―、てめー!じんめ先輩のナシを聞け!全身潰すぞ!コラ!」
「ニャンブ―ちゃんが、奴らがブザーとともにやって来るって言ってるの」
みんな調子いいな・・・。僕の話についてこれるかな。
「キエ――――――――!!!!」と言ってZ班の濃い面々を緑アフロ隊長が黙らせてくれた。やるなアフロ・・・、言葉すら使わないとは。
時間が惜しい、話始めなければ。
「少しだけ長くなります。」そう前置きして僕は話し始めた。
「結界を張ったのは秘密にしなければならないことだから、かつそこそこ危険な話しになるから。軽く覚悟してくださいね」青木君が何か言いたげだ、だいたい予想はつく。
「青木くん、ここにいる全員にとって危険になりえる。4高の襲撃よりヤバい話なんだ」
「モガ、モガ!」口を開こうとしたオールバッカ―の口を緑アフロと黒アリスが抑えている。
「僕の話しにはリスクとベネフィットがある」僕は続けて話そうとするが青木くんとオールバッカ―は理解できていないようだ、なるほど英語は苦手だったか、幼稚園児に話すようにしなくてはならない。
「つまり長所と短所がある。とても危険だけど凄くいい話もあるという意味だ」
全員の話を聞く態勢が整いつつあるのを感じる。
「知っての通り僕は竜王家の一人だ。もちろん全くの一般人でみんなと何も変わらない。ただ普通の家には無いものがある。竜王位だ、竜王になると特典が付く。つまり次の竜王にとても即位したがっている奴がいるわけさ。それはとりあえず置いておこう。・・・また竜王家には様々な宝物・遺物がある。カタチ上宝物のいくつかは長男である僕が所有していることになっている。まあ、分かりやすく言うと少し話は飛ぶけど、僕は何度も命を狙われているんだ。ちなみに今でも狙われている」黒アリスが右こぶしをギュッと握った。アリスには少し話したんだったな。みんなの反応を見つつ、そして僕は続ける。
「アフロ隊長はもちろん分かっているだろうけど、僕はZ班に隠れていたんだ、おかげで2年間は命を狙われていない。公には妖蟲族の召喚士だと思われていたからね、竜王位継承権の順位は低かったんだ。ただ今は隠していた竜の召喚士であることがバレてしまった。誰にバレたかって?僕が竜王になるとマズイ連中さ。竜の召喚士である僕の王位継承順位は現在1位に上がった、このままだと僕は竜王に即位してしまう。つまり、僕のことが邪魔な連中がいるんだ。つまり僕は・・・竜王に即位したい奴とその一族・関係者、そして竜王家の宝物が欲しい連中、二つのグループから命を狙われるわけだ」みんな物音ひとつ立てなくなった。
「ここでみんなに言いたいのはまず、ありがとう、だ。Z班のおかげで僕はまだ生きているといってもいい。この2年とちょっとの間、本当に助かっていたんだ・・・それで、それでここからが本題だ」
「簡単に説明しよう、僕がなにをしたいのか。一つは殺されないようにすることだ。次、二つめは竜王家の一部のお宝を封印したいというわけだ」みんなを見渡すと全員集中して聞いてくれている。
「二つ目の竜王家のお宝の話しだ。竜王家が保有している次元環のなかに非常に危険なものがある。4000年前に魔族と戦うために竜王家によって開発されたがあまりに強力でコントロールが難しく禁呪とされたものや非常に強力な魔法兵器、魔法生物。また開発を断念した魔術や魔法兵器がごまんと眠っている。そういう封印された御所がいくつかあるんだ。例えば西園寺グループの兵器、召喚獣のクローンを使った人造召喚士などがいい例だ。現代の戦争に投入され、それを売っている側は大儲けだ」
「っち!西園寺グループか!」なぜかかなり熱くなっている黒アリスは吐き捨てるように言った。熱くなる理由がわからないけど、まあいい。
「来年の聖魔大戦は格好のデモンストレーションの場になる。まあ企業というのは利潤を上げ続けなければならないため軍事産業もだけど次々新しいラインナップが必要となるわけだ。クローン召喚獣に人造召喚士、次になにを連中が売ろうとしているかもある程度予測がつく。人間にしか害のない瘴気爆弾や人造魔族が堅いところだ。・・・連中は4000年間竜王家が禁忌とし守ってきた封印の御所を次々こじ開けて現代技術と融合させて新しい兵器を作っているのさ。・・・これは余談だが4000年前、180万人が暮らしたと言われる平和な王都の裏では非人道的な実験が繰り返されて、とんでもない魔力兵器や生物兵器や禁呪が開発されていたわけだ。だが4000年前と現代で大きな違いがある。あくまで4000年前は魔族と戦い人を守るために開発していたのだ。・・・現在は残念ながら人間を殺すために人間同士の戦争のために兵器が開発されている。もう一つ突っ込んで考えると企業の利潤のため、平たく言えばお金のために人を殺す兵器を開発し続けている。できればその次元環から持ち帰った知識による兵器開発をストップさせたい。ようは危険な次元環を完全に封印したい、というわけなのさ」
「それからもう一つの殺されないようにすることについてだけど。これはいくつか手を考えているが・・・じつは僕には心配な事案がある。これを一気に解決する方法がある」
いよいよクライマックスか・・・僕はふーっとため息をつく。
「もし今、僕を殺すために強力な爆弾や術でここ、美術講堂が攻撃されたらどうなるかな?・・・多分僕以外が全滅する、つまり君たちが消し飛ぶわけだ・・・・・ここから先の話をきくと後戻りできないから命の危険を感じるなら帰宅してこれ以上聞かないか、安全のためZ班から転部した方がいい・・・どうする?」見渡しても予想通り転部したいと言い出すものはいない。少なからず彼らを危険にさらす可能性があるのだ。
「もったいつけるな。もけ。われわれは
「そうか。アフロ。では続けよう。みんなもいいね?・・・リスクは多少伴うものの君たちを2ヵ月ほどの合宿でビックリするほど強くする案がある。もちろん全員が強くなるとは限らないけどやってみる価値はある」
「ほほう、たった2ヵ月でか?」
「ああ、びっくりするほど強くなる可能性がある。強くなってくれれば君たちが攻撃される心配も減り、ひょっとしたら僕の命まで救ってくれるかもしれない。あとこの短期間集中レベルアップは要はみんなへのお礼だ。Z班にかくまってもらっていたからね。もちろん2ヵ月の修行は大変だろうけどね」
「なるほど、もけの目標は全員のレベルアップと御所のある次元環の封印というところであろう?」
「そうだねアフロ、でも次元環の封印は迷惑をかける気はない・・・が情報集めくらいは付き合ってもらうかもしれない、とにかく今日話したことは全部秘密だよ。結界の外で話すのはダメ。メールとか残るものに書くのもダメだからね」
「感動した、もけちゃん!いい話じゃねえか。おれっち感動したぜえ。金と権力のかたまりの奴らから殺人兵器を取り上げて、おれっちたちはレベルアップするんだろ。いいはなしの塊だぜ。残念ながら夏美には言えねえが」
「あのじんめ先輩?そのはなし。あたしも入っているんですか?あたしまだ召喚士じゃないのです」なんとまあ黒川有栖が慣れない敬語を使っている。
「黒川さん、それも全く問題ないと言っておきましょう」
「まじか。もけ‼黒川の感覚合一の儀も含めるのか、これはヒミツの特訓だよな?つまり非合法な召喚獣の卵が・・・あるというわけか。びっくりするほどのレベルアップとやらは、まだ秘密なのであろう?」
「スーパーレベルアップは100%上手くいく保証はないし危険もある。あと上手くレベルアップできなくても一生ヒミツにしてもらいたい。そこを誓える人だけ2ヵ月間の秘密の強化合宿に参加してもらいたい。途中でやめるのは自由だけど一生ヒミツにしてもらう」
あれ?なにやら熱い気が漂ってくる・・・。
「キエ――!軍師として見届けねばならん!参加する」
「黒川有栖参加します。気合なら負けません。じんめ先輩、よろしく頼みます」
「もけさんの勇気をみて青木小空、銀河宇宙を代表してスパークリングで頑張ります、どんな結果になっても参加するのです」
「もけさん、あ、あんまり危なくないんだよね?スーパーレベルアップは魅力的だけど、あとバーサクモードも治るといいし、さ、参加しようかなって。それに青木君も参加するみたいだし、あと緊張してちょっとおトイレに・・・」
「か――――!もけちゃんカッコいいぜ!・・・夏美と2ヵ月会えねえのはきっついが、夏美には第2高校の部長だとか、めっちゃ最強なんだぜ!おれっちとか、実はノリノリで嘘ついてるしよ、この辺で男を上げてえのよ!おれっちはその合宿にかけるぜ!」
「ニャンブ―ちゃんがフタコブラクダが好きだって言ってるの。だからヒトコブじゃないの」
・・・全員参加するのか。リスクもあるけど・・・。
「・・・わかったよ。みんなの気持ちは。抜けたければいつでも抜けれるからね」
む?
ガッタ―――ン!!!!
「・・・ちょっとぉ!じんめちゃん!Z班のみんなどこにいるの?」
グモ――――!!
旧美術講堂の玄関の方から音がする。
「むう。忘れておった。間違いない。唯一無二の男ダイブツくんの御帰還であろう」
「ちょうどか」もう少し話したかったが仕方ない。
僕らは暗い美術準備室から明るい講堂にもどった。心なしかみんなハンサムな顔になっている。ヒロイズムを刺激されたかな・・・。
ダイブツくんを羽交い絞めにしているタイガーの姿がそこにあった。薄く青いジャージは泥だらけだ、タイガーは困惑しつつ結構怒っている顔つきだ、機嫌悪そうだ。ダイブツくんはパンツ以外は裸で泥だらけでスリ傷だらけだ、予想通り捕獲は大変だったようだ。
「ちょっと、ちょっとぉーー!こんな状態なんて聞いてないわよ!言葉が全然通じないの!」
「グモ―――!グモ―――!グモ―――!」獣にしか見えないダイブツくんは手足をバタバタしている。「さすが鳥井先生、野生化しているダイブツくんを捕まえられるのは先生だけです」とりあえず褒めよう、僕は心にもないことを言う。
「そぉ?じんめちゃん・・・あ!あばれる!」
「グモ!グモ!グモモ!グッモ!」さすがZ班だ、だれもタイガー26歳独身を助けようとしない、みんな全く興味なさげだ。
「じんめちゃん?このこ病気じゃないの?病院に連れてかないと?」
「―――グモ―――!!!!グモ―――!!!!」病院と聞いて暴れ出した。ダイブツくん病院嫌いなんだな、元気に暴れている・・・タイガー大変だな災難だな今日は。
星崎さんはニャンブ―ちゃんというヌイグルミと壁際へ、青木君と村上君は将棋を始めて、オールバッカ―は多分電話かチャットのために玄関から出て行った。黒川有栖はチーっすとあいさつの投げキッスをして多分帰宅した。
みんなもうちょっとダイブツくんに絡んであげればいいのに・・・無理か。
「グモ―――!!!!」
「グモグモグモ――!グモモモン!」
「キエ――――!!」
「グ!?」
おお、一言でダイブツくんがおとなしくなった。さすがアフロ隊長だ。
アフロ隊長は慎重にタイガーに羽交い絞めにされているダイブツくんに近づく・・・。
(何する気だ?・・・まさかこの状態を直せるのか?魔術じゃない強い自己暗示のような状態だぞ、ダイブツくんは・・・)
さらにアフロはダイブツくんに接近する、噛みつかれるぞ・・・顔が近すぎる、大丈夫か。
緊張の一瞬だ。
「キエ―!来たれ煩悩、轟け物欲!・・・金!!女!!ご飯!!・・目覚めよ!ダイブツくん!」
時がとまった―――ような気がした。タイガーは身じろぎ一つせず、ダイブツくんも動かない。僕もあまりのことに動けない。アフロは何を言っているの?一体?
「ふわぁあー、あぁあぁあ!よく寝たのじゃ・・・。おお!緑アフロ隊長ではないか。なんか久しぶりぶりじゃ?おおおお!!」すごい!復活したじゃないか。しかしなんだダイブツくんこっちを向いているぞ?
「おおおお?お?おお?お?おおおおお?美人の女!女か!女!!・・・なんだもけか・・・紛らわしいのじゃ、女かと思ったのじゃ。役立たずじゃ!」ダイブツくん久しぶりに喋ったな。アフロ隊長は緑のアフロを振り振りしてヤレヤレと呻いている。
(いやいや、役立たずは貴様だ。ダイブツくん)
「ぐはぁ!」ダイブツくんがつぶれた獣のような声を出した。タイガーが羽交い絞めにしている両腕に力を入れたようだ。
「じんめちゃんの悪口いうと許しませんよ・・・えーっとえっとダイブツくん?」キラリと目が怖いタイガーセンセだが、もしかしてダイブツくんの本名忘れてるんじゃ・・・。川之上ドナリ君だったっけ?・・・忘れちゃったな・・・。
「鳥井教官‼生徒を拘束するのはパワハラですじゃ!」
「は、はい?ダイブツくん、君は一体なにを考えているの?」怪訝そうにタイガーは羽交い絞めを解いた。
まあやっと全員そろったな、唯一無二の男ダイブツくん。
Z班のお荷物、そしてもっとも退学に近い男。
「キャー――!」
ものすごいスピードでタイガーが僕の後ろに飛び込んできた。
「こいつ、こいつおしり触ってきた!ちょっとじんめちゃん」
すごいドヤ顔したダイブツくんは誇らしげに右手を構えてクイクイ指を動かしている。
(生徒をこいつ呼ばわりしない方が・・・と言っても仕方ないか)
「セクハラですからね、この!こいつ!こいつよ」
「パワハラのお返しじゃ」
牙をむいたタイガーと下あごを突き出したダイブツくんの視線はぶつかり火花を散らした。
「キエ――!ダイブツくん!非常に興味深い話があるのである」
「グモ―!アフロ隊長!皆まで言うな!その話乗ったのじゃ!」
まじで?・・・話はや!
「・・・?じゃ全員強化合宿に参加ということでいいのかな?」
「じんめちゃん、聞いてよ。こいつ噛みついてきたのよ、何度もよ・・・しかもおしり触ってきたのよぉ」なんか今日はタイガー、教師っぽくないな。まあいいけど。タイガーはずっとぼくの右肩に両手をくっつけている。ダイブツくんと相性悪いのかな。
「うんうん、聞いてますよ鳥井先生」
「もけ、ダイブツくんは任せろ。そっちは鳥井大雅教官を頼む」
「あ、うん、そうね。・・・先生をどうするって?僕が?」
「二人で飯でも食ってこい」
「え?ごはん?」あれ?タイガーと時々夕飯食べてるのバレてるのかな。バレるわけが。
「そうしよう、じんめちゃん、うん一緒に食べよう」
いや二人だけで食べに行くの変じゃない?ていうか腕を組まないで。
「鳥井教官に強化合宿の話しをする必要があるであろう?もけ?」
「ああ、そうか。そうだった、さすがアフロ。忘れてた」
そうかタイガーに肝心なとこは伏せて説明しないとな。
「時に緑アフロ隊長?わしの制服が無いのじゃ。どこじゃ?」
「キエ―!知らん、間違いない。自信を持て」
ダイブツくんはやっぱり面白いな、予想の斜め上にいる、このアフロも底が知れないけど。
・・・胸がチリチリする、嘘は必要だが多少は気が咎めるのだろうか。
僕は高い確率で助からない、今年度中の命だろう。それに超スーパー大企業の開発兵器を一つ二つ潰したところで戦争はなくならない、西園寺グループも安泰だろう。
この中で僕の真意に気付く人はいるのだろうか?アフロなら気付くかもしれない、ただそれは今日ではないだろう。
―――最近、タイガーセンセのマンションには大体週一で来ている。貧乏が悪いんだ、決して決してごはんに釣られているわけじゃないんだ、・・・多分。
毎回、夕飯を食べさせてもらうのは本当に心苦しいのだが・・・。
「ちょっと見てよ。じんめちゃん、こことここを噛まれたのよ。ここも。おしりも触られるし」それにしてもダイブツくんがそれほど嫌だったのか、今日のタイガーはいつもよりさらに変だ、上手く言えないけど。いや料理はすごく上手だった、料理人の方が向いてるんじゃという位だ。でもマンションに着くや否やお風呂に入るのは・・・ちなみに僕は警備員を避けてマンションの外からテレポートしたけど。
タイガー、泥だらけだからお風呂に入りたいのは分かるけど男子高校生が部屋にいる状態でというのは宜しくないんじゃないだろうか。まあ、お風呂から出てきたら何かロングのワンピースのようなものを着ていて普段と違って非常に女性らしい感じがして新鮮ではあったのだけれど。
(まあ僕なんて男子扱いされていないわけだよな、ふう。・・・料理も上手だしカレシはきっと幸せなんだろうな、カレシいないんだっけ?なんか様子が変だしカレシでもできたのかな?)
タイガーは強化合宿の話はほとんど興味ないみたいだし。まあ帰るか。そもそも男子禁制だしこのマンション、アブナイアブナイ。
「―――じゃあそろそろテレポートで帰ります、本当にごちそうさまでした、ガンモドキってあんなに美味しいんですね」
「え?まだいいでしょう。ご飯なんていつでも作ってあげるのよ。・・・せっかくミランダもいないんだし、全く毎週毎週あの女は邪魔を・・・」なんのこっちゃ?タイガーは何か不服そうだ。
「いえ・・・でも長居するのも悪い・・」
「そうだ、じんめちゃん。お風呂入って行ったら?」
「ええ?」
「男子寮って小さな大浴場しかないのでしょう、お部屋にバス付いてないんだよね?」
「ないですけど」小さな大浴場ってなんやねん。
「じゃ入って行ったら?お湯沸かすわ」そう言ってタイガーはスタスタ歩いて行ってしまう。
いいのかな、うん?問題ないのかな?
「ついでに泊っていくでしょう?起きてからテレポートで帰ればいいものね?いいでしょう?いいよね?ね?、・・・ところで二人の時はあきらって呼んでいい?」
「えええ?・え?」女の先生のとこに泊るのは何かマズいんじゃないのかな。
・・・完全に僕が男性だと言うことを忘れているな、タイガーセンセは。まあしょせん僕なんて仕方ないよな、彼女を作るなんて夢のまた夢。人の夢は儚いものだ。
うつろいゆく命とともに、ただそこに在るだけの存在だ。朧げな僕の真意はどこにあるのか遥かな過去か、あるいは未来か。心はどこにあるのだろう。
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