第28話2-5-2.その手の中に―――ターニングポイント

―――次の日の朝はいつもと様子が違った―――


「はいはいはいはい。神明全じんめあきらさんへのプレゼントやお手紙、アポイントは今後、わたくし、秘書の城嶋由良を通してください。・・・そことそこ!もう決まったことですので、ごちゃごちゃ言わない!」

「なんなのよ!」

「そんな横暴だわ!」

朝、教室に入ろうとすると、さらにいつもよりも状況がおかしい。人だかりができている。

3-Eの教室前には机が置かれており、真っ赤なのハート形の眼鏡をかけピンクの髪をアップにしている城嶋由良じょうしまゆらと仁王立ちしているショートカットの花屋敷華聯はなやしきかれんがいる。机にはZ班事務部♡と書かれている。

「おはようございます、神明さま」

「おはようございます」

城嶋由良と花屋敷華聯が起立してビシっと挨拶してくる。

「あ、うん、お、おはよ。城嶋さんと花屋敷さん」


・・・また面倒ごとに決まっているよね。うわあ、すごい困るよきっと。

もうすでに僕は毎朝、昼、放課後、とても困っているのに。毎日毎日毒入りお菓子とか毒入りお弁当を渡されて閉口しているのだ、髪留めとかも何に使うんだ。贈り物は大抵爆弾だろうし、いや爆弾は今のところないけど霊視しても分からない類のものかもしれない。

お菓子もすべて捨てているので毒物が口に入ることもない。

用心しないといけないのだ・・・本当に怖い。


「ずっと好きでした!これ貰ってくださ、え!!」と唐突に言って僕になにか包みを差し出した、その多分一年女子の腕を花屋敷さんが既に掴んでいる「いったあ・・」

「贈り物の類はわたくしZ班の秘書、城嶋由良か花屋敷華聯を通すようにしてください。あなたたちが述べつ間もなく神明さんの前に現れるから神明さんの生活に支障をきたしているのがわかりますでしょう。休めないでしょう?神明さんが。自重しなさい」

花屋敷さんがプレゼントの包みを取り上げる。取り上げられた子は「えーーっ」とか言っている。


―――まじでー―――

―――何の権限があって―――


「さあ、神明さま、教室にお入りくださいませ。ではみなさん、贈り物はきちんと誰からのものか伝えますのでこちらに並んでどこの学園の何年何組とお名前をお書きください・手紙、プレゼント、それ以外の項目に丸印をお書きください。どうしてもという方は動画でコメントも撮影いたします」


ん?と・・・僕は教室に入って少し考えている、あれ?あれれ?これって結構助かるかも。やっぱり賢いのか城嶋由良は?でも何のためにしているのかが謎だが・・・。Z班の秘書ってなんだ?アフロがオーケーしたのかな?なら僕が何を言う必要もないか。


数分後、名前も知らない担任の髭面教師がホームルームをしに3-Eに入ってきた。

「えー、みなさん転校生を紹介します。」

「・・・城嶋由良と申します、以後お見知りおきを・・・」

教室中がザワザワしている。悪名しかないアライアンス“ジュウェリーズ”の党首だからだ。

6校生をターゲットにして奴隷扱いしてきた女性だ。カツアゲ、私刑にされた6校生は数知れないのだ。

よく転校してきたな、勇気ある行動と言えるのか。それに見合う何かがあるのだろう?


―――転校って―――

―――えーピンクダイヤモンドの部長かよ―――

―――怖わ―――

―――うわ、教室前で何かしてると思ったら―――

―――しばかれるんじゃね―――

―――いや殺されるって―――


マジか。やっぱり考えていると心配になってきた。マジ心配だ。僕の教室に転校ってマジか。

こないだ僕は由良の部屋に押しかけた事で恨まれていて婦女暴行とかでっちあげて訴えるつもりかもしれない。・・・実際不法侵入だしな。

・・・用心しなければならない。



―――しかし、しかしその後・・・だ。

城嶋由良と花屋敷華聯が僕のそばに人間が寄ることを抑制しているため、ランチは久しぶりに群衆に囲まれずに壁際で食べることができた。ジュウェリーズのヤバい召喚士にたてつくような6校生はいないのだ。


クラスメイトになった城嶋由良はリスクがあるにしろ僕への悪意があるにしろ上手に付き合う必要がありそうだ。残りの4人、瀬川さん、神取さんは3-Bに、プリン石川、花屋敷華聯は3-Aに転入となった。能力の高いものや実績のあるものは3-Aや3-Bに転入するはずなのだ。なんで由良だけ3-Eなんだろう?作為的な意思を感じないでもない。


でもまあ久しぶりにまともにランチが食べられた、感謝しよう。タダメシっていいよね。

あぁ幸せ。


そして教室にもどる途中、ピンクのツインテールを動かしながら由良が話しかけてきた。やっぱり僕より少し背が高い。花屋敷さんは近くにいないようだ。

「今後とも神明さまのお許しを頂ければ周辺の交通整理をいたしたく思いますがいかがでしょう?」

「あ、えっと。おまかせします」

「わかりました、ご用命ありがとうございます。必ずやお役に立って見せます、ところで2点ご相談がございます。」彼女は僕と並んで歩きだした。ご用命はしてないんですけどね。


「ど、どうぞ」

「あたらしく転校生中心でチームを組みますが、アライアンスと申しましたがもちろんZ班に必要なものだけトレードもしくは引き抜いて頂いてかまいません、あるいはZ班に全員入部でもかまいません」

来たな、その手には乗らないぞ。


「基本的には別々でアライアンスの方がお互い都合がよいと思いますけど?」

「了解いたしました、Z班の後方支援あるいは露払いに徹します。もう一つは神明さまの人徳のためでしょうが非常に神明さまは人気が高いのです、献上品の類はいかがいたしましょう?まとめてお部屋に運びましょうか?」毒物や爆発物を部屋に持ってこられても困るわ。


道行く生徒がこっちを見て驚いている、ピンクの髪の由良とブルーの髪の僕は少々目立つかもしれない。

「いやそれは困るよ。食料品なんて特に困るし」2割は毒だとするととても食べれるわけがないじゃないか。

「なるほど承知いたしました。そうでしょうね。お菓子だかケーキですとか、またお弁当もそうですが食べれるわけございません。量が多すぎますからね」

いや安全なら貰ってもいいんですけど。安全なら。


「神明さま、それからでございますね。写真や動画をいっしょに撮りたい、メールをしたいですとかIDを教えて欲しというのはすべて却下いたします。よろしいでしょうか」僕は頷く、そもそも貧乏で携帯端末を持っていない。


「さらにお手紙の類と様々な贈り物はいかがいたしましょうか?」

「うーん、安全ならいいんですけどね」

「なるほど安全の確認をいたします。あと贈り物で衣類は欲しいですとか香水は欲しいですとか何かありますでしょうか?」

「なんにもいりません」

「わかりました。善処いたします・・・それでは失礼いたします」

由良はそう言って右手を胸に添えて深々と頭を下げ、あっさり去っていった。よく分からないけどすぐ襲って来る気配はない。それどころか微塵みじんも殺気を感じないのは何故か。


・・・つまり殺気を出さずに襲うことができるわけで、暗殺者として考えるならかなりのレベルであろうことが推察される。



―――数時間後、たまに来る裏山の木の上に僕はいる、もう日はすっかり暮れていて、星々がよく見える。

このあたりだったらまさかダイブツくんに襲われることはないと思うが・・・周囲に人気はない。

物思いにふける時間は、つい先日まであまるほどあったのに足りなくなる日がくるとは。


昨日雨が降ったせいか星空は僕を貫くほど次第に鮮明になる。


最近なぜか人と話す機会が増えたのだ。何ヵ月もほとんど誰とも話さない時期もあったということを考えれば急速に何かが壊れつつある。

それは幸か不幸か。結論付けるには早いのだろう。

破滅が待っているとしても、人生は楽しまなくてはならない。生きた期間の長さが幸せのバロメータでないのであればなおの事だ。


そして僕は考えるのだ。夜空を見上げて、まるで迷い子のように。


よし、決めた。一つ増やそう。

選択肢は無数に持つのが良い、それを実行するのはリスクを伴うが。例えばリスク10000の状態で、リスク10001に増えたからなんだと言うのだろう。なんでも数字に置き換えるのは古い友人にとがめられるが、まあ悪くないとは思うのだ。

ただしこの選択肢は具体案としては思いついたばかりだがベネフィットは上手くいけば測り知れない。圧倒的に僕には人手が足りないのだ、何かするには。戦うにも守るにも、ただそこにいるだけでもだ。


ではリスクの塊・・・Z班を招集するか・・・。

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