第27話2-5-1.その手の中に―――集結する星々

―――いや色々あるけれど人生、こんなに驚くことはそうそうないでしょう。

全国大会優勝したのが、えっと3日前の金曜日。今日は月曜日で時間は放課後だ。


何が目的なんだこの人たちは。もう事件と言ってもいい。


僕は・・いや、僕らは何故だか旧美術講堂で・・・つまり自分たちの部室で正座している、別に怒られたからではない。相手が正座しているので仕方なくそんな雰囲気なのだ。


神妙な面持ちの僕らとは・・・緑アフロ部長とタイガーセンセと僕の3名だが・・・とにかく唖然としている状況だ。


一礼して自己紹介が始まる・・・顔を見ても誰だったか思い出せないが。

男子生徒だ・・・髪は少し長め・・・正座しているが身長も僕よりずっと高い・・・。

「第2高校、輝生学園より転校してきました北川重人です。よろしくお願いいたします。神明全さまとチームのみなさま、ならびに鳥井教官。今後切磋琢磨していく所存でございます」この人は予選決勝戦の相手のプリン西川だ。西川じゃないのか。プリン石川か。決して忘れまい・・・というか転校してきたの?何故?

「神明全さまと戦いまさしく目が覚めました。今後は光の化身である輝皇大大剣を使いこなし・・・」いやいや・・・なんで転校してきたんだこの人は。何を言ってるんだ一体。

「・・・よろしくご指導お願いします」

っていうかこんな顔だったっけ、石川君は?まあまあ整っている。

向こうが一礼すると自動的にこっちも頭を下げる・・・。


いやな予感しかしないぞ・・・。

それは唐突に始まった。


「オッス!!第5高校から転校してきました、神取と瀬川でありまっす!!!」

「オッス!!第5高校から転校してきました、神取と瀬川でありまっす!!!」


いやハモられても。ガリバー兄弟は劇画からでてきたようないで立ちだ。2人とも学ランの肩から袖部分がちぎれていて筋肉もりもりの両腕が露になっている。

どうして転校してきちゃったの?


「よろしくお願い申し上げ奉ります!!!」

「よろしくお願い申し上げたまわりま・・・」


あ、噛んだ、噛んだで!ま、まさか


「瀬川―――!噛んだな!!!鉄拳制裁―――!!!」

「ゴフゥ!!!」


思い出したぞ、鼻血の方が瀬川さんだ。間違いない。もう一人は誰だっけ。


「我々はーー感動ぉーーーしたのでありまーーす!!!」

「我々はーー感動ぉーーーしたのでありまーーす!!!」


どうしようどうしよう、まだ続くんかい。


「それでは景気づけにいきまーす!!!」

「それでは景気づけにいきまーす!!!」


これ以上景気を付与しなくてもいいと思うのだが、流れを止める手立てはない。あまりにも我々は無力だ。


「黒潮の流れに身を任せるなぁああ!それがおとこのぉおおおおお・・・」

「黒潮の流れに身を任せるなぁああ!それがおとこのぉおおおおお・・・」


海でおぼれてる設定の歌、歌い出したで。暑っ苦しい。ああ、僕の左右で正座しているアフロもタイガーも魂が抜けている。


「ゴーゴゴ、ゴーゴゴ、ゴーゴーゴーゴー!!!」

「ゴーゴゴ、ゴーゴゴ、ゴーゴーゴーゴー!!!」


第5高校の生徒会長と副生徒会長が6高に転校してきてしまった・・・第5高校の生徒会と応援団は大丈夫なの?


まだ続くのか・・・。

今度も二人ペアでしゃべり出す。

「われわれはチーム“トランジェスタ”から参りました江藤と毛利です。転部を希望いたします、まさしく光をみつけたわけであります、光の中で我々は生まれかわるべく・・・」

第6高校最強チーム“トランジェスタ”のポイントゲッターじゃないか。“トランジェスタ”は大丈夫なんですか?ちなみに江藤君が第6高校生徒会長で毛利君は生徒会会計係だ・・・う~ん?逆かもしれない。第6高校で珍しい竜族だ・・・二人とも。江藤君はわりとトリップしやすい性格らしく上を向いて力説している。

転校じゃなくて転部だった・・・けど・・・どうなっているんだ。



そしてまた一人挨拶が始まった・・・彼女はよく知っている最近話したばっかだし。

ピンクツインテールにキツネ目・・・ヤバいのがやって来ている。

「みなさま方、ご存知でしょうけれども自己紹介させていただきますわ。わたくし城嶋由良でございます。第4高校の生徒会につきましてはご心配なく、再選挙の手配は致しております。本日付けで第6高校に転校してまいりました。それよりも実務的なことを早く詰めたいのですが本日はまずご挨拶のみとさせていただきます。敬愛するかたに代わり第6高校はわたくしが守ります。44名のジュウェリーズすべての転校は難しかったのでこの場を借りしてお詫び申し上げます」なんのお詫びだって?整理つかない・・・。

「同じく第4高校翠盛女学園から転校することになりました、花屋敷華聯でございます。その節は大変ご迷惑をおかけいたしまして深く反省しております。・・・しかしみなさま、わが目はすべてを見通します。存分にお使いくださいませ」

第4高校最強の花屋敷さんまで転校・・・なにかの陰謀?


言葉もないわ、どうするんだろコレ・・・。



―――5人の転校生に加えて2人は転部―――。

第2高校輝生学園からは召喚戦闘エースのプリン石川が、第4高校翠盛女学園からは副生徒会長の城嶋由良とロードクロサイト副隊長にして第4高校最強の花屋敷華聯が、第5高校金星男子校からはガリバー兄弟と呼ばれる二人、副生徒会長にして応援団団長の瀬川さんと生徒会長にしてもうひとつの応援団団長の神取さんが、第6高校更正学園へ転校してきたのだ。

ついでに江藤君と毛利君は何のつもり・・・?


・・・何が目的なんだ一体。理解を超えている。いくら6学園の中では転校はある程度自由と言ってもだ。掃きだめ第6高校への転校は組み換え戦も何もいらないが普通、懲罰として問題児が送られてくるものだ。


熱血女教師のタイガーセンセがなにか口走っているが内容は全然頭に入ってこない。

「―――えーっと、諸事情はあるでしょうが、みなさんの本校への転校を心から歓迎します。もう所定の手続きはおわっていますよね?」

すぐに答えたのは城嶋由良だ・・・このグループのリーダーなのだろうか。

「もちろんでございます。鳥井教官。わたくしが責任をもって書類関係は準備、履行いたしました。5人とも転校を本日付けで受理されました」

まじか・・・転校は完了してるのか・・・。

7人が全員で深々と頭を下げてくる。こっちも頭を下げるしかない。ナニコレ気持ち悪い。


新学期でもなんでもないのに5人全員の同時転校って・・・もしかして由良がイニシアティブを取っているのだろうか。


ピンクツインテールの人が何が説明している・・・。

「―――つきましてはです。Z班に全員で入部を希望しようかと思ったのですが、それはあまりに無粋かという結論となりまして。チームZ班を主軸としたアライアンスの一翼という形が良いのではと、まだ相談中でチーム名も決まっておりませんが。そのように考えております」この人たち先週末に集まって話し合っていたということか。

「さらに本校のチーム“トランジェスタ”は解散の危機にありまして、江藤さんと毛利さんも当チームに参加することとなりました。引き抜いたわけではありませんのでご安心を」タイミング良すぎる、つか絶対引き抜いたやろ由良。

「それでは不躾でございますが鳥井教官さまとZ班の部長さまにお願いがございます。姉妹チームとして認めて頂きたく、つまり同盟でございます、アライアンスを組ませていただきたいのです。同盟と言いましてもZ班の下に組み込んで頂ければ幸いでございます。もちろんZ班のみなさま方の邪魔はいたしません、部室も自分たちで探します」

頭真白だな・・・。転校して・・・何しに来たって?Z班とアライアンスって・・・。

落ちこぼれのZ班と・・・?


「アライアンスはZ班の部員の反対が無ければもちろん構いませんが・・・」タイガーセンセ・・・断った方がいいんじゃ・・・?

「ひとつ言い忘れました。われわれ新チームの担当教官は鳥井教官にお願いいたしたく思います、必要に応じまして両チームの部員の入れ替えなども、ご入用であればご命令して頂いて構いません」なるほど・・・戦力になる僕を引き抜くつもりか・・・そういう意味なら・・・策士だな由良は。

しかしそう上手くいかないだろう・・僕は全く全然そんな危ないチームには絶対移籍しないからな。


いきなり隣のアフロが立ち上がった・・・びっくりした・・・。

「キエ―――!アライアンスの件は承知仕った。城嶋由良殿。お互いのチームに良い影響を及ぼし合えるであろう!間違いない!」がんばれ、よく分からないけどアフロ飲まれるなよ、僕はもう限界です・・・あの人たちじっとこっちを見ていて怖い。


「では長居するのも無礼ですので我々は失礼させていただきます」

由良は再度一礼した。そういえば由良の両手の爪の装飾が全部無くなっているな、イメチェンか。


「失礼いたしました――――!!!」

「失礼いたしました――――!!!」


元応援団長の2人の声にかき消され残りの人の声は全く聞こえなかった。



―――嵐が去った、7人は寂れた旧美術講堂から去っていった。

取り残された僕とアフロとタイガーセンセは顔を見合わせる。アフロは予想に反してドヤ顔だ。タイガーはややほっとしているか。ゆっくりと僕は正座を崩して床に倒れこむ。


「あぁびっくりしたね。アフロ」横たわりつつ声を出す。

「そうか、予想の範囲内だがな。もけ。ここ数年ずっと召喚戦闘全国1位だった西園寺桔梗を倒して公式戦全国優勝をするということは、つまりそういうことなわけだ・・・恐るべき求心力よ」

「僕にはよく意味わかんないけどね、第6高校へ来てどうするつもりなの、あの人たち」

アフロは立ち上がって背伸びをしている。

「じんめ君ちょっと鈍いとこあるからね」肩を竦めつつ眉間に軽く皺を寄せてタイガーセンセが頭をフルフルしている。なんなんだ?


「な、なんですか先生?」

「そうだぞ、もけ。それに一言くらい喋らんか」無理だよ、ムリムリ。

「無理だよ、こわい」

「それにしてもじんめちゃん?城嶋由良さんはずっとあなたのことを見つめていましたけれど?・・・2人には何かあるんじゃないでしょうね?」

訝しげに何を聞いているんだこの熱血教師は。


「何かって?何ですか?」

「キエ――!まあ城嶋は西園寺桔梗とは犬猿のなかでありましたからな鳥井教官、熱くなるのもわかりましょうぞ」

「そお?それだけにしては何かこう・・・」タイガーセンセは一体なにがひっかかっているんだ。

「しかしあれだな、もけ。そうそうたるメンバーだな。こちらも負けんようにせねばならん」むう・・・アフロの目は燃えている。


でも、でもだ。

いやいやいや、むりだよアフロ、分かっているだろうけど。Z班は僕以外TMPAが1万超えているメンバーすらいないんだ。下手したら姉妹チームどころか吸収されてZ班は消えるかもしれない。

彼らの目当てが僕の戦闘力なのであればZ班に迷惑をかけるかもしれない。


・・・僕はZ班を隠れ蓑にしてきたのだ、みんなには借りがある。

Z班のメンバーなんて完全に社会の外側にいる落ちこぼれのアウトサイダー集団だが。


借りかぁ・・・全員を・・・あり得ないくらいに・・・。



―――目立つのはいやなのに、先週の全国大会優勝と第6高校への5人の転校生は大ニュースになっていた。

身から出た錆だ・・・全国大会優勝のニュースは仕方ないが。

何故かこの転校のニュースも僕が渦中になっているようだ。チーム補強のために僕が引き抜いただとか、僕の元に集まって新たに最強チームを作るだとか。

冗談じゃない。


・・・最近はなるべく人目を避けて、今も僕は校舎の裏を歩き最近の不幸を嘆く・・・それに考えることは山ほどあるのだ。


だが、すぐに静寂は破られた、物思いにふける暇もない。

「あ!よかったお会いできました。しゃ、写真より、す、すごいキレーなんですね、じんめ先輩。ほ、本人ですよね。こ、これ、つ、作ったんです、たべてくださ・・・ぁ」なんだ?この女子も目が合った瞬間倒れたぞ・・・気絶した?しかもこのブレザーは4高の1年生じゃないのか。


やばい婦女暴行で訴える気だな。はやく逃げないと。


“加速一現”


高速で離脱する・・・。

そうそう今日は一応予定があるのだ・・・僕は待ち合わせの視聴覚室に急ぐ、まだ時間じゃないが隠れていたらいい、しかも用事ができたとかで先に帰ってしまおう・・・いやあ賢いな。



「―――第1高校新聞部部長、根岸薫の単独インタビュー。というわけで今日は六道召喚記念大会の全国覇者、神明全さんに来ていただきました。といいますか、この根岸薫が第6高校に来ちゃいましたあ。神明さん予定よりも早く来ていただきましてありがとうございます」

「いえあの。まだ時間じゃ・・・あの」

「インタビューは楽しみにしていていただけたようで安心いたしました。」

「いえ今ね、逃げてきて・・・まだ予定の時間じゃ・・・」

「そうですか、そうですね。この間の校内予選の優勝インタビューの時以来ですものね。今日は2人きりですので。存分にどうぞ」

「あのまだ予定時間じゃ・・・」

「予選から数えましても短い期間ですが、いかがですか?すごい人気ですよね?神明全フィーバーですよね」

「ろ、録音しているんですか」

「いいえ録画しています。編集して流しますので楽しみにしてくださいね」

「え、こ、困りま・・」

「それではいくつか質問させていただきますね?まず優勝しての今のお気持ちをどうぞ」

「あの録画とか写真とか困るん・・・」

「そうですね、そういったシャイなところも人気の出た秘訣でしょうか。大丈夫ですよ学園中にしか配信しませんので」

「え、ゆるし・・・」

「非常につらい戦いであったと思うのですがいかがでしょうか?もしくは楽勝だったでしょうか?なんと全試合で1撃もダメージをうけることなく全国制覇されたわけですからね」

「ちょっとネットはいし・・・」

「戦闘ではあまりにも早くて対戦相手は触れることもできないことからアンタッチャブルとの異名まであるとのことです。ご存知でしたでしょうか?」

「し、しらない」

「ほかにも至高の矛ですとか初撃必殺ですとかドラスレランサーですとか戦姫、プリンセスアイ、竜殺女神、戦乙女などなど数々の異名があります」

「戦鬼まではいいけど、なんか後はおかしくないです・・・」

「そうなんです、みんな謎なんです。謎過ぎるんですよ、神明選手は。みんなが知りたがっているのです。ナマの神明さんのことをです。それをお伝えするのが私の務めなわけです」

「ぷ、プライバシー・・・」

「そうなんです、有名になるとプライバシーとかあってないようなものですよね。わかります。でもこれほどの人気では仕方ないと言わざるを得ません、しかしご心配なく。ジャーナリズムとは究極の中立です、偏った報道は決してしません」

「え」

「それでは細かな質問をさせて頂きますね、答えられない質問は答えられないと言って頂いて結構です」

「え。ええ」

「ずばり優勝した秘訣はなんでしょう?」

「えっと、さ、さあ」

「ではもっとも心に残った試合は予選から全国大会決勝までどの試合でしたでしょうか」

「うーん、桔梗さんとの試合でしょうか」

「予選第一回戦ですよね。明暗を分けたのはやはり噂通り超難易度と言われる幻の古代竜語魔法の撃ち合いでしょうか?」

「いえ、近接カウンターの撃ち合いの時でしょう」

「なんと・・・試合が唯一止まった時のことですね?お二人とも構えたまま動かなくなりましたね。あれがそんなに重要であったと?」

「はい」

「・・・では次の質問です。槍術はマスタークラスだと思いますが流派などありますでしょうか」

「・・・奥村流槍術ですね」

「すみません、不勉強で知りません。奥村流槍術ですか。どこで習ったのですか?」

「お答えできません」

「はい、カメラに一回視線をください。はい、ありがとうございます。魔術も信じられないほど高度な術をお使いですが魔術はどこで習いましたか?」

「独学です」

「なるほどすごいですね、どなたにも師事していないと、どんな魔法や抗術が使えるかはご本人しか分からないという意味ですね。秘密主義ですものね?」

「はい」

「はい、全国大会本戦ではずっと槍の後ろ側で相手選手を突いていましたがこれは手加減したという意味でしょうか?」

「不必要だからです」

「なるほど、では全国優勝をどなたに一番お伝えしたいですか?」

「特に誰にも」

逃げ込んだ視聴覚室で待ち伏せされて、すっぽかそうと思っていたインタビューが突然始まり・・・矢継ぎ早で全く質問が切れる気配はない・・・。なんてことだ、想定外で理論武装できていない・・・。



―――「すこし目線を変えまして、ヘアスタイルは女の私が見ても惚れ惚れするような神々しさですが、どんなお手入れをしていますか」

「?・・・シャワー」

「・・・わ、わかりました。特別なことは何もしていないと。ではリスナーのみなさんがとても知りたいと思うことをズバリきいてしまいましょう。彼女はいますか?」

「いません」

「なるほどフリーなんですね。みなさんフリーですよ~!・・・ほしいとは思いますか?彼女さんは欲しいとは思いますよね?」

「まあ・・・」

「好きな女性のタイプはズバリ?」

「?好きになった女性です」

「おお、パラドックスですね。ありがとうございます。リスナーのみなさんに何か伝えたいことはありますか?」

「なにも」

「・・・はい、ありがとうございました。インタビューは以上です。カメラをきりますね。・・・はい切りました。・・・長時間ありがとうございました」

「どうも」


ぶはぁ~本当に長いわ、逃げこんだら突然録画されて、しかも配信されるとか冗談じゃないんだけど。騙されたな・・・。根岸薫、やっぱ苦手だな。いきなりカメラ廻してるもんな。


「しかし神明さん、今日はよかったです。前回はほとんどなにも答えて下さらなくって。しかも鳥井先生を残してどこかへ去ってしまって」前回もがんばって答えたんだけどな。

「鳥井先生の方が面白いでしょう」

彼女の笑顔は営業スマイルなんだろうか・・・まあインタビューは終わりだ・・・まあいいや。

「ええある意味ですね。神明さんが予選優勝したの知りませんでしたからね。あの後大変でしたよ。うちの子悪いことしたんですかって聞かれても・・・。しかしこの学園に西園寺さんと張り合える戦闘力の方が潜んでいるなんてだれも思いませでした、まさしく衝撃でした、私もその他大勢と変わらないんです。謎だらけで知りたいんです。神明さんのことを。今日お話しして少しわかったことは・・・謎がさらに深まったということです。すごく高い壁があって何も見えないみたいです。でも個人的にすごく興味が湧いてしまいまして」こういうのを上手に逃げるスキルがいるなぁ・・・。


テキパキと根岸薫はカメラやメモ帳を片付け始めている。

「もしよかったら。時々、情報を交換しませんか。神明さん、私は情報通ですよ。だって絶対神明さんは何か特ダネを持っていますでしょう?」

そう長くない命ではあるが情報はいる、それもできるだけ多く。そういう意味で交渉は悪くない・・・いや必要なのかもしれない・・・だとすれば。

「信用できません、こっちの情報をバラまかれても困ります。驚きと奇抜さだけを求めるジャーナリズムは危険です」

「そ、それはありません先ほども言った通りジャーナリズムは中立が基本です。自分の正義を織り込むことはありますがあくまで客観的に物事をみて必要なものを伝えます」


というわけで戦闘開始といこうか・・・。

「自分の目を通した時点で主観ですよ。事実無根でも記事は売れればいいわけでしょう。正義と言いましたか・・・権力の庇護のもとにいるあなたの正義は権力によって捻じ曲がっているのでは?西園寺グループに不利になる記事を一つでも書きましたか?バイアスのかかった一部の事実の抜粋は虚偽と同義です。偏った事実の報道によってリスナーは騙されるわけですよ。あなたの表現の自由でわたしを含むだれかの自由が束縛されるわけです」

真面目そうな根岸さんは手を止めてまじまじと僕を見る・・・戦闘中の僕は・・・今は・・・怖くない・・・。


「え・・・おどろいた、え、なんて?・・・私・・・そんなちがいます。真実を解き明かして人には知る自由があって・・・そ、それを伝えるのが私は重要だと私は思いますけど。でもこの学園は西園寺グループが作ったわけでしょ、私、それを無視しても・・・そ、そういう言い方は私だってね・・・」

「議論に感情を挟む必要はありません、冷静に話せないならお引き取りください。思いがあるなら淡々とぶつけ合えばよいでしょう。最初の話しに戻りますが情報交換というのはあなたの欲しい情報をどうでもいい情報と引き換えにしようと言うことでしょう?」

これも戦闘なのだとすれば・・・冷静さを欠いた方が負ける・・・。


「それは違います、私はお互いウィンウィンの関係になれればと思って・・・」

「知る、伝えると言うのはリスクを伴います、あなたにその覚悟はないでしょう。安全なところで権力者を称え続けたあなたが何の信用を僕から勝ち取れるんですか?」

「わ、わたし、私は新聞部の部長になったことで、あの私はですね、・・・色んな記事にたずさわることができるようになって・・・」

かなりたどたどしい応えだ・・・さっきの僕と立場は逆転しつつある・・・僕は時間が無いのだ・・・利用できるものはなんだって・・・。


「そう、この学園内で生存競争に勝って、1高新聞部の部長になって権力者の命令通りに偏った記事を書いて夢が叶いましたか?思い残すことは何もない?今、あなたのしているジャーナリズムはなんですか?高校生のジャーナリズムだからと将来の練習のつもりですか?正しいと思えば今は無理でも将来は突然、権力に歪められない記事をかけますか?・・・今できなければ将来も権力に媚びへつらうのは見え見えです。あなたの記事に自由なんてこれっぽっちもない、あなたの文章の行間には、だから第1高校はすばらしい、1校の教官はどこどこ出身だから優秀だ、だから西園寺桔梗はすごい、だから西園寺グループは期待以上だと・・・どの記事にも行間に書いてあるでしょう。この学園では大勢に逆らったものは退学、転校。頑張ったが届かなかった者たちの声はあなたには一度も届きませんか、たまには敗者インタビューでもしてみたらどうですか、僕は隠れていたんじゃない、ただの負け組の一人です。勝者インタビューするから話すことがないんです。リスクが怖いなら・・・真実に命をかけられないならジャーナリストを気取るのは止めなさい」

彼女は目を見開いたまま見事に静止した・・・僕はこんなことをしてどうしようと言うのだろう。


「ぇええぇぇ。・・・・・ちょ、ちょっとまって。わ、わたし。お、おどろいて、おどろきです、え、えっと、覚悟、わたし覚悟ならあります、危険はつきものです・・・から」声が裏返っている・・・きっと僕は酷いことを言っているのだろう。


「あの例の黒曜重積爆弾」

「え?ば、爆弾ってあの3高の、・・・あのゲヘナの秋元未来がしかけた、確か生物部の通気口にしかけていたあれですか?・・・爆発すれば、す、数万人に影響しただろうとかいう?」

「そう、あれは西園寺グループが作ったものでした」「えええ?!」

クズだな・・・僕は・・・まあ仕方ない、手駒が足りないのだ。


「秋元未来はゲヘナの盟主が30年瘴気を込めて作ったと言っていましたね。しかし、あの爆弾の中枢は最新の技術革新が使われていました、つまり30年瘴気を込めたのは嘘ですね。つい最近作られたものです。秋元未来が嘘をついたのではなく誰かに嘘をつかれていた・・・さて何のためにでしょうね」「さ、さぃしんの技術といわれても、ぬ、盗まれたのでは?」これは会話を模した戦闘なのであれば・・・戦いは続く・・・だいたい思い通りの流れだ。


「あの西園寺の科学魔術開発機構のトップシークレットのひとつですよ、科学魔術開発機構から自由に盗めるならもっと危ないものがあるでしょう、黒曜重積爆弾は横流しされたと考えるべきです。生産技術を伝えたならゲヘナなら爆弾を大量生産していたでしょう」

「え?あれ?ででで、でも、そのシークレットの技術をどうして西園寺の科学魔術開発機構が持っていると?」


「もともと黒曜重積爆弾は西園寺が有する次元環の一つに封印されていたはずです、4000年ほどの期間ね。竜王家が長らく禁忌としていたものです。解析してレプリカを作ったようですね。前回、爆弾を解体したときに中枢の魔力コードを読みました。確実に西園寺グループの科学魔術開発機構が生産した爆弾だと証明できますよ、特許をとっている技術ですから」

「魔力コードを読むって、でももしそうなら。え、そ、そんな。西園寺グループがテロ集団に危険な爆弾を売っていると?」彼女は立て直せず狼狽に近い状態だ・・・こんな会話をしなければ僕は生きてすらいけないのか・・・。


「それは緩い推察ですね、ゲヘナは西園寺グループの末端組織と考えるべきでしょう。構成員はその事実を知らないでしょうが」

「!!!!!」よっぽど驚いたのだろう。根岸さんは呆然として身体が震え、目が泳いでいる。


「・・・しょ、証明できるのですか」ようやく声にしている感じだ。

「没収された爆弾は警察から西園寺グループに検査と処理が依頼され、現在は西園寺グループが管理しています。ものがないと証明は無理ですね、ですから今どこに保管されているのか調べてくれませんか?その情報が欲しい。情報通なんでしょう?」爆弾なんていらないのだが解除して魔力印を付けたのに遠隔視できないのだ、遠すぎると言うより強力な結界の中だろう・・・どこに運ばれたのかが気になる・・・恐らく保管場所はソレを生産した場所の可能性が高い。


「・・・わ、わかりました。調べてみます」

「根岸さん。ヘマすれば即、死にますよ・・・じゃあ僕はこれで」こんな風に相手を誘導する僕は卑怯者だ、自己嫌悪でたまらなくなる。


あぁ僕は自分が嫌いだ。


「え、あ、ありがとうございました。今日は」

さっさと帰ろう。僕は視聴覚室を後にしようとする。


あっと、一つ聞き忘れた。

「根岸薫さん」

「は、はい?」根岸薫は名前を呼ばれて明らかに驚いている、よく分からない反応だ。

「一つ聞き忘れたことがあって、これは情報交換にならないと思いますけど情報確認とでもいうべき事案ですが」

「は、はい!」

「六道記念大会の予選での事務側の不正行為についてですけどいいですか?」

「ふ、不正行為なんて決してありません」

「大したことではないですが、予選のですね―――――――――――――」




「―――ああ、それは隠しても仕方ありませんね。ご存知でしたか、神明さん。さすがですね。わたしも最初は意味が分かりませんでしたが桔梗さんとの戦闘でそういうことなのかと今は納得しています。そうでしたね。あれは不正行為になるでしょうね」

「ありがとうございました。予想通りか確認したかっただけです・・・結局僕はどこにもいない方が平和なんですよ」そういって今度こそ視聴覚室を後にした「あの?どういう意味でしょう?」

やっぱりそうだったか、確率的に低いもんな・・・つまり桔梗は何かに気付いていた?


視聴覚室内の根岸薫が何か大きめの声で独り言をいっている・・・まあいいや。

「あ!そうだ。あ!そうなの!なんで気付かないのわたしは。とんでもない爆弾を解体したのはあなたなの・・・そうだったの。学園のみんなを・・・助けていた。・・・神明全さん・・・すごいわ・・・」


まあ桔梗と戦うハメになり・・・予想より早く表舞台に出てきてしまい・・・すべての計画を早めるしかないのだが・・・悪くない方向に転がってくれればな。

年内の命としてもやるべきことはまだまだ山積み・・・細工は流々と言ったところ・・・今充実しているのは間違いない・・・人生って面白い・・・。


歩き出したころ、もう僕は自己嫌悪のことは忘れていた。

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