第22話2-2-3.あの日は長かった―――またまた女教師

―――それにしても、やっとご飯か?お昼から水道水しか飲んでいないのだ。


仇敵と言っていいだろう・・・西園寺姉妹と会って別れて色々思うところはあるが・・・まあ取り合えず今は保留しよう。


・・・たったか飛んで女性教員用のマンションまで来た。これはタイガーセンセに招待されている状況なのだから正面玄関から入るべきだよね?辺りはもう真っ暗で歩いている人影は一人くらいしかいない。


僕は意気揚々、正面玄関に入る。すぐセキュリティーのある自動ドアがあって進めない。暗証番号とかあるのか?それかタイガーセンセに開けてもらうのか?


ん?

「もしもし、この時間は部外者は基本的に入れませんよ」小さな窓から警備の人の声がする。まじか?まじ?ご、ご飯はどうなる?今日は絶食か。

「あのですね、鳥井大雅先生に呼ばれていまして、わたしの担当教官で」

「どんな御用でも通れません、入るためにはですね・・・」

「えー」


後ろから誰か入ってくる、さっきの人影か。

「おや、これは驚きました。今日の優勝者さんではありませんか」この声は・・・僕は振り向きざまに確認する、赤髪ショートの安藤教官だ・・・比較的いつも権藤先生といっしょにいる。優秀な第3高校の魔術コーチだ・・・レッドビーバーのあだ名だが本人は嫌いらしい。

「あ、こんばんは、安藤先生、優勝楯を取りに来てと鳥井教官に言われまして」思いついた適当なことを言っておこう、なんとか入らないと「おや他校なのに私のことをご存知でしたか」そりゃあ葵を通してずっと見ていたからあなたの癖まで知ってますよ・・・優秀なのもよっく知っています。


僕を見つつ安藤先生は警備員の小窓へ向かう。

「この子は今日大会で優勝しまして、私が身分を保証しますので特例措置を希望いたします」

「安藤先生なら間違いありません・・・すごいですね優勝ですか・・・名前の記載も省いておきます、ごゆっくりどうぞ」なぜか警備のオジサンは人懐っこく手を振ってくる、とりあえず手を振っておこう。


ああ、借りができてしまったな。

着いて来いとういそぶりなので僕は安藤先生についてエレベーターに乗る。


思ったより背は高くないんだな・・・といっても僕より高いが。


「ふ。昼であろうと男子生徒は入れません・・・このマンションは・・・ふ、男子禁制です」

「あぁあぁ、なるほど。髪が長いですから女生徒と間違えましたか」それでジロジロ見てたんか、あのオヤジは。髪が長いのも考えものだ。

「今日の試合は見事でした。神明君。今晩は学園中が君の話題で持ち切りでしょう、勝ったという事実だけで・・・ただプロの目から見て極限を超え鍛えていますね。それも寿命を削るほどの鍛錬です。あなたの年齢だと睡眠時間を削っていても可能か説明つくか分かりません。TMPAではなくてその技の熟練度といい、その時々の選択、信じられない高度な戦闘レベルです」

「それはどうも」どうでもいい、お腹すいたよ、ああ何か食べたい。


「ふ。質問したいことが山のようにあります。竜殺の武具、特殊な着装、竜の属性、蘇生術、そしてなんといっても古代竜語魔法。とてもとても高校生や大学生の到達できうるレベルではありません・・・如月葵さんにも驚きましたが・・・優秀な指導者が彼女にはいると思っていました。あなたでしたか・・・あなたが彼女を導いていましたか」1年生を怒鳴るときとは別人の独り言のような静かな理知的な話し方をする、まともな人だな。


「いえ、とくに」でもどうでもいい。あぁもう気絶しそう、カームフルでやっぱり食べればよかった。

「まあ今日は止しましょう。ふ、また別の機会にでも。他にも聞いてみたいことがあります・・・神明君」

意味深だな・・・なんの話だろう。


―――さて507号室前だ、お腹が空いて空いてもう。


ピンポーン!


誰かがこっちへ走ってくる気配だ。ドアが開く。

「Oh! Mr. Zinme! Glad to meet u!」

え?ミランダ先生だ・・・確か第4高校の英語の、褐色の肌が美しい。

かなりラフな格好をしているが。つかタイガーセンセは?


「鳥井先生、おたくの生徒さんをお届けしましたよ。下で迷子になっておりました」いや、迷子になっってないし!なにを言うんだレッドビーバーめ。レッドバービーって呼んでやるからな。

どったんばったんしながら騒々しい何かがドアの向こうから近づいてくる。タイガーセンセはどうもミランダ先生といっしょにいたみたいだ。


2人は仲いいのか?新たな情報だ・・・そういえば美人コンテストも一緒に出ていたか。


そしてやはり鳥井大雅26歳独身の登場だ。

おお?なんちゅう顔してるんだ。顔はなんとなく赤いし目は座っている。さっきもファミレスで号泣してたけどまた泣きそうじゃないか。

正義の豪傑熱血教師でしょう、しっかりして下さい。


「おぉ!じんめちゃん。心配するじゃないのぉ・。突然飛んでっちゃって・さぁ」

「鳥井先生、お酒を飲まれていますね。そういったところに生徒を呼ぶのは感心しませんが・・・」

「安藤教官、ありがとうございました」タイガーセンセは突然、安藤先生に敬礼した。

大丈夫なの?このセンセは。そうか酔うということはこういうことか。


「まあ、今日は特別許しましょう。早めに神明君は寮に返すように」ピザ、ピザ、ピザ食べれるのかな。普通の夕ご飯はいつぶりだろうか。


もちろん僕はタイガーセンセの自宅マンションに初めてはいった。

遠隔視したこともなかったから女性の部屋は新鮮だ。僕の部屋より二回り大きいな。なんだかとっ散らかっているが。

「おじゃまします」いいんだミソギの時間は終わった。ピザの借りはまた返すとして。


・・・ピザをください。


「You are welcome.」

「あなたが言うとおかしいでしょ。ミランダ」

ミランダ先生もタイガーセンセも歓迎ムードだ。きっと毒殺はされまい。


長方形の丈の短い机だ、こたつなのかな。

その上に複数のピザや唐揚げっぽいものがところ狭しと並んでいる。棒状の野菜もある、食べれるのかな。しかしこの二人の先生は結構飲んでいるんじゃ。ビールや見たことない飲み物がかなりの本数空になっている。ピザも大分減っているけど仕方ないか。

いや冷静に分析している場合ではない。お腹空いて倒れそう。


「もう帰っちゃったかと思うでしょう、じんめちゃん?」いいから何かたべさせて。

「鳥井ちゃん、オトコに逃げられたって突然レンラクしてくるからビックリしちゃって」

なんの話やねん・・・。

「そんなこと言ってないでしょ!ミランダ」仲いいのは分かったから。何か食べさせて。


「ちょっと冷めちゃったけど、なんでも食べて。・・・あ乾杯しようか?コーラでいいよね?」

なぜか3人で乾杯した。僕はコーラで教師2人はもちろんお酒で。


「優勝おめでとう!かんぱーい!」


「Oh~」ミランダ先生がじっと顔を見てくるがもうむり。

「あの食べてもいいでしょうか?」どっちに聞いたら問題なく食べれるのか悩みつつ聞くが、まあ良さそうな雰囲気だ。


やっとピザが食べれる。何年ぶりかな。すごい、ファミレスのカームフルより大分おおきいんだな。

「それマルゲリータね。なにか作ろうか?神明君?」といってタイガーセンセは台所ぽい方向へいってしまう。僕は対人恐怖症の人間不信なのでミランダ先生と二人きりは困るんだけどな。

なんかジッとみてくるし。


「A raving beauty」なんすか。僕に何か問題がありますか。「How beautiful!」

あ!ピザおいしい。・・・めっちゃおいしい。朝は食パンだけだったし味のするものはおいしい。複雑な味がするな。なんだろコレ。


「オトコってやっぱりladyよりmealに興味あるのカナ」ミランダ先生が何か言っているがほとんど理解できない。ピザがおいし過ぎてジッとみられるのもそこまで嫌じゃない。これは新しい発見だ。大きい唐揚げみたいのも食べていいのかな・それは食べていいですかと断った方がいいのか。

「あのこれ?食べてもいいでしょうか?」

「Fried Chisken? Sure」ジッとみるのやめてくれないかな?


「Plz eat whatever u like」なんでも食べていいですって。つかなんで英語?・・・そうか英語で返さないと食べれない仕組みか・・・。

「I sincerely TY for your polite and thorough response」

「Wao! My gosh!」このフライドチキンっておいしい。そうだ西園寺御美奈が最期に言ったのをついでに聞いてみよう、ヒアリングが間違っていなければいいが。


「Please let me ask one question」

「OK, Go ahead」フライドチキン飲み込んでしまおう。

「What does that mean? Someone says to me that subtle issue can be grasped.・・・あ。日本語で教えてくださいね。ミランダ先生」

「Mr. beauty, 前後がないとワカリマセンが高校英語でありませんね。些細な問題を掴むことができる、でしょうカネ。前後の文が無いとムツカシイですね、それにしてもYour English is so good, Very goodです」僕は西園寺御美奈にとって些細ささいな問題だということか。御美奈と会うべきでなかったのか多分僕にはわからないな。


―――タイガーセンセが何か持ってくる。そういえば体の線が良く見えるロングのワンピースみたいのを着ている、いつも今僕が着ている黒と黄色のジャージしか見たことないから新鮮だな、あ、さっきファミレスではスーツだったか。

巨乳だし料理もできるんだったらきっといい奥さんになるんだろうな。


「ちょっとミランダ、うちの生徒に変なことしてないでしょうね」何もしてないよ。さっき、ほっぺにキスはされたけど。ちょっと驚いたけど向こうの人ってこれが挨拶なんだよな。

「何もしてませんよ、ミスタイガー、ヒーイズ、ソークレバーですよ」ミランダ先生はお酒の缶をタイガーに振っている。あ、ミランダ先生もタイガーって呼んでる。


「おまたせよ、神明君。焼きそば好き?」

おぉ。ナニコレ。焼きそばおいしそう。でもあれかな今度は国語の問題解かされるんだろうか。しかしナニコレ、座っているとご飯が出てくる、すげ。王様みたいだ。優勝したらいいことあったな。


「今度は国語ですね?」

「・・・ちがいます。冷めないうちに食べてみて」そう言いつつタイガーセンセは僕の横にいつの間にか密着するように座っているミランダ先生をにらんでいる。


ウワッ!なにこれマジおいしい。

食べたことないこれ。キャベツがなんだろう、甘い?なにこの深みのあるソース。ヤバい美味しい。

ピザよりおいしいかもしれない。新たな発見だ。


「ミスタージンメには朝から驚きっぱなしデス。桔梗サンはワールドチャンピオンでしょ、ノーダメージで倒してしまうなんて」

「チッチッチッうちの神明君はちょっと違うのよ。蘇生術とかなぞも多いのよ。でもね、そうそう、あのインタビュールームは大変だったんだからね。一人残されて?え?え?どうしたの?神明君」

「ホワァイ?」

「あの!なんで泣いているの?神明君。まずかった?からかった?ごめん?」


「え?泣いていますか?僕?そう?・・・あ~なんかおいしすぎて、かな。すごいおいしいです」あれ僕、泣いてるか自分でもよく分からない。

なんだ今日は。笑ったり怒ったり泣いたり、普通の人間みたいじゃないか。僕の嫌いな普通の人間のようだ。ここ数年の砂漠のような感情の起伏のなさはどこへ行ったんだ。


感情なんて役に立たないものは切り捨てないといけないのに。




―――なにやら長居してしまった。こんなに食べたのは5歳のパーティー以来かな。


「鳥井先生そろそろ帰ろうかと」呂律ろれつが微妙だ・・・。

「もうきょおは遅いから泊っていきなさいよ、あさ6時に出れば警備もまだいないから」かなり酔っているのでは?タイガーセンセ・・・。

「Huhuhu, ジンメクンがオソワレマァス・・・、ゴシュウショウサマでぇす。まあジンメクン、トリアエズ仮眠したほうがイイノデス」だめだこの人たち。僕はお酒なんて決して飲むまい、まあ20歳まで生きていれば関係ある話しだけど。


確かに眠いけど泊っていくわけには、・・・つか夜眠いのも久しぶりだ。・・・夜は呪詛の痛みで眠れないはずなのだが・・・呪詛の効果が弱まっているのか・・・TMPA6万と言っていたな大倉チーフ。

・・・僕もまさか竜気(ドラゴニックオーラ)に目覚めている・・・もしそうであれば・・・発動条件は・・・なん・・・だ。




―――・・・ん?あれ?まさか寝てた?

無防備に知らないところで?この慎重な僕が?

軽い落胆を感じる・・・。


えっと?・・・僕はベッドで寝ている。夜の海の夢を見た気がする・・・何か大事なことが・・・思い出せないな。


ベッドで寝ている?

部屋が暗い、僕は少し体を起こす。布団が掛けられている。


真っ暗だが問題はない。霊眼を発動する。

AM1:37か、本当に全く僕らしくないな、安全でないところで寝るなんて。疲れているなんて理由にもならない。


ミランダ先生が床で座布団の上で座布団を抱えて寝ている、全く年頃の女性があんな格好で大丈夫なのか・・・。あれタイガーセンセは?


む?僕の背中側、真後ろか。ん!真後ろ?同じベッドで寝ているのか・・・。霊眼で確認する。僕の首に巻きついているのはタイガーセンセの腕か?


んん?タイガーセンセ下着だな・・・。


・・・いやちょっと待て。下着の女性が真後ろで同じベッドにいて僕に抱きついている。

あ、あほかこの人は。なんで?いつ?なんで脱いだんだ。男子高校生がいるっちゅうの。


・・・タイガーセンセを起こさないように何とか抜け出さないと、なんだこの不可解なミッションは。

こんなことでは暴漢に襲われるぞこの人、大丈夫か?ああ。大丈夫だ。竜の召喚戦士を襲うバカなんていないか。


2人の息遣いから判断するに熟睡しているな。2人ともノンレム睡眠中かな。寝て小1時間ほどか。

下着の女性に抱きつかれながら僕は少し考える。今日会ったことを整理しよう、見落とすのは最小限にしなくては。


情報は多い方が。

仮定は無数の方が。

固定概念にはとらわれない方がいい。


今日は、桔梗をすべての運を使い切り倒し、プリン西川を踏んで倒して優勝し、美容院で死闘を演じ、根岸からの嫌味なインタビューを切り抜け、質屋で交渉し5000円ぶんどり、ファミレスでタイガーセンセに襲われ、敵だらけの病院に桔梗の見舞いに行き、病院の廊下で僕を呪い殺すつもりの御美奈と対峙した、そして男子禁制のマンションでタイガーの焼きそばを食べ、暗闇で半裸の女性教師に抱きつかれている。


・・・なんて日だ!


考えよう、考えよう。優勝楯の代金をタイガーに返さなくては。質屋でぶんどった5000円は机に置いていこう。ファミレスも払ってくれたし。所持金が1050円に戻ってしまうが仕方ない。それだけで恩がかえせるんだろうか。一宿一飯の恩というものがあったな。・・・借りは作るまい。


僕は音もなく気配もなく立ち上がる、タイガーはよく寝ている。フィーネの鎧を身に纏う、気配を消すのは得意だ。左膝も左肘もすべて直して再々構築済だ。


僕の魔術、無色の魔晶石抜きで発動できるのはたった3種の魔法だけ、まあ抗術は多様に修めたが。

“加速一現”“神速覚醒”そして“空間覚醒移送”だ。

“空間覚醒移送”は数キロなら認識できる場所にテレポートできる僕の切り札だ、戦いに参戦するときに・・・逃げるときに・・・調査するときに・・・とても有用だ。

テレポートは最高難度の魔術のひとつだが認識できないところ、行ったこと無いところには通常とべない。


それゆえ霊眼による遠隔視能力と相性がいいのだ。すべては計算の上だ。竜王の霊眼で座標を認識しさえすれば結界内でも入り込める。“空間覚醒移送”はストアマジックではない、チャントマジック(詠唱)のため発動まで17.7秒かかるし魔装鎧が必要だが。

もし誰かが結界内から僕を呪殺しようとしても結界内部に突然テレポートで現れて・・・自爆してやる。


―――さてと僕は意を決して“空間覚醒移送”を発動する。

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