第13話1-10.掃きだめ第6高校、Z班の一日

「キエエ―――――!!」


緑アフロ隊長が上半身裸で奇声を発している。いつも通りだ。


「キエ――――!まったくどいつもこいつも・・・たるんどる!3年のレギュラーは今年最後のチャンスであろう!誰一人練習しとらんではないか!」いつも通りだ。


午後4時過ぎ、そろそろ部員が集まってくるはずだ。いまはまだ“もけ”とあだ名で呼ばれた僕と緑のアフロに黄色いツナギを来た 3年B組の“緑アフロ隊長”しかいない。ちなみに僕は3年E組だ。

六つの高校で最弱が第6高校、その第6高校でぶっちぎり最弱チーム、我らが“Z班”。

“Z班”というのは我々のチーム名だ。ここがもう後のない土壇場と言う意味で部長の緑アフロ隊長が1年の時につけたチーム名だ。Z班は本当に土壇場で各人いつ放校・退学になってもおかしくない成績だ。練習場も割り当てがないため、第6高校の取り壊し前の旧美術講堂を間借りしている。ラッキーなことに取り壊す予算がないらしい。


「キエ――――!なんと嘆かわしいことか!蹂躙されっぱなしの人生でいいのか!いいのか“もけ”?」

「まあいいじゃん、僕より不幸な奴はいないよ」

「キエ―――!不幸自慢とはなんと嘆かわしいことよ!若人よ!間違いない!輝け!」

何が若人だ、同い年でしょうに。


この状態のアフロと会話しても仕方ない。部室で電子新聞でも読もう。


昨日の西園寺桔梗・如月葵戦は・・・桔梗の勝ちだったらしい。如月葵の全勝街道に土がついたようだ。第1高校新聞部が出している電子新聞を僕は部室の片隅のノートパソコンで一文字ももらさず読んでいる、文責は根岸薫か、西園寺の犬だ。

「緑アフロ隊長の言うとおり、桔梗が勝ったみたいだけど、かなり手こずったそうだよ。やっぱり葵は竜気(ドラゴニックオーラ)に目覚めてるね、桔梗が葵を大ダメージで気絶させた瞬間ダメージが一瞬で回復して気を失ったまま葵は戦ったらしい。そして、桔梗のとどめの技・・・昨日すこし予想した技だね、桔梗は練習で一回も成功してない大技で葵を倒したっぽいね」


「キエ―――。・・・竜の神々の闘いは終わった。問題は迷える我々であろう。昨今の春季大会も。個人戦も団体戦もすべて今まで予選敗退、部長としては、団体戦、3年間の高校生活の集大成であろう、一勝くらいせんとな。結果を出さねばならん」といっても緑アフロ隊長のTMPAは7000、僕は3000。ほかのメンバーも似たり寄ったり、竜と感覚合一している竜の召喚士はいない。部員数は団体戦参加規定の最小数の8名でうち1名は召喚獣がまだない、7名が3年生、1名が2年生だがこの2年生がまだ感覚合一していないのだ、つまり召喚士ですらないわけだ・・・部員数には数えるが選手にはなれない。今年の1年生はZ班への入部希望者はゼロ人だった。この敷地内の六つの学園の中、最弱の掃きだめ第6高校の中のさらに最弱チームなのだ、1年生のみの急造チームにすら多分負ける。


美術講堂に二人の人影がやって来る。二人とも男子生徒だ。

かなりでかい影とかなり小さい影だ、2メートル5センチの巨漢が村上謙哉君、村上君はいつも丁寧にあいさつするのだ。

「みなさん、本日もお疲れ様でございます」

もう一人が僕より3センチも低い青木小空君だ。実家がお寺の小空君は何故か頭を剃っており頭部はツルツルだ。

「ちわわ、みんな早いね。といっても“アフロ”さんと“もけ”さんだけですか。今日はとんでもないニュースがいっぱいあって驚きましたね。恐るべき紅い矢のレインボーレインが我らが頭上に降り注ぎました。心の声を聴いてください・・・世界を救う歌です」紅いレインボーって何?青木君は詩人になりたいらしく時々いつも何言ってるかさっぱり分からない。しかも歌い出したで・・・。

「青木君が歌ってる歌ってなに?」

「キエ~。昔やっていた戦隊ものの替え歌であろう。すべて不毛」


しかし桔梗・葵戦は第6高校であっても大きなニュースになっていたようだ、当然か。

この青木君、村上君の凸凹コンビは2人とも3年C組だ。大抵いつもいっしょにいる。


「グモ―――!グモッス!」

ん?珍しい。幽霊部員の3年G組“ダイブツくん”だ。天然パンチパーマで顔が大仏に似ていたため、小学校の修学旅行以来、ずっと“ダイブツくん”と呼ばれているらしい。TMPA1500、このZ班においても最弱だ。

「グモ――――!!」

「キエ―――!」

いつも通りダイブツくんと緑アフロが威嚇し合っている。野生の掟なんだそうだ。

「おいダイブツくん、部活動。休み過ぎであろう?たるんでおるぞ!」

「グモ―――!裏山で野犬の群れと戦っておったのじゃ!」

「・・・なら仕方あるまい」

うーん。仕方ないの?仕方ないのかな。緑アフロはすぐ諦める。

ダイブツくんは僕と戦えるほど貧乏で裏山で自給自足しているうわさがあるのだ。

ちなみに僕は同級生に借金だらけだ・・・踏み倒せばいいよね。


もう一人来たようだ、今日は集まりいいな。

「そーれ、仲間たちのところへ来たよ。ニャンブ―ちゃん?いっしょに言おうね、こんにちは―――いってらっしゃいました―――」

裸足でスカート、でかい包帯と傷だらけのウサギのヌイグルミと話している痛い子がやってきた。二人いる女子部員の一人だ。3年H組、星崎真名子、TMPA5000、Z班の回復担当だがなぜか鼻血が出ている・・・っていうか拭かないのかな。そして回復魔法は精神的に落ち着いている時しかしてくれないのだ・・・つまりいつも回復してくれない・・・すげえ役にたたない。


一応、緑アフロ隊長が星崎真名子とのコミュニケーションを試みる。今日は会話できるといいが。

「キエ―!星崎?鼻血でてるようである。大丈夫か?」

「ニャンブーちゃん、話しかけられてるかもしれない。あたしたち」

「おい鼻血が・・・。あのな、ニャンブ―ちゃんだったか?何があったか教えてくれまいか?」

「ニャンブーちゃんが教えてあげるね、大和田先生が真名子ちゃんの顔をスリッパで殴ってきたんだって」

「どうして殴られたのであるかな?」

「うーんニャンブ―ちゃん、わからない」ウサギのヌイグルミの首をブンブン振っている。

根気強く話しているが今日は話せない日かもしれない。

「・・・じゃあ大和田先生はなんて言って殴ってきたのであるかな?」

「ニャンブ―ちゃん聞いたよ、星崎!靴と靴下を履け、何度言ったら分かるんだバカモノ!って言ってた」

緑アフロ隊長はうんうん頷いている。

「それはお前がワルイな星崎。魔法で自分で回復せい」


ふぅ――――と大きく緑アフロ隊長はため息をつき。

「そのウサギにしか見えないヌイグルミの本名なんであったっけ?」

「ニャンコ・ブーメラン」

「お前のネコ型の召喚獣はなんて名前であるか?」

「モロ・モニュカ」

「・・・うん。星崎、本人なのはよっくわかった。間違いないおまえは星崎だ。自信を持て!」

しかし相変わらず星崎真名子はいつもしかめっ面をしている、それさえ止めれば多少見た目は良くなるのにと思うがたぶん上手く理解させられないだろう。


しかし緑アフロ隊長は上機嫌だ。

「キエ―――!みなのもの。今日は出席率がいいぞ!ほめてつかわす!練習しようではないか!」うん、そうだね・・・絶対無理。


ん?美術講堂の外から話し声がする。

Z班3年生の最後の一人、3年D組の“オールバッカ―”だ。金髪オールバックにして格好つけている奴でさらに高1の時にすべての教科で赤点を取り“オールバッカー”というあだ名になったのだ。


携帯端末で話しているようだ。

「まじか、悪かったよ、西尾ちゃん。スマンスマン。しょうがねえからこっちで何とかするよ」

緑アフロ隊長が講堂に入ってくるオールバッカ―の前に立ちはだかった。

「きっさまー!この不良めが!きのう寮に戻ってこなかったではないか!今日はフルメンバーだ!練習あるのみ!着替えろ!」

「いやあ、わりいわりい。週末の合コン、ブッキングしちゃってさ。あと4人もメンバー集めねえといけねえわけなのさ、おれっちはよ~」

舐めたことを言う相手に、緑アフロ隊長の目つきが変わった。

「・・・ほほう?時に相手は?」

「アフロちゃん、よく聞いてくれたぜ。相手はJDだぜ!JD!降魔六学園っつうだけでモテるからよ~!」オールバッカーは髪をかきあげる仕草だ。

「おまえ、夏子だか小夏だかって学外に彼女がいなかったか?」

「あぁ、夏美か?それはそれだよ。これはこれでよ。とにかく忙しんだよ。三日で4人あつめねえと。大変なのよ、おれっちは」


Z班の男子は全員いつのまにか、“オールバッカ―”の前に集まっており、猛アピールを開始した。男子とは緑のアフロの緑アフロ隊長と上半身が黒髪ですべて隠れる僕、ハゲの青木君、天然パンチパーマのダイブツくんと身長205センチの村上君だ。


「いやいや、おまえらは無理だぜ!マジ無理!」

しかし全員アピールを止めそうにない。“オールバッカ―”は考え込みつつ口も動いている。

(このメンバーならおれっちが、ぶっちぎり一番だよな)


「・・・おまえらもし連れてくならよ、おれっちをこのチームの部長っつうことで口裏合わせてくれるか?後さ、おれっち第2高校の生徒ってことにしてあんだけどよ。第6高校じゃかっこつかねえし」

緑アフロ隊長が切れている。そうだ言ってやれ!

「きっさま―――!・・・そんなこと全く問題ないであろう。なんでもできることがあれば言ってくれ」


えええ?


「―――あ、そう。部長ってことにしてくれんだな。そうそうそうだな、あとどうしても言うことがあるんだが」

うんうん。全員頷いている。

「まずアフロ隊長ちゃん」

「おう?なんだ?オールバッカ―君?何でも言ってくれ」

「あの、言いにくいんだけどその頭な?」

「おう、なんだ?」

「・・・あのなんつうか・・・アフロ禁止なんだよ。特に緑は・・・。こんどの合コンの店、アフロ禁止でさ。バンダナかなんか巻いて隠してくれねえか?」

命より大事なアフロを緑アフロ隊長が隠すわけがない・・・ソウルがなんとかとか・・・。

「キエ―!おれの命を隠せだと!・・・うん!うん!そんなことなら全く問題ないであろう」


え?いいの?


“オールバッカ―”はフウと一息して、

「OK、OKよかったよ、次はもけちゃん。・・・んーなんていうか。・・・いいにくいんだけどその頭な」

「はい?」僕になんだ?

「そのロン毛切れない?」

「無理です」

「そうか~、そうな。じゃあせめてロン毛を後ろで束ねて顔を出してくれるか?そういう法律なんだよ」

「法律?・・・なら仕方ないです」法律かあ。でも顔を出すのはヤダな、僕はとても人に見せれるような顔じゃあ・・・。


“オールバッカ―”はもう一つフウと一息つきさらに言う。

「青木ちゃんは、そのままでもいいけど、・・・言いにくいんだけどその頭な、できればカツラ被ってくれないか?」

「ラジャーです。星降る王侯貴族のような感じですねランデブーシャンデリアみたいなロシアンセクシーでいきますか?」どういう意味?


「あ、そ、いいんかい?あと村上ちゃんはさあ、そのままで髪型はいいんだけど、身長いくつだっけ?」

「205センチです」

「また伸びてねえ?・・・うーん、怖がるかもな~。身長は減らせねえし、・・・ま、しょうがねえ。じゃ4人ともOKにしてやるぜ!おれっちが部長ってことでよろしくな」


―――やった―――!


ダイブツくんが必死にオールバッカ―にアピールしているがおもいっきり無視されている。

とうとう泣きながらダイブツくんはオールバッカ―の背中を噛みつき出した。グモ―!グモ―!言っている。

「―――おめえはダメだ!ダイブツ!すぐ脱ぐし、とにかく超下品すぎんだよ!5人でもう決まりだ。あと1次会4000円だからな、みんな。よろしこ」

ダイブツくんの泣き声が旧美術講堂に木霊する。

「グモ~~~、グモ~~~~!!オウゥオウゥ!!オウゥオウゥ!!!」

えええ!4000円って高い・・・。


「―――ぅるせ―――――!!!」


美術準備室の方から女性の怒声が聞こえる。

全員声がする方をギクッと見る。

まさか8人全員いるのか?年に一回くらいしか揃わないのに。


準備室のドアを蹴り開けて登場したのは身長178センチ、真っ赤なビキニの水着をきた2年H組の黒川有栖、Z班のもう一人の女生徒である。知らない人が見れば水着モデルと見間違えるかもしれない。髪は黒く僕と同じくらい長い。僕と違って顔は出ている。

そして本物は目つきが違う・・・ヤバい。


そう・・・Z班最大の問題児だ、Z班に最大の問題児は複数いるが。オールバッカ―などと違って本物の不良さんだ。授業をサボってずっと美術準備室で寝ていたのか。

「ぅるせーんだよ!てめえら!寝れねえじゃねえか!」

「ニャンブ―ちゃんが言ってるの、どうしてアリスちゃんは水着なの?」

「電気スタンドで肌焼いてんだよ!ぁたしの勝手だろ!」で、電気スタンドで?

なぜか黒川有栖は星崎にはあまりブチ切れないようだ。

しかし黒川有栖の男子生徒を見る目はヘビのようだ・・・あと電気スタンドで肌焼けるのかな?

「あたしのイチゴミルク!イチゴミルクが切れてるじゃん!おい!緑アフロ!買ってこい!」

手に持った電気スタンドとイチゴミルクの空の紙パックをこっちに投げつけてきた。アフロ隊長は華麗に電気スタンドを避け、スタンドは青木君のハゲの部分に音を立ててぶつかった。


「・・・イチゴミルクな。うーん。もけ、頼む」

こいつ、全然役に立たない!こっちに丸投げしてきた。

仕方ない腹を決めよう。僕は言った。

「青木君、全員の分のジュース買ってきてくれる?」

電気スタンドをぶつけられた実家がお寺の青木君はお金持ちだ!何とかしてくれるだろう。たぶんきっと。




―――青木君は全員分のジュース代を出してくれたが・・・結局、僕と緑アフロ隊長でジュースを買いに行くはめになった。青木君と村上君は黒川有栖が壊してしまった電気スタンドを直すように言われたのだ。オールバッカ―は逃げて、ダイブツくんは何故か金的を蹴られ泡を吹いて倒れていた。


僕と緑アフロ隊長は校舎の中庭の自販機で7本のジュースを買う。逃げたオールバッカ―の分の100円はもらってしまおう、儲かったな。


何とかしなければ・・・僕は言う。

「傍若無人すぎる、あの挨拶一つできない後輩の黒川を一回締めてやってください。アフロ部長」

「今度な今度。・・・まあしかしあれだ、黒川ももう2年だからな。このまま召喚獣と感覚合一できなければ、秋には放校・退学だ。問題あるまい」

え?何もする気ないな、さてはこのアフロめ・・・。


僕らが歩くと周りの生徒たちは蜘蛛の子を散らすように離れていく。

まあ緑のアフロと顔までかくす長髪の僕らの二人は異様に目立つ。気味悪がられても仕方ない。


あーそいうえばもう一人いるんだった、Z班には、アフロ隊長なら知っているか・・・。

「そういえば、せっかく全員そろったのに、うちの熱血教官タイガーちゃんはどうしたの?」

「鳥井大雅教官はな、第6高校の生徒数人が第4高校の生徒数人からリンチされてるのを助けに行って、加害者をぶっとばしたらしい。それでぶっとばした奴の親が鳥井大雅教官を訴えるのなんの言ってるらしくてな、しかも正式に第4高校教頭と教育委員会からもクレームがあり学外の監査委員会によばれて。まあ鳥井大雅教官は・・・だ。ようは懲罰房行きだ。2、3日は帰ってこれないであろう」

「タイガーセンセが、ぶっ飛ばした奴らってだれ?」それは覗いてないのだ、もちろん城嶋由良が率いる“ジュウェリーズ”の誰かに決まっているが。

「“ロードクロサイト”の一人らしい。噂では花屋敷華聯(はなやしきかれん)だそうだ」

「ああ“神の目”の華聯かあ。第4高校の悪名高い“ロードクロサイト”の副部長に手をだしたのかぁ・・・」


しばらく二人とも沈黙する。


なるほど弱者救済か・・・僕の方から切り出す。

「ばっかだね~。タイガーセンセ、身の程を知れってね~」

「キエ―!君子危うきに近寄らず、あの女教師と付き合っていると寿命が減るわ」

「勝てないのに正義感と勢いだけで突進していくからタイガー、関わり合いたくないね~・・・」

「だな、鳥井大雅、26歳女性独身。第1高校の攻撃コーチをクビになり第4高校へ転任、第4高校は3か月でクビになり第6高校へ赴任。第6高校最強チーム“トランジスタ”の総合コーチを初日でクビになり我がチーム“Z班”へやってきた。ふっ!落ちるとこまで落ちとるな、“Z班”だからな。Z班!こんな転落人生送りたくないなあ、もけ?」

確かにZ班はないわ・・・Z班は・・・みじめな女教師だ。


「っていうか、これ以上、迷惑かけられるのだけはマジゴメンって感じ。リンチなんてほかっとけばいいのに。リンチされてる方が悪いんだから。第4高校の牝悪魔どもを刺激しないでほしいよ」

「それだよ、もけ!お礼参りがあるんじゃねえか?まさかな?」


・・・顔を見合わせて2秒ほどの沈黙・・・。


「まっさかあ。教師がやったことで4高のやつら6高に攻めて来るなんて・・・」


・・・二人でうつむき1秒ほどの沈黙・・・。


「あり・・だな。キェ~」

「・・・全然ありうる。しばらく学校は休んで6校の校舎には近づかない方が―――」


―――ゥワァー!

遠くで声がする。


―――アァー!

まだ別の箇所から悲鳴だ。


一斉に第6高校の生徒たちがそれぞれ走り出す、全力疾走だ。口々に何か言っている!


カンカンカンカン!


「ジュウェリーズだ!」

「粛清部隊だ!」

「4高の粛清だー!」

「・・・逃げろ、逃げろー!」


もう一度、僕と緑アフロ隊長は顔を見合わせる。


「しまった!4高襲来は読んでしかるべきだった、敵を確認してくれ!もけ!」

言われるまでもなく遠隔視能力を発揮する。

「囲まれてる、敵は30名前後。城嶋由良の“ピンクダイヤモンド”と例の花屋敷華聯の“ロードクロサイト”だ。いや粛清部隊“アマゾナイト”もいる。全員第4高校、ようはアライアンス “ジュウェリーズ”だ。・・・どこもかも封鎖されつつある。退路は無い」

「計画的侵攻か、無駄な足掻きは正に無意味か。仕方ない一時投降するぞ。もけ!」


・・・僕とアフロ隊長はすぐにその場で伏せて頭の後ろに両手を組んだ。周りは阿鼻叫喚の地獄絵図だったようだが知ったことではない・・・自分以外どうでもいい。




―――第6高校の生徒は我々を含め60人ほど捕まり、さらに25人ほど周囲に倒れている、逃げようとして攻撃されたようだ。下校している者も多く被害は思ったほどではない。

我々60人は校舎の中庭で捕らえられ整列させられている。


我々の前に5人の女生徒と1人の教師がやって来る。

第4高校のピンクツインテールの部長であり副生徒会長でもある城嶋由良とアライアンス “ジュウェリーズ”の部長と副部長クラスだ。長身で黒髪ショートの花屋敷華聯もその中にいる。教師は予想通り第6高校の教員、大和田先生だ、我がZ班の星崎真名子の担任だ。それ以外の“ジュウェリーズ”の牝悪魔たちは、にやけながら我々を包囲している。連中は私刑を存分に楽しむつもりだ。


上機嫌の城嶋由良はにやにや笑いながらしゃべりだした。

「ウフフ。えーこほん。みなさん、わたくしの事はしってるわょねぇ。第6高校指導員の城嶋由良でぇす、わたくし第4高校の生徒会長代理でもあります。えー、大和田先生とも相談しまして最近第6高校のオマエラ豚共が!!失礼・・・生徒さん達は生活態度が悪いとのことで抜き打ちで粛清に・・・いえ見回りにきちゃいましたぁ。あのぉ・・・今からボッコボコにしてオマエラ豚共の裸の写真撮ってあげますからねぇ。楽しみぃ」

多分わざと言い間違えながら楽しそうに城嶋由良は哀れな我々の前を行ったり来たりしている。

第6高校指導員ってなんやねん。


まあしかし、虫けらの我々はどうすることもできない。

・・・ああ・・・ヤバいギッタギタにする気だ・・・。

「わたくしのお友達の花屋敷華聯さん達ががお世話になったそうでありますね?・・・それにつきましては今週中にここにいる85人で慰謝料を、そうね。一人2万円でトータル170万円ほど用意しなさい。・・・大和田?全員の名前をリストアップしなさい」大和田先生は教育者っぽくにやにや笑っている。


―――どいつもこいつも頭おかしい・・・2万円も払えるか、僕はなんとか逃げることを考える。まず整理してみよう。


慰謝料って“神の目”の花屋敷華聯さんはさっき6高の生徒を元気に蹴り上げていたが・・・。

城嶋由良の父は製薬会社の社長らしいが社長令嬢ってみんなこんなんなんだろうか、もうちょっときちんと育ててください。


大和田先生はとにかく権力に媚びへつらう癖があるため、西園寺桔梗でも城嶋由良でもその他の権力者でも前にすれば一緒だ。


難を逃れた他の第6高校生徒はまっすぐ校舎から逃げていくのが遠隔視で見える。大和田先生以外の教師は職員室のカギを内側からかけたようだ・・・クズ教師どもめ。


―――助けは来ないな、これは・・・。


両手を広げ、舞台を優雅に移動する女王サマのような城嶋由良の独壇場は続く。“ジュウェリーズ”の牝悪魔たちも楽しそうだ・・・。


「男子生徒は今から全員、裸になってねぇ。女子生徒はぁそうねぇ・・・じゃあ全員、裸でいいわぁ。それからぁ・・・オマエラ豚共が!!・・失礼。生徒さん達が制服を脱いでる間に余興をしましょうかぁ。まず左端からわたくしのいいところを10っこずつ言いなさい。・・・そう、そうあなたよ、あなた。・・・言いなさい。言って・・・立て!殺されたいの!?・・・さぁみなさん楽しい写真撮影の時間ですよ。あ、服を脱ぐのが一番遅かった人は罰ゲームがありますからねぇ」


卑下た笑いの中で、かわいそうな名も知らない第6高校男子生徒は擦り傷だらけでガタガタ震えて泣きながらボソボソと城嶋由良を褒め始めた。


「あ、あの由良様は、び、美人で、美しくて・・・」


突然、城嶋由良がはあっ!とブチ切れた!


「最初っから被ってんじゃないわよブタぁ!!美人と美しいって同じ意味でしょう?ねえみなさん?・・・では粛清ねぇ・・・おまえ後で罰ゲームけってぇ」

由良は自分の陰から鞭を取り出す。魔装武器の使用はランク戦以外で禁じられているが関係なさそうだ。大和田先生も全く止める気配がない。手もみしながら、うんうん頷いている。クズ教師め。


えっと確か城嶋由良は雷属性だ・・・なにか手を考えないと、なんとか自分だけでも助かりたい。


―――ジャジャ――!!


ギャ――――――!!

うわぁ――!!

ぐぎゃ!ごめんなさい!ごめんなさい!!


空を裂く音が聞こえて15人くらいが一度に電気鞭で横なぎで切り裂かれた。

鞭でしばかれた者は苦痛の呻きやギャーと悲鳴を上げ、悶え跪いたものもいるが、一人だけ派手にパッタリ倒れ動かないものがいる。

緑アフロ隊長が倒れた僕に駆け寄って騒ぎ出す。


「もけー!!!もけ―――!大丈夫か!!」


教師のかがみの大和田先生がアフロに向かって叫ぶ。

「貴様!列へもどらんか!列へ!倒れているカスも起きろ!退学にするぞ!」

「ち、違うんです!大和田先生!由良さま!こいつ、もけはAMAがほとんどゼロで一般人と防御力が変わらんのです!・・・ひっ!!あっ!あああ!そ、そんな!し、死んでる!!!」


呆れた顔の城嶋由良が周りの仲間とアイコンタクトしている。ほかの“ジュウェリーズ”の牝悪魔も声を出して笑っている。


「ウフフ。華聯さん、この死んだふりをしている子を見てくださる?」

「はい、城嶋さま、わたしの神の目はごまかせません」

“神の目”華聯は霊視を始めている・・・。


「次は倒れている髪の長い子からわたくしのいいところを20個ずつ言って頂くわ。被ったら分かりますわね?とりあえず全部脱いでからねぇ」


あっという間に華聯は額に汗が出ていて少し震えている。

「―――じょ、城嶋さま」

「はぁい?華聯さんなんですの?」

「し、しんで、・・・心臓がう、動いていません。しんで、死ぬかもしれません」

「は?はあ?!」由良は髪の長い子とやらを凝視している。


緑アフロ隊長が心臓マッサージを始めつつ城嶋由良を見上げている。

「え?冗談でしょう。わたくし軽くしか振るっていませんよ!」

「城嶋由良生徒会長代理さま?もけを、もけを、保健室に連れて行ってよろしいですか?」

威厳は保ちつつも由良はやや調子は狂っている。


「・・・い、いいですわ、華聯さんもついて行ってくださる?」

「かしこまりました。城嶋さま」一礼して花屋敷華聯も保健室についてくる。


―――第6高校、保健室前。

髪の長い子を担ぎつつアフロ隊長は華聯に話す。

「花屋敷さま。先生に見て頂きますから、ここで。保健室前でお待ちください」

「し、しかし。私は見届ける義務が・・・」

「“神の目”の花屋敷華聯さまでしたら外からでもコイツの心臓が見えるはずですし・・・言いにくいのですが加害者がいっしょにいるのはコイツの命に何かあると、あとあと問題になるかと思いますが?」

明らかにやや動揺が見える。


「か、加害者?・・・ええ、ええ、そうね。それではここで待ちましょうか」

“神の目”で霊視は続けているようだ。


緑アフロ隊長は僕を担いで保健室に入っていく。

ドサッと保健室内のベッドに髪の長い僕を寝かせて、何事か叫んでいる。


「キエ――!そ、そんな!!」


保健室の外に走っていく。


「花屋敷様、すぐ救急車を呼びますので城嶋様と大和田先生に救急車の件をお伝え出来ますでしょうか?」

かなり焦った表情になった花屋敷華聯さんは返事もそぞろに中庭に戻っていった。


憮然とした緑アフロ隊長は僕の寝ているベッドの隣のカーテンを開け呟く。

「やはりな・・・。白衣は椅子にかかっておるからな」


第6高校の保健医、毒島渚先生はもう一つのベッドでスカートをはだけつつ、あられもない姿で幸せそうに熟睡しており周囲にはビールの空き缶が何本もある。

「昼間っから深酒しおって。このアル中教師が・・・」


緑アフロ隊長は毒島の身体をまさぐり携帯端末を探り当てた。空き缶をゴミ箱に捨てつつ毒島先生の指で指紋認証を行い、どこかにかけているようだ。

「・・・すみません、降魔中央消防署ですか?じつは第6高校の保健室からなのですが意識不明の患者がおります。意識レベルⅢ-200です。はい、20代後半の女性です。・・・はい・・・はいそうです救急車を要請いたします。・・・はい。わたしは教員の大和田といいます。なるべく急いでください」

アフロ隊長は思いっきり嘘をついて大和田先生のフリをした。


―――ほんの2分程度で救急車のサイレンの音だ。降魔六学園の救急隊は優秀だ。


―――一方中庭では、城嶋由良による粛清は一時中断されていた。

サイレンの音と同時に大和田先生が城嶋由良に耳打ちする。

「城嶋様。あとは何とかしておきますのでお帰り下さい。ここにいない方がよろしいかと思われます」

「そうね大和田。そうするわ。・・・みなさん帰りますわよ。第6高校のみなさま、ではごきげんよう!」そうきっぱり言い切る。


城嶋由良ひきいる“ジュウェリーズ”は驚くほどのスピードで静かに去っていく。




―――第4高校の牝悪魔たちが去って、影も見えなくなってからやっと第6高校の生徒たちは歓声を上げた。倒れていた25人もほとんどが立ち上がっている。


「すみませんー!第一発見者の大和田先生はいませんか?こちらにいらっしゃると聞きましたが?」

オレンジ色の救急隊員が中庭に入ってくる。大和田先生は飛び上がるほどびっくりしている。

「え?は、はあ?大和田は、わ、わたしですが?」自分を指さしてどういう状態か勘ぐっているようだ。

「どういった状況だったか教えて頂けますか?」

「いえ、あの第一発見者といいますか、・・・いい。どういった状況といいますか。・・・あのいきなり倒れました―――。そう、いきなりです。それではい、保健室に運ばれ、運びました」そう、しどろもどろに要領を得ず答えた。


ピーポーピーポー!


ただ酔って寝ているだけの毒島渚先生を乗せた救急車が遠ざかっていく。


緑アフロ隊長は僕を肩に担いで、保健室を出て校舎の裏の小高い丘の陰に行く。


―――第6高校の校舎からしばらく離れ、全く校舎が見えなくなったところで、緑アフロ隊長は僕を投げ捨てた。


「ええい!いつまで!起きろ!」


投げ捨てられた僕はスッと立ち上がる。


「投げるな。あぶない。・・・まあ、上手くいったね」

「まあな、もけ。我々はほぼ無傷。残りの連中も重症者はいなかろう」

「これだけ離れれば、花屋敷華聯さんの霊視も遠隔視も範囲外でしょう。死んだふりするってよく分かったね?さすがはアフロ天才軍師」

「おまえの考えてることくらい予想は着くが、それよりよく“神の目”華聯を騙せたな」

「遠隔視能力は僕の方が上位互換だからね、彼女の能力をずっとジャミングしてたんだ。何かあると由良は花屋敷華聯に見させるからね。シミュレーションの範囲内だね」

なにせ僕は超絶頭がいいのだから余裕だ。


ため息交じりで緑アフロ軍師は腰を下ろす。

「・・・ふう、疲れたな。心地よい勝利の疲れであるが」


さてと僕も座ることにする。

「まあね。これ以上不幸になってたまるか」

「まあ、もけより不幸な奴なんておらん。世界レベルの不幸だ。自信を持て」

珍しくトラブルを回避できた、今日はいい日だ。ジュースはどこかに行ってしまったが。

ここからだと別世界の第1高校が良く見える、ああ~関わり合いたくない。


「―――ぃさまー!」


ん?空耳?横のアフロは目を閉じている。


「――いさまー!」


やっぱり聞こえるぞ。

嫌な予感しかしない。何かが高速で接近してくる。魔力を消費していて今は遠隔視はできない。

アフロ隊長も声に気付いたようだ、二人で立ち上がる。


3人近づいてくる、ああ嫌な予感は的中だ。先頭は如月葵で後ろに緑川尊、さらに後ろに三守沙羅だ、全員竜族だもんな・・・早い早い・・・早すぎる。風のように疾走してくる。


うわぁこっち来るじゃん。


逃げれるか―――無理。


アフロ隊長は役に立たない。

「きっ?」

とか言って動かない。


き、如月葵だ・・・。


目の前に来てしまった・・・最悪だ。

「はあ、はあ、如月の姐さん早すぎるっす。突然なんなんっすか?“念装疾風”を使っても追いつかないっす」

そして、ずっと覗いていた緑川尊だ!目の前にいる、リアル緑川尊は初めてだ。いや2回目か・・・しかし騒がしい。


うう、神妙な顔の三守沙羅も到着してしまった。

「うちもつられてしまいました、如月さん。この人たちはどなた?」


目をうるうるさせているような気がする如月葵はとんでもないことを言う。


「兄さま」


僕はアフロを見る・・・動いていない。

まっずいな・・・如月葵は明らかに我々を見ている。

変な声を出し、ガニ股で手をばたつかせて緑川尊がすごい変顔で驚いている。そして三守沙羅は両手で自分の口を押えた。


これはあかんな。もうあかん。


「えええ!!!」

「!」


―――一瞬、時が止まっった―――気がした―――。

(なにを言い出すんだ如月葵!いやあどうするんだ!)


「おおおお、おに・・・お兄様ですか?」


驚くとこんなに造形が壊れるのかという位のロミオ以上の変顔で緑川が驚愕している。

僕とアフロ隊長の顔を交互に見ている。まあ、アフロ隊長は緑のアフロに黄色いツナギ―――まるでブロッコリー。僕は上半身はほとんど顔もすべて黒髪で隠れ、分厚い眼鏡をかけている。赤いジャージは長すぎて手足は隠れて身体は赤いワカメの妖怪のようだろう。


そうして緑川尊ははゆっくり如月葵の方を向いて困った顔でこう言ったのだ。

「あの?どちらがお兄様でしょう?」

天使のような表情を全く崩さず如月葵は緑川を右ストレートでぶっとばし、そしてあろうことか葵は超スピードで我々二人の方に突っ込んできた!


「兄さま~」とか言って両手を広げている・・・なんの攻撃だ?


―――グフ!!


うわっ!!如月葵に抱きつかれ衝撃で身体が真っ二つに裂けそうになりながら僕は押し倒されつつ空中を真横に飛んだ。

そのまま連続技で僕の胴体を抱きしめてくる、ぐわぁあああああ。

(死ぬ?内臓がうわ!折れる背骨!砕けるどっかの骨・・・ばか!この腕力ゴリラ女!うわあああ!こ、殺される!)


「・・・・おち、落ち着け」


何とか発声できたが・・・離れろぉお!


「兄さま、お久しぶりです。会いに来るなと言われておりましたが・・・お姿を見て。いてもたってもいられず申し訳ありません」顔を赤らめて意味不明なことをベラベラと・・・。

(いいから離れろ!抱きつぶされる・・・バカか・・・自分のゴリラ以上の腕力を考えろ・・・このままでは抱き殺される!)


「・・・わ、わかったから、離れような葵。うん?」


アフロは石像のようになっている、役立たずな軍師め。


「お兄様、独特。いえ個性的」

口を押えて三守沙羅が何か言っている、じゃあお前が助けろよ。


おお?緑川が猛然とダッシュして僕の前で急停止した、こわあ。いや助けてくれるの?

「お兄さま、わたくし葵さんと交際させて頂いております、緑川尊というものです。以後お見知りおきください」髪をかきあげて何を言う・・・タスケテ。


「初めまして、お兄様。うちは葵さんのチームメイト三守沙羅と申します」

あいさつなんてどうでもいい。まだ抱きついているこのバカ力女を何とかしなくては内臓がどうにかなるか、骨折してしまう・・・ぐうぅうう痛い・・・力いっぱい力入れても引き離せない、岩かお前は!


「兄さま、お元気そうでなによりです」僕を抱き潰しそうになりながら葵は何かごにょごにょ言っている。頭おかしいんかお前!

(おまえが来るまでは元気だったんだよ、お前が来るまでは!イタイイタイ、イタイよぉ~抱きしめるな!)


「・・・わ、わかったから離れよう。な、葵」ひぃ、たすけてぇ。

「あ、ごめんなさい、兄さま。つい私ったら」


はあはあ・・・。やっと離れたかこの暴力女が。なにが私ったらやねん。それになに顔赤らめてんねん。あほか!


「如月さんが敬語で会話、きょ、驚天動地」

「お兄さん、お兄様。こんなに早く肉親のかたにご紹介して頂けるなんて!この緑川、こんなにうれしいことはございま―――いたたた!」お前らなんかどうでもいいんだ。

騒がしい男は葵に睨まれてツネられて最後まで言えなかったようだ・・・しかしまずいな目立つのはマズイ、どうしよう。


横目でアフロを見る・・・アフロ助け・・・だめか石像のようだ・・・この、やっくたたず!あとで100円位よこせよ!ぼけぇ!


「兄さま交際してるなんて嘘ですよ、嘘!・・・嘘はよくないわ緑川君、後でどうなるか分かってるよね・・・」何殺気立ってるん、こわくてこっちが気絶するわ!


もうこいつら、なんなんだ!一体全体!なんで第6高校敷地内にいるんだ?これ以上不幸になってたまるか・・・ああ、僕は超絶頭がいいのだ・・・何か方法が浮かぶはず・・・なんにも思いつかん・・・ああ、積んだ。


―――葵が最初に異変に気づいたようだ、遅れて僕も気付く・・・こっちに高速で接近するものがある。


「兄さま、何か来ます!」


(もう矢でも鉄砲でも何でも来い、何が来てもこれ以上事態が悪くならないだろう)

魔力を集中し緑川と三守さんは軽く身構える、うちのアフロは全くさっきから動いていない。


―――ええええ?あああ!ああああ!!!最悪だ!もっと世界中が最悪だった!


あああ、あれ、あれは・・・!


あれは・・・西園寺桔梗と更科麗羅と高成弟だ。第1高校生徒会メンバーにして3人とも降魔六学園十傑に名を連ねる。全国大会でずっと優勝している大嫌いなチーム“ホーリーライト・ザ・ファースト”のメンバーだ。


最悪中の最悪・・・うわあ吐きそう。


“ドラゴンディセンダント”の葵と三守沙羅、そして緑川尊に緊張が走る。

葵が全部悪いんだ・・・さっさと桔梗を倒さないから役立たず・・・。


僕らの10mほど手前で急激に減速した西園寺桔梗が「これはこれは」とこちらに向かってあいさつしてくる。「あちゃあ」とか言いながら更科麗羅はプカプカ浮いており困った顔でこちらを眺めている。とにかく高成弟は直立で部然としており威厳を見せている。3人ともかなり高速で動いていたにもかかわらず息一つ乱れていない。


ああああ!ヤバい!・・・西園寺桔梗がこちらに向かってくる、如月葵も西園寺桔梗の方へ向かっていく。


全員、いますぐ冥界に行ってきて帰ってきてほしくない。


先に口を開いたのは葵だ。

「何の用だ!西園寺桔梗!話しならさっきついた!秋元未来の話しも終わった!追いかけて来てなんのつもりだ!やっぱり決着つけようってのか!」怖ぇえコイツ。

「ん?いたのか?如月葵。おまえになぞ用は無い」お前はもっと怖ぇえ・・・。

「なんだと!」お願いします・・・どっか行ってぇ。


僕が何したって言うんだ。ああこれ以上不幸になってしまう。

あああ・・・西園寺桔梗は全く葵を無視してこちらにやって来る。


ぼ、僕を食べる気だ・・・。


そして軽くお辞儀おして「お久しぶりです」と優しそうににっこり笑った。

極悪人の西園寺桔梗が笑うはずはない、作り笑いだろう、油断させる気だ。


突然、僕は両手で抱えられた!いや抱っこされたと言った方がいい。文字通り西園寺桔梗は僕を両手で抱っこして振り回している。いや、おまえも痛い、イタイ!力を押えろ!遠心力で身体がもげるぅうううう!腕ぇ足ぃ取れるぅううう!


「げええええ!!!き、ききょう、桔梗様、な、な!!」


こいつもとんでもない顔になって高成弟が気持ち悪い声で驚いている、さっきまでの威厳はどこいったんだ?兄貴はまともだったのに。


空中で更科麗羅は「あちゃー」とか言って目頭を押さえている。


ああ助けてぇ、このままではバラバラにされるぅ。


「なんのつもりだ!離れろ!桔梗!!!兄さまに馴れ馴れしい!」

葵が紅い魔装鎧を纏って迫力満点だ!いやいや違う!近くで魔装するな!あぶないわ!バカか!

葵を横目に西園寺桔梗はそっと僕を地面に立たせる、そして顔を多少赤らめて言った。


「フィアンセである」


「兄さまに無礼を働くとは!桔梗ぉお!!!んん??」

「・・・婚約していると言っている。私と彼は婚約している」


「はあ???」

(もう人ごとのように思える自分がいる、彼って僕の事ですよね・・・桔梗さん、なんで。なんでもう・・・・・・ばらすなよ!・・・今日はぶっちぎりでぶっちぎりな日ですか?)


「ええええええ!!!!しぇ!げえええええええぇぇぇぇ!こ、こんにゃく!こんやくう!ききょ、ききょう。ききょぉさま!」大丈夫か高成弟・・・。


「えええええ!婚約っすか、お二人がっすか!ええ!まじっすか!」

「あえ!えええ!!!・・そ、それは驚愕の事実!うち今日は大変驚きの連続」

「あちゃぁ」あちゃーじゃないよ。こっちだよあちゃー言いたいのは・・・。


どうにも収まらない葵は、魔力が殺気立っている・・・ヤル気だ!いかん!下手したら僕は葵の力の余波で重傷以上になる・・・つまりこの世を去る。


「かんけーねえ、桔梗!兄さまを不幸にするやからは抹殺する!さっきの話はナシだ!おまえとは決着をつける!今ここでぇ!!」ひぃいいい・・・ここではやめてぇ。

「私は貴様などに用はない。しかし、それともまた負けたいのか?如月葵!」挑発すんな極悪人め。


殺気立つ葵に呼応して西園寺桔梗の魔力も膨れ上がっていく。

あほか!

だめだ、だめだ、だめだ、僕とアフロは2人が激突すれば余波で即死する!?


計算しろ!自分!超絶頭いいんだから・・・多分。


生き残るには?考えて自分!どうする自分?あれか?うわーあれか!あー!もう仕方ない。


僕は危険極まりないことをした、2人の間に割って入ったのだ・・・これ以上不幸になってたまるか!

「二人ともストップ。ここは第6高校の敷地内、でしょ。そもそも他校のものは戦えません。桔梗さん?私闘は禁止ですよね?」もう少しで気絶する・・・。

「無論、・・・はい、もちろんです」

「葵?迷惑をかけるなと言ったはずだよね?会いに来るのも禁止だよね?」来んな、ぼけぇ。

「兄さま、分かってます。迷惑は決しておかけしません」迷惑のかたまりや。


(・・・うわぁあ。こ、怖わぁ。なんとか一触即発の現状は収束しそう?しないと・・・どうなる?)


竜神のごとく異常な強さの二人が無言で睨み合うのも怖いが・・・・なんとか落ち着いたようだ。落ち着いたね・・・落ち着いた?・・・大丈夫そう?・・・よ、よかったよ、僕の命。ありがとう命。感謝します命。やってられないよ命。


いつも騒がしい緑川尊ですら静かになり、三守沙羅も無言無動。アフロはそもそも石像のよう。様子がおかしい高成弟はかなり僕を睨んでいるような気がするがまあ気のせいだといいが。あちゃーとまた言っている更科麗羅はヤレヤレといった感じだ、君はいつもいい役回りだね。


「兄さま、お会いできてうれしかったです。あと兄さまは私が守ります。命に代えて!」お前が会いに来なければ長生きできる。


「一度くらいお茶会に来てください、またお誘いいたします。第1高校への転校も今一度ご検討ください、ぜひ同じクラスに・・・しかし・・・今日はお話しできて嬉しかったです。とても」顔を赤らめて殺意の表れか・・・お茶会で僕を黄泉へ誘う気なのは分かっている、毒殺する気やな。


暴力わがまま娘の如月葵とスーパー極悪人の西園寺桔梗はそれぞれ僕に挨拶をして取り巻きと一緒にそれぞれの学園方向へ帰っていった。



―――あたりはいい風が吹いてきた。夕焼けが綺麗だ・・・生きてる・・・ああ生きているってスバらしい。


風が吹きすさぶ中、緑アフロ隊長はずーっと全くうごかない・・・緑のアフロだけ風になびく・・・まさしくシュール。


おかげで僕も帰れない。僕の役に立ってくれませんか、少しでいいから。

「あの?アフロ隊長?」

「・・・まっ!」

「いい加減、復活してくれる?アフロ?」

「まっ!」

「なんか言うことないの?」

「まっ!」なんやねん。


(う~ん。なんだかな~)


「お金貸してアフロ隊長?」

「キエ―――!断る!」

ほんとにまあ・・・コイツも。


「・・・・・・喋れるじゃないか。アフロ隊長。なんか一個くらい助けろよ。生きた心地しないわ」

「もけ、あのな、あんなもん助けられるか!ふざけるな!恥を知れ!恥を!」

(意味わからないよ。アフロ。・・・あれ?あれ?あれ?)


「いた!あいたた!痛い!」


痛い!・・・僕は左わき腹を抑える。少し押すとメチャクチャ痛い。僕はしゃがみ込む。


「なんのまねだ?もけ?」痛いっていってるのに全く心配そうじゃない・・・。

「ああ!やっぱり!痛ったあ!折れてるかも?いたぁい」

「な、なにが?なんで?城嶋由良のムチ攻撃あたってなかろう?」

「いや今、葵に抱き着かれたからか、桔梗に抱っこされたせいか・・・分からないけど・・・折れてるかも!肋骨が!」どうしよう・・・いたたたぁ。


「・・・ま、まじか、・・・虚弱体質か?もけ」


なんでやねん!ああそうだ保健のアイツを使おう・・・あ!また、いたぃ。

「痛ったあ!あぁ保健室戻ろう、たまには毒島センセに役に立ってもらわないと・・・」

「いやだから、毒島渚先生は今頃病院の救急救命室であろう。まあ今頃は目覚めて激怒してるだろうが、救急車を呼んだ大和田先生にな」

「まじかよ。いったぁい!役に立たない毒島ぁ!アル中の呪い屋めぇ。いつか仕返ししてやるからな!とにかくもどって救急カートから回復アイテムぱくろうょ。・・・ああああ!痛いって!・・・優しく優しくだってぇ」


「大声で騒ぐから痛いのであろう。まあ、もけ!あれだ!間違いない!おまえはこの世で一番不幸であろう、自信を持て」


(自信はあります)

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