第12話1-9.葵と桔梗と主人公の資質

―――あっという間に次の日はやって来る。

場所は第1高校の執行部執務室のそのまた奥だ。

時間は15:45を少し過ぎている。

桔梗がいつも一人で修行していて、その間は入り口に高成弟がいる例の闘技場だ。

白連塔びゃくれんとう・・・通称ホワイトタワーと呼ばれる・・・。かなり巨大な塔だが一般生徒も教員も執行部役員以外は立ち入り禁止だ。


しいて言えばここしかないのだ。この闘技場はTMPA52000を誇る桔梗の練習場所だ。他の闘技場とは比べ物にならない強力な多重結界を張ることができるのだ。昨日の戦闘で第3高校の建造物は大ダメージだった。ここならばと言ったところだろう。


西園寺桔梗を先頭に高成崋山と更科麗良は左右にいて白い石畳の上を歩いていく。屋根も着いているがこれも白い石でできている。少し傾いた5月の日差しが差し込んでくる。

それにしてももうすぐ6月だが、今日は暑いか。

その後を如月葵と緑川尊、三守沙羅はついて行く。

教官は一人もいないようだ。何かあった時の回復は麗良がいれば問題ないか。


敵に背を見せるのは余裕か・・・。


スタスタと歩く桔梗の真後ろに葵がいるのだ。

「敵に背中見せてんじゃねえぜ!桔梗・・・」

うん、やっぱそう思うよね。逆にイラつかせる気か?まさかな。

「ふふ、隙あらばいつでも攻撃してくるがいい」

振り向きもせず桔梗は応えている。


白い石畳はかなり長く、渡り廊下になっている。

「・・・今日で終わらせてやる・・・」

「私語を慎め、1回生」

かなり厳しい語調は高成弟だ。まあ昨日負けた緑川が後ろにいるし意識しているのだろう。昨日は散々周りに当たり散らしていたのだ、取り巻きはいい迷惑だっただろう。

「時に葵殿下。もう体調は宜しいのかな?」

「ノープロブレムだぜ!」

そうはいってもアジ・ダハーカ戦は無理をしまくっているからな。自爆技のオンパレードだったのだ。まだ完全には回復しきっていないだろう。


プカプカ浮いている麗良はチラチラ後ろを振り返っている。

「そうそう、これは独り言だけどぉ。昨日深夜に犯罪者集団ゲヘナとソードフィッシュの対テロチームの間で戦闘になったらしいわ、またまた横浜でね」

「そうなんすか?」

「ソードフィッシュが優勢だったそうよ」


「それは良かったっすね」

「更科も私語を慎しまんか」今日の高成弟は機嫌悪いな・・・。まあ自分を負かした緑川尊を第1高校に編入させる・・・しかも“ホーリーライト”の一員にするつもりだなどと桔梗が朝っぱらから言えばそうなるわな。もちろん桔梗は葵も“ホーリーライト”に入れるつもりのようだ。むろん、葵も緑川もそんなことは知る由もない。


白い螺旋階段を登って闘技場の大きな入り口だ・・・左右の巨大な扉が開いていく・・・ここも白い。


どうも如月葵と西園寺桔梗の二人きりで中で戦うようだ。残りは外で待機か。まあその方が気兼ねないか、味方を巻き込みたくないだろうからな。


昨日は盛り上がっていたが・・・緑川と三守はかなり緊張している。まあ仕方ない。

桔梗は振り返りもせず白い闘技場に消えていく。高成弟は壁にもたれ麗良は空中を漂っている。


肩をほぐしている葵の目の前に緑川がやってくる、沙羅もだ。

「姐さん・・・せっかくの強敵なんで楽しんで下さいっす」

「ご武運を・・・」

「名残惜しそうにすんなよな、二人とも。あたしを信じろ!」

3人はがっしり握手した、短い時間だったが何らかの結びつきを感じているのだろう。


葵も振り返らずに白い闘技場に消えて・・・左右の巨大な扉は閉まっていった。

ん?葵の胸の緑の喪失石が光っている?気のせい・・・か。


中に進むと葵には見えている・・・桔梗は既に魔装している・・・もともと竜王家の鎧・・・“黒水晶の鎧”だ、白い闘技場に黒い鎧は映える。昨日と違って桔梗は“バルムンクグレー”だけでなく“精神のラージシールド”も装備している。完全武装するのはレマと戦う時だけなのだが・・・今日は本気か。


対する葵も紅い鎧をまとう。“紅龍之鎧”だ。はるか昔に失われた竜王家の秘宝だ。


静けさの中にビリビリした緊張がある・・・。


雌雄決す・・・とういわけだ。


「ここでは思い切りできるぞ・・・校舎を壊す心配もない・・・攻撃範囲を絞る必要も無い」

「はなっからそのつもりだよ!西園寺桔梗総生徒会長さんよ・・・」

脱力している葵は昨日とは別人のような気迫を水面下でみなぎらせている。

戦闘前に桔梗が笑うのは珍しい。

「ふふ。そうか。ではいくぞ、如月神明睦月葵竜王女殿下」

「・・・その名であたしを呼ぶな・・・」

そして何か不思議な表情で葵も笑う・・・。


葵が桔梗に勝てる確率・・・単純計算だと約10%・・・。アジ・ダハーカ戦で使った3つの自爆技の組み合わせは数年は使えない。一つでも使えば死に至るだろう。



―――外まで鳴動が聞こえてくる・・・。

「始まったっすね、姐さん」

闘技場の扉の前に立つ緑川は呟いた。



―――本気の葵のスピードは昨日とは・・・さっき別人のように感じたのは間違いではない・・・今までの最速と比べても一段早い・・・一日でレベルを上げてきたのか。


“ダブルチャージ”

“コンセントレーション”

“エラスティックショット”!!


両腕からレーザーのようにエラスティックショットを葵は撃ちまくっていく!中級魔族が一撃で倒せるほどの威力だ。桔梗はそれをラージシールドで防御していく。


“金剛体現”!!

“威神即断”!!

“雷光乱装”


爆発的な直接的攻撃力の葵と、桔梗は防御アップ、俊敏性アップ、攻撃力アップだ。

葵は速攻で桔梗は持久戦に持ち込む気か・・・。


非常に硬いはずの白い闘技場は葵のエラスティックショットで穴だらけになっていく。


・・・間違いない・・・もう葵はレマより強い。

これは頂上決定戦だ・・・。


何やら吹っ切れている葵のスピードは早いし速い。ジェニファーを遥かに超えている。


昨日よりずっといい勝負だ・・・だが不気味だ・・・桔梗にダメージはない。

桔梗の騎竜はヒドラ・・・五つの頭に五つの属性という本当に反則の竜だ・・・つまり・・・使用できる魔術が異常に多いのだ。

今も様々な属性の自己強化魔法を唱えている・・・。非常に厄介だ・・・昨日魔装を壊されたために・・・実力そのものが上なのに慎重に戦闘をしている。


強化魔法を重ね掛けされると・・・時間が立つと葵に勝ち目が無くなる・・・。


徐々に桔梗が攻撃に転じている・・・。技ではない・・・ただ剣を振っているだけで大気が歪むほどの凶悪な攻撃力だ・・・。


エラスティックショットでは倒せない・・・葵がそう思うのは自然だ・・・少しずつ傷ついている紅龍の鎧の破損が大きくなれば・・・例の必殺技は使えない・・・。


賭けに出るのは仕方ない。


“マイグレーション”

“エラスティックショット”!!


真下に向けてエラスティックショットを撃つ。

そして白い床をくりぬいてつくった巨大な岩石を桔梗に投げつける・・・重量はあっても・・・桔梗なら余裕で避けるのは当然だ・・・それどころか間合いを詰められてバルムンクグレーの一撃をもらう・・・!


ズシャ!!!


両腕をクロスさせて手甲の一つ一つの鱗を剣のように立ててバルムンクの一撃を受け止めるが無傷ではすまない・・・。

桔梗がもう一撃葵に入れようとした瞬間・・・真下からエラスティックショットが出現する!葵は鋼線を切って“エラスティックショット”を真下に隠していたのだ・・・ただし攻撃力は低く・・・桔梗にからみつくだけだ。


いや桔梗だけではない葵にも絡みつている・・・。


そして一気に葵の鎧が変化していく・・・。


龍の咢が葵の前面に形成されていく・・・これは・・・桔梗の身体にドラゴンが噛みついた形になっている!これを狙っていたのか確実に攻撃するために・・・。


葵の右目は輝いて・・・燃えるような竜の右目も赤く輝く・・・霊眼を発動させたのだ・・・。

ドラゴンヘッドはまるで本物の竜のように牙が生えており桔梗を咥えて食い込ませている。

「おおおおお!!!」葵は叫んでいる!

防御力の非常に高い纐纈を金剛陣ごと倒した技だ!


“極大火焔粒子咆”!!


そのままブレスで桔梗を焼き尽くす勢いだ!!

竜の口から左右に炎が噴き出している!!


“紅蓮返し”の頭部は桔梗に噛みついたまま火焔ブレスを発射する・・・!!


んんん?ん?


「はあああああああ!!」

何をする気だ桔梗は・・・両腕でドラゴンの頭を押さえ込んでいる・・・!

いや余計に牙が自分に突き刺さるんじゃ?


んんん?いや?ちょっとまて・・・。


何する気だ・・・ああああ?


非常に硬いはずの竜の顎が変形するほどの腕力だ・・・!ドンドン締め付ける!!

あれあれ!おお!まじか・・・口を開けない竜の火炎ブレスが行き場を失って竜の頭部の部分が膨れがっていく・・・巨大風船のようにだ!


ドォオオ――ン!!!


竜の頭は大爆発した!闘技場中が閃光に包まれる!!!


凄い威力の爆発だ・・・。


この爆発でも桔梗は無事か火炎耐性上げまくってるな・・・。

ああ・・・葵は動かない・・・体の前面の鎧は消し飛んでいる・・・これだけ破損すると火炎粒子咆はもう使えないだろうし・・・あの爆発でいやそれどころか生きているだけまあ良かったか。


負けだな・・・葵が立つことは・・・?って・・・?た、立ってる?

なんで立てる・・・気絶してるぞ・・・!いや・・・やっぱ気絶してる・・・。


怪訝そうな桔梗だが攻撃する気か?


“雲雷一現”


頭上からのいかずちの一撃を葵は勿論くらう・・・。立ってるけど気絶してるからな・・・。

そして倒れ・・・ない?なんで?


シャッ!!


はあ?熱線!!!桔梗の身体が一瞬で燃えている・・・。

どこから・・・葵の右手から?葵の右手甲の形が変わっている・・・。れ、レーザー砲みたいのが付いてる・・・。


桔梗は上に飛んでいる。ものすごい魔力・・・!


“剛毅集中”

“一死爆雷列斬”!!!


再び闘技場は稲光で真白になる!!手加減抜きだ・・・!葵は気絶・・・葵に起きている現象は・・・なんだ?


んん?バリア?


気絶中の葵は球体バリアに守られて今の攻撃くらっていない!

いやいやなんだ・・・?


んんん?葵の身体のレーザー砲のようなもの右前腕だけじゃない左前腕・・・両大腿にもある・・・ちょうど額のあたりにも・・・5門・・・?


“雷光覚醒陣中”!!


とんでもない威力の桔梗の覚醒魔法はまたしてもバリアーで弾かれている。


んんん?さらに葵の両肩からエラスティックショット??が引き戻されずに2本の触手のようになり・・・先端にまたレーザー砲のような・・・普通に考えると戦闘準備できたような感じだか?


早い!


お?見失う??

さらに早いぞ・・・葵!

そして全身の計7門のレーザー砲のようなところから熱線を撃ちまくる!撃ちまくる!!

この熱線は・・・数万度?何発も桔梗がくらっている・・・!

つまり“極大火焔粒子砲”を7ヵ所から撃ちまくっている??


どこにそんな魔力が??


竜気か?別名ドラゴニックオーラ?

竜の召喚士が特別視される一つの理由だ・・・もちろん稀な事項だ・・・稀にだ・・・ピンチの時、実力以上のTMPAを発揮する場合があるとは知識では読んだことがあるが?

だがこれはおかしい・・・意識を失って・・・その時に戦える・・・わけないだろ??


何が起きている?よく見ないと・・・。


んん?魔晶石だ・・・葵じゃない・・・魔晶石が戦っている??

つまり・・・つまりつまり・・・。


影の中の“紅蓮返し”か?

宿主がピンチで一時的に契約している火竜が葵の身体を操作している??


それだと魔力の流れが一部逆にならないと説明が・・・ん?逆になってるね・・・逆だな・・・。


聞いたことも無いが・・・葵の身体は今・・・影の中の“紅蓮返し”が操作して戦っている。葵のTMPAは4万ほどだが跳ね上がっている・・・つまり・・・非常に稀な竜気(ドラゴニックオーラ)を纏う状態のさらに稀な状態??


すさまじいスピードで飛びつつ桔梗に数万度の熱線攻撃をしていく!!!


これは桔梗・・・負けるぞ・・・。


しかし魔晶石を流れる魔力回路に逆向きに魔力を流したら・・・ソケットが破損するな・・・葵の魔装はそんなに長く持たないぞ・・・。魔装が消え去る前に桔梗を倒すか・・・桔梗が耐えきるかって・・・えええ?あれ?あれ?桔梗はほぼ無傷??


なんだこれ?んん?


あれ?桔梗のメインクリスタル“碧玉親王鏡”もおかしいぞ?

んんんん??わけわからん・・・葵だけじゃない・・・桔梗もTMPAが上がっている?二人とも6万以上??いやいや6万って世界チャンピオンクラスだ。

二人の魔晶石・・・なんでよく見えないんだ?両者が激突する度に魔力の流れがおかしい・・・印が消えかけてる??まあなんとか最後まで―――




―――って、あれ?あれ?見えない。桔梗も葵もどっちも見えない」


僕は髪の毛だらけの顔からあわてて分厚いグラスの眼鏡を右手で外しレアなマジックアイテムの眼鏡が壊れていないか確認する、眼鏡はそうマジックアイテムなのだ・・・壊れていない。眼鏡を持つ僕の両手は赤いジャージの袖が長すぎて両手とも服の中だ、両手から赤いワカメが生えているような感じだ。そして僕の顔は真っ黒い長髪で顔を完全に隠しており全く人からは顔が見えないはずだ。


「おい!もけ・・・どうした!もけ?トラブル発生か?」


黄色いツナギに緑のアフロの奇妙な男子生徒が突然目の前に現れた、いや現れたんじゃない。今まで第1高校の白い闘技場での桔梗と葵のバトルを覗いて解説していたため目の前にいたが見えていなかったのだ。

隣のシャツをだらしなく外に出しているオールバックのリーゼントが僕に手を合わせて拝みながら割って入ってくる。

「いいとこでなんだよぉ、なんだ?頼むぜ!バトルの続き教えてくれよ!もけちゃんよぉ!頼む!!桔梗と葵ちゃんのバトルどうなんだよ!気になんじゃねえか!」


“もけ”と呼ばれた僕は肩を竦めて呟く。

「だめだ、ヴィジョンアイが壊れたみたい。さっきの衝撃で桔梗のも葵のも覗けなくなっちゃったね」

いま僕に話しかけてきたのは緑のアフロの緑アフロ隊長と、金髪オールバックのオールバッカーだ。二人とも掃きだめ第6高校の僕のチームメイトだ。その後ろの巨漢、村上謙哉君とチビハゲの青木小空君も口々に言う。

「え―――もう覗けないんですか?」

「二人のバトル、すっごい楽しみにしてたのにです。もけさん、あなたには全く残念無念アジアンエキゾチックです、ファンタスティックなエロエロバトルはどうなったんですか?」エロ要素皆無だったが・・・しかし青木小空君もヒドイことをいうものだ。


名前の通りの緑アフロ隊長が緑のアフロを左右に激しくフルフル振っている、黄色いツナギのせいもあるが、いつも思うがでっかいブロッコリーみたいだ。

「もけ。おまえ覗く以外の能力が無いのに覗きを失敗するとは不届き者であろう。覗き屋失格だ、間違いない!再接続はどうしてもできんのか?」

“もけ”は僕のあだ名だ、仕方なく僕は答える。

「いや僕は覗き屋じゃないと何度言ったら、僕は非常に高い能力の遠隔視能力者です。印をつけた魔晶石を通して結界の中でさえ覗けるという―――」

「キエ――!だから職業兼趣味は覗き屋であろうが!」

違います・・・緑アフロ隊長に違うんだ、といいかけたが僕は気になってることを分析する。


「特殊な状態の葵とそれに呼応した桔梗のメインクリスタルが二人の魔装鎧にありえない負荷を掛けっぱなしでぶつかり合って競ったせいだろうね。メインクリスタルと魔装鎧をつないでいるソケットの箇所が過負荷で破損しかけているんじゃないかな、通常ありえないけど。まあ二人の魔装はもうすぐ消滅するでしょうね」

緑アフロ隊長は眼を閉じてうんうん頷いている。

「キエ―!なるほど、勝負はそろそろ決着の時か。雌雄決す・か。・・・仕方あるまい。明日の電子新聞をクビを長~くして待つのが吉であろう」

と言うや雑誌を読みにもどって行ってしまう。僕にねぎらいの言葉とかないんかい。


「おれっちはヤだぜ!おれっちのドローンの出番だぜ!!」

金髪オールバックの通称オールバッカ―は叫びながら部室をダッシュで出ていく。村上謙哉君と青木小空君は将棋を部室の隅で始めている、青木君のハゲ頭がキラリと光っている。緑アフロ隊長がゴシップ雑誌を読みながらつぶやいている。

「ドローンじゃ結界一つ越えられんし、第1高の敷地にすら入れんだろう、やはりウツケであろう。オールバッカ―は」まあうつけには違いない。


(しばらく桔梗も葵も覗けないな、二人とも魔装鎧を再整備して修理してくれないと。そして修理が終わったら二人の魔晶石に印を付けなおさないと覗けないじゃないか)


ああ・・・なんでこんなに気分が滅入るのか・・・ああそうか・・・そうだ。

ここ50日ほど昼夜を問わず桔梗か葵を覗きっぱなしだったためか僕はひどい喪失感に見舞われているのだと分析する。


僕は右手で眼鏡を持ち左手のジャージでゴシゴシしつつ眼鏡を光に透かして見る。

「まいったな、すっかり自分を見失ってた。自分の人生の主人公は自分なのに、主人公を忘れるとは」最近覗きすぎてたもんな。反省しよう。覗きはいけません。


僕の人生の主人公は僕・・・。


―――僕は欠伸しつつ我々の練習場にして部室―――間借りしている取り壊す前の旧美術講堂―――の壁の巨大な少し割れた鏡の前に行く。

鏡には僕が写る、身長153㎝、男性、血液型A型、星座は蠍座、髪は黒くとても長く、髪の毛ですべて上半身を覆っている。顔も髪で見えない、しかし髪の上から眼鏡をかけているためこちら側が体の前面であることは見れば分かる。第6高校指定の赤ジャージを着ているが丈が大きすぎて手足が完全に隠れ四肢末端から赤いワカメが生えているような容貌だ。

赤ワカメを引きずって歩いている、これが僕だ。第6高校3回生、妖蟲族の召喚士、TMPA3000弱、特殊攻撃型・・・といっても遠隔視以外の能力は皆無に等しい、公式戦は棄権と病欠を繰り返し0勝0分け全敗、校内戦は0勝2引き分け、あとは棄権し不戦勝を相手に大量に献上し続けている。2引き分けは能力を使い、屋外戦で試合時間5分を隠れて逃げ続けたのだ。次に公式戦を棄権すれば選手として登録抹消されると大会本部から再三の警告をされている。


そして、そして、いつからだったか“髪の毛妖怪”のあだなが“かみもけ妖怪”になり、現在は略して“もけ”と呼ばれている。これが僕の現実。あの才能溢れる鬼神のような高校生召喚士史上最強の桔梗とさらに天真爛漫な才能の塊、伝説の紅蓮返しを使役する上、竜王の霊眼も併せ持つ葵を見続けていたせいで・・・自分がひどくひどくみすぼらしく小さく矮小に感じてしまう。


―――ズ・ズ


ん?鏡が揺れている?


―――ズ!ズゥ―――――ン!


突然、第1高校の方角からだろうか、長い地響きを感じる。


プレイガールと書かれた雑誌を読み出していた緑アフロ隊長が本を下ろし神妙な顔つきで僕に話しかける。

「これは決着の響きであろうな。しかしあいつら戦ってるとこからここまで、どれだけ距離がある?しかも戦闘はホワイトタワーの超強力多重結界内で行われているわけである。とてつもないエネルギー・・・思い当たる技の予想は?もけ?」

自分の髪の毛だらけの顔の顎のあたりを僕は赤ジャージから出ていない右手で摩りながら回答する。

「勝敗が決しただろうことは賛成だけど、何の技をどちらが使ったのか分からない。・・・おかしいな、ここまでの大威力の衝撃・・・こんなレベルの攻撃はずっと二人を覗いていたけど習得してないはず、知らないな。桔梗戦で竜気(ドラゴニックオーラ)に目覚めた葵の新技か、もしくは桔梗が練習して一度も成功していない古代のアレかな」

「キエ―――!もけ。桔梗がもし負けたなら面白いことに発展するであろうが・・・しかし俺の予想は外れんよ・・・間違いない、桔梗の勝ちであろう」まあそうかな。


(―――まあ、どちらにしても覗けない以上は明日を待つしかないか)

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