第9話1-7-3.戦闘は否応なしに開始される―――古代の竜は現る現る―――

―――第3高校の上空から1-Aの教室へ・・・。


本年度の春季大会の結果は新人戦は如月葵が新人王に、団体戦は“ホーリーライト・ザ・ファースト”が優勝、個人戦は西園寺桔梗が優勝した。まあ順当であったわけだ。さらにさらに如月葵の存在は第3高校のみならず情報に疎い他校にも知られる存在となった。


まだ1限目も始まっていない。

眠そうな葵が自分の席につこうとするとドスドスと水着の女性が近づいて来る。ん?いつも一緒に登校するはずの未来はいない・・・病欠か・・・。

「どこへ行っていたのでありますか?」えらい剣幕で怒っている。

「ど、どこって何言ってんだ?アスモ?おまえが勝手に先に帰ったんじゃねえか」

「何を言っているのでありますか?大ピンチなのであります。こんな時に皆さんは」

何故か葵たちを非難し、そしてアスモはぴょんぴょん跳ねる。

「なに言ってんだ?」本当にな・・・。

「はやくみんなを集めるであります!」

はやく、はやくとまだ跳ねている。

あまりの勢いで葵すら気おされている。

「わかったじゃあ昼な?」

「ダメであります・・・慌ててるのであります」そしてまた跳ねる。

しょうがねえ―――と葵は席を立った。


“ドラゴンディセンダント”のメンバーはアスモ、葵、緑川、三守、ロミオが自分たちの部室・・・体育館の1室に集まった。未来はやはり病欠だ。

仕方ないので1限目はみんなでサボることにした。


部室の中ほどで軽く円陣を組んでいる。

「どうしたんすか?そんなに慌ててアスモちゃん?」

「慌てるに決まっているであります」

まだぴょんぴょん跳ねている。

しかしみんな真面目な顔をしている・・・何かあるのか?そんな感じだ。

「カマイタチ事件の時に思い知ってるんで・・・アスモちゃんの話しはちゃんと聞くっすよ?」まあそういうことだ。


「何の話でありますか?そんなことよりもであります!世界が、世界が滅ぶであります!危険であります!」「まじなんか?」ロミオが大げさに驚く・・・早いっちゅうねん。

「それは大げさっすけど詳しく聞くっすから教えてくださいっす」

「昔の封印した封印がとかれるであります!」

どうもアスモは要領が悪い・・。

「昔ってアスモちゃんが施行した封印じゃないんすね?」

「アスモちゃんたちがした封印であります!」

みんな顔を見合わせている。

「えっとだから・・・じゃあいつ頃の封印なんすか?」

アスモは一瞬考えて・・・。

「紀元前800年であります!」ロミオがコケている「江上さんそれはないで」「それは・・・」

「えええ?・・・いやいやみんな一旦静かにして欲しいっす。巫女が自分を誰だか分からなくなることはよくあるらしいっす、じゃあ何を封印したんすか?」すごい対応力だな・・・。


「最悪の竜、アジ・ダハーカであります!」ん?


「わかったっす、真偽や吟味は後でするっす、取り敢えず聞くっす。同じ過ちはしないっす」コイツいいリーダーになりそうだな。・・・葵じゃなかったかリーダーは?

「世界が滅びてしまう・・・」

「わかったっす。落ち着いて・・・どうしてそのアジ・ダハーカが復活することがわかるんすか?」

「気配・・・気配であります!奴の気配は忘れないであります」妙な気配はしない・・・全く分からないが・・・。これは鏡の中の魔族の時と同じだ。

「OKっす。ではもし思い出せるなら紀元前800年の時の話を聞かせて欲しいっす」聞きだし方上手いな・・・急速に成長してるな・・・最近特に。


「西暦で数えるとです。紀元前811年になるであります。第4回聖魔大戦が起こったのであります。蜃気楼の塔が出現して世界中の召喚士と魔族が戦ったのであります。その時に魔族と悪魔崇拝者が作り上げたとされるのが神話のアジ・ダハーカであります。アジ・ダハーカは第1回聖魔大戦にも現れたといいますが1200年たっておりまして、これと同一のものかは不明でありました。生き返らせたのか模造品を作ったのか分からないであります。ただアジ・ダハーカは11年間、封印されるまで世界を飛び回り人の世界を焼き尽くしたのであります。その戦いで第4王朝と第2王朝も滅亡したであります。この竜は複数の命を持ちどれだけ攻撃しても殺すことはできないであります。邪悪な竜は世界中の都をいくつも焼き尽くし、そして竜王の子孫を特に狙い・・・命を奪い続けたのであります。・・・もう少し詳しく説明するであります。邪悪な竜は最初に第3王朝を焼き尽くし、次に第4王朝を完全に滅ぼして、第2王朝に飛来し暴虐の限りを尽くしておりましたが生き残った第3王朝の王子の勅命で編成された我ら魔術師団は第2王朝に入り共闘したであります。ですが第2王朝の竜王家の子孫も残念ながら全滅し・・・邪悪な竜は東の地へ去ったのであります。それを第3王朝の魔術師団と第2王朝の術者で追ったのであります。追いつき、数回の戦いを経て一旦は疲れ果てた竜を結界に閉じ込めたのでありますが・・・奴は結界を食い破りとうとう海を越えてしまったのであります。再編成した魔術師団は奴を追って海を越えて第1王朝の竜王に謁見し最初は断られてたのでありますが・・・多くの犠牲を払い強大な竜を前に共闘したのであります。激戦でありました・・・念話で世界中と交信し助けを求め・・・最終的には世界中から7万人も召喚士が集まり・・・しかし熾烈な戦いで約5万人が命を落としたのであります・・・一般人は数えきれません。そして・・・とうとう邪悪な竜は“紅蓮返し”の炎によって大地に落ち・・・急速に再生しているところを・・・その場にいた数千人の召喚士と数千の召喚獣の命を触媒としてバラバラに分断して封印したのであります」

初めて聞く話だ。真偽は確かに分からないが・・・。

「・・・どこにっすか?」

「この降魔の地であります。そのためアスモちゃんはここで長い眠りについたのであります」うん?ここぉ?・・・ロミオと三守も驚いている。

突拍子もないとはこのことだが。


「封印はどこにあるんすか?」

おお・・・ちゃんと聞いてるな・・・偉い。

「2854年前の話しであります。祭壇はとっくに無くなっているであります。探知不可能の第1王朝の竜王の結界に守られているはずでありまして・・・アスモちゃんにも見つけられないであります。逆に簡単に見つけられては危険であります」

それはそうだけど。


・・・全員しばらく沈黙した・・・。事実なのかどうか・・・事実だとしてどうするのか・・・。


しかし・・・なかなか緑川・・・できるな・・・。

「はっきり言うっす・・・第3高校のほとんどの生徒と教官は召喚士っす・・・魔術師で超能力者っす・・・でも鏡の中の魔族を探知できたのはアスモちゃんだけっす。真偽はわからないけど何か危険が迫っているのは事実だと思うっす」真偽はね。

しかし対応できているのは緑川だけだ。

「あまりにも荒唐無稽で・・・うちは」三守は困った顔だ・・・まあ正常な反応だろう。

「現実離れしすぎとるからなあ・・・わしも実感ないわ、コウトウムケイってなんや?」

封印がどこにあるのか分かればなあ。ちなみに荒唐無稽は現実味がないと言う意味だけどだれか教えてあげてくれ・・・。

珍しく葵も考えてるな。

「アスモ?封印は解けかけてるんだな?まだ解けてないんだな?」

「・・・はいであります・・・」

なにかを探りながらアスモは答えている・・・嘘を言っているとは思いにくい・・・誤認している可能性はあるだろうが。


「・・・ゲヘナ・・・・」考え込みながら葵はボソッと呟いている。


何かひらめいた感じの緑川尊が話しだす。

「なんて?・・・姐さん・・・ゲヘナって・・・そうか。そうっす、もしアジ・ダハーカが本当の話しならっす・・・ああいや。そうか。こんなタイミングよく本当にしても2800年前の竜が蘇るなんて・・・そうか・・・こう考えると辻褄つじつまが合うっす・・・誰かが復活させようとしているわけっす」そう可能性ね・・・あらゆる可能性を。

これは緑川がいないと全く話が進まないな。

「ではこれはゲヘナの次の一手だと?緑川さん」

「またあいつらテロ組織か。ええかげんにしとけや・・・」

大怪我したロミオはしばらく入院してたからな。結構ムカついているようだ。


「ゲヘナかどうかはアスモちゃん分かんないであります」そこは分からないのか・・・不思議な子だな。

「しかし全部本当だとしたらや、江上さんは2800歳っちゅうわけか?」

「それはないっす。多分アスモちゃんは霊媒体質で過去の情報を引き出しやすいんす」

いずれアスモのことも調べたいが・・・本当に何者だ?・・・だが調べるのは封印が先だ。


・・・しばらく葵たちは話し合って・・・手がかりもないがアジ・ダハーカが封印されている何かを探すことになったようだ。雲をつかむような話だが・・・。



・・・アスモの能力は本物だ・・・三守の言うように荒唐無稽ではないだろう。


封印とやらがゲヘナの手にわたっていれば・・・もうどうしようもないが・・・引っかかるのは・・・封印をゆっくり解いている?・・・何が起きているのか複数の仮説を立てる必要がある・・・真実にたどり着くには・・・固定概念を廃す必要がある・・・。

封印というのは解き方さえわかればゆっくり解く必要はない・・・破壊してしまえばいい・・・破壊すると封印されているアジ・ダハーカに何か問題が起きる?・・・それはない・・・そもそも何をしても殺せないから封印したのだ。


もう一度・・・ゲヘナの目的は魔族による世界の浄化だ・・・これも本当か定かではないが・・・。まあとりあえず世界の浄化、人の世の終焉が目的だとして考えよう。


ゲヘナがアジ・ダハーカの封印だと知って恐らくコントロールできない危険なものの封印を解く目的は・・・聖魔大戦前に一波乱欲しいのだろうし・・・葵か?・・・なぜかゲヘナは葵を狙っている・・・次期竜王候補だから・・・?来年4月ごろ現れるであろう蜃気楼の塔の周囲にはすでに自衛軍の前線基地がある・・・人造召喚士のみで構成される部隊で魔族の軍を軽くオーバーキルできる・・・この強力な部隊が来年魔族を迎え撃つ・・・圧倒的な兵力だ・・・そのころ高校2年生の葵の出番は普通に考えればない・・・そのころ高校生チャンピオンだったとしても・・・だ。


ゲヘナのしようとしていることを考えるとこの仮定は・・・可能性は低くないのかもしれない・・・。来年の聖魔大戦は・・・圧倒的に人間が勝つはず・・・ならゲヘナはその人間の前線基地を攻撃するべき・・・だがなぜか攻撃しているのは降魔六学園と葵だ・・・つまりゲヘナは前線基地はもう攻撃の必要はないとしている・・・それより危ないのは葵だと・・・。間違いなく前線基地になにかあるな・・・あるいは聖魔大戦が始まったころの前線(基地)に何かが起きる・・・。


葵になにがあるというのだろう・・・可能性は無数にあるが・・・魔族と竜王(家)の関係はいわゆる敵同士だろう・・・では兄の神明帝はなぜ攻撃されない?竜王位継承権序列第1位だぞ・・・TMPAは葵が4倍近く上だが・・・能力が最も高い・・・あるいはある程度能力が高い竜王の血族が攻撃される?・・・なぜ?・・・もう一つは霊眼に目覚めているから?・・・霊眼と関係がある?・・・葵は霊眼に目覚めている・・・帝は使えない・・・葵は竜王の霊眼を発動して戦闘中に数値以上に強くなるから?・・・それだけで攻撃優先順位が1位になるか?・・・何らかの特性が問題?・・・さらに神明帝の能力が非常に低いのは・・・ゲヘナはあの時に確認済か・・・。


仮説だ・・・来年の聖魔大戦はとてつもない兵力の人間側が圧倒的に負ける・・・そしてさらに圧倒的な勢力の魔族軍を止める可能性があるのが・・・葵?・・・誰でも知っている・・・竜王の霊眼をもった王女Ki-Aは4000年前に最上位魔族8体を王都ごと自身の命を使って封印した・・・そうしなければ世界が滅びたから・・・同程度の均衡の破綻がすぐ未来に・・・来年にもおきる?・・・4000年前のように葵がそれを封印することになる?


まあいい。今は保留しよう・・・。


アスモが気配がするといっているわけだから・・・アジ・ダハーカの封印は近いはず・・・その封印は横浜のゲヘナの基地に持ち帰られていない・・・持ち帰ってないのは・・・封印が動かせないから・・・もしくは見つかっていないから・・・香樓鬼が能力の高い術者だとして見つけられていないのであれば、そうそう簡単に葵たちに見つからないだろう、見つけているのであれば封印を解けばいい・・・。自由に封印が解けるなら時期を考えるだろうが・・・ゆっくり解く必要はない・・・敵に探知される可能性が増す・・・。


ゲヘナは封印を見つけていない・・・だが、なんらかの方法で封印を弱めている・・・いますぐ封印が解けてもいい・・・とりあえず保留しよう。


アジ・ダハーカの封印がもし動かせないなら・・・古い建造物が怪しい・・・封印が見つかっていないなら・・・ゲヘナがどうやって封印にアクセスして解除しているか方法が分からない・・・封印は物?建造物?生物?・・・2800年前の封印が生物とは思えない・・・祟鏡鬼を倒す場合・・・鏡のダンジョンに入りこんで奴のテリトリーで倒そうと思えば手強いが・・・外に戦力を吐き出して戦争するわけではない、あくまでトラップが主体・・・2800年前に世界を滅ぼすかもしれないと言われたアジ・ダハーカの復活が現時点のゲヘナの目的としては上だろう・・・どれくらい上か・・・トップクラスだろう・・・であれば以前からずっと計画していたはず・・・QMで戦闘したり鏡のダンジョンに引き入れたりするより優先度/重要度は高い・・・この国を担当の香樓鬼も祟鏡鬼もアジ・ダハーカの復活が第一目標だった・・・それを念頭に仕事をしてきた。つまり二人とも封印を探していた?・・・葵への攻撃はついでの可能性がある?


具体的目標は1番がアジ・ダハーカ復活、2番が葵襲撃・・・前線基地はターゲットに入っていない。


ぞくぞくどゲヘナ幹部の鬼士と導師がこの国に集まってくるのはこれが目的?アジ・ダハーカの復活が用意ができつつあったから集合してきている?


さらに復活させた後でアジ・ダハーカがコントロールできる可能性があるかないか・・・どちらにしろゲヘナは調査はしているはずだ・・・封印になんらかのアクセスがあるはず・・・もしコントロールできるにしても2800年封印されているものをコントロールできるか実証はできていまい・・・恐らくコントロール不能。


ここから紡ぎ出される可能性のいくつかと・・・その仮説を証明するために必要なもの・・・。

現時点での・・・・・・・・・・・最も可能性が高いもの・・・。

・・・・・・・数千の可能性が考えられるが・・・最も可能性の高いのは・・・・・・あのカップルの家だろうか・・・・・・間違いない的な・・・。



―――午前中は―――

全員授業をサボったようだ。

各人・・・緑川とロミオはデータにアクセスしたり情報収集・・・三守とアスモは2人で探知していたが・・・降魔六学園は広い・・・とりあえず古い建造物を探していた。


葵はどこだ?


・・・いた。屋上で何をしてるんだ。誰かと話している。


どうも葵は、ハオ・ランとズー・ハンの2年生ペアと1年生校舎の屋上で会っている。

葵は二人も“ドラゴンディセンダント”メンバーだし、助っ人を頼んでいるのかもしれない。それならまず権藤先生とか優秀な安藤先生がいいと思うが。


ん?こんな表情のハオ・ランを見るのは初めてだ・・・緊張?熱がこもっている。


どうもハオ・ランが葵に喋りかけているようだ。


「―――結婚してください―――」


なんで?・・・なんでやねん!



ん?魔族の反応・・・複数だ!どこだ!


いた!1年生校舎・・・1年O組かQ組あたり・・・。

直接攻撃に来た??・・・今までと方針が変わった?

一貫しているとすれば・・・。


人造魔族だろう・・・校舎に18体高速で近づいてくる・・・レザーのような魔装の・・・感じとしては魔族の・・・一体に指揮されているようだ。


―――葵は??

ハオ・ランがまだ求婚中のようだ・・・ズー・ハンは横で何しているんだ?こいつら彼氏彼女じゃなかったのか?彼女の隣で葵に求婚??


「―――お願いです。すぐにでも結婚を―――」


屋上はどういう空間なんだ・・・襲撃に気付いていない・・・。



―――緑川とロミオは・・・緑川の部屋か・・・ダメだ遠い。


―――三守とアスモは他の学園敷地内だ・・・。


―――葵しかいない―――


まだ屋上は求婚中だ・・・。


「―――を再建したいのです―――」

「だー!そんなこと言われてもわかんねえ!」


ブルルルルルル!


慌てて葵は端末を見る・・・。

「ああ!師匠からだ!」

「端末なんか後に・・・大事な話し!葵ヒメ!」

なおもくってかかるハオ・ラン・・・。なんだか知らんがとにかく・・・。


1年P組とか1年Q組の1年生が魔族に襲われピンチ!といっても葵は下手したら関係あるのかと・・・躊躇するとまずい・・・まあそんなところ。


メールを読んでいる葵の顔つきが変わる・・・。

「1-Pの廊下で秋元未来が危険・・・・・・だああああ??またまたピンチなのかよ!未来!つか、いつ学校来たんだぁあああ!」こういうのが一番効くかな・・・多分。

2年生校舎の屋上から叫びながら飛び降りつつ葵は紅い鎧に魔装する!


ゴゴゥウウ!!


空中で加速して1年生の校舎に紅い矢となり一直線に突っ込んでいく!


迷惑なことに校舎の壁を壊して2階の教室につっこみ・・・さらに1-Pは3階だったことに気付き廊下に出て天井に向かってスプラッシュ・エラスティックショットを撃って・・・さらに破壊工作は続き・・・天井を突き破って1-Pの廊下から葵は出現した・・・葵が2階から打ち込んだエラスティックショットは上手に6体の昆虫のような下級魔族の身体を貫き・・・倒していた。


「未来はどこだああああ!!邪魔だあああああ!」


“ダブルチャージ”

“エラスティックショット”


葵の同級生・・・新入生を襲って連れさろうとしていた魔族が5体・・・周囲を威嚇していた魔族が7体・・・あわせて12体が一瞬で絶命した・・・。


その上・・・天井は崩れ・・・窓は勿論、校舎の外壁すら崩れ・・・そもそも3階の廊下もひび割れて崩れそう・・・1-Pと1-Oの教室は壁が崩れて繋がってしまった・・・。


「みぃくぅううううう!!!」


このままでは生徒が危ない・・・完全に人選ミス・・・まあ仕方ない・・・。


「どこぉだあああああ!!!魔族に連れ去られたのか?魔族ども!!どこだぁあああ!このあたり全部ぶっとばしてやるぜ!!」もう魔族は全滅してる・・・してます。


「あ、葵ちゃ~ん」

さっきまで1-Oの教室があったあたりから未来の声がする。


器用にエラスティックショットを触手のように使って瓦礫を次々と持ち上げてぶっ飛ばし・・・埋まっていた未来を助け上げた・・・。葵が放り投げた瓦礫はほかの無傷な生徒たちをなぎ倒していた。


「えええ、葵ちゃん・・・早いのぉ・・・いま襲われたとこだったの」

「大丈夫か?未来?」

「そ、それより周りにいる負傷者を助けて欲しいの・・・」

「ああ?大丈夫だろ?」


その時点で魔族が破壊したり傷つけた者より、葵が破壊し巻き込まれた重軽症者の方が圧倒的に多かったのは言うまでもない。




―――商業区の方だ―――

いつものよれよれのジャケットを着ている権藤先生と魔装している赤い短髪安藤先生が建物の上で話している。なにやら緊張感がある。

「ふ。逃げられましたね。疑似異界化結界をすりぬけるとは・・・」

「いいえ安藤先生、してやられました。アストラルボディです。つまりあの恐らくゲヘナの幹部は逃げる必要すらなかったはずです」

「ふ。我々は誘い出されたと?」

ちっと権藤先生はしかめっ面をしている。

「・・・探知を最大レンジにしつつもどりましょう!いえ・・・3高は私が守ります。安藤先生は周囲を索敵してください」

「ふ」

この学園でもトップクラスの戦闘力を誇る二人の教師が陽動にやられたようだ。香楼鬼か・・・。



―――緑川の部屋だ―――

もちろん緑川がいてロミオがいる。しばらく前にアスモと三守沙羅も合流して、葵と未来も遅れて窓からやってきた。未来は葵に担がれている。さらに玄関から上がってきたのかハオ・ランとズー・ハンもやってきた。


アスモは座禅を組んで集中しアジ・ダハーカの気配を探っている・・・半トランス状態になっている。


「権藤先生からメールっす、ゲヘナの幹部を追ったが取り逃がしたそうっす。んで、うちの高校を襲撃した魔族18体すべて如月部長が撃破と返信しておいたっす」

メンバーはみな軽くうなずく。緑川は続けて話す。

「情報を整理するとっす・・・急にゲヘナが直接攻撃してきたのは今までの襲撃と比べると大胆すぎるっす、戦力は少なめ・・・アジ・ダハーカの復活が近いから・・・この降魔の地にいる召喚士の目を逸らすための可能性が高いっす」おおお。長足の進歩・・・ほぼ正解じゃないか。

ロミオも得意満面だ・・・。

「調べると今日はちいさいテロみたいのがわんさかあるんや、降魔の結界の外でもやで」

そわそわしながらアスモが立ち上がる。

アスモが片眼を開けて苦しそうに話す。

「・・・アジ・ダハーカの気配が強まっているであります・・・一刻の猶予もないであります・・・奴の波動は強まる一方であります・・・」すぐに目を閉じてしまう。

うーんと考えていた三守は手を上げている。

「うち思うんですけど封印を探すよりアジダハーカの出現に備えて各学園や警察、軍隊に通達すべき・・・周囲の人の避難が優先かと」間髪入れずにアスモが答える。

「封印を探すのが先決であります、あれが復活すれば避難など意味ないのでありま・・・」アスモは時々意識が飛んでいるようだ。

「避難している間に次の一手を推敲できるかと・・・」

「いい手っす沙羅ちゃん、ただし本気にしてくれるか疑問っす。まず一台パトカーが来て事情聴取っすね。非常事態宣言するにはアスモちゃんの気配がするだけでは難しいっす」あれ?こんなにできる奴だったか?

手を上げてる・・・秋元未来だ。

「あ、あの。ああ。アジダハカってなんなの?お魚なの?」

「ああ、未来ちゃんには言ってなかったっす。2800年前に世界を焼き尽くした竜っす、ゲヘナが復活させようとしてるっす」「えええ!!そんな情報がよくわかった・・・なのなのなの・・・」ビクッと未来は目を大きく見開く。


おもむろにハオ・ランが立ち上がる・・・長身だしまあまあイケメンなのだろうが・・・なんかまた求婚しないだろうな?大丈夫か?ズー・ハンは悲しそうに見ている・・・?

「これはタイミングです。葵ヒメ・・・我が一族は・・・」

「だ―――!だから知らねえっつってんだろ!」

「わたしは我が王朝を滅ぼしたアジ・ダハーカを討つ!そして如月葵ヒメと結婚して第二王朝を復活させる!これは運命なのです!」

「知らねえ!」

「力を失い神明家も落ちぶれている。来年は大戦の年・・・竜王が必要になります。我々の血があわされば再び世界に竜王を・・・」


えええええ??


その場のメンバーはズー・ハン以外はさすがに驚いている。


―――上手に緑川尊が場を収めてハオ・ランから話を聞く・・・「どうしたんすか?――――」


まとめると・・・どうやらハオ・ランは滅びた第二王朝の子孫だと言うのだ・・・2800年前に生き延びた竜王の子、竜王子たちは3名が殺されたが残り3名は生き延びていたというのだ・・・。その後謀反に会い・・・1名の竜王子が生き延びたのだと・・・。アスモがそれはないであります―――この目で確認したと譲らなかったが―――代々趙家は竜王の子孫だとされていた一族だと言うことは間違いないようだった。ハオ・ランの家系である趙家に代々仕えている侯家の一人がズー・ハンなのだと言う・・・。


「なるほど分かったっすハオ・ランさん、ズー・ハンさん。ただし今はアジ・ダハーカを優先とするっす。いいっすね?結婚の話しは一旦中止でお願いするっす。アジ・ダハーカの気配を感じられるのがアスモちゃんだけでは・・・他の人に証明しようがないっす。なのでアスモちゃんを信じている俺たちがせめてアジ・ダハーカの証拠だけでも掴むっす。間に合わない場合は早急に各方面に連絡するっす」


おおっ!とロミオが端末を見て驚く。

「緑川!大変や!魔族が第2高校の生徒を多数拉致して体育館に内側から結界を張って立てこもったやて・・・怪我人多数や!」「そんな!うそなの!」「すぐに行く必要が・・・」「・・・そうっすか」

今日は緑川尊・・・冷静だな・・・。

「行かないっす・・・ついちょこっと前に権藤先生からメールで安藤先生が交戦状態になったって連絡があったっす・・・つまり第2高校の魔族襲撃は安藤先生が対処中でさっきから知ってっるっす」

「一体何故?緑川君?」

「なんでや?緑川!知っとんたんか?」

「なるほどな。いい判断だぜ・・・緑川」

「いかないのなの?」

「権藤先生も応援に行かないっす。敵の動きがおかしいって強力な別動部隊を警戒してるっす。それがアジ・ダハーカってのは気づいていないみたいっすけど」

「アジ・ダハーカのことは先生には言わへんのやな?」

「降魔六学園で戦闘力が弱めなのが第2高校と第6高校っす、ならば権藤先生は第6高校に向かっているはずっす」なんだよ・・・正解だ・・・しかも第6高校を狙う魔族の集団とすでに交戦中だ。


「ああ、いいぜ。あたしはよくわかる。キレッキレだな緑川」珍しく褒めてるな。

「俺は・・・俺たちは成長する必要があるっす」

「いいぜ!そういうのは・・・それで次の一手はどうする?」

「待つっす!ギリギリまで・・・」


「・・・ま、待っている余裕はないでありま・・・奴の波動が近く・・・」

「なんか策があるんやな?そうなんやな?」

「緑川さん、もしかして封印の場所が特定できて?」

「できるわけないっす。2800年前にその存在を隠された封印なんてそうそうわからないっす。たった数人で素人がやみくもに探すのは時間の無駄っす」・・・こいつまさか・・・。

「ひょっとして緑川・・・おまえ」まさか・・・。

「そう、そのひょっとしてっす。神のごとくの人からのメール待ちっす。いままでに聞いたどんな偉人や超人よりずば抜けているその人を待つっす!」・・・そういうことか・・・。

「いや緑川・・・それは・・・あたしの・・・」・・・賢いな緑川・・・精度を上げる?つもりか・・・。


ブルルルルルル!!


葵の携帯が鳴る・・・。

いくらなんでもタイミングが良すぎて葵も驚いて端末画面を見ている。

「ほ、本当に師匠から来た・・・」

「やっぱ姐さんすこし微笑むんすね、妬けるっす」確かに笑っていたか?

「まてまて師匠のメールを読むぜ・・・あ!アジ・ダハーカの封印の場所が―――」


携帯端末にきた葵の師匠のメールを全員が所せましと見入っている。


「姐さん・・・姐さんの師匠はやっぱすごい人っす・・・良かったら俺にメール転送してくださいっす・・・間違えないようにこっちのPC画面でみんなで見た方がいいっす」まあその方が早そうだ。

「あん?なら・・・ここにいる全員に師匠のメール転送するぜ」葵はあんまりメールしたりしない。変なとこに転送しないといいが。

「いいんすか?大事なメールを・・・つか転送やりかた分かりますか?」

「んなもん、気にするような人じゃねえよ・・・もちろん転送なんてわかんねえ」わかんねえんかい?

「携帯かしてくださいっす。俺がやるっす」

緑川君・・・それがいいよ。葵は緑川に携帯端末を放り投げる。



“ゲヘナは封印の位置をまだ特定していない

なぜ特定できないのか

ゲヘナが探している降魔の地の外に封印があるからである

アジ・ダハーカは降魔の地の結界の中に

封印は降魔の地の外にある

封印は降魔の地と地脈を流れる魔力で結ばれている

祟鏡鬼が消滅した後も封印を探って破る術式は生きており

自動で地脈を流れる魔力を逆探知して

封印にアクセスしているよう

数時間から数日以内にアジ・ダハーカは復活する

また香樓鬼に封印が奪われれば速やかにアジ・ダハーカは復活する

復活を阻止するためには封印を死守する必要がある

そこで江上明日萌の古代術式と三守沙羅の真言で

破れかけている封印を補強できる

アジ・ダハーカの封印の位置は地図で示した通り

さらに

もし万が一アジ・ダハーカが復活する場合

地図で示す3点のどこかで香樓鬼により召喚復活する

地脈に邪魔され3点のポイント以外で復活する可能性は低い”



携帯操作に慣れている緑川があっというまにその場の全員、8名に師匠からのメールを転送した。

それはそれは全員がおおっと驚いている・・・。

「さ、さすがだぜ!」なぜか葵まで驚いているようだ、ん?携帯操作に驚いたのか?

「まじなんか!地図まであるんか!無敵やで!」

「驚天動地!お師匠様は蓋世之才!うち是非お会いしたい」

三守、訳の分からないことを言うな。

「す、すごいの。こんなことまで。すごいの。すごいのなの」

だがみんな慌てている・・・最短で数時間だともうあまり時間がないのだ。何故かロミオは屈伸運動をしている。


おお、仕切るのが上手くなってきているな・・・。

「えーっとっす。封印を探すチームと、アジ・ダハーカが復活したときのために3ヵ所もあるっすけど、その地点を見張る、全部で4つのグループに分ける必要があるっす」

最初に反応したのはハオ・ランとズー・ハンだ。

「私たちはアジ・ダハーカを倒したい。3つのポイントの真ん中の一番南を担当したい」なるほど、左右のどちらかで復活してもそちらへ回るつもりか。

「わかったっす。じゃあ、ああ・・・そうっす。安藤先生は第2高校へ、権藤先生は第6高校へ行ってるっすから・・・近くにある安藤先生に東の復活ポイント、権藤先生に西の復活ポイントをお願いするっす、ハオ・ランさん。もしアジ・ダハーカがそのポイントで復活したら速やかに応援を呼んで欲しいっす」

了解したとハオ・ランとズー・ハンは緑川の部屋の窓から飛び出していく。倒すつもりっぽいが・・・。


さてっと右腕をブンブンと葵が回している。

「あたしもバケモンの復活に備えるぜ!探しもんは苦手なんだ」

まあそれは本当ぽいが・・・おやおや?

「だめっす、如月の姐さん、姐さんは封印が見つかった時のために一緒にいて欲しいっす。魔族に襲われると俺たちだけじゃまずいっす」

「ゲヘナは封印を見つけてねえんだろ?多分何カ月とかもっと何年とか探してな!あと数日なら見つかりっこねえよ!だいたいテメ―が弱ぇえのが悪いんだろ!」大丈夫か?葵?心配だ?

「だめっす、封印を死守するのが先決っす、それに姐さんのスピードなら復活してからでも参戦できるっすよ」

「なんだと緑川!てめー、あたしが“ドラゴンディセンダント”の部長だからな!いちいち仕切りやがって!」もうちょっとさあ・・・うーん。

「だめなもんはダメっす!」この場合は緑川だな・・・。


珍しく葵と緑川は睨み合っている・・・緑川が折れないとそうなるわな。


葵は緑川なんて何とも思っていないとケッとアピールしている。

オロオロしながら金髪ショートの未来が止めようとする

「2人ともケンカはよくないのなの、魔族はこわいの。でも葵ちゃん・・・みんなで」

「未来はアタシが守るから安心しな!」

「そういう問題じゃないっす!」


かなり困った顔していたロミオだったが何か見つけたようだ。

「それよりも如月部長に緑川副部長!ここ纐纈守人先輩の家やで!!いま調べとったんや!」

ロミオは大慌てで自分の端末のマップを見せようとしている。二人の衝突を和らげようとしている・・・?

「えっと纐纈先輩の家って確か?」

「うち聞いたことが・・・大きな神社のはず」

「そう・・・そうなんやわしが言うつもりやったんや、神社なんや」

「纐纈ってあの纐纈か?たしか風紀委員長のか?」

「姐さん、当たり前っす!」

また葵と緑川は睨み合っている・・・。

まあしかし緑川には作戦があるようだ。

「それはかえってよかったっす!俺たちだけじゃ心配でDD-starsに応援を頼もうと思っていたところっす!4か所のポイントを補強する必要があるっす」

「あたしは反対だぜ!師匠は助けを求めろなんて言ってねえし!あたしはDD-starsなんて信用してねえ!」えええ?

「纐纈先輩と不知火玲麻先輩が住んでるとこなんすから協力を頼んだ方がいいっす!」

「DD-starsとゲヘナが手を組んでたらどうすんだよ!」そんな馬鹿な・・・。

「何言ってるんすか!姐さん!ひっぱたくっすよ!」

「やってみろよ!てめー!」生意気そうな顔だな・・・緑川にホントにひっぱたくほどの・・・。

あ!


スパ―――ン!!


容赦なく葵の左頬を緑川がひっぱたいた・・・かなりいい音が響く・・・まじか・・・?


全員凍り付いている・・・。


「DD-starsがゲヘナの先兵だったら封印なんてとっくにゲヘナに渡ってるっす!纐纈先輩と不知火先輩に訳を話せば封印を見つけるのも絶対楽になるっす!時間がないんす!」結構力説するね。

「テメ―緑川・・・分かってんだろうな・・・そこまで言うからには確実に成功できるんだろうな?できなかったらどうすんだ?」

「俺は保険屋じゃないっす!できる限りの事を精一杯するだけっす」

「・・・テメ―はこの件が終わったら“ドラゴンディセンダント”はクビだ・・・出てってもらう」葵は全身を硬直させて・・・どうにも抑えられないか・・・大丈夫かあ?

三守沙羅と御堂路三男と秋元未来は凍り付いている・・・過緊張で息をするのも憚られる感じだ。アスモは完全にトランス状態でさっきから意識がない・・・。

「・・・わかったっす・・・出ていくっす・・・だから今は俺の策に従ってもらうっす」うん、まあいいんじゃない。




―――えええ!そんなまさか!」

「ありえるでしょう、守人さん。だってこの三浜神社はもともと三か所あって降魔の地を守ってきたのですから」

「最近のゲヘナのテロ攻撃の目標がうちの神社だったなんて・・・それより・・・こういった状況だからピリピリするのは分かるけど、なんかあったのかい?“ドラゴンディセンダント”の諸君?」葵のただならぬ状況を感じ取っているようだ・・・纐纈君て鈍そうだけど・・・。

「そんなことよりも守人さん。わたしたちでしたら封印がなにが絞れるはずでしょう。毎日お掃除していますけど拝殿や幣殿ではないでしょう。本殿を調べてもいいかお父様に許可を頂かなくてはなりません」

そう諭すのは戦女神と称されるだけあってかなり美人の不知火玲麻だ―――レマは纐纈君の実家に居候しているのだ―――今回はさすがに緑川尊もちょっかい出しそうもない。


第3高校も魔族襲来のために強制下校になっていたが、まあ校舎を壊したのは葵だが・・・風紀委員長で十傑5位の纐纈守人は校内におり、いつも一緒に帰る十傑2位の不知火玲麻もまだ校内に残っていたのだ、“ドラゴンディセンダント”全員で突撃して訳を話したが要領が悪く・・・特にロミオが・・・結局、やっぱり緑川が上手に伝えた・・・いや成長したな・・・。ちなみにアスモはロミオが担いでいる。


そして“ドラゴンディセンダント”の1年生6人と纐纈守人、不知火玲麻のあわせて8名は慌てて纐纈君の家兼神社に参上した・・・。不知火玲麻の術で葵以外を飛行させたのだ、降魔の地の外だから本当は違法だが・・・でもたいした魔力だ。葵は嫌がって1人で飛行していた。


纐纈守人と不知火玲麻は古いものがありそうな場所をピックアップし―――ほとんどレマがやっていた―――そこを重点的に探したが2800年前の何かはなかなか出てこない。葵は「探すのは性に合わねえ!魔族の襲撃の備えてりゃいんだろ!」と言って拝殿の上に陣取った。アスモは使い物にならないので神主さんや衛士さんにも手伝ってもらっうことになった。纐纈君の父は不在であったようだ。


古そうなものは魔術も使用して調べまくっていく。三守沙羅の探知能力はかなりのものであっという間にチェックが片付いていく。物体の評価は緑川は苦手な様子だ。そしてレマはやはり非常にレベルが高い・・・。纐纈君の探知能力はまあそこそこだ。

「ではあとは宝物庫をてわけしましょう」

「ごめんねレマ。助かるよ」

全く緑川は冷静そのものだ・・・それはそれで大したものか。時間は気にしている。現在丁度18:24だ。

「それより申し訳ないっす。うちの部長が神社の屋根の上に行ってしまって罰当たりっすよね?謝っておくっす」「いやいや緊急事態だし、それにそんな危険なものがあるなんて。教えてもらってありがたいぐらいだよ。如月1回生は非常に強い戦力だ・・・心強いしね」相変わらず人間ができているな。恋人のレマといっしょに住んでるし・・・全く。

「封印がどんな形のものか分かればいいのですけれど」

いつの間にかアスモが意識を取り戻し宝物庫の入り口に立っている。

「見えたであります。古い鏡であります。感じるであります。ここにあります」

「わかったのなのなの?」無言でアスモが頷き下を指さしている。

レマはアスモと入れ替わりで宝物庫から出ていく。

「アスモさんでしたか、不思議な力をお持ちだとか。是非そのお力を存分にお使いください」

「あれ?どこいくの?レマ」「お茶でもいれてきます」「ああ?そう?レマ。手伝おうか?」「おかまいなく守人さん」


纐纈君は少し躊躇したがアスモが指さした石畳の下に空洞があるのを探知して魔装してロングソードも魔方陣からとりだして「はっ!!」


ズン!!


石畳の床を円形に直径90㎝程にくりぬいた・・・。やはり剣の腕は相当なものだ、よく鍛えられている。緑川、三守、ロミオをおおっと感嘆の声を上げる。

すぐにアスモが魔力を集中する・・・いやアスモの術って魔力使っているのか?・・・使わずに術が発現しないだろうけど・・・不思議ではある。


古い漆の箱が浮いて出てくる・・・。

浮きつつ箱が開いてなかから丸い物体が出てくる・・・直系15㎝ほどのものだ。


「銅鏡っすね」

「これは神獣鏡」おお・・三守沙羅、物知りだね。

「なんやすごいで」

「これが封印なのなの?」

「レマ、お茶何て後でいいのに・・・」鈍いね。


アスモがさらに力をこめると・・・鏡は割れて今度は5㎝程のコインのようなものが中から出現し・・・宙に浮く・・・あ?ああ!竜王家のコインか・・・こんなところにもう一枚あったとは・・・回収しないといけないな。なるほど2800年前に倒せないはずのものを封印できたわけだ。これだけあれば原始の船が動くぞ・・・。


纐纈君は自分の家の宝物庫から出てきた古いコインを興味深げに見ているが何か気になるようだ。そわそわしている。

「あれ?あれ?レマの魔力を感じる・・・上?上空だ・・・」うん。さっきから一人で魔族と戦ってるよ。

「敵襲みたいっすけど、まずはこの古い硬貨みたいのをなんとかしないと」ひょうひょうと緑川・・・結構できる奴かもしれない。

「えええええ!レマ!レマぁあああ!!」「敵襲なのなの?」「ひょっとしてつけられたんか?わしら」纐纈君は宝物庫の外に飛び出していく。レマは神社に被害が出ないように高度を上げて魔族を迎え撃っている・・・いやあできるな。

三守とアスモは空中のコインに集中している。二人は鏡のダンジョンに入るときも術式を合わせた経験があるわけだ。

「うちの真言が効けばいいけど・・・」

「ああ残念であります、非常に厳しい状態であります」


「あれ?葵ちゃんはどこにいるのなのなの?」

「外にいるっすよ。気にすることないっす、みんな強いっす。それより姐さんのお師匠さんの言う通り封印の補強を沙羅ちゃんとアスモちゃんにお願いするっす」


「これは非常に厳しい封印の状態であります!どうするかであります。アスモちゃんの機能を停止してでも・・・」

「まず沙羅ちゃんの真言からお願いするっす」


―――神社の上空ではレマが八面六臂はちめんろっぴの活躍中だ・・・下級魔族を雷撃であっという間に片づけていく。纐纈君も上空めがけて雷系魔術を撃っているがあくまで雷はサブ属性でそこまで強力ではない。纐纈君の神社の神主さんは数名が召喚士であり、共闘を始めている・・・。緑川は全く手伝う気はなく・・・飛来する魔族のほとんどをレマが一人で涼しい顔で倒している。地上から来る魔族はいない・・・そもそも神社のナチュラルな状態の結界ですらかなり強力で・・・そうそう邪なるものどもは近づけないのだ。レマが叩き落した魔族も神社の結界に触れて焼けて崩れていくものが少なくない。まあ時間稼ぎなのは見え見えだ。


羽を持つ異形の魔族は数は多いがレマと纐纈くん、それに数名の神主さんで現時点では十分対処可能の様だ。


―――緑川、三守、ロミオ、未来それにアスモたちのいる宝物庫の方がよっぽど重苦しい雰囲気になっている。戦闘中なので未来以外は魔装している。


とくに三守沙羅は汗びっしょりだ・・・封印である古いコインに真言を唱え続けている。

コインは鏡から取り出されて以来ずっと重力から切り離され、アスモが空中に固定している。

赤い魔力をコインは帯びているが非常に不安定になっているようだ。何らかの力が破裂寸前・・・そんな感じだ・・・この世の邪なる気の集大成ともいえるエネルギーの塊が膨張していく・・・このメンバーの中では三守とアスモだけが知覚できているようだ。

「うちの真言が効いているとは・・・とても・・・」

「このままでは・・・このままではすぐにでも復活してしまうであります・・・蓄えている力だけでは・・・・・・ああ世界に永遠の平和を・・・母様・・・アスモは力を、力を解放するであります。後のことは頼むであります・・・」決意に満ちた目をしている・・・。

「いや待ってアスモちゃん。大丈夫っす。一人であせると失敗するっす・・・まだ試合は終わってないっす」何をする気かさっぱり分からないがとりあえず危なそうなので緑川はやんわりアスモを止めている。

「そんなやばいんか・・・どうすればいいんや・・・」

「み、みんな大丈夫なの・・・なの?」

このまま成長すれば封印を破壊するのはロミオ、得意になるだろうが・・・治す能力は全くない・・・諦めてくれ。


―――18:40―――

閃光とともに宝物庫のコインが力を失うころ・・・。


―――第1高校は降魔六学園の一番北にあるが正面玄関を出て南東に少しいくと・・・巨大な広場がある・・・50日ほど前に六学園の新入生3000人を集めて統合入学式を行った場所だ、統合卒業式や六学園すべての生徒を集めて西園寺桔梗が迷惑なことに、ありがたいお話しをする場所でもある。


そこに入るには・・・凌空門という高さ70m、幅70m、奥行き31mの凱旋門の一種をくぐることになるのだ。この凌空門をくぐることで降魔の生徒の一人となる・・・という儀式も兼ねており・・・六学園の関係者以外は基本的に立ち入り禁止・・・もともとは神事を行う場所なのだ。凌空門はもともとは巨大な杉でできていたが戦災で焼けて降魔六学園初代理事長の西園寺孝蔵が今の西洋様式の凱旋門を復興させたのだ・・・全く似ても似つかないものを復興とういかは不明だが。


凌空門のちょうど中心・・・地上から数えて60m程の所に巨大な魔晶石が祀られている・・・普段は勿論見えないし・・・かつてあった巨大な神社の本殿に祀られていたものだ。


この巨大な魔晶石は元々はプラチナデーモンの心臓と言われえており・・・浄化されたいまでは降魔の地に巨大で強力な結界を張りめぐらせている・・・そのため通常・・・魔族は侵入できない・・・人為的に魔力を使い侵入を助けない限りは・・・。


この魔晶石の真下が・・・凌空門の下が・・・もっとも強力な退魔のエネルギーに満ちている・・・そういう場所である。


纐纈君の家の宝物庫で古いコインを包む禍々しい気配がはじけて消えた瞬間・・・凌空門の目の前に強大な魔方陣が浮かぶ・・・。

ここは普段は立ち入り禁止で周囲には誰もいない・・・静まり返っているなか・・・凶悪な気配で満たされていく。


―――珍しくアスモが取り乱している。

両手で顔をおさえている。

「ああ!女神がついていながら・・・復活させてしまったであります・・・人間は2800年前より膨大に増えているであります・・・どれほどの死者がでるか・・・一夜で関東が魔界に沈む可能性があります・・・2800年前よりずっとピンチなのであります・・・魔界のものは人の命を食べて瘴気を吹き出し・・・周囲を魔界化していくのであります・・・このままでは生きたまま人は地獄へ落ちることになるであります・・・最悪の場合・・・」


―――凌空門の目の前の魔方陣は広がっていく・・・。見たこともない大きさだ・・・半径100m前後・・・そう・・・ここにアジ・ダハーカは復活する・・・もっとも可能性の低いこの場所で・・・。


―――三守沙羅が膝をついている。

「何か手はありませんか?完全に復活する前に・・・何か!」

「2800年前はどうやったんや?どうやって倒したんや?それが分かってるならなんとかなるやろ?」

「奴は倒せないであります・・・そう作られたのであります・・・どれほど攻撃しても不死身なのであります」

眼を閉じて緑川尊は動かない。


―――凌空門前・・・強大な魔方陣の中心に気配が揺らめく・・・この世の一切の邪悪なものをで満ち溢れている負のエネルギー・・・至る所から瘴気が出現して・・・周囲の林は・・・あっという間に枯れていく・・・。


―――上空でレマが覚醒雷光魔法でさらに増えている魔族を焼き尽くしている。

カミナリを放射状に撒き散らしている・・・!

「いくらでもどうぞ・・・」

凛としているレマに隙は無い・・・だが遠くを見つめている。

「復活しかけていますね・・・」


―――なあっ!とロミオがアスモに詰め寄っている。

「無敵で不死身でっていってるやろ・・・でも倒せたんやろ?」

「2800年前は数千人の召喚士の命を生贄にして・・・光属性の3本の巨大な楔を作り・・・多大な犠牲を払ったのち、“紅蓮返し”の強力なブレスで地上の結界に押し込んで・・・3つの楔を身体に差し込んで地上にほんのわずかな時間縛り付けたのであります・・・そして第一王朝の竜王の娘の命をこのコインにささげて次元封印したのであります」

「・・・はあ?どんだけ死んどんねん・・・」



―――アジ・ダハーカは困惑していた・・・どれほど寝たのかわからない・・・ここがどこかも・・・わからない・・・ただ自身の超感覚で・・・びっくりするほどの数の人間の命を見ているのだ・・・そして憎悪している・・・そして歓喜している・・・また人間が喰える・・・以前よりもっと・・・ここが忌々しい結界のなかで多数の召喚士の気配も感じている・・・殺しつくしてくれる・・・・・・もうすぐ目が物質化する・・・人間どもを見てやろう・・・。



―――本殿の上から雷属性魔法を上空に撃ちまくっている纐纈守人の手がとまる・・・。

「学園の方だ・・・なんだこの気配は!引きずり込まれるような感覚だ。封印の補強は失敗したのか?」


―――宝物庫内は意気消沈している・・・。

「2800年前と違ってやな軍隊だってミサイルだってあるんや・・・なんとかなるやろ!」

「物理攻撃は一切無効であります・・・もう・・・一つしか方法がないであります・・・大ダメージを負わせて、このコインを使って竜王の血族の女性を捧げ・・・」

「それは如月さんを生贄にって・・・意味不明!・・・うち許しません!決して!」

「それはダメなの!」

三守沙羅と秋元未来は声を荒げている。


―――第2高校の体育館では・・・魔族はすべて倒されて・・・拉致されていた生徒に死者はいなかったようだ。

「バカモノ!貴様ら!竜王子の命を危険にさらすとは!全員!貴様ら!万蛇木まで!なぜ助けにこん!下賤の血とは違うのである!われの尊い身体に傷をつくったのは貴様らのせいである!一人残らず報復してくれる!」暴れて怯えて他者を罵りまくっているのは神明帝だ・・・拉致された20名のうちの一人だったようだ。


“ホーリーライト”は第2高校の体育館に全員揃っている、突入してからはあっという間に魔族を退治したようだ。

そこに当然いる降魔六学園の女帝、西園寺桔梗だ。

「神明帝どの、ご無事で何よりです。さああちらでお休みください」

「き、桔梗。西園寺桔梗か!お!遅いではないか!遅すぎる!婚姻の話しも再考せねばならん!」

「なんのお話しでしょうか?さああちらへ」

恐怖で歩けない神明帝は取り巻きたちに連れられて怒鳴り散らしながら医務室へ行ったようだ・・・。


ぷかぷか浮いている更科麗良がおでこに右手をあて、去っていく神明帝の方向に敬礼みたいなポーズをしている。

「あちゃあ、あの王子さまひょっとしてかすり傷なのに失禁してましたかぁ。桔梗様。婚姻と口走っていましたけど、まさかあれと?」

「冗談ではない、麗良。わたしは気狂いではない」

「まああれはないですよね。いくら政略結婚でも」

「わたしは心に決めた殿方がいる、政略結婚などせん・・・無駄話はここまで・・・残敵を探してくれ」「あちゃ・・ええっ!」

話し合っていた二人・・・歴戦の桔梗と麗良ですら・・・戦慄で身体が震える。


!!!!!


その場にいた“ホーリーライト”のメンバー全員が一つの方向を向いて身構える!

「むう!なんだこの気配は?絵美里。索敵してくれないか?」「はい」“岩壁魔人”天野哲夫の左肩から小柄な女生徒が飛び降りる。すでに探知し始めていたようだ。


「これはいけません。これは・・・敵は凌空門の真下に召喚出現・・・物質化中・・・体長40m以上・・・属性闇・・・TMPA換算による戦闘能力値ぅわあぁああああ!・・・そんな・・・そ、測定不能・・・抗術で読めないわけではありません・・・桁が・・・TMPA換算最低80万以上・・・魔晶石の反応あり・・・上級魔族の可能性が・・・さらにこれは・・・きゃぁ!!」ほんの数秒覗いただけででエミリーの顔は真っ青になり意識をうしなった・・・「エミリー!」天野がすでに抱きかかえている。

「・・・80万だと!」

桔梗の目は一点を見つめている。


―――凌空門のすぐ目の前で巨大な影が現れつつある。

黒っぽい半透明な巨大な・・・長い体躯の・・・竜のような形・・・。

目がある・・・両目が・・・影の体躯に黄色く輝く両目が開く・・・。

・・・身体はまだできていないが深く笑ったように見える・・・竜は笑わない・・・竜のような何かは・・・ただただ周囲に憎悪をまき散らしている・・・形あるものに破壊を・・・命あるものに死を・・・。


―――数百メートル離れた場所から魔法陣から現れる影を見ているものがいる・・・一人きり・・・紫の魔装鎧・・・ゲヘナの幹部、香楼鬼だ・・・女性で額から歪な二本の角が生えている。自身の魔力を退魔結界との相殺に使ったため大幅に消耗している・・・アジ・ダハーカ復活の魔法陣をこの場に導いたのも香楼鬼だ・・・。


―――宝物庫に纐纈守人がやってくる。

「・・・封印はやはり破られたようだね、残念だ。・・・それより言いにくいんだけれど拝殿の上にいたはずの如月葵さんがどこにもいないんだ!・・・レマも見ていないらしい。最初の攻撃で拉致された可能性が高い・・・」

一同に衝撃が走る。

「まじか?次から次へと・・・あああ!どうしたらいいんや順番は?」

「葵ちゃんが誘拐されたのなの?どうして?」

「油断大敵・・・まず如月さんを取り戻しましょう」こういう時、三守は迅速だ、出口に走り出す。

「まさか・・・であります。復活したアジ・ダハーカを封印するには、このコインと如月葵さまの命がいります。ゲヘナはそれでしつこく葵さまを狙っていたのでありますか?・・・しまったであります。ゲヘナの目的は最初からアジ・ダハーカの復活と、これを封印できる如月葵さまそのものがターゲットだったのでありますか」

アスモは何か特殊な術を詠唱している・・・広域探知魔法か?


そして全員で葵を探しに行くつもりだ・・・だが一人黙して動かない者がいる。


「・・・そうだったんすね、封印するのに姐さんの命が・・・みんな行く必要ないっす!今から行っても間に合わないっす!とりあえずこの神社を守るっす!」

「そんなケンカ中やからって冷たいやないか!緑川!」

「緑川さん見損ないました!うちらだけでも探しに行きます!」

三守沙羅と御堂路三男は宝物庫より走り去っていく。纐纈守人は緑川を一瞥して去って行った。


―――第4高校屋上―――

“ジュウェリーズ”だ、40名ほどいる・・・。

「なんですの?この異様な波動は・・・華聯さん、連絡してください!」

まん丸いリツコが遠隔視しているがさすがに第1高校は遠くて見えない。

「由良さま、第1高校の方角ですぅ。わったしではそれ以上は見えません~」

ピンクツインテールの由良は思慮深い顔をしているが・・・。

「“ジュウェリーズ”は光印結界を張りつつ撤退して距離をとります・・・第2高校の海老名に履歴が残らないように連絡して・・・“五色曼荼羅”が召喚した魔族の波動か確認してくれますか?リツコ・・・もしあいつらの仕業でしたら・・・おめでとうございます、支援いたしますとでも言っておいて」

「ここまでビリビリくる魔族をあんな奴らが召喚できますかね~ぇ?はいはい。とりあえずぅ聞きますぅ」まん丸いリツコはタブレットを操作している。


―――第2高校から飛行している女生徒が二人いる、二人とも魔装している。

更科麗羅が西園寺桔梗の両肩を持って二人で飛行している。

「エミリーの言うとおり凌空門の方向ですね。この異常な気配は、桔梗様」

「すまないな麗羅、近くまでいったら私を下ろして待機していてくれ。あと二人きりのときは呼び捨てで構わない」

二人は高速で気配の方へ飛行していく。異様な気配はどんどん強くなるのだ。


―――アジ・ダハーカの復活は順調だ・・・両目は復活しており・・・十数秒で物質化が終了する・・・多重結界を詠唱し終わるまでそこから数えて45秒・・・。


あと1分弱で終了だ・・・ゲヘナの祈願だった・・・滅竜の御復活だ。

アジ・ダハーカが何を考えているか分からない・・・ただし召喚している香楼鬼は一時的に繋がっており・・・滅竜から感情が流れてきている・・・困惑・・・憎悪・・・歓喜・・・渇望・・・などだ。

だが香楼鬼は凌空門・・・地上から70メートルほどのところに見かけない物を見ている・・・(なんだあれは?布と・・・?昨日はなかった)・・・巨大な垂れ幕のようなものがきつく結ばれているのだ。

凌空門の付近でイベント開催の予定はない・・・さんざん調べた後だ・・・。

(ここを滅竜さまの御復活の場所と決めたのはつい先ほどだ・・・自分で決めたのだ・・・問題があろうはずがない・・・それに滅竜さまは御復活寸前で止める手立てはない)


―――おお!我の身体が現世に復活していくではないか、かつての力を取り戻すのも、ひと時あればよい・・・我をたたえよ・・・魔の眷属よ・・・我は所望しておるのだ・・・命を捧げよ・・・ずいぶん小さくなった身体だが・・・食えばもとにもどろう・・・。


周囲は林だったがもう完全に枯れてしまった。生きるものも動くものも周囲にはない。


急速に両目から放射状に神経や血管や筋肉が物質化していく・・・この世の邪悪を一身に宿し・・・滅竜アジ・ダハーカは復活する・・・。


頭の大きさからすると胴体は長い・・・尻尾までの長さは約40メートル・・・さらに六枚の蝙蝠のそれを思い出させる翼をもち・・・全身は薄暗い濃い緑の分厚い鱗に覆われる・・・。


グルルルゥウ―――!!


唸り声だ・・・声も復活した・・・。

匂いも感じるぞ・・・!

(どこだ?近いぞ・・・この匂い・・・きゃつ等の匂い・・・魔族の天敵・・・だが我にはきゃつ等の力は及ばぬ・・・不覚をとったが今度はこうはいかぬ・・・どこだ?)


突如!


凌空門の一番上にあった赤い垂れ幕が縛られている数本のロープが切れて自然に垂れ下がる・・・。


“アジ・ダハーカ様 復活おめでとう!”と巨大な字で書かれている!


座り込むほどの衝撃を受けているのは・・・つまりこの垂れ幕を読んでいるのは一人だけだ・・・香楼鬼だ・・・「なんだこれは?ふ?・・・ふ、復活おめでとう・・・とは・・・」

この場に滅竜アジ・ダハーカを復活すると決めたのは自分で・・・ほんの少し前なのだ・・・。何が起きているのか頭が真っ白になっている・・・。

この垂れ幕はなんだ・・・一体どうして?


―――さらに凌空門からロープで吊るされている女性がいる・・・地上65メートルほどの場所だ・・・垂れ幕に隠れており見えなかったようだ・・・“アジ・ダハーカ様 復活おめでとう!”の文字の“様”と“復”の間に女性が吊るされている・・・。


突然複数のライトがついて明るくなり・・・サーチライトが女性にスポットを当てる・・・。


全身縛られて吊るされているのは如月葵だ・・・目を閉じて眠っているように見える。


間髪入れずに葵を吊っているロープが中ほどで燃え出す・・・あっという間にロープは切れて・・・縛られている葵は65メートル付近から重力にひかれて落ちていく。


グゥルルルルルルゥ!!!


―――滅竜は歓喜していた・・・好物なのだ・・・竜王の血族は・・・好物なのだ・・・何度何度何度食っても食ってもやめられない・・・すばらしい復活祭・・・だ!


両目は黄色く縁は黒く邪悪に輝き・・・明らかに笑ったように見えた後で敏捷に・・・空中で葵をキャッチした・・・その口の中へ・・・。


―――宝物庫から少し出たところで・・・緑川尊は何もしていなかった・・・。

神社を襲った魔族はあらかた片付き・・・緑川以外のメンバーは葵を探して右往左往していた・・・近くにはいない・・・。

天を仰いで右手を高々と掲げて叫んだ・・・。

「姐さん・・・いけぇぇぇぇぇぇぇえ――――――!!!」


―――アジ・ダハーカの口の中で・・・葵の両目はカッと開く・・・右目はすでに赤く輝いている。

一瞬で縛られていた縄を焼き切って紅竜の鎧に着装する・・・そして速やかに行う。

“コンセントレーション”

“エラスティックショット”!!

葵は両手から赤い弾丸をショットガンのように吐き出して滅竜の口腔内から真上に攻撃している!おそらく滅竜の脳のあたりを狙って・・・!


ギィエエエエエエエエ!!!


「始まったばっかだぜ!」


“スプラッシュ”

“エラスティックショット”!!


今度は全身から赤い弾丸を周囲に飛ばして鋼線で自分の身体を口腔内中央に固定する!


ゲェエエエエエ!!


最初の一撃で開けた穴からズリュっと鋼線にからませた巨大な魔晶石が引きずり出されて葵は魔晶石を右手でするりと掴む。

外側では口を閉じることができなくなった滅竜は悶え苦しんでいる!


「さあ!起きたばっかで悪りぃがオヤスミの時間だぜ!バケモン!!」

一瞬目を閉じて詠唱する・・・高度な術・・・そして危険な術だ・・・最初に唱えるのは自分の命を使うことで発動する自滅する自爆技なのだ!

“天魔覆滅”!!!!

「あああ!苦しいかバケモン!すぐ楽にしてやるぜ!」

“加速一現”!!

「持ってくれよぉ!あたしの身体ぁああああ!」

どんどん詠唱していく。

“火神降誕”!!!

“火焔化身”!!

炎につつまれた葵の身体は再度別の炎に包まれている・・・。葵の輪郭がぼやける程の超高熱だ!アジ・ダハーカの口から炎が漏れている。


「宝珠!!使わせてもらいます!」

葵の両腕の内側にある宝珠二つがまばゆい光とともに魔術の詠唱を始めている!

“三重奏”

「おおっと!暴れろ!もっと暴れろ!バケモン!あたしの鋼線は切れねえぜ!!」


“狂神覚醒憑依”

“不動明王光臨”!!

“神速覚醒”!


葵の全身は強力なエネルギーでブーストされており、あまりのエネルギーに身体が歪んでいる・・・!

「おおおおおお灼ける!!灼けるぜ!!!!さあぁああ・・・そうそう見えてるぜ!!この霊眼でなぁあ!!!一瞬でいい!魔晶石がまっすぐになればなぁあああ!!」葵の右目にはあるものだけが見えている・・・右手に持った魔晶石とそして滅竜の身体にあと二つある魔晶石をだ!!


この三つが一直線上に並ぶとき!!!!


ぃいまぁああああだぁあああああああああ!!


“神武滅臨”!!!!!!!!!!


葵の身体はまばゆい光と化して初速からマッハ10以上のスピードで、それこそ一瞬でアジ・ダハーカの身体を刺し貫いて地面に達した!!


一声も上げる暇もなく天を向いたアジ・ダハーカの口からまばゆい閃光が漏れて身体はドラム缶のような形に膨れ上がって節々からは閃光が漏れて・・・!


凌空門の周囲は激しい光につつまれ・・・数えきれない閃光とともに大爆発した!!


ズゥゥゥゥ――――――――――――――――ンン!!!!!


衝撃波が周囲に拡散していく・・・!


そしてアジダハーカの口から洩れた光は・・・光の柱となり天まで届いていた!!!


―――数百メートル離れた空中で更科麗羅と西園寺桔梗は光の柱をみて遅れてきた衝撃波で大気の揺れを感じつつも空中で二人並んで静止したままこらえ絶句している。


衝撃波で二人の真下の林の木々は折れ飛んでいく・・・。

「これはなんだ!凌空門になにが!」

感覚の目で見ればすでに凌空門が消滅していることは二人ともすでに感じている。

「桔梗様・・・なにやら片付いたみたいですねぇ。TMPA80万の魔族の反応・・・もうございません」涼しそうな顔で麗良は話す・・・桔梗の顔は依然険しいままだ。

「なんだと・・・80万が一瞬で・・・この国が滅びたかもしれない魔族を」

「これだからあ、竜王の血はいつの時代も厄介ですねぇ、魔族に狙われるのも納得ですね」


「そうか・・・神明の血・・・如月葵か?・・・これほどだというのか」


・・・光が治まっていく・・・

凌空門があった跡は爆心地のようになっており何もない・・・。

しかし訝しい顔だ麗羅は・・・。

「ただこの威力だと。桔梗様。術者は恐らく・・・」

険しい表情のまま桔梗は麗羅の横顔をのぞき込む。

「すまないが探知してくれ麗羅・・・蘇生できるかもしれない・・・むざむざと・・・」

僅かに笑いながら話す麗良はそう驚いてもいないのか・・・?

「・・・あとは桔梗様、さすがに関係各所への説明が必要になりますかと、適当な説明が・・・」




――――「説明してくれや。緑川!」

「いやいくつかは、全然わっかんないんすよ」

周囲にそこそこ街灯はあるが基本的に田舎道を歩いている。

神社攻防戦が終わりレマと纐纈君に別れを告げて降魔の敷地へ戻るのだ。

時間は20:05分を回ったところ・・・食事も誘われたが断ったのだ。

納得いかない表情で質問しているロミオと何喰わない顔の緑川だ。

「説明してほしいのなの」

「そう言われてもっすね」

かぶせて未来も質問している・・・。

だがいい返事は緑川からは出てきそうにもない。

「うちらは仲間外れ?」

「いや違うんすよ、沙羅ちゃん」

次々に疑問を投げ出されても・・・という感じだが三守沙羅も納得できません・・・といった表情だ。


そしてなぜだか・・・。


「まあ頑張れよな緑川」

「いやあの、姐さん、この場合俺に丸投げされても。俺も質問なんすけど・・・なんでここにいるんすか?凌空門から20キロは離れてるっすけど、気づいたら、いつ宝物庫に来たんすか」

「そこだけはよくわかんねえんだ、まあ・・・助けてくれたのかもな。だとしたらまあ申し訳ねえぜ」

「あははは、姐さんもわっかんないんじゃどうしようもないっす」

静かな田舎道に緑川の笑い声が響く・・・。

滅竜アジ・ダハーカはどうしたの・・・と言わんばかりの緩い会話が続く。

「アジ・ダハーカのことも聞きたいんやけど、ところでいつ仲直りしたんや?部長と副部長は」

みんなの視線が―――といってもロミオと未来と三守の3人のだが―――葵と緑川に集まる。5人で帰っているわけだ。

「機嫌のいい如月部長、うちもお願いが・・・緑川副部長のクビの取り消しを」

「あたしもお願いするのなの」

何の話だ?といった雰囲気で葵と緑川は並んで歩いている。

「何言ってんだおまえら?」

「クビとか何言ってるんすか?」

ロミオと未来と三守の3人はどうにも納得いかない様子だ。

「面倒だから見せてやれよ」

「一カ所危険な内容っすけど、メールを転送してもいいんすか?この3人に?」「ああ、この3人なら問題ないぜ」

少し勿体つけて緑川は話す。

「実は姐さんのお師匠からのメールはもう一通あったんすよ、午前中に。とりあえずここにいるメンバーに送るっすね?いいっすね?」「ああいいぜ」

「じゃあ3人に送信するっすよ、本当にいいんすね?姐さん」

もう一度、葵はうなずいている。

歩きながら緑川は3人にメールを転送する。

「まあ読まなくっても説明するっす」


“このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

ゲヘナに脅されているスパイが“ドラゴンディセンダント”内部にいる

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

このメールは如月葵と緑川尊以外見てはならない

纐纈守人の家は神社だがアジ・ダハーカの封印は

その神社の蔵の地下にある古い鏡である

だが封印はもうすぐ解かれる、本日、18:40頃だ

封印は自己崩壊しかかっている

だが再封印は不可能に近く不要

再封印するよりも確実な方法がある

アジ・ダハーカを倒す

復活すると速やかに大地から物質化して

物質化後45秒かけて多重結界を詠唱する

詠唱が終わると半永久的に結界は持続する

詠唱前に倒す

倒すには非常に高度な攻撃が必要

結界がない仮定でも能力的に如月葵か

西園寺桔梗以外には倒せない

倒す方法は如月葵に数時間後メールする

ゲヘナは封印を現在も血眼で探している

敵を引き付けよ

アジ・ダハーカを確実に倒すため”


「えっとっす、最初の方をみてもらうと秘密にしたわけが分かると思うっす」

携帯端末を右手で軽く持って振りながら緑川は説明している。

「それからっす、アジ・ダハーカの封印はもう再封印できない状態だったんす」

3人は絶句しながらメールを読み・・・緑川の顔を交互に見ている。

「つまり・・・囮になって敵をひきつけたわけっす、ゲヘナは午後にみんなに転送したお師匠さまのメールを見ているわけっす、というかわざと見せたんす。今送った方じゃなくってさっき転送した方のメールをよく読んで欲しいっす、ゲヘナを騙すためのメールの方っす」

全員がメールを読み直している。

「こう書いてあるっす“江上明日萌の古代術式と三守沙羅の真言で破れかけている封印を補強できる”・・・つまり釣りっす・・・ゲヘナを釣ったわけっす・・・まあ分かりやすく言えば嘘っす・・・騙したんす・・・だから神社は攻撃されたんす」


えええええ・・・!


「すっっっげええええ!」

「衝撃的な展開で・・・うち言葉が・・・」

「そんな・・・そうだったの・・・ゲヘナをだましたの・・・なの」


得意げな緑川だがさてと葵の方を向く。

「さてこっから先は俺も聞きたいっす」

ふっと軽く笑い、集団の先頭から皆の方を向いて葵は話し始めた。やや歩きがゆっくりめになっている。

「まあ簡単にな、まずアジ・ダハーカの復活場所は降魔の結界内部に限定される、それからアジ・ダハーカは魔晶石が三つあって同時に破壊する必要がある、それ以外の方法では倒せねえ。同時じゃないと復活するらしい、魔晶石もな。身体が物質化して45秒後からはだ、ランダムだが三つの魔晶石のうち必ず一つの魔晶石周囲が疑似異界化結界で外界と遮断されるんだそうだぜ。」

「なるほどっす、それで短期決戦が必要だったんすね。まずアジ・ダハーカの復活ポイントを絞る必要があったわけっす、待ち構えていないと45秒なんてすぐ終わるっす」

「感動するほどの天才的な・・・つまりメールに書かれていたあの三つの復活ポイントは・・・相手の選択肢を奪うフェイク・・・わざとゲヘナに流した偽情報?・・・信じられない、うち」目を見開いた三守沙羅は両手で頬を抑えている。

「アジ・ダハーカの倒し方って、そんなもん、復活前から分かっとったんか!如月部長のお師匠って何千歳や?」素っ頓狂だな・・・ロミオは・・・まあ面白いからいいか。

「いや2800年前に倒し方が分からなかったから封印したんすよ、だけど、だけど、だけどっす・・・姐さんのお師匠は超越してるっす、人類の敵だったら世界が滅ぶレベルっす」うん、ピカ一だな・・・賢い・・・長足の進歩だ。


「でもあの・・・気になるのなの。脅されてスパイのところなの・・・」


・・・しばし沈黙・・・。


「ああ俺もそこだけはわかんないっす・・・でも姐さんは当たりがついているんすよね?このメンバーにだけメールを転送してもいいって言うわけっすから・・・つまり、ここにいないメンバーが・・・」

「あん?なんだよ緑川。キレッキレだなって褒めてやったのによ」

変顔のロミオが何かに気付いたようだ・・・。

「ああああ!あれ?じゃあや!如月部長と緑川副部長のケンカはお芝居かいな?」

完全にずれてるぞ・・・。

「今頃・・・?」

「それは私でもわかるのなの・・・」

多少冷たい目でロミオは見られている。

「俺が、この緑川尊が如月の姐さんとケンカするなんてありえないっす!それから俺は女性に手を上げないっす!」いい音してたけどな。

「二人の迫真の演技・・・騙されるなんて」

「・・・ひっぱたくなんて、びっくりしたのなの」

百面相状態のロミオの変顔は続く。

「あんなもん騙されるで!その後の如月部長!あれはなんちゅう迫力や!」

「あははは。敵を騙すにはまず味方からっす。姐さんは身体を硬直させて大笑いするのをギリギリで防いでいたっす」

「なんだよ、気づいてたのかよ、あれは危なかったぜ!緑川が真面目な顔をするもんだから面白くってな、いいビンタだったぜ。それより未来・・・ゲヘナ抜けてくれ、頼む」


「無理なの」天を仰いで秋元未来は即答した。

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