第8話1-7-2.戦闘は否応なしに開始される―――初めての全国大会―――

―――1-Aの教室は今日もにぎやかだ、と言っても騒音の元は授業が終わったとたんに颯爽とやって来た緑川尊だが。


放課後、部活に行く前である。

秋元未来が珍しく風邪で休んでいる。沙羅もロミオもまだ来ていない。

そのため珍しく緑川と葵は二人で話している、と言っても緑川が8割がた喋っているのだが、今日から少し状況が変わるのだ。


「春季大会前っすから今日からしばらくランク戦は中止っすよ」相変わらず情報通だ。

「・・・よし!あの西園寺の桔梗の奴!決着つけてやるぜ!」鏡の国で共闘して以来かなり意識しているようだ。


そう春季大会が始まるのだ。成績は大学への進学に直結する・・・まあ新入生にはそこまで関係はないのだが・・・。公式戦は基本的に全員参加であり、降魔六学園の生徒8000人のほとんどが個人戦に出場・・・団体戦はレギュラーでなければ補欠としてだがサポート要員として参加することになる。


・・・1-Cの緑川尊がここにいることは1-Aの他の生徒にとって空気のような普遍のものになりつつある。

「あの、姐さん・・・春季大会では新入生は個人戦は新人戦しか出れないっすよ・・・“ドラゴンディセンダント”は新設なんで団体戦も10月のインターハイからしか出れないっす」

「んだと!」こないだも緑川と権藤先生が説明していたのに聞いてなかったな。


「ああ、でも12月にも白鯨旗って公式戦があってこれは団体戦なんすけど5対5の勝ち抜き戦なんすよ、先鋒で5人抜いちゃうとかできるっす」過酷なんで人気ないけどな。結局、桔梗が率いる“ホーリーライト・ザ・ファースト”が優勝するだけだが。そして厳密には公式戦ではない・・・まあいいけど。

「勝ち抜きはおもしろそうだな・・・いや12月って10月より先じゃねえか・・・」


「じゃあとっておきの極秘情報っす。来年5月からはひとつ公式戦が増えるらしいっす!これは個人戦だけの公式戦らしいっす」どっから情報持ってきているんだ?

「来年ってもっと先じゃねえか」賢いなあ葵・・・。


「先のことは大事っすよ姐さん・・・俺たちがこのまま強くなって3年生になったころ・・・今の“DD-stars”とか“ホーリーライト”くらい強くなりたいっすね」それは確かにその通りだ。葵を除けば、三守と緑川の能力とポテンシャルは竜族も相まって1年では最強クラスだろうしロミオも遠隔攻撃できるようになれば化けるだろう。3年になって主要メンバーがTMPA3万越えれば春季大会やインハイで全国公式団体戦の優勝圏内になるだろう。アスモはよく分からないが。・・・全員気付いていないだろうが急速に成長しているのだ。葵が強すぎて霞んでいるだけで・・・例えば戦闘能力の各項目をSABCDEで表せば緑川は攻撃B、スピードA、防御Cといったところ。“念装疾風”を使えば時速80km以上で走れるだろう・・・つまり100メートル走すればタイムは加速を考えても5秒前後だろう、これは上級生を入れても結構早い。まあ葵は最低250kmは出ているから100メートル走は2秒切るかもだが。


「まあそう言わずに姐さん。新人戦の予選と言っても六つの学園で新入生3000人もいるんすよ。3000人っす、手強い奴がいるっすよきっと」だいぶ葵の扱いに慣れてきたな・・・。「なるほど・・・まあそうかもな」

強引に説得できそうだ。まあ感覚合一できていない新入生も結構いるから3000人は出ないけどな、魔装もできないものは出場しない生徒も多いし半分くらいだろう。


しかし鏡のダンジョンでだれも死ななかったのは奇跡に近い・・・そして確かに強くなってきている・・・新人戦・・・葵以外もいいとこまで勝ちあがるかもしれない。

「まあそれでも姐さんが優勝するとは思うんすけど・・・聞いてもいいっすか?姐さんの火竜って第二段階っすよね?レベルいくつっすか?」

そういえばどれくらいだ?

「はあ?レベルってなんだよ?」まさか知らないのか・・・。


情報通の緑川はこうやって葵にかなり基礎的な情報を与えている・・・いいコンビだ。まあ知っていないとどうかしているレベルの基礎事項なんだが・・・。

「まじっすか。一回は脱皮というか蛹というか・・・姿が変わってるはずっす。影獣化している竜の卵と感覚合一すると数日後に竜の幼生が生まれるっすよね?これが第一段階っす。ここまでいいっすか?」

「うーん。それで?」

基本的に授業は寝てるし・・・葵は知識に問題がありそうだ。


「それでっすね。竜だけに限らないっすけど早いと大抵10日ほどで勝手に影の中でさなぎになるっす・・・数日後その竜が出てくると第二段階っす・・・進化するわけっす」

「そうだったか?」大丈夫か・・・?


「大丈夫すか?姐さん・・・それでMAXレベルを100とするとっすね・・・」

「まてまてレベル100って突然なんだよ」

理論を知っていなくても強いんだな・・・無茶苦茶だ・・・。


「・・・えっとそこからっすか。第二段階で潜在能力を出し切ってMAXまで成長したとすると、そこを便宜上100とするんす・・・だいたいっすね普通レベル80まで育てるのに8年くらいかかるっす。もちろん個体差はあるっす。木属性だと成長早いとかっす」

「うーん?」腕組みしている葵・・・絶対分かってないな。

「レベル80から90にするのにだいたい8年かかるっす。成長にブレーキがかかるんす」

「ようはレベル100にすりゃいいんだろ?」

「違うっす・・・レベル80を超えると任意で蛹化できるようになるっす・・・しばらく時間がかかるっすけど・・・蛹から孵化するとっす、レベル1にもどって第三段階になるっす」だんだん補習を受けているダメ生徒と教師みたいに見えてくる・・・。


「はあ?レベル1にしてどうすんだ?」

「ちっちっちっ・・・そこが違うんすよ」

「むかつくなぁ・・・おまえ」全く中指を立てるな・・・一応女なんだから。

よくこんな生徒に真面目に教える気になるな。

「何言ってるんすか。愛する人に教えてるんすよ・・・第三段階のレベル1はそこまで弱くならないっす、そしてレベル40位までは凄いスピードでレベルが上がるっす。レベル40位になるともとの強さになるっす・・・つまり第二段階のレベル80位っすね」

「じゃあさっさとレベル80になったら・・・なんだサナギか何かにすりゃいいんだな?」

もっとわかりやすく教えないと・・・。

「それが例えばレベル90まで上げてから第三段階にステップアップしたほうが最終的には少し強くなるっす」


頬杖ほおづえついて葵は完全にイライラしている。

「わけわかんねえ、じゃあやっぱりレベル100にすりゃいいんだな?」

「第二段階レベル90から100にするのに180年かかるらしいっす、それに第二段階レベル100と第三段階のレベル60が多分同じくらいの強さになるっす。ちなみに第三段階もレベル80になると第四段階に任意に進めることになるっす・・・ただ第四段階は成長がものすごく遅くなるっす・・・だから普通はお勧めしないっす」まあ説明としては60点位か。とうとう葵はついてこれなくなったか・・・。

「もうわっけわかんねえ・・・」

それでも畳みかける緑川・・・。

「ただし段階が上がると・・・蛹になる度に属性が増えたり・・・全然別の竜に進化することがあるっす・・・そういう意味では第四段階もありっすね・・・ちなみに竜の眷属と呼ばれる魔獣に分類される化蛇とか火蜥蜴なんかは蛹になって孵化ふかするときに本物の竜に・・・ドラゴンになることが稀にあるっす」うん70点位・・・。


「・・・・・・」そして葵は机に頭をつけてパンクしている。

「わかったっす・・・今度姐さんの竜のレベルを測って・・・何が必要か俺が考えるっす」

うんそれがいい。時間の無駄だ・・・。




―――そしていよいよ全国大会新人王を目指して六学園内予選が始まる・・・。


六つの学園の新入生をランダムで3つにわけてグループA、B、Cに分け学内予選を行う、各チャンピオンはそのまま全国大会新人戦に出場できるというシステムで・・・負けてもさらに地方戦の新人戦予選に出場可能となるのだ。降魔六学園の生徒は恵まれているわけだ。


“ドラゴンディセンダント”からは如月葵、緑川尊、三守沙羅と御堂路三男の4名が出場することになった。江上明日萌は愛の女神は戦いません・・・だそうで、秋元未来は力のコントロールがまだできないらしい。


早朝にグループ分けされて、自分がどのグループかは各人の端末で確認可能だ。

グループAに緑川尊、グループBに三守沙羅と御堂路三男、グループCに如月葵が出場した。


グループCの試合を行う闘技場はすべて第5高校の8つある体育館を使用することになった、グループAは1高の、Bは3高の体育館を使用する。

新人戦予選は2年生と3年生が出る個人戦予選の前日行われるため同チームの先輩が応援やアドバイスに来るのだが“ドラゴンディセンダント”の2年生、ハオ・ランはグループAにズー・ハンはグループBに応援に行き・・・権藤先生は審判長であり動けない。回復できる未来はグループAの応援に、同じくアスモはグループBの応援に行くことになった。そもそも葵が怪我するとはメンバーはあまり思っていなかったのだ、未来が行きたがったが葵本人も応援はいらないとのことだった。


第5高校は男子校でギャラリーはやはり男子生徒が多い、というかこんな時くらいしか女子生徒が校内で見れないために毎年お祭り騒ぎになる。本人も忘れているが如月葵は美人コンテストに出ており・・・以来、実は5高にもアオイファンクラブがある・・・。1回戦を行う葵の闘技場はすでに男子生徒の人だかりの山になっていた。


写真を撮られまくっている。


―――葵ちゃ―――ん!!―――

―――おお来た!来た!―――

―――葵ヒメ―!!―――


「・・・なんかやりにくいぜ、マジで」まあその気持ちは分からないでもない。優勝までは9戦もある。なかなか過酷だ・・・魔力を消費しすぎてもいけないし。



・・・・・・さて、それでグループCの試合は朝8時30分ぴったりにはじまり夕方6時におわり葵は優勝した。




グループAの緑川尊は健闘した・・・決勝まで行ったが第1高校の毒竜の召喚士に最後は削り負けた。いい試合だった。

グループBは三守沙羅がベスト4でロミオは・・・1回戦負けだった。


ロミオ頼むわ・・・。ロミオはズー・ハンと話している。

「いやあめっちゃくちゃ強かったで・・・1回戦の相手な。如月部長と張り合うかもしれんな」「そのお相手は2回戦で負けました」「あいつに勝つ奴おるんか、じゃあそいつが優勝や」「そいつという人は3回戦で負けました」「ええ、そんな強いのがおるんか」「そんな強いのさんは4回戦で三守沙羅さんに負けました」「まじでかぁ・・・」ダメだこりゃ。



「不覚」三守沙羅の敗因は魔力の枯渇だった・・・試合の度にいちいち鏡をつくるため魔力が足りなくなったのだ。もう少し配分を考えないと。


新人戦予選がすべて終了し葵も緑川も第3高に戻ってきている。

そして誰からでもなく反省会っぽくなっている。

「俺は不完全燃焼なんす・・・地方戦予選もエントリーしてみるっす」

「うちは基礎力つけないと出ること叶わず・・・意気消沈・・・」

「わしは遠距離攻撃覚えんとな・・・でもちゃくちゃくとな・・・この魔術書はでもすごいで。病室に持ってきてくれたんは緑川やろこれ?」「知らないっす」「じゃあ誰や?」誰でしょう。


「・・・も、もしかして・・・」「何すか?」「実はやな・・・とんでもないカワイイ子が・・・わしが寝とるときにお見舞いに来たらしいんや・・・一人でな・・・」「・・・まじっすか?」「ひょっとしたらわしのファンかもしれんで」「ロミオのファンすか。どんな子っすか・・・大概のかわいい子はチェックしてるっすよ・・・他校でも」「だから顔は知らん・・・看護師さんが言っとったんや、とんでもない見たこともない美人やって・・・女神や言うとった」「ノーヒントっすか・・・ほんとにそんな子来たんすか?」「きたんやー」「きたんやーって会ってないんすよね?」



機嫌良さそうに“ドラゴンディセンダント”に金髪長身の女性が近づいて来る。

「惜しかったわけ。緑川1回生・・・」

「ジェニファーのお姉さまじゃないっすか。その犯罪おっぱいの胸で泣かせてくださいっす!!・・・いてっててて沙羅ちゃん冗談っす」「女の敵・・・」


「しかし如月1回生はさすがなわけ」

「どってことないぜジェニちゃん」なんの話しだったっけというような感じだ・・・大したものだ。

「ジェニファー先輩と呼びなさい・・・それより聞いたわけ。三守1回生も火に焼かれて大変だったって」

急に神妙な雰囲気になる。

「大津留先輩、何者か熟練のつわものに助けられたらしく・・・ただ命の恩人を覚えておらず・・・大変失礼」まあそれは気絶してれば仕方ないだろう。

「覚えてないわけか・・・もしかして・・・真っ黒い・・・うーん。いやいいわけ」何か言おうとしてジェニファーは途中で辞めた。



グループA準優勝の緑川尊とグループC優勝の如月葵は校内でも表彰があるため二人で歩いていく。


相変わらず緑川は歩きながらよくしゃべる・・・葵も良く相手してるな。

「俺は如月の姐さんと出会えてよかったっす。見違えるように人生面白くなったっす」

「そりゃよかったじゃねえか・・・」それはよかった、それよりもねえ。

「俺出ようと思うんす・・・地方戦予選勝ってなんとか公式高等学校全国新人戦に・・・なんとか俺も出るっす」まあ適当にどうぞ・・・というかこのままだと。

「ああ・・一緒に決勝戦やろうぜ!」無理だろうな・・・それよりも。

「そ、それはちょっと無理っす・・・」・・・葵と桔梗が戦うのはいつになるのか・・。

「でも如月の姐さんを愛してる緑川尊は最強っす・・・」しかしまあ“ドラゴンディセンダント”の1年生はなかなか優秀だったな。まあアスモと未来はそれぞれべつカテゴリーだが。

「愛してるとか軽々しく言わない方がいいぜ!またろくでもねえことになる」まあとりあえず葵は全国も優勝してくれないとな・・・さっさと最低秋のインハイには桔梗とな・・・。

「じゃあ今後は如月の姐さんだけにするっす。・・・愛してるっす葵さん・・・」三守や緑川は来年には・・・活躍できるかといったところだ。

「・・・・・・は・・・はあ・・・何・・・何言ってやがる・・・」ん?聞いてなかった・・・緑川なんだって・・・。ん?どうした葵??なに真っ赤になってるんだ?

「そして急速に強くなるっす・・・葵さんに置いていかれるのはゴメンっす」まあいいか。とりあえず新人王になってください、葵さん。




―――暗い・・・次元の狭間・・・まさしくそんな表現がぴったりだ・・・瘴気にあふれ・・・正常な人間は入ることも知覚することもままならないだろう。幾重にも結界が張りめぐらされている。


召喚士ではないのか・・・ここの住人は全員・・・魔族に近い・・・なんらかの改造魔族・・・人間と魔族の間で強引に作られた混血・・・吸血鬼もいるな・・・強力だ・・・体には魔晶石が埋め込まれている・・・人よりは魔族寄り・・・か。


・・・この次元の狭間・・・体積としてはビジネスホテルくらいだろうか・・・。また幾階層にも分かれている・・・まさしく・・・テロリストの泊るホテルといったところか。


何者かの念話と会話が交錯している・・・。

(失敗続きではないか・・・香樓鬼・・・)強力な魔力だ・・・姿は見えないな・・・近くにいない?

「申し訳ございません・・・導師さま」そういう香樓鬼は黒っぽいチュニックのような衣装とマントに身を包む女性で30歳前後・・・くらいに見える・・・膝をついて忠誠でも誓っているようだ。一人きりで周囲は闇だ・・・・。


(襲撃はことごとく失敗・・・祟鏡鬼まで失うとは・・・)この念話の相手が導師か?

「お言葉ですが問題なく次の段階にすすんでおります故・・・お許しを」

(まま・・・御仁方・・・祟鏡鬼を失ったのは香樓鬼のせいではございますまい・・・ケイトのせいでありましょうぞ・・・ふっふふ)別人からの念話だ。何人いるんだ?

「ケイトは使い魔のようなもの。未熟でございまして・・・」

(ワシのところへ呼べ・・・慰み者にしてやろう・・・)

「・・・」

(香樓鬼!返事をせよ!導師様がご所望じゃ!)もう一人・・・感じは女性だ。

「・・・はい・・・」

(・・・ふむ・・・ツキシマ様から直々に話があるそうだ・・・行くがよい香樓鬼)

(われらが盟主自らじゃと・・・なにごとじゃ・・・香樓鬼風情に・・・)

(よさんか!お待たせするわけには行かぬ)


降魔中央区を物色していた香樓鬼・・・ゲヘナの幹部の中ではどうやら序列は下位・・・といったところか。香樓鬼と話していたのは3人とも“導師”かもしれない、ゲヘナの“導師”は2人だったはずだが昇格したのかもしれない。


―――なにをするつもりか何一つ漏らさず調べる必要があるな・・・。


・・・ゲヘナの戦力はかなりのものだ・・・魔族と人間の混血のような戦士たち・・・兵士と言った方がいいか・・・おそらく人造下級魔族・・・魔獣もいる・・・殺傷力の高い対人用のマジックアイテム・・・大量だ・・・最近、大幅戦力アップしたソードフィッシュの対テロチームだが・・・その対ゲヘナ想定戦での予想戦力を完全に見誤っている・・・最低でもゲヘナには予想の数十倍の戦力がある。

・・・見通しが甘すぎる。




―――順当だった・・・。


召喚戦闘春季大会学内予選は六つの学園の生徒、チームが鎬を削る・・・予選結果は・・・第3高校在籍者で全国大会に駒を進めたのは・・・個人戦代表はレマと纐纈守人・・・と地方戦を勝ち上がった大津留ジェニファーだけで姫川樹奈さんと藤崎成城はエントリーしなかったらしい、武野島環奈はグループ戦ベスト4で敗れた。団体戦代表は“DD-stars”、新人戦代表はは如月葵・・・と地方戦を突破した緑川尊となった。


学園別では全国大会に駒を進めたのは個人戦代表は第1高校8名、第2高校1名、第3高校3名、第4高校2名、第5高校2名、第6高校0名だった。団体戦代表は第1高校から2チーム“ホーリーライト”と“ブラインドガーディアン”、そして第3高校の“DD-stras”、第4高校から“ロードクロサイト”、そして第5高校“背中語り”で、第2高校と第6高校は1チームも全国に進めなかった。新人戦代表は第1高校3名、第3高校2名であった。


まさしくほぼ順当だ。


春季全国大会では新人戦をまず行い・・・それから3日かけて団体戦を行う・・・個人戦は最後に行う。




―――国立闘技場―――あっという間に全国大会が始まる。

相変わらず巨大な施設だ、大きな召喚士の大会は高校生だけでなく大学生や社会人もここで行う。“ドラゴンディセンダント”メンバーはバスで前日に移動し現地入りしている。ここで数日間、トップレベルの召喚士が技を出し合い死力を尽くすのだ。


全国大会初日に行われる新人戦はそこまで観客はいない・・・だが中々熱い試合は多くみられた。緑川尊の2回戦と3回戦は白熱していた。

2回戦の相手は北海道代表の毒竜使いで格上だったが毒への対処は学内予選の時と違いばっちりだった、制限時間ぎりぎりで倒した。

3回戦はこれまた格上の関西代表の金竜の召喚士だったがお互い決め手がなく・・・緑川尊は優性負けした。


闘技場から傷だらけの緑川がもどってくる。回復魔法は苦手な三守が真っ先に駆けつけて回復を始めている。

「ふう、沙羅ちゃん。ごめんっす。もう少し硬い相手を倒すわざがいるっすね」

「お疲れさまでした。いい試合・・・うち感動してしまって・・・圧倒的不利でも優性負けにするなんて・・・試合運びは緑川さんに軍配・・・」緑川の攻撃はほとんどダメージが通らなかったのだ。前半は負けペースだったが後半は相手の間合いを覚えて回避からカウンターを入れていた。沙羅は丁寧に全身を回復している。


「負けたら意味ないっすよ・・・あと2回勝てば姐さんと戦えたんすけどね」

「如月部長は別格であります・・・」そう言って相変わらず水着みたいなバトルスーツのアスモは三守の回復を手伝う・・・追加詠唱、上手いな・・・こいつの魔術センスはなんなんだ・・・。

「ああ。アスモちゃんもバックアップありがとうっす・・・姐さんのバックアップはいらないかもしれないっすけど未来ちゃんとロミオに合流するっす」


「如月部長はこのまま優勝の可能性、大?」独り言のように沙羅は話す、緑川の回復に集中しているようだ。

「そうっすね。九分九厘優勝と思うっすけど・・・全国は広いっす」

「古代バビロニアでも如月部長の戦闘能力はでありますね・・・換算すると余りある・・・・・・そういえば用事を思いついたであります。少し遅れていくであります」こいつも少し調べる必要があるだろうか・・・だが優先順位は低いだろう。


ちょっと悔しそうな緑川尊と機嫌よさげな三守沙羅の2人は上の階の葵たちのいる闘技場に移動していった。




―――歓声を浴びながら・・・しかし思いっきり欠伸をしながら葵が闘技場を降り、“ドラゴンディセンダント”メンバーに話しかける。魔装は解いていない。


「実際あれだな・・・ふぁあああ・・・弱すぎて眠くなるぜ!・・・まあ次の奴に期待だぜ!次の奴にな!」

闘技場下の緑川尊をはじめとする“ドラゴンディセンダント”メンバーは意気込んでいる葵の言葉に小首をかしげている・・・。

「かったりいなぁ・・・」ほんとに眠そうだ・・・まあこれだけ実力差があればなあ。


「ん?・・・なんだよ。お前ら変な顔しやがって・・・」

一応、葵は次の試合に備えて全く無傷の魔装を調べている。必要ないだろう・・・。


「いやあの姐さん?さっき俺の話し聞いてましたっすよねぇ?」

眠そうだったから全く聞いていなかったな・・・ひょっとしなくても。

「がんばるぜ!まあ出場した以上はな・・・ダイジョーブだぜ!・・・」

「えっと・・・あの葵ちゃんてば・・・なの」未来は金髪ショートの髪を両手で触りつつ少し困っている。

「・・・なんつーかさ・・・やりがいが無いっつうか・・・ん?どうした未来?」まじで気付いていないのか。


「あの如月部長さん・・・なあ・・・あんたすげえわ」ロミオは何か大会記録みたいなものを端末で調べているようだ。

「今から、今から本気でやるから・・・刺激が無くて眠くってなロミオ。仕方ねえだろ」今からなあ、頑張るって言われてもな。

「あのまだ戦うつもりなのなの?」なんでそんな心配そうな顔ができるんだろう?

「決まってんだろ・・・何言ってんだ?」決まってるんですか・・・。


まとまらないから、はやくまとめてやってくれ緑川・・・。

「どう説明したもんすかね・・・」

「困ったのなの・・・」困らん困らん。

「何から何まで記録尽くしなんやて・・・如月部長さんは」例えば何が?

「・・・・・・尽くし?」


軽く沈黙・・・。


にっこり笑って未来が両手を差し出した。

「普通に・・・優勝おめでとうなのなの」口火を切ったか。

「ああ、言っちゃうんすね。じゃあ。おめでとうっす姐さん!新人王っす!」

「・・・さすがとしか言いようがありません如月さん、おめでとう」


「如月部長さん・・・全試合無傷も初めてで、平均試合時間も最速やて、歴代最強新人王や!」まあそうだろうな・・・。そうでなくては。ん?どうも納得いっていない顔だ、葵は。

「いやいや、待てよ・・・準々決勝だろ?今の相手は?」なんでやねん。

「まじすか?姐さん・・・逆に面白いっす」

またミニコントが始まりそうだ・・・。


「葵ちゃん、トーナメント表も一切見て無いのなの」見る訳ないやろ。

「・・・とぼけとるけど無茶苦茶やで」ロミオこそ予選1回戦負けはないぞ。さっさと技を覚えてくれ・・・結構強くなるはずなんだけどな。


「あれ?アスモさんはまだ?どちらに?」

「てめえら、あたしを担いでんじゃねえだろうなあ」まだ信用してないのか。

「姐さんを騙すわけないじゃないっすか・・・ホントに眠かったんすね・・・夜眠らずに何しているんすか?今度一緒に一晩過ごす必要が・・・いてててて沙羅ちゃん!冗談っす!」お前は何をする気やねん・・・。


―――皆様・・・新人戦表彰式は15分後に執り行います―――


場内アナウンスを聞いてようやく葵は新人戦が終わったことに納得したようだ。まあ葵にとっては散歩しているのと同じような難易度だったわけだから仕方ない。いつの間にか終わっていた・・・などと・・・さすがだ。

ようやく優勝している実感が湧いてきているようで葵も笑顔になってきている。


こいつら仲いいな、ワイワイ喋っている。


「だからちゃんと端末の地図確認してっていったのになの。さっきも迷子になってたのなの」「見ねえよ、そんなもん」「やっぱり未来ちゃんか俺が24時間監視してないとだめっすね、姐さんは。夜はおれが担当・・・いてててて沙羅ちゃん!」「女の敵!」「やっぱりってなんだよ。緑川」「平均試合時間2.2秒やで・・・」「そうなの?すごいのなのなの?」「とんでもないで」「ぶはっ!変な顔してんじゃねえよ!!ロミオ」「へ、変顔なんてしとらんで」「アスモさんは折角おめでたいのにどちらへ?」「予選も通らんのにわしは」「それはうちも・・・」「三守さんはベスト4やで」「姐さん。でも俺たち“ドラゴンディセンダント”はこれからっす!」「・・・つまりそれはやるって意味だな!緑川」「もちろんっす・・・“ドラゴンディセンダント”・・・やるからには・・・」「てっぺんめざすぜ!!・・・おまえらぁあ!!」「オ―――!・・・・・・でもわしはついていけるか心配やで」「なの―――」


ああ騒がしい・・・。


まあこれで葵は桔梗とやりあう階段をまた一歩登ったな、まあよかったか。

・・・このあと散々写真を撮りまくっていた。

アスモはハオ・ランとズー・ハンの二人と会っているようだ。



新人戦が終わると本来、チーム“ドラゴンディセンダント”は全国大会の団体戦も個人戦も出場者がいないため高校に帰ることになるのだが権藤先生の計らいで団体戦の最終日まで学校を休んで全国大会を満喫できることになったのだ、ラッキーだな。これはおそらく権藤先生が全国大会団体戦で審判をするということと・・・“ドラゴンディセンダント”のメンバーに全国のレベルを間近で見せるという二つの理由があったのだろう。



―――団体戦初日―――さすがに昨日は疲れてみんな早く寝てしまったようだ。

“ドラゴンディセンダント”のメンバーは全員私服で葵、緑川、未来、三守、ロミオが集合している。みんな自分の端末で今日の試合のスケジュールをチェックしている。


「いやあ権藤先生は話せるっす」普段なら葵は帰ってしまいそうだが・・・「みんなが見てくならあたしも残るぜ!」と試合を見ていくつもりのようだ。やっぱり桔梗が気になる・・・のだろう。


「そりゃ学校いくよりこっちのがええやろ・・・」「うちは水属性の選手の戦いを参考に・・・」それよりロミオは遠隔攻撃を練習した方がいいのだが、それからすべて平均以上なのだが三守沙羅は確かに足りないものが多い・・・なんというか戦い方が固いのだ・・・柔軟ではない・・・古風な実家の影響だろうか。


「ん~あたしは強そうなやつの試合なら誰でもいいぜ!」葵の動体視力なら多くのものが見ているだけで吸収できるだろう・・・「じゃあ強そうなところをピックアップしておくっす姐さん、他になにか細かいリクエストあるっすか?」君も全国大会に出るには厳しい実力だったが実際3回戦までいったわけだから大したものだ「なんかっつってもなあ・・・接近戦得意のやつが遠距離戦得意のやつと戦うとこが見てえかな~」「オッケーっす姐さん、緑川尊のラブラブコンピューターにまかせて欲しいっす」なんやねん、それは。


「どうしたんすか?未来ちゃん」「あたしは特に見たい試合はないのなの、寝ちゃうかもしれないのなの、それは失礼なの」いや葵は良く寝てるが未来が寝てるとこなんて見たこともない・・・「集中してれば眠くないぜ!ってゆうか寝てりゃいいんじゃねえか?」昨日は決勝戦すら寝ぼけてたくせによく言うな。


朝食も未来以外は食べ終わって始動するようだ。

「ん~とりあえず“DD-stars”の試合見に行こうぜ!もうすぐじゃねえか」「“DD-stars”でしたらうちも見たい・・・」「そうっすね・・・その後適当に各自、自由行動でどうっすか?」「わしらの高校の先輩やもんな、応援せんとな」「――なの~」「とにかくジェニファーのお姉さまの犯罪おっぱいを見る必要があるっす・・・・いててて!沙羅ちゃん!」「女の敵!」「ではいくぜ!」「待って葵ちゃん。まだ食べ終わってないの~」


―――観客は昨日に比べるとまだ朝にも関わらずかなり多めだ。

“ドラゴンディセンダント”の5人は2階の観客席に座ることができた。

期待に満ちた顔つきの緑川が身を乗り出している。

「しかしすげえ人の数だな・・・」

「・・・まあでもよかったっす、みんな座れて」

「同意・・・」

「すごい人気なの」

「なんかわしまで緊張してくるやないか」なんでやねん。

強豪―――“DD-stars”の試合はやっぱり人気の様だ。


―――そして・・・“DD-stars”の初戦はあっという間に始まり・・・あっという間に終わった。

圧倒的な5戦全勝の勝利だった・・・。


オオオォオオオ!!!


立ち見も増えて闘技場周囲の観客席は人だらけだ。

「すげえ歓声っすね。先鋒の纐纈先輩は一撃で終了、次鋒のカンナ先輩はハンマーを使わず相手を掴んで投げて終了・・・」

「カンナ先輩が投げた相手、鎧がバラバラになっとったで・・・おっそろしい・・・あと中堅ダブルスもすごかったやないか。藤崎・大津留先輩ペアは早すぎるで。二人とも。何しとるか見えへん」

各人程度の差はあれど感銘を受けているようだ。

「副将の姫川樹奈先輩も始めて見たっす。うわさ通り美人っすけど・・・なんすかあの戦い方は・・・反則っすね」

「まさしく要塞・・・」まああれは対処法を考えて且つ実行する実力が無いと手の打ちようがないわな。今までに破ったものは桔梗とレマだけだ。

「対戦相手かわいそうなの」この世は実力がすべて。能力だけじゃなくて運も感も根性も含めて。さらに情報戦や根回しやけん制やいろいろあるだろう。テロ組織にすら力関係や上下関係はあるのだから。


「でもあの不知火先輩はやばいで。わしでも分かる」戦乙女や雷神の異名は伊達ではない。

「鳥肌が立つっすね・・・レマ先輩のこと、どう思うっすか?姐さんは?あの超高速はすごいっすよね?」

「まあな。でも1戦だけじゃよくわからねえな」「見えてるんすね・・・あれが・・・なるほどっす。俺たちと見てるとこが違うんでしょうね。さすが姐さんっす」まあしかしレマに勝てないと桔梗にはとてもとても・・・だろう。


歓声等で声が聴きにくいので観客席を離れることにした。

「みんなこの後どうするっすか?自由行動にして昼だけは集まるのはどうすか?」みんなを見渡している緑川だがメンバーから異論はなさそうだ。


「うーん、あたしはしばらく“DD-stars”を見てくぜ!」ふーん桔梗を覗きにいかないのか、少し以外だ。

「うちは・・・水属性の選手をピックアップしてるから・・・そちらを」それは是非見ておいた方がいいだろう。古風すぎるのは時と場合だ。

「わしは中学の時の先輩が出とるから挨拶してくるで」ふーん。

「あたしは葵ちゃんと一緒に見るのなの・・・」うーん。

「俺は何といっても“ホーリーライト”を見てくるっす。それであとで情報交換・・・そんな感じでいいっすか?如月部長の姐さん」「ああそれでいいぜ」そして“ドラゴンディセンダント”はだだっ広い会場にばらけていった。


まあ全国大会で学ぶものは多いだろう。


そして今日一日で葵が1回ナンパされ未来が3回ナンパされ二人でいるところを2回ナンパされていた・・・。三守も2回ほど声をかけられていた・・・冷たくあしらっていたが・・・「おれっち暇なんでお茶でもしない?もしよか・・・」「断固拒否・・・」特にオールバックの変なバカみたいなチンピラには酷いことを言っていた。まあ私服だから・・・選手には見えないし・・・仕方ないか。ともかく得るものは非常に多かったようだ。全部権藤先生が学校から支給される部費でまかなっているようだが宿泊費も食費もただのようだ・・・。そして夜、ホテルで緑川は女性陣の部屋に乱入して三守に投げ飛ばされていた・・・不幸なことにロミオも巻き込まれていた。・・・どうもアスモはホテルにいないようだ。


団体戦は3日続くが2日目・・・。

ホテルで朝食ビュッフェ中の5人は固まって食事している。

「私服だと男性に声をかけられるので、今日は緑川さんといっしょに・・・」

「もちろんいいっすよ、姐さんはどうするっすか?」ふーん今日は緑川と三守がペアか。

「考えたんだけどな・・・ここはなるべくたくさん試合がみてえからな・・・今日は一人で回るぜ!いいか?未来?」未来が納得すると思えないが・・・いつも一緒にいるからな。


「全然いいのなの。実はちょっと風邪っぽいのなの、ホテルで今日だけ休むの―――」

「大丈夫っすか」「ん~まじかよ。ゆっくり休めよ・・・てめーは元気いっぱいかよ」「わしは元気いっぱいやで」そうなのか。相変わらず非常に食べるの遅いが風邪のせいと・・・。ロミオはどんだけ食うんだ・・・。


「わしは珍しい術つかう宮崎の選手がいるって話しやで見て来るわ、あとで合流するかもしれん緑川」「了解っす」自分で何するか決めれればあっという間に一人前にな・・・るかな。


箸でウインナーを振り回して緑川はキメ顔だ・・・。

「まあでも姐さん。気を付けてくださいっす。一応どっから見てもかわいい女の子なんすから」「しん・・・・・・けっ。信じらんねえこと言ってんじゃねえ!バカ緑川!」という割に真っ赤になって照れている「それこそ杞憂」杞憂というか無意味だ、三守は緑川をつねるかどうか迷っている?・・・ロミオは朝からカレー何杯目だ・・・未来は食べているのか何してるんだ・・・。



―――二日目は葵は国立闘技場2階の一番奥に陣取り・・・この階だけで4つある闘技場すべての試合を見ている・・・高速で視線が動き・・・大したものだ。

「さっぱりダメだな・・つうか右下の奴・・・動きは悪くねえけど」同時に数か所の試合を見ているのか、葵の動体視力ならでは。そばに人もいないし集中しているな、珍しい。

「“裂空破”か・・・見てれば今の・・いまのタイミングじゃねえな」しかしすごい疑似体験になるはずだ・・・疑似戦闘経験というわけだ。



―――ロミオが見に行った選手は音で戦う珍しい選手だった・・・いやあ騒々しい。

その選手はズドンズドン!シャリンシャリン!言っている!

「これやこれや!・・・わしに足りんかったものは!・・・これや!!・・・・・・これなんかな?」えーい。頭を抱えるな・・・。



―――三守と緑川は―――

弱小チーム同士の試合か・・・さすがにギャラリーは少ない。しかし相手の実力を読む・・・とか行動選択を予想するとかいくらでもすることはある。

「緑川さんはお誕生日は今月・・・?」

「ああ?よく知ってるっすね。そうなんすよ」

「それは何日・・・?」5月は知ってて日にちは知らない・・・?

「5月26日っす。沙羅ちゃんはいつなんすか?」

「うちは7月3日・・・」珍しく沙羅はくったくなく笑っているな。

「そうなんすね」まあどうでもいい。



―――未来は―――どこだ―――

ホテルで寝てる・・・いや起きてる・・・外出して帰ってきた感じだ・・・病院でも行ったか・・・シャワー中だ。

風邪ひいてるときは・・・軽いならまあいいか。



―――葵は朝から同じ席の背もたれの上にすわって足を前の席にのせて組んでいる・・・非常に行儀が良い。

「敵と距離感がダメだからタイミング・・・を?・・・誰もいないとこ攻撃かよ・・・」あれ・・・眠らずに見てるのか・・・。まあいい傾向だ。

「一撃に比重が重すぎるんだよな・・・桔梗とやるにはまああたしも・・・何かが足りない・・・」でも桔梗は見にいかないと・・・これはこれでありか。

「ルール読めよな・・・て。・・・え!コイツまじで反則負けかよ」ん?珍しく反則負けした選手がいる・・・噛みついたのだ・・・。たまにいるんだよ・・・繰り返す奴もたまにいるけど。



―――ロミオがいない―――

・・・・・・外か、Tシャツになって芝生の上で何か練習している・・・やる気はあるんだよな・・・権藤先生はどう成長させる気なんだろう・・・。珍しい複合属性だからな。



―――三守と緑川は―――

別のチームの試合を見ている・・・四国の高校は確か去年も出場していたな海風なんとか高校、強豪だ。相手はチーム“飛影”か・・・こっちはもっと強豪だ、強力なポイントゲッターがいる。“飛影”といえばやっぱり山中学院高校か。非常にレベルが高い試合のカードだ。


しかし、あの四国の女コーチうるさいな・・・。

「うちを炎から救ってくれた人ってどんな人かな・・・?」

「・・・すげえ達人っすよね・・・間違いなく」間違いない、自信を持て的な・・・。

「うち・・・あの時起きて最初は助けてくれたの緑川さんかと思って・・・」

「助けたのっすか?そりゃないっす・・・鏡の国の地下の地下にいたっすから・・・あのなんとか茜って人めちゃくちゃ強いっすね・・・多分メタルドラゴンTMPA30000くらいっすかね」だいたいあってる・・・。後ろの女コーチうるさ・・・。


「カマイタチ事件・・・みんな大怪我無くて何よりで・・・あの時、緑川さんが無事でうちどれだけ・・・」カマイタチ事件って呼んでるのか。

「そうっすね・・・いや相手もめっちゃくちゃ強いっすよ・・・この大将戦痺れるっす。チーム“飛影”のキリサメって呼ばれてる相手の選手・・・グラスドラゴン・・・TMPAは読めないっすけど茜さんと同じくらいっすかね」うん、まあまあ読めてるけど・・・正確にはTMPA30800、メイン属性はグラスで合ってるけどサブ属性でアースというか地属性もある、ついでに近接戦闘攻撃寄りスピード型・・・魔装武器はまだ出現させてないが両手に小太刀を持つだろう、ここまで読めれば及第点・・・うん?山中学院高校の連中の魔装全部にロゴがある・・・“TaDo-kOrO”?・・・地元のスポンサーか?高校生の試合では珍しい。


「ぜひ茜さんに頑張ってほしいっす」「どうして・・・?」「美人っす!・・・・いててててて沙羅ちゃん痛いっす」「女の敵!」「俺は女性の味方っす・・・」なんだかなあコイツ等は全く。



―――未来は―――

あれ?まだシャワー中か・・・いくら何でも長っが・・・。

そんなに洗うとこあるか??何時間も?



・・・明日、公式全国大会召喚戦闘の団体戦優勝チームが決まる。

今日・・・本戦の結果・・・5チームが出そろった。

明日は5チーム総当たり戦で優勝を決めるのだ、リーグ戦でどこが優勝か分かりにくくトーナメントにする動きもあるが、取り敢えず明日は5チームによるリーグ戦である。


決勝リーグを戦う5チームは降魔六学園からは第1高校の“ホーリーライト”、同じく第1高校の“ブラインドガーディアン”、第3高校の“DD-stars”の3チームが出場。そして古豪、正徳学園高校のチーム“アルカナム”ともう1チームはギリギリ滑り込んだ感じで“金獅子”というチームだ。


“ホーリーライト”は西園寺桔梗が率いるぶっちぎり最強チーム。TMPAは全員3万3千超えている、そして全員が竜族でドラオンチームだ。

“ブラインドガーディアン”も非常に強力・・・実はほとんどの大会で3位かベスト4に入っている。

“DD-stars”はポイントゲッター不知火玲麻を中心とするチーム。このチームも全員が竜族でドラゴンオンリー、全員がTMPA3万超えている。纐纈守人や大津留ジェニファー、姫川樹奈など全員がクラスAサマナークラスだ。

“アルカナム”は全員が坊主頭で・・・つまり男子校だ・・・全員同じ魔装・・・同じ武器・・・魔術も全く同じものを同じ順番で覚えると言う個性のすべてを破壊しているチームだが強い。練習量は異常でまず疲れない・・・らしい。

“金獅子”はよく決勝に来れたというレベルだ。運よく強豪とあたらなかったようだ。


ちなみに第4高校“ロードクロサイト”は“ブラインドガーディアン”に敗れ、第5高校の“背中語り”は“DD-stars”に敗れている。


―――“ドラゴンディセンダント”の5人はホテルの夜も3日目になり大分慣れたようだ。

夕食の時に未来も明日は参加できそうとのことだった。


・・・ホテルの屋上に緑川尊が現れる・・・。

「姐さんここにいたんすね?」

さっきからしばらく葵はここで一人夜景を見ていた。

「あん?緑川か・・・なんだよ?」振り向かずに答えてる。

「いや姐さんの姿が見えないんで探したんすよ」

「よくわかったな・・・気配消してんだけどな」

「ふふっ。つきあい短いようで長いっすから・・・一応ここは立ち入り禁止らしいっすよ」行動予測したわけか。

「・・・知ってるぜ」そもそもカギ壊して侵入してるし・・・。


ホテルはそこそこ高層だ、ビルの照明や車のライトがかなり遠くまで見えている。

「綺麗な夜景っすね・・・みんな結構いろいろ課題が分かって・・・今回の全国大会見学は有意義っす。権藤先生に感謝っすね」

「見学って新人戦出場してたじゃねえか・・・」

「ああそういやそうっすね、姐さんは優勝してたっす」軽く笑って緑川は葵の横に立つ。


雲があって星は見えない・・・少々風はある・・・葵と緑川の髪は風になびいている。


「姐さん・・・俺もいろいろ目標ができたっす」

「よかったじゃねえか」相変わらずぶっきらぼうな言い方だが・・・ちょっと優しいか?


「愛する姐さんに置いてかれないためにも早急なレベルアップがいるっす」

「・・・だから愛とか軽々しく言うんじゃねえぜ」

あれ?キレないのか。珍しく静かな感じだな。

「如月葵さんにしかもう言わないっす・・・」半歩前に出てビルの崖下を見る。

「・・・よく言うぜ」目を閉じている。


「姐さんのお師匠さんってヒョットして姐さんの恋人っすか?」

「な!!・・・何言ってやがんだ!!テ、テメ―!!」

「・・・いやあ姐さんて師匠からのメールを読んでる時だけ微笑んでるんすよ・・・見たことない顔で嫉妬するっす・・・・・・あの・・・もしも葵さん彼氏いないなら・・・俺」

「緑川尊!・・・お前はただの石っころだ・・・興味ねえ・・・どこにでもいるだろ?お前くらいの奴は・・・・・・今はな・・・とりあえず強くならないと何も始まらないぜ!」

「・・・・・・いいっすね・・・いいっす・・・すごくいいっす!やる気がメラメラ出てくるっすね!勝てそうもないライバルがいるのはうれしいっす!強くなる理由が増えて悪いことは何もないっす!」

「心なんてな・・・自分のも他人のもどうにもならねえんだ・・・」


“ドラゴンディセンダント”の部長と副部長はしばらく風に吹かれながら無言で佇んでいたようだ。



―――団体戦最終日―――

5チーム総当たり戦・・・一つの闘技場で順番に10戦行うわけだが・・・もっとも大事なのは第7戦だ・・・。第7戦は“ホーリーライト”と“DD-stars”が戦うのだ・・・両チームが他のチームと戦って負ける可能性はほとんどない。


「“ホーリーライト”が相手っすから・・・きっついとは思うんすけど“DD-stars”を応援するっす」

「そやな先輩やからな・・・わしまで緊張するで・・・」

「雌雄決す・・・うち、大津留せんぱいを応援・・・」


今から始まる第7戦が事実上の決勝戦になる。


先鋒戦・・・。

“ホーリーライト”の高成崋山と“DD-stars”の纐纈守人の1戦だ。

高成弟は妖刀を振り回し・・・纐纈君は竜紋のミドルシールドで捌きながらロングソードで迎え撃つ・・・。少しでも距離があくと纐纈君の雷属性魔法が飛んでくるため高成弟は密着する必要があった。

ほぼ互角だ・・・高成弟の方がいい形だったが・・・纐纈君にはこれがある。葵には使わなかった技だ。


“武神モード”!!


ほんの10秒程だが爆発的にTMPAをブーストする技で桔梗とすら戦えると言われている技・・・高成弟は惜敗した。


次鋒戦は佐薙亮一と武野島環奈の戦いだった。“ホーリーライト”の佐薙亮一は炎竜の召喚士で非常に強力・・・桔梗と葵さえいなければ降魔六学園随一の炎の使い手だっただろう。“ホーリーライト”の次鋒は炎竜の佐薙亮一か、雷竜の仁久崎星真か、土竜の土斐崎之平の3人のうち誰かが担当する・・・他にも候補者はいる。

武野島環奈のブラストハンマー凶はとんでもない威力で闘技場は半壊したが接近戦も遠距離戦も隙のない佐薙亮一に敗れた。


中堅ダブルスは天野・安福ペア対藤崎・大津留ペアで戦う。ダブルスは闘技場が広くなり通常の魔装鎧も魔装武器もほとんど―――膨大な魔力消費をすれば可能だが―――基本的に使用できない、獣人化を始めとする肉体を変化させるような系統の特殊魔装は可能である。


巨漢の天野哲夫とその左肩に乗っている小柄な安福絵美里ペアは“ゴールデンアイ・スチールレッグス”になる・・・鋼鉄の巨大蜘蛛のような特殊魔装だ。三つの金色の目を持ちレーザーを撃ちまくる。蜘蛛の身体部分は降魔六学園でも最硬レベルとなる・・・つまり防御力も魔法無効化率もトップクラスなのだ、ちなみに岩壁魔人と呼ばれる天野よりも魔法無効化率の高い魔装を作れるものは学園に一人だけいるが・・・全く動けなくなるため・・・存在すら知られていない。天野の身体はもちろん安福絵美里の身体も鋼鉄の4本足の蜘蛛の中に入り操縦するようなイメージだ。エミリーが操るのは三つの金色の目だけだ。


・・・エミリーは一人で戦う時、3つのゴールデンアイを操る・・・直系8.8㎝の金の球体だ。特殊魔装の一種でエミリーは通常の魔装鎧は構築できない。このゴールデンアイは別々に操作可能で飛行、空中で静止、レーザー攻撃、結界防壁、視覚情報、探知が可能で操作するには非常に高い処理能力・・・つまり高い知性と魔力と集中力を要する、だが魔力の消費は激しい。エミリーが一人で戦う場合は一つのゴールデンアイに自分を守らせ残り二つのゴールデンアイで相手を攻撃する。ただし魔術ではないためゴールデンアイを破壊された場合・・・戦闘中の回復は不可能に近い。


大津留ジェニファーは説明不要だろう・・・六学園で最速クラス、本人曰くマーシャルアーツの達人らしい、最近両手足を硬質化する特殊魔装を覚えている。藤崎成城は古武術と拳法の達人で魔装鎧は構築できるが苦手で防御力は低く、だがかわりにジェニファーより劣るが非常に戦闘スピードは速い、ちなみに苦学生で放課後は校内戦よりバイトを優先している。


中堅ダブルスは戦闘開始した瞬間・・・エミリーは3つのゴールデンアイをまとい結界を構築・・・普段の戦闘ではしないが・・・理由は簡単だ・・・藤崎・大津留の二人はすでに目の前に差し迫っているからだ。


硬質化している水晶のような右腕でジェニファーは防御結界を切り裂く!その綻びから藤崎が器用に足から飛び込んでそのままエミリーを攻撃する・・・がエミリーに攻撃は届かない・・・天野の特殊魔装しかけている鉄塊のような右腕で防がれている。


4人はとっさに悟っている・・・前回の時よりも相手は手強くなっていると・・・。


―――今大会でも屈指のレベルの戦闘だった・・・。


“ゴールデンアイ・スチールレッグス”・・・三つ目の巨大な鋼鉄のモンスターに対して・・・ジェニファーが先頭でに真後ろに藤崎という隊列を崩さず戦ったのだ。昨年までは2人で“ゴールデンアイ・スチールレッグス”を挟み撃ちする戦法だったのだが変えてきた。


前方からのレーザーは回避するかジェニファーの水晶の腕で捌く・・・。スチールレッグスの踏みつけや体当たり等をくらうようなクイックネスではないため・・・戦闘は膠着した。ジェニファーと藤崎はすべての攻撃を回避もしくは捌き、一撃離脱を繰り返したのだ。

スチールレッグスを傷つけてもダメージにはならなが・・・二人は一点集中・・・ジェニファーは左前足、藤崎は右後ろ足を攻撃し続けた・・・。


ジェニファーと藤崎は回避しているとはいえ少しずつダメージは蓄積していく、非常に根気のいる過酷な戦闘だ。

戦闘時間があと40秒切ったところで足を攻撃しに来たジェニファーを狙ってゴールデンアイが二つ射出されて背後密着から光属性魔法で攻撃・・・だが読んでいたようだ。


「これを待ってたわけよ!!!」


ジェニファーは今日一番の魔力を爆発させて被弾覚悟でゴールデンアイを迎え撃つ!至近距離で大ダメージをくらいつつ


“リーサルスタブ・D”!!


両手から渾身の波動で衝撃波を撒き散らし・・・衝撃波は闘技場の床をめくりあげた!自身のバトルルーツすら破損させつつ・・・ゴールデンアイを二つとも破壊してしまった。


しかしジェニファーの身体はは巨大な影に入る

技の硬直で動けないジェニファーの真上から何トンもあるだろうスチールレッグスが踏み潰してくる・・・!!

しかしこれも不発・・・「おおおおおおぉおお!!」藤崎が右後ろ足を関節と真逆方向にへし折ったのだ!


ビシュー!!


最期の一つのゴールデンアイが射出されて闘技場の真上に向かう・・・エミリーはかつてないピンチを感じ・・・試合時間も残り少ないため・・・ありったけの魔力で広域覚醒魔法を撃つ気だ・・・勝負に出たわけだ。


“拡散”

“熾光覚醒天翔波”!!


“リーサルスタブ・S”!!!


エミリーの上空からの強力な範囲攻撃魔法とジェニファーのゴールデンアイが射出された穴への鋼鉄蜘蛛の頭部への手刀攻撃は同時だ!「うあっ!」エミリーの声だ・・・魔術は発動させさえすれば攻撃魔力が弱くなることもキャンセルされることもないが・・・ゴールデンアイは別だ・・・ダメージで集中を乱し操作をミスして・・・エミリーは覚醒魔法を撃つ方向を僅かにずらしてしまった・・・。

覚醒魔法の直撃を避けてもジェニファーは大ダメージだが・・・鋼鉄蜘蛛の頭に深々と刺さっている右腕を抜かずに“衝撃群現”!!さらに右腕に魔力を集中し内部を追加攻撃をしている!!


“超・浸透勁”!!!


藤崎はスチールレッグスの真下で覚醒魔法の直撃を防ぎつつ真上の恐らく天野の腹部あたりにめがけて発勁を叩き込んでいる!内部破壊技だ・・・対スチールレッグス専用の技だろう・・・去年10月に敗れて以来、いや破れ続けてずっとだろう・・・修行し続けて戦闘終了10秒前まで隠し持っていたのだ・・・すごい執念だ!


“スチールサイクロン”!!


こんどは岩壁魔人、天野の技だ!

鋼鉄の蜘蛛は3本足で器用にその場で超高速スピンをしている・・・攻撃プラス防御というわけだ・・・ジェニファーを振り落とそうとしているが・・・鋼鉄蜘蛛のもう一つの目に左腕を差し込んで振り落とされず“衝撃群現”をぶち込み続けている。


ん?跳ね飛ばされた藤崎が高速回転しているスチールサイクロンにつっこんでいく・・・?自殺行為だが・・・。両手に魔力をためているが・・・?


“発勁二重螺旋”!!

ゴスッッッッツ!!


鈍い音とともに藤崎は吹き飛ばされたが・・・鋼鉄蜘蛛も倒れて地面を転げまわっている!

おお?鋼鉄蜘蛛の左前足が折れ飛んでいる!!


そうか・・・あの高速回転を見切って・・・ジェニファーがずっと攻撃していた左前足に決死の発勁を叩き込んだのか・・・タイミング超絶シビアだぞ・・・藤崎やるなあ・・・。


でも藤崎は戦闘不能・・・最硬を誇った鋼鉄蜘蛛の頭が砕けてエミリーが落ちてくる・・・エミリーも戦闘不能だ、もともとエミリー本体の防御力は低い・・・天野の身体は鋼鉄蜘蛛と同化しており動けなくなったからと脱着できるようなものではない・・・エミリーが座っていたそのすぐ下には天野の後頭部があるはずだ・・・そこにジェニファーが手刀を叩き込めば終わる・・・その瞬間・・・。


―――試合終了となった・・・5分の死闘が終わったのだ・・・。


最近見たことないほどの激闘・・・死闘だった。ブザーと同時攻撃ならルール上は本当はダメだが認められる場合もある・・・だがジェニファーは攻撃しなかったな。クリーンファイトだ・・・。

「おお・・エミリー・・おお・・・大丈夫か?」

「・・・天野君・・・大丈夫・・・そんな顔・・・しないで・・・」エミリーは力なく笑う。

あわてて特殊魔装を解いた天野はエミリーを抱いて医務室へ運ぶ気の様だ・・・。ジェニファー達を一瞥もせずに回復要員たちの手もいらないと・・・だれにもエミリーを触らせずに闘技場を後にした。


その後アナウンスされ中堅戦はホーリーライトの優性勝ちだった・・・。だが試合で無ければ立っていたのはジェニファーだっただろう。

「言葉もないっす」

「ジェニちゃんやるなあ・・・」

拍手がおきていた・・・。


副将戦は更科麗良に対するは姫川樹奈である。

降魔六学園十傑の4位と3位の戦いである。


これも特殊魔装に分類される・・・姫川樹奈は氷樹界という氷の要塞を作って戦う・・・唯一の欠点は本体は一歩も動けなくなることだろう・・・。あっという間に氷の大樹ができてその最も堅固な根元に姫川はいる。


更科麗良は十数もの光輪を操り空中で迎え撃っている・・・。生物のように動く巨大な氷枝に薙ぎ払われるが回避して必要な部分は光輪で切断している・・・そして氷の大樹に氷果が成り出すと戦況は変わる・・・氷果はオートで敵を認識しレーザー攻撃を始めるのだ・・・そして氷果は増えていく・・・レーザーはシャワーのようになり・・・回避は極めて困難になっていく・・・戦闘中氷果は増え続ける。


3分過ぎたところで・・・。

「まいりましたぁ・・・」

と超高速でレーザーを避けながら・・・更科麗良はギブアップした・・・。

中堅戦と比べると拍子抜けではある・・・だが・・・。


歓声がうるさいため葵と緑川はかなり接近してしゃべっている。

「更科先輩・・・ギブアップするんすね・・・まあでもあの要塞は仕方ないっす」

「・・・何言ってやがる緑川・・・更科って奴・・・一発も掠ってもいないぜ・・・速攻で倒すしかない相手を・・・ニヤニヤ笑って最初ぼーっと見てやがった・・・いつでも倒せる・・・だから今日倒す必要はない・・・」

「まさか・・・考えすぎっすよ・・・いくらなんでも」


・・・まあその前に実はもう決着はついているのだ・・・ホーリーライトが副将戦までに2勝した時点で桔梗が負ける確率はゼロだと思っているというわけだ。更科麗良は勝っても負けてもホーリーライトの勝利は揺るがないしリーグ戦なのでまだ1戦残っているのだ。力を温存したわけだ。


更科麗良は高成弟と話している。

「貴様・・・棄権するとは」

「あっちゃあ。ああなっちゃ厳しいのよね。まあ勝負ついてるんだからいいじゃない。だいたいあんたも纐纈君に何連敗してんのよ」三つ編みの麗良は涼しい顔している・・・。

「ぐぅ・・・」


―――大将戦だ・・・。

西園寺桔梗と不知火玲麻の1戦・・・。

降魔六学園十傑の1位と2位の戦闘だ。さらにこの国の高校生の1位と2位でもある。


レマは戦女神や雷神と呼ばれ容姿も非常に整っている、一方、桔梗は女帝や鬼神やもっとコワイあだ名もたくさんあるが身長はレマより一回り高く長身でモデルのように見える・・・。これから戦闘が始まるとは思えない画だが・・・だが目を閉じていた桔梗が両目を開くと・・・雰囲気が一変する・・・地獄の蓋が開いたような・・・圧倒的な存在感だ・・・恐ろしい!


気配に気づいた葵がはっと息をのんでいる・・・。

「一瞬で終わるぜ、この勝負・・・緑川」

「え、わかるんすか?」

よくわかったな・・・戦闘におけるセンスは天撫か。


桔梗は相手を見定めるように攻撃せず様子をみることがあるが・・・レマ相手のときは手加減しない・・・つまりまず初手で終わる・・・。


うん・・よく見えているな葵・・・。


・・・剣を抜いていない・・・魔術で勝負か・・・レマは飛翔して可能な雷系最高攻撃魔術だ・・・!!

大気ごと揺れている・・・。


“広域拡散”

“地縛掌”

“雷轟覚醒終息”!!!


その場で桔梗は動かず灰色バルムンクを構える・・・蒼天一刀流奥義・・・一の太刀だ。


“剛毅集中”

“範囲限定”

“一死爆雷列斬”!!!


二つの技はぶつかり合いとけあい・・・闘技場は雷光で輝き何も見えなくなった。


ビィイィィィィィ―――――ン!!!


非常に強く設定されている闘技場を包む強化結界が破れるかというほどの衝撃で振動した・・・闘技場内はほぼ消し飛び・・・桔梗が“範囲限定”を使っていなかったら闘技場の周囲まで消し飛んでいただろう・・・粉塵が巻き起り闘技場内は・・・観客からは確認できないが・・・一瞬で勝負はついた。


粉塵がおさまっていくと一つの影が見える・・・丁度バルムンクを足元の魔方陣にしまうところだ。桔梗の周囲だけ無事だ・・・あとは闘技場であったも部分は瓦礫になっている。この瓦礫のどこかにレマが埋まっているわけだ・・・。


大将戦は・・・桔梗の圧勝だった・・・。


“DD-stars”は敗れた・・・。


一息あって耳をつんざく大歓声となった。

「おおおお!とんでもないっす・・・とんでもない強さっす」

「あああ!やっぱダメやったか・・・2勝2敗やったんやがな」

「すごいピカピカしたのなの」

「仰天・・・」

「・・・・・・」

初撃で終わったが今大会間違いなく・・・最高レベルの試合だった。

会場は興奮冷めやらぬ感じだ。



―――予想通り・・・“ホーリーライト・ザ・ファースト”が全勝で団体戦優勝した・・・第3高校“DD-stars”は2位だった・・。


表彰式では惜しみない拍手が続いていた。


二人ほど葵たちの方に向かってくる女性がいる・・・。

金髪ロングの大津留ジェニファーと和風美人の武野島環奈だ。

カンナは手を振っている。

「よぉ。“ドラゴンディセンダント”の1回生たち・・・来てたのは気づいていたわけ」

「あら尊クン・・・おひさしぶりぃ」カンナは軽く緑川にボディタッチしている。三守沙羅に軽く睨まれている。


「こんにちはなの」

「お久し振り先輩方」

「あ、こんにちは・・・つうかお疲れさんでした!先輩!」ロミオはなぜか一礼している。

「お久しぶりっす、カンナさん、ジェニファーのお姉さま」

「よ、ジェニちゃん・・・カンナも」

うんうん一応挨拶してる。


どうもジェニファーは葵と話したいようだ。

「ジェニファー先輩と呼べ・・・如月1回生・・・それよりも、どう?得るものはあったわけ?」

「あん?まあな・・・」・・・不明瞭な会話だ。


ん?カンナは緑川に用事があるのか?

「どう?尊クン・・・あたしのこと見てくれたあ?」

「もちろんっす。すげえハンマー捌きだったっす」

「あらやだ。照れるわぁ・・応援してくれてたぁ?」


ジェニファーは葵以外興味なさそうだ。

「本気のレマと桔梗の試合ははじめてのはず・・・どう思ったわけ?」

「ん?ああ参考になったぜ・・・」

「あの試合見て意気消沈してるか心配だったわけ・・・大丈夫そうだね・・・あれを見て、それだけ闘志みなぎらせてれば心配ないわけ」あれとは第7戦の桔梗とレマの大将戦のことだろう。葵は平常心に見えるが・・・なるほどそんな匂いがしているわけか。

そして葵から質問は珍しい。

「なんで攻撃しなかった?・・・あの時・・・ブザーと同時に倒せたはずだぜ・・・天野とエミリーだっけ?」

「ふふ。さあね、如月1回生。想像にまかせるよ・・・10月のインターハイは“ドラゴンディセンダント”・・・あんたたちもライバルになるわけ・・・楽しみなわけ・・・案外・・・・・・案外、常勝“ホーリーライト”を倒すのは・・・」いたずらっぽくジェニファーは笑う。


遠くから纐纈が呼んでる・・・写真撮影があるようだ。

「カンナ・・・もどるよ・・・守人が呼んでる。では1回生たち・・・いずれ・・・また。なわけ」さすが耳がいいなジェニファーは。

「ええ~もうちょっとだけいいでしょう~・・・わかったって。行くわよぉ」名残惜しそうに手を振り振りしてカンナたちは去っていった。

未来とロミオも手を振っている。


去って言った二人を見ながら緑川は言う。

「すごいっすね、姐さん。あれを見て戦う気になるんっすね?さすがっす。まっさかすぐに二人を倒せそうとか言わないっすよね?」

「レマは互角だがなんとかなるだろう・・・桔梗は無理だな・・・・・・命を賭けないと・・・」

「・・・!!!!」

緑川は葵の横顔を見て・・・葵は何かを見て・・・時間は過ぎていく。



―――明日から全国大会個人戦が始まるが“ドラゴンディセンダント”は学園へ、降魔の地に夜遅く帰ることになった。


帰りのバスはチャーターされており一番後ろの席の葵と緑川以外は疲れているようで寝入ってしまっているようだ。権藤先生は明日の朝一人で帰るとのことだった。


少し緑川が葵に近づいていく。まわりを起こさないように小声で話す。

「ちょっと気になってること聞いていいっすか?」

「あん?」一瞬緑川を見たがまた窓の外を見ている。

「姐さんって西園寺桔梗さんと何かあるんすか?なんか普通じゃないんすよ」

窓の外を見て葵は表情一つ変えない・・・。

「・・・あたしは何もないぜ・・・あたしはな・・・ただ両親とかを殺されてるだけで・・・」

「・・・・・・ぇええええ!」声を押し殺して驚いている。

「・・・」葵は特に言葉を付け加える気はないようだ。


さらに座席半分ほど葵に近づく。かなり困惑した表情だ・・・。

「いやちょっと待ってくださいっす・・・前竜王が亡くなったのって10年以上前で・・・」

「だから西園寺桔梗じゃないぜ・・・殺したのは・・・西園寺のだれか・・・」

「西園寺財閥、いや西園寺グループのってことっすか?」

「そうだな・・・西園寺孝蔵かもしれねえし・・・部下かもしれねえ」

「西園寺孝蔵さんってグループの前の代表っすよね?いまは桔梗さんのお姉さんが代表っすよね?・・・あと・・・あと前竜王は若くして亡くなったっすけど・・・」新聞に毒殺なんて出てるわけがない・・・急病でとしか報道されていない。

「毒殺だ・・・これは間違いない・・・会った覚えもねえが母ちゃんもらしい・・・前の竜王の姉ちゃんもだと・・・他にもいる・・・」淡々と話すがゆえにやや重い。

「前の竜王の姉ちゃんって姐さんの伯母さんってことっすか・・・全員・・・毒殺なんすか?まさか、ほぼ裏があるってことっすか?」

珍しく葵はため息をつく・・・。

「母ちゃんはもうちょっと酷いことされたらしいな・・・聞きたくないけどな」

まあ緑川が驚くのは仕方ないだろう。

「えええ?・・・えええっと・・・えっと全部本当だったとしてもっす・・・桔梗さんに直接の・・・何て言うか・・・恨みみたいのはないっすよね?」

「もちろんねえぜ。あるわけねえ・・・西園寺グループが毒殺したことすら知らねえかもな・・・でも西園寺家と神明家で戦争中ならどうなる?向こうが神明家を潰す気なら?こっちが潰される寸前なら・・・戦争中なら西園寺の武将と神明の武将が激突するのは必定だぜ。恨みなんてそこにあるわけねえ」

「戦わない未来があるかもしれないっす」結構真面目な顔をしてるな・・・。

「あたしが如月の姓で生まれを隠された・・・あたしだけ残されたのはなんでだと思う?」

しばらく考え込むが緑川にはいい答えが思い浮かばない・・・。

「そ・・・それは・・・ご両親の・・・いやわかんないっすけど。でも、あの。俺も古い家の出で・・・過去には・・・もうずっと昔っすけど血みどろの足の引っ張り合いみたいのがあったのは聞いているっす」まあそんなこと言っても葵の心には響かないだろう。

「いい話じゃねえか・・・先祖が頑張ったから今おまえがいるんだろ・・・あたしも頑張らねえとな・・・もう寝るぜ・・・」


「・・・・・・葵さん、俺が守るっす」

緑川の決意がどの程度のものなのか外から見ているだけでは分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る