第7話1-7-1.戦闘は否応なしに開始される―――鏡の国の葵―――
ちなみに退院したばかりの御堂路三男は確実に気絶するとの自己判断で美人コンテストには全く近づかなかったようだ。一人黙々と魔術書を読み遠距離攻撃を編み出していたようだ「しゃーないやろ。権藤先生までおれへんねん、全くやで」・・・まあエライエライ。
“ドラゴンディセンダント”を結成して以来、葵を目当てで来る来訪者は減って1-Aは落ち着いてきている。特に部長になったのは良かったかもしれない、他チームに引き抜きにくいからだ。代わりになぜか1年女子からは時々、告られているようだが。それと葵の連戦連勝の校内ランク戦もかなり人気で同級生から上級生までかなりのギャラリーを背負うようになっている。校内で名前が売れすぎてかえって一見さんは遠のいている様子だ。ランク戦の対戦相手は自動アプリまかせだが、そろそろ第3高校のA級ランカー達と当たるようになってきており・・・レマや姫川やカンナやジェニファー、そして纐纈守人らのトップランカーとの対戦カードが組まれるのではと
いつものように1-Aの教室の如月葵の机の周囲にに6人の1年生が集結している。先週退院したロミオだが水着のようなバトルスーツを普段から着ている江上明日萌とは初対面だ。
「江上明日萌さん。初めまして。なんや入院中にえらい人が増えとるな。わしは復活した御堂路三男っちゅうんや。空破拳の使い手なんや。よろしゅうな」あれ?アスモの水着は大丈夫なのかロミオ。
「みなさん。魔族の影が近づいているのであります。誰も命令なんてしていないはずですのに」アスモはよく分からないことを言う。巫女の系統には時々こういう感性のみでしゃべるのがいるがアスモはどうなのだろうか。みんなちらっと未来を見る。未来だけは召喚獣が魔族なのだ。未来はあたし違うのと言わんばかりに手を振っている。
「まあとにかく“ドラゴンディセンダント”の1年生が勢ぞろいはめでたいっすね。2年生の加入者も含めて8名・・・いよいよ始動するっすね。如月部長」緑川は嬉しそうに歯をキラっと光らせている。葵は無言で頷き三守はにっこり笑って目を閉じている。
「わしもようやく復活や。気分晴れ晴れやな」「良かったこと」三守もうれしそうだ。
「あたしのせいで怪我をしてごめんなさいなの」「気にすることないで秋元さん。お見舞いありがとうな」未来は何度もロミオの面会に行っていたのだ。
「敵は魔族だった。未来は悪くないぜ」今日は機嫌良さそうだな葵。
「うちたち実戦して分かったのは・・・まだまだということ実力不足」いやあ初の実戦ならまだまだどころかそこそこだったと言えるが。
「ただ。今考えても色々奇妙っすね・・・」冷静に分析か成長すればいいリーダーやサブリーダーになりそうだな緑川。
「・・・奇妙なのはまるで・・・まるであれは待ち伏せだったってことだぜ」あの魔族たちがまあゲヘナの兵隊だったことは葵たち知らないからな。確かに待ち伏せだった。狙いは単純に考えれば葵か?
「その通りっす。気配を消して隠れて居たっすからね。それを察知して如月部長が火炎魔法をぶち込んだんす・・・気絶するほどカッコよかったっす」
「・・・ヲメーよく言うぜ緑川。やっちゃったやっちゃったとか言って慌てふためいてたじゃねえか」
アハハハハ!
「いや姐さんしょうがないっす。あんなの予想できないっす。てっきり姐さんが一線を越えたと思ったっす」まあ葵は時々一線を越えている気がする。
「うちも探知魔法でQMの中をしらべてどれだけ驚いたか・・・もしあのまま入っていたら・・・」1年生があの状態で探知魔法をしようと思うだけでも大したものだ。この子も伸びそうだな三守沙羅。
「殺されてたかもな・・・店の奴等みたいにな」まさしくその通りだろう・・・葵以外は・・だが。
「しっかし如月部長の師匠のはすごいんやな。とんでもない能力やで」
「それはもう賢者クラスっす。・・・でもさらにもっと奇妙なことがあるっす」
「六学園の結界内に魔族がいたことか?緑川?」ちゃんと葵も考えているようだ。しかしそれはいくつも方法があるだろう。奇妙なことはもっとほかにもあるのだが。
「そうなんす。あんな強力な魔族を何体も・・・普通なら不可能っす」
「アスモちゃんがお答えするであります。あの子たちはこちらの世界で作られたのであります」他のメンバーは首をひねっている。
「ん?どいうい意味っすか?アスモちゃん」
「魔界の魔族ではないという意味であります」
「何言ってるか意味わかんないっすけど。でもアスモちゃん。確かにあの日に魔族を違法強制召喚したのではなくってもっと前に召喚して操っていた可能性はあるっすね」
「どういう意味なのなの?」
「魔界から強制偶発性召喚をすれば感知されて必ず警報が鳴るっす。イレギュラーなものなら下手したら何時間も前から警報が鳴るっす」
「強制偶発性召喚というと緑川さん。あれは人災だと・・・テロだと言う意味?」
「その通りっすね。沙羅ちゃんに言われて今気付いたっす。あれは人災っすね。・・・でも召喚した野生の魔族を使役するなんて・・・それも長時間・・・あんな強力な魔族を複数?・・・そんな術誰か知ってるっすか?」「知りません」「知らねえな」「分からないなの」「わしが知るわけないやろ」「そういう術はあるのでありますがあの子たちはかかってないであります」
「誰も知らないんすね。権藤先生にでも今日聞いてみるっす。更科麗良先輩も言っていたっすね、イレギュラーじゃないって・・・いやあでもみんなで考えるといろいろ意見が出ていいっすね。あと今回再確認できたことはっす・・・姐さんがめちゃくちゃ強すぎるってことっすね」
「あんな強力な魔族を紙きれのように・・・単独で戦う姿はまるで時代の弔辞」
「わしは真白になっとって自分が召喚戦士なのも忘れてたで・・・格が違うで如月部長は」真白ってそれはさすがにどうかと思うよロミオ。
「そうなのなの。葵ちゃん強すぎるのなの。手からすごいのが出るのなの」
「如月葵様はおそるべき破壊ノ王と戦う定めなのであります」ややこしいなこの子、アスモは。
「テメ―ら褒めても何もでねーぜ!」葵は少し照れているようだった。
「む!魔族の反応であります!」とアスモが言ったとたんだった。
―――キャア―――!!
1-Aの前の廊下からの女生徒の悲鳴だ。
“ドラゴンディセンダント”のメンバーは廊下へ出て確認している。
隣のクラスの女生徒が右腕を押えている。血が出ているようだ。
その女生徒に足早に三守沙羅と秋元未来が駆け寄る・・・。
「回復しますなの」
「・・・大丈夫です。みなさん。かすり傷で命に別状は全く無し」そう言いつつ三守は周囲を探知し始めている。
心配そうな面持ちで緑川尊も女生徒に近寄り「大丈夫っすか」優しく声をかけ。「大丈夫です」と言われたが優しく肩を抱いた。
「いってててて。沙羅ちゃん。つねらないで」「弱っている女性になんてことを緑川さん」
んー?女生徒の周囲に、廊下には・・・周りには何も感じない。
「なんだったんや?」
「周囲には魔族の反応なし」三守の言う通りだ、やっぱり何も感じない。
「大丈夫。軽症だったのなの」
「あたしもなんにも感じなかったぜ」・・・まあ葵もそう言うが・・・でもここは降魔六学園だからな。特殊な術法かもしれない。直接は見ていないし。
「かまいたちって奴っすかね」
「魔族の反応でありました・・・」・・・魔族ね。その可能性は・・・低いが。確証はあるのかアスモ。
「なるほどやな緑川。かまいたちか。そやな」いやいや。
「かまいたちって風魔法なのなの?」いやいや、なんで?そっちの話にずれていく?
「鎌鼬といって妖怪伝承の一つ、風魔法でしたら風属性の緑川さんが感知可能」三守さんまで・・・。
「よ、妖怪なの、です?なの?」違うやろ。おまえら。アスモにもうちょっとさ。
「・・・アスモ?何を感じたって?」いいね、葵。そうそう聞かないと。
「アスモちゃん魔族の反応を感じたであります」うーんだから確証は?
未来が困った顔つきでアスモを見ている。
「あたし言ってないのなの。実はアスモちゃん。あたし召喚獣が魔族なのなの。あたしの魔族が悪さしてるのなの?」未来は自分が魔族の召喚士と言うことをあまり人に言いたがらない。それで別に印象が悪くなるとは思えないが・・・周りが全員召喚士の憧れの的。至高の竜族ではしかたないか。
竜といえばチーム“ドラゴンディセンダント”は注目の的の割りに入部希望者は少ない、ほぼ無い。1年生が作ったチーム以上に問題なのはチーム名に“ドラゴン”を入れているからなのだよ緑川君。竜族以外入りにくいのだ。1年生の竜族は2%なら第3高校に16人くらい・・・実際はもう少し多いだろうが1年の竜族は即戦力でほとんどは強豪チームにスカウトされ、TMPAが低すぎるものは戦力になれず入りにくい。そして1年が部長だと上級生はまず入らない。
「―――違うであります。変わった気配でありましたね、次元環のような・・・」またスルーされるアスモ・・・軽いいじめか。変人には違いないが。
「未来ちゃんの魔族は全く動いていないっすよ。そんなこと術者の魔力供与なしで不可能っす」みんなアスモの言うことは華麗にスルーしているが。もうすこし吟味するべきな気がする。
「―――まあまあみんな部活行こうやないか。わしは久しぶりで燃えとるんや。遅れた分とりもどさんとな」右手をバシッバシッと左手掌にパンチしている。
「そうっすね。すぐ春季大会っすからね。初めての公式戦っす。1年は新人戦しか出れないみたいっすけど・・・その方が気楽っす」みんなポジティブにイベントこなしていくな。“ドラゴンディセンダント”1年生全員で体育館へ向かっていく。
―――しかし数日後、突然手足が少し切れるというカマイタチ現象はその後も時々起こっていた―――。
昼休みだ―――。
アスモ以外の“ドラゴンディセンダント”の1年生メンバー、いつものメンバー、いつメンは例によって1-Aに集まっている。
「みんなが誇張してるだけだと思うっすけどね」緑川が言っているのはカマイタチ現象のことだろうが原因不明だ。もう少し近く見れればだが・・・。
「なんやでも本当っぽいで。第3高校だけで6、7人被害者がおるらしいで」もうちょっといるらしいぞ、ロミオ。適当な情報はやめろ。
「妖怪だと怖いのなの」なにが怖いのやねん、コイツも本当に高校生か・・・未来・・・桔梗に怪しまれても仕方ない。
教室から無言で葵が出ていこうとしている。
「あれ姐さんどこいくんすか?着いていくっす」
「あのなぁ・・・・トイレだよ・・・ついてこれるわけねえだろ」普通に照れているな葵。
「ああトイレっすか・・・じゃあ仕方ないっす・・・姐さんが心配っすからついていくっす」
「女の敵」「いたたたた!沙羅ちゃん冗談っす。いくらなんでも」毎回なんのコントやねん。
「あたしも行くのなの」未来は葵について上機嫌で教室をでていった。
恨めしそうに葵と未来の背中を緑川尊は見ている。
「―――女子ってどうして一緒に行くんすかね。沙羅ちゃんはいかないんすか?」
「うちはお目付け役」それにしても今日はアスモが全然来ないな・・・。近くにもいない。
「ふぁああ、男も一緒に行く奴等おるやろ?飯食うと眠いわ」欠伸して眠そう・・・これだけ隙だらけだと確かに桔梗がぶちぎれて普段から召喚士のくせに真剣みが足りないとヒステリーっぽく周りに言うのも仕方ない気がするな、ロミオ君。
ジャ―――!
水の音だ。女子トイレの中、葵と未来は仲良く手洗い中だ。
葵も女子だな・・・鏡に映った自分の顔とところどころ青い髪の混じる髪型を気にしている。未来は歯を磨き始めている。
ん?
「なんだ?」葵のみている鏡の下1/3ほどのところ・・・横方向にに非常に細い紅い線が伸びていく・・・。葵の首あたりだ・・・。これは!
ナニカヤバイ・・・!
シュバッ―――――!!
よく避けたな!葵はとっさにしゃがんだ!・・・なにか来ているのであれば・・・避けたという表現になるだろう。しかしよく避けた・・・。
ガララッ!ゴトッ!!
「ああっ!!」
叫んだ瞬間。葵の後ろの壁が斜めに崩れた。
だが葵が叫んだのは壁が崩れたからではない!未来の上半身が鏡の中にはまりこんで・・・未来の下半身はスカートをはだけてバタついている。葵はとっさに未来の右足をつかんだが未来の身体は鏡に引きずり込まれていく。
「くそっ!」
葵は未来の右足を掴んでいた手を離した・・・。葵の握力だと未来の足を握りつぶしてしまうから仕方なくだ。未来の足も全部が鏡に飲み込まれてしまった。
未来は消えた。
「なんだ!これは!なん?・・・なんだ!」
その時・・・派手な露出のバトルスーツを着た江上明日萌が女子トイレに飛び込んでランク2魔法を鏡にかけている、しらない魔術だ。
「しまった、間に合わなかったであります。魔族の反応を追っていたのでありますが・・・こう多くては」
―――ほんの少しして、“ドラゴンディセンダント”の1年生メンバーは未来以外が全員女子トイレにあつまった。いやロミオは鼻血が出て中には入っていない。女子トイレの中から緑川の声がする。
「ロミオ!権藤先生をすぐ呼んでください!」「おおすまん!わかったで!」緑川に言われてロミオが走って去っていく。権藤先生そっちにいないけど・・・。
全員慌てているが葵は探知系の魔術はできないため三守まかせだ。緑川は周囲の気配と壊れたトイレの壁を肉眼で調べ魔術で感知もしている。
「痕跡も何も認めません・・・」探知魔法で三守沙羅が未来が吸い込まれた鏡を調べている。
「いいえ痕跡はここにあるであります」またアスモは標準魔術書の上級編にも載っていない魔法を詠唱している、呪言でも真言でもない。なんの系統の魔法だ?古代魔法?シュメールか?
襲撃された時に葵の見ていた鏡には黒い線が。未来の見ていた鏡には黒い穴が描出され消えていく。
その場では凍ったように全員固唾をのんで見守っていたが魔族の痕跡であることが分かるとアスモ以外は全員驚いて顔を見合わせた。
「ごめん!アスモちゃん。スルーして悪かったっす。魔族だという根拠を教えて欲しいっす」
「次元環に似た結界を張っているのは恐らく最近の魔術・・・中で動いているのはすべて魔族の反応であります、黒いのは魔族の力の通った形跡であります」
―――すぐ権藤先生が葵たちに合流し、明後日の方向に走って行っていたロミオは端末で呼び戻された。権藤先生、葵、緑川、三守、アスモとハアハア言っているロミオ。そして2年のハオ・ラン、ズー・ハンも呼ばれ第3体育館の一室である“ドラゴンディセンダント”の部室に集合した。
「この件は学園があずかります。原因究明と生徒の・・・秋元未来さんの救出を最優先に緊急対策会議を開きます」
ガチャ!
赤い短髪の安藤先生が部室に入ってくる、挨拶はなしだ。
通称レッドビーバー・・・凄腕の魔術コーチだ。
「ふ。・・・端的に申します。権藤先生。江上さんの言う通りなにものかの次元浸潤系魔術干渉が確認されました。しかもです・・・」レッドビーバーは生徒をチラッとみて気にしている。精神的ショックを起こす可能性があると考えているのだろう。
「構いません。安藤先生。分かっている情報をすべて教えてください」そういう権藤先生はいつもより真面目な感じだ・・・そりゃそうか。
「では。ほぼ同時刻、鏡の中に誘拐されたであろう生徒は他にも数名います。秋元さんを入れて全部で4名です、すべて女生徒。確認中ですが3高の生徒で間違いないようです。校長が全教員の非常招集をかけています。第1高校にも報告義務を行い応援要請中です」ん?攻撃されたのは葵だけ・・・?
何か言いたげな緑川が身を乗り出している。
「警察の召喚士部隊には要請してないんすか?サマナーズハイの対魔族特殊チームとか・・・」
すこしイラつきながら安藤先生は首を振る。
「降魔の地でおきたことの最終判断は第1高校が行います。通報するのは許可がいると言うことです。また有事はソードフィッシュが担当となります」逆に言うと通報もできないのか・・・変なシステムだな。
サマナーズハイとソードフィッシュは大学卒業後に召喚士国家資格に合格して一人前の召喚士となったときにさらに優秀だと入れる大手就職先だ。良く間違っているがサマナーズハイでは召喚士はランクなんとかサマナーと呼ばれ、ソードフィッシュでは○○エージェントと呼ばれるようになる。ちなみに権藤先生はクラスAサマナーである。
「がぁ――そんな悠長なこと言っとる場合ちゃうやろ」頭を両手で抱えながらロミオはいきり立つがこれは仕方ない。
―――議論はあっという間に暗礁に乗り上げた。事故の可能性は低いだろうが、敵が何なのか。そもそも敵の仕業なのかもわからないのだから。まあ少なくともこの“ドラゴンディセンダント”の関係者には。
「―――とにかくみなさん、寮にもどってください。もうすぐ強制下校になるでしょう。もちろん校内ランク戦はしばらく中止です」
権藤先生と安藤先生は校長の非常招集に行くしかなかった。
―――部室に取り残された数人は表情は硬くやや暗い。
「このまま帰るっすか?」こういうとき話始めるには常に緑川だ、いいムードメーカーだ。
「冗談じゃないぜ、てめー帰るなんてマジじゃねえんだろ緑川」
「できることはするべきかと」三守沙羅ももう少し探知術が得意ならな。
「でもどっから手を付けるんや」そして汗びっしょりだなロミオ。なんで?
「手あたり次第だろ。しいていえばもう一回あの女子トイレはアスモに見せるべきだぜ・・」
「いやあそこは今一番人がおおいっすよ姐さん、それ以外を見た方がいいっす」
ではと、ハオ・ランが立ち上がる。
「探知系なら我々も心得がある。2年生の校舎は我々が調べよう」ズー・ハンに行くぞと合図をしている。
「ハオ・ラン、わかりました。わかったことは端末で緑川副部長。送ります」どこのチームでもトラブルをおこすハオ・ラン、ズー・ハンだがなぜかここでは協力的な男女コンビになっている。
「それはありがたいっすね、お願いしますっす」緑川の礼が終わる前にハオ・ランとズー・ハンは風のように部室を出ていった。
「はよせんとあかんのは分かるんや。なにをしたら鏡から秋元さん出せるんや、まさか鏡に入ったりせえへんやろ?」
「わからなくてもな、ロミオ!やるしかねえんだ。さっきの鏡が入り口だろ」入り口というかだがな。
ずっと考えている三守沙羅は何か思いついたようだ。
「あ!・・・もしかしたら。敵がいるとして今回事件を起こしていない他の鏡にも痕跡があるもしれません。調べるにはアスモさんの術がいりますが・・・」
「そうかそうっすね。それはいいっすね。アスモちゃんお願いできるっすか?」アスモは頷いている。
「なんにしてもさっさとやろうぜ、こうしてる間にも未来が心配だ」最もだが全部罠の可能性はあるだろう・・・。
「姐さん。なにをするか決めてからの方がいいっす、そしてあせらず迅速に行動するっす」
「ふーん、ヲメーいつもと違うじゃねえか」珍しく葵に褒められ、へへっと緑川はほほをかいている「緑川さん英姿颯爽」「エイシサッソウってなんすか?」三守も分かりにくく褒めているようだ。
「緊急事態に一つになれるのはいい仲間であります」
「アスモ、しつこいんだがもう一度きくぜ。なんで魔族だって分かるんだ?」
「そうっすね。安藤先生ですら、魔族かは特定できないって言ってたっす」
「そういう術であります」うーん言葉足らずなんだよなアスモは。
「間違いねえんだなアスモ、例えば・・いやあたしはアスモ・・・信じるぜ」
「ありがとうであります」
「それでさっき魔族の痕跡を探してるって言ってたよな、アスモ?」
「そうなのであります。魔族の痕跡をさがしていたら葵さんの所に着いたのであります」
少しずつまとまってきている。
「―――今回の未来ちゃんの誘拐を一回分析してみるっす。まず周辺から。最近あったおかしなことって他になんかあったっすかねえ?」
「なんもないで。カマイタチ現象くらいしかないやろ?」
「・・・ちょっと待て。アタシを攻撃したのはカマイタチじゃねえのか?」気付いてなかったんかい。
「姐さんがよけて後ろの壁がくずれていたっすね」
「そう・・それは変。今日。鏡に誘拐されたのは4人。一つ見落としている。鏡に攻撃されたのは1人」
「そうか。そうっすね。如月の姐さんだけ切られたっすね。カマイタチのような攻撃で。でも他にもカマイタチ攻撃された生徒がいないか調べた方がいいっす。ハオ・ランにも他にいないか聞いてもらうっす」緑川はそういってハオ・ランに連絡している。
「カマイタチの一度目は1-Aの廊下だなロミオ、二度目のカマイタチはどこだった?詳しかったよなテメ―確か」
「いやいや如月部長・・・分からんで。わしは聞きかじりや」
「そうか如月の姐さんが攻撃されたおかげで少しつながたっすね。ここ数日のカマイタチ現象は何かの伏線だった?でももし犯罪的ななにかを成功させるならカマイタチができますなんて事前に見せるのは変っす」「練習でもしとったんか?」試し撃ちはありえるかもしれない。
「ここ数日魔族の反応は少しずつ強くなってきていたであります」アスモの言うことは誰もスルー出来なくなっている。しかしどこで魔術覚えたんだ?この子?
「第3高校を丸ごと飲み込むような広域の術を何者かがかけて・・・術が大掛かりで数日かかった可能性はありそう」「なんやその術って」賢いのだろう、三守はなかなか鋭いことを言う。ロミオも直感は悪くない。
「そうっす。つまり鏡を使った結界とその結界内からの攻撃っすよね。」
「ん、遠隔攻撃ってわけか?無差別にか?」無差別ではないだろう。
ん~と緑川は考え込んでいる。
「術が完成したのでカマイタチの攻撃力が跳ね上がったということっすかね」
「超遠距離攻撃なら術者は見付けられんで」うーん問題はそこじゃない。
「いや、まてよ・・・」もっと重要なことがあるでしょう?
三守沙羅が何か気付いたようだ。
「そう。もう一つ違うことが。カマイタチで攻撃されたのは数名。みんなかすり傷。でも如月さんだけは殺傷できる攻撃力のカマイタチで・・・」やっぱり三守沙羅は理論的でかなり賢い。
「そうっすね。でもそれは未来ちゃんを誘拐するために隣にいた姐さんが邪魔だったわけっすよね。じゃあ誘拐された人もなんかルールがあるっすかね?」法則は重要だが情報が少なすぎる。まあいくつか仮説は立てられるが
「んだよ、ルールって?」
「もう一つ可能性があるであります。葵様はお姫様であります」いやアスモ。まずそれを考えるでしょう。葵狙い・・・だろうね。となると誘拐はエサか?
「はあ、何言ってんだ?アスモ」
「ああ!そう!そう!その可能性!江上さんは大智不智」アスモは三守からかなりの信用を勝ち取っているようだ。
「一体なんなんすか?一体なんなんすか?ついでにダイチフチってなんすか」賢すぎてバカに見えるとかいう意味だ・・・多分。
意見は出ているがまだるっこしいな。みんなそこそこ賢いんだが・・・まだまだ。
「緑川、二度も繰り返さなくていいんだよ!どういう意味だ?アスモ?沙羅?」
大分正解に近くなったか。
「如月葵部長は神明家の御息女・・・」
「魔族の天敵、竜王家の姫君であらせられるであります」
まずそこは関係してると思うべきだろう。
!!!!
「はなっからあたし狙いか。魔族の奴等!」
腕組みしている葵は殺気だってきている。
「その可能性はあるっす・・・ね。ん?・・・なんか来たっす」
緑川につられて全員が入り口を見る。
―――ゴタゴタとすべりぶつかりながら突如“ドラゴンディセンダント”の部室に一人入ってくる・・。女生徒だ。
彼女が誰か葵はよく知っているはずだ・・・脱色した髪に、紅いハートが付いている黒いマスクをしている女生徒、どっからみても時代錯誤のスケ番だ。
「邪魔するよ!あたいはチーム“紅爆轟” のレオ・・・」
「お、レオナじゃん」「レオナさん、どうしたんすか?」相手は3年生なんだからレオナサンとかつけような葵。そういえば緑川はレオナの身体を触りまくってたな。
「チューッス。如月の姉御。・・・あと・・・あの緑川クンだったよね・・・あたいのこと覚えてる?・・・いや姉御。実はうちのマリコが鏡のバケモンにさらわれて。教官に何言っても寮に帰れの一点張りでさ・・・帰るわけにいかないっちゅうんだよ、あたいリーダーだしね」1年生に姉御って・・・まあいいや不良だし。
「なんだよ、くそ!そっちもかよ」
「でもこれを見てください姉御!これを権藤にみせたらここへ行けって言われたわけで」レオナはなにやら光沢のある黒いものをスカートから取り出した・・・どこに入れてるんだ・・・ん?魔族の身体の一部か?
「なんやなんや?」「お、おぉ?なんだこれ?」「これは何かの・・・」「なんすか?」
なんだ?手掛かりになりそうか。
レオナは何があったか説明している。
「―――それでトイレの鏡から出てきたふってえ腕に取り敢えずあたいの“カミソリ阿修羅十文字切り”で攻撃してやったのよ!そしたらウロコみたいのが剥がれてさ」アスモがその黒い破片をレオナから奪い取った。しかしカミソリ阿修羅なんだって・・・どういうネーミングだ。
「見せてくださいであります・・・魔族のものでありますね・・・・・・これだけしっかりした破片でありましたら・・・トレースできるかもで・・・あります」
非常に高度な術式だぞ・・・可能か?
「まじっすか!頼りになるっすねアスモちゃん」「そーかい。あんた変な格好してるけど。やるもんだね、これであたいたち取り敢えず万事休すだよ」レオナは何か納得している。「万事休すの使用法間違い。そういう時には使いません。一文不通」ゴミを見るような目で沙羅はレオナに突っ込みを入れている。不良は嫌いそうだな、それか他に理由でも?
そして、また見たことないレアな術をアスモは詠唱している。
高度な術・・・そして知らない術だ・・・。
「こっちであります」先導するというアスモにみんなついていく。
「よし、てめえら!いくぜ!」
ん?葵?見切り発射的な感じだが大丈夫か?
―――数分後。
アスモのトレースでは第7体育館の2階から気配あり・・・とのことだった。一行はなるべく気配を抑えつつ、もっとも気配を押えられる緑川が“風生風滅”を使い2階のトレーニング場を覗いた。残りのメンバーは階段に身を隠している。
ここは他のチームの部室であるはずだが強制下校のため人はいない。
ゆっくり緑川がみんなが待っている階段にもどってくる。
「どうだった?緑川?」
「だれも居ないっす姐さん。そして奥の壁が全部鏡っすね」
「うちも鏡を使いますけど。攻撃だけでなく探知まで可能であれば・・・もうすでに気配を消しても相手側にバレている・・・ことに・・・」
緑川も三守も小声で喋るがまあもちろん敵にバレていれば意味はない。
「アスモちゃん。どうっすか?」
「気配は間違いなく部屋の奥からするであります」アスモは表情を変えずに感覚に集中して答える「あたいが削ったやつがここにいる・・・マリコもひょっとしたらいる・・・」レオナも似合わないがヒソヒソと喋っている。
「埒があかんなら突入するしかないやろ?」まあそう思うのも仕方ないが。
少しどうするか悩んでいるようだ。
「本当は敵がいるとするとこっちはバレずに向こうの情報だけ知りたいんすけどね」緑川・・・それができれば苦労はないが・・・。
「それはむしのいい話し・・・虎児を得ずと言いますが・・・どうします?」三守はみんなに問いかけるが返事はない、アスモの能力次第だが敵の能力は空間転移とすると敵の情報を得るのは難しいだろう。
「もうすこし近づけばもしかしたらであります」
集中して目を閉じているアスモだがほとんど新しい情報はないようだ。
「近づくしかないであります」「そうっすね」「・・・そうやな」「うちもそれしかないかと・・・」「マリコがいっしょにいるかもしんない。あたいは刺激したくないけどねぇ・・・如月の姉御!決めてください」
まあ最後はリーダーが決めるしかない。
「いこうぜ。バレてる可能性は・・・高い」まあ仕方ないか・・・。
―――緊張した顔つきの6人は気配のする練習場へせーので飛び込んだ。
「明かりを点けるっす」
30畳くらいの練習場で奥が一面鏡張りになっている。
天井のライトが付く・・・かなり明るくなる。
“反鏡群現”
三守沙羅の魔法だ、防御用の魔法楯を5枚出現させている。
そして前回でこりたのだろう。ロミオは一番早く魔装している。
迅速に進み、アスモは奥の鏡に触れつつ調べている。
「反応があるであります・・・具象を可視化するであります」
鏡に黒い文字が浮かび上がる!
―――キサラギアオイ ヒトリデコイ ヒトジチガシヌ―――
みんな目を疑ったが・・・錯覚ではない。
「な、なんやこれ。なんか出てきたで」
「なんだいこりゃ?キサラギアオイ・・ヒトリデ・・・ええ!」レオナがギョっとしている。
「・・・なめやがって」一瞬周りがゾッとする気配をだしつつ瞬時に葵は魔装した。
そして鏡の中央に黒い穴がだんだん大きくなる・・・ひと一人通れるくらいの穴・・・入り口のようなものが浮かび上がる!
「上等だ!!」いや葵、罠だろう・・・罠だってば・。
いきり立つ葵を後ろから緑川が抱きついている。
「・・・だめっす姐さん!罠っす!」
「うるせえ!中にどれだけいても全員ぶっつぶしてやるぜ!」
魔力と気合をねじり合わせて鋼鉄のような硬さと重厚感をかもし出す葵を緑川は止められない。葵は緑川をひきずりつつスタスタ鏡の穴に近づく。
「だめっす!姐さん罠っす!」
「わかってるぜ!そんなこと!中に入りに来たんだろ!」引きずられながら緑川は叫んでいる。
「違うんす!聞いてくださいっす!誘拐された生徒は人質なんすよ!戦えるんすか?」
「はあ?人質だぁ?」多少効果あったようで葵は立ち止まっている。
眼を閉じて三守は考え込んでいる。
「・・・もしそうなら敵の目的は・・・如月さん一人?・・・しかも文字を書いている・・・魔族ではなくて魔族を使役する人間が相手・・・」その通りだ。
何の気配を感じているのだろう・・・アスモは?
「アスモちゃんも賛成できないであります・・・葵さまが入った瞬間空間を閉じる気であります」
「なら最初にわしらが入るか?」「え?・・・あたいも入るのかい?」いやおまえらに期待してはいない・・・だいたい自分の戦闘力を考えろ・・・。
「用意周到な罠っす!それくらい敵は考えているはずっす!ロミオ!入っちゃダメっす!レオナさんも!」
―――しばらく押し問答が続いたがなんとか葵を止められたようだ。
人質の状態にもよるが敵側にうまく立ち回られると葵は無力化されるだろう。連れて逃げるにも入り込んだ先に未来たちがいるとは限らないからだ。人質がどうなってもいい覚悟がなければ大立ち回りは難しい・・・。ただしこれほど大掛かりな異界化結界となると・・・他にも仕掛けが・・・目的があるかもしれない。
端末を取り出している・・・緑川の端末に連絡があったようだ。
「ズー・ハンさんから連絡っす・・・だれが鏡に捕らわれたか・・・もう分かってる情報はいいっす・・・あ!・・ああ!」あいつらちゃんと仕事しているのか、意外だな。
「なんだよ?緑川?」
「ゲヘナっす・・・例のテロ組織っす・・・ほら横浜で事件を起こした連中っす」
「そいつらがなんなんだ?犯人なんだな?」返事をせず緑川は端末を見ている。
・・・かなりの情報が緑川の端末に送られてきた様子だ。
「すごいっす!職員会議をハオ・ランさんとズー・ハンさんっすけど外から上手に探知してくれたみたいっす・・・第1高校の人が言ってるみたいっす!こないだのQMでの襲撃に引き続いてゲヘナの攻撃と断定するそうっす!」それは予想通りだけど。しっかしハオ・ランとズー・ハン・・・なんでこんなに協力的なんだ?
「なんてこと!!じゃあ!そんな!」三守さんはやっぱり賢いね・・・そういうことだ。
「なんや!なんやって!こないだ魔族に襲われたんも!ゲヘナかいな!」珍しく燃える顔をしている・・・重症を負ったからなロミオは。でもコイツは分かってないな。
「今回も作り物の魔族の匂いがするであります」この子のことも少し調べたいな・・・江上明日萌・・・何者だ?
「うちそんな・・・そんなことって。ゲヘナの目的は・・・」
「そうっすね。それしかないっす。目的は・・・如月葵の姐さんっす」
「如月の姉御がなんだってのさ?分かりやすく言ってよね?」三守にまたバカにされそうだなレオナ。
「ゲヘナは魔族信仰の強いテロ集団で、悪魔崇拝者とも呼ばれてるっす。全員が何らかの特殊能力者なんす。活発な活動はやっぱ450年ぶりの・・・来年の聖魔大戦が目的だろうっていわれてるっす。ここ数年テロ行為をするとゲヘナは声明を出すことがあるっすが。人の世は終わりをつげ何とかって魔王の時代が始まるみたいなことを言ってる連中っす・・・最近の情報だとやっぱり横浜に潜んでるって言われてるっす・・・もう少し情報が欲しいっすね」
「そ。それと如月の姉御と何の関係があるんだい?」
「それは4000年前の第一回の聖魔大戦のころからっすけど、魔族の大侵攻・・・定期的に繰り返される・・・いわゆる聖魔大戦はほとんどが竜王家の血筋のものに撃退されているからっす。4000年来の魔族の仇敵なんすよ竜王家は・・・つまり神明家・・・姐さんの実家っす。悪魔崇拝者のゲヘナが姐さん一人に的を絞るのは姐さんが危険・・生かしておくと危険だという判断なんでしょう・・・最後のは多分っすけど」
納得いったようだレオナはなるほどねと言っている。
「ああ?神明家かい?・・・姉御は神明家の・・・お姫様かい・・・驚いたね。え~でも・・・それならあんた第2高校に神明帝って名前の王子がいるはずだよ。こいつがいけ好かない奴だけど竜王になるってうわささ。・・・あれ?じゃあいつと兄妹かい?」
「その第2高校の神明帝さんって人は襲われていないっすよね?この鏡の事件は第3高校でしか起きてないっすから。つか姐さんお兄様がいるんすね?一回肉親の方にご挨拶する必要があるっす」一回葵がそれはもうボッコボコにして緑川、君が戦闘偏差値30って言っちゃってる相手だけど・・・。そうか未来は知ってるけど緑川は知らないままか・。
議論が白熱しているが・・・こいつらだけでは選択肢が少なすぎる。
「とにかくっす、この鏡の向こうは横浜のゲヘナの潜伏先かもしれないっす。もうちょっと情報を集めるべきっす」
「それが本当なら未来を危険な目にさらしてんのはあたしだ。やっぱり入るぜ・・・この穴に!」
「入った先が敵も未来ちゃんもだれも居なくて例えば溶岩の中だったらどうするんすか?ゲヘナは姐さんの能力をよく分かってるはずっす。QMの魔族をほとんど一人で倒してるんすから。それを踏まえたうえでの必勝の策のはずっす。だから・・・」だから裏をかく必要がある・・・か。
「では緑川さん、何か案がありますか?」
「とりあえずここを出るっす。アスモちゃんは引き続き索敵をお願いしたいっす。ゲヘナはこっちの動きを読んでいるっす、情報を整理して対策を練るっす!いいっすね姐さん」
仕方なさそうだが・・・一旦引くようだ・・・よく葵を止められたな。
―――全員で緑川の寮に行くことになった。男子寮のため女子は入棟禁止だが緊急事態のため強引に入ることになった。
第3高校に限らないが生徒用の男子寮、女子寮は多数あり・・・安価の物件から高級なものまであるが・・・緑川の部屋は悪くない・・・2DKか・・・寮としては広い部類に入るだろう。
緑川とロミオは入り口から、警備員を避けて葵と三守とアスモとそしてレオナは2階窓から侵入することになった。
「なんや広いな・・・こんな男子寮あるんかい」ロミオはキョロキョロして部屋を物色中だ。
「申し訳ないっす。窓からで女性陣の方々。余計なトラブルは避けたいんす。」足早に緑川はデスクトップを立ち上げている。
「んなことはどうでもいいぜ」
「ここが緑川さんの部屋・・・お邪魔します」三守は珍しくほーっと観察している。
「ふーん緑川君、いいとこすんでんじゃん。お坊ちゃんか」
「・・・周囲に魔族の反応はないであります」アスモは我が道を行く・・マイペースだな。
なんだかんだいいつつ4人の女性は葵も含めて靴を脱いで入ってくる、みんなまともだな。
緑川はPCを操作し自衛省のサイトにアクセス、いくつものIDとPasswardをいれていく。
「実家のIDで実はそこそこの自衛省の機密情報が確認できるんすよ。バレルとやばいんで普段絶対しないんすけどね」
「へえ。すごいんだね。あんた」そういってレオナはモニターを覗き込む。
「いい匂いするっすねレオナさん・・・」何を言っているんだ・・・君は。
「はあ・・・そ、そう。そうかい?」黒いマスク越しでもレオナはすこし照れているようだ。緩いスケ番だな。
「い・・・いってててて!なにするんすか沙羅ちゃん」おもいっきり緑川は三守につねられている・・・。
「早く機密情報を緑川さん・・・・」なぜか三守はプンスカ怒っている様子だ。相性が悪いのかな。
緑川はテロ組織ゲヘナの最新情報をチェックしている。緑川の実家ってやっぱり軍のお偉いさんかもしれないな。でなければ・・・。
「出たっす!」
おお!ゲヘナについてかなり細かく書かれている。知らない情報があればありがたい。
最初にゲヘナから声明がでたのは30年ほど前の香港でこの時初めて世界で確認されている。主にアジアで暗躍しているが北米、欧州でもテロ活動を行っている。テロ活動は残忍だが最大の問題は全員が能力者で非常に強力であり30年間、幹部は1名も捕まっていないとある。全員を召喚士と推測するが不明とある。
ゲヘナの行動原理はかいつまむと魔族の力による世界の浄化のようだ。
盟主が1人、導師が2人、鬼士が6人の9人前後の幹部でゲヘナは構成されるらしい、世界各国に散らばっていた戦力を最近横浜に集結させている。恐らく来年の450年ぶりの魔族侵攻に呼応していると考えられる。魔族は世界3ヵ所に現れるためなぜこの国に集結しているかは不明とのことだ。
近年ゲヘナは影獣化していない魔族を自由に使役している可能性があるとして危険度はレベルSSに格上げされている。偶発召喚した魔族は当然コントロールできないためゲヘナ内においてなんらかの技術的ブレイクスルーがあったと推測される。
・・・やはり魔族を何らかの方法でコントロールしているのか。やっかいだな。
東アジア担当のゲヘナ幹部は導師の1人“
気になる記載は・・・このうち“祟鏡鬼”は異界化空間を作り都心に潜伏しテロ活動を行う。もともと横浜に潜伏しているのは“祟鏡鬼”一派だと推測される。そこに“香樓鬼”が合流した可能性が高い。“香樓鬼”については非常に強力な魔族を複数使役するとある。
あ!消すなよ・・・緑川。九蓉美芙導師のところ読んでないだろ、吸血鬼なんじゃないだろうな?だとすれば・・・。
・・・まだまだ書いてあるが緑川が閲覧を中止してしまった。
「あんまり長く閲覧するのは避けたいっす。でもだいたい分かったすね・・・ゲヘナは横浜に集結・・・狙いは・・・魔族による世界の浄化・・・この浄化っていうのにに多分如月の姐さんを竜王家の血筋を攻撃することが含まれているっす。あと危険度SSはランクAサマナー以上の隊員による対テロ特殊部隊が最低4チーム以上で担当する案件っす。高校生にどうこうできるレベルじゃないっす。ここ2年で伏せられてるっすけど8名のランクB以上のサマナーが国内でゲヘナと戦闘して殉職しているっす」
「世界の浄化て。段々話がでかなるやないか。わしらの先輩が殉職いたって・・・ニュースになっとらんで」すでにロミオは顔から汗が垂れている。平常心は大事だよ。
「テメ―緑川、あたしがそんなこと聞いて引き下がるとでも・・・」まあ葵は引き下がらないだろうな。
「思ってないっす。できることはやりたいっす。未来ちゃんは仲間っすからね。ただ命にかかわるようなまねはダメっす。いいっすね姐さん」適当に葵は相槌うっているがウソっぽい。
「如月の姉御・・・あたいはついていきます!」
「緑川さん。妙案でも?」そうそう具体案はどうする気だ?なさそうだが。
―――ん?総生徒会執行部の方も慌ただしいな。
第1高校、総生徒会執行部。西園寺桔梗の部屋だ。
高成弟はいない。部屋の中央でぷかぷか浮いている更科麗良と腰かけている桔梗の2人だけだ。
「―――この降魔六学園に恨みでもあるわけですかねえ。ゲヘナは。ねえ桔梗様」
大きな椅子に腰かけて桔梗は黙して語らない。麗良は続ける。
「ふう。林間学校での一件、蜂野菫子と穂村恵美の吸血鬼化の一件、中央区での12体の魔族との戦闘、今回の第3高校の鏡に拉致される事件・・・4つともゲヘナの関与がほぼ間違いないことになります」
一人静かな空間をかもし出す桔梗は瞑目している・・・武人のように・・・実際武人だが。
「しかも林間学校、中央区のスポーツ用品店、第3高校の鏡・・・3つの事件で如月葵が関与・・・まあ完全にターゲットにされてるわね。これは・・・理由は予想着きますが」
麗良は空中で落ち着きなくポーズをかえていく。
下着丸見えだけど・・・まあいいか。
「まあそれは置いて置きまして。さらに桔梗様。穂村恵美たちの吸血鬼グループはどうやら大きな襲撃を計画していた・・・事前に我々で潰してしまいましたけれど・・・もう少し菫子から話をきくべきだったかも。吸血鬼たちの襲撃先がこれは予想ですけど・・・如月葵であった可能性は高いかと・・・。そうそうその後も吸血鬼化した穂村恵美の遺体は全く発見できません・・・あたしかエミリーの光魔法で消滅させた可能性がやはり高いかと・・・」いや完全に穂村恵美は逃げ延びてたけどね。・・・消滅したけど。
「今回4名も行方不明者が出ているのですから、どこかの上層部にかけあってもよいとおもいますけれど警察とか自衛軍か・・・もしくは桔梗様のお姉さまを通してソードフィッシュのエージェントを招集するべきかと」落ち着きなく麗良はまたポーズを変えつつ桔梗をチラチラみている。
桔梗の眉がピクリと動いている。
「麗良・・・。姉上を・・・いや理事長を頼るわけにはいかないのだ。この地はわたしにまかされている。・・・分かってくれ」
「はいはい。そうでしょうね」
やるせなく浮いている麗良はやれやれといった表情だ。
「まあそうだろうと思って、第3高校に天野とエミリーを派遣しております。あとそうそう高成崋山は校長を連れて所用で都内に出ておりますが明日の朝にはもどります。お判りでしょうけど桔梗様ご所望の例の六道記念大会の件でです。反対派もいませんしスポンサーも喜ぶでしょうし。こちらもおそらく承認を得るでしょう、ああ六道記念大会の名前は仮でございます」
「ああそうだったな。もうそんな日時か。この降魔の地における六道記念大会の意味は深く、研鑽を積む場として―――」そんなことどうでもいいからもうちょっと重要な情報を話してくれないかな。
なんとか大会とかどうでもいいから・・・。
「では天野に連絡いたします」
端末を操作して麗良は天野哲夫とテレビ電話するようだ。そして麗良は桔梗に端末画面を向けた。
繋がったようだ。画面から飛び出るかのような天野の顔面だ。
『どうした?更科か?・・・おお!桔梗様失礼しました。自分たちは第3高校2年校舎2階の女子トイレの例の鏡を確認中であります。3高の教官たちは離れたところに待機させております』
「それでどうなの?何かわかった?」端末を持っている麗良が答えている。
『まだある程度のことしか・・・いや。エミリーが話すそうです・・・エミリー』
「了解よ」でっかい天野の顔が画面からいなくなる。
かわりに鏡になにやら術をかけているエミリーが端末を覗いてその顔が半分みえている。
『桔梗様。転移魔法ですそれもかなり複雑な術式ですね』
「解読は可能か絵美里?」
『は。もちろんです』
「それは術者の懐に飛び込めるという意味としてとるぞ?」
『は。そういう意味です』画面のエミリーはニコっと笑う。“ゴールデンアイ”のエミリーはこの六つの学園きっての才女だ。あらゆる術法に精通している。空間転移魔法はそう簡単ではないが。
「期待している」そう桔梗は会話を絞めたが・・・っていうかやっぱり桔梗は乗り込むつもりか。
端末画面を自分にくるっと向けて麗良はエミリーと話すようだ。
「それでエミリー。何時くらいになりそうなわけ?」更科麗良とエミリーは仲がいいらしい。
『明朝までには徹夜で解読して対抗術式を編み出して・・・準備しておくわ。麗良』
「さすがエミリーね。・・・それはそうと二人きりで徹夜って。・・・バカ天野と一線超えないようにね」
『・・・・何言ってるの!バァカじゃないの!』
『バカモノ!何を言っておる!更科麗良!任務中である!』ん?天野とエミリーって付き合っているのか・・・?違うか?
「2人ともうれしいくせに・・あ。・・切られました桔梗様」うーん・・・なんなんだ。
・・・執行部室はしばらく沈黙した。
「今のうちに休んでおけ。麗良。明日はゲヘナとやりあう」吸血鬼戦と同じように“ホーリーライト”だけでやる気か。うーん。あんまり引っ掻き回されたくないな・・・。
「はい。すこし第6高校の文化部を指導しに行く用事がありまして、済んだら休ませていただきます」さすが執行部書記長だ・・・。
「熱心なことだな。低俗低レベル極まりない6高などに文化部など不要なのだが・・・。まあいい好きにしろ。わたしも休むとしよう」ひっどいこと言うなあ。
プカプカと更科麗良は空中に浮きながら器用にあいさつして部屋を出ていった。
窓の外を見る桔梗だがとくに表情は変わらない。きっと冷たい女なのだろう。
「・・・さて鬼が出るか邪が出るか・・・みものだな。・・・・・・・・しかしままならないものだ・・・お茶会は今回も欠席か・・・」
そう独り言をつぶやき桔梗はだだっ広い執行部室の奥へ歩いていく行く。身長は175㎝で均整はとれている、モデルみたいに歩く。そういえば桔梗の姉上も西園寺グループの社長の他にモデルもやっていたっけな、姉妹揃って恵まれていること・・・。桔梗は4女だが次女と3女は召喚士ではなく海外留学中だ。男の兄弟はいない。桔梗が姉上という時は長女の西園寺御美奈を指すのだ。
ん?桔梗はブレザーから着替える気か・・・うーん。いや違うかな。
シャワーでも浴びる気なのだろう。臆面もなくブレザーも下着も脱いでいく・・・。まあそりゃそうか・・・ふーん。
―――20:00頃・・・“ドラゴンディセンダント”の方は・・・やっぱり動きがあったようだ。メンバーは軽く食事は済ませたようだ。校舎からやや離れて葵が帝をボコボコにした原っぱを抜けて林になっている場所に足早に入って行く。
「―――何者なんすか、姐さんのお師匠様って。とんでもないっす」緑川は小走りで走りながら葵に尋ねる。
「どういった能力・・・高度過ぎる気が・・・うち真言が使用できるなんて一言も」
「まじか・・・なんとかなるんか」ロミオはまだ腑に落ちないようだ。
「こんなとんでもない姫の姉御のお師匠様なら分かる気がするけど」レオナもいる。
「アスモちゃんも驚きであります・・・そのような信じられない術式を組むとは・・・神話の中でも数えるほどしかいないであります」
食事中に葵の端末にメールがあり鏡の国の裏口の場所と侵入方法が細かく記載されていたのだ。侵入にはアスモの古代の術式と三守沙羅のランク4魔法、真言を組み合わせて複合魔法を形成する。異界化結界に穴を開けるのだ。
「王家専属の超スゲーコーチみたいな感じっすか?大賢者クラスっすね」
「へへ。まあそんなとこだな。あたしも能力はあんま知らねえんだよ」
みんなに合わせて走っているわけか・・・緑川はもっと早く走れるし、葵はさらに早く走れる。
次第に問題の裏口の場所が見えてくる。
「しかし気持ち悪いでかい廃屋やな・・・」
「ここが入り口っすか・・・アスモちゃん探知をお願いするっす」
「はいであります・・・ああいるであります、近づいて来るであります」すぐにアスモの探知になにかひっかかったようだ。だが周囲に魔族の反応はない。
今は魔族に居場所がバレないはずだし・・・。
でもみんな反応は良くなったな。
「なんや!もうかいな!」
「まじっすか」
「どこだ!」
「臨戦態勢・・・」
QMでの魔族との戦闘経験からか全員すみやかに魔装した・・・。
「あんたらやるもんだね。あたいも負けてらんない」レオナもやや遅れてトゲトゲの身体に変身する。
「いえ・・・魔族ではなく人の反応であります・・・早い・・・近づいて来るであります。魔族は近くに鏡にもいないであります」
「なんや人騒がせ・・・」年齢相応のロミオはまだまだ実戦は厳しいか。
「いやロミオ・・・人間の方がヤバいっす・・・下手したらゲヘナの幹部が相手っす」
もう一度全員の緊張が高まる・・・。いい反応だ、悪くない。・・・猫のように走ってくるのはまあ大津留ジェニファーさんだけどね。
「おーい!1回生たち・・・何にこんな殺気立ってるわけ?」
暗がりから現れ急ブレーキ中の金髪の女性だ。髪が振り乱れている。チームDD-starsの3年生、大津留ジェニファーだ。
「ジェニちゃんかよ!」
「ジェニファーのお姉さまではありませんか!」
「こんばんは。大津留先輩」
「こ。こんばんは」
全員ふっと力が抜けている。ちゃんと挨拶できているな・・・。
「・・・DD-starsがなんのようだい?」だが明らかにレオナは警戒度数が増している、大津留さんとは仲悪そうだ。
「一度にしゃべんなよ“ドラゴンディセンダント”たち。んん?“紅爆轟”がまじってるわけ?・・・まあそれはいいけど。如月1回生。ジェニファー先輩と呼びなさい」
「あのうれしいんすけど俺たち急ぐんす」緑川は胸をガン見しながらもまじめなことを言う。
「まあそれも今日はいいわけ。要はこの大津留ジェニファーも混ぜて欲しいわけ!秋元1回生がいなくなって・・・君たちは臨戦モードなわけ。何するか分かんない方がおかしいよね」なるほど・・・ばれてるのか。
「・・・危険っす」
「1回生がなにを言う・・・このジェニファーに!それに役に立つわ。あたしは木属性だからね。5感はビンビン鋭敏なわけ」真面目な顔から一変、ペロっと舌を出すジェニファーはネコの様だ。いやヒョウか。
「ジェニちゃんこれはアタシたちの問題だ」
「如月1回生。あたしの接近をいつから感じていた?・・・つまり君たちが仲良くお食事中の時からずっとつけてるわけ。そして、秋元1回生はあたしの後輩でもあるわけ」まったく引く気ないな・・・ジェニファーは参加する気だ。
「敵はゲヘナっす。サポートはないっす。俺たちだけっすよ」
「ゲヘナか・・・うわさ通りなわけ。驚くわけないわけ」
もう一人廃屋前に走ってくる女生徒がいる。古風な顔立ちと髪型、彼女は“やまとなでしこ”と異名をとる・・・そして“粉砕ハンマー”とも時々呼ばれる。
「ちょおっとぉ―――!まちなさいよ!ジェニファー!」
「おそいよ。カンナ」
「ハァーもういい加減にして欲しいわ。全くもうなんなのよ」カンナは全身でめんどくさいをアピールしている。
ジェニファーとハアハア言っているカンナは並んで立つ。
「紹介するわ。あたしのチームメイト、武野島環奈よ」
「こんばんわっす」「こんばんは・・・武野島先輩言うたら・・・あああ」「よろしくな」「はじめまして三守と申します」「あたいはよぉく知ってます」レオナは嫌そうだ。
DD-strasの武野島環奈・・・魔装すると“粉砕ハンマー”と呼ばれるのだ。
「早いのよ。あんたは全く・・・ああ。こんばんわ。ん?なによいい男が混じってるじゃない。・・・ふーん?あなた何て名前?何年何組?」カンナは緑川のまえで止まった、下から上までじろじろ見ている。そんなカンナは三守に睨まれている。
「俺っすか。緑川尊っす。1-Cっす」
「ああ1年生か・・・ああガキはだめよ。だめ。ああどっか空からいい男ふってこないかしら」盛り上がって勝手に急降下していった。
「降ってくるわけないわけ。色ボケ女」目を閉じてジェニファーはフルフル大げさに上半身を振っている。
「なによあんた!挑戦的じゃない!ちょっと胸がでかいと思って調子にのってんじゃないわよ」な、何しに来たんだ・・・。
「うっさいわけ。怪力バカ女!」ジェニちゃん、ひどい言いようだな。
廃屋を見ながらカンナは大声でキレている。
「なによ!こんなぶっ壊れた武道館になんの用があるっての?」
「だから誘拐犯と戦うわけ。カンナ」
「ゆ、誘拐犯ですって。こんな大声で何考えてんのよ!」おまえが言うか・・・武野島。
―――適当に緑川が説明し壊れた廃屋内部に一同は進んでいく。
「なんだ近くにはいないのね。びっくりさせないでよね」うるさくてお前にびっくりするわ。
「手伝うだろ?カンナ?」
「いやよ。怪我したらどうすんのよ。・・・まあでもそれはそうと・・・懐かしいわね。ここ」カンナは元武道館を―――といっても小さめの―――をぐるっと回って見渡している。
葵と三守とアスモはすでに割れた鏡の前だ。残りはすこし離れて見守っている。レオナはジェニファー・カンナとは仲良くないようだ。
葵はメール画面を三守に見せている。アスモは何をするか頭に入っているようだ、かなり複雑な術式だが一瞬で覚えたか・・・。
「真言ですね129単語・・・」
「いけるか沙羅」
「できますが間違える訳にいきません。うちは魔力消費が激しく失敗しても一回しかできません」
「気楽にいくであります」
間違えるなよ・・・。
結界の方は三守とアスモと端末を持っている葵にまかせて残りは遠巻きに見ている。レオナはDD-starsとは目を合わせない。
「この廃屋みたいの知ってるんすか?お二人は」
「ここはね。もとDD-starsの部室よ。部室。ほんの数日だったけど。レマが電撃で焼き払っちゃってね」
「確かカンナと喧嘩したんだな?」
「あんたも暴れたでしょうが・・・だいたいあたしたちが大人しく反省して正座なんかするわけないでしょ!」だからうるさいよ・・・。
それにしても美人二人と絡んで嬉しそうだな緑川。
「正座って・・・な、なにがあったんすか?」
「ちょうど2年前にレマが校舎を電撃で半壊させてね・・・」
「ちがうよ、カンナ。おまえが1-Aと1-Bの教室をハンマーで消し飛ばしたからなわけ」
「違うでしょ!気に入らないエバり散らしてる男性コーチをジェニファーが半殺しにしたからでしょう5人もよ。5人も。信じらんないわ!」だから声がでかいよカンナ。
「5人じゃない。4人!」ジェニちゃんもな・・・。
「いっしょよ!どっちだって!」
「うるさいです。あなた方!」珍しく三守が声を荒げている。いまはアスモが詠唱している番のようだ。葵と三守は端末の画面を見るので忙しい。
3年のジェニファーとカンナは1年生に叱られた。
「う!すみません。・・・コワい子ね。苦手だわ。ああいうタイプ」
「ごめんな」こいつら邪魔しに来ているのでは。
そして緑川はブレない節操ない。どんどん二人に近づいていく。
「やんちゃだったんすね、DD-starsの美人お姉さまたちも」
「あら美人ですってやだわ。この子。ふふふ。あらあらそう」カンナもな。
「カンナは美人って言われ慣れてないからな、あたしは3位だったわけ」
「なによ。美人コンテストなんて知らないうちに終わってたんだから仕方ないでしょ!」だから騒ぐなって・・・敵が近くにいたらどうするんだ。
「出ても入賞はキッついんじゃないかって思うわけ」そうおどけてジェニファーはカンナの顔を覗き込む。
「なんですって!よく言ったわね!」
キーキー言うカンナをまったくジェニちゃんは無視している。
「・・・美人コンテストの1位はいまだに夢に出るほどなわけ」
ん?なんだ?
「貝沼まどかさんっすよね。あれ以来、全く手掛かり無いっす。ジェニファーのお姉さまなら匂いで探せないんすか」関係ない話が盛り上がってるな。
「いい質問なわけ。緑川1回生。あの人まったく匂いがないわけ」
「緑川尊君は彼女いるの?」えええ?カンナ、全然関係ない質問するんだね。
「な、なにをいきなり?」おお、珍しい慌て方をしてるな緑川。
「フリーなの?好きな子はいるんでしょ?でしょ?」また怒られるで・・・カンナ。
「あなた方!うるさいです!二度目です!」やっぱりな、そして今日の三守さんちょっと怖い・・・まあでも心底うるさいわな。
「す、すみませぇん。・・・苦手だわあの子・・・」まったくこりた様子はない。
「ごめんな、三守1回生」ジェニちゃんも。
はっと緑川が大事なことに気付く。
「あ、忘れたっす!鏡の国はかなり広大なダンジョンになってるらしいっす」
「鏡の国ってなんのことなの?緑川尊クン?」緊張感無いな。自分の力を過信するのは悲劇を生むことがある。
カンナ、ジェニちゃん、緑川は何度怒られても自由に会話している。
「敵は間違いなくゲヘナなんだな?緑川1回生?」
「ぇ?ゲヘナと戦う気なの?冗談でしょ?」
「敵はゲヘナの“祟鏡鬼(すいきょうき)”だそうっす、ダンジョンの奥でコイツを倒します!」最初に言わないといけないのではないのか・・・。
そして三守とアスモの足元から赤い円形の魔方陣が急速に大きくなり範囲に葵が入り、さらに大きな魔方陣となっていく。その場にいた全員が赤い魔方陣の上に立っている・・・成功だ。一番驚いているのはカンナだ「なによこれ?害はないでしょうね」
「いくぜ!待ってろ未来!」
「いくっす!」
「フフッ!おまえらやっぱ退屈しないわ!」
赤い魔方陣が消えるのと同時に巨大なトンネルが真下に出現した!全員重力の作用通り落ちていく!
「あたしはいやよ、参加しないわ!・・・あ~れ~!」気の抜けたカンナの叫び声が最期まで響いた。
―――ドサドサドサッ!!!
さすが全員能力者だ・・・「なんや痛ってえ!」ロミオ以外は着地に成功してる。狭い洞窟に降り立つ、洞窟の壁は薄く光っており夜の廃屋より視界は良好だ。
「マリコ!」レオナが地面に倒れているマリコを見付けたようだ。マリコは丸く分かりやすい。そして金髪ショートの美少女が両手を握りしめて天井と葵を交互に見て驚いている。
「えええええ!えええ!葵ちゃん!なの?なの!どこから!えええ!」
「未来。助けに来たぜ!」未来を見て葵は漢のようにニヤッと笑う。
呆けていたカンナも落ちてきた上を見て地面の倒れている女子生徒を見て。
「本当だったの?本気だったの?あんた達?倒れてるのはみんなうちの生徒じゃないの・・・」
右手をかざすアスモは必要なら回復魔法を・・・という雰囲気だ。
「全員命に別状ないであります、妙であります。呪詛の類もないであります」
誘拐された女生徒は4人とも無事なようだ。未来以外は気絶している。
天井を見て未来はまだ興奮冷めやらぬ感じだ・・・そうだろう・・・予想外だろうから。
「えええ!みんな上から来たのなのなの、さっきまで天井は岩だったなのなの!えええ!」
「さあ時間がないっす。誘拐されて気絶してる3人と未来ちゃん、それから魔力が尽きかけている沙羅ちゃんは穴がふさがる前に出てもらうっす。アスモちゃんできるんすね?」
「造作もないであります」アスモの魔術で誘拐された4人と三守沙羅を逃がすのだ。
「沙羅ちゃんだけじゃ心配っす。レオナさんももどって誘拐された4人を病院に連れて行って欲しいっす」ああ、レオナもか。まあ戦力にはならないからな、しいていえばロミオも。
「いいのかい?あたいは戦えるよ」
「行ってくださいっす」
そしてアスモの術で気絶している3人、未来、三守、レオナの6名は身体が浮遊し上昇する。こんな古代の術どこで覚えたんだろう。
「・・・いい男だね緑川。あたい・・・」
「如月部長、御堂さん、江上さん、緑川尊さん、それとDD-stars先輩方もご武運を」
「まってあたしは残るのなの。葵ちゃーん」じたばた未来は動くが身体は上昇していく。
「ゆっくり休め。未来。じゃあな」葵はにこやかに手を振っている。
―――天井の穴は消えて半球型の牢獄が残った。牢獄の出口は一か所で小さい。
「この一室はその入り口から入ると強力な罠が幾重にも作動するようになっているであります、出るときは大丈夫そうであります、よくわからないコンセプトであります」
「やっぱ罠だったわけっすね」ここはこのダンジョン内の牢屋で葵が外から開けようとした瞬間、恐らくとてつもない斬撃をくらいまくっただろう。
ジェニちゃんとカンナは緊張感があまりない。まあロミオは緊張しすぎだが。
「上の連中と一緒に帰るっていうかと思ったよ、カンナ」
「まっさかぁ。女の子の敵を野放しにできないでしょ、ジェニファー」魔装したカンナはさらに巨大ハンマーも出現させている。
そして。
「どいて・・・どぉりゃ――――!!」
いきなり武野島環奈はハンマーを出口の結界に振り下ろした。
ズドォーオオ―――ン!!!
半球型の牢獄のなかは粉塵が巻き起る・・・。結界どころか出口の形が変わっている。緻密に組まれていた侵入者用のトラップ魔術は一瞬で無効化された。
「ぶはっ!なんちゅう威力や!出口がでっかくなっとるやないか」ロミオは呆然としている。コイツもそろそろキリっとして欲しい。
「すげえっす!」
「あのハンマー、“ブラストハンマー凶”っていうわけ。この降魔の地でもっとも重い武器」
「へえ。カンナ。今度ランク戦であたしと戦ってくれ」戦闘狂だな葵。
「いやよ。あたしはすばしこいのは苦手なの。ジェニファーとかレマとかね。守人が言ってたわ。あなた最速クラスだって」「じゃあ避けねえからいいだろ?」「ガキがよく言うわね。いやよ。いや」敵地で余裕か・・・大丈夫か・・・不安だ・・・。
今のカンナのハンマーの攻撃音でわんさか魔族が来るだろうが・・・。
「そういえばジェニちゃんは魔装しねえのか?」
「あたしはそういうの向いていないわけ」
そう言うとジェニちゃんは出口に向かって歩いていく。
魔装鎧は召喚士全員が纏えるわけではないのだ。これも才能の一つだろうが。魔装鎧ができないと通常は大幅に戦力ダウン、とくに防御力がダウンする。スピードも落ちるが大津留ジェニファーの場合は内養功を極めておりスピードはダウンするどころか学園でもトップクラスだ。そして魔装鎧を構築できない場合よく代用されるのが特殊魔装だ。特殊魔装で多いのが獣人化や肉体の硬質化だがいずれもジュニファーはできない。特殊魔装で非常に強力なのが“ホーリーライト”の天野哲夫と安福絵美里だ。2人は今頑張ってこのダンジョンにはいる術式を暗中模索している最中のようだ。
一行も驚いていたがダンジョン内は非常に広大だ。そしてすぐにロウグレードの魔族が襲ってきた。先頭にいる武野島環奈のブラストハンマーの1撃は前方に衝撃波を巻き起こすため攻撃範囲が広く18体の下級魔族をすでに屠っている「魔族がいるなんてきいてないわよ」とか言いつつハンマーを振り下ろしまくっている。
葵は全く張り合う気はなくカンナの技を面白そうに見ている。ロミオは棒立ちで着いて行っている。ジェニファーは一行の最後尾にいて5感で敵を探る。
いまのところバックアタックはない。悪くないパーティだ。
下級魔族と言ってもTMPA換算で24500程度の実力があり緑川やロミオでは倒せない。
―――地上の方は・・・。まだ3人は廃屋となっている武道館で気絶しておりレオナが“紅爆轟”の仲間を呼んだようだ。いや救急車呼べよ。
三守が緑川に端末からCallしたが届かなかったようだ、そりゃそうだ。一応、異界化結界は別の次元だから。・・・学校に連絡しなくて大丈夫か。
ああ、よかった。三守沙羅が救急車を呼んだようだ、この子はまともだ。全員で中央病院へ行くつもりのようだ。
―――第1高校の天野哲夫とエミリーは教室を一室借りてPCを使用して術を組んでるようだ。鏡の国にアクセスして入るつもりのようだ。・・・学園一の才女なんだからもう少し早くできないか・・・。
しかし静かだな。第1高校の命令か、第3高校の教官は全員帰宅させられたようだ。
・・・いや権藤先生と安藤先生だけはまだいるか。しかし第1高校の生徒の方が第3高校の教師より偉いというのは・・・やり過ぎではないか。
・・・ん?未来が無事だったことを三守が端末で権藤先生に伝えたようだ。
―――権力の権化である西園寺桔梗は就寝中だ。良く寝れるな・・・この人は。ああ更科麗良も執行部にもどったようで何かを調べている。高成弟は・・・近辺にいない。お使い中か。
―――む?なんかいるぞ!
強力な術者の反応・・・。中央区。スーツ姿・・・女性だな。年は30代と言ったところ。抑えているが非常に強力な闇魔法の香りがする。何者だ?・・・と言いたいところだがこのタイミングだとゲヘナ関係者かな。これほど強力だと幹部かもしれない。すこし探る必要があるか。鏡のダンジョンも要チェックだが。
―――あ!忙しいなあ!
武野島環奈が調子に乗って・・・。かなりの数の魔族に襲われているが・・・。
眼前の敵を潰せ!“重積圧縮断層波”!!!!
ああヤバい技出しちゃった。地形がかわるほどのダメージを周囲に与えて・・・確かに下級魔族は一掃したが地面がそんな薄いとこで出したら・・・・。
周囲の地面が大きく割れて崩れていく。葵と緑川、ロミオ、アスモ、ジェニファー、カンナは大穴があいて深いトンネルを真下に落ちていく今日二度目のフリーフォールだ!
カンナの技すごい攻撃力なんだけど・・・残念な使い方だ。
「あ~れ~」二度目の緩いカンナの叫びがコダマした。
・・・アスモは空中浮揚を発動、近くで落ちていたロミオを空中で抱えた。まあよかったよかった。あとの連中は元気よく落ちているが丈夫だから大丈夫だろう。多分。
――――さてさっきのゲヘナ関係者を調べなくては、できれば印を・・・。んん?いや城嶋由良とアライアンス“ジュウェリーズ”も動いている・・・。第3高校へ向かっているようだ。何かあったか?この件に介入するつもり?
―――
―――
―――
―――数時間かかってようやく名前が分かった。このゲヘナ関係者は恐らく“
そして葵を倒すだけが目的なら鏡のダンジョン内で共闘するはず。
“香樓鬼”・・・何かをしようとしているようだが全く分からない。
なぞはまだある・・・竜王家を皆殺しにするなら葵の異母兄弟である第2高校の神明帝には何故手を出さない?葵に何があるというのだろう?あるいは神明帝がゲヘナと癒着している?・・・まあそれはないだろう。
―――しかし危なかった。
深夜“香樓鬼”を追っていてタイミング的には偶然見つけた。
拉致され助け出された3人は眠っており中央病院へ入院となりレオナはマリコに付き添うことになった。権藤先生と安藤先生が病院に来たが・・・拉致された生徒が無事だったことは・・・各方面への通達は明日以降に控えた。葵たちの侵入は敵の裏をかいており何をするにしても少しでも敵の包囲網を突破しやすくなるようにとの判断で第1高校の連中にも報告しないことにしていた。安藤先生は廃屋に来て鏡の国への探知・潜入を試みたがそんな簡単ではない・・・。
問題はそこではない。秋元未来と三守沙羅の方だ。
未来には精密検査は異常なく・・・未来だけ既に起きていたのは催眠魔法に耐性があるのだとのことで・・・中央病院に今夜は泊る権藤先生にも確認を取り・・・未来と沙羅は2人で深夜に女子寮に帰ることになった。
仲間が戦闘しているのに・・・と悔いている沙羅は自分でも知らずに軽く魔力探知で周囲を見回していた。まあ用心深くなっていたのだ。沙羅の探知能力はそこまで高くない・・・魔族を見付けたのは偶然・・・でなければ罠・・・と考えて欲しいが。
魔族の反応はTMPA1万前後・・・ロウグレードの中でも弱いと言っていい個体だ。それが一体だけ寝静まり返った商店街の上を走っていたのだ。魔族は通常・・・かなりの確率で3体で動く・・・1体見付ければあと2体潜んでいるのは予想して当然なのだが。三守沙羅は一人で追うことを決めたようだ。
「うち一人でいける・・・秋元さんここでとにかく静かに・・・動かないで音はだめ・・・うちと魔族がもし戦闘になったら十分離れて権藤教官を端末で呼んで」「あぶないのなの。一人で行くのは止めた方がいいのなの」「一言芳恩・・・」
そういって気配を消したまま魔族を追いかけた。魔族は身長145㎝ほどで顎は出ていて手足は短い・・・皮膚は緑色調だ・・・何かを脇に抱えていた・・・。
敵は弱い・・・何かを企んで隠密移動中・・・倒したほうが良いと沙羅が判断したのは仕方ない。下級魔族が火属性だったのも追う気になった理由だろう。沙羅の水属性は火属性魔法に耐性があるのだ。
・・・さらに音信不通の仲間のためといったところだろう。探知して一人で厳しければ何らかの対処をするつもりだっただろうが・・・下級魔族は屋根から屋根を飛び越えて隙だらけのまま何かを大事に持って魔力で本屋の二階の窓を開けて入り込んだ。
少しためらった沙羅だったが探知しても魔族は一体のみ・・・「乾坤一擲・・・」と呟いて魔力を解放し巫女のような魔装鎧をまとい、魔族を追って本屋の2階に飛び込んだ。
飛び込んだ瞬間・・・。
“反鏡群現”!!!
と水属性の防御楯を5枚作るのと・・・「あっ!」三守沙羅の身体が業火に包まれて焼けるのが同時だった。
そうこれは罠・・・巧妙な罠・・・火属性攻撃に耐性があっても・・・潜んでいた9体の火炎系魔族の一斉攻撃を受けて本屋内部は一瞬で爆炎と化した。沙羅のよく使う術はほとんどが周囲の水蒸気と魔力を使って昇華させる技で、炎の中では使用できる魔術がほぼ無い。これは間違いなく三守沙羅の能力を吟味した上で確実に仕留めるための罠・・・。本屋内部は結界が張られて唯一の生存する方法・・・逃走は不可。
・・・20秒ほどで確実に命を落とす。まあ罠にはまる方が悪い。すでに三守沙羅は魔装鎧ごと業火のなかで燃えている。あっという間に燃え尽きる・・・。
―――さて鏡の国の中は全員生きているかな・・・。
アスモとロミオは気配を消してゆっくり移動中・・・またアスモの術は高度で知らない魔術だ・・・ちゃんと下層に向かっている。
ばらけた後でまだ合流していないな。
葵、緑川、カンナの3人が一番深く潜っている。術者の反応は最下層だから下に降りるしかないのだが・・・「ちょっとぉ、もういつまでかかるのよ」カンナが相変わらずボヤいている。通った後を見ると膨大な数の魔族を倒しながら降りているようだ・・・。戦い始めて数時間、魔力切れを起こさないといいが。
あれ?何者かの魔力干渉・・・エミリーだな。第3高に西園寺桔梗、更科麗良、天野哲夫、安福絵美里が集まっている・・・鏡の国に侵入する気か・・・なるほどエミリーが解読して結界を破って侵入する気・・・だな。思ったよりは早かった、2箇所ほどミスっていたがリカバリーしたらしい、さすが才女。
おっとダンジョンの中層・・・葵たちともアスモたちともずいぶん離れて・・・綺麗な金髪を振り乱してジェニファーはなかなかピンチだな。
魔族に追われ鏡の国のダンジョンをかなりのスピードで走り回っているる。ブレザーはボロボロ・・・中に着ていたバトルスーツが露になっている・・・一人きりだな。葵の師匠のメールに書かれていた最下層に術者がいるとうい件はジェニファーとカンナは多分知らなかったから敵の気配の多いところへわざとジェニファーは来てしまったようだ。つまり罠の中だ・・・。しかしこれほどの魔族を使役するとは・・・。
葵がもしくは葵たちが敵の誘いに乗ってあのまま昼間に侵入した場合、罠だらけの監獄から未来たちを助けて・・・もし助けられた場合・・・出口がわからず・・・出口はちなみに無い・・・そしてもっとも警備厳重な箇所を目指しただろう・・・結界を張っている術者がいるのではないかと思うわけだ・・・そこは罠。術者本人はただの洞窟にしか見えない魔族もほとんどいない地下の地下・・・最下層の結界の中のさらに特殊結界の中に潜む。
傷だらけの大津留ジェニファーが転げながら異形の魔族たちから距離を取って戦い・・・ようは撤退戦だ・・・撤退する場所も無いが・・・この場所は街のようになっている・・・石でできた建物たち、石でできた道路・・・寺院・・・石像・・・寄合所・・・公園のような場所・・・城塞・・・天井は高いがもちろん石、岩だ・・・街が一つ入るほどの巨大な岩窟のなかをジェニファーは駆け回っている。最下層へ行くにはこの街のさびれた下水道からさらに真っ暗な穴に飛び込み洞窟を縦に降りなければならない。
ジェニファーは葵たちの匂いを追ってきたかもしくは警備厳重な魔族の反応を探したか分からないがとにかく今は多勢に無勢・・・かなり厳しい戦いだ。シャワーのように魔法攻撃や矢が飛んでくるため全ては避けきれず木属性の竜の使い手であり自動回復能力も高いがまったく回復が追いつかない。
破れている右の靴を脱いで魔族に投げている、左の靴はとっくにない、素足だ。ジェニファーは相当な数の魔族を倒しているが・・・いままで倒した数倍はこのエリアに魔族がいる。それが一斉に襲い掛かる。生きているのは脚力だ・・・なんとか魔族に囲ませず敵の集団の外にいながら数体ずつ相手をしている。だが魔装できないせいで防御力は低い・・・もうギリギリだ。
「ハァハァ・・・どんどん来な。いくらでも相手してやるわけ・・・ハァ」気力は十分だが・・・ロウグレード・・・下級魔族とはいえTMPAは最低でも2万はある、数が多すぎる・・・分は悪い。魔力を込めた手刀は強力で早いが超近接攻撃だ・・・遠距離攻撃もなく・・・範囲攻撃もない。ジェニファーは魔装アーマーさえできればプロのクラスAサマナーにも匹敵する実力だがいかんせん敵が多い。
2体の魔族を残像を残しつつ手刀で貫いて倒し、他の魔族に追いつかれギリギリのところ、魔法攻撃をかわして素晴らしい加速とスピード・・・学園でも最速クラスだろう・・・“念装疾風”を使った緑川の2.5倍くらいの速度で逃げる・・・ジェニファーがいままでいた場所は魔術の集中攻撃で消し飛んでいる。
ああ、よくないな・・・ジェニファーは石橋の上を走るが・・・前後を大群に挟まれる・・・気付いているか?・・・橋の下にも蜘蛛のような魔族が数体いる・・・。35メートルほど長さのの石橋の丁度中央の縁付近で上手に戦うが・・・厳しいな。ん?
キュ――ン!!
乾いた音がしてジェニファーの左肩が一瞬光り「うあっ!!」・・・出血した!石橋も一部破損する・・。
ジェニファーは数発魔術で遠距離から狙撃された・・・ん?どこから?どっちだ?
あ!攻撃の気配がなかったのだろう・・・不思議そうに肩口の出血を見ながら・・・そのままジェニファーは落下する・・・浮遊するような魔術もないのか・・・崩れた石橋といっしょに谷底へ落下していく・・・数体の魔族と一緒に・・・岩だらけの谷底へ・・・。
―――狙撃したのはその岩窟内にある大きめの建物・・・寺院の屋根の上からだ。
「あたりましたぁ。由良さまぁ」
「さすがねリツコ・・・上手ね」
撃ったのは遠距離攻撃のスペシャリスト、“ピンクダイヤモンド”副部長のリツコだ。周囲にアライアンスを組んでいるメンバーが数名いる、まあ城嶋由良とジェニファーは仲が悪いからな・・・。いや別の意味がある??
ちなみにアライアンスを組んでいる“ロードクロサイト”の部長の蜂野菫子は行方不明とされている。
寺院屋根にいるのは第4高校・翠盛女学園、生徒会長代理の城嶋由良率いるアライアンス“ジュウェリーズ”だ。全員で6名いる・・・いや全員なら7名か・・・チーム“ピンクダイヤモンド”“ロードクロサイト”“アマゾナイト”の選抜メンバー、まあ予定通り・・・か。
強力な結界で守られており魔族は感知できない。
「・・・でわぁ由良さまぁ。先に進みますかぁ」
「いいえ。しばらく待機しましょう。魔族は結構な戦力ですもの・・・」6人中、リツコと由良だけが話している、残りは周囲を警戒し結界を維持しているようだ。
「あれぇ。西園寺さんに恩を売るのでわぁ?」
「ウフフフ。気が変わりました。勝つ方につきましょう・・・」
「ゲヘナが勝ったらゲヘナにぃですか?わっかりましたぁ」よく調教されてるな、そんな簡単にわかったって・・・それでいいのか。
また上空を見上げながら由良は言う。
「“神の目”の華聯さん見ていますね?随時、他の侵入者たちの戦況報告をしてくださいね。特に桔梗と葵のね。・・・動くタイミングはわたくしが決めます」よく言うわ、全く。
・・・リツコが見て驚くほど妖艶にゆっくりと城嶋由良は微笑む。
(西園寺桔梗でもなく海老名雲鎌でもなく・・・わたくしがこの学園を支配する・・・この城嶋由良こそが・・・いずれこの国にも根をはって・・・何もかも全部頂くわ・・・)
―――少し由良たちから数百メートルほど下の方・・・下層でジェニファーの受難はまだ続いている・・・。
全身・・・傷だらけだ・・・金髪は血と粉塵でよごれている。先ほどの左肩の狙撃痕はすでに消えかけているようだ。ん?戦闘中にジェニファーは何か喋っている・・・。
「はぁはぁ・・・10歳の時・・・だったわけ。グランマに呼ばれて、あなたはその国へ行けば魔族に囲まれて死ぬ・・・なんて言われて。パパが怒ってた・・・」
ジュバッ!!!
強力な拡散型のマジックボールクラスターだ。すばらしい反応速度で避けるが攻撃範囲が広すぎる・・・。全ては・・・ジェニファーの能力では避けきれない。少し傷が増えている。
「こんな国、最初は嫌いだった・・・パパのお仕事で仕方なかったわけ・・・だけど」
ジュバッ!!!
もう一発だ・・・複合魔法の様で・・・相当な攻撃力だ。間一髪で避けている。
「この国はみんなが目が合うと・・・目を逸らす・・・弱っちい奴等ばっかだと思ってわけ・・・でもそうじゃなかった・・・」
「レマと会って・・・はじめてジェラシーを覚えたわけ・・・マーベラスだった彼女は・・・自分がコモンプレイスパーソンだったって思い知った・・・」喋っては魔族の魔法攻撃を避ける・・・を繰り返している。
「桔梗と会って・・・フィアーを感じた・・・魔装ができないのは致命的・・・でも魂を揺さぶるほどの集中で・・・この手刀が届けば・・・」
「それから葵と会って・・・うぁ!!」感知しても早すぎる斬撃が飛んできて避けきれなかったのだ。さらに傷が増える・・。深くはないが傷だらけだ。
「ハァハァ・・・」
先ほど一緒に落ちた魔族は空中で一体仕留めて残りの手負いは谷底でジェニファーは倒した。
そこでさっき・・・奴に出会ってしまったのだ。
「ブルーディーモン!!!」
さすがのジェニファーも驚いたようだ・・・コイツに会うのは死を意味するからだ。
身長3.4mほど・・・強力な魔族・・・体はまるで古代のロボットのようなメタリックで不格好だが両手は三つずつ爪がある・・・一本80㎝程・・・頭は透明で横に長い目が一つある、身体は黄色と群青色の色彩だ。ブルーデーモンとは昔の呼び名でいまはモデレートグレードにカテゴライズされて、要は中級魔族である。なぜジェニファーにブルーデーモンと一目で分かったのか・・・授業を真面目に聞いていれば・・・この学園の生徒なら誰でも知っているわけで・・・知らないって?・・・いやだから真面目に聞いてればって言っているじゃないか・・・。
上級魔族はプラチナデーモン、中級がブルーデーモン、下級がブロンズデーモンと昔は呼ばれたのだ。現在はハイグレード、モデレートグレード、ロウグレードとそれぞれ呼ばれる。4000年間の戦闘の歴史でプラチナデーモンを人が・・・つまり召喚士が倒した事例は4件しかないのだ。そしてブルーデーモンの中にもレベルに大きな差があるがジェニファーが相手をするのはかなり強力な個体だ。QMで葵と麗良が倒した中級下位魔族3体よりはるかに強力、戦闘能力は中級魔族上位に位置する。
中級魔族は体内に魔晶石を持ち・・・この場所のように魔界に準じた場所では魔晶石の効果で不死身である・・・どんなバラバラにしても復活してしまう・・・体内の魔晶石を砕かない限り・・・。葵たちが戦った中級魔族は魔界の外にいる・・・つまり少し弱体化しており・・・基本的に回復はできない。魔界では魔晶石を体内に宿した魔族は事実上撃破不可能に近くなるのだ。ここで重要なのが葵たちが最初に体育でやったサンドゴーレムとの実戦だ・・・体内のコアを見付ける必要があるわけだ。
計算すると・・・ジェニファーが戦っている中級魔族1体を安定して倒すには一般に数名のクラスAサマナーが3チームはいる計算となる。
「グランマの言ってた通りになりそうなわけ・・・なぁんてね・・・」
この辺りは少し岩の遮蔽物が多い・・・。ここへ誘い込むつもりだったのか。
さっきジェニファーは魂を揺さぶる集中力と言っていた・・・その意味が段々分かってくる。
「1800戦よ・・・あたしが2年間でやったランク戦・・・才能がないなら・・・数で・・・数でダメなら・・・睡眠時間を削ればいいわけ・・・グランマの予言は外れる・・・」
素足で驚くべき俊敏性で避けては攻撃する。攻撃方法は右手の手刀のみ・・・。
手刀!手刀!手刀!・・・精度がどんどん上がっている・・・突く度に・・・。
敵の攻撃・・・爪を広げて回転させて突進、岩が紙のようにバラバラになる・・・目から赤い破壊光線、前方が消し飛ぶ・・・そして各種クラスター魔法・・・すべて攻撃範囲が広いが・・・ジェニファーはギリギリ掠るくらいの所で避けはじめている。
精度がさらに上がっていく・・・手刀は魔族の金属質の体幹の中央やや左上を正確につく。
何度も何度も・・・気が遠くなるほど繰り返す・・・。
避けては突く・・・。ただそれだけ・・・。
―――ただただ集中して戦う・・・ジェニファーは無表情になり・・・機械のように一点を突く・・・。クラスター魔法も魔族と密着し敵の巨体を上手に使って避けている。
一旦調子に乗ると木属性は自動回復があるため・・・ほとんどの怪我は治ってしまう・・・魔力以外はだ。
どう避けてどう突くかだけ・・・。
ジェニファーはそれのみに没頭した・・・。
――――――約1時間40分後・・・。
戦闘はまだ続いている。
ひたむきないい目で戦う・・・。魔力を爪先に集中して右手の手刀を繰り出す・・・まるで命を絞るように・・・うん、いいファイターだジェニファー。集中力を切らさず・・・ノーミスでこの時間戦い続けるのはすさまじい。
ガチッ!!
おお!やった!
とうとう・・・とうとう中級魔族の前胸部にヒビだ・・・。
そして中級魔族は見たことない攻撃に入る・・・全身を振るわせて・・・。
詳しくわからないが範囲攻撃だ・・・自爆技か!?
“破魔覚醒五指弾”
今までの手刀と比べ物にならない貫通力で右腕を根元まで魔族の身体にねじ込む・・・。そして腕を引きずり出して・・・ジェニファーは振り向いて少し魔族から遠ざかる・・・外観は金属の光沢の様だったが風船がしぼむように皺皺になり音を立てて形を変えてしぼんでいく。
ブチャブチャブチャ!!
ブレザーはとうにない。バトルスーツもボロボロだが・・・右手には魔晶石が握られている・・・魔族の心臓でかつ脳でもあると言われている・・・引きずり出したのだ・・・。
そう・・・よく勝ったな中級魔族に一人で・・・ジェニファー・・・実力差を考えれば大したものだ。
そのままジェニファーは前のめりにだれも居ない岩だらけの地面に気持ちよさそうに倒れこんだ。今は心地いいだろうが・・・めちゃくちゃ疲れていることに少しずつ気付いてきているだろう。
しかし・・・だ。魔族は3体で行動する・・・基本事項だ。同時に生まれた残りのシスター2体が察知してくるだろうし今倒した魔族が作ったドーター達も来るだろう・・・。魔晶石は命そのもの・・・召喚士にとっては魔装鎧のコア―――メインクリスタルとなるし。魔装できないジェニファーのバトルスーツにもメインクリスタルとサブクリスタルがいくつか内臓されて魔術の発動を司っている。魔族にとってはさらに重要で、シスターの魔族に奪われれば今やっと倒した魔族は復活し、ロウグレードのドーターに魔晶石を奪われて吸収されれば新たな中級魔族が誕生してしまう。魔晶石は中級魔族ならまず体内で精製されている、下級魔族でも年を経ると魔晶石持ちが現れる、こういった下級魔族はオーソリティと呼ばれ知能、魔力が跳ね上がり自我も芽生える。
・・・あのジェニファーさん・・・魔晶石を光印魔術加工するか・・・隠すか・・・最悪捨てるかしないと・・・聞いてますか?
聞こえるわけがない上に疲労困憊でジェニちゃんは気絶?・・・眠っている。敵地で寝ると・・・人生終わるぞ。
まあそれは仕方ない・・・。あっという間に中級魔族が、ああ。やってきた・・・眠っている場合では。
―――もう最下層近くに葵達3人は降りてきている・・・。
相当な距離を歩いて下ってきているが・・・元気だな。葵たちは下級魔族ばかりで・・・中級魔族とも・・・回避困難なトラップとも遭遇していない。
危険なトラップも、下級魔族の大群も、強力な中級魔族たちもすべてジェニファーが直面していた。ジェニちゃんは中層の地雷を全部踏んだ上にリツコに狙撃までされていたのだ。
気配を消す気も全くなく・・・暗いために周囲を魔術で明るくしつつ・・・3人は一応周囲を確認しているが・・・かなり緊張感無く進んでいく。
まあ要は知らず知らずにジェニファーが敵を引き付けていてくれたお陰で葵たちは雑魚ばかりだったわけだ。
「睡眠不足はお肌の敵なのよぉ。分かるでしょう尊クン?」
とても戦闘中とは思えない声だ・・・。更科麗羅もそんなことを言ってたな。
「もちろんっすカンナさん、でもカンナさんの肌はめっちゃキレイっす」
カッコつけながら緑川は髪をかき上げるしぐさをしている。
「まぁキレイだなんて・・・やだわ!照れちゃう!」
両手で頬を押えてカンナはフルフルしている・・・コイツ等徹夜で戦い続けて・・・午前4時ごろなのによくやるな。
「もうおまえら付き合えよ・・・」完全に葵がウザウザモードに突入している。
「なにを言っているんすか。姐さん。俺が愛してるのは姐さんだけっす」
「あら妬いちゃうわぁ」どこまで本気なんだ?コイツ等は・・・。
うん、確かにカンナと緑川のコンビはうざい。
「でも尊クンけっこヤルわね。驚いちゃったわ」
「そんなことないっすよ。カンナさんこそ凄い攻撃力っす」
「そぉおお?大したことないのよぉ」
今度はお互いに褒め合い出した・・・そうこうしつつも進んでいく。
一行はもう一段数メートルの段差を飛び降りていく。先頭は葵・・・非常に身軽だ・・・じつは足音が一切しない。
「後ろも時々確認してくれ。緑川」
「オッケーっす姐さん」緑川は飛び降りてくるカンナの手を支えている。
「キャア!」人一倍頑丈なくせにキャアってなんやねん。カンナはしばし緑川の手を握っている。あ~もう・・・うるさい。
3人はさらに降りていく・・・先ほどから魔族はもう出現していない。
「ジロジロ見んじゃねえよ」
「いやあ凛々しい横顔っす、惚れ直したっす。でもこのダンジョンっすね。逆向きに上がって行ったら多分大変だったはずっすね」「かもな」そう言って葵は上を見上げる・・・まなりの距離を降りてきたのだ。
「そぅねえロウグレードの魔族さん達あれで隠れてるつもりなんでしょうけど・・・」葵たち侵入者は本来鏡から最下層に招き入れられ・・・魔族の反応を探り・・・未来たちを探知していけば下層から中層そして上層に達しただろう・・・岩雪崩・・・爆発結界・・・油だらけの火炎結界・・・待ち伏せ・・・槍が降り注ぐ長―い洞穴を登って・・・待ち伏せ・・・逃げた先で中級魔族の巣・・・毒蜘蛛・・・下級魔族の大群・・・待ち伏せ・・・入れば爆発するラスボスがいるっぽい城塞・・・最後は未来たちを救おうとすると次元封印されて・・・最低数年は脱出できなくなる・・・はず。これらをすべて無視して葵たちは降りているのだ。何にもない最下層に実は術者が潜んでいる。
一行が進む道はやや狭くなってきている。
「なんにも感じないっすけど本当にこっちに祟鏡鬼さんいるんすかね」
「んー多分な」大丈夫いるから・・・。
この3人はそれほどひどい強敵に会わなかったから・・・余裕がある。
「無断欠席になっちゃうわ。このままじゃ」
「しょうがないっすね」
「・・・学校何てどうでもいいぜ」
そうそう集中してくれ。全く緊張感ないんだから・・・。
しばらく狭い洞窟をくぐると広い鍾乳洞のようなところに出た。結構広い。
「なんかそれっぽいとこにでたぜ・・・」「そうっすね。この辺っすかね」3人は周囲を見渡している。
「いや、構えろ・・・なんか向こうに居るぜ」「まぁた魔族なのぉ」
もう幾度となくやりあっているため魔族くらいで・・・という思いがある。
薄暗いが数体の影が緑川なら視認できる・・・5体だ・・・。巨大な体躯・・・小さな体躯・・・飛んでいる影と・・・雄々しく歩く影・・・もう一つはその後ろに1体。
「あれ!姐さんあれは・・・」「なによ。見えないわよ」葵にはもうとっくに見えているだろう。カンナは自身の力に自信があるのかそういう性格なのか緊張感とういものが、ほぼ無い。
5体の影の内、一番後ろにいた影がすっとんで出てくる。
「桔梗様!お下がりください!なにか居ります!」
「味方よ、高成君・・・味方だってば・・・」だるそうな女性の声だ。
「なんだと何を根拠に更科、いい加減なことを・・・」
聞き覚えのあるこえだ。
近づくと段々お互いに見えるようになる。
時代錯誤の侍のような恰好の高成弟が先頭で騒いでいる。
「むう!第3高校3年、武野島環奈ではないか。あとは!・・・如月葵・・・姫か・・・き、貴様らここで一体何をしている!!」バカかコイツ・・・もうバレてるだろうけど敵地で騒ぐな。カンナより酷いな。・・・姫と呼ばれるのが嫌いな葵は「あーん?」と睨んでいる。
「高成君・・・響くからうるさいわけよ」ぷかぷか浮きながら相変わらず更科麗良はだるそうに喋っている。
“岩壁魔人”天野哲夫の肩に腰かけていた小柄なエミリーは終始驚いた顔をしていたが飛び降りる。
「あのう。武野島さん、こんばんは。ほかの2人は初めましてです。安福絵美里といいます。・・・ちょこっと聞きたいんですけどいいですか?」
「絵美里さんって言うんすね。マジかわいいっすね。俺は第3高校1-Cの緑川尊っす。人呼んで“震える瞳”っす」節操ないな緑川・・・あと・・・震える瞳ってなに?初耳だが。・・・そしてエミリーがガチで照れている・・・なんなんや。
「か、かわいい・・で、です・・かぁ?」
そしてズイッと巨体が緑川の前に立ちはだかる。緑川が見上げるほど身長差がある。
「ここは戦地であるからして妙な会話は慎むがよい」巨体が威圧しているが、だがさらにその間にエミリーが入り込む。
「どのようにしてこちらに入りましたか?非常に難度の高い疑似次元結界でしたでしょう。どちら様が解読して術式構築をなさったの?」
しばし緑川と葵は目を見合わせて・・・。
「あたしだよ」と葵が言うが・・・おまえじゃないやろ・・・まあいけどさ。
「次元結界を再構築する公式をご自分で制作したんですよね。いくつか現行の術式だけでは解呪できない中途半端な結界術式がわざとはめ込まれていて非常に難解なパズルといいますか。あ!そうです。あそこはどのようにして解法をみちびきましたでしょうか?あの・・・」
「んなもん適当だよ。適当・・・」「て、適当ですって・・・」エミリーは葵を見て瞳をキラキラして絶句して手を合わせている・・・そんなに難しいところあったか?「今度ご一緒にお勉強会をいたしませんか?」「しねえよ!勉強は嫌いな.んでな!」この葵が侵入術式を組んだと思うほうがどうかしているが・・・いいとこのお嬢さんは疑うことを知らないって言うけど・・・まあ・・・もうどうでもいい。
つか敵地で騒ぐなと何度言ったら・・・。
「絵美里その辺にしてくれ。少し聞きたいことがある如月葵・・・」威厳の塊のような声だ。
「あたしはお前と話すことなんてなにもねえぜ!西園寺桔梗!!」
うんうんイイ感じだ・・・このままこの二人が衝突することになれば・・・。
威圧的に声は続いている。
「いや。それは今でなくともよい。帰るがいい。これは総生徒会執行部の仕事である!」
「何言ってんだ!何百体も魔族を狩り殺して・・・やっとここまで来たんだぜ」
「何百体だと・・・」
桔梗たちは今さっき入ったところだからな。そういう意味で二つのチームには温度差があるのだ。
「何時間前にお入りになられたの?解読にどれくらいお時間をあの・・・」お嬢様っぽいエミリーは自分よりもっと早く解読できたのかと興味津々のようだ・・・葵にできると思うのだろうか。
「絵美里。今はよい・・・如月葵と武野島環奈・・・それともう一人。もう一度言うぞ。必要ない帰れ!」えっらそうだな・・・まあ偉いのか西園寺家は。
「んじゃ出口はどっちなんだよ!」切れる葵・・・桔梗も迫力満点だ・・・。
「・・・ふん!」いやあの桔梗さん・・・背も高いし・・・姿勢もいいし・・・まさしく女帝の様だけど・・・エミリーは出口を確保していないよね・・・。つまり桔梗さんも出口どっちか分からないよね・・・さらにここ出口ないし・・・そんな顔してもさあ・・・帰る方法知らないよね・・・。
そもそもエミリーもこの場所に侵入するってことはさあ・・・敵の思い通りなのでは、ここから入るのは罠なんですけど。この最下層にラスボスがいるのは通常の探知術では絶対に知覚できない、つまりここから入り探索するとどんどんラスボスから遠ざかるわけだよ。この結界を作っているラスボスを先に倒すと次元崩壊するため安定していない箇所の人質は現世に戻るとき多分耐えきれずに死ぬし・・・多くの魔族は鏡から出て現世にあふれるし・・・つまり未来と人質達のいた上層の監獄の中から侵入して魔族を減らさないとさあ・・・攻略できないよね?
ゴバッ!!
突如、洞窟の上の方から音がして・・・壁の中から何かが出てきた・・・ひび割れた破片を撒き散らしつつ・・・。
そのまま葵たちの方向へ落ちてくる・・・そのまま少し滑りつつ着地・・・地面と踵の間で火花が出ている。先ほどと違い、金髪が輝きを取り戻している・・・。
「はぁい!やっと合流できたわけ!」
「えぇええ!ジェニファーなによ、その格好はぁ」
洞窟の壁を突き破って飛び降りてきたのは大津留ジェニファーだ・・・元気にあいさつしている。DD-starsの同じチームメンバーのカンナが驚いている。
「なによ。その手はぁ。足も」
両手足が水晶のような光沢になっているのだ。水晶でできた手袋とブーツを履いているようないで立ちだ。ジェニファーはチョット照れ臭そうだが。
「いやあ。ちょっとコツをつかんだわけ・・・」
「なによぉ。とうとう魔装できるようになったの?」
「まあね」
「おお!ゴージャスっす!大津留のお姉さま!」
2人は“ホーリーライト”がいても関係ないようだ。楽しく談笑している。
「あちゃあ。特殊魔装ね・・・これは硬そうね」麗良がつぶやく・・。魔装なしでトップクラスの戦闘力だったジェニファーが特殊魔装できるようになった意味合いは大きい。
「まあいい。いくぞ」「はっ!」
付き合いきれないと言わんばかりに桔梗は目でエミリーに合図する。高成弟だけ返事している。
「結界を作っているのも強力な魔族の反応も上からになります」だから上に上がっても仕方ないんだって・・・エミリー。
気分良さそうなジェニファーが答えるようにエミリーに話す。
「上から降りてきたわけよ・・・あたしたちはね、6時間もかけてね・・・人質も助けたし。ブルーディーモンも12匹とブロンズも数えきれないくらい潰してきたわけ。上にはもう何もないわけ。トラップ以外はね」そうきっぱり言い切る。
何が気に入らないのか高成弟はずっと怒ってるな。
「なんだと!上から反応があるのだと言っている!大津留!」
「じゃあお好きにどうぞ・・・上はトラップと魔族の死骸だけよ」
機嫌良さそうなジェニちゃんはどうでも良さげだ。
「・・・モデレートを12匹もって本当?・・・」プカプカ浮きながら麗良は上層を見ながら本当か怪しんでる様子だ。
「まあ一人じゃなかったわけだけど・・・」
そう言ってジェニファーも自分が出てきた亀裂を見上げる。
ゴソゴソとそこからでてくる人影がある・・・音はしない。
―――その亀裂から二人浮遊しながら降りてきた。
ロミオを抱えているアスモだ。二人ともほぼ無傷・・・大した術だな・・・一回も魔族に見つからなかったのか。
「あれ?気配を消しているでありますのに・・・」みんなの視線を感じてやや驚いている。
「うぉーい!無事やでこっちはな・・・あれ人が多いやないか」
ロミオは嬉しそうだな・・・敵地で騒ぐなと・・・。しかしこれで中層の“ジュウェリーズ”以外は全員そろったな
「5感がビンビンなわけよ。如月葵1回生・・・匂うでしょ?」
「ああ。プンプンするぜジェニちゃん・・・でも全く・・・種明かしはそいつらが行ってからでいいぜ」
なるほどそれで黙っていたのか、“ホーリーライト”が去ってから戦う気だったか。
「まあそう言わずに・・・ここなわけ。ここが入り口・・・」
水晶の光沢のある右腕でジェニファーは目の前の岩壁を切り裂いた・・・。
扇状の衝撃波と岩壁の直接作用と摩擦でジェニちゃんの右腕の動きと同じ方向に火花が線状に数メートルにわたって出現し・・・岩壁は崩れた・・・。
!!!!
崩れた壁に異変がある・・・一同の目が中央に集まる・・・真ん中だけ全く傷つかないのだ。左右の壁は崩れ落ちている。
「あたし今日絶好調なわけ・・・どんな異常も見落とさないわけ」
「なによジェニファー・・・一人だけ覚醒しちゃって・・」
死線を潜り抜けジェニファーの感覚はかつてないほど研ぎ澄まされているようだ。カンナはそれを見て微妙に焦ってる?エミリーは驚いて探知魔法を2重にかけるが・・・それでも異常は発見できない・・・。
「どっせ―――い!」ハンマーを担いで何する気ですか?カンナさん・・・あの・・・まさか・・・。怪しい壁に向かって攻撃する気だ・・・。怪しいところは全部殴る気なのか・・・基本的に問題がある・・・。
“限定解除”
“重積圧縮断層波”!!!!
ゴォオオオオオオオオオオオォォ!!!!
いくらなんでも葵たちはもちろん“ホーリーライト”も回避行動をとっている・・・余波に襲われるからだ!
ただでさえとんでもない威力の重積圧縮断層波を限定解除で攻撃力アップ・・・ただし動けなくなる位しばらく疲労するが・・・。
葵たちの目の前の岩壁は長い間崩れ続け・・・崩れ去った・・・そして真っ黒な球体が出現している・・・まじか・・・こんな強引なことしなくても・・・いやだいたい物理攻撃で開くなんて・・・アホかカンナ。
ゆっくりと入り口に近づいていくのは緑川尊だ・・・。
膝をついているカンナを助け起こしつつ・・・ん?なにやらヤル気だ・・・。つられるようにアスモとロミオに・・・葵も球体に近づいていく。
「おお!入り口っすね!いくっすよ!“祟鏡鬼”!」
「いくであります!」
「さっさと終わらそうや!」
「・・・ちょっと寄らせてもらうぜ!・・・余計なことしやがって!あたしの赤い弾丸をぶちこんでやるぜ!」物騒だが悪くない・・・。事ここに来て集中力が高まっている。
「イイね!“ドラゴンディセンダント”・・・いいチームなわけ!」
「しまったわぁ。内部の奴までいっぺんにっておもったのにぃ・・・」しばらく疲弊しているであろうカンナは使い物にならないだろう。
“ホーリーライト”の面々は展開にややついていけていない・・・。難解なダンジョンの入口にラスボスがいるわけだから・・・。
―――こっちは中央区・・・まだ夜中・・・街灯だけでは暗いが・・・本屋の立っていた場所は四角く真っ黒に燃え尽きてその一角だけ何もなくなっている。結界の中で燃えていたため人目にもつかず救急隊なども来ていない。
ほんの少し離れたところに人影がある。
「沙羅さん、沙羅さん!あ、権藤先生気付きましたなの!よかったの!よかったの!」
「ほう。一安心ですね。まあ予想通りですが・・・安藤先生もハオ・ランもズー・ハンも、もうすぐ到着するはずです」相変わらず権藤先生はキョロキョロしている。
三守沙羅は身体を起こしてギョっとする・・・未来のブレザーが掛けられているがその下は全裸だった。
「うち・・・どうなって・・・あ。魔族に待ち伏せされて火炎攻撃を集中・・・あ、緑川さんたちは?」不思議そうに身体を見るが怪我一つ火傷一つない。
「全身炎に包まれて・・・うち・・・」
「どうなったのなの・・・あたし沙羅ちゃんを探したのなの・・・でも見つからなくて・・・権藤先生を呼びに行って戻ってまた探したのなの・・・ハオ・ランさんとズー・ハンさんも来てくれて手伝ってくれたのなの・・・本当によかったの」未来は泣いている。
「魔晶石は無事ですよ」そう言って権藤先生は白く半透明なクリスタルをわたす。クリスタルは輝いている・・・つまり発動中だ。
「ありがとうございます・・・うち・・・一体・・ああ!魔晶石が!そう!」そう言って魔装を解くと魔装する前の私服姿に沙羅は戻っている。魔晶石は輝きを落としていく。つまり魔装鎧が消滅するほどの業火で焼かれたわけだ。
「ああ!魔装中だったのなのなの?」
すっと立ち上がり自分の姿を確認するが別段問題はない。手を見て足を見ていつもの自分だ。
「恐らく・・です。恐らく・・・三守さんは待ち伏せに会い・・・火属性の下級魔族9個体から集中攻撃を受けている最中に・・・どなたかに助けられましたね。三守さんが攻撃されて助けるまでに長くて20秒以内・・・恐らく一撃で・・・9体を倒し・・・光子覚醒降誕で再生回復させた・・・しかも結界を破った形跡がない・・・恐るべき手練れです・・・それどころか何の痕跡もない」信じられないといった感じの様だ。
―――一方・・・鏡の国の地下では・・・。
黒い球体に触れるとさらに限定された異界へ飛ばされた。最下層にいた全メンバーが結局異界へ飛ぶことなった。
城の大広間のような場所に転移して・・・そこの中央にいた巨大な人型の魔族・・・もしくは改造魔族と戦闘開始となった。TMPA換算で5万を越える化物で・・・左手に巨大な鏡の大楯をもち、右手には巨大な大剣を持っていた。両目が赤く輝き・・・周囲に瘴気をもたらせた。魔族の能力の高さがだいたい読める緑川は冷汗と嗚咽が止まらないほどだった。アスモは壁際に結界をはりロミオはその中に飛び込んだ。
とてつもないポテンシャルを持っている魔族なのは誰の目にも明らかであった。
この魔族が都市に現れれば甚大な被害が・・・例えば第2高校に現れれば居合わせた召喚士たちは全滅しただろう。
問題は・・・桔梗と葵だ・・・。
絶好調のジェニファーですら引くほど・・・。
カンナは疲労でそれどころではない。
歴戦の天野哲夫、安福絵美里、高成弟ですら唖然とした・・・。
葵と共闘したことのある更科麗良だけは「あちゃあ。やっぱこうなるよね・・・」とかぷかぷか浮いて言っていた。
便宜上“鏡の巨人”と呼ぶが・・・。
“鏡の巨人”は非常に強力な防御結界を発動する左腕を大盾ごと桔梗に切り落とされ・・・すさまじい範囲攻撃をするはずの右腕と大剣は葵の鋼線で絡め止められ・・・さらに葵の“エラスティックショット”“パニッシュ”連射で体幹が穴だらけに・・・。さらに葵のバカ力で大剣は折られた・・。桔梗に大盾の破片をブーメランのように投げつけられて“鏡の巨人”は頭部を破損しつつ魔術発動を止められて・・・そして桔梗に首をねじ切られ地響きをたてて倒れた。なにやらQMでの戦いのときよりも葵は鋭さを増している。とにかく早すぎるのだ・・・ダッシュして3歩目には時速250kmにも達する速度だ。このスピードだと一撃もくらわない。そして桔梗は・・・強すぎるぞ!攻撃することで敵の攻撃の発動を潰している。
「んだよ!これでしまいかよ!さんざん勿体つけてよ!」
なんで切れてるんですか葵さん。
「エミリー、魔晶石を探してくれ!」
呆気に取られていたが我に返った絵美里はその場であわてて術を詠唱する。
「かしこまりました桔梗様・・・・・・魔晶石認めません、いくつかの術を組み合わせましたが・・・もう少し検討いたします」
「いやあ。つよいっすね。吐くほど強かったはずなんすけどね姐さん・・・この魔族」
「どってことないぜ!」いやそんなことないよね?
「やはり認めませんでした」だからさあエミリー・・・この強さで魔晶石が無いのおかしいよね?どう考える?
「そうかご苦労だったな」
いやあの桔梗さん・・・あなたもあんまり分かってないんじゃ。
だから・・・だから・・・復活するよ。
魔晶石を探さないと・・・。
ズゴゴゴゴ!
“鏡の巨人”はあっという間に復活していく・・・。大盾も大剣も。
「おもしれえ!暴れ足りなかったんだぜ!」なんか嫌なことでもあったんかい?
「ふん!下級魔族め!」いやこれ中級デーモンで最強クラス・・・なんですよ桔梗さん。魔晶石が見つからないからって下級じゃなくってさ。
ああ。また戦うの・・・。また・・・。そろそろ決着つけようよ。
戦いは数分で終わるとはいえ・・・。
―――
―――
―――
―――約3時間後・・・・。
いやあ・・・おまえら・・・ふっざけんな。
罵しりあいながら葵と桔梗はそれこそ35戦ほど終えている・・・。“鏡の巨人”は戦闘不能と再生を35回繰り返している。
いや・・・長いよ・・・長い。
“鏡の巨人”は潰されて、壊されて、切断されて・・・また再生して・・・どんだけ繰り返すつもり?
エミリーも眠そうにしている場合じゃなくって探知しておかしいところあるでしょ。この部屋に・・・何も感じない空白の部分あるでしょ・・・何もないのが逆におかしいと思わない?頼みの綱の更科麗良はぷかぷかと・・・ね・・・寝ている。そもそも天野と高成弟はだめだ。葵は最下層の結界のさらに特殊結界に術者がいるってメール見てたよね・・・緑川は・・・経験不足・・・。ロミオは寝ている・・・。アスモは祈ってる?何に?他だれかいないの?ああ忘れてた・・・。
―――中層・・・寺院の上。
結界内に“ジュウェリーズ”が6人いる・・・ふくよかなリツコは寝ている。
「どっちが勝つか分からないってどういうことですの。華聯さん。途中連絡とれませんし」ピンクツィンテールの城嶋由良はご機嫌斜め。空を向いて話している。
「どっちにしても今からでは戦闘ポイントに間に合わないですって・・・そんな深いの・・・まあ仕方ありませんね、リツコ起きなさい・・・リツコ」
むにゃむにゃとリツコは目をしょぼしょぼさせている。
「間に合わないのであれば撤退しましょう・・・そうね魔族を二匹ほど捕まえて海老名雲鎌に売りましょう・・・一体5千万円くらいでね」
“ジュウェリーズ”のほかのメンバーは異論ないようだ。
「それにしても華聯さん・・・これほど待ち伏せしている魔族がいて死者ゼロ人って本当ですか?・・・まさか余計なことしていませんわよね?」城嶋由良は何か気に入らない様子だ。まあいいや。
―――最下層・・。
ふぅうう。
“鏡の巨人”は38回目の戦闘不能になりつつある・・・葵と桔梗・・・体力無限か?神に祝福されているとしか思えないぞ・・・その強さは。
二人っきりで3時間以上戦い続けている。
・・・もう仕方ない・・・。
パリン!
突然音がする・・・。玉座の方だ。
黒い小さな鏡が音を立てて割れる。
と同時に“鏡の巨人”は巨体は・・大盾も大剣も
地響きとともに大広間は次元崩壊がはじまる・・・といってもここは術者のセーフティルームだ。何かあったときに安全に出るときの場所なのだ。アスモが「大丈夫であります」と言っているが根拠はあるのかな、わかって言っているなら大したものだ。
ほんの数秒後には大広間にいた者達は例の元DD-starsの部室・・・第3高校の敷地のはずれ・・・壊れて荒んだ廃屋に強制転送される。
朝日が出ている。
既に朝7時過ぎ・・・ああ・・・すがすがしくない。
「おおお!姐さんやったっすね!通算38連勝っすよ」緑川が葵に駆け寄っていく。何勝したとか関係ないんだけど「やったぜ!」赤い鎧が眩しい葵はガッツポーズしている。
「待て!なにか今のはおかしい・・・」何か言っている桔梗の声はかき消される。
「すごいであります!」「如月部長はさすがやで!」“ドラゴンディセンダント”メンバーは4人集まって喜びを分かち合う。まあこういうのは悪くないけどさ。緑川が何かに気づく・・・端末を見ている。
「三守沙羅ちゃんから着信っすね」
4人は端末で三守沙羅と秋元未来と話しているようだ。
少し離れて喋っているDD-starsの二人も気分良さそうだ・・・もともとここは彼女たちの部室だし。
「如月1回生・・・恐れ入ったわけ。あのまま復活し続けるかとおもったわけ」あのまま復活し続けるんだよ。術者を見つけて倒して魔晶石を浄化しないと!
「まあよかったこと・・・それよりジェニファー?その宝石みたいな特殊魔装はどういうきっかけで?いきさつで?魔装専門のプロとかコーチとかにあんなに相談して検査してだめだったじゃあない?」カンナは大広間では全く役に立たなかった・・・“限定解除”なんて使うから。
「すごい戦士に会って・・・手ほどきしてもらったわけよ」
「なによぉ。男じゃないでしょうね。詳しく聞かせなさいよ」男かどうかが問題なのか。
しばらく“ホーリーライト”メンバーは葵たちを見ていたが桔梗は目を閉じて魔装を解いた。帰る気の様だ。
「調べることがある・・・帰る!」
「はっ!」高成弟は忠犬だなあ。
「任務完了ですな」天野哲夫は左肩にエミリーを乗せようとして抱えている。そこが定位置なのか?肩のうえからエミリーが手を振りながら声をかける。
「如月葵さん、今度ご一緒にお勉強会いたしましょうね」「勉強はしねえ!」即答かよ。
「あちゃあ。眠いわ」と自分の肩をもみつつって・・麗良さんは一番寝てたよね。
“ホーリーライト”は帰っていった。
“DD-stars”の二人も帰るようだ。ジェニファーは背伸びしている。
「みんな無事とはやるな“ドラゴンディセンダント”・・・たいしたもんなわけ。秋元1回生と三守1回生にもよろしくね」なんだそれにしてもジェニちゃんはよっぽど気にったのか手足の特殊魔装をずっとしているし、慈しむように自分の魔装を見ている。
「おつかれさまぁでしたぁ。みなさん。特に尊クンのことは忘れないわぁ」「はいっす、カンナさん」なんかまさか緑川ってひょっとしてモテるのでは・・・まさかなあ。“DD-stars”の二人はそのまま手を振って去っていく。
「なんだよカンナ。年下はないって言ってたわけ」
「すぐ育つでしょう・・・今のうちに唾つけつけとくのよ・・・それより何?その魔装の話しは・・・教えなさいよ」育つけど年下なのは変わらないんじゃ。
ん?
激闘後の“ドラゴンディセンダント”の4人は未来と沙羅そして既に合流しているハオ・ランとズー・ハンの4人とこれからさらに合流してモーニングをチーム8人みんなで食べるようだ。徹夜明けでよくやるな。権藤先生がおごってくれるのだと・・・9人か・・・いいチーム。
まあそれはいいけど・・・業火に焼かれた沙羅・・・中級魔族に囲まれたジェニファー・・・ラスボスにいたっては見つけられないし・・・どーもこーも。
しかしゲヘナの目的が気になる・・・葵だけが目的なわけがない。祟鏡鬼は倒したが・・・まだまだ幹部は大ぜいいるようだし・・・香樓鬼がなにをしようとしていたのか・・・結局不明だ。
ん?でも“ドラゴンディセンダント”が食べてるモーニングは美味しそうで・・・楽しそうだ。まーいーか。
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