第6話1-6.美人コンテスト

「みなさん!みなさん!みなさん―――!聞いてください―――!」

緑川尊が一人ダッシュでやってきて吠えている。秋元未来、三守沙羅、如月葵の3人は第3高校の裏庭で3人とも自分で作ったのかお弁当ランチ中だった。


「―――」

「・・・。」

「!」


如月葵だけはジロっと睨んだが3人とも無視している。緑川尊はお構いなしだ。

「今回はマジすんげえんすよ!聞いて、聞いて聞いてください!ドラゴンディッセンダントォのお美しい方々!」


金髪ショートの秋元未来がぼそっと答える。

「お弁当がおいしくなくなりますの」

緑川尊は林間学校での一件以来、球技大会の大失敗を踏まえ、いまいち女性陣からは信用されていないようだ。こうテンションが高い時は特にだ。


「今回は今回だけは違うんす!規模が違うんっす!わかりますね?」

仕方なーく秋元未来が相手をしている。

「一応聞いてみましょうなの?葵ちゃん?沙羅ちゃん?」2人が一応頷いたのを確認して秋元未来は怪訝そうに顔を傾けながら「では一応聞いてみましょうという感じになりましたの」


「ふっ!はっ!たっ!!よくぞ聞いてくれました」

イケメンの雰囲気を出しつつ緑川尊は髪の毛をかき上げ、3回ポーズを変えて歯を光らせながらペラペラまくし立てた。

「こないだ俺の所属しているイベント企画部の集会で何か次のイベントについて案はありますかと企画用紙をもらったんす、それで15年間暖め続けたすげえ企画書を作成して提出したんす。そしたらさっきそのイベント案が通ってですよ、学校側の承諾もOKだったって先輩におせえてもらったわけなんす。そのイベントがすげえんす、空前絶後のイベントになります!降魔六学園が震撼する!!世界が泣くこと間違いなしなんす!!!この俺のパッションが分かりますか?わかりますよね?さすがです!さすがドラゴンディセンダントの女性陣の方々!!!ウォ―――――!!!テンションマックスっす!!!」


3人とも黙々とお弁当を食べている。三守沙羅がややうざそうに声をだした。

「それで?緑川さん?」

「ふっふっふっふ!よくぞ聞いてくれました。パンパカパ―――――――!!それでは発表させていただきます。それは、それは、それは!みなさんお待ちかねの第3高校主催!第一回学園対抗!美人コンテストでありまっす!!!!!」


あまりの騒々しさに4人の周りに人だかりが出来はじめている。


秋元未来がスッと音もなく立ち「女性を見た目でだけ判定するなんてよくないと思うのなの。」

ため息をつきながら三守沙羅は緑川尊を睨みつけ、気怠そうに立ってさらにギロっと睨む「女の敵!」と吐き捨てた。


気配の無い如月葵はいつの間にか緑川尊の背後に立っている。

「たまにはまともなことを言うかと一瞬でも期待したあたしがバカだったよ!」


「グゲッッップハ!!!」

機嫌悪そうな如月葵の目にも止まらない右コークスクリューが緑川尊の鳩尾に決まり、意味不明な声を発し、口から虹を吐きつつ、緑川尊はキリモミ状にぶっ飛ばされた。


「いけない、午後の授業が始まっちゃうの」

「緑川さん。時間の無駄」

「隙あれば、暇あれば、エロいことしか考えられないのか・・・。ヤレヤレだぜ全くな」

人ごみをかき分け3人がスッタスタ去っていく。


しかし・・・緑川尊の両目が燃えている!何事もなかったかのようにスックと立ち「ふふ、ふふふふ、もう遅いんすよ!すべてがね!・・・俺、あなた方3人とも美人コンテストにエントリーしてしまいましたっす。・・・あのすんません・・・」

そしてそのまま緑川尊はやり遂げた感をかもし出しながらゆっくりと倒れていった。



―――たった4日後の金曜日、“第一回学園対抗!美人コンテスト!”の当日。

―――第3高校大体育館、大控室―――。


かなりの人数の女性が着替えたり、鏡の前で服装チェックをしている。


黄色いロッカーの緑の長椅子の前で赤いワンピースを着た秋元未来がショートの金髪を振り乱して呻いている。左胸の白いバッジはNo.1と書いてある。

「こんなはずじゃなかったのですの。こんなにすぐ開催なんて聞いてないの。だからいやだっていったの、私は、みんなみたいにスタイルよくないもの。もうとにかく緊張するのなの」

「参加者43人。これほど大盛況。各高校の校内新聞にも、電子新聞アプリにも写真付きで告知。告知後、たった4日で六学園内にそれぞれファンクラブまで結成。逃れるすべは無し」

三守沙羅は右手を顔の前に構え、人差し指と中指を立てて精神統一しながら答えている。左胸にはNo.2の文字が見える。

「そんなカッコイイこと言って沙羅ちゃん、めっちゃくちゃ気合入ってるじゃないの。袴姿で艶やかに出るつもりなの?葵ちゃんも出ないって言ってたのになの・・・ダメージジーンズが良く似合ってるのなの・・・」


戦闘モードの如月葵は右拳を構えて瞳は燃えている。

「決闘だ。これも決闘!敵前逃亡は負けとおなじ!敵はただ一人!未来を吊り上げやがった西園寺桔梗をぶったおす!・・・いい機会だ!」桔梗と葵は一度会っただけだが壊滅的に相性が悪いようだ。

気合一閃の葵は右手の握りこぶしを左手にビシバシぶつけ臨戦態勢だ。胸には同じくNo.3のバッジが付いている。

「わたしこれはいつものランク戦とかと違うと思うのなの・・・。葵ちゃん、緑川君にだまされていると思うの」うん間違いない。


黒のパンツスーツ姿のスタイルのいい金髪ロングの女性が如月葵たち3人に近づいてくる。

「よ!“ドラゴンディセンダント”のぉ3人さん。元気そ~だな。しっかし、うちらの高校はお祭り騒ぎ好きなわけ。全く」といつつ機嫌はすこぶる良さそうだ。


「あ、大津留せんぱい、よろしくですの」

「大津留先輩、ごきげんよう」

「・・・よっ!ジェニちゃん!」

如月葵は軽く左手を挙げて挨拶した。その手を大津留ジェニファーが掴む。


「如月葵1回生、せめてジェニファー先輩と呼べと何度言ったら。まあいいわ・・・で、ちょっと聞こえたんだけど西園寺桔梗はでないってさ。学園外に数日用事で出払ってるよ。まあ用事が無くっても出ないだろうけどさ」

眉間に皺を寄せ、如月葵はハアっと口を空いた後で、我に返り収まりのつかない怒りの鉄拳を握りしめる。

「敵前逃亡か!西園寺桔梗ぉ―――!」葵は緑川に西園寺桔梗と戦うチャンスっすよ・・・とか言われて出る気になったのだ。


・・・そして西園寺桔梗を呼び捨てにするものは学園内には少ない、まわりから白い目で見られ指を刺されている。


大津留ジェニファーは続ける。

「つかさ、第1高校と第2高校は参加者ゼロだってよ。お高く留まってるから、やつら。ま、女帝の西園寺の桔梗さまが学園内にいらっしゃったら美人コンテストなんて開催できたかもわからないけどさ。んで、今回の出場者はほとんどが我らが第3高校と第4高校ばっからしいというわけ」


「まあかくいう自分もDD-starsのメンバーにいつの間にか応募されてしまってね。仕方な~くでるわけ。・・・ん?どうかしたか?秋元未来1回生?」

おどけてみせるジェニファーに対してどうも秋元未来は顔面を紅くして目のやり場に困っている。

「あの大津留せんぱい、まさか。その過激な格好で出場するつもりなの?ですの?なの。」

「そんなに過激か?バトルスーツと変わらないさ。こんなもの」

そういう大津留ジェニファーの服装は黒のパンツスーツだが上着の下にシャツは着ておらずオレンジのビキニが見え隠れしている。バッジはNo.15である。


―――バン!!


美人コンテスト大控室のドアが勢いよく開くや否や、ピエロのような恰好のものが転がり込んでくる。


シュタッっと斜めに立っている。緑川尊である。

「みなさ――ん!会場はもう~お客さんでいっぱいですヨ!すごい熱気です!!準備できていますか―――!!みなさ―――ん?イェー!!」

緑川尊は金色のハットをかぶり、顔に色とりどりの星マークを散りばめて、身体はピエロのような恰好をしている、音声の入っていないマイクを右手に持ち女性陣のまえに突き出している、すでに出来上がってしまっているようだ。数人の女性がイェーと返している、

「それではー、説明させていただきま・・フェフゥブシ!」


ギリギリ―!


一瞬で如月葵が右手一本で緑川の首を絞め上げ片手で吊り上げている。

「おめえいい度胸だな。まだ着替え途中のレディーがいるのが見えないのか?」

「グゲ、く。・・くるし・」


「ちょっとやめて下さる!」

肩から上の肌が全部出ている白いリボンだらけのピンクのドレスを着て、髪もピンクでツインテールの城嶋由良であった。周りに第4高校の仲間を引き連れてツカツカやってきた。


「申し訳ないですけど如月さん、運営サンの説明が聞こえないでしょ。説明が聞けなくて負けたらどうしてくださるの。あと今日は正々堂々と敵同士ですからね」

「えっと?ああ。あん時?のな」


「あなたね―――・・・・・わたくしは第4高校、副生徒会長の城嶋由良です。合宿場でさんざんあいさつしたでしょう。覚えていますでしょう??」

「冗談だよ由良、共闘するんだろ。おぼえてるぜ。・・・いやだから見ろよ。まだ着替えてる女子がいるだろーが」

不満そうに如月葵が指さした先には隅っこで肌をかくしている出場者が数人いる。


「田舎者はこれだから困るわ、こういうミスコンとか撮影会とか出たことないのでしょう。カメラマンや裏方の人たちに肌を少々見られるなんて当たり前です、見られたくなければ出なければいいでしょう!運営サンを起こしなさい!」

ヒールをコツコツ鳴らして城嶋由良は如月葵に詰め寄っている。如月葵の後ろには三守とおろおろした秋元も来ており、第3高校の3人と第4高校の城嶋由良とその取り巻きあわせて5人組とがぐったりした緑川を挟んでバチバチ火花を散らせ睨み合いを始めている。


「やめなさい!みなさん!」

一斉に注目を集めバツが悪そうにしながら黄色と黒のジャージを着た女性が如月葵と城嶋由良の間に割って入った。

「私は第6高校の教師、鳥井大雅です。ケンカは止しなさい、二人とも」球技大会も参加していた6高の教師だ。お祭り騒ぎは参加すると決めているのか・・・。


「――先生だって、葵ちゃん。やめようよなの」

葵の左手を両手で秋元未来はぶんぶん引っ張っているが、如月葵の身体はビクともしない。

「あれ鳥井先生も、まさか出場なさるおつもりですか?」

嫌そうな顔でつぶやく城嶋由良は仕方なさそうに少し第3高校の葵たちから距離を置く。


もう一人褐色の肌の長身、黒い皮のライダースーツの女性がずかずかやって来る。

「城嶋さんやめなさい、この場の方たち初めての人もいますので自己紹介いたしておきますけれど。第4高校の英語教諭ミランダです。Do you understand? Miss Joshima?」

「わかりましたわ、ミランダ教官。・・・それにしても鳥井先生はこんなコンテストに良く出ている暇ありますわね?」

ウフッと、後ろを向きつつピンクドレスのリボンを揺らし、城嶋由良は意味深な笑みを鳥井先生に投げかけ身体をくねらせた。


倒れていた緑川尊がようやく目覚めた。

「―――ゲホッゲホッ!み、みなさん!すみません気が遠くなっておりました、すみませんでした。着替えている方も、もう大丈夫でしょうか」

再び意識を取り戻し、女性に囲まれていることを思い出し、気力を再燃焼させた緑川尊15歳は立ち上がる。

「みな、みなさまの美貌を見ようと会場には大変な数の群衆が押し寄せてきているのです!!それとすみません、外の方たち、はいってくださ―――い!!!」


美人コンテスト大控室に数人の女性が入ってくる。左胸にはエントリーナンバーの白いバッジが各人着いている。

「えー43名の美人コンテストご参加のみなさま、新たなライバルのご登場でございます」


城嶋由良は既に入ってきた5人に顔を傾けつつメンチを切っている。幸せそうな緑川は紹介を始める。

「会場で飛び入り参加を募ったところ、この5人の素晴らしい女性が自薦他薦を問わず来てくださいまして。参加人数は43人から48人に増加いたします。そしてもう一度説明いたします・・・」


「・・・一次審査は短くて結構ですがステージ中央で何らかのパフォーマンスをしていただきます、マイクは中央にありますので必要でしたら使ってください、他に音楽とか照明とか事前に用意してますが、さらに必要なものがあれば事前に言ってくださいっす、いえ言ってください。お一人さま、30秒ほどでお願いいたします。そこで申し訳ありませんが10人に絞らせて頂きまして、さらに最終審査へと進んでいきます。審査は会場のすべての観客と審査員の方々で行います。1から50の番号が書かれている簡易魔術印を2枚ずつ審査をする方達に渡しておりまして皆様の番号を指で強く押して頂きますと、それをラプラス魔光器が感知して数値化します。要は最も観客を魅了した美しい人の勝ちです。一審査につき一人一票、簡易魔術印を一人で何枚使用してもラプラス魔光器が公平に一票と数えてくれます。不正は不可能でございます」

今日はいつにもましてフルスロットルだ・・・緑川尊。


「最終審査は持ち時間三分ですのでごゆっくりパフォーマンスをご披露ください。・・・そして、そして申し訳ございません。わたくしの力が足りず水着審査を入れられなかったことを深く深くお詫びいたします」

そういって緑川尊は突然土下座した。しかし緑川尊の背中に優しく手を置く女性がいる。城嶋由良だ。

「・・・あなた結構見所あるじゃないのぉ、わたしエントリーナンバー9番の城嶋由良っていうの。水着審査は残念でしたわ・・・がんばりますから応援して下さる?今度お食事でもいかがかしら?あと他の審査員ってどなたなの?紹介して下さる?」他の審査員を抱き込むつもりかエゲツナイ・・・。

いつの間にか胸を押し付けながら城嶋由良は緑川尊を立たせている、緑川尊は立ち上がった時点ですでに鼻血がでており昇天しかかっていた。



―――午後7時の開始時間まであと10分。


緑川尊が去った後の美人コンテストの大控室は妙な緊張感が高まり何かの練習をひたすらしている者もいるが私語はほとんど聞こえてこない。

ドラゴンディセンダントの3人、如月葵と秋元未来、三守沙羅は大控室の壁際の緑の長椅子に腰かけ、少し離れたところに大津留ジェニファーが一人で座っている。


過度の緊張で落ち着かない様子の秋元未来が大津留先輩とモジモジしながら話しかける。

「大津留せんぱいはあの、余裕なんですの。いいですの。・・・あの?何をじっとさっきから見てるんですの?」

「いや余裕でもないけど、あれよ、あれ。見てるのは・・・エントリーナンバー48」

「ついさっき飛び入りで参加した5人のうちの一人ですの。彼女がどうかしましたの?」

観葉植物の影になって秋元未来には身体を斜めにしてもナンバー48の顔が確認できない。

「第1高校の根岸薫もナンバー45で参加して来たね。全く」

「それがどうしたのですの?」

ふうっと、大津留ジェニファーが未来の近くに座り直して小声で話す。

「いやなに、つまりさ。強敵出現だ。ナンバー45も48も。とくにナンバー48は何かヤバい。あたしは木属性だからさ、鼻が利くんだ。やばい雰囲気、制服は貴族の学園、第2高校だけど何年生かな?見かけた覚えがないわけ。つまり1年生??」


もう一人顔が近寄ってくる、正座したままの三守沙羅だ。

「先輩、No.48はうちも驚愕です。容姿端麗、驚異的に品があって引き込まれる。地味を装っていますが卓越したオーラの持ち主。うちが見とれてしまうなんて・・・」

「え、そ、そうでしたの?そういうことですのなの?私はコンテストさえ終わってさえくれれば順位なんてどうでもいいのなの」

「それにしてもお前らんとこのリーダー如月は落ち着いてるな」

ふっと三守沙羅は肩をすくめて答える。

「如月部長はさきほどからずっと熟睡。そういう感じで・・・先輩」

「ふっ、大したもんなわけ。案外、如月葵1回生優勝したりして」



―――午後7時、美人コンテスト開戦である。

ノリのいい洋楽とともにステージにスポットライトが規則的に踊る。

ゴールドのハットを被ったピエロ、緑川尊がステージ中央に現れた。

「レディ――ス!エン!ジェントルメ―――ン!みなさ――――ン!長らくおまたせいたしました。第3高校イベント部主催!第一回各学園対抗ぉおおおお!

美人コンテストぉおおおおおお!!!いってみましょ―――――――――!!!!」


――――オオオォォォ!!!


会場の熱気がうねる!観客のボルテージはうなぎ上りだ。


「総合司会はこのわたし第3高校1年C組、緑川尊―――!!イェ―――!」

会場からヤジが飛ぶ!

「おまえのことなんか知らん――!」

「ひっこめ――1年!!」


自分に酔い、緑川尊は眼を閉じている。

「審査員長は第3高校、権藤那由多先生―――!!!イェ―――!」

審査員席にで立ち上がっている権藤先生にもスポットライトがあたる。

「ひっこめ――権藤―――!!」

「早く始めろ―――!!」



「―――みなさ――ん!ご静粛に―――!!権藤先生には今回の審査員長をお願いしてありまして不正のないよう皆様方の清き一票をラプラスの魔光器で集計をいたします、そして権藤先生から1次審査、最終審査と結果を発表していただきます。なお共催は学園中央商店街のお店の方々です。皆様にお渡しした簡易魔術印の裏にすべての共催を載せております。またお店の責任者の方々には審査員をお願いしてあります。5名の審査員の方々はお一人あたり10票分の―――」


審査員席にスポットライトが当たり権藤先生と審査員の計6名は各々一礼している。


「それではみなさまエントリー番号をお間違えになりませんようにお願いいたしま―――ス!!!ナンバー1から48まで、48人の超絶、激烈、美人の祭典のはじまりで―――っす!!!!」


ウワ――――――!!!!


「なお出場者のパフォーマンス中は写真のフラッシュは禁止であります!!」


―――ステージ観客席から向かって左側の何もない空間に―――

“エントリーNo.1第3高校1-A 秋元キャサリン未来 15歳”

の文字が浮かび上がる。魔術によって作られた魔文字である。権藤先生が作っているようだ。


―――ウオオオオォ!!


「みっくちゃあ―――ん!」

数人の男の声だ。ほんの数日でファンクラブが結成されたらしい。

まるで本物のアイドルのような熱狂ぶりだ。

会場の盛り上がり、熱気は尋常ではない。


ステージ右奥から赤いワンピースの秋元未来が恐る恐る登場すると、拍手と歓声が鳴り響いた。

秋元未来は一瞬ビクッとして立ち止まったが、ステージ中央のマイクの前まで行き、恥ずかしそうにおどおどと「あ、あの、あの、秋元、秋元未来です、よ、よろしくお願いしますの。歌、歌を、歌いますの」と美人コンテストが始まった。


―――秋元未来がやっとのことで左の舞台袖にステージ下から撮られる写真を逃げるようにワンピースの裾を押え、左の袖に隠れたころ、ステージ左の空間に文字だ。

“エントリーNo.2第3高校1-B 三守沙羅 15歳”

そう文字が浮かび上がった。

袴姿の三守沙羅が自信ありげにしずしずとステージに歩み出た。マイクに一言。

「三守沙羅です、舞踊をお披露目」

と言って古い舞踊をシャンシャンと踊り始めた。


―――三守沙羅は丁寧にお辞儀をしてステージを後にした。

“エントリーNo.3第3高校1-A 如月葵 16歳”

ダメージジーンズに白いブラウス、シルバーのサンダルを履いたラフな格好で如月葵はステージに現れ、ひとっ飛びで一瞬の内にマイクの上に右足爪先で立ち観客はどよめいた。

「如月葵だ!よろしくな!・・・では早速いくぜ!空中反動5段蹴り!」

空中を左右に飛び回りキックする度、高く舞っていく、キックには炎の魔力のエフェクトが付く、美人コンテストとはおおよそ異なる世界観の持ち主に観客の多くは度肝を抜かれた。


―――持ち時間はひとり30秒であり、次々パフォーマンスが行われていく。


“エントリーNo.9第4高校3-A 城嶋由良 17歳”

恐らく第4高校の観客たちから歓声が上がる。

城嶋由良はマイクを片手にステージの至る所でセクシーポーズとトークを数分に渡って披露し、舞台の袖で待たされている大津留ジェニファーはイライラしてブチ切れていた。

「余裕で時間延長しやがって!あのクソ女!ぶっ潰す!ナンバー9の城嶋のブスにだけは絶対負けられない!」


―――その後のセクシーダンスを披露しまくったナンバー15の大津留ジェニファーを始め、30秒のパフォーマンス時間を大幅に延長するものが数名現れ1次審査が終わったのは午後8時10分だった。


“エントリーNo.48第2高校3-H 貝沼まどか 17歳”

第2高校のブレザー姿の貝沼まどかはマイクを使わず、ステージ中央へ進み丁寧に一礼だけしてステージの左の袖に消えた。

ひときわ大きな拍手を残して1次審査が終了した。


ピエロ姿の緑川尊はステージに転がりながら再登場した、

「出場者の美しい方々、大変ありがとうございました。美しい衣装、美しい顔立ち、美しい足、美しい胸!っは!失礼いたしました。とにかく、この緑川尊、大変感動いたしました」

「・・・そして皆様―――!ただいま集計結果が出ました―――!!1次審査を突破しました10名の発表にうつらせていただきま――――す!!」


「では権藤先生より発表させていただきます」


―――審査員席にスポットがあたる。


審査員長の権藤先生はあたまをぼりぼりかいている。

「えーただいまご紹介にあずかりました権藤です。えーそれでは厳しい一次審査を突破した栄えある10名を発表いたします。ナンバーを呼ばれた方はステージにでてください」



「それでは発表です。エントリーナンバー1の秋元キャサリン未来さん。・・・ナンバー2、三守沙羅さん。・・・ナンバー3、如月葵さん。・・・ナンバー9、城島由良さん。えー、ナンバー15、大津留ジェニファーさん。ナンバー17泉麻希さん。・・・えー、ナンバー29、毒島渚せ、先生。ナンバー35鳥井大雅、先生。ナンバー36、ミランダジェファーソン先生。先生がた意外と参加されています。えー続きましてナンバー45根岸薫さん、そしてエントリーナンバー48の貝沼まどかさん。以上11名で最終審査となります」

一人名前が呼ばれるたびに会場からは歓声と悲鳴が巻き起った。


「えーみなさん!ただいまの審査につきまして緑川尊の方から説明させていただきます。なんとですね10位が同数の票を集めまして!よそうがいにぃ―――!11名で最終審査を行いま―――――っす!これはすごい展開ですよぉ―――!みんな、のってますか―――!!!イェ――――――――!!!」


イェ―――――!!!!!!


会場も大盛り上がりだ、ヤジも飛んでいるが誰一人帰る者もいない。


「それではステージの選ばれしビューティーイレブンの方々――!豪華賞品を目指して頑張りましょ――――!!」


―――こうして最終審査の幕が切って落とされた。


ステージに一人残されたナンバー1の秋元未来は挙動不審にマイクに向かった。

「あ、あのあのどうしよう、私、最終審査に残るなんておもってなかったですの。あの、そ、それで、じ、実は何一つ出し物を考えていなくって、ど、どう、どうしましょう、わ、私に票をいれてくださったかた達、申し訳ないの」

両手にマイクを持ち、両ひざをついて祈るような形で半泣きで謝り始めた。

「ごめんなさいなの。役に立たなくてごめんなの」

そして半泣きでステージを後にした。

しかし会場は盛り上がり「がんばって―――!」と少なくない観客からは拍手喝采を浴びている。

「みっくちゃ―――ん!大丈夫―――!」


ナンバー2の三守沙羅の登場だ。

「雪月花の舞」

とステージ中央で一言いうと、3分間フルに神秘的な舞踊を続け、静まり返った会場からは大きな拍手が巻き起こった。


「それではエントリーナンバー3、如月葵さ・・・」

とアナウンスが入るや否や、如月葵は“火炎大車輪”なる迷惑な技で会場中を飛び回り最後に周囲を爆炎で包み空中で燃えながらガッツポーズをして盛況のうちに終わった。

余談だが観客から数名の火傷患者を出した。なぜか出場者の毒島渚先生が手当てをさせられたようだ。


次にステージ左に魔文字が浮かび上がる、

“エントリーNo.9第4高校3-A 城嶋由良 17歳”

すでにステージ中央で観客席に背中を向けてスタンバイしていたナンバー9の城嶋由良にスポットライトが当たる。


「はぁーぃ、お・ま・た・せ。エントリーNo.9の城嶋由良でぇ~す。」


後ろを向いたまま、城嶋由良は艶めかしい吐息と共に、スポットライトをすべてピンクにしてセクシーポーズを取りながらマイクパフォーマンスをする戦略で・・・最後に観客席にダイブした。


「―――あいつ、潰す!こうなったら脱ぐ!!脱ぐしかない!!!」

ステージの奥で城嶋由良を睨みながら大津留ジェニファーは金髪をかき上げ、ブチ切れながら過激発言をして暴れていた。後ろに控えていた3人の女教師全員から叱られたことは言うまでもない。


次にパフォーマンスを行ったエントリーナンバー15の大津留ジェニファーは結局、音楽に合わせたダンスの途中でスーツを脱ぎ出して上下イエローのビキニ姿になり、会場は大いに沸きに沸いた。


次にパフォーマンスを行ったエントリー17の泉麻希は拳法の型を披露していたが、城嶋由良と大津留ジェニファーの後である。ややインパクトが足りなかったようだ。


偶然にもその後3人連続での女教師がパフォーマンスを行うことになった。

エントリーナンバー29の白衣の毒島渚先生、ナンバー35の黒と黄色のジャージがトレードマークの鳥井大雅先生、ナンバー36の胸元のあいたセクシーワンピのミランダジェファーソン先生である。

毒島渚先生のパフォーマンス・・・ビール一気飲みは色んな意味で大丈夫なの?という会場の雰囲気をよそに本人は至って幸せそうだった。何故かジャージで参加している鳥井大雅先生はマイクパフォーマンス中に生徒の生活態度に関する説教を始め、新たな境地へと達していたが思いのほか大拍手に包まれて本人も驚いていた。


「それでは本日最後となります、エントリーナンバー48、貝沼まどかさん、どうぞ!」

貝沼まどかは一次審査のときと同じく第二高校の制服を着てマイクは素通りしステージの一番前まできて一礼して終わった。なぜが会場はどよめき大歓声と拍手が鳴り響いた。



―――11人の出勝者はナンバー順にステージ奥に並び、そしてそのステージ中央に緑川尊が現れた。


「み!な!さーん!!みなさんのパッションが伝わります!!出場したすべての方々ありがとうございました。このような素晴らしいものを目の前でみれるとは、みなさまの声!顔!胸!足!胸!足!身体!最高でありました!!!」

テンションだだ上がり中の絶賛・緑川尊は感動のあまり泣いている。

「し、失礼いたしました。それでは第一回各高校対抗美人コンテストの結果発表―――!!行ってみましょ――――!!!」

「それでは権藤先生よろしくおねがいいたします!!!」


―――スックと審査員席からいつもより姿勢よく権藤先生が立ち上がりステージ前方に歩いてくる。

「どうも、審査員長を務めさせていただきました権藤です。まあ一言、言わせていただけるなら今回の美人コンテストは、非常に非常に非常~にレベルが高かったということです。感動いたしました。なお、審査につきましては会場の方々からの票と審査員からの票を足しまして公平に行いました。さあ、まずは優勝・準優勝・3位の発表―――の前にそれ以外の賞について発表させていただきます」


「まず審査員特別賞は――――」


ドゥルルル――と音楽が鳴り響き、スポットライトの光が飛び交う。

「第3高校、1-A、如月葵さんです。如月さんはどうぞこちらへ―――」


―――オオオォォォ!!!


スポットライトを浴びつつ如月葵は自分を指さしながらキョロキョロしている。

「え、え、まじあたしかよ」

緑川尊に連れられてステージの前にやって来る。ちょっと照れているようだが表情は明るい。


「―――いやあ、健康的に美しく、かつパフォーマンスも派手でしたので審査員一同、満場一致で審査員特別賞を差し上げます。つきましては中央商店街のドラッグストア・ハタモト様より救急セット、10パック差し上げます。拍手―――!」救急セットは葵向けだ。


―――パチパチ!!


右手で頭をかいているが如月葵はまんざらでもなく、やや赤面して恥ずかしそうだ。


「―――はい、続きまして先ほど審査員で話し合った結果!賞を一つ追加しましたあああああ!その名も“美人な先生で賞”で――す!!!」


ドゥルルル――と先ほどと同じ音響が鳴り響く。


「―――それでは発表いたします!!ナンバー35、鳥井大雅先生―――!!!」


―――オオオォォ――!!!



スポットライトが黒と黄色のジャージの鳥井大雅先生に集まる。左右の毒島渚とミランダジェファーソン先生は拍手している。


何やら真面目そうに権藤先生は続けて話している。


「鳥井先生は美人コンテストで説教をするというあり得ない展開で観客を魅了いたしました、まっさしく教師の鑑であります。この先、説教されたい男子学生が続出するでしょう。かくいう私も―――・・・。ぁとすばらしいスタイル。・・・いえいえ。えーつまり、今一度、会場のみなさま拍手をお願いしますー。えー鳥井先生には花屋・ロダンから花束を贈らせていただきます」


ステージ奥でそんな賞どうでもいいと言わんばかりに、どうにも相性が悪い二人・・・大津留ジェニファーと城島由良が火花を散らせている。


「―――それでは3位の発表にうつらせていただきま――す」


ステージ奥に残された9人にはやや緊張が走っている。


ドゥルルル――


「―――第3位は――エントリーナンバー15ぉおお!!・・・大津留ジェニファーさん!!ですっっっっ!!!」


―――ウオオォォォ!!!


スーツ姿の大津留ジェニファーはスポットライトの中でちいさくガッツポーズした。

城島由良は腕組みしながらフンっと笑っている。


「―――夜空に輝く星たち、DD-starsを今後ともよろしくね」

インタビューの終わりに自分のチームの宣伝を入れて大津留ジェニファーはスーツの上着を脱ぎつつ会場に投げキッスをした。


「―――それでは準優勝の発表で―――っす!!!」


ドゥルルル――


「―――準優勝はエントリーナンバー1番んんんん!!!秋元キャサリン!未来!さんで――――っす!!」


―――ウオオオオォォォ!!!!!


会場中から「みっくちゃあああん」という声が聞こえてくる。


スポットライトの中、秋元未来はその場にへたり込み右手をブンブン顔の前で振っている。

「え~そんな~聞いてないの~ありえないの~」


「さっさと前行きなさいよ!」

不機嫌そうな城嶋由良は邪悪な表情で吐き捨てるように秋元未来に言葉を投げつけている。


半分パニックの秋元未来はステージの前に来ても右手をブンブン振って違う・違うのアピールだ。

「え~、ち、ちがうの~なにかの間違いなの~~ほかにふさわしい人がいるの~~なの~~」

会場からの歓声に掻き消されてほとんど声が聞き取れない。


「――――えー、それではみなさん!ご静粛に―――!準備はいいですか―――!?泣いても笑ってもぉ!!!美人コンテストの第1位ぃいいいいいいい!!!つまり優勝者の発表となりま―――ぁあああああす!!!!」


ドゥルルル――ドゥルルル――ドゥルルル――


まだ第1位は決まっていないが城嶋由良は勝ちを確信しており、すでにセクシーポーズを決めている。さっきまでより長めに音響とスポットライトが回っている。


「―――優勝は―――――!!エントリーナンバー48番んんんんん!!!貝沼まどかさんに決定ぇえええええ!!!でぇええええええええす――――!!!!」


―――ウオオオオォォォ―――!!!!!


会場は盛に、盛り上がり・・・・ボルテージは最高潮だ。


スポットライトをあびた貝沼まどかは何食わぬ顔でステージ前方に歩いていく。


「―――えー優勝しました貝沼まどかさんには5万円相当の商品券が贈られます。それでは緑川君、優勝者インタビューをお願いします」


幸せそうな緑川尊がにやけながら貝沼まどかに近づいたとき、会場のすべての照明が、スポットライトが消えた。


「あ!あれ!!!」


ザワザワ・・・。真っ暗だ・・・。


緑川尊はマイクに向かって「みなさん、落ち着いてください、停電かもしれません。今確認しています」と話すがマイクも電源が落ちている。


会場で魔術によって周囲を明るくしようとするものが数人いたが、ラプラスの魔光器の影響で会場内ではあらかじめ決められた魔法しか発動しない。しかし一部でラプラスの魔光器の抗術より強力な魔術を強引に発動したようで、その周囲で火炎の柱が巻き起っている。


―――火を消し止め、電源が復旧したときは15分ほども立ち、出場者も観客もかなり会場を後にしていた。




―――翌日・・・。

1-Aの教室で緑川尊がぶつぶつ嘆いている、

「停電さえなければ満点の会だったんすよ。惜しかったっすね~」

周りには如月葵、秋元未来、三守沙羅の3人と大津留ジェニファーが来ている。


「結局、何?優勝した貝沼まどかって偽名だったわけ??」

「・・・どうもそうなんす。ジェニファーのお姉さま。恥ずかしがり屋さんですね、あの子。第2高校に貝沼さんて生徒はいませんでした」

「で、ちゃっかり商品の5万円分の商品券は持っていかれたと?」

「はい、まあ、イベント部のイベントとしては過去最大規模になりましたから大成功なんですけどね。貝沼まどか(仮)さんには是非とも本名で名乗り出て欲しいっす」

「名乗り出たら優勝取り消しになるわけ?じゃないの?」

「優勝はもちろん彼女ですよ。ふふふっ・・・いやあのIDとかメルアド交換したいなっって」


4人から殴る蹴るの暴行を受けて最後に三守に投げられ緑川尊は教室のドア付近にぶっとんでいった。


ガラ―――。


勢いよく教室のドアが開く。その向こうには城嶋由良が立っていた、スカートの真下から緑川尊がのぞいている。


「これはこれは城嶋のお姉さまではございませんか」

緑川尊の顔は思ったよりキリっとしているが幸せそうだ。

「あら、確か運営の緑川さんでしたわね?わたくしあなたに用事があってきましたのよ」

「はい、なんすか?おねえさま」

「あの?どっちでもいいですけど、立っていただけますか?あまり下から女性を見上げるのは感心しませんわ?」


由良の真下の頭を動かし緑川尊はスッと立ち上がり歯をキラっと輝かせながら「次回もよろしくです。・・・ヒョウ柄なんですね。お姉さま」

「・・・う、ま、まあ。いいですわ。お話と言いますのは昨日のコンテストのことなのですが、貝沼まどかなる部外者が紛れ込んでいたとか言う噂をききまして。わたくし、はっきり言って審査のやり直しを希望いたします」

「ふっ、ふふっ、ヒョウ柄なんて。すっごい・・・」

ほっぺが真っ赤の緑川尊は上の空で何も聞こえていない。

「あの聞いてらっしゃいますか?運営サン?・・・もしもし?」


長い金髪をなびかせてやってきた美女にラリアットで緑川尊はぶっ飛ばされた。

「ハアイ、楽勝で美人コンテスト入賞圏外の城嶋由良さんじゃないですか?ふふっ」

「そう!いう!あなたは!露出狂の大津留ジェニファーさんですわね。・・・まああれだけ脱いで3位ではねえ。ウッフフフフ」

「ふふ、なんか言ったか?スラット女?ふふふ」

「露出狂なんてイヤねえ!ウッフフフフフ」


ゴールドの髪とピンクの髪の険悪な睨み合いが始まる。もう一人小さいほうの金髪もやってきた。

「あ、あの、ケンカは良くないと思うの」

おろおろしながら秋元未来は二人の間に割って入ったが城嶋由良に睨まれ固まる。

「そう!いう!あなたは!準優勝の秋元未来さんでしたわね。・・・顔も・・・身体もすべて覚えましたからね・・・。すべて!!ウッフフフ」

「こ、こわいの」


髪をかき上げつつ大津留ジェニファーは余計なことを城嶋に言う。

「ふっ、どうせ再審査してもあんたじゃ勝てないよ」

「はあああぁあ?大津留ジェニファーさん!聞き捨てなりませんわ!よくもこの城嶋由良に―――」

大津留ジェニファーは人差し指で城嶋由良の口をさえぎって続ける。

「それに100%部外者じゃないね。あれは」

「貝沼まどかのことですか?どうしてわかりますの?」

「あたしは木属性だからね、鼻が利くんだ、間違いなく竜の召喚士だね。貝沼まどかは。それもヤバい使い手だ。思い出すだけで背筋がぞっとする」

「ヤバい使い手なんて降魔六学園にはいっぱいいますわ。・・・ただあなたがそこまで言う相手となると、該当者おもいつきませんね。・・・え!?」由良は一瞬考えているがまあ分からないだろう。


いつの間にか復活して緑川尊はいがみ合う二人のあいだに入り、城嶋由良と大津留ジェニファーと肩を組んでいる。

「大丈夫ですよ、お姉さま方・・・ふふふ。ふふふふ。・・・今度は必ず、必ず水着審査を入れて見せます!!!」


「―――いたい、いたいです如月のあねふぉ、いひたい―――」

強烈なヘッドロックを如月葵に掛けられて緑川尊はやっと静かになった。


全員から冷ややかな目で見られている。

「面白くなってきたぜ!そんな強え奴なら一度戦いたいぜ!緑川!貝沼まどかを探し出して連れてきてくれ!」

「―――はいはひ、如月の姐さん、部長様、神様。探しましゅ。からこれ外して―――」


ため息をつきながら城嶋由良は不服そうに緑川を見ている「ふぅ、まあいいですわ。・・・ところでわたくしは何位だったんですの?緑川さん?4位ですわよね?」

はっと、何か思いついた感じの如月葵も「そうだ特別賞とかでわすれてたぜ、あたしは何位なんだ?結局?なあ緑川?」

ヘッドロックされている緑川尊の汗の量が半端ない。

「―――ぐ、ぐふ!採点結果は個人情報ですのでおおしえできましぇん。し、っしかし、しかしこれだけは言えます」


如月葵はヘッドロックを少し緩める。

「しかし・なんだ?」

「―――結構如月の姐さん・・・胸おっきいすね、頭に当たって気持ちいいっす!汗の匂いしないっす、いい匂い!キタコレ」

ほっぺを赤く染めた緑川はさらにキラキラと満面の笑みを浮かべた。


―――教室にはボロ雑巾のようになった緑川尊の姿だけが残っていた。



―――廊下をぼんやり歩きながら外をみている如月葵は不思議そうに顔を傾けつつ、誰にも聞こえないほどの小声で呟いた。

「そんな強ええなら戦ってみたい、けど・・・貝沼まどかだっけ・・・なんか後姿、似てるけどまっさかね。気配も別人だったし。・・・まあ、いっか」

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