第5話1-5.魔族襲来

―――磁石に引っ張られるように優秀な召喚士が如月葵のもとに集まってくる。本人たちに自覚はないのだろうが才能はトップクラスといえる者たちが導かれるように集められ輝きを増していく。


権藤那由多先生が第7体育館の3階の半分を部室としてぶんどってきたようだ。これは5人の小さなチームとしては破格の待遇だ。


放課後・・・初めての部活動だ。

教官の権藤先生をはじめ、如月葵、緑川尊、秋元未来、三守沙羅、御堂路三男・・・全員揃っている。

「1年の最初の内は基礎力を付けるべきです。ランク戦は最小限でもいいのです。ただし如月さんは該当しません。存分に戦ってください。秋元さんはコントロール力をつける必要があるため別メニューとなります。秋元さんのメニューはすでに考えてありますのでこの万華鏡の模様が変化しないように魔力を送ってください。1回12分、一日5セット行ってください。しばらくこれだけでいいです」そう言って権藤先生は黄色い万華鏡を秋元未来に渡した。

「はいなの」

続けて権藤先生は話している。

「さてのこりの4名は竜を召喚してください。基本的に竜を召喚したままで修行を行っていきます。ランク戦も同様です。差し当たっては少し戦闘とそれに付随することについて講義があります」

そう言って講義が始まった。


「かったりぃな」終始、葵は眠そうだ。

「権藤先生、他のチームは戦闘慣れのためにまず1日5戦のランク戦を、それも戦いに集中するために召喚獣は召喚せずにトレーニングするみたいっすけど?」

疑問があればそれをぶつける・・・学生のあるべき姿・・・真面目だな。

「完全に間違っていますので真似しないように・・・まあとりあえず今日結果が欲しいのであれば刹那的な訓練でもよいですが先を見据えましょう」しかしよく権藤先生がコーチになったな、自分で希望したんだろうが。


―――秋元未来は万華鏡でトレーニングしつつ―――如月葵は眠そうに―――他の3人は真面目に権藤那由多の講義を3時間聞いて―――途中でロミオは魔力が尽きて竜は影に戻ったが―――初日の部活動を終わった。


結構疲れた様子だ、葵以外は。

「ランク戦した方がいいような気がするんすけどね」

「あたしはよくわからないのなの」

「わしゃあようわからんわ、疲れたわ」

これでいいのか・・・よく分からないようだが・・・。


次の日も次の日も講義は続いた。

そして誰ともなく部活が終わると5人は喫茶店へ寄ることが日課になった。


お茶しに来たというよりは息抜きプラス食事をしに来ているようだ。

相変わらず緑川は喋りっぱなしだ。

「たしかに講義はすごいっすね。授業じゃやらないっす。途中まで魔術を詠唱して相手を見て術を使い分けるなんて。威力が下がっても無意味な術を使うより効率いいっすディレイ術法ってやつっすね」

「うちの反鏡も全部オートではなくて一つは最低命令待ちにする必要ありなんて論理的・・・」

「わしは疲れた・・・竜を召喚しておくだけでこんなに疲れるとは」

思ったより講義は面白いらしい。葵は講義は飽きたようでランク戦に行っては戻ってきている。


次の日―――ようやく魔術の実地訓練が開始された。各人竜を召喚したままで。

「使える魔術は一つか二つに絞って精度をあげて練習します。体術はその都度指示します。如月さんは今日もランク戦に行ってもいいですが少しここで抗術を覚えませんか?」

「ああいいぜ」耐える抗術は葵の性格上・・・向いてないが。


実は切れ者でクラスAサマナーの権藤先生はどうして教師なんてしているのだろう・・・これは謎だ・・・サマナーズハイで活躍したほうが給料だって比べられないくらい高くなるだろう・・・誰かを監視している?・・・なにか理由があるのだろうか?

「緑川君は相手との距離で風魔法の撃ち方を変えてもらいます。三守さんは反鏡群現で呼び出せる鏡を増やしコンビネーションを増やします。御堂君の術は攻撃力はありますが密着しないと意味がありません。高速で動く相手に密着するのは困難です・・・何か手を考えましょう・・・ああ。秋元さんはそのまま万華鏡を続けてください」「はいなの」

「ロミオの術ってよお。全然痛くなかったぜ?」

「御堂君の術はやや特殊です。魔装鎧や魔装武器を壊すのに適した特殊複合属性です」そうそう。それは気になっていた、珍しい能力だ。

「ええ?そんな大層なもんやったんか?わしの術って?」

「ロミオ?空破拳って誰に習ったんすか?」

「わしんちのじいちゃんや」

「そ、そうなんすか?門下生は何人いたんすか?」

「あ?わしだけやけど・・・なんや」「ま、まじすか」緑川は一人ですっころんだ。

一子相伝みたいなもんか、調べても記録がないわけだ。


「三守さんは非常にその年にしては完成された術を使いますが古風でパターンが少ないですから対処されないような現代風の工夫が必要になるでしょう」よく見てるな・・・その通りだ・・・権藤先生なら当たり前か。

「それには権藤先生、うち疑心暗鬼」でもこの子、強情そうだもんな。

「半信半疑といったところですか?三守さん」「あら」熟語好きなのだけは分かったが。


抗術の練習はそこそこに如月葵は途中で校内ランク戦へ行って5戦全勝していた。



―――部活が終わると最近はそろって葵も合流して5人で食事することも多いようだ。

5人は今日は定食屋に寄っている。似たような部活帰りの生徒でごった返している。


「知ってるっすか?最近横浜の港の方でソードフィッシュの対テロ用のA級サマナーを中心としたチームと悪魔崇拝者の集団がバトルしたらしいっすよ。結果なんとなんとっすよ。なんと」モックモク食べながら緑川は話し続ける。カツとじ定食か。

「じれってえな。緑川。A級サマナーが負けたのか?」葵は生姜焼き定食。

「そうなんす姐さん、優勢だったのは悪魔崇拝者のグループだったみたいっす。ソードフィッシュ側は負傷者多数でテログループを一人も捕まえられなかったんすよ」

「緑川君は情報通」沙羅はなんだ・・・イクラ丼セット・・・お金持ちか・・・。

「そうなんや。テロなんてよその国みたいでピンと来んけどな。・・・学食も旨いけどこの店も・・・うまいわ」ロミオはテロより唐揚げの方が気になるらしい。唐揚げ定食とラーメンか・・・。

「こわいのなの」未来は冷やしエビうどん・・・こいつら・・・。


「どうして負けたかって言うとっすね・・・」「簡単だぜ。弱ええからだ」「国家資格A級召喚士が負けるなんて強敵?」正確にはソードフィッシュの召喚士はランク〇エージェントって呼ばれるけどな。


しかししゃべりっぱなしなのに上手に食べるものだ。

「いえいえ姐さん。三守さんそうなんすよ。A級サマナーってTMPA最低3万3千っすよ。姐さんもめちゃくちゃ強いっすけど多分姐さんと同じか強いサマナーが負けたんす」ちなみに如月葵はTMPA4万越えている、緑川君は自分よりあんまり相手が強いと探知が不正確になるようだ。

「・・・ゴクゴクッ・・・そんなもん新聞にのってへんで緑川」のどを鳴らすな・・・。

「これは某情報筋からの特別な情報なんすよ」某情報筋・・・??

「ん~緑川。なんつう名前なんだ?」「テロってる連中っすか?秘密なんすけど“ゲヘナ”っていう組織なんすよ?知ってるっすか?」ん?ゲヘナが暗躍してるなんて情報を緑川尊はどこで仕入れたんだ?

情報筋って・・・家族に対テロのプロの召喚士でもいるのか?


「・・・ガヘナ?」聞き間違えるか葵・・・、しっかりしてくれ。

「ゲヘナっす!ゲ・ヘ・ナっす」

「ゲヘナなんて聞いたことないのなの」未来は食事が進んでいない。

「名前なんてどうでもいいぜ。どういう連中なんだ?緑川?」名前聞いたの葵じゃないのか。

「如月の姐さんが名前聞いたんじゃないっすか。ゲヘナは全員が魔族と感覚合一してる上に全員特殊魔装でまさしく魔族みたいに変身するらしいっす。」ほらな。


「・・・魔族なの」未来はこの5人の中で唯一竜族では無く召喚獣はしかも魔族なのである。魔族は竜族よりもさらにレアである、一般にコントロールは難しい。

「いや未来ちゃんは関係ないっす。でもまあ来年は450年ぶりに聖魔大戦の年っすから。そういう関係のテロが増えるのかもしれないっすね」まあそれは同意見ではある。


ロミオが葵を指さしてすごい変顔で驚いている。

「あああ、如月部長。わしの最後の大事に大事に取っておいた唐揚げを・・・食ってしまって。なんでや。あ、あかんやろ」あかんやろって・・・もう遅い。

「いいだろ?残してたんだろ?ロミオ」生姜焼き定食は全部食べてしまった如月葵は悪びれる気は全くないようだ。

「聞いてるっすか?おれの話し・・・もういいっす。じゃあ別の話しにするっす」とにかく緑川はいつも喋り倒している。よく喋れるな。

「おーいおっちゃん。かつ丼追加な」「まだ食べるのなの?」ロミオはまだ食うつもりだ。未来はエビうどんがまだ大量に残っている。


それならばと緑川が端末を取り出してみんなに画面を見せている。

「見えにくかったらアドレス教えるっす」「見えないのなの」緑川は未来にだけ見せたい情報画面のアドレスを送っている。


「うーっは!ではパンパカパ―!発表するっす。降魔六学園の最新人気投票っす。実は降魔六学園の生徒なら誰でも月に一回人気投票ができるっす、対象者は生徒だけ、投票できるのも生徒だけっす。これは残念ながらイベント企画部の企画じゃないっすけど。人気投票の発表をするっす。の前に、みんなこのランキング見たことある人いないっすね?いないっすね?」みんな首を横に振っている。


「では発表するっす。10位からっす。10位は第2高校のチーム“五色曼荼羅”のリーダー海老名雲鎌えびなうんれんさんっす。あんまり公式戦で活躍してないチームなんすけど人気あるんすね。9位は・・・第5高校は転校したくない男子校っすけどそこの副生徒会長でチーム“背中語り”の副部長の瀬川偉せがわすぐるさんっす、背が高くてすげえタフらしいっす。8位は第2高校の神明帝じんめみかどさんっす、公式戦では活躍してないっすね。7位は同じく第2高校の北川重人きたがわしげとさんっす、光の剣を使うそうで今年活躍する有力候補なんだそうっす。6位は第1高校の更科麗良さらしなれいらさんっす、空中戦が得意ですげえ強ええらしいっす。生徒会でも偉いら人らしいっす」「そいつなら知ってるぜ。今度会ったら・・・」目つき悪くなっている葵はどうも麗良が気に入らないようだ。

「続けていいっすか?姐さん。5位はうちの学校3年の姫川樹奈ひめかわきな先輩っす。すごい精霊のような美っつくしい白い肌で麗人で氷属性としては最強らしいっす。まだ会ったことないっす。4位は第4高校副生徒会長の城嶋由良じょうしまゆらさんっす、公式戦では名前は見つけられませんでしたっす。」「写真ものってておもしろいのなの」「わしにもアドレス送ってくれや」「つええ順番じゃねえのかよ」緑川の話し聞いてやれよな・・・こいつら好き放題喋っている。


「第3位はっす、われらが学校の風紀委員長の纐纈守人先輩っす、この人は説明いらないっすね。第2位は・・・わが校最強の不知火玲麻しらぬいれま先輩っす。みなさん知っての通り纐纈先輩と不知火玲麻先輩は一つ屋根の下で同棲してる恋人同士っす」「ほんとうなのなの?」「本当?詳細をお願いします。緑川さん」「そうなのかあの纐纈の野郎。リア充じゃねえか」「・・・っぶ!あれ」ロミオがかつ丼を食いながら鼻血を出している。


「恋人同士って言っただけっすよ?ロミオ?」「大丈夫なのなの?」そういって未来はロミオに回復魔法をかけている。「すまんなー」

「高校生同士なのに一緒に住んでいるというのは本当?」「本当なのなの?」「纐纈の野郎。またぶっ倒してやるからな」「鼻血がとまらんのや」どうも女性陣は恋人関係の話しが気になるようだ。


「こういうランキングってみんな食いつくんすね。イベント企画部でもなんかのランキングを考えるっすかね・・・うん」うんうんと頷き緑川尊は思案にくれている。



―――突然気配がした。

「如月1回生!おまえら騒がしいね。店の外までよく聞こえるよ」いつの間にか気配を消して定食屋内に金髪長身でスタイル抜群の大津留ジェニファーが出現した、そのまま同じテーブルに着く。


「おおおびっくりしたっす」緑川はどういう意味でビックリしているのかずっとジェニファーの胸をガン見している。「いてててて!」そして三守につねられる。

「おじさん。わさび丼ね」えらい和風なものを頼むんだな、大津留さん。

「大津留先輩そんなメニューあるのなの?」未来がメニューをひっくり返してみている。

「フフフ。裏メニューだよ秋元1回生」むう、できるな大津留さん。

「んだよ。ジェニちゃんは常連かよ」

「ジェニファー先輩と呼べ如月1回生」大津留は葵を指さしその動きでもう一度緑川は大津留の身体に見入っている。ジェニファーは同じテーブルについた。

「おおおお!ジェニファーのお姉さま。おおお!今日も一段とセクシーっす。その胸で抱かれたいっす。・・・いたたた!沙羅ちゃん」三守沙羅は目が三角になり「女の敵」とかいいつつ隣の緑川の足をつねっている。


ジェニファーは緑川の端末を見ている。

「ああランキングの話しか。ちょっと見せて。ああ、やっぱり根岸薫ねぎしかおるのね。1位は西園寺桔梗さいおんじききょうだろ?このランキングは第1高校新聞部の根岸薫ってのが作ってるわけ。よく見ろ。コメント欄を。1高の生徒だけ悪いコメントが全く載っていないわけ。つまり1高の生徒の得票数はあてにはならない。ちなみにあたしは14位なわけだけど。組織票もあるしうちの3高以外は微妙よ。微妙。特に4高はこんなクソ女が人気あるはずないでしょう」ああ、城嶋由良のことか・・・うーん。


―――そろそろ大津留ジェニファーも食べ終わり帰る段になった。「えー。まってまってなの。まだ全然食べ終わらないのなの」「あたしが食べてやろうか未来?」「如月部長はほんとにやるで」未来はさすがに食べるのが遅い・・・どういう育てられ方を・・・。それを食べようとする葵もどうかと思うが。

「フフフ。おまえら見ていて飽きないわけ」最近、大津留ジェニファーはわざと“ドラゴンディセンダント”絡みに来ているのだろうか。気に入ったのだろうか。


なかなかいい滑り出しだ・・・“ドラゴンディセンダント”は・・・わがままし放題で仲間と対立しまくるメンバーもいないし・・・幼くて自分を感情をコントロールできない奴もいない・・・ああ!葵はわがままだったなトンデモナク・・・しかし特段メンバーは不平不満はないようだ・・・練習の内容は能力に合わせてカリキュラムを変えているし・・・さすが権藤先生か・・・体力も魔力も各人違うのに全く同じようにまずランニングさせて筋トレさせて魔術練習して・・・校内ランク戦をやらされて・・・ついていけないものは脱落を余儀なくされる・・・大抵のチームはそうだ・・・数学教師でもある権藤先生は同じクラスの生徒に能力に合わせて全員に違う宿題を出すらしい・・・ある種の天才なのだろう・・・実際、彼の担任するクラスの数学テストの平均点は学年トップになるのだから・・・だが・・・クラスAサマナーとしての輝かしい未来を捨ててなんで教師になったのだろう・・・。




―――さて今日は日曜日だ。そろそろ新入生は疲れがたまり泥のように1日中寝る・・・はずなのだが。


「みんな揃ってるっすね、如月の姐さん私服に合うっすね、凛々しいっす。未来ちゃんはどこのお嬢様なんすかカワイクルシイっす。沙羅ちゃんは和風美人っすね、みんなが振り向くっすよ。3人とも愛してるっす」和風美人って呼ばれてるのもう一人、この学園にいたな・・・えっとカンナだったか。




―――次の日・・・。

“ドラゴンディセンダント”の5人はそろって出かけるようだ、約束があったんだったか?

「テメ―はチョーシいいな。全く」

「カワイクルシクないのなの」

「緑川君・・・お世辞は・・・」ぶれないなあ・・・緑川。


ん?一人様子がおかしい男子がいる。

「いやあなんや・・・今日は。まあおはよ」顔をかいているロミオは私服の女性陣を直視できないようだ。被ってる野球帽をさらに深くかぶり直している。

「キラキラしてんな今日は未来」そう葵は未来のペンダントや腕時計を指さした。

「そんなことないのなの」全身靴まで赤っぽい色で未来は統一しており金髪ショートが良く似合っている。

「カワイクルシイ未来ちゃんスカート短くってサイコーっす」

「・・・ヲメーはだまってろ。緑川」

「あかん・・・なんや今日はやばいで・・・」本当にヤバそうやなこいつ。

ロミオは集団から完全に逆を向いて野球帽のつばをおさえて赤面している。女性陣の私服が全く見れないのだ。


さてと気を取り直して緑川は高らかに宣言している・・・。

「ではパンパカパ―!今日はみんなでQMってとこにいくっす。QMは知ってるっすね?」

未来と沙羅は頷いているが葵は眉間に皺を寄せている

「さっぱりわかんねえな」「まじっすか姐さん」「ガチで知らねえぜ」「そんなドヤ顔で言われてもっす」まるで緑川は引率の先生のようだ、どうでもいいけど大変だな。


「QMっていうのはっす。スポーツ用品店っす。QMっつうのは元オニツカスポーツのことっすよ・・・」誰も聞いていないが・・・。

「・・・しっかし今日は晴れてよかったな」「そうなの」「昨日雨天でしたので今日は空が綺麗」まあ確かに沙羅の言う通り大気が澄んでいる・・・。

「聞いてくださいっす。姐さんに話してるんすよ」

「テメ―の話しはまだるっこしぃんだよ。だいたいよ」

前髪を気にしている葵はうざそうだ。


「そうっすか。じゃあ今日はバトルスーツの大手にバトルスーツを見に行く感じっす」

「おーけーや」

「葵ちゃん・・・ダメージジーンズ好きなのなの?でもちょっと穴が多くってやらしい感じがするのなの」「こんなもん大したことねーだろ」「やや過激・・・」「六ヶ所くらいしか開いてねえだろ」「開いてる場所がもんだいなのなの、それと六ケ所どころじゃないの」「知るかよ。そんなもん」こいつら平和やな。


緑川が葵のダメージジーンズと話し合っている。

「姐さん。たしかに内ももはセクシーっす。ああ?そうなんすか?ここはどうなってるんすか?ちょっと触ってみるっすね?いいんすね?触って欲しいんすね?」なんで触るんや?何気ない顔で緑川は本気で葵の内ももを触る気だ「テメ―ふざけんな」「いたたた沙羅ちゃん」「女の敵・・・」「おお?なんでまた鼻血が出るんや・・・」緑川は沙羅につねられて飛び上がっている。「おれは女性の味方っす―――!」


―――かなり時間をロスしたが5人はバスで降魔中央区に向かう。降魔中央区はこの結界で守られた降魔の地のだいたい中央にあたるところにあるが、六学園で生徒8000人、教員は臨時コーチなども含めると1000人を超え一つの街を作っているのだ。そのため降魔六学園の敷地内で大抵のものは揃う。消防署に病院、ショッピングセンターや映画館まで、西側には鉄道の駅まであるが・・・今日はQMというスポーツ用品専門店へ行くようだ。そういえばそんな話を昨日していた気がする。

バトルスーツは新入生には高い気がするが・・・。・・・そうか問題ない。ふつうは親が出すか。


―――バスの中でも緑川はずっとしゃべっている。

5人以外の乗客は少ない。

「校内ランク戦も始まってみんな気付いていると思うっすけど・・先輩たちはみんなバトルスーツを着てるっす。その上から魔装鎧を着て変身してるんすよ。魔装鎧の弱いところを守ったり・・ようは防御力の底上げっす・・・」「なるほどやな。それでみんな着とるんか」引率の緑川先生がんばってくれ。


女性3人は周辺のマップを端末に表示して周囲を検索して思い思い好き放題しゃべっている。男性陣は全く話に入れず見守っている。

「あと。ここのパフェがおいしいらしいのなの」

「―――付近に服の専門店はありませんね」

「MAPで見るとあるじゃねえか沙羅。服屋だろこれ?」

「服の田村山ってお店が向かいにあるのなの」

「秋元さん。こういうお店はちょっとうちは遠慮・・」服の田村山の店構えは検索ですぐ出たようだが何か気に入らないようだ。沙羅の実家はお金持ち・・・か?

「あ、葵ちゃん。このお店コーヒーとオムライスがおいしいって書いてあるのなの、歩いて7分なの」

「やっぱりショッピングセンターまで行きませんと・・・あ、このルーラーってお店いいですよ上品で繊細。ほらこれとか?これ?」

「かわいいのなの」

「ばかっ高えーよ沙羅。ワンピ4万ってなんだよ」

―――三人はワイワイ喋りっぱなしだ。


「まったく話に入れないっすね」「わしは街の人ごみはキライなんや」「そうなんすか」「そうなんや」どーでもいい。


―――中央区には程なくついて5人はバスを降りた。

「走った方がはええぜ」健康優良児か・・・。

「まあまあ姐さん」引率の先生は大変だ。


スポーツ用品専門店QMまではまだ少し歩く必要がある。

「とにかくっす校内戦をのし上がってっす。まあ新入生は上級生に負けまくって秋までに1100点くらいまで下がるのが普通らしいっすけど。何回かやったっすけど3年生と当たるのは反則っす。・・・1200点切るとCからD級に落ちるんすよ。落ちるとD級同士で戦うことが増えるらしいんで・・・その方がいいって話もあるっす。でも700点切るとE級に落ちてそうすると対戦相手が激減するらしいっす。C級やD級から対戦拒否されることになるらしいっす」「ほうか。わしはもう1400点切りそうや緑川は?」「俺はなんとか1500点キープしてるっすけど。上級生はきっついっすね。もう優性負け狙いがギリギリっす。沙羅ちゃんは?」「うちは1476点・・・まだ1年生でランク戦しているものは少数・・・上級生との戦闘は不可避」「まじか二人とも強ええな。わしも頑張らんとな」「あたしなんてまだ点数ももらえないのなの」「ああ、未来ちゃんまだランク戦の出場許可ないっすからね・・・校内ランクB級、A級なんて夢のまた夢っす。ああ?そういえば姐さんは?」

しかし日曜日に楽しくみんなでお買い物とは・・・平和だ・・・。

「・・・あたし?何が?」話をほとんど聞いていない葵は気になることがあるのかやや落ち着かない感じだ。

「俺たちが基礎訓練中に姐さん最近一人でランク戦いってるじゃないっすか?やっぱたまに負けるっすよね?」「・・いや」まあ纐纈君に勝てればそうそう負けないとか思わんかな緑川。

「・・・いやって・・・え!・・・ま、まさか纐纈先輩から数えて連勝中っすっか?」

「ああ46連勝だな」もうそんなにか。そりゃ不知火玲麻よりTMPA上だからな・・・。レマと戦って勝てるかは置いて置いて。

「えええ!ポイントはいくつっすか?」「たしか1885・・・多分そんなもんだぜ」

「・・・えええ?1800超えてB級上がってるじゃないっすか?」まあ順当な所だろう。葵はしれっとして何言ってるんだって感じを出している。


「―――ああ。水曜に上がったぜ」「な、な、なんで言わないんすか」「驚異的数字・・・」「す、すごいのなの。お、お祝いするのなの」「このお姫さまは無茶苦茶や」ロミオはようやく慣れてきたようだ普通に女子を見れている。


ん?なんか変な気配?違うか?・・・消えた?遠くてさすがによく分からないな。


そろそろ葵たちはQMが見えてくる。


「・・・ったく余計なもの作るから商売上がったりだ・・・20年前はみんなうちにな・・・」

服の田村山の前だ、丁度シャッターを開けている。向かいにQMがある。シャッターを開けているのは男性、年配で60歳位か・・・身長160㎝位の中肉中背の白髪交じりのオジサンがぶっつぶっつ文句を言っている。

「どうしたのなのなの?おじさん」なんで話しかけてるん?未来。

「ん?ああ?いらっしゃい?お嬢ちゃん」


「未来ちゃんいくっすよ」本当に引率の先生みたいだ。

「あ、はいなの」


中央区のQMは結構大きい店で2階建てだ。外装はシンプルだがいいセンスなのだろう。世界最大規模のバトルスーツの大手だ。機能性とデザインと耐久力に優れていて、そして少し安いため近年西園寺グループのバトルスーツ産業を抜いて売り上げは1位のはずだ。まあ西園寺グループはパソコンから通信機器から軍事産業や医療機器、デパート、金融、召喚戦闘関連のものまで開発から販売まで部門は信じられないほどあるが。



―――そしてすぐ戦闘になる。修羅場になるぞ。葵だけは僅かに気づきかけている。

QMの一階・・・何かいる。・・・なんだこれは・・・魔族?


なんで魔族がいる?ん?強いぞ・・・。9体?いや・・奥にまだいる。

・・・なんだこれは・・・おかしいぞ。従業員は・・・全員残念ながら・・・か。

悪魔感知警報はどうして作動しない?降魔の結界の中だぞ・・・。


罠?入れば確実に死人が出る・・・。


ブルルルルッ!


珍しく葵の端末が鳴る・・・。そして端末を見る。

「ん?ん!・・・し、師匠からだ!」こんな顔つきの葵を見るのは緑川は初めてだ。やや最初は微笑んだが目を見開いた葵は凍り付いている。


ただ事で無いのは緑川にも分かったようだ。

「え?如月の姐さんの・・・師匠っすか・・・やっぱ師匠とかいるんすね。SNS?メールっすか。なんて?なにかあったんすか?」


恐る恐る読もうとする緑川に無言で葵は自分の端末を渡す。

「読んでいいっすか?姐さん?えっと・・・“従業員はすべて殺害されている、ゴールデンタイムは過ぎており蘇生魔術はできない。隊列を組め。戦闘開始。手加減・・・無用”ぉ?・・・な、なんすかコレは!!」


すでに葵は真っ赤な鎧を魔装している。魔力の回帰波は葵が本気なのが見て取れる。


「え!え!・・・まって姐さん!まって」「葵ちゃん?」「なんや!えええ!!」


お?できるな・・・両手を構え三守沙羅はQM内をランク2魔法で探知する気だ・・・。


無表情の葵の胸部鎧は剥がれ落ちて下着が見えているがそんなことは気にしていない。

剥がれた鎧の破片が葵の前面に半透明な竜の頭部を形成する!


赤く輝いている・・・霊眼だ・・・葵の右目が光り輝く・・・。


纐纈を倒したアレだ!


「まずいっす。それはダメっす!街中でそんなもん撃ったら姐さ・・」

竜のあぎとが開き光に満ちて咆哮する!!


“極大火焔粒子咆”


緑川の叫びは当然届かず、竜の口から吐き出された熱線はQMの1階に注ぎ込まれた。


ゴォオオオオォ―――――――――!!!


一瞬で商店街はオレンジの光に包まれる・・・。


ドッゴォオオオ――――ン!!


QMの一階は爆発して吹き飛んだ!2階は崩れながらゴウゴウと燃え黒い煙が出ている。

左右の店も出火している。

未来は爆発の衝撃で転がり服の田村山のドアにぶつかっている、気絶したようだ。


表情をほとんど変えず葵は炎を睨みつけている。

ゴウゴウ燃える建物を見て尻もちをついている緑川は呆然・・・。ロミオは膝をついてガタガタ震えている。

「や、やっちゃった、やっちゃったっす・・・ああ・・あ、あねさん・・・とんでもない・・」

「おわ!おわ!おわ!」ロミオは戦力外・・・。


「みんな!戦闘準備ぃいい!!」気付いたようだ・・・魔装しながら驚いた表情の三守沙羅も叫んだ!


“反鏡群現”


5人の周囲に鏡を設置する。


―――瞬間一階の瓦礫を吹き飛ばしつつ数体の・・・4体の人型の火の玉が向かってきた。さらに数体炎の中でうごめいている。

炎は消えて中から出てきたのは体長2メートル程の異形だ・・・降魔の生徒の教科書でならう姿・・・発達した筋肉と分厚いウロコ、するどい爪と牙をもった二本足で歩く禍々しいもの・・・人類の天敵、魔族どもだ。


「・・・これは!・・・合宿の時のっすか!魔装するっす!」


“エラスティックショット”!!


高速に動く葵は右前腕の紅鱗をストレートを繰り出しながらさらに超高速で打ち出す!

弾丸と化した紅鱗は一体の魔族の身体を穴だらけにして貫く。紅鱗には黒いワイヤーが付いておりそのまま葵は右腕から出ているワイヤーを硬質化させしならせ魔族の身体を持ち上げて振り回し5人に迫ってきていた魔族2体にぶつけたぶっ飛ばした。

ワイヤーは引き戻され元の鎧の形に戻っている。

魔族はすぐ立ち上がっている。


「沙羅ちゃん、未来ちゃんを・・・ついでにそのおじさんも守ってあげて!」未来は服屋の前で気絶、ドアを開けてオジサンが口をぽかんと開けて立ちすくんでいる。

「はい!」沙羅は3枚の鏡を服屋前に移動させる。


「ロミオ!魔装っす!」

「え・・え・・・」声をかけられてもロミオはまだ動けない。仕方ないか。


「敵の想定TMPAは2万以上、強敵っす。イレギュラー悪魔と遭遇戦!ロミオ!魔装しないなら緊急コール!早く!」おしい緑川、周囲魔族の大体のTMPAは25000だ、でも緑川の動きは悪くないか、対応も。


「敵の数。6体確認」・・・違うあと生きてる魔族は9体だ・・・よく見ろ三守。


その間に葵は次々“エラスティックショット”で片付けている。あと8体、7体。

だが3体は店の中の炎の中に隠れており、この3体はさらに強い・・・1年生たちは存在に気付いていないかもしれない。


あわてて端末操作をあやまったがようやくロミオは通報したが・・・遅いな。回りまわってすぐ第1高校にも連絡が入るだろうが・・・。間に合わないだろう・・・。


・・・目を覚ましたようだ、未来は・・服屋のオジサンに助け起こされている。付近の住人は逃げたものもいるが遠巻きに何事かと見ている。


“エラスティックショット”!!


魔族の身体を右腕から射出されたエラスティックショットがショットガンのように貫く。

あと魔族は5体・・・。葵一人の方が安定するだろうが・・。三守と緑川の攻撃はほとんど通らないため役に立っていない。


・・・いや・・・段々良くなる・・・か。

そうそう悪くない形だ。三守と緑川は距離を取って葵をサポート、今はそれが一番いい。2人とも頭は悪くない。対応力もいい。


ロミオは今のうちに戦闘できない未来や住民たちを非難させる必要があるが。ぼーっと魔族との戦闘を見ている。


その間にも高速で動く葵がもう一体仕留めている。

あと4体・・・。

まずいな。三守や緑川はあと魔族は残り1体と思って少し安心しかけている、4体いるのだ・・・よくないな・・・戦闘中は伏兵に注意と習わなかったか・・・。


最速で葵が次の1体にとどめを刺した瞬間、計ったように3体の魔族がQMの崩れた2階部分から飛び出してくる!


油断していた三守と緑川は反応できていない・・・。葵は右腕の“エラスティックショット”で1体を仕留めているが新しく出現した3体の動きを見えている・・・そして。


“スプラッシュ”

“エラスティックショット”!!


虚を突いて飛び出てきた3体の魔族に葵は全身の魔装鎧から数10本のエラスティックショットを撃って迎撃した。が、攻撃を受けたにもかかわらず3体は空中で別れ葵と三守と緑川を囲むように降り立ったのだ。先ほどまでの魔族より格上だ。


1体の魔族のすぐ近くに未来とロミオとオジサンがいる・・・だからとにかく基本的にさっさと避難しないといけないのだが。


うーん・・・この3体は強い・・・TMPA換算で35000はある。なんでこんな奴らが?


しかし葵ももちろん強い。


“コンセントレーション”

“フレイムブーステッド”

“エラスティックショット”!!


強力な魔族だがダメージは通る、数回の攻防で葵なら倒せるだろう。

・・・強力でも1体ならば・・・葵ならば圧倒できる。

だが攻撃した瞬間・・・別の個体に葵はサイドからブレス攻撃されている。


魔族は2体を葵が担当。


もう1体を三守と緑川が担当することになるが・・・。倒せないなら本来は敵戦力を一時分散させるべきだが。そんな器用な真似はできそうもない。


魔族は衝撃波を周囲に出す。三守は鏡で防御。緑川はガードしたが仰け反っている。離れれば衝撃波はそこまでの攻撃力ではないが沙羅の鏡では防げず未来とおじさんとロミオはくらってしまっている・・・距離があるため死にはしないが服の田村山の店のガラスは全部割れ飛んで店は崩れた。3人にガラスの破片が降りそそぐ。未来とロミオはすぐ起きたがおじさんはガラスの破片の下動かない。

ロミオはダメージを負ってようやく「なんだよ!ちくしょう」と魔装を始めている。


少し離れて葵と2体の魔族は激闘中だ。


もう1体の魔族はほぼ自由に動けてしまっている。緑川は尻尾で薙ぎ払われ瓦礫に突っ込んだ。そして魔族は三守と緑川を無視して未来たちに迫る。


けっこう高速で動く三守が未来たちの前に滑り込みながら唱える。


“反鏡群現”

“汝我が敵の・・・”


権藤先生に古風と言われた三守のランク4魔法は詠唱が間に合わない・・・。

巨大な魔族の片腕の攻撃の1撃ですべての鏡は割られて。2撃目・・・魔族は三守に即死級の攻撃力の剛腕を振り下ろした・・・!


“護身体現”!


そんな術じゃ三守沙羅、本当に即死するぞ。緑川が魔族の後ろからダッシュしているが間に合わない。


ドス!ドス!ドス!


・・・間に合ったか!

3枚の光輪による遠隔攻撃だ・・・。三守沙羅は生きている、魔族は上空から攻撃を受けて怯んだのだ。魔族は突き刺さっている光輪を振り払う・・・光輪は消滅せずその場に停滞する・・・消滅しないのは大した能力だ。


相当なスピードで魔装している戦士が上空から飛来する。


超速で飛来したのは更科麗良だ。空中で静止する。そのまま自分の周囲の光輪全部で13枚が魔族に襲い掛かる!魔族は抗術でガードしているが押し飛ばされる。

舞い降りた麗良は周囲を見渡し「あちゃあ。これは・・」とつぶやいている。


「おおおお!!」葵の声だ。


“エラスティックショット”

“パニッシュ”!!!


雄叫びを上げながら葵は魔族の口の中にエラスティックショットを打ち込んで頭部を消滅させて1体倒している。魔族は残りあと2体だ。


空中浮遊しながら更科麗良はどこかと連絡している。

「―――魔族発見、交戦中。繰り返します。魔族発見、交戦中、応援要請。付近住民に負傷者複数確認。救急車も数台手配お願いします。モデレートグレード2体と交戦中、位置はそちらで確認してください。さらにロウグレード9体の戦闘不能、モデレートグレード1体の戦闘不能を確認」


現状を確認しつつ冷静に更科麗良は緑川に向かって喋りかけている。

「魔族はあたしと如月葵姫様で対処します。手出し不要です。歩けるものは全員安全を最優先に退去しなさい、総生徒会執行部命令です。いいですね繰り返しません」


グォオオオオオォ!!!


中級魔族2体は合流して並んで吠えている、体制を立て直すつもりだ。

いつの間にか更科麗良と葵も並んでいる。麗良は少し浮いているが。

「更科だったな。なんだよいいとこだったのに」

「仲間が危ないのにいいとこも何もないでしょ!お姫さま」

「あたしを姫って呼ぶな」

「はいはい、さっさと倒すわよ。被害が拡大する前に」2対2か・・・。



・・・2体の魔族は濃い瘴気を垂れ流し強力な魔法攻撃をする気だ!

指向性の高い強力な衝撃波のようだ!!


グゥゥゥオオオオオオオ!!


タイミングを合わせ同時に撃つつもりだ威力は跳ね上がる!


「まずいわね。あたしたちはともかく逃げてる連中まで届くわねこれは・・・結界を張るから二重詠唱合わせられる?」

「あたしはそういうタイプの魔法は一切覚えてない」まあそうだな。

「まじ!仕方ないわね・・・」そう言って仕方なく麗良は結界を一人で張る。強力な光属性の結界だが衝撃波は何割かは素通りしてしまう。・・・結界は苦手なのだ、というか攻撃寄りの召喚戦士が覚醒結界を張れるなんてことはすごいスキルなわけだが。


“光角覚醒結界”!!


そして葵は麗良が結界を張る前に特攻した!


“加速一現”

“ダブルチャージ”


「くらうわよ如月葵ぃ!」


ジャージャッジャ――――!!!!


付近の建造物を潰しながら衝撃波が膨れ上がる!!


“コンセントレーション”

“エラスティックショット”!!!


「何?あの速さは?」更科が驚くのも無理はない、衝撃波より葵は早かったのだ。魔族の真上から1撃だ!!

衝撃波が光角結界に届く前に葵は1体にとどめを刺している。


葵が1体倒して光角結界で防がれ、致死的な衝撃波は攻撃力を緩めつつも逃げている人々に襲いかかる。

周辺の状況確認を怠らない三守沙羅はすでに5枚の鏡を扇状に配置して簡易結界を張り防ぐつもりだが・・・。しかしロミオはどうにもな・・・。


ん?なぜか未来が攻撃範囲内に飛び出している・・・?

「おじさんがまだなの!」服屋のオジサンのことか?


「未来ちゃん出ちゃダメっす!!」とっさに緑川は両手でガードしつつ未来を追いかけるが離れすぎている。


建造物をなぎ倒し破壊しながら衝撃波が凄まじいスピードで未来たちに襲い掛かる!


ガシャガシャガシャー!!!ドォーオン!!


さらに防御抗術を追加していた三守の簡易結界は5枚の鏡とも割れて砕けたが住民は無事。よくとっさにできたな。


そして飛び出した未来は・・・粉塵の中無事・・・ではあるが。

それを庇ったロミオは無事じゃない。背中側が特にだが・・・魔装鎧がほとんど剥げてしまっている。


「ロミオくん、ロミオくん。大丈夫なの?」ロミオを揺り動かすが動かない。慌てて緑川も来てロミオの脈を取っている。

「脈はまだあるっす、三守さんもう一度結界張れるっすか?念のため」


「はい可能です。未来さん、御堂君の回復を早く」「え。あ。そ、そうなの」未来の回復能力では危ないかもしれない。


―――ギェエエエ!!!


断末魔だ・・・。

残り1体の魔族は葵のエラスティックショットで縫い付けられ、麗良の光輪乱舞で切り刻まれ倒された。


「ロミオがどうした?未来?」高速移動で葵と麗良が倒れているロミオに駆け寄る。「あたしのせいなの。あたしのせいで」未来は泣きながら回復している。

「瘴気中毒症ね。瘴気の塊をくらってるからね。この子」手をかざして麗良はロミオのダメージを調べている。


“広域化”

“浄化体現”


迅速に麗良はロミオの瘴気ダメージを減らしているわけだ。ついでに周囲の人たちのもだ。うーん優秀だ・・・。


「危ない状態は脱したわね。これ以上の治療術は中央病院で行います」

「ありがとうなの。ありがとうなの。・・・あ」

「更科、礼をいっとくぜ」

「お礼ねえ・・・というかよく生きてたわね。あんたたち」


住人を誘導していた緑川ももどってくる・・・回復魔法ができないから他にできることを探して重症の仲間を後回しにする・・・か、なかなかできないぞ。

「イレギュラーの魔族と遭遇戦なんて・・・冗談じゃないっす。荷が重いっす」吐き出すように言うが・・・「残念ながらイレギュラーじゃないわ。あ!」麗良の言うとおりだイレギュラーじゃない。そもそも降魔の地でイレギュラーは起きないのだ。

「イレギュラーじゃないんすか?」そう言いつつ緑川も麗良も葵も三守も新しい訪問者が来たことに気付いた。

顔に緊張が少し走り更科麗良は直立となりペコリと頭を下げている。


「桔梗様・・・」


2人とも高身長の西園寺桔梗と高成弟の登場だ。ついでに救急車もようやく来ている。

非常に表情が険しい西園寺桔梗は注意深く周囲を見渡している。

「全員動くな!!全員だ!」

そして威圧的な言葉を吐く。


・・・全員の視界から桔梗は消えた・・・高速移動したのだ。


葵に戦慄が走る、魔力が静かすぎて見えなかったのだ。動きが全く感知できなかったわけだ。



「貴様。何をしている?」

「え?お、おじさんの回復なの」未来は服屋の多分店長だか店の主人を助け起こし回復しようとしているようだ。

「動くなと言ったであろう」優しく話しているが強烈な迫力がある。そもそも目が笑っていない。

「あの・・怪我しているのなの」


―――うっ!


西園寺桔梗は秋元未来の首を右手で持ちそのまま片手で吊り上げた。


「動くなといったではず。なにか証拠でも隠しているのか?」

いやあ手厳しいな。

首を吊られている未来はもがき両手で桔梗の右手を振りほどこうとするができない。

―――うっうっ!


“エラスティックショット”!!

キィ―――ン!!


桔梗の右手を狙い、葵から放たれたエラスティックショットは高成弟の刀ですべて弾き落された!


「未来に何しやがんだ!てめえ!!何もんだ?」そりゃキレるわな。

そして葵と西園寺桔梗の視線は衝突し合う。

「何者かの手引きによるものだ」

「はあ?」

「魔族は何者かの手引きでここに出現したのだ。この娘は怪しい。この倒れている初老の男性もな。あとでじっくり尋問してやろう。連行しろ高成」「はっ!」が高成は躊躇した、目の前の葵からただならぬ殺気が漏れているせいだ。


「ふざけんな!魔族なんて知るか!その手を離せ!」物騒な右手を葵は桔梗に向けている。エラスティックショットの構えだ・・・しかしそれで僅かながらも桔梗が怯むことはなかった。

「・・・何者だ貴様?」知ってるでしょう桔梗さん?

「あたしは如月葵ってんだ。そいつは秋元未来、あたしのツレだ。それになんだ?その気絶してるおっさんの何が怪しいってんだ?」

「その男性。先ほどの攻撃で生きているのはおかしいな、・・・そうか如月神明睦月葵竜王女様の御学友か。この娘は」右手一本で未来を吊り上げつつ未来を観察している。


―――うっうっ!

もがくのも苦しいようで未来は気絶しそうだ。


戦闘モードの葵は先ほどの戦闘中よりもさらにやばい魔力を集中していく。魔力が視認できるほどに。


「お姫様に免じて今回は見逃してやろう」そういって桔梗は未来を葵に投げてよこした。慌てて葵は未来を受け止める「何しやがんだ!」


「この者たちがクロの可能性は?麗良?」「首謀者という意味でしたらゼロではありませんが低いかと」「ふむ」桔梗は畳みかけるように葵に話す。

「いいですか。葵姫様。あらゆる可能性を潰さねばならない・・・すべて。一片の曇りもなく物事は推し進めねばいずれ小さなミスから決壊し崩壊するのは必定。・・・高成。連行は取りやめ。壊れた施設はすぐ復興させるように」「はっ!」


去ろうとする桔梗の背中に刺さるような気配をぶつけている葵はコワイ顔だ。

「あたしを姫と呼ぶな。おまえの名前まだ聞いてないぜ」そうか初顔合わせか。

「西園寺桔梗・・・」

今日、葵が最もヤバい顔つきになったことに気付いたのは緑川尊だけだろう。



―――御堂路三男は中央病院のICUに入院した。肉体の怪我は治り瘴気の除去が主な目的だとのことだ。2、3日は薬で眠らせて治療するとのことで、だが頭痛だけはしばらく続くだろうという救命級センターの先生の話しだった。念のため他のメンバーも全員診てもらって問題なかった。葵がロミオに面会をしたいと待合でごねたが、権藤先生も後から来て、もう時間も遅いのでと葵たちは帰された。


4人は中央病院から歩いて寮まで帰ることになった。とぼとぼ歩いていくが足取りはやや重い。

「今日はいろいろあったっすね。すげえ疲れたっす・・・」

「緑川さん激しく同意・・・」

「あたしのせいで・・・なの」

「そりゃ違うっすよ未来ちゃん」

「・・・」何を考えているのか葵は喋らない・・・。


気を取り直そうと緑川は声のトーンを明るくして話す・・・。重苦しい雰囲気で歩くのは性に合わないのだろう。

「まあでも全員生きているんすからすごいっす。ロミオだけ入院だけど2週間くらいって話しだったっすから。あの服の田村山のおじさん、多分田村山さんって名前でしょうけども命に別状なしだそうで。瓦礫が上手くガードしてくれたみたいっすラッキーっすね」

「まさしく九死に一生・・・如月さんがいなかったらうちら戦いになりませんでした・・・」

「そうっすね。あ!忘れてたっす。姐さんのお師匠さんからのメールが無かったら戦うこともできずに倒されたいたはずっす。とんでもない危機察知能力っす。お礼を言っておいてくださいっす」

「ああ。師匠にな。もちろん言っとくぜ」やや葵の顔つきは柔らかくなったようだ。

「すごい能力なのなの」「超越した・・・卓越した能力・・・」寮までは歩いてまだまだある。


今回の最大の謎は・・・あの魔族たちだ・・・。符に落ちない点だらけ。降魔の結界に魔族を入れようと思えば難しいが方法はあるだろう・・・問題はそこじゃない。下級魔族たちが人間だらけの街中に入れられたら暴れ続けるだろう。魔族たちは気配を消して潜んでいたのだ・・・何者かの命令で。


「しっかし。魔族よりも西園寺桔梗さんの方が怖かったっす。美しいけどめちゃくちゃ怖くて口を挟めなかったっす」「怖いなんてもんじゃなかったのなの」あれは怖いわな。

「如月の姐さんはなんか西園寺桔梗さんと、なんかあるんすか」気になっていたのだろう・・・さらっと核心をつく。

「直接はねえよ・・・直接はな」そういう葵はやや思いつめたような顔をしてすぐ元に戻った。だいぶ機嫌はもどったようだ。


「なんか食いに行こうぜ」などと言って葵が誘うのは珍しい。

「いいっすね姐さん」

「オムライスがいいのなの」

「一路平安」「・・・どういう意味っすか?沙羅ちゃん」

結局少し戻ってオムライスが美味しい洋食屋に行ったようだ。




―――次の日の放課後、相変わらず葵の机の前に三守沙羅と緑川尊と秋元未来がやってきている。権藤先生から三守に言伝があり今日は病院に行くので校内ランク戦をするようにとのことだった。


病院にお見舞いに行くか・・・ランク戦に行くか。とにかく未来はお見舞いに行くと言ってきかなかったのだ。


ん?


派手なバトルスーツの女生徒が緑川と三守の間に入ってくる。葵の机の前だ。

「な、なんすか?」

水着のような格好に両手と腰には羽衣が付いている。髪は長めで青く顔立ちはきりっとしている。緑川は大きく開いた胸元から腹部を穴が開くほど見ている。ほどなく三守沙羅に思いっきりつねられる「いたたた、なにも。まだ何もしてないっす」「その目は女の敵・・・」「怖いっす沙羅ちゃん」


問答無用で会話が開始されている。

「魔族に襲われたそうでありますね?如月葵さま、如月葵さまは竜王家の血縁にあたり世が世なら王女様であります」

「ああ?」

「それはつまり、ただそんな話にはなっていないわけであります」ん?

「はあ?」

「どういうことで魔族に襲われたのでありますか?あり得ない話なのであります」はあ?

「またおかしなの来ちゃってるぜ」さすがの葵も少し困っている。

「魔族に襲われるには理由がいります。それはずばりなんでありましょうか?」なんだ?

「あたしが知るわけねえだろ・・・おめえ誰だよ」

「1-Eに身を寄せております。帝斉学園の女神枠なのであります。江上明日萌。つまりアスモちゃんと自分では呼んでいるのであります」能力は・・・読めない・・・抗術か?

「自分で呼んでんのかよ!」

「握手してよろしいでありますか?如月葵さま」葵のファンなのか?このアスモって子・・・能力がやっぱり読めない。読ませないだけの抗術ができるのならかなり高度な術者だ。

「ああ?別にいいぜ」

とにかくなぜか江上明日萌と葵は握手した。

「・・・やっぱり。違うでありました。良かったであります」意味不明だがよかったよかったと納得している。なにか分からないが会話は終了したような雰囲気をかもし出している。

「そうか。じゃあな。」葵は軽く手を振ってバイバイしている。

「では“ドラゴンディセンダント”に女神枠で入部希望するであります」

「はあ?」「えええなの」「意外な展開」「まじっすか」・・・まじか。


すっと権藤那由多先生が1-Aに入ってくる。

2人の生徒を連れているようだ。


「あれ権藤先生、病院に行くって三守さんから聞いたんすけど」

「行ってきましたよ。くすりでぐっすり眠っているので親御さんに挨拶して予想より早く帰ってきましたが」

「ロミオは元気そうか?」

「ええ元気そうでした。もうすぐ一般病棟に移るでしょう」

「それはよかったのなの」未来は胸をなでおろしてほっとしている。


権藤先生と緑川は同時に話し出す。

「そういえばお話があるんす。権藤先生」

「ところで如月部長、みんなにもお願いがあるのですが」

どうぞどうぞと緑川と権藤先生は譲り合っている。


「なんだよ権藤せんせ?」

「そうかでは。この二人、二人とも2年生でこっちの男子がハオ・ランさんで、女子がズー・ハンさんというんだが団体戦中堅のダブルス要員で“ドラゴンディセンダント”に加入できないかな。彼らのチーム解散しちゃってね。コンビネーションはなかなかのものです」

みんな顔を見合わせている、なぜかアスモも入っている。

「アスモちゃんは賛成であります」「えええなの」なんでお前がという雰囲気をアスモは完全に無視している。

「えっと緑川くん?この子は?」いぶかしげに権藤先生は江上明日萌を見ている。

「入部希望の1-Eの江上明日萌さんっす。それを相談したくってですね」


「・・・では如月部長に決めてもらいますか?」


「別にいいぜ」即答かよ・・・。

「おおお。いいんすね、じゃあそうするっす」お前もそれでいいのか。

「いいであります」お前が言うのはおかしい・・・。


「アスモちゃんです。皆様よろしくであります永遠とわの平和を目指しましょう」

「ハオ・ランです。葵姫よろしく」

「侯子涵です。ズー・ハンとよんでください。こちらはハオ・ランです。彼はぶっきらぼうですのでなるべくよろしくです」確かこの二人、協調性が無くてよく問題起こすんじゃなかったか。



―――そして“ドラゴンディセンダント”はあっという間に8人になった、これで団体戦もエントリー可能だ。江上明日萌はどうも光竜の召喚士とのことだが能力が見えないから分からないが・・・本当なら強力だ。光竜は雷竜の変異種でかなり珍しい。さらに加入してきた趙浩然と侯子涵も二人とも竜の召喚士だ。趙浩然(ハオ・ラン)は近接戦闘タイプの木竜、侯子涵(ズー・ハン)は遠距離戦闘タイプの土竜だ。記憶ではダブルスではかなり強かったはずだ。大陸からきて1年ちょっと、会話も問題なくできるレベルだ。というか江上明日萌の方がやや会話が難しい気がする。


しかし全召喚士のたった2%しかいない竜族ばかりこんなに集まって来るとは。




―――第1高校総生徒会執行部―――

シルエットは2つ、女生徒二人だけだ。

足を組んで座る西園寺桔梗とプカプカと自念で浮いている更科麗良だ。

二人とも表情は硬い。

「本当か。麗良」

「間違いないです。桔梗様。完全に一致しました」

テキパキと更科麗良がまとめた資料を桔梗に見せている

「横浜で暴れたゲヘナの戦闘兵とQMで如月葵たちと戦闘になったロウグレード魔族は同一の遺伝形質ですPCRで判定しました」

「降魔の地を襲うとは・・・ゲヘナめ。何を考えているのだ」腰かけたまま桔梗は憮然としている。

なるほどね。やっぱり純粋な魔族じゃなかったか。魔界からイレギュラーに飛び込んできたわけではなくてこっち側で誰かに培養されたということか・・・。そんなことできる施設は限られるだろうが。まさか大量生産するなんてことは・・・さらに操るのは非常に困難だが。

「それから例の行方不明者の件ですが・・・ほぼ特定できました。こちらの方が問題かと思います。早急に手を打ちませんと・・・桔梗様」

「ああ見せてくれ。降魔六学園からこんな問題がおきるとは我々だけで対処する必要がある・・・姉上に頼るのは・・・な。・・・ところで二人きりの時は呼び捨てでかまわないのでね。麗良。もう一つ・・・優先順位は下がったが六道記念大会のことについてだが・・・」

「その件でしたら全国高校生召喚士連盟の方は手をうちまして詳しくは高成君が・・・」


行方不明者の事件のことか?・・・なにやら進展があったか?




―――今日は待ちに待った球技大会の日だ。まあ緑川にとっては。

第6回学園対抗球技大会・・・とかいうらしい。


「みなさん、集まってるっすね。今日もはりきっていくっす」

緑川尊、如月葵、三守沙羅、秋元未来、江上明日萌、趙浩然、侯子涵の“ドラゴンディセンダント”メンバー7名がユニフォームを着て集まっている。御堂路三男はまだ入院中である。代わりというわけではないがDD-starsの大津留ジェニファーも参加している。そして権藤先生もユニフォームに着替えてグランドにいる。さらにイベント企画部の先輩数名も来ていて審判の格好をしている。そう今日は学園対抗野球である。

これは第3高校イベント部が勝手にやっている・・・つまり企画としてで認可されているが本校からも、他校からも一切バックアップはないのだ。


“ドラゴンディセンダント”の葵たちは皆ベンチにいる。・・・今日は快晴だ。

「おい緑川。これはこういうものなんだな?」ユニフォーム姿の葵だがすこし不思議そうだ。

「うーん。球技って降魔六学園では人気ないんすかね。生徒が8000人もいて六つも高校があって出場チームが・・・たった4チームしかないっす。降魔六学園は運動部は召喚戦闘部しかないっすから球技は燃えると思ったんすけど」

「フフフ。まあこんなもんなわけ。なんで人気ないか試合すればわかるわけ。緑川1回生」ベンチにもたれるジェニファーはコスプレしているようにしか見えない。

「おおお。ジェニファーのお姉さま。胸がユニフォームからこぼれ落ちそうっす。そうっす!今日は俺がずっと支えてるっす」妙な手つきの緑川が大津留さんに近づいていく

「女の敵」「いたたたた。三守さん痛いっす」沙羅もなかなか厳しいな。


「ルールがさっぱり分からないのなの」ルールブックを片手に未来が呻いている。

「安心しろ。未来。あたしも分からねえ」ふふんと葵は鼻で笑っている。

「えええ、姐さん大丈夫だっていったじゃないっすか。沙羅ちゃんもっすか?」

うーん、今日はダメじゃね?

「うちはソフトボール経験者」

「アスモちゃんはわかるっすね?」

「もちろんであります。基本的にはすべて同じであります。アスモちゃんは古代バビロニアでボールを使った競技がありますことをここに高らかに・・・」

「あの!アスモちゃんも聞いて欲しいっす。もう一回野球のルール説明するっす」ダメだこりゃ・・・という雰囲気がベンチから出ている。

ハオ・ランとズー・ハンはずっと何かの動画を見ているようだ。

ん?権藤先生は外で素振りしているようだ・・・あれ?今日はやる気か・・・いつも適当なのに・・・?


・・・リーグ表を見ると4チームしかないため準決勝から始まるようだ。


第4高校と第5高校は向こうのグランドで試合を行い、第3高校の“ドラゴンディセンダント”と戦うのは第6高校のチームである。


「―――ルールは分かったっすね。そうなんす沙羅ちゃん。なぜか第1高校と第2高校からは参加を断られたんす。だから4チームなんす。1高につき1チームなんて決まりもないんすけど」

「あいつらこういうお祭りには参加しないわけ。お高く止まっているから。あと多分ルール覚えても仕方ないわけ」分かった風にジェニファーは涼しげに話している。

「大津留せんぱい。そうなのなの?」この子はどこまで本気でどこから作っているんだ?


「んで。相手はいつくるんだ?」やるなら勝つ・・・葵はそういう目だ。

「まあまあ姐さん、ここはホームグランドっすから第6高校は遠いんすよ」相手高校の選手はまだ来ていない・・・。



んん?あれ?ああ・・・来たようだ


巨体の男子と女性だ。2人ともユニフォームを着ている、相手選手なのだろう。


んん?あれ?


慌てて権藤先生が駆け寄っていく、珍しいな・・・緑川尊も着いていく。権藤先生が相手チームの女性に話しかけている・・・心なしか緊張・・・してる?

「おお。鳥井先生ではありませんか?鳥井先生も出場なさるんですか?」

「あ、権藤先生。お久しぶりで」教師同士・・・知り合いなのか。


「ああ先生なんすね。・・・美人な先生っすね。第3高校1-C緑川尊と言います、今日はよろしくお願いするっす、美しい人よ」ぶれねえな・・・。

「ええどうも。6高の国語教諭をしてる鳥井大雅です。村上君こっちこっち」鳥井大雅先生は6高の名物教師で熱血正義の人だ、タイガーと呼ばれている。呼ばれた村上君が帽子を脱ぎつつ寄ってくる。

「・・・すっげえデカいっすね、身長2m以上あるんじゃないっすか?」緑川が見上げている。

「こんにちは。はじまめしてです。6高3年生の村上謙哉ともうします。今日はお手柔らかにお願いします。身長は205㎝ですが野球は得意ではありません。下手ですけど許してくださいませ」ペコペコと身体はでかいが腰が低いにもほどがある。


どうも権藤先生と鳥井先生は少し話し込んでいる。

「―――権藤先生、なんすか?知り合いなんすか?鳥井先生と・・美人っすね」緑川がこそこそ権藤先生を小突いて話しかけている。

「・・・いやあ鳥井先生、お疲れ様です。最近体調はどうですか?」

権藤先生は話しかけるが鳥井先生にスルーされている。


「村上君。ほかの子たちはいっしょじゃないの?もうすぐ開始時刻よ?」あれ?っと鳥井先生は携帯端末の時間を見て焦っている様子だ。

「大変だわ。みんなは道に迷っているの?村上君?」

「鳥井先生。全くわかりません」


「ちょっとごめんなさいね。電話させていただきます」そう言って自分のベンチ方向に戻っていく。

「どうぞどうぞ。いやあ。ごゆっくり」にこにことタイガーの後ろ姿を見ながら権藤先生は気持ち悪いくらい笑っている。これ見よがしに緑川が説明を求める「どういう関係なんすか権藤先生、すげえ美人でジェニファー先輩の犯罪おっぱいほどじゃないっすけど巨乳っすね70のFはあるっすね」「彼女が大学生のときちょっとですね」「なんすか?どういう関係なんすか?俺も鳥井先生の胸にいろいろ教えて欲しいっす」うーん、ブレないのはいいことなのか・・・。


足早に行ったり来たりしながら鳥井先生は慌ててチームのメンバーに電話しまくっているようだ。

「あ、部長クン。みんなは今どこ?球技大会がもう始まるのよ。・・・え?え!・・・寝てたあ?・・・すぐ来て!他のメンバーは一緒じゃないの?・・・一緒じゃないのね。・・・待っていますからね第3高校のグラウンドです」


「あ、黒川さん。今日球技大会なの言ったでしょ。・・うっ!!・・うるせえ殺すぞって・・・この子は先生にそんな言い方・・・あ!・・・切っちゃった。もう」


「もしもし?もしもし?きこえる?星崎さん?・・・あの・・・ええ?・・・違うの。泣いてるの?今日球技大会でしょ・・・どういう意味ですか?奴等ってだれ?・・・どうして襲われる?・・・なにに?え?・・・ニャンブ―ちゃんってなんですか?・・・え?・・もしもし?大丈夫なの?どうしたの?」


「うーん、青木君?いまどこ?・・・今日球技大会だよね?・・・え?・・・人生で3回あるチャンスの内、その1回がやってきたので休む??・・・え?なにを言っているの?・・・ちょっと」


「あの。もしもし。オールバッカー君。あの・・・え?どこにいるの?・・・街でナンパ中?・・・今日球技大会があるって昨日・・・あ!切っちゃった」


「もしもし、部長クン。あの。ダイブツくんとモケくんの連絡先わかりますか?本名も書いてないじゃない・・・村上君も知らないって。先生も聞いてないし・・・・え?・・・携帯端末持ってないの?二人とも?・・・どうやって連絡とってるの?普段は・・・え?連絡を取るから問題が起きる?・・・間違いない?・・・何?・・・ちょっとどうして切るの?・・・・・・あああ!着信拒否したなぁ!!」




第3高校と第6高校の試合は不成立で、第3高校の不戦勝となった。

「ごめんね。ごめんね」ペコペコペコペコ・・・村上君は平謝り。

「ごめんなさいね。3高の方達。うちの子たち悪い子じゃないんですけど」

「いやあ鳥井先生。仕方ありませんよ。それより今度どこか映画・・・いえ食事・・・」

よくわからないが権藤先生は華麗にスルーされて6高の選手二人は帰っていった。


―――時を同じくして・・・4高と5高の試合中のグラウンドが騒がしい・・・。叫び声と爆発音が響く・・・。


「始まったわけ・・・」ベンチで大津留さんは肩を竦めて笑っている。

「何が起きてるのなの?大津留先輩?」不安そうに未来は尋ねるが・・・。


第4高校女子高の今回の野球チームリーダーはアライアンス“ジュウェリーズ”の代表でもある副生徒会長の城嶋由良。第5高校男子校の野球チームリーダーは応援団団長にして同じく副生徒会長の瀬川偉・・・。もともと仲の悪い両校は1回裏の攻撃でキャッチャーのリツコが突然バッターに毒ガスをバラまき・・・バッターは武装して応戦し・・・既に・・・とっくの昔に・・・全員参加して・・・大乱闘となっていた・・・。


叫び声・・・怒号・・・爆発音・・・悲鳴・・・金属と金属のぶつかり合う音・・・。


―――4高と5高の試合は11人の負傷者を出し没収試合となった。途中で権藤先生が止めなければもっと状況は悪化していただろう。


決勝戦も不戦勝となり第3高校野球チームは見事に優勝したのだった。


「いいんすか!いいんすか!これで」“ドラゴンディセンダント”は小さな優勝トロフィーをもらった。「ああ鳥井大雅先生久しぶりだったな・・・」「ええ!優勝なのなの?野球って運なのなの」「フフフ・・・だから言ったわけ」「・・・すぅ・・・すぅ」「試合成立せんのやな、球技は流行らんわけや、あかんでこれは」「古代バビロニアではこの場合でありますね・・・」「うち分かりました。すべからく全て無駄・・・」




―――二つの影が高速で移動していく。


AM4:15・・・。深夜どころか朝方だ。場所は降魔六学園の外やや南西・・・市街地があるのだ。と言っても人口は多くない。2万人ほどの街だ。降魔の地は小さめだがデパートもあるし大抵のものはそろうが休日は遊びに、ショッピングや食事に降魔六学園の生徒たちが良く訪れる場所である。・・・ついでに最近行方不明者が増えている街でもあるわけだが。


この街のやや外れを二つの物体が高速で移動していく。よく見れば二つの物体は2人でシルエットからはどちらも女性だということがわかる。


かなりの俊敏さだ。とても常人にはだせないスピードだ。


先頭の女性は遮蔽物の影を音も無く逃げて、後ろの女性はそれを追いかける。

逃げる女性は身長160㎝ほどだ。暗い色調の服をきている。後ろの女性はこれまた黒い色の魔装鎧をまとっている。後ろの女性は身長175㎝・・・魔力を押えているが西園寺桔梗だ。高速で気配も少なく逃げて逃げて逃げまくる女性を追いかけている。対して急いでいるように見えないが住居の上を飛ぶように進んでいる。


さらにその上空にも一人いる。こちらも魔装している・・・総生徒会執行部の書記長、更科麗良だ。こちらは空中から観察しているようだ。さらに後ろから距離をつめてくるものも数人いる。


まあ逃げる女性を西園寺桔梗をリーダーとするチーム“ホーリーライト”が追っていることになる。


―――町の外れまで来たところで逃げていた女性はふと立ち止まる。

そして追いついてきた西園寺桔梗と対峙する。逃げていた女性は魔装していない、私服のままである。


街灯があるが周囲はやや暗めだ。口火を切ったのは西園寺桔梗。

「鬼ごっこはおわりか。第4高校、生徒会長。蜂野菫子はちのすみれこ

「さすがですね。逃げきれると思いましたが・引き離せないとは・・・」

「久しぶりではないか。総生徒会にはもう出席する気はなさそうだな?」特に返事はせず西園寺桔梗は言いたいことを言っている。


「ふふ。何をいまさら。あんなところあなたの独壇場でしょう、なんの民主制もない。あなたの独裁体制下であなたのただスピーチを聞くだけの会議・・・ああいうのは会議とはいいません。うんざりですね・・・自由意志を尊重しないものとはコラボできません」

「ふっ。自分の足で立てないもの共に自由など不要だ・・ただ導いてやればよいのだ・・。貴様も人を導くべき竜の召喚士であろうが・・・」桔梗の語気は強めだ・・・いつも通り威圧的だ。


「この世界は新しいものを生み出しにくい、弱いものは認められにくく、変化は拒否される。世界に影響を与える発見は握りつぶされる・・・この世は新たな秩序を必要としています」

「それが来年の聖魔大戦だとでも言う気か?蜂野菫子?」

「コントロールできるはずです。西園寺桔梗」

眼を閉じた桔梗はひとつため息をつく。


「・・・貴様がコントロールできるのか。そのていたらくで。誰に騙されているのだ?」

「誰にも騙されていません。これがわたしの自由な選択です」

「それが新しい且つ自由な選択肢か。どこが新しいのだ?かつて蜂野菫子だったモノよ・・・。悪魔崇拝者にそそのかされ吸血鬼となりはて夜な夜な学外で人を襲う獣が何を言うか」


「・・・人の可能性です。乗り越えなければ先が見えない。トライしなければコントロールできるか分からない。人類の新たな選択肢の一つです。吸血衝動さえ抑えられれば」

「吸血鬼は危険度A、魔族に準じ、すべからく駆除対象である。噛まれたものも吸血鬼化して増えるからな・・・実際コントロールできておらんから、そんなにいるのであろう。吸血鬼の巣に誘い込んだつもりであろうがな・・・ふくろの鼠だ」そう周囲には人ならざる気配がある、一つや二つではない。

「否定はしません。あなたを説得するのは甚だ困難ですので。あなたはここで我々のすべきことの支障になる、それに高校生が何の権限で生命あるものを駆除すると?」

「おまえを吸血鬼化したのはゲヘナであろう?」

「答える義務はありません、相変わらずあなたとは平行線ですね」二人の間の殺気は膨れ上がる・・・吸血鬼を一匹と数えるのではなく一人と数えるなら・・・。


ズッッシャ――!!


戦闘開始と言わんばかりに蜂野菫子は右手を振り、斬撃を飛ばした。右手の爪は80㎝ほどに伸びて5本の爪は先端で癒合し剣のようになっている。もともと蜂野菫子は水属性の竜族でTMPA3万ほどだったはずだが吸血鬼化することでかなり戦闘力が上がっているようだ。本来魔族を退治するのが召喚士の仕事だが、魔族の一種に数えられる吸血鬼に堕している。


桔梗は左手甲でガードするが斬撃は一撃で地面は避き、桔梗周囲を陥没させる威力だ。


少し距離を取る菫子の目は妖しく輝き魔力とともに瘴気が出現している。


「雑魚はまかせる・・・」そう桔梗が言うや否や・・・周囲の水路や廃屋から両目が光る人型のシルエットが多数動き出す。男性も女性もゾロゾロと桔梗と菫子の周囲に現れる。・・・吸血鬼たちだ。


“光輪群現”


上空で更科麗良が詠唱すると周囲に13個の光の輪が出現しそれぞれが吸血鬼に向かって高速で回転しながら降り注いだ。光輪群現は4つ光の輪を出せれば優秀・・・そういう意味において麗良の光魔術はマスターレベルだといえよう。


キュィ―――ン!!キュィ―――ン!!


光輪は高速で回転しており空中で停滞している。

麗良の手の動きに合わせて光輪は一斉に吸血鬼たちを襲う・・・。

数体の吸血鬼は避ける間もなく身体を分断されて、切断された身体はさらに焼け焦げていく。吸血鬼は闇属性、光属性は弱点なのだ。光輪は消失せず吸血鬼たちの数メートル上を待機するようにゆっくりと動いている。


数体の吸血鬼の身体が膨れていく・・・メタモルフォーゼだ・・・人間というよりは大きな蝙蝠のような羽根をはやした大口のモンスターに姿を変えていく。皮膚の質感は真っ黒いトカゲのようになっている。

菫子が呼んだ吸血鬼の眷属はかなりの数になる。ニュースになった行方不明者の数よりずっと多い。吸血鬼の上げる金切声のような威嚇はすでにもう人間とは違う生き物のそれだ。


吸血鬼の数は予想以上に多い・・・。夜目はきくし相当な俊敏さを誇る。


羽根をはやした吸血鬼の群れが空中の更科麗良に迫る。


ズシ――ン!ズシ―ン!


遠くから振動が聞こえる。一瞬空が白く染まり焼けただれた吸血鬼がバラバラと落ちてくる。


「あちゃあ。あぶないでしょ。あんたたち」更科麗良が振動のする方に文句を言っている。



――ギャッ!

―――ギャギャギャ!

―――キィ――――!


吸血鬼の数体が上半身と下半身に切り分けられさらに頭部を縦に切り裂かれている。

長めの日本刀を持ち全身魔装している戦士が現れた。


「あら来たの?高成クン」

「高成崋山・・・推参」


第1高校副生徒会長の3年の高成弟だ。吸血鬼どもは異形に変化しており皮膚は硬い鱗のようになっているが高成弟は楽勝でスパスパ切り刻んでいく。高成弟の妖刀は相手の防御耐性を下げるのだ。


蜂野菫子が呼んでいるのだろうが吸血鬼は非常に数が多い。TMPAが3万こえるようなホーリーライトの召喚士には一体一体はそれほど脅威ではないが吸血鬼群に紛れて蜂野菫子は桔梗からやや距離をとり逃げられる可能性がでてきた。


麗良の光輪で切り裂かれた吸血鬼は活動を停止しているが、高成弟が切り捨てた吸血鬼たちは生命活動を停止していない。それどころか分裂し再生して数を増して再び襲い掛かっている。


ズシ―ン!ズシ―ン!


高成弟や桔梗が戦闘している方向に振動が向かってくる。

近づいてくるシルエットは巨大な蜘蛛のようだ。足は4本・・・その表面の性状はまるで金属の様で光沢があり非常に硬い。ホーリーライトの天野哲夫の特殊魔装状態“スチールレッグス”だ。さらに蜘蛛の頭部のには3つの砲門がありそれぞれが敵を探知してレーザーカノンを撃っている。頭部にいるのは同じくホーリーライトの安福絵美里、通称エミリーだ。3門のレーザーカノンは彼女の能力だ。岩壁魔人の天野哲夫とゴールデンアイのエミリーの合体能力で4足で歩く戦車のような戦闘能力を展開している。この“ゴールデンアイ・スチールレッグス”に吸血鬼たちは群がって攻撃するが全く無傷である。岩壁魔人の能力でAMO(攻撃魔力)15000以下の攻撃を無効としているのだ。これはとんでもない防御力の数字である。


桔梗と菫子は一対一で戦っている。

「かつて蜂野菫子だったものよ。出し物はしまいか?」

「わたしは蜂野菫子そのものです。まだまだこれからです西園寺桔梗総生徒会長さま」


“召喚”!!


瘴気を撒き散らしつつ蜂野菫子は自分の影から竜を召喚していく・・・がその姿は異様だ。刺だらけの触手がそこら中から生えている巨大で真っ黒な魔竜だ。隣の家を壊しつつ実体化していく。


「なるほどダークドラゴンか・・・」余裕があるのか桔梗はそれほど気にしていない様子だ。


もともと水竜使いのハズだが自身の身体が吸血鬼化した時点で宿主が闇堕ちしたため水竜も強制的に闇属性となったのだ。闇属性となると攻撃力は20%ほどあがり防御力は10%前後低下する・・・これだけならメリットの方が上だが・・・竜はレベルアップしにくくなるのだ。


「さあ桔梗さまも召喚しますか?・・・それとも怖くてできませんか?」


・・・これは誘いだ。召喚士は召喚獣を失うと魔力を一切失ってしまう。だが恐らく吸血鬼の本体は召喚獣を失っても少々内臓魔力を失う程度のものでそこまで戦闘力は下がらない。桔梗のヒドラは超強力だが倒す算段があるのかもしれない・・・。


―――魔竜はお任せください!―――


拡声器を使っているようなエミリーの声だ。恐らく魔術の一種なのだろう。エミリーは“ゴールデンアイ・スチールレッグス”の中にいるため通常では声は聞こえない。

瘴気を撒き散らす黒竜に“スチールレッグス”がレーザーカノンを斉射しつつ飛びかかっていく。レーザーカノンと巨体が飛びかっかった衝撃で家屋がドミノ倒しのように何棟も消し飛んでいく。

召喚獣は最後の切り札・・・基本的には一切召喚せずに戦うのが召喚戦闘の基本だ。



―――さらに吸血鬼の数が増えていく。黒竜の身体から分裂して眷属けんぞくを増やしているようだ。


光輪を操り更科麗良は空中を羽ばたき飛んでいる吸血鬼の相手をしている。

高成弟は地上の吸血鬼の数を減らしていく。

“スチールレッグス”は黒竜と超々ヘビー級のバトルを繰り広げている。

そして桔梗は吸血鬼の核であろう菫子を追い詰めていく。


戦闘地帯となっている街はずれは多くの建物がもうすでに瓦解して見る影もない。

このあたり一帯はすべて吸血鬼化されたのだろう。付近に一般人は感知できないのは幸いか。


おっと??この能力は??・・・もう来たか・・・桔梗たちを中心としてかなり広範囲にドーム状の結界が形成されていく。


そして15名ほどの召喚士・・・全員女性が桔梗に近づいて来る。


西園寺桔梗と蜂野菫子は距離をとり、お互いを警戒しつつも二人ともこの侵入者の集団を見ている。

装飾は豪華というか派手な魔装のピンクツインテールの召喚戦士が現れた。

「西園寺桔梗様。城嶋由良でございます。そして4高アライアンス“ジュウェリーズ”の選抜メンバー14名が参りました」城嶋由良は敵には目もくれず桔梗にひざまずいている。

「第4高校副生徒会長、城嶋由良・・・戦闘中にタイミングよいではないか」

「ずっと内定しておりました故、残りのメンバーで光印広域結界を張りまして範囲を狭めております。吸血鬼を一体も逃がさないようにしませんといけませんから。継続してよろしいでしょうか桔梗様」集団結界術はなかなか上手・・・だ。

「決着がつく寸前に到着とは・・・しかしまるで見ていたかのようだな?由良」

「結界を張っておりました故、遅れまして申し訳ございません。こちらにご一報いただければタイミングを合わせられましたが。・・・これは4高の身から出た錆でございますれば今晩で決着をつける必要があります」


両目を妖しく輝かせながら菫子が割って話す。

「よく言いますね。城嶋由良さん?あなただって同じでしょうに。西園寺桔梗は人を導いたりしません、チープな利己主義を押し付けるのみでしょう?あなた達には新しい時代の幕開けが聞こえませんか?」


「桔梗様・・・周辺の敵の殲滅をいたします」菫子の一切を無視して由良たち“ジュウェリーズ”は周囲に散って戦闘を開始している。


コォオオオオオ―――


桔梗の影に小さめの魔方陣が浮かぶ・・・桔梗の剣“バルムンクグレー”がその姿を現していく。巨大な剣だ。その柄をとって桔梗は無言で菫子に構える。


この世ならざるものとなった菫子でさえ圧倒されるヤバい魔力が周囲に漏れている。


「西園寺桔梗さん、吸血衝動は抑えられます。吸血鬼化は病気や怪我の人を救い新しい時代の・・・」

「吸血鬼は一片の疑いもなく全て駆逐対象である!」

2人の女性は対峙し話を交わし・・・菫子は残念そうに眼を閉じ戦闘が再開となった。


キキキキキ―――ン!


菫子の両手の爪が変化した剣と桔梗のバルムンクグレーは高速で斬撃を飛ばし合い火花を散らし合う。周囲の道路や建物は両者が激突する度に崩れ破砕していく。



空中では光輪が乱れ飛び飛翔している吸血鬼たちをどんどん減らしとりあえず最後の一体を引き裂いて吸血鬼は燃えながら落ちていく。

地上にはまだまだ吸血鬼がいるため更科麗良は光輪を引き連れつつ地面に降りてくる。


「更科書記長、雑魚をたのむ。高成崋山はこれより桔梗様の援護に向かう」

「はあ?地上戦はあんたの仕事でしょうが?」

「光属性のほうが効率が良いからな。まかせる」

「勝手なことを・・・桔梗様の戦闘に手を出したら怒られるわよ」

刀をしまいつつ高成弟は桔梗の方にダッシュしていく・・・。麗良の周りにはうじゃうじゃ吸血鬼の影があったが麗良の周囲を守っている光輪が邪魔で直接攻撃はしてこない。


「あちゃあ・・・めんどいわね」

両手を掲げ魔力をためつつ麗良は飛び上がる


“追加詠唱”

“光輪群現”

“集光”

“陽光覚醒八咫鏡”!!


クラスターマジックにアウェイクンマジックを上乗せして攻撃力を増したり属性を付与する複合術だが・・・司祭クラスの非常に高度な複合術だ。


ジュパア―――――!!


中空に麗良の両手を中心に太陽ができたかのような強力な光が周囲に降り注ぐ。


バババババン!ババッバン!


光魔法を浴びた吸血鬼たちは水風船のように破裂していく。

強烈な光は数秒そこに佇み消えていった。

「ふぅ。疲れるからヤなのよね。この術はぁ・・・」いやいや素晴らしく高度・・・。


ほぼ同時に別の場所で―――“ゴールデンアイ・スチールレッグス”の頭部から眩い光が漏れた。


“三倍激”

“熾光覚醒天翔波”!!!


ダークドラゴンは光属性の覚醒魔法を浴びて燃えつつ引き裂かれ絶叫しつつ・・・体の大半を失い・・・ブスブスと焦げながら活動を停止していった。


「うっ!」

無傷の桔梗に押されている菫子は自分の内包している魔力が減少していくのを感じている。

「召喚竜を失ったか?菫子だったものよ。新しい時代とやらはもうおしまいか?」

「ぐぅ・・・」竜を失ったことによる菫子が感じている脱力はかなりのもののようで動きに精彩がない・・・。桔梗は余力十分・・・ほぼ勝負は着いたと言ってもいい。


「ふん。他愛ない」低い声で呟いているのは高成弟だ。

「他愛ないじゃないでしょ。雑魚掃除を全部あたしに押し付けてくれちゃって」

高成弟は瓦礫にもたれ、更科麗良は折れていない街灯のうえから桔梗と菫子の戦闘を見守っている、手を出す気は全くない様子だ。


「菫子だったものよ。誰にそそのかされたのだ?竜の召喚士としての輝かしい未来を捨て吸血鬼になり下がるとは・・・何が目的だと言うのだ?」

「そ。それは明確な理由が・・・」


“エレクトリックニューロインベージョン”


数十本の糸状のものが菫子の背後から高速で近づいて頸部に突き刺さる。

糸状の物をたどっていくと鞭になり・・・その先には城嶋由良がいる・・・。由良は気配を押えて菫子の背後から攻撃したのだ。

由良は鞭の魔装武器をもち先端を糸状に変化させて菫子の頸部に刺したのだ。


「吸血鬼と言っても神経で身体が動いているようですね。では、これで動けないはずでございます桔梗様」

「じょ・・じょうしま・・ゆら・・あ・なたという・・とは・・・ぐっ!」菫子は神経を冒され会話も難しいようだ。

「差し出がましいかと思いましたが、吸血鬼の眷属はまだおります、この化物を倒せば統制は乱れ早期解決となりますでしょう。桔梗様」


「城嶋由良副生徒会長、まるで聞かれたくないことがあるようではないか・・・」戦闘に横槍を入れられたが桔梗に特に感情的な変化はない、平常心と言ったところだ。

「まさかそのようなことは・・・」


・・・桔梗のバルムンクグレーがおかしい・・・真っ赤になりさらに光り輝く。力を集中させて振り下ろすつもりか。

恐ろしい力が集中している・・・高校生か本当に!


“剛毅集中”

“範囲限定”

“一死爆炎列斬”!!!


「ちょ!それは!ききょうさ・・・」あわてて逃げようとする由良の顔が恐怖でゆがむ・・・巻き込まれれば確実に死ぬ。


バンンッッッッッッッッ!!!!!!


短いがとてつもない衝撃!!!周囲に円形の粉塵が巻き起る。

高成弟と更科麗良はとっさにガードしている。

―――菫子の周囲は半径数メートルの球体の形で消滅している―――もちろん菫子も痕跡も残さず消えている―――ただ半球型の溶岩のように焼けただれた穴をのこして――。菫子は消滅し倒された。


由良は生きているが自身の魔装武器の鞭は根元まで桔梗の攻撃の影響で消えている。攻撃範囲があと数センチ広ければ両手を失っていた・・・。これは警告というわけだ。


「はぁ・・はぁ・・・桔梗様、さ、さすがでございます。」由良はようやく重い口を開いたが恐怖は拭い去れない。


「首の皮一枚つながったな第4高校、城嶋由良生徒会長代理・・・貴様の真横に吸血鬼がいて気付けないのであれば退学にして学園追放するところだったが・・・気が変わった。今後も励むように・・・それと“神の目”花屋敷華聯は来ていないようだが?それとも近くにいるのか?」桔梗は既に剣を収め由良と自分が開けた煙が立ち上る大穴に背を向けている。高成弟は一人拍手して桔梗を迎えている。麗良は「あちゃあ、大分壊しちゃったわね」と独り言を言っている。

「はぁ・・はぁ・・あ、ありがとうございます。花屋敷華聯は別動隊でしてこちらには向かってはおりません」何とか吐き出すように由良は会話している。

“ジュウェリーズ”のメンバーたちが由良に駆け寄っていく。それを感じて由良は中腰から立ち上がる・・・恐怖で動けなかったのだ。


「き、桔梗様・・・“ジュウェリーズ”で結界をすぼめ残敵を索敵し掃討させて頂きますので第1高校の方々はお帰り下さいませ」

「・・・ならん。貴様らでは見落としがあるだろう。更科麗良と安福絵美里・・悪いが手伝ってやってくれ」

―――了解いたしました―――

「睡眠不足はお肌に悪いんですけどねぇ」

エミリーと麗良は了承したようだ。麗良はしぶしぶのようだが。

桔梗は高成弟と去っていく。

特殊魔装を解き“スチールレッグス”は消えて巨体の天野哲夫が地上に降りその左肩にひときわ小さなエミリーが飛び降りて腰かけた。


ふと桔梗は足を止め街灯の上の麗良を見上げる。

「警察には上層部に話を通しておく、壊した街の景観は西園寺グループが償おう。こんなところでよいだろうか?麗良?」

「吸血鬼が復活しないように一帯に光印抗術をかけておきますけど、専門家に一度チェックを依頼してください桔梗様。後は行方不明者の家族の対応をですね」

「承知した。手をまわしておこう」桔梗と麗良は仲がいいといえるだろう信頼関係というやつだろうか。麗良とエミリーを置いて桔梗は去った。


―――AM5:45頃―――。

吸血鬼を追い詰める結界は狭められ・・・といっても生き残りは数体のみ。“ジュウェリーズ”によって仕留められた。そして結界が消滅したため異変に気付いた警官隊がわんさか近くまで来ている。更科麗良と安福絵美里は探知を終わらせてさっさと帰って行った。


「予定通り生徒会長就任おめでとうございますぅ」丸々としたリツコがそう言うと数名が「おめでとうございます」と口々に言っている。“ジュウェリーズ”は結界を張っていた者たちも合流しかなりの人数だ。

「予定外だわ。まだ代理だし・・・声が大きいでしょう、リツコ。全くもう」由良はそう言って焼けてほとんど消滅した自分の鞭を見る・・・。少しずれていたら死んでいた・・・そんな顔だ。


「警官隊と鉢合わせる前に帰りましょうか。みなさん。お疲れさまでした・・っと。華聯さん。申し訳ありませんがもう一度吸血鬼の生き残りがいないかチェックをお願いね。“神の目”だそうでさすがですわ」誰もいない空中に向かって由良は語り掛け、そしてかなりのスピードで走り去っていく。

他の“ジュウェリーズ”たちも追随し去っていった。


六学園の関係者はだれも居なくなったころ・・・。

そして警察関係者があたりを埋め尽くしたころ・・・。

―――密やかに壊れた水路を動く影がある―――。

まさしく黒い影だ・・・。


川下へ高速で移動していく。




―――数キロも川下へ影は移動して―――とある橋の下で止まった。

―――そして数分後―――影は実体となる。


吸血鬼だ―――人間だったころの名前は第4高校3-A所属、穂村恵美だ。

穂村恵美は蜂野菫子の親友だ。木属性の妖精族でもともと気配を消すのは得意なはずだ。とはいうものの彼女もいまは闇属性だ・・普通見落とさないが・・・あるいは故意に見落とされた?


吸血鬼・穂村恵美はこのままさらに逃げるか・・・朝日がでるためこのあたりに潜むかを思案しているのだろう。逃げる方向には迷いが無い・・・となると仲間と合流する可能性が高いだろう。場所はだいたい予想がつくが仲間の戦闘能力が分からない以上・・・。


ドスゥ!!


まあ仕方ない・・・心臓に剣を刺したほうがいいだろうか。

全身真っ黒い装束のものが穂村恵美の後ろの影から上半身を出して突剣で心臓を突き刺した。

「アッ!!!」といって胸からでている剣を見てももう遅い。


“二重奏”

“光子覚醒降誕”


全身黒い装束のものは吸血鬼・穂村恵美の背中から剣を刺したまま唱えるが・・・人間に戻すのは無理そうだ。相当な数の人の血を吸いまくり完全に別の生命体に―――吸血鬼に―――なってしまっている。血を吸う前ならなんとかなるはずの術式なのだが・・・“二重奏”ではダメか、人間にはもどせない。まあ吸血鬼を人間にもどす実験は失敗だ。


おそらくコイツが―――吸血鬼・穂村恵美が吸血鬼たちの親玉なのだろう・・・。穂村恵美が何者かにそそのかされ吸血鬼となり、そして蜂野菫子を噛んだのだろう。では蜂野菫子は何をしていたのか?・・・吸血鬼の拡散を抑制していた可能性が高いが自分を噛んだ穂村恵美に対しては絶対服従に近くなることを考えると・・・。それにもともとの力の差を考えれば菫子はわざと噛まれた可能性も高いだろう。そこから紡ぎ出される仮定は・・・菫子は何を救うつもりだったのか・・・。

というか蜂野菫子はまだ人の血を吸っていない可能性が高かったが今となっては仕方ない。


「アアア!ア!」

吸血鬼・穂村恵美の身体は崩れ消滅していく。まあ一件落着といったところ。・・・損な役回り。

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