第4話1-4.新入生は合宿で愛を深め合う?
第4高校は女子高だが、まだ3限目・・・授業中にも関わらず会議室を無断使用しキャーキャー騒いでいる集団がある。アライアンス“ジュウェリーズ”というグループだ。代表は副生徒会長の城嶋由良だ。幹部が集められている。
議長はピンクツインテールの城嶋由良だ。
「ではジュウェリーズ定例会を始めますわ。みなさんいますわね?・・・はいリツコ?」
まん丸いリツコが手を上げている。
「欠席者は
「そう・・・わたしの命令ですので知っています。まあ華聯さんならここを今も能力で覗いて見ている可能性も高いですが・・・華聯さん見ていますか~?」と真上を由良は見上げ手を振った、えーいこっちを見るな。由良はそのまま話を続ける。
「まあとにかくなにやら強い1年女子が3高にいるらしいのよ。華聯さんに近くで観察してもらえば本当かすぐわかるでしょう。・・・さて、みなさんの報告をききましょうか」
―――つよい1年だって~アハハ―――
丸々としたリツコと呼ばれた女子生徒が各グループから封筒をあずかり数えている・・・。そしてそれを城嶋由良に渡している。
「1週間で7万5千円ね。まずまずね、みなさんご苦労さま。100万円こえたら、またホテルでも貸切ってお食事会をしましょうね、みなさん。それでは次に粛清対象者についてですが・・・例の痴漢容疑者はまだ見つかりませんか?」いわゆる他校生徒から巻き上げた上納金だ。
「すみません。由良さん。なにぶん情報が少なくってえですね。」
「ですから身長は150くらい当然男子・・・ハゲか坊主で・・・お地蔵さんに化ける奴よ!」かなりムカついているようだ。まあ確かに痴漢はさっさと粛清したほうがいいだろう。
「身長150㎝くらいの5高生は全員リストアップしましたぁが該当者はみつかりませぇん。身長を間違えている可能性ありませぇんかぁ?」
ヒソヒソ・・・。
1人手を上げている女子がいる。
「あの。違うかもですけど。5高じゃないんですけど隣の第6高校の男子にこういうのがいます。身長150㎝台です。写真をみんなの端末に送りますね」
アハハハハ!
その場の女子生徒にはかなりうけたようだ・・・。由良もお腹をかかえている。
「あはははは!ふっふふふ!凄い造形ね・・・コイツ」
「こいつダイブツくんて呼ばれてるらしいです。由良さんに痴漢したお地蔵さんに似ていませんか?」うん・・おしい・・・のかな。
「残念ながら似てないわ。・・・あははは、でもすごいブサイク。・・・おもしろいからコイツも粛清対象者にしましょう!リツコ!登録して」
「えええ!・・・ざ、罪状はなんでしょうかぁ?」
「ブサイクに決まっているでしょう」まじか・・・ブサイクって罪なんだ・・・。
ア――ハハハハハ!!
「危険度は星半分でいいわ。カツアゲしたら必ず写真を撮るように!でもあたしの胸をもんだ奴は5高との戦闘中だったのだから・・・5高生でしょう。もう一度該当者を探しなさい!」
「ハイ!由良さん」
別の女生徒が手を上げている。別件の様だ。
「もう一人報告しまーっす。6高の現代文の鳥井大雅せんせーでーっす」
「・・・ああ。そいつよく知っているわ・・・鳥井がなに?」
「6高の生徒を脱がして私刑中に鳥井せんせーに邪魔されましたぁ。上納金回収できませんでしたぁ」そんなことあったのか・・・まあ仕方ない。
「アイツこりないわね。4高追い出されたくらいじゃ・・・わかんないようね!ジュウェリーズの恐ろしさが!粛清対象者リストを更新してリツコ・・・粛清優先順位1位をガリバー兄弟から鳥井大雅先生に変更します。この学園から出て行ってもらいましょう」言われた通りリストを更新して仲間全員に・・・ここにいない仲間にも送信している。
「さすがです。由良さん。教師でもいけちゃうんですねー。・・・あ!それよりイケメンがいる美容院をみつけましたぁ。学外ですけどぉ」
オオオ――!!パチパチパチ!!
ジュウェリーズの連中はお菓子を食べたり化粧をしたり思い思いの行動をとっている。
「―――さてリツコ、定例会は終わりね?ではそろそろ2高のお歴々にご挨拶にいきましょう。根回しは重要よ」由良は立ち上がろうとしている。
「由良さん今日はどっちの陣営に挨拶にいくんですか?」
「両方よ。神明帝王子サマと“五色曼荼羅”の海老名雲鎌部長の両陣営にいきます。なに?リツコ?」リツコはまだヒソヒソ話があるようだ。
「ああ、いっこわすれていましたぁ。由良さん。実はですね海老名雲鎌部長からのシークレットの依頼で・・・そのまま読むと・・・処女の生贄が3人欲しいって書いてます」周囲に丸聞こえだが・・・。
きも―!
キャー!アハハ!いかれてる―――!
エ―――!
由良は全く笑っていない・・・笑えないのだ。右手背を下唇にあてて考えている。
「本当。・・・本当ならそろそろ“五色曼荼羅”とは手切れかしらね・・・とりあえず海老名には善処するとでも返事しといて・・・ギリギリを責めるのはあり・・・行き過ぎてる奴らは無い・・わ」あいついっちゃってるもんな。
「はぁい。由良さん」
「では2高へ行ってくるわ。みなさん。リツコ・・・華聯さんに私の周囲を覗いてガードするように言っておいて。華聯さんなら3高にいても視野が届くでしょう。わたくしに何かあれば・・・」
「由良さん、その時はぁジュウェリーズ全員で武装してぉじゃましまぁす。でわぁ。いってらっしゃいませぇ」その場のジュウェリーズメンバーは全員おじぎしている。
「誰でもいいわ。幹部以外で2人ついてきて。この贈り物を忘れずにね」
(私は私の城をつくる・・・いずれ桔梗。あなたを女帝の座から引きずり降ろす・・・必ず・・・そして私が・・・城嶋由良が新たな女帝に降魔の地で君臨する・・・)
由良はさっそうと会議室を後にする・・・まだ授業中なんだけどね・・・。
―――新入生の次の行事は二泊四日の林間学校だ。これは第3高校も例外ではない。これは六つの学園それぞれが時期と場所をずらして山間に泊るわけだ。
合宿の目的は降魔の地で学園に通う者同士の理解を深めおたがい切磋琢磨し―――まあようは新入生同士親睦を深めるのが表向きの目的だ。しかし降魔六学園においてはもう一つ重要な意味を持つのだ。上級生たちも少なからずやってくる。
上級生たちの目的は勧誘である。召喚戦闘部は運動部に位置づけられるが、新入生は夏までにはいずれかの召喚戦闘チームに入ることが義務づけられている。新入生が全く入らなければそのチームは5人を切った時点で補填がなければ解散となる。つまりこの時期はチームの解散や合併も相次ぐわけだ。この降魔六学園にはもちろん六つの高等学校があり全部で8000人以上の生徒―――ほとんど召喚士―――なわけだがだいたい420から430ほどのチームがある。各高校1チームではなくすべてのチームが地区の個人戦、団体戦に出場できる、団体戦に出るには8人以上のチームメンバーが必要である。メンバーが多ければチームは安定するがレギュラーになるのは難しくなる。8人ギリギリだと3年生が抜けるとどうしてもメンバー補充が必要になるのだ。
各学園ともこの4月の林間学校での新入生の勧誘はまさに命をかけてやっているわけだ。全く勧誘しないチームの方が珍しい。超人気チームは独自に入隊試験を行いふるいにかけるところもあるが比較的稀だ。万物は流転する・・・超不人気チームは消え去る運命というわけだ。
―――林間学校初日―――。
初日は午前からオリエンテーリング6時間コースとなったわけだが召喚士たちの魔術を禁じていない以上、グループによっては緩いイベントになる。如月葵たちのグループは―――グループ分けはランダムのため―――知らない生徒ばかりの集団となったがあっという間に1時間ほどで山間を抜けて走破してしまった。
最も遅かったチームは途中から教官に引率されて午後4時過ぎにゴールしたがそのなかに秋元未来の姿があった。
少し汚れたジャージ姿の未来は焦燥して疲れ果てているようだった。同じくジャージ姿の葵をみつけて一生懸命近づいてくる。フラフラだ。
「はぁはぁはぁ、葵ちゃん・・・はぁ・どうして助けに来てくれないの」
「助けてって・・・いや道に迷うとこなかっただろ?未来」
「普段は・・はぁはぁ。葵ちゃん・・・いっつも迷ってるのに・・・地図がわかりにくいのなの・・・うちのグループ魔術使える人もいなくって・・・なの」
地図が読める人もいなかったのか・・・。
その後しばらくして緑川と三守も合流して4人になった。
「遅かったっすね。未来ちゃん」
「疲労困憊ですね秋元さん、お水飲みますか?」
「ふ、二人とも・・・疲れたの・・・ありがとう沙羅ちゃん」未来はペットボトルの水を渡されて二口飲みやっと、ふぅと落ち着いたようだ。
「いやあ美少女が水を飲む横顔は絵になるっすね」そういって未来の横顔をガン見してる。ブレないなあ。
葵は夕日で赤い空を見上げているが山間のためか陽が落ちるのが早いようだ。周囲の新入生たちは少しずつ夕飯の準備を始めているようだ。
「すっかり夕方だな・・・緑川?夕飯って自分らで作るんだったっけ?」
「姐さん。なんか自分たちでカレー作るらしいっすよ。つかプログラム読んでないんすね?姐さん」まあ読みそうもない。
夕日を全身に浴びながら紺色のジャージに身を包んだガタイのいい男子生徒が手をぶんぶか振りながら近づいてくる。
「おおーい、おお。みんな揃っとるやないか」葵のチームに入ることになった御堂路三男だ。これで最低限の5人が揃ったわけだ。葵も軽く手を上げて迎えている。
「やあっす!御堂君」「ごきげんよう。うちらも今揃ったとこだから」「御堂君もいたのなの?」
「そりゃ来てるやろ秋元さん・・・新入生なんやから。つか緑川君、秋元さん。ロミオでええよ」
「じゃあ俺も緑川か尊かどっちでもいいっす、呼びやすい方で」
こいつらよくつるんでるな。
おおっと・・・緑川は何かひらめいたようだ。
「そういうわけなんで三守さんも沙羅ちゃんって呼んでいいっすか?」ぶれない緑川尊は全く今の会話から関係ない三守沙羅と強引に仲良くなろうという魂胆のようだ。
「それは特に問題は・・・」
「俺のことは尊でいいっす」
「わ。いえそれはまだ・・・無理」普通に断られてるけど・・・まあとにかく今日は事件も起きそうもないか。
「結局いつの間にか全員そろってんじゃねえか。よし!カレー作ろうぜ」
「グループ分けとか既に姐さんにはカンケーないんすね」
―――三守が聞きに行ったようだが、どうもカレー作りは決められた班でする必要はないようだ。
そして相変わらずこの男は調子よくずっとしゃべっている。
「―――そーなんすね。沙羅ちゃんと未来ちゃんはカレーが得意っと・・・いやあきっといいお嫁さんになるっす」「そんなことないの」「・・・」
「てめーあたしが料理できねーみたいじゃねえか」できそうもない・・・。
「あ、姐さんできるんすか?カレー」
「た・・・たぶん・・・な」葵は甚だ心もとない返事をしつつカレーの材料を三守と秋元といっしょに取りに行った。米を炊くのが男子二人の役目になった。
米をもらいに緑川と御堂は丘を下りつつ移動している。
「それにしてもあのアスレチック、なんであんなに壊れとるんや?」横目で御堂は大破した箇所のある木造のいくつかのアスレチック用具をみながら言った。
「ああ、それを聞いちゃうんすね・・・はやくオリエンテーリング終わったグループはアスレチックで運動でもしてろって言われて。それを聞いて姐さん。あの8mくらの丸太を・・・登るためのやつっすよ。引っこ抜いて振り回したんすよ」
あれはただの破壊工作だった。
「いい!えええ!なんやそりゃ、すげえ怖いで」
「一本500Kg越えてるらしいっすよ。振り回したんすよ竹刀みたいに・・・」
「いやあ信じられんわ。おっそろしい」壊れたアスレチックの残骸が至る所に転がっている。丸太を振り回してほかの器具で試し切り・・・というか試し殴りしていたのだ。
「で、飽きたんで。もう一本抜いて丸太2刀流を練習していて・・・みつけた係の人も絶句してたんすけどハリケーンのようだったらしいっす・・・それで、めっちゃ怒られたんすよ・・・なぜか姐さんを止めてた俺までっす」
「なんちゅうお姫様や・・・」
・・・いずれ退学にならないといいけどな・・・頼むから桔梗を倒してから・・・。
米を炊くのは御堂路三男が自分にまかしとけと言うので緑川はほとんどすることが無かった、実際上手だったようだ。
カレー作りは・・・包丁を持つと振り回して危ないことが分かったため・・・葵が包丁を持つことはなかった。「葵ちゃん、カレーに一番大事な調味料はなんだと思うのなの?」と未来が聞いたところ塩と砂糖と答えたため・・・カレーの煮込みからも葵は外された。
玉ねぎを炒める時間の長さで未来と沙羅の意見が食い違ったが・・・他のグループと比べてもかなり上手なカレーライスができたようだ。
まだカレー作成中の周囲の新入生をしり目に葵たちはもう夕食を開始している。きっといい匂いがしているのだろう・・・。
「これくらいで丁度いいはず。玉ねぎは黄金色になる位で美味でしょう?」沙羅と未来はいまだに意見の統合ができないらしい。
「でも沙羅ちゃんもうちょっと炒めてペースト状にして・・・食感用の玉ねぎは少し分けておいて別にすればいいと思うのなの」
「玉ねぎを2種類に分ける?聞いたことない」
2人とも料理に自信があるのかどうしてもお互い納得がいかないようだ。未来と三守はなんとなく気まずい雰囲気だ。
まあしかし緑川って・・・集団内でのバランス感覚は優れているな。
「いやいや。すげえ旨いっすよ。女性陣さま達・・・さすがっす」
「そやで。こりゃ旨いわ」とにかくよく食うな・・・ミドーロミオ。まあガタイいいからな。
「どう考えても俺たち勝ち組っす」
周囲の新入生たちはまだまだカレー作りに苦戦しているところが多く、まだ完成していないところも多い。特にとなりのグループはカレーのようなものができているが・・・悲鳴と嗚咽が聞こえてきている。
「姐さんどうしたんすか?」葵はあらぬ方向を注視している。なるほど5人に近づいてくる戦闘能力が非常に高い男がいる。
「誰かこっちにくるぜ」つまり葵に気付かせるため少しだけわざと気配を洩れさせたようだ。
薄いよれよれのジャケットをきた男性教師―――権藤先生だ。
「ども、うまそうだねえ・・・」ゆるい挨拶から入る。
「先生も食べるのなの?」「チューッス権藤先生」「おす」緑川と葵は体育の担当教官が権藤先生であり既に顔なじみなのだ「先生なんか。こんばんは」ロミオは初めてか。
「うん・・・本当においしそうだね」権藤先生はまわりの新入生の惨状を見て比べている。
「お皿あるのなの。食べるのなの?」そういう未来は全然減っていない・・・食べてるのか。
神妙な顔の権藤先生は手でいらないというジェスチャーをしつつ、やや勿体つけて言った。
「実はだね・・・伝えることがあります・・・チーム結成おめでとう」
「ええ?つまり・・通ったんすか?チーム作成の届け出?」
「ああ、その通り。世界に名を轟かすか・・・消えていくかは君たち次第だけれど。第3高校召喚戦闘部所属。チーム名“ドラゴンディセンダント”。申請者であり部長は如月葵、副部長、緑川尊。・・・チーム結成だ・・・召喚戦闘部へようこそ。この学園の戦闘レベルは高い。世界でも屈指だ。この学園でのし上がれれば世界で通用する」
「ほう。ドラゴンディセンダントか」スプーン片手の葵も含めてチーム名を考えた緑川以外は初めて聞くチーム名なのだ。口々にドラゴンディセンダントと呟いている。
得意げに緑川は葵の方を見る。
「なるほど・・いい記念の食事会になったっす。水しかないっすけど乾杯しますか?・・・如月部長?」
「ん?ああ。そうだな」やや恥ずかしそうだが顔は戦闘時のそれを彷彿とさせている・・・やる気になっているわけだ。
「ちなみにね。担当教官は僕・・・
しかし・・・権藤先生は優秀だ・・・特別待遇に近いな“ドラゴンディセンダント”・・・。
―――その晩―――。
女子生徒と男子生徒は別々の棟の部屋に泊るため・・・緑川尊はチームが一緒の部屋で寝れないのは物理的におかしいと三守沙羅と未来と葵に抱きついて・・・葵の踵落としをくらい一足先に夢の世界に直角高で落ちていった。そして御堂路三男にしゃーないなと言われつつ運ばれていった。
宿泊施設の部屋割りは決められており葵と未来、三守は3方向に分かれていった。
葵の泊る部屋は二段ベッドが3つある六人部屋だ。荷物を置きに朝来たきりである。
ほとんど疲れていない葵は全然眠くないようだ・・・周りの女子生徒たちはもう二人ほど寝てしまっている。葵はいっしょに大浴場でお風呂に入ろうと未来に言われているが時間はまだまだある・・・しかたなく端末で何か検索を始めている。
コンコン!
ノックだ。葵たちの部屋がノックされている。
コンコン!
室内の生徒はだれも顔を見合わせて対応しない・・・見るに見かねて葵が声を張り上げた。
「開いてるぜ!」
三人の女性が入ってきた。私服姿であり葵は見覚えが無いので誰か予想がつかないようだ。
最初に入ってきたのは丸々とした女性で葵は“紅爆轟”の三人の先輩を一瞬思い出したようだがすぐ別人だと気づいた。二人目はピンクツインテールのやや派手めな女性だ。三人目は大人しい感じの女性だ。
二人目に入ってきたピンクツインテールが話し出す。
「こんばんは。みなさん。お休み中のところ申し訳ありませんわ」
新入生のこんばんは・・の返事を掻き消すかのように次を続けた。
「わたくし城嶋由良ともうします。如月葵さんにお会いしたいのですが宜しいかしら」
二段ベッドの上にいる葵は上半身を起こして来訪者を見据えている。
「如月葵はあたしだ。何か用か?」
「優秀な人間のところには今後も人が訪れるでしょう。今のうちに慣れた方が良いですわ。如月さん。是非二人きりでお話がしたいわ」
さらに上体を起こしてどうしようかと葵は悩んでいるようだ。
「上級生か?上級生が来るのは明日だって聞いたけどな」
「それは3高の話しでしょう・・・あたしは第4高校副生徒会長、チーム“ピンクダイヤモンド”の部長もしております。あたしが来たのは別件ですわ」
顔が球体に近いリツコが前へ出た。
「偉い人同士が話し合うわけだから。わたしたちは外で少し時間を潰しましょうね。みなさん」
新入生は顔を見合わせて動こうとしない、あまり意味が伝わっていないようだ。リツコは顔は笑ったままだが雰囲気が少し変わっている。
「如月葵さん以外は全員外へ出るのよ!お願いしているわけではありませんよ!」
雲の子を散らすように残りの5人は外へ退散し、4高のリツコと大人しい女生徒は「では失礼します」と言って出ていった。
音も無く葵は二段ベッドから飛び降りる。
室内の中央のテーブルを挟むようにして対話はスタートした。
「やや手荒な真似をしてごめんなさい。時は金なりと申しますからね。如月さんとお呼びしていますけど王女様とか敬称を付けた方がよろしいですか?」
「いや必要ねえな」
「それは聞いていた通りの方でよかった。座りましょうか?立ち話もなんですから」誰に聞いたんだか。
葵はストンと城嶋由良はゆっくり腰かけそして切り出した。
「では気楽に行きましょう。如月葵さん。第4高校に転校する気はございませんか?来て下さるなら幹部待遇にします。各学年3人程で9人。使える部下を付けましょう」
「分かりやすくていいね。あんた。では答えはノーだ。あたしはここが気に入っている」頬杖をついて話しているが葵の語気は強めだ。
「そう、では次の話題にはいりましょう」別段気にしない・・・予想通りと言わんばかりだ。そして葵は少し驚いている。
「お!?転校の話は終わりかよ」
「終わりですわ。あなたが優秀ならどこでも輝けるでしょう。3高でも4高でもそれ以外でも。近くにいてくれると嬉しいとそういう話ですわ。次の話しいいかしら」
「ああいいぜ」葵は座り直して真面目に聞くような雰囲気だ。
「失礼な話で恐縮ですが次期竜王につきましては何かお考えがおありですか?」
「んなもんないぜ」ないだろうね・・・今は。
「即答ですね。了解しました。わたくしばかり質問するのもあれですから何か聞きたいことがあればいつでもどうぞ。この学園のことでしたら表も裏もわたくしは少々知っております」竜王の話しはナイーブな事案だ、次期竜王候補者は数人いるのだから。しかし葵は興味なさそうだ。・・・神明帝に十分売れる情報というわけだ。
「質問・・・ねえ?」室内灯を一瞬見上げたが特に思いつかないようだ。
「差しあたってないのでしたら・・・いえ今のやり取りで少し思うのですが誰に何の情報を与えるかは少し推敲したほうがよろしいかと、情報戦は大事ですわ。この世は味方だけとは限りませんので」
「情報戦は大丈夫さ問題ない」
「・・・なるほどどこかから正確なニュースソースを得る方法があるという意味かしらね?」
「どう取ってもらっても構わねえよ」
「もう一つ聞いてもよろしいかしら。纐纈守人くんをランク戦で破ったのは・・・実力?あるいは弱点があった?もう一度戦って勝つ自信はありますか?」間髪入れず質問するなあ。
「・・・話してもいいけど。残りの4人の事が知りたいね」少し考えた風であやしく笑う葵はこれも戦闘と割り切っているのかもしれない
「4人とは?」
「十傑とやらの4人だよ」
「降魔六学園十傑のことですね・・・4人というのは纐纈守人くんよりも上の1位から4位という意味かしらね・・・であれば欲張り過ぎよ・・・一人でしたら」予想外の葵の質問にやや会話を軌道修正しているようだ。
「1位から4位の連中がどんなやつかなんて調べれば分かる。誰でも知ってることなんかどうでもいいんだ。あんた裏を知ってるんだろ?なら纐纈の弱点というか倒し方と交換でどうだ?」
「・・・交換条件ですか。いいでしょう誰の情報と・・・」
「西園寺桔梗・・・倒すには何がいる?」間髪入れない・・・今度は葵の番か。
「・・・さ、西園寺桔梗さ・・・桔梗ね・・・試合で倒すのは困難極まり・・・」
「試合じゃねえ・・襲撃するとしたら?」
「・・・・・・あなた正気?・・・探知を防ぐ結界を張ります」降魔の地で絶対君主のようになっている西園寺桔梗の悪口・・・あるいは攻撃示唆はそりゃ危険極まりない話だ。由良は終始自分のペースで話したかったのだろうが・・・。
“護身体現”
“拡散”
「これで一応大丈夫・・・音や光・・・離れたところから探知する方法はいくらでもあります。お気を付けください如月さん」そういいつつ仲間の透視は防がないわけだな由良。
「桔梗って名前を出したとき顔色が変わったぜ。由良だったっけ。もし倒せるなら共闘するか?」
明らかに由良は動揺してしまっている、こんなはずではとの思いがさらに彼女を迷わせているようだ。
「・・・・・・それに対する答えは・・・交換条件には含まれないでしょう。試合で桔梗に勝つのは困難ですがもしも勝てたとして命は奪えません。襲撃すると言うのは精神的なダメージをまず期待するのであれば彼女の精神力は・・・」
「襲撃ってのはアタシの命と相手の命を天秤にかけるって意味だぜ」会話の流れは完全に葵のペースだ・・・。由良の表情はあまり良くないが投了するにはまだ早いか。
「・・・危険極まりない情報交換になりそうですね。お互いの情報は秘密を堅守できますでしょうか?」
「ああ誓おう」葵が即答で答えるたびに本当のことを言っている予感がするだけに後手後手に回りつつあることは由良は理解しているが、立て直せていない。
「・・・西園寺桔梗を襲撃するのに最も適しているのは・・・普通は就寝中でしょうが桔梗は総生徒会執行部執務室で普段寝泊まりしており非常に堅牢な結界が幾重にも張りめぐらされています。夜間はチーム“ホーリーライト”の精鋭が付近に二人は必ずいますので戦う前に全員プロの召喚士の警備員と残りの“ホーリーライト”のメンバーが飛んでくるでしょう・・・・・・もっとも襲撃に適しているのはホーリーライトでも幹部しか入れない修練場があります。今はほぼ桔梗が一人で使用しています。桔梗の練習中は必ず副生徒会長の高成崋山が修練場の扉の前に座して待っていますがその時が一番手薄でしょう・・・ただ彼女が油断している時間を期待しているのでしたらございませんわ。いつ襲撃しても絶好調の彼女と戦うことになるでしょう」
「一人で行った場合だな、それは。演説中に複数で行ったらどうなる?」
「・・・それは“ホーリーライト”のメンバー一人一人がどれほどの熟練の戦士か知っていればまず不可能でしょうね、騒ぎに乗じて慌てるようなものは一人もいません。去年、第5高校の生徒、圧政に耐えかねたのでしょうが全国大会にも出たことのある強力な竜の召喚士が二人で同時に演説中の桔梗を襲っています。虚を突いたにもかかわらず桔梗に届く前に武具は折られ文字通り一人は踏み潰されました。もう一人は高成崋山に切り捨てられました。その間も桔梗は演説を続けていた。襲撃した2人はそのまま退学になりましたわ」
「・・・1分でいいんだ二人きりにできないか?由良。取り巻きをなんとかできないか?」
「・・・まさか1分あれば桔梗を倒せると?・・・わたくし3チームのアライアンス“ジュウェリーズ”の代表もしております。1年生がもう少し増えるでしょうが現在40名・・・“ホーリーライト”で特に強力な4名が高成崋山、天野哲夫、安福絵美里、更科麗良でしょうが4対40で戦って1分もちません。40人が戦闘不能になるのに数秒でしょうね。・・・もしもこの“ホーリーライト”の4人と桔梗が戦えばやはり数秒で桔梗が勝つでしょう」
「なるほど参考になった。・・・では交換条件・・・纐纈の倒し方は簡単だ。やつはメタルドラゴン。防御寄りだ。やつの防御力より強い攻撃を当て続ければ盾の上からでも削り殺せる・・・以上だぜ」葵の完勝だ、必要な情報を得て葵は結局自分のことをなにもしゃべっていない。
ピンクツインテールの城嶋由良は宿泊施設の一階廊下を歩いている。2人の仲間が気づいてついてくる。
「アハハ。どうでしたぁ由良さん」リツコが聞くが返事はない。スタスタと施設の玄関を目指して歩いていく。
「如月葵・・・危険度星六つ・・・」歩きながら短く伝える。
「危険度はこのアプリ星五つまでしか登録できませぇん」
「リツコ・・・星六つよ・・・」おどけた返事を全く無視して表情は一切変わらない。
「わ、わかりました」ようやくリツコは由良が普段と違うことに気付いたようだ。
「“ジュウェリーズ”のメンバーで第3高校と小競り合いしているのがいるならすぐ止めさせなさい。しばらく第3高校のすべての関係者を粛清対象から外します。・・・ああ・・・華聯さん、見てましたね?あなたの言う通りでした。突き抜けたバケモノがもう一人増えました。対応には思慮が必要・・・まあそういうこと」まあそういうことだ。
降魔六学園の女帝が西園寺桔梗なら・・・着々と勢力拡大している城嶋由良はもう一人の裏の女帝といったところ・・・三守っぽく言うなら虎視眈々と落日を準備している・・・といったところだ。城嶋由良のTMPAは低い・・・お世辞にも戦闘力は高くないが部下に戦闘力が高い召喚士はいくらでもいる・・・圧倒的なカリスマと・・・そして恐怖政治によって地位を確立していく。
―――林間学校の朝食は早い。
“ドラゴンディセンダント”の5人は固まって食事をしている。
「なんでや」
ご飯としゃもじの近くに席があるというだけの理由で御堂路三男は周囲のご飯係りにされてしまているのだ。
「おかわりくらい自分でやれや。うちのチームのはええけど。誰やねんおまえら」
といいつつも逃げられそうにない、特に女性には弱いようだ。
「いやあ、めっちゃ寝ちゃったっす・・・こんなに人間て寝れるんすね。夜はいろいろしようと思っていたのになんにもできなかったっす」
「いろいろってなんや、緑川」ロミオと緑川は隣同士で向かいに如月葵、三守沙羅、秋元未来の順で座っている。ロミオと葵と三守は浴衣であとはジャージで来ている。まわりの新入生も浴衣とジャージの割合は半々くらいだ。
「まあそれは夜話すとしてっす。朝から美人に囲まれる食事ってすげえっすね。ロミオ」
「いやわしは・・・知らん」あっという間に赤面するロミオは女性陣をまっすぐ見れないようだ。
「こんな気持ちいい朝ははじめてっす。夢もすげかったんすよ」
「まあ夢っていろんなことを暗示してるゆうもんな、どんな夢や?・・・いやあんた、おかわりは自分でせえや」そういいつつ誰だか知らない生徒のおかわりを手伝っている。案外いい奴なのかもしれない。
「それがっすね。見たこともないトンデモナイ、まじでトンデモナイこの世のものと思えないくらいの美人に告白される夢なんすよ」両手を使って説明しようとしているがわけわからん。
「なんでわしがおかわり係りやねん。・・・んで、どんな美人やねん?」
「いやもうほとんど忘れたんすけど、子猫二匹抱いてるとこしか覚えて無いっす」
「ネコが出てくると正夢になるゆうて聞いたことあるで」
「まじっすか。今日あたり超美人に告られるんすかね・・・」適当に喋っていた緑川だったがまんざらでもなさそうだ。
「おかわり」
「いや、わしはおかわり係りじゃないんや・・・って如月部長でしたか。すんません」同級生にペコペコすんなよなロミオ君・・・。ロミオは山盛りにご飯を盛って如月部長に両手で持って丁寧にお椀を返していた・・・そして、こんなに食えるか・・・とキレられた。
朝食が終わると・・・女子生徒と男子生徒は一旦部屋に戻るため別々の部屋に戻るのだが。・・・しかし三守沙羅の様子がおかしい。ため息ばかりなのだ。
「はぁ・・・」
「今日はどうしたのなの?沙羅ちゃん?」たまらず未来が話しかける。
「はぁ・・やっぱり・・・」いつもと違い沙羅は冷静さをやや失っているぼーっとして独り言を言っているようだ。
「なんだよ。誰かに何かされたんならあたしが潰してやるぜ!」葵が危険なことを言ってもあまり反応がない。
3人は売店の前で腰かけて話し出した。
「いやそういうんじゃないのよ・・・」
「風邪気味なのなの?・・・救急箱持ってくるの」確かに顔はやや赤いが。
「熱はなさそうだがな・・・」
歯切れが悪く三守沙羅は少しずつ話し出しているが何の話かも見えてこない。
「違う違うの。・・・なんかね・・・」
「なんだよ?」
「悩みでもあるのなの?」
―――ボソッと葵に耳打ちしている。
「―――えええ!!!告白された?・・・男子に?」
「男子に?男子になの?それはおめでとうなの」
「声が大きい。誰にも言わないって言うから・・・他言無用で秘密厳守でえっと」
「で?で?なんだよ?付き合うのかそいつと?」
「その人の事、好きなのなの?」
「いやあの・・・返事はしないといけないと思って遅疑逡巡は良くないけど」
「チギシュンジュンってなんすか?沙羅ちゃん?」
「博学やなあ」気付くと緑川と背伸びしている御堂がすぐ側にいた。
「わ!くぁ・・・・」沙羅はやや反応が過剰で慌てふためく・・・珍しい反応といえるだろう。
「ちょっとおめえら男子部屋に戻ったんだろ?」
「ドラゴンディセンダントのことを話し合わないとって思い立ったんす」
「ほやな」
「いま大事な話しをしてるのなの」
「大丈夫っすか沙羅ちゃん」異変に気付いた緑川が沙羅の肩を揺すっている。
「わ!わ!・・・ぁ」
「いいからおめえら!一回戻れ!!」葵が立ち上がってキレた・・うん怖いね。
「わ。わかったっす」
「こええよ如月部長」
2人はとっとこ後ろをチラ見しながら去っていった。沙羅は2人の男子を目で追いつつため息をついた。
「ここはダメなの。外のほうがいいの」
「んじゃ外へ行くか」
まだ7時前・・・そこそこ早朝だ。外は少し肌寒く曇っており、ついでに少し霧が出ている。
周囲の草には朝露も出ている。まあ、きれいな所だ。
その中をずんずん3人は進んでいく。
「ここならいいぜ。沙羅。よし聞かせてもらおうか」
「沙羅ちゃん。聞かせてもらいますなの」
「話すなんて一言も」
・・・話すしかなさそうな雰囲気にされて、しかしなんだか沙羅自身も話したいのかもしれない。
「―――じつは、とある人に昨日愛しているって言われてしまって―――」この手の話はなれていないのか三守沙羅はたどたどしく話し始めた。いつもなら気にも留めなさそうなのに葵は聞く気まんまんの様子で未来も両手を祈るように握りながら熱く見つめている。15歳くらいの女子と言うのはこの手の話し好きなのだろうか。沙羅の声は小さくてさすがに聞き取りにくい。
「―――いい話しじゃねえか。」「いい話なの」
「昨日っつうと合宿中だよな。完全に・・・」「完全になの」
「相手は言わなくてもいいぜ、でもかなり身近の奴だよな」「身近な人なの」
「誰なんだ?」「誰なのなの?」
「・・・クン」
「はあ?誰って?」「誰なのなのなの?」
「・・・わクン」
「ん?もう一声!」「誰なのなのなのなの?」
「・・どりかわクン」
「はあ?・・・はぁ?」「ええええ・・・ええ?」
「緑川尊クン・・・」
えええええ!!!
下を向いたまま三守沙羅はやけに照れている。
葵と未来は目が合うたびになんか言えよと言わんばかりにお互いを促している。
「ああ、あああ。そ、そうか沙羅。あああ。いいかもなそうかもな」「そ、そうかもなの」
―――取り敢えず合宿所に3人は戻り沙羅を自分の部屋に送り届けた後で―――かなり離れてから未来と葵はハァ―――っとため息をついた。お互いにチラ見しながら・・・。
「未来・・・これはアレだな」「葵ちゃん・・・アレなの」
「アレなんだけど・・・アレだな」「アレなのぉ」
「じゃあどうするってんだよ」「どうもこうもどうするのなの」
「とりあえず緑川に会って・・・」「会ってどうするのなの?」
「会うしかねえだろ未来、沙羅のアレって」「沙羅ちゃんのアレはアレなの」
「どうするんだよ」「どうするのなの」
―――緑川はほどなく二人に見つけられた。
「あれどうしたんすかお二人さん。ロミオなら二度寝するんやって言ってましたっす」
「いやおまえ緑川あのな」「緑川君あの・・・ねえ」
「2人ともどうしたんすか?愛の告白みたいじゃないっすか。うれしいっす。2人とも愛してるっすよ」
「あああ。ああ」「ああ、なの」葵と未来は頭を押さえてる。
「なんなんすか」
「おまえがそんなんだからよお・・・まあどうなんだ?未来言ってやれ」「えええ、何を言うのなの?葵ちゃん」
「まああれだ。しっかりしろ緑川」「え?それで終わりなの。葵ちゃん、ちょっと」
「あの?なんなんすか?」緑川の問いかけに二人は暗黙のまま首を振って遠ざかっていく。
少し離れたところで葵と未来は仕方なさそうに話し出す。
「―――葵ちゃん、わたし緑川君に毎日愛してるって言われてるのなの」
「分かってるぜ。あたしも毎日朝から晩まで言われてるぜ」
あはははは―――。
ふふふふふ―――。
「だからどうすんだよぉ」
―――昼食は5人で食べたが妙な緊張感の中にあった。
「朝とえらい違いやな。どしたん緑川?この女性陣の重いプレッシャーは」
「いやあ。さっぱ意味わかんないっす」御堂が小声でしゃべり緑川も小声になっている。
女性陣は誰一人喋らなくなってしまったのだ。
そして午後は第3高校の上級生が大挙してやってきて順番に各チームの勧誘を大広間で始めることとなった。この伝統の大勧誘会は夜中まで続くのだ、夜中まで続くのは本来マズいのだろうが黙認・・・となっているようだ。全部で90チームほどもあるらしい。恐らく6学園で一番多いだろう。一番少ないのは第1高校だ3チームしかない。
しかしチーム“ドラゴンディセンダント”の5人は別だ。勧誘する側なのだ。大勧誘会の実行委員から別室に5人は呼ばれた。
「君たちチーム結成したばかりだって聞いていますが、もちろん勧誘するかしないかも自由ですし出し物を出すならですね・・・」
ガチャ!だれか後ろから入ってきた―――金髪の超美人だ。
「おっ!如月葵1回生じゃねえか、まあ匂いで分かってたわけだけど」
「お!!ジェニちゃんじゃねえか」口の利き方な・・・まあ治らんわ。
「ジェニファー先輩と呼べ。それよりDD-starsに勧誘する前にチーム組みやがって。わざわざここに来た意味が全くなくなったわけ、そういうわけで実行委員長。あたしは帰るぜ。DD-starsの順番は飛ばしてくれていいわけ」
なるほどDD-starsは葵を勧誘する気だった?今からでも遅くないが・・・。
「了解了解」
「ジェニファーのお姉さま。お久しぶりです。緑川尊です」ランランと目を輝かせている・・・ぶれねえ・・・。
「ああ、あん時の・・・な」
「いいチームつくったじゃんか。全員竜か・・・いや一人魔族か・・・OKOK。にしてもいいチームだな。敵になるならなるで大歓迎だ。さっさと育ってくれ」きっと本心なのだろう・・・楽しそうだ。
「そんなお姉さま。この緑川尊。お姉さまの事を一度も忘れたことはございません。敵になって仲が引き裂かれるなんて・・・耐えられないっすってええええ!?」
いつの間にか緑川はジェニファーにヘッドロックされている・・・やや幸せそうだ。
「うそをつけ。うそを」
「うそじゃないっす。痛いっす。愛してるっすジェニファーのお姉さま・・・愛してるっす。普通に痛いっす。いたたたたぁ!」
緑川のセリフに葵と未来に電撃が走ったが怖くて沙羅の顔は2人とも見れない・・・。
・・・ガチャ。
静かに無言のまま三守沙羅は部屋を出ていってしまった。
―――大津留ジェニファー、如月葵、秋元未来、緑川尊、御堂路三男の5人はさらに狭い別室に移り壁にもたれつつ困り果てていた。なぜかジェニファーまで?
「1回生ども・・・状況は飲み込めたけれど・・・」
「軽々しく愛してるとか言ってんじゃねえぜ。緑川」
「困ったなの。傷ついているの。沙羅ちゃん」
「わしはよくわからんわ・・どうなんや」
「昨日・・・正直・・・沙羅ちゃんに愛してるっていったか・・・冗談抜きで覚えて無いっす」うんうん、だめだこりゃ。
大津留ジェニファーは長い足を軽く組みつつ、大したことはないと言う雰囲気だ。
「フフフフフ。面白いチーム“ドラゴンディセンダント”か。ニュアンスの違いなんかで人生そこまで変わらないでしょ。緑川1回生、謝り倒して来い。まあ最悪ドラゴンディセンダントから一人抜けるだけなわけ、チームの運用ってのは簡単ではないのよ」大人ぶったことを言うが・・・葵とタメ張るくらい暴れてた時期があったはずだが・・・。
「そうっすね。行って来るっす」きっぱり言う緑川は探しに行く気のようだ。
「ああ、緑川。沙羅と未来は今晩からアタシの部屋に引っ越してきたからな。まあどこに行ったか分からねえけど。とにかく探して落とし前つけてこい!」
「うーっす」と言った直後に“念装疾風”を唱えて緑川は風のように去っていった。
みんなで緑川の出ていったドアを見ていると再びジェニファーが口を開いた。
「時に。如月葵1回生。最近、城嶋由良に会ったな?あのクソ女のいやらしい匂いがする。・・・ああ違う違う。あたしの嗅覚は特別でね。シャワー浴びたくらいじゃ完全には消せないわけよ」すごい嗅覚だな大津留さん。気を付けないとな・・・。
「ああ。会ったぜ」
「あの女は気を付けな。食い荒らされないようにな。肉食だから・・・忠告したよ“ドラゴンディセンダント”のリーダー葵。あたしは帰るわ。他の子たちもバーイ」
金髪のスタイル抜群女性は帰っていった。
しかし・・・葵がDD-starsにもし入っていたら・・・その方が早かったかもしれない・・・桔梗と相まみえる
残された3人も手伝う気のようだ。
「んじゃあ。あたしたちも行くぜ」
「そうね葵ちゃん」
「そやな?二人を探しに行くんやな・・・三守さんにメールしたらいかんのか?・・・いかんのか、そういうもんなんか」
3人はそれぞれ分かれて緑川と三守を探すことにした。
葵はまず自分の部屋から探すつもりだ・・・・。
ん?戦闘の気配がする・・・?誰か戦っている?三守沙羅と緑川尊の反応だ・・・いくら何でも戦うことになるか?葵はまだ気づいていない。
―――「なんだこりゃ!」葵は部屋に入った瞬間さすがに驚いていた。沙羅と緑川は流血しながら戦っていたのだ。妙なクリーチャーと1対2で。沙羅は反響群現で鏡をまとい、緑川は風輪群現で攻撃している。気配が読めなかったのはこのクリーチャーが妙な結界を張っているからだ。このクリーチャー、魔族だな・・・。おかしい影獣化していない・・・。イレギュラーか?
この大きさ2メートル程の毛むくじゃらの下級魔族はTMPA25000ほどだ。緑川と沙羅には荷が重い・・・それどころかよく生きていたものだ。
“スプラッシュ”
“エラスティックショット”
だが魔装した葵の敵ではない。クリーチャーは一撃で潰されてブクブク泡が出て身体が溶けていく。
これではまるっきり本物の下級魔族のようだ。イレギュラーに次元を破った感覚はなかった。どうやって現れたのだろう?
ふうっと3人は息をつく。いきなり死闘では驚いただろう・・・。
「なんだよこのバケモンは」
「助かったっす。姐さん。この部屋に来たら沙羅ちゃんとすでに戦っていたんすよ」
「如月さんのベッドのあたりにいていきなり強襲されました」
三守は荷物をまとめて帰る気だったようだ・・・そこまでキレるか。
思ったより緑川は冷静だ・・・いい戦士になるかもしれない。
「俺と沙羅ちゃんだけだったら危なかったっす。悪魔っすよね。始めて見たっす」
「緑川さん助けてくれるなんて感謝」
「当たり前っす。俺は沙羅ちゃんのこと愛してるっす。」まだ言うんかーい。
「おまえ・・・」
「緑川さん・・・」
「俺は気に入った女子に愛してるって言うっすけど。嘘じゃないっす。何かあったら命はかけるっす。如月の姐さんと未来ちゃんと沙羅ちゃん以外に言ったことないっす。さっきジェニファー先輩に言ったのは冗談っすよ」
「んないいわけ通用しねえだろ」葵の言うことはもっともだ、しないだろうね。
「もういいです。緑川さん。うちさっき辞めようかと思ったんですけど辞めませんから“ドラゴンディセンダント”、乾坤一擲。今後ともよろしくです」ん?いいのか?
「ケンコンイッテキってなんすか?沙羅ちゃん?」そこ?そこが問題か?
「つか緑川おまえなに持ってんだ?」魔装を解いた緑川は白いものを握りしめている。
「これはさっきの化物が持ってたんすよ」
「・・・その模様・・・あたしの下着じゃ・・・?」「ええええ!・・・あああ!姐さんのパンテ・・・ぐはっ!!」「広げんじゃねえ!」真っ赤になった葵のボディブローが緑川の腹部に入り、連続技のように三守沙羅に綺麗に投げ飛ばされ下着は持ち主に返された。
あの・・君たち、悪魔が出現したことを早く報告しないと・・・報告を・・・まさかしないつもりか?
思ったより濃い林間学校だったな・・・チーム“ドラゴンディセンダント”の設立・・・葵と由良の出会い・・・チームメイトは辞めかけるし・・・そして魔族との初コンタクト・・・下級魔族は結界を張っていたが・・・気配をすべて消してこちら側に侵入するなんて不可能だ・・・イレギュラーでないとすると・・・人為的な?・・・人為的にしても魔族を操る方法は極めて困難なはず・・・。
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