002 期待
記憶がない、というのは実際に起こってみれば、大した恐怖体験ではなかった。正確には、”僕自身にとって”、それは怖いものではなかったというのが正しいけれど。
しかし、それは大変
特に、気づけば理不尽な苦しみに襲われていた、なんてシチュエーションで記憶がないなんて、
一方、記憶がないことを他人に打ち明けるのも、実際のところ
例えば車に轢かれて病院で目が覚める。そこで医者に「ここ数週間の記憶がありません」というのは、そう難しいことではないだろう。では、物理の授業を聞いていて、ふと記憶が無くなったことを、いきなり
とは言っても、この数週間に何があったのかは気になるし、知りたい。記憶が戻るのを待つのも手ではあるが、戻らないことも考えれば、
そんな葛藤に揺れている内に、頭の痛みは強くなっていくのだった。
記憶を
前にどこかで、脳には
「脳に痛覚はないよ?」
ふと頭を上げると、
うっかり声に出してしまっていたのか、頭の中を読まれたのか、
「
「いや、あの。まあ―――」
どこまで聞かれていたのか分からず、なんとなく言葉を濁した。
「―――少しだけね」
「ふうん」
「別に、大した痛みじゃないんだけどね」
「ほんと?そんな風には見えなかったからさ」
「あ、ちなみに脳に
得意そうに話すわけでもなく、どちらかと言えば僕に新しい知識を授けてくれるような様子で、「頭痛いときに、頭で悩んでもしかたないよ」と付け加えた。
それもそうだな、と僕は返した。
また、彼女はそれでいてとても謙虚で、自分を飾ったり、傲慢に出る事はない。
こういう人を見ていると、つくづく神様ってのはまったく不器用なヤツで、人を平等につくることができないのだなと、ため息をつきたくなるものである。無論、神に人を平等に作らなくてはならぬ義務など
彼女のことを初めて知ったのは去年の3月のこと。僕が高校へ進学するためにこの町へ越して来たその日だった。その日以来、振り返れば僕は、彼女に頼りっきりの高校生活を送るダメ人間と化してしまっていた。
消失世界のホログラム 蒼月 水 @Aotsuki_Titor
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