001 鈍痛

 ズキズキと頭が痛む―――――


 その日、僕を目一杯めいっぱい苦しめていたのは、ひどく重い頭痛だった。普段から、頭痛になりやすい体質であったことに間違いないが、ここまでの頭痛となると、たった17年も生きていない僕ですら、こいつが人生で一番の頭痛なのではないか、と本気でうたぐってしまうくらいには痛かった。夜更よふかしして、ゲームしたり、本を読んだり、何かに熱中しすぎたせいで、丸っと一晩を明かしてしまった次の日の朝には、決まって僕の頭は眠気とか何より先に、ズキズキと、ただひたすらに痛むのだ。

 しかし、今日の頭痛はいつものそれとは訳が違う。信じられないかもしれないが、はち切れてしまいそうな程に、そいつは僕の頭を強くめつける。はっきり言って、耐えられない程の頭痛というのはこれが初めてだった。

 いや、一番こいつを信じられないでいるのは僕自身の方だろう。なにせ、あまりにも痛すぎて、頭の内部どころか、頭蓋骨ずがいこつを抜けて後頭部こうとうぶの辺りまで痛みはおよんでいた。いや、もっとだ。頭痛のことを考えれば考えるだけ、体のあちらこちらが痛い様な気すらしてくる。


 痛いのは良いのだけれど(いや、別に痛くないことに越したことはないが)、何よりつらいのは、何にも集中できないということだ。物理の笠岡かさおかの授業がつまらなすぎるのは抜きにしても、教諭きょうゆの唱える催眠魔法さいみんまほうくぐって授業の内容に集中することは、今の僕には到底不可能と言わざるを得ない。

 ああ、これは後で神代かみしろにノートを見せてもらうの決定だな、と宙にため息をらし、いつもの『先生からは授業に集中しているようでいて、実は寝ているのポーズ』へと移行し、机にした。


 さてと、ひどい頭痛をわずらった原因について知りたいところではあったが、不幸なことに、まったく心当たりなど、微塵みじんも、いささかも、思い当たりなどしなかった。何しろ、ただの頭痛ではないのだ。ちょっと風邪を引いたとか、体調がすぐれないとか、そんな平凡な理由では納得がいかないし、実のところ、酷い頭痛以外はかえって健康そのものだった。

 昨晩、不良の喧嘩に巻き込まれでもして、全身を殴打おうだされ、寝不足のまま学校に登校してしまったとか、また徹夜してフラフラの状態で朝、結構な速度の自動車にはねられた、とか。まだ、そっちのほうが全体の痛みとしては、に落ちるほどであった。むろん、そんな物騒なことに一切の見覚えは、ありはしないのだけれども―――


 様々、この酷い頭痛の理由について考えをめぐらせても、納得のいく答えなど出はしなかった―――いや、出るはずなんてなかった。

 この時の僕に、昨日の晩の記憶なんてのは存在しなかったからである。


 厳密には、昨日の晩の記憶が無い訳ではない。

 数週間前から、今日の、この物理の時間開始後二分に至るまでの記憶が、すっぽりと欠落けつらくしていた。

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