消失世界のホログラム
蒼月 水
プロローグ
1951年、ドイツ東ベルリン―――
同市内にて、一人の男が東ドイツ憲兵によって
別言、奇妙そのものだった。
男の奇妙さを正確に物語るには、男の服装及び所持品を説明するだけでは不十分すぎるだろう。
夏も最盛期に差し掛かろうとする強い日差しの
何より、最も奇妙であったのは男の皮膚だ。
顔から指の先までを
当時、ソビエトの影響下にあった東ドイツとはいえ、さして強いシベリア訛りのドイツ語を話す人物をベルリン市内で、それほど多く見ることはなかった。まして、男の様に見るからに
一方、男の話すことと言えば、
男が何か嘘をついているだとか、誤魔化そうとしているだとか、そんな様子は全く見て取れず、むしろ、男の言動を
戸惑う男の様子を見続けたがために、男以上に具合が悪くなってしまった憲兵が一人、二人と「気分が悪くなった」と言い残し部屋を後にする。結局、取調室に残ったのは数人の憲兵と、その奇妙な男だけになってしまった。
すでに、何時間と時間が過ぎてしまった頃、ようやく憲兵たちはこの男とまともに話をすることがいかに時間の無駄であるかを認めざるを得なくなっていた。端的にこの男から
ついに、その奇妙な男にそれを訊いてしまったのだ、尋ねてはいけなかったそれを。いや、尋ねただけなら、結果的には問題なかったのかもしれない。
憲兵の質問は至極普通であった。誰もが会話に困ったら訊くのかもしれない、取り調べなのであれば
一方、男は驚く様子は全く見せず、躊躇なく、考える時間も一切取らず、それを口にした。スラスラと、
しかし、誰も
人間、耳慣れない言葉は一言で聞き取れないものである。だから聞き返すのだ。何と言っているのか
本当に
奇妙な男は、一目でそれが世界全土を示す地図であることを理解する。そして、多少の違和感を感じたのだろう。海は青く塗られ、土地は茶色と緑で綺麗に塗り分けがなされている。そしてなにより、欧州が中心に描かれているのだ。いや、男が感じたそれは、そんな小さなことじゃなかったはずだ。
駆け寄り、男を支える憲兵に、机を支える憲兵。奇妙などんよりとした緊張感
男は、苦しみを訴える一方、何か大事なことを思い出した様でもあった。それを逃さず、一人の憲兵は推して訊く。それが、どこなのかと。
男は、片手で頭を支え、もう一方でゆっくりと地図を指す。苦しみに耐える、
そこは、現在の南アフリカ共和国のあたりであった。
そして男は消えたのだ。
唐突に、跡形もなく。男が残した
実はこの時、部屋の憲兵すらも消えていた。一人、コーヒーの替えを取りに行っていた者を除き、部屋で男に立ち会っていた憲兵は皆、跡形もなく失踪した。
さて、男は本当にこの世のモノだったのか。
そして、彼らはどこへ行ったというのだろうか。
(ピーク調査書より)
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