⒉消えゆく年




───私は次の年を連れてくる精霊だった。

いや、今もそうなのかもしれない。


だけど私が次の年を連れてくることはもうない。

もう決めたことだから────


私が下界アンダーワールドにやって来てから半日以上が過ぎた。

人々は皆、大晦日ということもあってか、盛り上がりをみせている。

普段どんな様子かは知らないけど、テンションが上がっているのは見て取れる。

私も今日は何もすることは無い。

仕事がないのがこんなにも楽だとは思ってもみなかった。


私は蕎麦屋そばやに行くことにした。

「年越しそば」を食べてみたかったからだ。

でもそれには難点があった。

私は人に見られてはいけないのである。

その代わり、私には特殊とくしゅな能力が備わっている。

それは、動物たちと意思疎通いしそつうができる、という能力だ。

私はこれを駆使くしして蕎麦を手に入れようと考えた。

そのとき、運良く近くをいのししが通りかかった。

山の近くだからだろう。

私は猪に頼み、蕎麦屋で代金を置いて蕎麦を貰ってくるよう指示した。


それからどれくらい経っただろうか。

辺りは真っ暗になっていた。

あらかじめ、猪には手に入れたら公園に来るよう言っておいたので、私も公園に移動していた。

すると、猪が蕎麦をもって帰ってきた。

とても美味しそうだ。

私が蕎麦を食べていると、ベンチの下からネズミが出てきた。

突然だったので驚いたが、可愛かったので話しかけることにした。


「ネズミさん、あなたはここにすんでいるの?」

「違うよ。ボクは明日からやって来たんだ」


私は困惑こんわくしていた。

明日と言うと一月一日だ。

そういえば、私が次の年を連れてこなかったら明日はどうなるんだろうか。

永遠に夜が明けないことはさすがにないだろう。

となると、何らかの形で明日はやって来る。

そもそも、普通の日、すなわち大晦日だいみそか以外の日は勝手に切り替わる仕組みになっている。

ということは、また今年がやって来るということなのだろうか。


やっぱりわからない。


私は猪とネズミに別れを告げ、公園を去った。



そういえば、今日は犬をみかけない。

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