第18話 拾捌
眼が覚めると暗闇だった。灯りひとつない黒い闇。遠くから雪が深々と降り積もる気配だけが伝わってくる。
さっきまでシロがいたような気がしたのだが、どこにも温もりを感じられなかった。部屋は冷気に満ちている。
こうしていれば、きっとそのうち睡魔が訪れることだろう。寝返りを打ちながら、このまま明日など来なければいいと、ため息混じりに呟いてみる。煩わしいすべてを考えることなく、深い眠りに身を任せたい。次に眼を覚ませば、きっとよくなっている。何もかもが変わっているはず。
気がつくと、そんな根拠も意味もない希望に縋っている自分がいた。正直に告白すれば、諦念など仮面に過ぎない。しかし、そいつを自分にも被って見せなくては、続けてこれなかったのだ。そんな私を憐れに思うだろうか。しかし、それが真実なのだ。
シロはもうやってはこないだろう。そんな確信めいた予感がある。すべてを彼女は持っていったのだ。私自身がすべてを彼女へ注いだのだから、至極当然の結末と言えよう。
「人間を辞めたい」
それだけが、今の私に残った最後の望みだ。しかし、その言葉の意味するところは、もはや以前とは異なっているということに、私自身とっくに気が付いている。もう、我が身で春を感じることはないのだ。
だが、自分で終わらせることはできない。そんな勇気も度胸もありはしない。かと言って、半端に生き残りたくはないのだ。簡単に苦痛なく終わってくれることを、只々願うばかりだ。
様々な感情が入り乱れる混濁した重油のような意識の中、私は再びゆっくりと瞳を閉じる。
もう十分なのではないか。そして、もう眼を覚まさないで済むようにと、私は神へ祈ることにした。
<了>
雪は白く腐りゆく 藍澤ユキ @a_yuki
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