第16話 拾陸
自分がこれ程までに恥知らずとは知らなかった。これ程までに飢えていたとは知らなかった。あるのはただ鋭敏すぎるほどの感覚だけで、あとには何も残されていない。
湿り気を帯びた滑るような肌の柔らかさと、噎せ返るほどに濃密な情欲の匂い。そのすべてを余すことなく飲み込み、それでもなお、求めて止むことのない底知れぬ渇き。
それが私だった。
どんなに言い繕うとも、もはやそこに正しさなどなかった。すべては無駄なのだ。今の私には、なんの躊躇いも罪悪感もないのだから。こうして両の眼を見開いていても、私には何も見えてなどいない。
ただ、待っている。
それが遠く内側からやって来るのを待っているだけ。湧き上がるように、膨らみ破裂するように、それはもうすぐやって来る。
あぁ、この暗く濡れそぼった感動と、肉を食い破るように絡みつく喜びを、いったいどうすれば味わい尽くせるのだろうか。
もう一滴たりとも逃したくはない。この刹那を閉じ込めておけるのならば、私は悪魔にこの魂を売り渡すことも厭わないだろう。
あぁ、なんと美味いのだろう。
お前はなんと美味いのだ。
それで私を満たしておくれ。
息もできぬほどに流し込んでおくれ。
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