第10話 拾

 高熱による奇行と記憶の混濁。センセは先日の出来事を、そういうことにされたようです。それは仕方のないことでございます。


 そうでもしなければ、きっと私の眼を見ることもできないでしょうから。センセからあの日のことを口にすることはありませんでしたし、私からも特に何も申し上げませんでした。


 ですが、私たちの関係は以前のものから変質いたしました。まず、センセは明らかに欲望を持て余すようになりました。


 絶えず熱を帯びた視線を私へと向け、落ち着かなげに忙しく煙草をお呑みになります。これまでにも、一瞬だけその瞳に欲望の色を浮かべて私を見ることはありましたが、こうも絶えず熱心に情欲を向けられるようになると、なにか私自身が変わったかのような錯覚に陥るものです。


 なので、私は以前よりも襟元をきっちりと揃え、帯が緩むことのないように細かく気を使いました。いまは肌をあまり見せない方が効果的というものです。私の姿を認めた時、センセの期待が萎んでいくその様は、私にこの上ない悦びをもたらしてくれます。


 その身の内に抱えきれないほどの欲望が満ちた時、センセはどうなってしまうのでしょう。それを考えると、私は音もなく静かに濡れていくのです。

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