第8話 捌

 センセがご自分から来られないことは知っていましたし、こちらから行けば逃げてしまわれるばかりなので、意地を張らず観念できるよう、それなりの状況を用意いたしました。


 はてさて、センセはわたしの見立てどおり、とても素直でいらっしゃる。すべてを丸ごと飲み込んでくださりました。


 わたしにしては少し時間がかかってしまいましたが、進捗があったことは僥倖と言えるでしょう。開き直ったセンセはとても情熱的にわたしを求めてきました。


 なので、わたしはセンセが欲しがるものを、少しも与えてあげませんでした。


 その時のセンセの眼に浮かんだあの色といったら……。それはあまりにも甘美で、思わず身震いするほどでした。


 裏切られて傷付き、困惑と恥辱に苦しみ身悶えする。そんな自身の不甲斐なさを、浅ましさを、まざまざと見せつけられて、あの方は心の底から思い知ったことでしょう。


 ご自分がいかに醜悪かを。


 あぁ、センセはなんと愛おしいのでしょう。

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