第6話 陸
あんまりからかうのも考えものだと頭ではわかっていても、そんな顔をされてしまうと、そう簡単にはやめられなくなります。
もう少し、その照れるような歯噛みするような顔を眺めていたいと思ってしまう私は、底意地の悪い女なのかもしれません。
あの羽織の裏地をご覧になったら、センセはどんな顔をなさるのでしょう。謀ったと私を詰るでしょうか。むっつりと拗ねて黙り込んでしまうでしょうか。でも、どんな反応であったとしても、私は十分に楽しむことができそうです。
勿論、センセが後をついて来ていたことは知っておりました。いえ、と言うよりも、わざわざセンセの前へ出るように間を選んだのですから。
だって私が訪ねて行ったのに、呑気に湯屋へと行ってしまっているだなんて、あんまりじゃありませんか。
このぐらいのおいたは許されて然るべきでしょう。それと、センセが随分と気になさっているカラクリとやらについては、教えて差し上げるようなことはいたしません。それはいつか気付くものですから。
人に教えられて理解できるものなど、この世にはございません。苦しみ、血を流し、のたうち回った末に、ようやっと自分のものにできるのです。
安易に答えにたどり着こうとしてはなりません。生きている間は、近道などございませんので。
あぁ、ゆらゆらとたなびく紫煙のなんと儚いこと。この刹那を、私はいつか失ってしまうのかと思うと、いつだって胸が苦しくなるのです。
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