第3話 参
正義とはある種の暴力であり、それを翳せば、必ず他の誰かが追い詰められる。己が正義が、万人にとって正しいとは限らない。
センセはそう仰っていました。
そんな正義を振りかざしたことのあるセンセは、己の非力さと矛盾を是とした世の中の欺瞞に失望し、すべてを諦めてしまいました。来る日も来る日も背中を丸めて、あの入側縁から外の世界を遠く眺めているのです。
諦念と無欲。
それがセンセの選んだ装いですが、限りなく本心に近い部分では、違う想いが燻っていることを私は知っていました。
可哀想なセンセ。
自分の思うとおりに行動しないだなんて、いったい誰に対する遠慮なのでしょうか。
本当に可哀想なセンセ。
だから、私が慰めて差し上げようとするのに、いつもセンセはするりとこの手から逃げてしまう。本当に困ったお人です。
でも、私は知っているのです。センセが本当は心の奥底では、それを期待しているということを。
どうしたって私たちにはわかってしまうのです。その瞳に。その吐息に。その指先に。すべては込められているのです。だって、捨てることはできませんし、逃れることもできないのですから。
本当に楽になる方法は捨てることではありません。皆さん、よく誤解をなされていますが、それは違うのです。
本当に楽になりたいのであれば、すべてを受け入れてしまうことです。あらゆる物事を、感情を、過去も未来をも、すべてを呑み込んでしまうのです。一度腹に収めてしまえば、些細なことは気にならなくなるものです。
おや、ご存知ありませんでしたか?
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