逆光

星陰 ツキト

この世界はぼくには眩しすぎる




"ひかり"があるから"やみ"がある。

"ひかり"があるから"かげ"がある。


ぼくは、ひかりでも、やみでも、かげでもない。

写真を撮るときに眩しすぎて目を瞑ってしまうような、もしくは、逆光で暗くなってしまったような、そんなどっちつかずの曖昧なのがぼくという人間だ。





いつもの朝の道を、自分の足を目で追うようにして歩く。

斜め前から照らす太陽が、ぼくには眩しすぎて顔をあげられない。

それなのに、目を細めて少しまわりを見てみると、みんな、平然とした顔でこのあかるい世界を歩いているんだ。

スマホをいじりながらも器用に人を避けながら歩く人、腕時計を見ながら汗だくで走っている人、無表情でまっすぐ前を向いて歩く人、手を繋いで肩を寄せあって歩く恋人たち。

どれもこれも、ぼくには眩しい。

前を向いて歩くことすらできないぼくは、いつも下を向いて自分の足と影をずっと見ている。

それでも、地面が反射するひかりまでもぼくには眩しくて、ときどき目をぎゅっと瞑って、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。

眩しいならサングラス?

そんなもの、論外だ。ぼくには似合わないし、お洒落な人が使うようなものを使う勇気なんてぼくにはない。

それに、サングラスをしたってぼくには、眩しくて仕方がないはずだ。

スマホのひかりは眩しいと思わないのに、どうしてこんなにも外のひかりは眩しいのだろう。










しとしとしと、ぴちゃぴちゃぴちゃ。

くるくると、右手でさした傘がときどきまわる。

雨の日は、すこし楽。

雨の日は、晴れてるよりは眩しくない。

だから雨の日は、すこしだけ、いつもより顔をあげて歩く。

しとしとしと、ぴちゃぴちゃぴちゃ。

それでもやっぱり雲をとおしてやってくるひかりは眩しくて、ぼくの視界の中心にはぼくの足が居座っている。

しとしとしと、ぴちゃぴちゃぴちゃ。

ぼくの足が地面におりるたび、ほんのすこしだけ跳ねる雫。

傘におちる、雨粒の音。

足早に過ぎ去るだれかの足音。

ぼくは、雨にもなれない。

多くの人には嫌われても、多大な恩恵をのこす雨にも。




ぼくは、ただの、逆光を歩く人。

"やみ"も"かげ"も、だれかの拠り所になれるのに、ぼくはそんな、"やみ"とか"かげ"にさえもなれない。

ましてや"ひかり"になるなんて、もってのほか。

ぼくには、なんでも話せる友達も、大好きな恋人も、才能も、特技も、人を楽しませる会話力も、リーダー性も、なんにもない。

人より優れたものなど、ぼくにはひとつもなくて。

ぼくにあるものなんて、なにひとつ不自由ない体ひとつだけ。

この、あてもなくただ動いているだけの体だけ。

だれのためにもなれない、無意味なぼく。

ただただうつむいて、ひかりのなかを歩いてる。

だからぼくは逆光で。

なんの役にもたたない逆光と、ぼくは同じ。



眩しくて、眩しくて仕方がないのに闇にも影にもなれないぼく。

それでもぼくは、この世界で歩き続ける。

眩しさから逃げて、この眩しさに目を開けられなくなったら嫌だから。

目を細めながらも開けていられる今にぼくは、すがりつきたいから。




いつかぼくが、なにかのための、光か闇か陰になれるときがくることを願いながら、ぼくはいつまでもどこまでも、逆光のなかを歩き続ける。



逆光にしかなれないぼくは、今日も逆光のなかを歩いていく。




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