20 涙の別れ

 爽やかなそよ風が舞う美しい草原にティノ達が到着した。

雲一つ無い抜けるような青空、何処までも続く若草色の草原、小鳥のさえずりが美しく響き渡り、穏やかで優しさに包まれた景色が広がっている。

ティノ達の旅の疲れも癒やされて、つい数日前まで、死ぬか生きるかの戦いをしていたとは思えない程、穏やかな時間が過ぎている。

「ねぇティノ、この小鳥達の声、良いでしょ・・・この声は、私が考えたの」

ハーミィが言った。

「本当に!それは素晴らしい、ハーミィのセンスは抜群だよ!」ティノが言った。

「それにしてもさ、ハーミィ達音の妖精って凄いね、この地球のあらゆる音を考えたんだもの」モナがハーミィを讃えて言った。

「うう~ん、私達音の妖精はただ、言われた事をしただけ、素晴らしいのは、ベリータ女王様、女王様の素晴らしい感性が、美しい音を創り出す源なのよ、そのベリータ女王様にお会いしなくちゃ・・・」ハーミィが言った。

「そう、そうよそうよ、ベリータ女王様にお会いしなくちゃ」モナが言った。

「でも、もう少し先ね、まずは人間の世界の戦争を終わらせないと」セレーナが言った。

「うん」ティノも同意した。


 ティノ達には、平和が戻った。

だが、ティノ達には、まだやるべき事が残されていた。

既にヨーロッパ全土に広がった戦争はまだ終結していない、ザルーラの魔力は無力化してはいるが、人間の心に残る恨み、憎しみは、全て消えてはいなかったからだ。

戦禍は広がり、悲惨な戦争が繰り返され、戦争の嵐はヨーロッパだけに留まらず世界に飛び火していた。この戦争は、終結の道が見えないでいる。

殺戮を繰り返すあまり、ザルーラの魔力が消えても、人間達が互いに報復を考え、異様な音を発する武器弾薬がさらに増え出していた。


「ティノ、セレーナさん、そしてモナさん、ラムダル国に平和は来たが、まだ人間の世界の戦争は続いておる、その戦争を一刻も早く終結させねばなるまいて」エルダルスが三人言った。

「エルダルス、どうしたらいいの」ティノが聞いた。


 しかし、いつものエルダルスと少し様子が違う、何か言いたげだが、直ぐに話をしなかった。エルダルスが目を閉じて口ごもっている。

「早く教えてよエルダルス、私達が出来る事はなんでもするから」モナが言った。

「そうよ、もうここまで来たら、危険だろうとなんだろうと、私達覚悟を決めるわ、私達で出来る事なら、直ぐに」セレーナも言った。

「では、みなが同じ気持ちじゃという事で、早速戦争を終わらせる作戦としようかの」

エルダルスが笑みを浮かべて言った。

「まずは、彼をよばんとなぁ・・・」エルダルスが呟いた。

「彼?」モナが言った。


 エルダルスは、両手を大きく天に向け、呪文を唱え始めた。

すると、透き通る青空の彼方から、なにやら鳥らしきものが近づいてきた。

ティノ達が上空をじっと見ていると、やはり鳥の様だ。

鳥は、ティノ達に向かって急降下して来た。


「ああ・・・あれあれ・・・」モナが鳥を見て叫んだ。

「あれは・・・」ティノもポカンと口を開けて鳥を見ていた。


大空から飛来した鳥が、ティノ達の前に降り立った。

「お久しぶりですねぇ・・・・」

「やっぱりだ、ベゼーラ、ベゼーラじゃないの、また会えたねぇ・・・」モナが言った。

「ええ、また・・・きっとこの日が来ると信じてましたよ」ベゼーラが言った。

「この日がって?」モナが尋ねた。


「ティノ、モナさん、セレーナさん、ベゼーラに乗って、戦地に向かって欲しいのじゃよ」

エルダルスは、ベゼーラに三人を乗せて、上空から魔法のヴァイオリンを奏で、戦地の人間達に音を届け、恨みと憎しみを無くす作戦を話した。

ひたすら、ヴァイオリンの音色を奏で続け、兵士達の心を変える作戦だった。


「ティノ、戦地は危険に満ちているのでな、十分注意するんじゃよ」エルダルスが言った。


「解ったエルダルス、でエルダルスはどうやって飛ぶの?」ティノが尋ねた。

「わしか・・・わしは行かんよ、わし達の役目は、ここまでじゃなティノ・・・これからは、ティノお前さんに託すわい」

「託す?わし達って?・・・じゃミハエルやハーミィも行かないって事?」モナが尋ねた。

「ああ、わし達は、森が似合っておる、お前さん達の世界で姿を表す訳にもいかん、この先は、三人して解決するんじゃ」エルダルスが言った。

エルダルスは、ここで別れ、馬達を故郷まで誘導して行くと言う。

ハーミィだけは、ティノ達を無事にクレモナに帰還するまで一緒について行く事になった。


 エルダルスの突然の別れ話で、ティノ達はとても動揺した。

モナとセレーナの目から涙が流れ落ちている。

「これからも一緒に居ようよ、私達がなんとかするから」モナが言った。

モナの説得でも、エルダルスの気持ちは変わらなかった。

そして、戦場の戦禍を収集するには時間も無い、直ぐに出立するようにと、エルダルスが強く言った。

「解ったエルダルス」ティノが呟いた。

「そうね、人間達の過ちは、人間達で解決しなくちゃね、とにかく戦場の恨みと憎しみを無くして、この戦争を終わらせるから」セレーナが涙ながらに言った。

モナとセレーナは、流れる涙をぬぐうこともせず、エルダルスとハグをし、別れを惜しんでいる。


 その後三人は、ベゼーラの背中に乗った。

「では、ここでお別れじゃ・・・必ず戦争を終わらせクレモナに戻るんじゃよ、また何時の日か会える日が来るじゃろうて」

ベゼーラは、三人を乗せて大きな羽根を羽ばたかせた。

「さようならエルダルス・・・さようならミハエル・・・さようならステファノ・・・」

「元気でなぁ・・・」

みんなの声がアルプスの山々に木霊していった。


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