17 愛の樹
都は実に広大だった。
ラビソールに乗って飛び続けていると、都の美しい青空の所々で、黒ずんだ雲が不気味に現れる。怨念の魂が都の上空に出没している姿だった。
だが、思いやりの心に守られた都は、怨念の魂をはねのけている。
その黒雲は、ティノ達が都の中心に近づくけば近づく程見えなくなり、醜い音も消えていた。
しばらくして、最初の宮殿を遙かに超える、立派で美しい宮殿が見えてきた。
「なんて綺麗なお城なの・・・」モナが叫んだ。
「さっきの宮殿が凄いと思ったのに、あの宮殿は、それ以上に素晴らしい、奇跡の様な宮殿だ!」ティノも叫んだ。
ティノ達は、宮殿のほぼ中央にある広場に降り立った。
ぐるぐると宮殿を見回しながら、あまりの美しい光景に圧倒されていた。
宮殿の外観は、ギリシャ・ローマの古代遺跡の神殿を彷彿とさせ、黄金や宝石をちりばめ、光輝かせている様な造りだ。
宮殿の周りには、美しいドレスを身につけた、人達が大勢見えている。
思いやりの都に入った時と同じで、空中を飛び回る人や、歌を歌う人、楽器を奏でる人など大勢の人がそこには居るが、皆穏やかで幸せに満ちた顔をしていた。
平安に満ちた風、そして安らかなかおり香が宮殿に満ちている。
「なんて、素敵な場所なの・・・なんて幸せそうな人達なの・・・」モナが呟いた。
「ああ、本当に、幸せそうな人達だね」ティノが言った。
「お兄ちゃん、ここ天国って所なのかな」モナが言った。
「ああ、本当にそうかもしれないな」ティノも感心して言った。
みんなが、宮殿の美しさに感激していると
「やっと着きましたね・・・」と若者の声が聞こえた。
「ティノ、ほんとやっと着いたわね」と女性の声も聞こえた。
その姿も声も、明らかにフランチェスコとロザンナだが、少し前に会った姿では無かった。
「フランチェスコさん?あれ、本当にフランチェスコさん?」モナが尋ねた。
「お婆ちゃんも、全然違う」ティノが言った。
ロザンナの衣服は、赤いバラや青いバラ、真珠やダイアモンドがちりばめられ、それはそれは美しいドレスだった。
フランチェスコが、微笑みながら言った。
「勿論、私です、フランチェスコです」
「でも、さっきの姿じゃないわ」モナが言った。
「ははっは・・・驚くことが一杯でしょう・・・」フランチェスコが笑った。
「この都では、自分の意思で好きな年齢に変われるのです、老人が良ければ老人、若くいたいなら若くもなれる、若くと言っても子供にまでは戻れませんがね、とにかく同じです。先ほどの宮殿では、私は長老故に、あの様な姿でしたが、この宮殿に来たので、私は、若返る事にしました」
「えぇ、じゃ永遠に若くいられるの?」
「そう、若い姿でいたいなら、永遠によ、モナちゃん」とロザンナが言った。
「すご~い!」モナが驚いて叫んだ。
ティノは、あまりに不思議な出来事ばかりで言葉が出なかった。
モナとティノが、思いやりの都に感動していると
「愛の樹は、何処にあるのですかフランチェスコさん」とセレーナが深刻な顔で尋ねた。
セレーナは、早く愛の樹から、魂柱を造りたくて、気が気ではなっかった。
セレーナの切実な心が、みんなに伝わった。
フランチェスコは、セレーナの気持ちを察し、早速、宮殿の庭園へ案内した。
宮殿の美しさはもとより、庭園の美しさは、ティノ達をさらに驚かせた。
広大な敷地に赤・青・黄・オレンジ、あらゆる色の花が咲きそろい、鮮やかな緑に染まる植物が地を覆っている。
庭園の中央に、キラキラと輝く樹木が一つだけ茂っていた。
輝きは、金・銀そして紫の輝きを放っている。
「あ、あの樹が、愛の樹?」モナが言った。
「あれが愛の樹なのね、噂には聞いた事があったけど、見るのは初めて」
ハーミィも言った。
「はい、あの樹こそが、愛の樹です」フランチェスコが答えた。
「ほんと、ようやく辿り着いたわ」セレーナは、愛の樹を見て、涙ぐんだ。
みんなは、愛の樹まで一歩一歩近づいていった。
ティノ達が、愛の樹に近づくと、
「お帰りなさい・・・」
「よく来ましたね・・・」
「ありがとう・・・」と都に住む人々が、近づいては声をかけてきた。
その言葉は、優しさに包まれていて、愛の樹に近づけば近づく程に、みんなの心が癒やされていった。
いつの間にか、ティノ達の周りには、沢山の人々が集まり、ティノ達を囲んで、ティノ達を祝福するように、みんなが優しく微笑んでいる。
愛の樹の周りに集った人々は、みな穏やかで、優しい顔をしている。その姿を見ているだけでも、なんとも、穏やかで、なんとも言えない安らぎが心に満ちてくる。
みんなは、心の底から平穏で慈しみと思いやりの心に満たされていった。
「ああ・・・なんて幸せな気分・・・」セレーナが呟いた。
「ほんとうに、気持ちがとっても、とっても楽になるわ」モナも言った。
「そうでしょうモナちゃん、セレーナさん・・・愛の樹は、愛の樹が誕生した時から、ずーっと、ずーっと、愛する心のエネルギーを放ち続けているの」ロザンナが言った。
「愛する心を放っているって?」セレーナが尋ねた。
「そう、人間や動物、全ての生きる存在は、愛こそが始まり、その愛の心を、この樹が育み、生命あるもの全てに注がれているのです」フランチェスコが言った。
「それじゃ、私達の心に宿る愛は、この樹から来ているの?」モナが尋ねた。
「その通りよ、モナちゃん、まさに、そうなの、この愛の樹が有るから、私達にみんなが、愛の心を持つことが出来るのよ」ロザンナが言った。
「そう、この愛の樹が私達の生きる源なのです・・・」フランチェスコが言った。
人間も動物もみな、愛の樹から注がれる、愛のエネルギーを受けて育っていた。
その心が注がれている限り、人間の世界は滅びやしない。
人間や動物の生命の根源とも言えるのが、この愛の樹から、注がれている「愛の心」だと、フランチェスコは説明した。
しかし、その愛の心を破壊しようと企む、ザルーラ達が人間世界を滅ぼそうと企み、その影響は、徐々に、この都に近づいている。
「万が一にでも、この愛の樹が枯れる事があったら、人間も動物も全てが消滅してしまうわ」ロザンナが言った。
「そんな・・・」モナが叫んだ。
「モナちゃん、万が一の話よ、そんな事にならない為に、みんながここに来たの、魔法のヴァイオリンで、全てが守られる様にね・・・」ロザンナが言った。
みんなが大きく頷いた。
「一刻も早く、ザルーラの魔力を消しさらないと、駄目だ!」ティノが叫んだ。
「愛の樹で、魂柱を造るって、どうしたら、いいの?」とセレーナがフランチェスコとロザンナに尋ねた。
セレーナが質問すると、ロザンナが、ティノとモナの手をとり
「それじゃ、愛の樹を、みんなで囲みましょう」と言った。
ロザンナは、ティノ達みんなの手をつなぎ合わせ、愛の樹を囲ませた。
それから、「フランチェスコさんお願い」と言った。
フランチェスコは、ロザンナの呼びかけに応じ祈りを捧げた。
フランチェスコが祈りを捧げていると、愛の樹がさらに光を輝かせ、みんなの目の前に映像が現れた。その映像は、ティノ達が魔法のヴァイオリンを造る為に歩んできた出来事が走馬燈のように描き出されている。
ハーミィとの出会い、ベリータ女王の願い、パルモラとの出会い、エルダルスとの旅、そして、樹の精、岩の妖精が次々に映し出され、続いて、魔法の樹が、にっこり微笑み「ありがとう・・・」と言い、メープルの樹が「嬉しい」と言って泣いている姿が映された。
その様子を見ていたセレーナは、大粒の涙を流し、ティノとモナは、感激で震えている。
そして次の瞬間、愛の樹から、まるで木の葉が舞い降りる様に、金色に輝く小さな棒がティノの前に降りてきた。
ティノは、思わず手をかざし、その小さな棒を受け取った。
ティノの手が金色に輝くほど、光に包まれた棒だった。
ピカ・・・ピカ・・・ピカ・・・
魂柱は、ゆっくりしたリズムで輝いている。それは、まるで生きている心臓の鼓動の様なリズムだ。
「これが魂柱、まるで生きている様だ・・・」ティノは、その光輝く棒を見ながら言った。
「ええ、それこそが、魔法のヴァイオリンの魂柱です、愛の魂柱なのです」
フランチェスコが言った。
「さあ、魂柱を、魔法のヴァイオリンに付けてみて・・・」ロザンナが言った。
「はい、お婆ちゃん・・・」ティノが返事をして、早速、魔法のヴァイオリンに魂柱をはめ込んだ。
魂柱は、ヴァイオリンの中央にある空洞から、中にはめ込む様になっている、
表板と裏板を繋ぐ、柱の様にはめ込む作業だ。
魂柱がはめ込まれると、表板の振動が、魂柱を通じて裏板に伝達され、表板と裏板が魂柱を通じて、一つとなる。表板の共鳴が裏板の共鳴と一つにさせる、大切な役割を魂柱はになっていた。
愛の樹の魂柱が、魔法の樹とメープルの樹をつなぎ合わせ、魔法のヴァイオリンの音は完全なものとなる。
魂柱が完全に装着した瞬間だった。
魔法のヴァイオリンは、まるで一つの生命体の様に輝きだし、魂柱は、その中心で、心臓の鼓動の様に輝いている。
魔法のヴァイオリンは、今まで見た事もない、美しい光を放ちだした。
キラキラ・キラキラ・キラキラ・キラキラ
その光は眩しく、美しく、気品が漂っている。
「凄い、凄すぎる・・・」ティノは、その光景に感激して叫んだ。
「さあ、セレーナさん、音を奏でてみて下さい」フランチェスコが言った。
「ええ・・・では・・・」セレーナは、ベリータ女王から授かった弓を握り、魔法のヴァイオリンを奏でた。
セレーナが奏でる魔法のヴァイオリンの音色は、それはそれは美しく、優しく、天に登りつめる音色となって、思いやりの都に響いている。
「なんて美しいの、なんて優しいの・・・」モナが言った。
セレーナは、演奏をしながら泣いていた。
涙が頬からこぼれ落ち、全身感激に包まれている。
愛の樹の周りには、大勢の人々が集まってきて、ティノ達を祝福した。
「ブラボー・・・ブラボー・・・」
「素晴らしい・・・・」
「素敵だ・・・・」
都の人々が歓喜に酔いしれている。
「ティノさん、みなさん、魔法のヴァイオリンは、完璧となりましたね、これでザルーラの魔力を消し去る事が出来ます、よくぞ、ここまで辛抱してくれましたね」
フランチェスコは、ティノにハグして喜んだ。
ロザンナもモナとセレーナを抱き寄せ、大粒の涙を流した。
ハーミィも、モナの周りを、嬉しくてぐるぐると飛び回った。
都の人々の拍手が鳴り響き、都全体が喜びと愛に包まれていた。
それから、わずかな時間だが、ティノ達は、思いやりの都の宮殿を案内され、思いやりの都の偉大さと素晴らしさを感じた。
ティノ、モナ、セレーナそしてハーミィ みんなが感動に酔いしれていると
「本当は、この都でもう少しゆっくりしてもらいたいですが、直ぐにでもザルーラの魔力を止める為に、ラムダル国に行ってもらわなくてはなりませんね」
とフランチェスコが言った。
「ええ、そうですね、エルダルスとパルモラ達も待っているので、直ぐに・・・」ティノが言った。
魔法のヴァイオリンが完成しても、ザルーラの魔力を消し去れなければ、この旅は終わらない、ティノ達は、わずかな時間、思いやりの都の人々の優しさに触れる時間を持ち、直ぐに、エルダルスの待つ、滝へと帰る事にした。
「フランチェスコさん、お婆ちゃん、本当に有り難う、直ぐにエルダルスと再会して、ザルーラのラムダル国に向かいます」ティノは、力強く言った。
「気をつけて、ティノ。そして、モナちゃん、セレーナさん、ハーミィさん、必ずみんなで、ザルーラの魔力を止められると信じてるわ」ロザンナが励ました。
「ええ、お婆ちゃん、必ずやるから」モナが言った。
フランチェスコとティノは、堅い握手をし、ロザンナは、モナとセレーナ、そしてハーミィに思いやりの都に咲く花を一輪づつ手渡した。
「この花は、何時までも枯れる事がないのよ、だから、ずっと一緒に持っていて、私だと思って・・・」ロザンナがうっすらと目に涙を浮かべた。
「お婆ちゃん・・・」モナもうっすらと目に涙を浮かべ、ロザンナを抱きしめた。
「それじゃ、元気で!また何時の日か会うのを楽しみにしてるわ」
ロザンナがみんなにお別れの言葉を言った。
「ええ、お婆ちゃんも元気で・・・と言うか、永遠に元気なんだよね、ははは」ティノが笑った。
みんなも笑った。
「さようなら、フランチェスコさん、さようならロザンナお婆ちゃん・・・」ティノは、都のみんなに大きく手を振り別れの挨拶をした。
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