14 雪の魔女

 ザルーラが、恐ろしい軍隊をヨーロッパの国々に送り出した頃、ティノ達一行は

アルプスの山々を超えて、古文書に書かれた、「愛の樹」を探す旅を始めていた。

古文書に書かれた、グローラス湖とコルヴェリオ峠を見つけ出す旅でもある。

エルダルスは、かなり昔から、この湖のありかを探していた、しかし、探しても探しても、愛の樹の場所は見つけ出せなかったが、唯一、愛の樹に至る方角は、古文書から読み取っていた。

エルダルスの誘導に従ってティノ、モナ、セレーナの三人に加え、ハーミィ、白馬パルモラ・ステファノ達、そして天使ミハエルが、山々を越え進んだ。


「ねぇエルダルス、グローラス湖まで、あとどのくらい掛かるの?」モナが尋ねた。

「そうじゃの、あと少しすれば、その湖を見つける事が出来ると思っておるがな、しかし・・・まだ、わからん」

「そう、あと少しって・・・何十日、それとも何百日」モナがまた嘆いた。

「モナ、そう嘆くな、みんながこの事を決めたんだからね、エルダルスに従おうよ」ティノが言った。

「ティノさん、グローラスと言う湖ですが、見るも恐ろしい水の龍なる化け物が住むと言い伝えられております、しかしその湖を通過しなければ、愛の樹がある場所にはたどり着かない、ですから、用心しなければなりません」天使ミハエルが言った。

「その化け物の話は、古文書にも書かれておる、身の丈が、二十メートルにも及ぶ巨大な化け物と、しかも水中と陸を自由に往来するとも書かれておる」エルダレスが言った。

「それって絶滅した恐竜みないなもの?それともドラゴン?」ティノが聞いた。

「どんな化け物かは解らぬが、ティノが言う様なものだろうて」エルダルスが返事をした。

「どんな恐ろしい化け物でも、みんなが居れば大丈夫よ、やっつけるしかないわよ」

モナが威勢良く叫んだ。

「モナちゃんらしいわね・・・その意気込みがあれば大丈夫よね」セレーナが言った。

しかし、ティノの脳裏には、一抹の不安がよぎっていた。


 ティノ達一行は、雪の積もるアルプスの山中をひたすら旅し続けた。

魔法の樹の森を探す旅同様に、来る日も来る日も雪景色の中、アルプス山脈を歩むのは、辛い出来事の連続だった。

幾日も旅を続け、いつの間にか、アルプス山脈とは幾分違う景色の森に入っていった。

雪景色には変わりないが、明らかにアルプスの山々とは違っている。

雪に覆われた樹木は、数十メートルものび、日差しはうっすらとしか差し込まず、昼間であるにもかかわらず、夕暮れの様に薄暗かった。

何より異様な霊気が漂っている。なんとも薄気味悪い森だ。

ティノ達一行が、その森の中を進んでいると、風も無いのに、樹木が揺れ動く。

ドド~ン・・・雪が積もる樹木から雪が落ちた。

「まて、なにやら様子がおかしいわい、何かつけている者がいそうじゃて」

エルダルスが、一行の歩きを止めた。

雪深い森は、夕暮れとなってますます薄気味悪い空気が深まっている。


「もしや・・・みんなは、ここに留まっておれ、わしが見てくる」

エルダレスが独り行こうとすると

「では、私も・・・」と天使ミハエルが声をかけた。

「僕も行きます」とティノも声をかけ、一緒に様子を見に行った。

エルダルスとミハエル、ティノが数十メートル進み始めると、藪の中で、また、ゴソゴソと音が鳴り出した。

エルダルスとミハエルが、気配を感じて身構えると、森の木々が大きく揺れ雪交じりの突風が吹き始め、突如の吹雪となった。

エルダルス達は、吹雪をかき分けつつ前に進んだ。

「そこにおるのは、雪の魔女じゃろう・・・」エルダレスが叫んだ。

「そうか、山奥に住むと言う雪女」ミハエルが言った。

「えっ、お爺ちゃんが命からがら逃げたって言ってた雪女?うそだろ」ティノが呟いた。

すると、吹雪はさらに強まり、エルダルスとミハエルは、吹雪で後ずさりした。

ティノは、強烈な風に煽られ前にも進めず、木陰に身体を寄せ様子をうかがったが

その樹木さえ強烈な風でへし折られた、たちまちティノは、数メートルも、飛ばされた。

大慌てで、近くの樹に捕まったものの、あまりに強烈な吹雪に、ティノは全く動きがとれない。

「ねぇ!!エルダルス、なんとか止められないの!」ティノの声が森に木霊する。

するとエルダルスは、吹雪の中で、仁王立ちとなり

「モル・ジョラ・サラーモ」と呪文を唱えた。

呪文が森に木霊すると、吹雪に向かって風が吹き出し、吹雪を押し返した。

ミハエルがすかさず、吹雪が吹き上がる先へ、大きな羽根を広げて進んだ。

吹雪の勢いが、エルダルスの呪文で一瞬和らいだが、ミハエルが吹雪の中心に近づくと、吹雪はさらに猛烈な勢いで吹き付け、ミハエルの羽根が強風に煽られ、バランスを崩し地面に叩きつけられた。あっという間に、ミハエルは雪に覆われ、身動きがとれなくなった。

「ううう・・・なんて吹雪だ!」ミハエルがうごめいた。

「大丈夫か、ミハエル!」エルダルスが叫んだ。


 すると、森のあちらこちらから、老婆の声が木霊した。

「お前達は、何者じゃ・・・何しに、この森に入った!」恐ろしげな声だ。

「早くこの森から出て行かぬと、命は無いぞ・・・」

恐ろしい声は、あちららからこちらから、響き渡って、幾十も魔女が居るかの様だ。

吹雪はさらに強さを増し、エルダルスの魔法さえも途絶え始めていた。


 エルダルスとミハエルがたじろいでいると

「ねえ!雪の魔女!、なんで私達をいじめるのよ、命が無いって、私達何か悪いことしたっていうの、この森に入っただけじゃないの、なんで意地悪するのよ!」

大声を張り上げたのは、モナだった。

「そう、私達は、あなたに害を加えに来た訳じゃないわ、私達は、愛の樹を探しているだけなの、もう、吹雪を止めて」セレーナも、モナと一緒に叫んだ。

二人の声が森中に木霊した。

すると、荒れ狂う吹雪が徐々に止み始めた。


「愛の樹だと・・・」森の奥から、老婆の声が聞こえた。

「そう、愛の樹探しているだけなんだってば、命が無いとか帰れとか、なんでそんな脅かすのよ」モナがまた大声で言った。

「そう、私達は、悪い者じゃないわ、あなたをこらし虐めに来たんじゃないわ、だから、吹雪も止めて下さい」セレーナも、老婆に再び言った。

モナとセレーナの必死の声が森中に響くと、モーレツな吹雪がぴたりと止んだ。 

吹雪が止んで直ぐさま、森の奥深くから、白い衣服を身につけた老婆が姿を現した。

髪も真っ白、血の気がないように真っ白い皮膚で、しわくちゃだらけの顔、まるで死人が蘇った様な異様さだった。

その姿には流石にモナも驚いた。まるで幽霊が現れた様に見えたからだ。

雪の魔女は、すーと音も立てずに、モナに近づき言った。 

「なんだね、なんだね、娘達、愛の樹を探していると、いったい、あんた達は誰だ」

「それは、こちらの台詞よ、雪の魔女とか言うそうだけど、いったい私達何か悪いことしたっていうの?」モナがふくれ顔で言った。

「人間は、信用がならん」

「信用がならんって、初めて会うのに何が解るって言うの」モナが言った。

「第一、この森に入ったらなんで駄目なの?」モナが威勢良く叫んだ。


その声が森に木霊すると、雪の魔女が、モナに近づいた。

「モナに手を掛けるな!」雪の魔女に向かってティノが叫んだ。

すると雪の固まりが、ティノに向かってバタバタと飛びティノの身体に当たった。

「お兄ちゃんに、何すんのよ」モナが苛立って叫び、雪の固まりを雪の魔女に向けて投げつけた。

バシャーン、モナの投げた雪が、魔女の顔を直撃した。

「随分威勢の良い娘じゃわ・・・」

「みんなをいじめたら承知しないから!、私達悪者じゃないから、あなたを退治しに来たんじゃないから!」モナが叫んだ。

モナは、全身を震わせながら、魔女に訴えた。

「人間はみな信用が出来ぬわ、森を汚し、我らの仲間を殺す者ばかりだ」

「そんなんじゃないわよ、違うから!」モナがまた言った。

「何が違う?今まで、この森に入った人間達は、みな酷い者ばかりだ、森の動物を殺し、宝石を見つけては森を荒らし続けた、お前さんらも同じ人間、信じられんわ」

「魔女さん、本当に、私達この森で悪い事しに来たんじゃないの、愛の樹を探している旅をして、この森に入っただけなの」セレーナが言った。


モナとセレーナが雪の魔女と話を始めた時、エルダルスとミハエルが近づいた。

エルダルスが、手をかざし、魔法を掛けようとした瞬間。

「近くに寄るな!」雪の魔女が叫んだ。

叫んだ瞬間、雪の魔女がモナに魔法を掛け、モナは、ズズズズと魔女の足下に引き寄せられ、身動きがとれない。

「なにすんの!」モナがわめいたが、雪の魔女の魔法で、モナの身体に、雪と氷が絡みつき、氷でがんじがらめになった。

「やめろ!」ティノが叫んだ。

「それ以上近寄ると、この娘の命は無いぞ、この氷が身体を覆い尽くせば死ぬわ」

雪の魔女が恐ろしい声で叫んだ。

モナの身体は、ほとんど氷で覆われてしまった。

「うううう・・・・」モナが凍りついて、苦しんでいる。

みんなは、モナが捕まっているので、身動きが出来ないでいる。


「お前達、愛の樹を探していると言ったな」雪の魔女が聞いてきた。

「そう、愛の樹を探しているだけだ」ティノが言った。

「愛の樹を探しておるなら、なおの事、この先は通せぬわ、どうせ金目当てだろう」雪の魔女が言った。

「金目当て?冗談じゃない!悪の世を終わらせるためだ」ティノが答えた。

「悪の世を終わらせるじゃと、信じられんわ、では、その悪とはなんじゃ・・・」

雪の魔女が聞いた。

「戦争や殺し合いや、憎んだり恨んだりする世界こそ、悪だ」ティノが答えた。

ティノがそう答えると、雪の魔女がホホホホホホ・・・と苦笑いした。

「その悪とやらは、お前達人間そのものじゃわ、動物も自然も悪なんて無かった、その悪を終わらせるだと、嘘をつくならもう少しましな嘘をつくが良いわ、もっとも人間は、みな嘘ばかりつくから、お前も、その嘘つきに決まっておるがなぁ・・・」

「違う、僕達は、恨んだり憎んだりなんかしない!」ティノが叫んだ。

「ああ、そんな事信じられん・・・わたしゃ、ずっと人間達に騙されてきた、人間こそ悪そのもの、わたしゃ、その人間を恨む・・・しかいしするんじゃ、人間を懲らしめる」

 ティノと雪の魔女が話をしている時にも、モナの身体はどんどん冷えて、モナは気を失った。

「ああ・・・モナが・・・」ティノは拳を握りしめた。

「ねぇ・・・モナっちゃんが死んじゃうわ」セレーナが叫んだ。


「ここにいる人間は、みな嘘などつかない、良い人間だ」

かた固ず唾を飲んで見守っていたパルモラが声を上げた。

「馬が話をしおった、なんてこった!」

魔女は信じられないとばかり、目を丸くしてその姿を見つめた。

「魔女さん、私は、この人達を無事に、愛の樹がある所にお連れする事を願われている、決して騙すような人間なんかじゃない」パルモラが言った。

雪の魔女は、パルモラが話す姿を見て、とても驚いた。

「話す馬など見た事ないわ!何の魔法じゃ、そんな魔法は知らん、いったいどうやったんじゃ」魔女は、目を丸くして驚いてる、だが、モナの身体は刻々と冷えるばかり。

「どうやったって、私がやったのよ、言っとくけどスペシャルな魔法なんだからね、それより早く、その氷を溶かしてよ、モナちゃんが死んじゃうじゃない、何も悪い事してない人間を殺す方が、悪でしょう!」ハーミィが叫んだ。

「おやおや、こんどは、妖精かい・・・あんた達は何者なんじゃ・・・」

「いいかね雪の魔女、この若者達は、人間達の悪なる世界を終わらせるために、選ばれた者達なんじゃ、だから、これ以上暴れるのは止めるんだ」エルダルスが言った。

「雪の魔女よ、この方々は、世に救いをもたらす為に、選ばれた人達だ、魔女も、それには従わねばならない」拳を握りしめてミハエルも言った。


パルモラ、ハーミィ、エルダルス、ミハエルの説得で、魔女の様子が変わりはじめた。

「ねぇ、魔女さん、どんな恨みかは知らないけど、恨みを解くのに、暴力では何も解決なんかしないよ、しかいしをすればまたしかいしされる、同じ事の繰り返しなんだ」

ティノは、拳を握り、額から汗が噴き出して、魔女を説得した。

「そうだ、そうだ・・・恨みを解くのに、しかいしなんて駄目だよ」ハーミィが言った。

「そうだその通りだ!」パルモラも言った。

その姿を見ていた魔女の顔が少し和らいだ。

「ふん、私に説教かね、あんた達・・・」

だが、恐ろしい顔付だった魔女の姿は、少しだけ和らぎ始めていた。


 その様子を見ていたエルダルスが、セレーナに言った。

「セレーナ、あのヴァイオリンを弾くんじゃ!」

エルダルスの言葉に、セレーナは「ええ・・・」と返事し

大事に抱え持っていた、魔法のヴァイオリンが入っている箱を開き

すぐさま、魔法のヴァイオリンを弾き始めた。


 森中に、魔法のヴァイオリンの音色が響き渡った。

きらびやかで、美しい音色が響く。

雪に覆われた森に、魔法のヴァイオリンの音色が反響して、天国にでも居るような優しさに包まれた。

その音色が響き渡ると、雪の魔女の姿が大きく変わった。


「おや・・・なんとも良い気分じゃ・・・」

魔法のヴァイオリンの音色が、魔女の気持ちを穏やかにさせた。


 森中を駆け巡る美しい音色に魔女が引きつけられ

「人間達は、とんでもない奴らだが、あんた達は違うようじゃな」と言った。

魔法のヴァイオリンの音色に包まれた雪の魔女の様子がみるみる変わっていく。

幽霊の様な恐ろしい顔が穏やかな顔に変わった。

「僕達は、魔女さんを騙すなんて考えてもいない、恨みや憎しみ、それこそが魔物なんですよ」とティノが、雪の魔女に近づいて言った。

「そうよ、人間みんな悪い者じゃないわよ、ここに居るみんなは、優しくてよ、それに、人間が悪いと言うより、悪魔のせいよ」ハーミィが言った。

「悪魔・・・」魔女が呟いた。

雪の魔女は、魔法のヴァイオリンの音色に触れ、穏やになった。

すると、魔女は魔法で凍りついたモナの氷をさ~と溶かし、氷は、あっという間に跡形もなく消えた。

「うううう・・・・」気絶していたモナが目を覚ました。

「モナ!!・・・大丈夫かぁ」ティノが、モナの元に駆けつけ、心配そうに声を掛けると「お兄ちゃん、大丈夫よ!」とモナが元気な声を張り上げ、ティノに抱きつくと、はしゃぐように喜んでいる。

魔法のヴァイオリンの威力をみんなが確信した瞬間でもあった。


魔女は、モナの手を取り、「すまんかったの、娘さんよ」と謝った。

魔女がモナに向かって呪文を唱えると、温かそうな布きれが現れ、モナの身体を包み、ぐるぐるっと布きれが身体を巻いた。

モナの頬がほんのり赤く染まり、落ち着きを取り戻すと、モナが魔女に近寄り、

「魔女さん、お兄ちゃんが言うように、恨みや憎しみは魔物なの、そんな気持ちなくそうよ」と声をかけ魔女を許すことにした。


「ところで、あんた達、愛の樹の事なんで知ってるんじゃ」魔女が聞いてきた。

「そこに居る魔法使いのエルダルスから。僕達、その愛の樹を探して、この世の悪を消す事を願われているんだ。魔女さん、何か知ってるの?」ティノが魔女に尋ねた。

「・・・」魔女は、何か知っている気配だが、言葉は無かった。

「魔女さん、何か知ってるんでしょ・・・ねえ、愛の樹のありかじゃないの?」

モナが聞いた。

「僕達、その愛の樹で、魔法のヴァイオリンを完成させないといけないんだ、悪の世を終わらせるためにね。何か知ってるなら教えて、お願いだから」ティノが魔女に頭を下げて言った。

魔女は、ティノの顔とじっと見据え、う~ん・・・とうなり声をあげた。

「いくらあんた達が、善良な人間だとしてもじゃ、その事だけは教えられんなぁ」

「どうして、どうしてさ、これは、ものすごく大事な事なんだ、僕達の事、信じてよ」ティノが切実に言った。

「雪の魔女よ、何故に隠すのじゃ」エルダルスも尋ねた。

魔女は、なかなか口を開こうとしなかった。ひとしきり考え込んでいたが、ようやく口を開いて、秘密を話し始めた。

「昔からな、愛の樹を探す人間は後が絶たなかった、み~んな、人間の欲の為じゃった、愛の樹の樹液を口にすれば、永遠の命を得て、この世の王となれると言い伝えられてるからじゃ、だが、不思議なことに愛の樹は、この世の何処に見えんのじゃよ。そして、その愛の樹のありかは、誰にも解らぬ秘密なのじゃ。もし、そのありかを証せば、血みどろの戦いが起こる。だから人間達には、愛の樹のありかを教える訳にはいかんのよ」


「魔女さん、あなたの話は分かったわ、でも、私達は、欲の為に、ここに来たんじゃ無くてよ、本当に、本当に、悪なる世界を終わらせたくて、愛の樹を探していたの、その愛の樹がないと、私が手にしている魔法のヴァイオリンが完成しないからなの」

セレーナが言った。

「魔法のヴァイオリンとは、それかね?」魔女は、セレーナが手にするヴァイオリンを指さした。

「ええ、このヴァイオリンです、でも、完成してないの」セレーナが答えた。

「なんで、愛の樹がないと完成せんのかね」

セレーナは、ヴァイオリンの構造を説明した。そして、ヴァイオリンの空洞から、魂柱を指さし「この部分が魂柱よ、この魂柱を愛の樹で造れば、悪魔ザルーラの魔法を解き放てる、そうすれば、悪の世を終わらせる事が出来るの・・・だから、どうしても、愛の樹を見つけ出したいの、お願いよ魔女さん、愛の樹は何処にあるのか教えて」セレーナが切々と魔女に訴えた。


「うーん・・・困ったもんじゃの・・・」魔女は、考え込んでいた。

「ねえ、お願いよ」モナも深々と頭を下げた。

「お願いだ!」パルモラも言った。

「頼むから、教えて!」ハーミィも言った。


雪の魔女は、みんなの真剣な様子を見つめ、考え込んでいた。

「どうしたもんかの・・・」

「とにかく信じて!」モナが叫んだ。

「魔女さん、このヴァイオリンはね、魔法の樹の森で、命を捧げてくれた、魔法の樹で造ったの、とても素晴らしいヴァイオリンよ、みんなの命がけの愛で造られているの・・・命を掛けたみんなのためにもね、早く、愛の樹を手にしたいの」

セレーナの目は、涙が溢れ、頬を伝わり、地面にぽとりぽとりと落ちだした。


ティノ、モナ、セレーナ、ハーミィ、エルダルス、ミハエル

みんなが、魔女を囲み、頭を下げた。

「お願い・・・」「頼むから・・・」「お願いよ・・・」


「では、教えるしかあるまいのぉ・・・あんた達には根負けじゃ・・・」

すると、魔女は愛の樹の話を始めた。

「この森を越え、太陽が登る方向に向かって歩き続けるのじゃ、太陽が七度登ると湖が見えてくる、湖に着いたら、夜を迎え、満月の月明かりが水辺に浮かぶ時を待つのじゃ。さすると月明かりに照らされた水辺に、愛の樹の都に入る為の言葉が見えてくる。それを頼りにまた進むんじゃ・・・だがな、簡単に都へ入れぬぞ、恐ろしい危険と隣り合わせじゃ」

「もしやその湖には化け物が居る?」ティノが聞いた。

「そうじゃ、化け物がおる、化け物を退治せねば、都には辿り着かん」魔女が答えた。

「それからの、都には、古代人が造った城があると言われておる」

「それじゃよティノ、その古代人が造った城、それこそが、愛の樹の眠る街じゃて」エルダルスが言った。

雪の魔女は、事細かく、愛の樹の都の話を続けた。


「ありがとう魔女さん、じゃ、言われた様に行ってみる」

ティノが魔女に深々と頭を下げた。

「気をつけるんじゃよ、化け物は手強いから・・・」


雪の魔女の心から、いつの間にか、恨みや憎しみが消え去っていた。

むしろ、愛の樹の事を告げた事で、なにやら気持ちが落ち着いた様だ。

そんな様子を見ていたモナが、ティノに近づきささやいた。

「ねえ、お兄ちゃん、それにしても魔法のヴァイオリンって凄いね、魔女さんをこんなにも変えちゃったんだから・・・」

「ほんとだモナ、魔法のヴァイオリンは、魂柱が無くても、素晴らしい力を出せるって解ったよ、本当に悪なる世界を変えられるって思う。」ティノもひそひそと言った。


「何をごちゃごちゃ言っておる・・・さあ、満月が出るチャンスを逃すな、早くこの森を抜けるんじゃな・・・・湖までは太陽が七度じゃぞ、いいかね」

「はい、ありがとう魔女さん、必ず、愛の樹を見つけてみます、本当にありがとう」

ティノが深々と頭を下げて礼をした。

「ささ、なら、今すぐにここを発つがよい」魔女は、森を抜ける為の道を案内した。

「いろいろと有り難う、魔女さん、とにかく愛の樹を見つけ出しますからね」セレーナがそう言うと、みんなも一斉に「有り難う」と声を上げた。


それからティノ達は、魔女の言う通り、太陽が七度登るまで、ひたすら進んだ。

不思議にも、七度の太陽が昇るまでは、雨も降らず、曇りもせず、毎日太陽を見続ける事が出来た。

いつの間にやら、雪景色は消え、緑の草が茂る山々となった。

目の前にそびえ立つ山々も、ゴツゴツとした岩山から緑深き山へと変わった。

雪の魔女から離れて、わずか七日だというのに、まるで冬が終わり春を迎えた気持ちになる。みんな、とても幸せな気分になっていた。


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