13 ザルーラの魔力

 ティノ達が、魔法の樹の森を後にして、愛の樹を探す旅を始めた頃、ザルーラは、世界を破滅させる世にも恐ろしい戦争の準備を始めていた。

ザルーラは、恨みと憎しみを抱く人間を、ラムダル国へ集結させ、軍隊を編成させていた。ザルーラの魔力は、強大なものだった。

ラムダル国に誘導された人間達は、もともと、みな恨みと憎しみを持って生きている人間ばかりだったのだが、ラムダル国に入ると恨みと憎しみが何倍もふくれあがり、恐ろしい殺気に満ちていた。

その人間達は、数十万にも達しようとしていた。

人間達は、恨みの心と憎しみの心が増幅されると、より恐ろしい顔つきに変貌していった。


 「ザルーラ様、軍隊の編成が出来上がりました、これから人間の世界に、あやつらを送り込みます」ザルーラの手下である天使が言った。

ラムダル国の空は、黒ずんだ雲に覆われ、稲妻が走り、雷鳴が轟いた。

「そうか、ようやく人間達を滅ぼす時が来たか!」ザルーラは、手を握りしめ、この時を喜んでいるかの様だ。

「それにしても、愚かな人間どもだ、この軍隊が人間世界を滅ぼした暁に、あやつらも滅ぶとは思っておらんのだからな」ザルーラが言った。

「ザルーラ様、仰せの通り、まずは、人間の世界を破壊し、その後に・・・」天使が微笑んで言った。

「皆の者、これから戦だ!行くぞ」天使のひとりが雄叫びを上げた。

「おおおおお・・・・」人間は、一斉に叫びだした。

恨みと憎しみが覆った人間達は、まるで妖怪の様に恐ろしい姿だった。

軍隊の隊長らしき人間が、声を発した。

「俺は、奴らに、家族を殺された!恨んでも恨んでも、俺の気持ちは収まらぬ、早く、奴らを捕らえて、八つ裂きにしてやるんだ」

別な兵士が大声で叫んだ。

「ああ、俺も、ここに居るみんなも、同じだ、妻も子供も殺され、村中の仲間が殺されたんだ、あいつらが、全てを台無しにしやがった。絶対にゆるさん!」

「俺もだ・・・ゆるさねぇ!」

「そうだ、おれ達もだ、八つ裂きに!」

「皆殺しだ!」

「おー・・・おー・・・」

人間達は、みな、恨みと憎しみをあらわにして、一斉に、雄叫びをあげた。

集まられた人間の多くは、戦争や闘争で、虐げられ、家族が殺され、恨みと憎しみが心を支配している者だった。

恨みを解決する方法は、武器や武力しかないと、ザルーラ達に教え込まれた。

そのための、戦闘訓練を繰り広げてきた。

武器弾薬、あらゆる戦争の道具を、人間達が用意し、強大な軍隊が出来上がっていたのだ。

その軍隊から発する憎悪の気が、ラムダル国を覆い、光が差さない暗闇の国となった。


バッバッバァ・・・・

軍隊の先頭で、大きなラッパが鳴り響いた。醜く恐ろしい音色だ。

まさに憎悪のラッパの音色だった。

ダダダダダダダダ・・・

機関銃が空に向けて放たれた、殺戮の音がラムダル国中に響き渡った。

醜い、音が、次々と鳴り響く。

「おー・・・おー・・・」

その音につられて、軍隊の人間は、威勢よく叫んだ。

ザクザクザクザク・・・

ラムダル国に、その音色が轟くと、軍隊は雄叫びを上げ、行進を始めた。


軍隊は、ラムダル国を出て、ヨーロッパの国々に散らばって行った。




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