8 魔の手
ティノ達が、魔法の樹の森を目指しているこの時、ザルーラの手下ゴブリン達が、ティノ達の行方を追って、アルプスを進んでいた。
ゴブリン達は、ベリータ国と人間世界を行き来する、音の妖精、チャム、ベルンを捕まえた。チャムとベルンは、ゴブリン達が作った、鳥籠の様な牢屋に閉じ込められ、ハーミィの居所を教えろと拷問されていた。音の妖精達は、特別な方法で、連絡を取り合う事が出来る、ハーミィが不思議な弦楽器に閉じ込められた時だけは、ザルーラの魔力でそれもかなわなかったが、今は、何処に居るかテレパシーが通じるので解るのだが、チャムもベルンも、ティノ達が何処に向かっているか一切口を開かなかった。
仲間を苦境に立たせる訳にはいかないと、拷問に耐えていた。
「しぶとい奴らだ、お頭、いっその事、こいつらを殺したら、あいつらが驚いて、出てくるかもしれませんな」ゴブリンのひとりが言った。
「何だって、俺たちを殺す!」ベルンが叫んだ。
「殺したって、あの方達の行方なんか解らないよ、無駄だよ」とチャムが言った。
しかし、その一部始終を岩陰から見つめていたのが、スィーピーだった。
スィーピーは、仲間が殺されると聞いて、穏やかではなかった。
何とかしなければと
スィーピーは、すぐさま、ハーミィに伝えようと岩陰から出ようとした。
「おい、もう一匹妖精が居るぞ」スィーピーの姿をゴブリンが見つけた。
「捕まえますか・・・」
「いや、待て、捕まえるより、あの妖精を追え、追えば、あいつらの行方が解るかもしれん」ゴブリンは、スィーピーに気づかれないように尾行した。
スィーピーは、まさか尾行されているとは気づかず、ハーミィが居る森に向かった。
ハーミィは、チャムとベルンを助けたい一心で、ひたすら森の中を飛んで行った。
数日して、ハーミィが居る森を目前にしていたスィーピーだったが、ゴブリン達が追ってきている事を察知した。
「まずいわ」スィーピーは、ティノ達の居場所が解ってしまうとあせった。
「どうしよう、ハーミィにチャムとベルンの事を伝えないと、彼らが危ないし、でも、私が、ハーミィに会えば、ティノさん達が危険になる、どうしよう・・・」
しかし、スィーピーが心配している間に、ゴブリン達は、馬と人間が通った臭いを見つけてしまった。
「人間の臭いだ、この臭いを追いかけろ、もう近くに居るに違いない」ゴブリン達は、ものすごい勢いで、ティノ達の行方を追った。
魔の手がどんどん、ティノ達に近づく。
しかし、ティノ達は、全く気づいていなかった、山を進むだけで精一杯だったからだ。
スィーピーが躊躇する時間は無い、ハーミィ達に知らせなくてと必死だった。
「ハーミィ・・・ハーミィ・・・大変、ゴブリンが・・・」スィーピーが、ハーミィにテレパシーを送ると、ハーミィからの返答が。
「何だって、ゴブリンが・・・チャムとベルンが捕まってるって・・・」
ハーミィの驚きは半端ではなかった。
「ティノ、エルダルス、大変・・・大変」
ハーミィが、ティノとエルダルスに言った。
「捕まっとる、妖精達を助けねばならんな、いずれゴブリンがやってくるなら、ゴブリン達を待ち構えて、何とかせねばならん」エルダルスが言った。
「なら、私に考えがある、ねえ、エルダルス、森の野ねずみと山猫を集めてくれない」
ハーミィは、エルダルスにゴブリン撃退の作戦を話した。
「野ねずみと山猫じゃな、解った、集めよう」
そう言うと、エルダルスは、呪文を唱えた。
「サラ・ニーラ・モラーザ」
エルダルスが呪文を唱えると、北の山、南の渓から、野ねずみが集まりだした。
崖を登ってくる者、樹の根っこの穴から這い出てくる者、落ち葉の中をゴゾゴソと進んで来る者と、あっという間に数え切れない程の野ねずみと十二匹の山猫が集まった。
チューチューチューチューと、野ねずみ達は、なぜここに集められたのかが解らず、辺りをうろつくばかり。
「ギャーオー、ギャーオー」山猫は、野ねずみに向かって威嚇しにらみ合いを始めた。
「ねえ、山猫さん達、ちょっと落ち着いてくれる、今は、喧嘩してる場合じゃないんだよ、あなた達に重大なこと頼みたいんだから」
ハーミィが呼びかけると、野ねずみと山猫はにらみ合いを止めた。
「ねぇ、ハーミィ、こんなに沢山の野ねずみと、山猫が集まったけど、どうするの」とティノが尋ねた。
「それはね・・・」ハーミィは、なにやらティノに耳打ちをした。
「ほー、凄いな・・・」とティノが返事した。
それから、ハーミィは、野ねずみに向かって、なにやら話しかけていた。
ハーミィと野ねずみしか解らない言葉だったが、野ねずみはと山猫は、なにやら納得した様子で落ち着いた。
「いい、野ねずみさん達、私が号令を掛けるまで、ここにじっとしていてね」
「ティノ、そしてみんな、ゴブリン達がやって来る、逃げても追いかけられるだけじゃ、ここは、わしとハーミィが考えた作戦で、ゴブリン達を撃退する」
それから事態は急変した。
ゴブリン達が、ティノ一行を見つけ、森の中を駆けてきた。
「いたぞ!、あいつらを追い込め」
ゴブリン達は、大きな鋭い剣を持って、ティノ達に迫った。
木々の間をすり抜け、枝がバリバリと音を立て、まるで巨大な岩が山から落ちてくる様な音が木霊している。
「やっちまえ、皆殺しにしろ・・・」ゴブリンの頭が叫んだ。
「おお・・・やっちまえ」
「だが、あそこに見える小僧は殺すなよ、捕まえろ」
ゴブリン達は、一斉にティノ達めがけて突進してきた。鋭い剣や、弓矢がモナの衣服を貫く「危ない・・・」ティノは、叫びながら、モナに覆い被さって、岩場の脇まで逃げた。
「モナ、セレーナ、その岩場に隠れて・・・」ティノが叫んだ。
ティノの大声で、モナとセレーナは、大きな岩の側に身を潜めた。
ゴブリンがティノ達に迫ると、こんどは、エルダルスが「えい」とばかり叫んだ。
エルダルスが叫ぶと、ゴブリンにごう轟おん音と共に、強力な風が吹き出した。
ゴーゴーと強い風は、ゴブリンを襲い、ゴブリン達は前に進む事が出来ないでいた。
ゴブリンは、それでも、ティノ達めがけて、剣や、石を投げつけてきた。
剣は、くるくると回りながら、モナとセレーナが隠れている岩場に、当たった。
「いけ、あいつらを捕らえろ・・・」ゴブリンの頭が、叫んだ。
だが、その瞬間、強烈な風がゴブリンに吹きつけ、巻き上がる枝や木の葉が、容赦なくゴブリンの顔を直撃した。
「なんだこの風は・・・」
ゴブリン達は、強烈な風と突き刺さるような枝を払いのけるに精一杯となっていた。
次ぎの瞬間ハーミィが呪文を唱え「さあ、みんな行け」と叫んだ。
すると・・・
「グアーオー、グアーオー・・・」
まるで虎やライオンの様な、猛獣の声が森に響き渡った。
「ギギギギギ・・・・グギギギ・・・」
今度は、世にも恐ろしげな声が、四方八方から聞こえだした。
ゴブリン達の右手と左手そして、前から、この世のものとは思えない程の、恐ろしい声が鳴り響いた。
ゴーゴーとゴブリンが立ち上がれない程の強烈な風がゴブリンに向かって吹き続け、恐ろしい猛獣の声、妖怪の声が、ゴブリン達に迫った。
「なんだ、なんだ・・・やばいぞ逃げろ・・・」
ゴブリン達は、驚きのあまり、持っていた剣を投げ出し逃げ出した。
チャムとベルンが閉じ込められている籠が、ゴロゴロと森の中に転がった。
ゴブリンは、あまりに恐ろしい声におびえて、一斉に退却し、慌てて籠まで放りなげたのだ。ティノは、その瞬間、籠に向かって駆けだし、籠を手につかんだ。
恐ろしい猛獣の声と妖怪の声は、ゴブリン達を追いかけ回し、とうとう、ゴブリンは、ティノ達の見えない所に逃げていってしまった。
「音の妖精さん達、良かった、助かったね・・・」ティノは、早速籠を開けて、チャムとベルンを救った。
「ありがとう、ティノさん、命拾いした・・・本当にありがとう」
チャムとベルンは、ティノに礼を言った。
「いや、僕は何も・・・ハーミィとエルダルスのお陰だよ」ティノが言った。
「やあ、ベルン、チャム・・・良かったわ助かって」とハーミィが近づいて言った。
音の妖精達は、それぞれの無事を喜んでいた。
すると岩場の陰から、モナが飛び出して来た。
「やったぁ・・・お兄ちゃんやったね・・・」モナが飛び跳ねて喜んだ。
「お~モナ、良かったなぁ・・・」ティノが返事をした。
しかしセレーナは、岩場で足から血を出して、うずくまっている。
「大丈夫かい、セレーナ」ティノが慌ててセレーナに近づいて言った。
「ええ、大丈夫、剣の先が足をかすめて・・・」
ティノは、大急ぎで、自分の衣服を裂いて、セレーナの足に巻いた。
「ありがとうティノ、キズは深くないから、心配しないで・・・」
しかし、ティノは、セレーナを心配そうに見つめた。
「セレーナさん、大丈夫?」モナが聞いた。
「大丈夫、これくらいの事・・・それより、さっきの猛獣とかの声って何?」
「ああ、凄かったね、あの声・・・・実はね・・・」ティノがみんなに事情を説明し始めた。
猛獣の声は、山猫。妖怪の声は、野ねずみだった。
ハーミィが特別な魔法を掛け、山猫と野ねずみの声を一時的に変えたのだ。
野ねずみと山猫は、ゴブリンが退却すると、パルモラ達馬に乗り、ゴブリンを追いかけ回した。ゴブリン達は、馬に乗って野ねずみと山猫が追いかけてくるとも知らず、ひたすら逃げ惑った。いつまでも追いかける恐ろしい声に、ゴブリン達は、恐れおののき、ティノ達が見えない所まで逃げてしまったのだ。
そして、嵐の様な風は、エルダルスの魔法による風だった。
「何とかなってよかったのお・・・なんと言ってもハーミィのお陰じゃて」
エルダルスがみんなに声を掛けてきた。
「そう、そうだったの、ハーミィ、素晴らしい・・・」セレーナが言った。
ティノ達が無事を喜んで居ると
「みんなぁ大丈夫ですかぁ~」とスィーピーが遠くから叫んでいる。
その声の直ぐ側には、パルモラ達馬が、帰ってくる姿が見えた。
パルモラの背中には、野ねずみ、ステファノの背中には、山猫が乗っていた。
「いやー良かった、良かった、みんな助かりましたね」近づくパルモラが喜んで言った。
「ありがとう、パルモラ、ステファノ、山猫さんと野ねずみさん」ティノが呼びかけた。
「ええ、みんな大活躍、作戦大成功ね・・・」ハーミィが言った。
モナもセレーナもハーミィと山猫、野ねずみ、馬達の前に集まり、喜んでハグし合った。
にゃ~ん、チューチュー・・・山猫も野ねずみも元の声に戻っている、しかも、山猫と野ねずみは威嚇し合う事なく、互いの健闘と称え合う様に、一緒に居た。
「ティノさん、ゴブリンは、かなり先の谷まで追いやったので、直ぐには追いかけてこないでしょう、この間に、先を急ぎましょう」パルモラが言った。
「ああ、パルモラ、ありがとう、そうしよう、早く行かないとね」ティノが返事した。
「チャム、ベルン、スィーピーほんと、良かったね、このこの事は、ベリータ女王に伝えておいて、またあおう」とハーミィが言った。
「ええ、ほんと、ハーミィやみんなのおかけです、ありがとう」スィーピーが言った。
「しばしの間は、奴らは追ってこんじゃろう、油断は出来んが、とにかく、魔法の樹の森に早く行かねばなるまいて」エルダルスが言った。
一時の危機はなんとか脱出したティノ達、だが、まだまだこれからの旅路は余談が許されない、この危機を乗り越えると次は、魔法の樹の森に行く旅路がまっている。
「よし、みんな、魔法の樹の森に向かって頑張って行こう」
ティノが大声でみんなに呼びかけた。
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