6 魔界ラムダル
まるで剣の様に切り立った岩肌の山々、厚い雲に覆われ光さえ届かない大地、不気味な程黒い雲から雷鳴がとどろき、冷たい風がやまない渓谷、その大地に岩肌を削り造り上げた要塞がそび聳えたつ。
ゴブリン達や堕落した天使達が往来する暗闇の国、ラムダル。
人間が、この地に踏み居れば、ザルーラの魔力に取り憑かれ、恐怖心と猜疑心にさいなまされ、恨みと憎しみが全身を覆い尽くす。
ゴブリンと堕落天使達は、沢山の人間達をこの地までさらって来ては、人間達の恨みと憎しみを増幅させ、強力な兵士とさせて、人間世界に送り込んでいた。
ラムダルの魔力に取り憑かれた人間は、邪悪な者と化し、恨みと憎しみにまみれ、民と民を敵対させ、国と国を争わせ、闘争と戦争をあおり、世界を破滅へ先導する様になった。
人間の世界は、多くの国が互いに敵対しあい、大戦争へ突入していた。
魔力に取り憑かれた人間が戦争をけしかけ始めていたのだ。
冷たい風が舞うラムダルの暗闇から、羽を付けた生き物が現れた。
憎しみと恨みを自ら放つ故に、その身体は異様とも言える程醜く変わり果て、目は深い赤色にそまり、らんらんと輝いていた。
この生き物こそ、ザルーラだった。
ザルーラの周りに、醜いゴブリンと堕落した天使達が大勢集まってきた。
「ザルーラ様、いよいよ人間の世界を終わらせる時が参りました、人間の世界に返した者どもが、ザルーラ様の言う通り、戦争を始めております」
ザルーラの手下、ゴブリンの頭が言った。
ザルーラは、赤い目をさらに輝かせ
「我が魔力は、もはや消し去る事など不可能となった!、人間の世界を終わらせる絶好の機会が訪れようとしている、みなのもの、人間世界の破滅をもたらせる準備をせよ」とゴブリンに命令した。
「ザルーラ様、早速に・・・ただ、一つ気がかりな事が・・・」
ゴブリンの頭は、ベリータ国から送り出された小僧が、ラムダルに来るのではないかと伝えた。三人の人間が、音の妖精と共に旅に出ている事、ベリータ女王が、ザルーラの魔力を失わせる秘策を三人に伝えたらしい事など。
ザルーラは、ゴブリンの話を聞き終わらぬ前に、いらだちを顕わにして、拳を握りしめた。それから不吉な笑みをたたえ、目を細め
「その事なら、既に知っておるわ、昔、音の妖精を楽器に閉じ込めたが、その小僧が出したそうだな、だが、しょせん小僧は小僧、ベリータは何を血迷ったか、このわしに、そのような小僧を送ってなんとする」
「ザルーラ様、念には念をいれて、その小僧を探し出し、殺しましょうか?」
ゴブリンは、そう言えばザルーラが喜ぶと思い言った。
「殺す、おまえはなんという愚か者だ!」ザルーラが怒った。
「殺すのは簡単なことだ、それより、小僧を捕らえて連れて参れ、小僧にベリータが何を話したのかを白状させてからの事、ベリータに二度とわしに逆らえない様にするために小僧を捕らえて、はかりごとを木っ端みじんに砕いてやるは、ベリータもろとも、亡き者にしてくれるわ」
「さすがはザルーラ様、仰せの通りに・・・」
ゴブリンは、深々と頭を下げて、ザルーラから去った。
岩を鋭くえぐった要塞に、ゴブリンと堕落天使が集められ、それぞれが、剣などの武器を手に、戦いの準備を始めていた。そして、ラムダルの平原には、数十万人とも言える、数え切れない程の武装した人間達が銃や剣を持って集められ強大な軍隊が出来ていた。
いったいどこからこんなにも大勢の人間が集められたのか、ザルーラの魔力の強さを痛感する風景だった。そして、その人間は皆、殺気立っていた。
人間の中のリーダーが立ち上がり、軍隊に向かって
「みなのもの、ザルーラ様から、人間世界を破壊せよと仰せつかった、これから、山を下り、人間界で暴れまわるぞ、恨みと憎しみを植え付けるんだ!」
リーダーの宣言と共に、あちらこちらから、進軍のラッパが轟いた。
ラッパは、それはそれは不気味な音色を奏で、兵士達の心をさらに鼓舞した。
「おー・・・・」
ゴブリン達と武装した人間達は、一斉に時の声を上げ、渓谷に向かって進軍を始めた。
ゴブリンの頭は、一部のゴブリン集団を指さした。
「それから、そこにおる者達は、ベリータが送り出したという人間を見つけ出し、捕らえよ、死なせてはならんぞ、必ず捕まえて、ザルーラ様のもとに届けるのだ」
ゴブリンの頭は、数十のゴブリンに命令をした。
「お頭、その小僧とやらは、いったい何処にいるんで?」ゴブリンの一人が聞いた。
「それを探すのが、おまえ達の仕事だ!」ゴブリンの頭が怒り出した。
「お頭、そんな怒らなくても、だいたいだいたい何処にいるのかだけでも?」
「とにかく、アルプスの山のどこかだ、白馬と音の妖精が一緒だ、その妖精と白馬を探しだせ、ベリータ国の音の妖精を脅かせば、何らかの事は解ろうて」
ゴブリン達は、早速、ベリータ国の妖精を脅かして、ティノ達の行方を追うことにした。
ザルーラは、ティノ達が魔法のヴァイオリンを造ろうとしている事を知らなかった。
ティノ達の事は、ザルーラにとってまだ小さい問題だった。
それより、人間世界を破滅させるために、醜い心を持った人間を集結させ、醜い音を出す大砲や鉄砲、武器弾薬を作らせなくてはならないと考えていた。
ラムダル国は、恨みと憎しみまでが臭いと化し、異臭が覆っている。
要塞の岩肌は、ぬるぬるとしめり、コケが生い茂っている。その要塞の中で、ゴブリン達は、戦いの道具を作り、鎧を準備し、鋭い剣を磨き上げていた。
人間が人間を恨み憎しむ様に、人間の脳裏にザルーラの魔力は働き、目に見えぬ刃が人間の心をえぐる。
人間が人間を殺戮するためのあらゆる手段を、見えない魔力と魔性の武器が煽り立ててきたのだ。そして、その事を知る人間はわずかだった。
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