5 白馬パルモラ

5  白馬パルモラ




 美しい朝陽が森に差し込み、宝石が輝くように、木々が光り出した。

紫、赤、橙、青色の光が森を包むように輝かせている。森周辺の平原には、沢山のひまわりが咲き誇り、広大な河の流れがくねくねと続く、水鳥が水面を悠々と泳ぎ、かき分けられた水面がキラキラと輝いていた。

 ティノ達は、いつの間にか、この森の中で眠っていた。ベッドなどは無いが、その代わりにわら藁が幾十にも重なった自然の布団の上で休んでいた。三人は、それぞれゆっくり起き上がり、ぼんやりと辺りを見回しては、どうやってここに辿り着いたか、何故にここに居るのかを考えていた。

 あのベリータ国は、夢だったのだろうか?とまで思いを巡らしていたが、辺りをよく見ると、ベリータ女王から授かった手綱と弓と樹液、そして、あの礼服などが見え、昨夜の出来事は夢ではない事だけは、確信出来た。

それから、さらに遠方に目を向けると、ひまわりが咲く草原が見える。

「ねえ、この河、ポー川じゃないか・・・」ティノが言った。

「確かに、ポー川のようね」セレーナが返事した。

「ねぇねぇ、見てみてあの川」モナが川を指さした。

 川の水面がキラキラと光り出し、輝く光の中から、妖精が、あとからあとから飛び出し見る見る間に、数え切れない程の妖精が水面に集まった。

そして、ベリータ国で会った天使ミハエルもティノ達の前に現れた。

妖精とミハエルは、三人を取り囲み、みな微笑んでいる。


「ティノ、セレーナ、モナ、おはよう」ハーミィがどこからともなく現れた。

「やあハーミィ、ミハエルさん」三人が同時に返事した。

「ねえ、ここどこ?」モナが尋ねた。

「ここは、クレモナのはずれよ・・・わかんないモナ」

「わかりっこ無いわよハーミィ」モナが少しふくれた。

「やっぱりクレモナだったんだ」ティノが言った。

「ここは、クレモナでも人が滅多に来ない場所よ」

ハーミィは、満面の笑みを浮かべていた。


「さあ、これから、魔法の樹の森に向かう旅を始めるわよ」

ハーミィは、長年の願いがかなう時が来たとばかり、威勢良く言った。

「えっハーミィ、ちょっと待って、僕もモナも、父さんと母さんに話してないし、セレーナも、家に帰ってないし、このまま旅したら大変なことになっちゃうよ」

「あっ、それなら大丈夫、大丈夫」とハーミィが楽観的に言った。

ハーミィは、ティノの両親とセレーナの両親に魔法の手紙を用意し今朝方見るように家のテーブルに置いてきた。

手紙は、アルプス山で、ヴァイオリンの原木を探す旅をするというものだが、魔法は、その手紙を開封すると、心配な気持ちが薄れてしまうものだった。

案の定、ティノの両親もセレーナの両親も、手紙を開封したとたん、旅についても、何も心配せず、むしろ、ヴァイオリンの修行には、それも良いとばかり喜んだ。

実に不思議な魔法の手紙だった。

ハーミィは、三人に心配することは、一切無いと言い切った。

「解ったよハーミィ、君を信じよう」とティノが言った。


「ハーミィ・・・ねぇハーミィ、ところで魔法の樹の森って、どのくらいで着くの?」

モナがハーミィに尋ねた。

「アルプス山脈の中にあるわ、たどり着くには何十日も掛かるわ」

「アルプス、何十日だって!嘘でしょ・・・、どうやって行くのよ、車とか列車が有るわけじゃなし」モナが驚いて言った。

「大丈夫よモナ、心配しないで、でも、その前に行くとこがあるわ」

「行くとこ?」ティノが言った。

ハーミィは、魔法の樹の森に行く前に、アルプス山中を数カ所行かなくてはならないと説明した。


「ハーミィ、どうやって行くの?まさか歩いてなんか行けないし」ティノが尋ねた。

「それは、私にお任せ下さい」とミハエルが言った。

それから、ミハエルは、大空高く呪文を唱えた。

すると、大空の彼方より、巨大な鳥が飛来してきた。

鷹に似た鋭い眼球、胴体と翼は萌えるような赤毛、鶏冠は金色に輝き、大きな弓を何本も束ねた様に長く湾曲している。くちばしは銀色に輝いていた。

ティノ達三人を楽に乗せて羽ばたくことが出来る巨大な鳥だ。

巨大な鳥は、ゆっくりとティノ達の前に降り立った。

「さあ、私にお乗り下さい」と鳥が人間の言葉を話した。

「すご~い、言葉を話す鳥、すごい、すごい」モナが興奮して叫んだ。

「ははっは、鳥ではないのですよ、彼は、鳥の精なのです」とミハエル。

「えっ、鳥の精?」とモナが聞き返した。

「そう、鳥の精は、あらゆる鳥の始祖なのです、名前はベゼーラ」

ベゼーラが、三人を最初の森まで案内するという。

「さあ、私の背中に乗って」ベゼーラが、身を屈め、ティノ達を誘導した。

三人を乗せた鳥の精ベゼーラは、その大きな翼を悠然と羽ばたかせ、アルプスに向かって飛んで行った。ハーミィも、その後に続いた。



           ※



 ベゼーラは、クレモナから、イタリア北部のガルダ湖に向かい飛んだ。

悠々と大空を舞、瞬く間に、ガルダ湖上空にさしかかった。ティノ達の面前に、雄大なアルプスの山々が見えてきた。アルプスの山々は、雪が覆い尽くし白く輝いている。

澄み切った青空を飛ぶティノの頬を、アルプスから運ばれた冷たい風が通り過ぎていくと、ティノの顔が一気に引き締まり、心までが武者震いした。

 これから始まる、ザルーラとの戦いがどうなるのだろうか?本当に魔法のヴァイオリンを造れるのだろうか?冷たい風は、ティノの心の奥底に不安をかき立てた。

がしかし、ティノは、その不安を消し去ろうと、心を奮い立てた。

ベリータ女王の言葉を信じよう、決して諦めない様にしなくてはと・・・


 ティノ達の面前には、ごつごつとした岩肌が見え、岩肌の間から、苔と残雪だけが見え、美しくも人間を寄せ付けない静けさと冷徹さに包まれた風景が広がっていた。

ベゼーラは、その岩肌を通り抜け、スプルースの樹林が茂る森まで進んだ。

森の辺りには、映し鏡の様に透き通った湖と高山植物が生い茂る草原が広がっていた。 

 しばらくその草原上空を飛んでいたベゼーラは、スプルースが生い茂る深い森に向かって急降下し始め、美しいスプルースの樹木がティノ達の前に広がった。

その地まで辿り着くと、ベゼーラは急降下して森の入り口に降り立った。



「ここは、どこ?」セレーナが言った。

「ナトゥラーレ・パネヴェッジオの森よ」とハーミィが答えた。

「パネヴェッジオの森!!えぇ・・・ここがあの森」ティノが驚いた。

「すご~い、ストラドの原木の里だよ!ここにいつの日か来てみたかった」

ティノは、感激して、森をぐるぐる見渡していた。

この地は、ストラディヴァリがヴァイオリンの木材を調達した場所だと言い伝えられた地だった。

「ティノ、最初の目的地に着いたわ,、前も言ったけど、ここで、ストラディヴァリと出会ったのよ」ハーミィが懐かしそうに言った。

ティノは、あこがれのストラディヴァリウスの聖なる森に辿り着くなど、夢の様な話だった。だが、これは、魔法のヴァイオリンを造るための序章に過ぎない。魔法の樹の森は、まだまだ遠き彼方の地なのだから。

「ティノさん、私はここまで、これからはハーミィが案内します」ベゼーラが言った。

「え、これからは、一緒じゃ無いの?」ティノが尋ねた。

「ええ、この先は、森の中を歩かねばなりません、私はここまで、もうすぐ、パルモラという名の馬に会えるでしょう、今度は、そのパルモラと共に、私は、またお目にかかる時が来ます、それまでは・・・必ずや勝利を!」

そう言うやいなやベゼーラは、大空高く飛んで行った。

「ありがとう、ベゼーラ」三人がベゼーラに手を振った。


 パネヴェッジオの森は、アルプス山脈の氷河が見える麓の森。

雪が積もるゴツゴツとした岩肌の山々に囲まれた森は、自然に生息した何万ものスプールスが整然と生い茂り、静寂さを保っていた。

 パネヴェッジオの森を歩いていると、どこからかナイチンゲール(西洋ウグイス)のさえず囀りが聞こえ、爽やかな音が森に木霊していた。

「ねぇ、ティノ、この鳥のさえずりも、みんな私達音の妖精が考えたの、素敵でしょう、それにね、ヴァイオリンに相応しい樹を“樹の精 ”から教わって、ストラディヴァリには、あの鳥が停まってさえず囀るスプルースこそが、ヴァイオリンにうってつけだと解るようにしたのよ」とハーミィが言った。

「ああ、ナイチンゲールの囀りは、とっても素敵だよ、ハーミィ達は凄いなぁ・・・」

ティノが感心して言った。

「じゃあ・・・ナイチンゲールの歌声とヴァイオリンの響きがつながっているって事なんだ、それって凄いことだよね」とモナ。

「音の妖精さん達のアイデアって素晴らしいわ」セレーナが言った。

「ハーミィ!さすがだね」とモナが感心した。

「でも、樹の精から教わったって・・・なんだかまた不思議な話」ティノが頭を傾げた。

「そう、樹の精は、魔法の森に住んでるわ、そこに着いたら会えるわよ」とハーミィ。


 しばし、みんなは森の中の歌声に酔いしれていた。

森は、すがすがしく神聖な霊気が漂っている、ひんやりとして、鳥の声だけが木霊し、静寂で清らかな空気に包まれていた。

「なんか、どの樹もおんなじ様に見えちゃうけどなぁ・・・」とモナが呟いた。

「いやモナ、確かに同じような樹だけど、この中でも、小氷河期を超えて、しっかりと生き抜いて、綺麗な年輪を重ねたスプルースこそが、良いヴァイオリンの原木になるんだ」

「ふ~ん、そうなんだぁ・・・」

「そう、この森の中で生まれた樹が、何百年間の時を過ごして、あのストラドになったなんて、とってもロマンチックよね、樹達だって、私がストラドになるんだからねぇって自慢しあっていたのかもよ」セレーナが楽しそうに言った。


「たしかに、選ばれた樹は、ヴァイオリンになるために生まれた・・・」ティノが言った。

「じゃさぁ、魔法のヴァイオリンになる樹って、さぞ立派で、生き生きとしてたくま逞しいんだろうね」とモナが言った。

「だろうね、魔法の樹の森に有る樹は、見た事も無い素晴らしい樹なんだと思うな」ティノもモナの話に同感して言った。

「早く出会いたいわね、立派な魔法の樹に・・・」セレーナも同感だった。


「ねぇ・・・ねぇ・・・ティノ、パネヴェッジオの森に感動するのも良いけどさ、早く歩こう」ハーミィが言った。

「えぇ、早く歩けって?どこに行ったらいいのさ」

「あの山の先よ」ハーミィは、山を指さした。

「あの山の先だって」ティノがぽかんと口を開けた。

山までは、まだまだ遠い。しかも、その山は、荒々しい岩肌と断崖絶壁の風景が続き、簡単に近寄る場所とは思えなかった。


「ハーミィ、パルモラはどこ辺にいるの?」セレーナが尋ねた。

「あの麓に、おそらく」とハーミィが言った。

「おそらく・・・なんだよそれ、本当に見つかるの?」ティノが言った。

「大丈夫よティノ、パルモラの声が、段々強くなっているから、もうじき会えるわ」

 

 音の妖精は、人間の何十倍も聴覚が優れ、かなり遠くの音も聞こえる能力を備えていた。ハーミィは聴覚をさらに研ぎ澄まして、パルモラの声を探し出していた。

ティノ達はハーミィの話を信じて、山登りを始めたが、やはりアルプスの麓を歩くのは、厳しく、ティノ達は幾らも経たないのにヘトヘトになっていた。

モナもセレーナも、肩で息をする程、大変な山登りだ。

 スプルースの樹林は、道無き道が続く、樹林に隣接した山は、ごつごつした岩や雪解けでぬかるんだ大地、まとわりつくツタ、歩けども歩けども、風景は一向に変わらない。

空気は、凍えそうにひんやりとしていて、手はかじかみ、白い息を吐いてばかり。

おまけに、ぬかるんだ大地を歩く度に、真っ黒いクモやムカデが手や足に付く。モナはクモを見るたびに、悲鳴を上げた。

 遠くから見ていたアルプス風景は素敵だが、人が歩いたことも無い森の中を歩くのは簡単ではなかった。森の中は光が差し込まず、薄暗い。

モナも歩くのが限界になって来た。

ほっと一安心すると、急にお腹がペコペコになり、モナのお腹がグググーと鳴った。

「あーあ、お母さんのトローネが食べたいなぁ・・・」モナが独り言を言った。

そんな独り言を言っても、美味しい物など一切ない、有るのは、口にしたこともない、木の実くらいだ。

「ねえ、パルモラだけど、まだ見つからないの・・・」モナがな萎えた声で言った。

すると、ハーミィは、困った事を言い出した。

「実は、お日様が頭の真上に有った頃は、パルモラの声が聞こえていたんだけど、今はその声が聞こえないの、もしかすると寝ているのかも・・・」

「聞こえないのって、そんなぁ・・・」

せっかく近くまで来ていたはずなのに、ハーミィの何とも頼りない言葉を聞いて、みんなは落ち込んだ。

 その日、時間はどんどん経って、あっというまに、夕焼けが森の中まで届き始めた。

山々があかね茜いろ色に染まり、もうすぐ闇夜が訪れる。

みんなが焦りだした。しかし、頼みのパルモラの声は依然聞こえなかった。

「仕方ない、ここで野宿しよう、探すのは明日だ」ティノがみんなに言った。

ティノは、薪になる小枝を集め、たき火を灯した。

セレーナとモナは、野生する芋や果実を見つけ、夕食を作る事にした。

「ハーミィ、今日は休もう、明日、明るくなったら、パルモラを探そう」 

「ねぇ、焚き火の火は消したら駄目だよ、みんなかわりばんこに火を見なくちゃ、ここには、オオカミとか居るからね、気をつけて・・・」とハーミィが言った。

ティノ達は、山登りの疲れが出て、ひたすら眠り続けた。


さて、その夜中の事だった。

うううう・・・うううう・・・ティノが夢でうなされていた。

霧に包まれた深い森の中にティノは独り佇んでいた。そこに、うっすら透明に輝く長身の老人が現れ、老人は、右の手に美しいヴァイオリンを握りしめていた。

「君は、クレモナのリウターイオなのか?」老人が、ティノに声を掛けた。

「はい、そうです、なぜ解りましたか?・・・あなたは?」

ティノが尋ねたが、返事は無かった。

しかしティノは、老人がリウターイオなのかもしれないと感じた。

そう感じた瞬間、老人の右の手にあるはずのヴァイオリンが古文書に変わった。

そして、その古文書をティノの前に差し出した。

「これは?」ティノが尋ねた。

今度も返事は無かった。

だが、ティノは、その古文書を見よと老人が言っている様に感じた。

「その本は、何?・・・どこにあるのですか?」またティノが尋ねた。

しかし老人は、何も語らなかった。

しかし今度も、ティノは、老人の気持ちを感じ取った。

「探せ・・・この古文書を、森を・・・」という心をだ。

夢は一瞬のことだった。

霧に包まれた老人は、いつの間にか消えていた。


「ティノ・・・ティノってば、どうかしたのティノ?」

セレーナがティノを心配そうに見つめて起こそうとしていた。

ティノは、かなりうなされ、汗をかいていた。

「あ、セレーナ・・・僕、今夢を・・・」目覚めたティノが言った。

「夢?、どんな夢?」

ティノは、セレーナに夢の一部始終を話した。ヴァイオリンを握りしめていた老人、古文書、森を探せという暗示の話を。

「不思議な夢ねティノ・・・でも、まだ真夜中よ、とにかくもう少し休もう」

ティノとセレーナは、夢がその古文書を探す事にあるのだろうと感じたが、まだ、真夜中の出来事だった故に、再びぐっすり眠った。


「ねぇねぇ、ティノ、みんな、起きて、起きてってばー・・・」

明け方ハーミィが、みんなを起こした。

「うー・・・なんだ、ハーミィ」ティノもようやく目が覚めた。

「あのね、あの・・・パルモラの声が聞こえるのよ、それも近くに!」

ハーミィは興奮していた。


 ティノ達は、さっそく森の奥深くに進む事にした。起伏の激しい谷を越え、激流の渓谷を通り過ぎ、ゴロゴロした岩肌の脇にある獣道を歩き続け、へとへとになる程に、みんなは歩き続けた。


 しばらくすると、雪解け水を集めた大きな川が見えてきた。

川の周りは、雪解けが始まり緑の新芽が溢れていた。

向こう岸に、大きな草原が見えている。

真っ白いアルプスの麓に、広がる草原は、

まるで緑のじゅうたんを敷き詰めている様だった。


「あそこだ!」ハーミィは、草原の南を指さした。

指さす方向を見回してみると、視界に馬の群れが見える。

「あれだ・・・」ティノが興奮して言った。

「そうよ、あの中にパルモアが居るわ」ハーミィが叫んだ。

みんなは、大急ぎで、馬の群れに向かい駆け出した。

何処かに行かなければ良いけどと思いながら、全力疾走するティノ達。

こんなに全力で走った事は無いと思いつつ、走り続け馬の群れの直ぐ近くに着いた。

すると、有り難いことに、馬の群れの方が、ティノの立つ場所に近づいて来るではないか。

 漸く白馬パルモラに会える、そう思うと、わくわくしてきた。

ところが、安心するのは、まだ早かった。

突然、馬の群れは、岩の固まりのように、ティノめがけて突進してくるではないか。

「危ない!ティノ」セレーナが大声を上げた。

ティノは、馬の突進を避けるため、身体を仰け反ると、草原に倒れ、くるくると草原を転げ落ち、大きな岩石に身体をぶつけて止まった。

「あぃたたた・・・」ティノは、危なく大けがをする処だったが、危機一髪助かった。

馬の群れは、ティノが転げ落ちると、程なく、突進を止めた。

「なんてこったぁ!全くとんでもない」

ティノが、驚いて叫んだ。

「良かった、怪我しなくて」ハーミィも驚いて近づいて来た。

「死ぬかと思ったよ」ティノは怒っていた。

すると「ちょっとまっててティノ」とハーミィは言い、馬の群れの中に。

ハーミィが行くと、馬達は、穏やかになり、静かに、牧草を食べ始めた。

 ティノはほっとして、ハーミィに聞いた。

「ハーミィ、この馬達どうしたって言うんだい・・・?」ティノも少し冷静になって聞いた。

すると、一頭の白馬が、ティノの処にゆっくり近づいて来た。

「ティノ、パルモラが来たわよ」とハーミィ。

パルモラは、みんなの前に佇み、お辞儀をする様に、頭を下げた。

「ねえ、ハーミィ、馬の言葉解るんだろう?」

「解るけど、ちょっと待って・・・」

ハーミィがそう言うと、パルモラの口元に近づき、小さな指を鳴らし、呪文を唱えた。

「ティノ、パルモラが人間の言葉を話せる様にしたわよ」

「えええぇ!そんな事出来るんだ」ティノが驚いた。

「凄いじゃないハーミィ、さすがね」モナも感心して言った。

「ま~ねぇ、これが音の妖精の素晴らしさよ、うふふ・・・」ハーミィは自慢げだが、本当はハーミィの力ではなかった。

一度決めた声は音の妖精でも変える事は出来ない、だが、この旅の為に、特別、ベリータ女王から声を変える魔法を伝授されていたのだ。


 魔法を掛けられたパルモラは、口を大きく開くと、人間の言葉を話し始めた。

「ティノ、先ほどは、すまない事をしました、お詫びします」パルモラがティノに言った。

「やあパルモラ、さっきはびっくりしたよ」

「人間の姿を見るとつい、あのように・・・」

「どうして?」

パルモラ達の仲間は、人間がやってきてはさらわれて行った。

人間達は、馬を戦争の道具扱いにし、戦場にかり出し、やがて銃や険で命を落とした。

だから、人間が現れると、いかくして逃げてきた。

ティノ達が現れる事を知らなかったパルモラ達は、今度も、捕獲にやってきた人間と勘違いして、ティノをいかくしたわけだが、ハーミィが取り持って、馬達は、落ち着いたのだった。

「さっそくだけどパルモラ、ハーミィから話があっただろうけど、僕達と一緒に、魔法のヴァイオリン造るために旅をしてはくれないか?」

ティノは、ベリータ女王に言われた内容を全て話した。

「この旅は、決して安全とは言いがたい、むしろ危険の連続かもしれない、僕達と共に行く旅は、苦しい旅かもしれないけど、パルモラの力が必要なんだ」ティノが懇切に願った。

「ティノ、解りました、私達は、人間の悪なる欲望や都合で捕らえられては、人間に従ってきました。けれど、ティノとの旅は、そうではないと信じます。だから、一緒に、この旅に従いましょう」

パルモラは、心がとても優しく、またゆう勇かん敢な白馬で、ティノの申し立てを快引き受けてくれた。

そして、セレーナとモナのために、パルモラの友ステファノとピヨールも旅に同行する事になった。

「じゃ、交渉成立ってことで、ベリータ女王から、お預かりした、例の聖物をパルモラに・・・」とハーミィが言った。

「ああそうそう、あの手綱をパルモラに」ティノが言った。


 ティノは、ベリータ女王が下さった馬の手綱を布袋から取り出した。

早速、手綱をパルモラに付け、馬の背に飛び乗り、ゆっくりと動き出した。

「素晴らしい、美しい手綱ですね、ティノさあ、行きましょう」とパルモラが言った。

セレーナは、ステファノにまたがり、モナはピヨールにまたがった。

「セレーナ、モナ、ハーミィ、さあ出発だ!」ティノが威勢良く声を掛けた。


 ただ、喜びとは反面、一つ大きな気がかりが生まれ始めた。

ザルーラは、ティノという若者が、ベリータ女王に出会い動き出した事を、ベリータ国を監視する妖精達の噂話から知った。

魔法のヴァイオリンの秘密までは、知られてはいないが、ティノ達の監視を始めるように家来達に指示を出した。


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