4 ベリータ女王の願い

それからハーミィはティノ達を宮殿の中に案内した。

宮殿は、絢爛豪華な造りで、天井は高く、一番高い所から紫色の後光が差し込んでいた。

廊下は、紫水晶を敷き詰めた様にキラキラ輝き、歩く度に、靴底がコトンコトンと音が鳴り、とても心地よい音色が響いている。

通路の左右には沢山の花が咲き、スズランに似た花が揺れると、鈴の音が聞こえ、百合に似た花が揺れるとフルートの様な音が聞こえた。

かぐわしき香りと花の音に包まれ、セレーナとモナは、うっとりしている。


 ティノ達が宮殿の大広間にさしかかろうとした時。

突然、見た事も無い生き物が近づいて来た。

背丈と顔は人間に似ているが、背中に羽がある。

「ハーミィ・・・」生き物が声を掛けた。

「やあ、ミハエル」とハーミィが挨拶した。

「ハーミィ、大変だったそうじゃなか・・・でも、助かって良かった・・・そちらが、君を助けて下さった方々ですね」

「そう、私を助けてくれたティノ、そしてセレーナさんとモナさんよ」

「そう、とうとう来られたんですね」

その生き物は、とても嬉しそうに話している。

「ねえハーミィ、誰なんだい」ティノが尋ねた。

「これは、失礼致しました、アダーモの息子のティノさん、私は、ミハエルと申します、この宮殿の中で使える、天使です」

ミハエルは、再び、深々とお辞儀をした。

「ところでティノさん、これから女王様にお会いになるのですね」ミハエルが聞いた。

「そうよ、ベリータ女王に会われるの」ハーミィが言った。

すると、ミハエルは、ティノの姿を眺めて「ティノさん、それじゃ、ちょっと待って、良い物を差し上げましょう」と言った。

ミハエルは、近くの部屋のドアを開け、中に入り少し経つと、手に何やら持って現れた。

「ティノさん、セレーナ、モナさん、ベリータ女王にお目に掛かる前に、この服を身につけて」ミハエルは、三人に衣服を手渡した。

ティノが受け取った衣服は、まるで王子が着こなす様な格式高い礼服で、絹の様に柔らかい手触り、銀色にキラキラ、キラキラ輝いていた。

セレーナとモナが受け取った衣服は、虹色の光を放つ、とても美しいドレスだった。


「うわー、きれいな服」モナが呟いた。

「さあ、着てみて下さい」

早速、ティノはその服を身につけた。

服を身につけたティノは、まるで王子様の様だ。

きひん気品が有り、ゆうが優雅でも有り、それにとてもたくましかった。

「素敵だわ、ティノ」セレーナが言った。

「セレーナ、モナ、二人とも、とても素敵だよ」とティノ。

ティノはこの服がすっかり気に入った。

「ありがとうございます、ミハエルさん」ティノが深々とお辞儀した。

「いえ、どういたしまして、この服は、大事な儀式をする際にまとう礼服です。ベリータ女王にお目に掛かるなら是非これを、この日の為に準備していたものなので」

「この日の為に準備?」ティノはまた不思議な事を言っていると感じた。

「それじゃ、ティノさん、さっそくベリータ女王にお目通しいたします」

ミハエルは、深々とティノに頭を下げた。

ティノは、何だか照れくさかった。

王子でも無いのに、まるで王子様に挨拶している様に見えたから。


 ティノ達は、いよいよ宮殿中心の大広間に到着した。

大広間は、歩いてきた通路をさらに絢爛豪華にした造りで、飾られている花の種類も数えきれない、花から放たれる心地よい音と美しさに酔いしれそうだった。


「ねえ、ティノさん、もう少しでベリータ女王にお目にかかれるわよ、女王の動かれる音が聞こえるから」とハーミィが言った。

そう言われても、ティノには何も聞こえない。自分より遙かに小さな音の妖精の、聴覚ってすごいなぁとティノは感心していた。

 

すると、ティノの目の前にキラキラ輝く光が差し込み初めた。

眩しく美しい光が、丸く丸く渦を巻いてティノに近づいて来た。

ティノがその光に頭を下げた。

「ティノさん、ティノさん、頭をお上げ下さい・・・」

優しい女性の声がティノに聞こえた。

「あ、あの・・・初めまして、ベリータ女王様・・・」

ベリータ女王は、光輝く衣服をまとう美しい女性だった。

その容姿は、人間とほぼ変わらないが、身体全体に透明感があった。

(うわー、この方がベリータ女王なのか、きれいな方だな・・・)とティノは心で思った。

でもティノは、緊張して、身体はガチガチになっている。

すると、ハーミィが

「あのね、そんなに堅くならなくて大丈夫よ」とティノに耳打ちし、ティノが小さくうなずいた。

「ベリータ女王、ティノとティノの友人のセレーナ、そしてティノの妹モナです」とハーミィが女王に紹介した。

「ティノさん、セレーナさん、そしてモナさん、よくぞ来て下さいました」

ベリータ女王の声は、透き通るほど優しい響き。

「この国では私の事を、女王と呼んでいますが、ティノさん達の人間の世界で、私は聖霊と呼ばれてます」

「聖霊」とセレーナが言った。

「幼い時より、両親から聞いておりました、神様の心を伝えて下さる特別なお方だと」

ベリータ女王は、ニッコリと微笑んだ。

「ティノさん、この日が来ることを待っておりました」

「待っていたとは、なぜですか?」

「そうでしょうとも、あなたには、解らないでしょうね、その訳をあなたにお伝えしなければなりません、あなた達は、選ばれたのです・・・」

「僕達が、選ばれた?」

「ベリータ女王、何を選ばれたのでしょうか?」

「それでは、その意味をお教えしましょう・・・」

ベリータ女王が、そう言うと、ティノ達の目前に霧雲が掛かり、その霧雲の間から

地上の世界が見えてきた。




 美しい花、緑深き森に囲まれた穏やかな草原が見えていた。

太陽が燦々と輝き、草原は、鳥達のさえずりがとどろき、動物達が駆け巡る、穏やかなのんびりとした空気が漂っていた。

 だが、次の瞬間、草原の南方に軍服を着た人間が、銃剣を手に持ち行進してきた。

どこかの国の兵隊達だ。北方から別な国の兵隊が進んできた。

兵隊達は、互いに突進をはじめ、見る見る間に草原が、戦場と化した。

兵隊が入り乱れ、殺し合いを始めた。

 ある者は銃を放ち、またある者は剣を振りかざして、首を切り、みるみる間に、辺り一面が血に染まって行った。

兵士が戦う草原は死人で溢れ、小川は流血で真っ赤に染まり、足や手を失った兵士達がうめき声を上げて苦しんでいる。

「あ、あ、あ~怖い~」セレーナが悲鳴を上げ、ふさぎ込み耳を手で覆った。


剣と剣が、カキーン、カキーンとぶつかり合う音が草原に木霊した。

あちらこちらで、ラッパの音、太鼓の音が鳴り響く。

「ズドドドドド~ン」

大砲が放たれた音が聞こえた瞬間、草原の木々がなぎ倒され多くの兵士が宙を舞い死んだ。

「殺せ、殺せ・・・皆殺しせよ・・・」兵士達が、大声で叫んだ。

殺戮は止まることがなかった。

戦う “音” も “声” も鳴り止まなかった。

「ドン・ドン・ドン・・・」

太鼓の音は、その指令の基、更に大きな響きになって戦場を駆けめぐる。

緑豊かな草原は、しかばね屍の丘となって赤色に染まる。

しかばね屍の中、ラッパを鳴らす兵隊が屍を乗り越えながら進んで行く。

楽隊の先頭に立つ兵士がさけんだ「それ行けー、それ行けー」

その声を合図に、ラッパは高らかに鳴り響き、戦場を駆け巡った。

 美しい青空から、ゴーという響きがとどろき始めた。

すると、雲の間から次々に幾つものプロペラ機が急降下してきた。プロペラ機は、地上に爆弾を投下し、大きな爆音と共に大地に白煙が上り、数え切れない兵士が即死した。


「なんてむごい・・・とても悲しい」涙が止まらないセレーナ。

大砲の音が鳴る度に、沢山の兵士が戦死する。

 戦いが終わり緑豊かな草原は、血色に染まり、かぞえ切れない兵士の血が草原を赤く染め、まるで赤い絨毯の様になった。

赤い草原に、戦いに勝った兵隊が鳴らすラッパの音色が、不気味にとどろいていた。


「ひど酷い、酷すぎる・・・」ティノは言葉を失った。

ティノ達は、悲しくて、ボロボロ、ボロボロと涙を流した。

ティノは目にいっぱいの涙を浮かべ、かぶりを振った。

三人が泣き叫んでいると、霧雲が、すーと消えた。


「皆さん、これが人間世界です、空しく悲しい、でも現実なのです」

ベリータ女王が言った。

涙が止まらないティノは「とても辛い」と言い、それ以上何も言えなかった。

「みなさん、今の様子は、人間世界の一面です、こうしてあなた方とお話している最中にも沢山の人間が戦争で命を失っているのです」

「何て愚かなこと、人間は本当に愚かしい生き物ですね」とセレーナが答えた。

「確かに、馬鹿げた事で愚かな事です」ベリータ女王も、失意をあらわにした。


 音の妖精達が人間に心地よい音色を奏でる楽器を教えてあげたのに、人間はその楽器を、戦争の道具にしてしまった。しかもその音は日に日に醜く汚い音に変わり、大砲を考えると、その音は雷の様に激しく鳴り響いた。

音が戦争の道具にされ、平和の為に考えた音が、さつりく殺戮の為の音に変わってしまった。


「悲しい・・・そうでしょ・・・これが、これこそが問題なの」ハーミィが悔しがった。

「本当にそうだ、人が人を殺す為に、音までが利用されて・・・」ティノが答えた。

「そう、その通り・・・とても悲しくて残念よ、妖精さん達が、一生懸命創り出した音を台無しにしてる、そのことを私達人間はわかってないわ」セレーナが悲嘆して言った。

「しかし、ベリータ女王様、こんな悲しい事がわかっても、僕には・・・僕には何も出来ません」ティノが言った。

「いえティノさん、あなた達がここに来た理由は、その愚かな戦争を止め、人間の恨みや憎しみを消し去る為なのです」

「ぼ、ぼ、僕達が・・・戦争を止めるんですか?・・・そんなことは・・・」

ティノは絶句し、それ以上何も言えなかった。

「そう、そのために皆さんは、ここに来られたのです」

「どうやって・・・」ティノはかぶりを振った。


「ティノさん、実は、この様な人間になってしまったのには、わけ理由が有るのです、その昔、この国には、ザルーラと言う天使がおりました。ザルーラは、知恵を司る天使でした。人間の知識世界は、彼の働きが欠かせなかったのです。知恵を求める心は、初めは良き方向に向いていました。人間の世界をより素晴らしくするために、ザルーラの知恵は貴重なものでした。でも、ある時ザルーラが、美しい人間の娘を見て、その美しさに酔いしれ、娘を追いかける様になったのです。ザルーラは、この娘こそ、ザルーラが追い求めてきた、究極の知恵と美の結晶だと思い込みました。それからと言うもの、娘が行く先々にザルーラは出没し、人間の姿を装い娘に近づきました。それが、人間の知るところとなり、人間は、ザルーラを娘から引き離し、二度と娘の前に現れないようにと、むごい仕打ちをしました。顔に大きなキズを負い、そののち後ザルーラは人間を呪い、人間達が、恨みあい憎みあう様にさせる悪なる魔法を掛けしまったのです」

「ベリータ女王様、人間達が戦争をする様になったのは、ザルーラの魔法なのですか?」

ティノが尋ねた。

「多くの戦争や争いは、ザルーラの魔法がそうさせているのです、ザルーラの魔力は、さい猜ぎ疑しん心やきよう恐ふ怖しん心をあおり立て、恨みと憎しみを増し、信頼や愛を破壊してしまう恐ろしいものです。その魔力でザルーラは悪なる世界の王となり、人間の世界で悪魔と呼ばれ、人間を操り、人間を支配してしまったのです。そして、あの醜い音もそうです、みなザルーラ達の魔力がさせているのです」

ベリータ女王の頬に、悲しみの涙が流れた。

「ベリータ女王様、そのザルーラは、今どこに?」とセレーナが尋ねた。

「ザルーラと仲間達は、この国を出てラムダル国を造ってしまいました」

「ラムダル国?」三人が叫んだ。


 そもそも天使は、人間を協助するために生まれてきたもの、人間を自分の欲望で愛する事は、掟を破る事だった。ザルーラが掟を破った事が悪いのだが、彼は逆恨みし、自分が悪いとは決して言わなかった。そして人間を呪う様になった。そればかりでは無く、彼は段々傲慢になり、自分こそが偉大な者だと言い出して、他の天使やゴブリンまでも自分の配下に置くようになった。傲慢な心が彼を支配し、闇の国、ラムダル国を造ってしまった。


「ティノさん、セレーナさん、そしてモナさん、皆さんが、ここに来られたのは、偶然ではないのです、私達は、皆さんを待っておりました、ザルーラの魔力を解くために」

「待っていた?」ティノが不思議そうに言った。

「まさか、そのザルーラをやっつけるの?」モナが尋ねた。

ベリータ女王は、目をつぶり、かすかに頭を傾げた。

「滅ぼす訳ではないのです、ザルーラの心を変え、魔力を解くのです」


 ティノ達は、ベリータ女王にどうやってザルーラの魔力を解くかを問うた。

ザルーラの魔力を解く方法は、唯一“魔法のヴァイオリン ”しかないと。

魔法のヴァイオリンを造るには、アルプス山脈の奥深くを旅し、森の魔法使いと出会い、彼の道案内が必要だと。


「 魔法のヴァイオリン!」ティノが大声を張り上げた。


 魔法のヴァイオリンを造るために、ティノが選ばれたという。ティノが選ばれたのは、いくつもの条件があった。その第一は、アダーモの子孫(つまり人間)であること、そしてもっとも優秀なリウターイオの家系であること、さらに重要な条件は、どんな小さな事でも恨みや憎しみ、ねたみを抱いた事が無い心の清い人間でなくてはならない事だった。


「それなら、僕じゃなくても他に・・・」ティノが尋ねた。

「そうリウターイオなら過去に何人も、そのためにハーミィ達と共に、長い時間掛けて探してきたのですから、しかし、ただの一度も恨みと憎しみ、ねたみを抱いた事のない、清い人間は残念ながら見当たらなかったのです、でもティノさん、あなたは違いますね、あなたは思いやりの心をいつも持って生きてきましたね・・・」

ティノは、思いやりの心と言われて、不思議な気持ちになった。

「でも、魔法のヴァイオリンを作れたとして、それで、どうやって魔力を消すのですか?」

「ザルーラと、ザルーラに操られている人間に、魔法のヴァイオリンが放つ愛の響きを聞かせるのです、その愛の響きが届いたその時、魔力は消滅するはずです」

 

 ハーミィがなぜクレモナに居たのかも、理由があった。弦楽器に閉じ込められたハーミィを解放するのは、心の清いリウターイオだけだった。そのため、ハーミィは、クレモナまで人間の手で運ばれて来ていたのだ。そして何年もの間クレモナでこの日を待っていた。

恨みも憎しみも抱かない人間が条件だと言うのも、理由があった。

ザルーラの魔力が支配するラムダル国は、恨みと憎しみが渦巻く闇の国、そこに住む天使やゴブリンは、不気味な様相ばかりの妖怪となった。

 恨みや憎しみを抱いている人間が入り込むと、恨みと憎しみが増幅し、戦いに明け暮れる人間と化す。やがては、狂気の中で死んでしまう。

ラムダル国で生き延びて帰る事が出来るのは、恨みも憎しみも無い清い心を持っている人間なのだ。

 クレモナがヴァイオリンの聖地となってからというもの、リオターイオの家系から、魔法のヴァイオリンを造る心の清い子供が誕生するのを、ずっとまっていた。

 ハーミィは、純粋な心を持つリウターイオを探し続けてきた。ザルーラは、それを知って、ハーミィに魔法を掛け、身動きがとれない様にしていたのだ。

絶対にリウターイオに会わせないために。

しかし、ベリータ女王と妖精達は、なんとしても、ハーミィを助け出すため、リウターイオが住む街クレモナに、ハーミィを閉じ込めた弦楽器が辿り着くように導いてきたのだ。


 ティノは、その言葉を聞いてためらった。

選ばれた若者だと言われても、自分には、出来やしない、リウターイオとしても未熟で、素晴らしいヴァイオリンを造るなど無理なことだと心で感じていた。

「女王様、その・・・あの・・・僕は、リウターイオと言ってもまだまだ未熟者、それに、ヴァイオリンを造る道具もないし・・・魔法のヴァイオリンと言われても、造るのは無理があると思います・・・」

すると、ベリータ女王が言った。

「ティノさん、まだ疑ってますね、信じて下さい、これは現実なのですから、今か今かとヴァイオリンが造れる若者が生まれるのを待っていたのです、その間にも、ザルーラの魔力はどんどん拡大してきました、沢山の人間が戦争で死んでいっているのです、だから早く、人間達の恨みと憎しみを消し去り、救わないとならないのです。勿論、ザルーラとの戦いは、大変でしょう、この宮殿の天使や妖精達もザルーラの魔力を恐れて、ザルーラには近づきません、しかし、正義の心を持った皆さんと私達が協力し、ザルーラの魔力を失わせるのです、それが残された唯一の道なのです、ヴァイオリンを造る道具とかは何も心配する事はないのです、森の魔法使いが全て心得ておりますから」


「森の魔法使い?・・・」ティノが呟いた。

ティノは大いに迷っていた。

自分など、そんな重大な使命を託される人間じゃない、心の中では、とても難しい気持ちでいっぱいだった。

ティノ達が悩んでいる間にも時は過ぎ、ベリータ国は、いつの間にか夜になっていた。


「ティノさん、一歩踏み出す勇気さえあれば、あきらめていた事でも実現出来るのです」ベリータ女王が切実に言った。

ティノは、考え込んでいた。

「ねえ・・・やれるって心を描いてよ、心に描けば、奇跡がおこるのよ、描かなくちゃ、なにも始まらないわ」ハーミィまでも、切実に言った。

ティノもセレーナも、モナも、みんなが悩んでいた。

あまりに重大な一歩故に、ためらいと不安でいっぱいだったのだ。


「お兄ちゃん、やろう」モナがティノに向かって叫んだ。

「ティノ、奇跡を起こすも起こさないもチャレンジなくして何も起きないわ」セレーナが言った。

「う~ん・・・」ティノは大きなため息をついた。

怖さ故のため息ではない、モナやセレーナまで危険にさらす事になる不安のため息だった。

だが、次の瞬間、ティノは大きく目を見開いて、ベリータ女王の前に佇み言った。


「わかりました女王様、世の中の恨みと憎しみを消すことが出来るなら、僕、その魔法のヴァイオリンの奇跡を信じてみます」

「私もティノを助けます」セレーナが言った。

「お兄ちゃん、頑張ろう」モナが言った。

「ああ、みんなでやろう、みんなで魔法のヴァイオリンを造ろう」

ティノがそう答えると、ベリータ女王の目から涙がこぼれ、その涙は、城の窓から天空に昇り、夜空の星となって輝き出した。

「ありがとう、ティノさん、やってもらえるのですね、その言葉を待っていました」


 ベリータ女王は、これからするべき事を伝えた。

伝え終わると、ベリータ女王は、天に向かい両手を広げ、呪文を唱えた。

すると、ベリータ女王の両手がキラキラキラキラと輝き、両手に聖物が現れた。


 最初に現れた聖物は、手綱だった。

「ティノさん、この手綱をお持ち下さい、手綱は、白馬に付ければ、旅の先々で助けるでしょう」


次ぎに、現れたのが、ヴァイオリンの弓だった。

「セレーナさんにはこの弓を・・・魔法のヴァイオリンが完成したら、この弓で弾いてください、魔法の力はさらに強くなります、この弓を託せるのは、セレーナさん意外にないのですよ」

「私がここに来たのは偶然ではなかったのですね」とセレーナが尋ねた。

「偶然では有りませんよ、ティノさんと一緒に来る運命だったのです、あなたがヴァイオリニストになったのも、運命だったのですよ」

「えっ・・そ、そうだったのですか!」

セレーナは、ベリータ女王の言葉にいたく感動した。


三番目に現れたのが、小さな小瓶に詰められた紅い色をした液体だった。

「モナさん、これはあなたに」

「この液は、なんですか?ベリータ女王様」

「これは、特別な癒やしの樹から採取した樹液です。魔法のヴァイオリンに塗るニスに混ぜるのですが、それだけでは無く、苦しいとき悲しいときにこの樹液は役に立ちます。お兄さんとセレーナさんを助けるために、あなたも、ここに来たのです、モナさんのたくましい気持ちが必要な旅なのです、ですから、もちろん偶然ではなかったのですよ」

「ありがとうございます。ベリータ女王様」モナは深々とお辞儀をした。

ベリータ女王が、ティノ達に、聖物を渡すと、三人の手はまぶしいほどに輝いた。


「ティノさん、セレーナさん、モナさん、アルプスの山奥に住む森の魔法使いを尋ね、彼の道案内で、魔法の樹の森に行かなければなりませんが、行く先々で困難な問題が生じるでしょう、今授けたものは、必ず皆さんを助ける事でしょう、たとえ困難や絶望しそうな事が押し寄せても、あきらめない心があれば、必ずや奇跡は起こります」 

 ベリータ女王とハーミィ達が、深々と頭を下げた。

ティノとセレーナとモナも、深々と頭を下げた。

「それでは、またお会いしましょう・・・勝利を祈っております」

ベリータ女王がそう言うと、金色に輝く光に包まれ、姿が見えなくなった。


 ベリータ女王が去ると、モナがハーミィの顔を見つめ

「ねぇ、ハーミィ、セレーナさんも私も、偶然に来たんじゃないって、ベリータ女王さまが、言ってたわね、ハーミィはさぁ、来ちゃったからしょうがないわとか言ってたけど・・・」モナが、ハーミィに言った。

ハーミィは、少しばかり、小首を傾げて、モナに済まなそうにした。

「モナ・・・そうみたいね・・・ごめん、私、解らなかった、とにかく、三人と私とで、魔法のヴァイオリンを造る旅をするって事で、頑張ろうね・・・ね、モナ」

ハーミィがモナの顔もとでそう言った。

「モナ、あんまりハーミィをからかうなよ・・・」ティノが言った。

「からかってる訳じゃないよ・・・真実を言ったまでのこと」

「まったく、はははは・・・」ティノが笑うと、みんなも笑った。

「よし、とにかくみんながそれぞれの役目を仰せつかった訳だから、頑張ろう、早く魔法のヴァイオリンを完成させなくちゃ」ティノが大きな声で、そう言った。

セレーナ、モナ、ハーミィみんなが大きくうなずいた。

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