第20話

空が明るみ出した頃

目を開けると優奈はもう、服を着てベッドに座ってた


「もう、起きてたんだ?」


「うん」


隣に並んで肩を引き寄せると頭を傾けてゆっくり話し始めた


「瞬...ロス行くことにした?」


表情1つ変えずに話す優奈の顔を覗き込んだ


「どうして、それを」


「私もね、先日知った。たぶん、瞬より後にね。

父は私が思ってたより、ずっと前から私達のこと知ってたんだよ。

瞬のことを聞かれたわ。父のせいで瞬が辛い思いするんじゃないかと思って、お願いしたの。彼から音楽だけはとらないでって」


「そんなこと」


「その答えがロス行きだったんだね。

父も少しは私の言うこと聞いてくれたんだと思ったよ」


「何でそんな落ち着いて言えんだよ。写真撮られたってのは?」


「そんなの本当かどうかわからないわよ。

だって、実際、写真見た?見てないよね。

ロスへ行かせるうまいシナリオだよね」



「まじかよ。っで優奈は...」


「私は政治家になる」


「それじゃあ、親のいいなりじゃん」


「いいなり、じゃないよ。私が決めたから。

だから......ロスに行って。瞬は瞬の音楽を作って」


「会えないじゃん」


「...うん、そうだね」


「優奈はそれでいいのか?」


「......」


「俺は納得出来ない」


「瞬...ごめんね。私なんかが瞬の前に現れて...」


「はぁ?何言ってんだよっ?

俺は、優奈と出会えこと、

運命だと思ってる」


「...それ...クスッ...聞いたことある」


「何、笑ってんだよ。こんな時に」


「私のこと、酷い女だと思って、最低な人間だと思って」


「思えるかよ」


彼女は立ち上がって俺の方を見て微笑んで言った


「瞬...お願い、もう1度、私の名前呼んで?」


俺は彼女を抱きしめて唇を耳元に寄せた


「優奈...」


「やっぱり瞬の声、好きだなぁ」


「何度だって呼ぶよ。

優奈...優奈...ゆう...」


「もういいよっ。もう...」


俺の胸を押した


「結局、聞けなかったよね。歌。

いつか、瞬の歌聞かせてね」


後ずさりしながら、離れようとする彼女をの手首を掴んだ

首を横に振って俺の手を解くと玄関まで逃げていく


「待てよ」


「瞬...じゃあね...バイバイ」


「優奈!」



何がバイバイだよ、涙ひとつ見せずに手を振って出て行くなんて、

こんな、あっけない最後あるかよ

ほんっと、ひっでぇ女だよ



あの夏の日、僕は君と出会った


何かに引き寄せられるように


出会って

恋して

愛して

...愛し合った


彼女の香りと温もりがまだ、この腕に残ってる


ひんやりとした部屋に残された俺は

声を上げて泣いた

これほど、泣いたのは初めてだった


優奈は俺に悲しい初めてを置いていった

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