第15話

彼と抱き合う度、今までになかった感情が溢れてくる


愛しい...切ない...かけがえのない


瞬は私にたくさんの初めてをくれる



「おはよ」


うつ伏せになって眠る彼の方を向いてそっと唇に触れた


「んー?おはよ、眠れた?」


「うん、ぐっすり」


「だろ?だって優奈って、どんどんエロくなってくるからさ」


「もうー、やめてよー」


「好きなんだけどな、そういうとこも」


ドキッとすることを平気な顔で言うんだもん。どうしていいかわかんないよ


「優奈ぁ?」


「あー、そんな声で呼ばないでよー」


「っんだよ、それ」


「瞬の声って、優しいんだけと。低くて男らしいし、色っぽいし、私、弱いのよー。ふにゃふにゃになっちゃうの」


「ハハハ、それ、褒められてんの?」


「もちろんよ。良い声だって言ってるのよ。瞬は歌ったりしないの?」


「ほんっと優奈って世間知らずのお嬢様なんだな。いやっ、俺がまだまだなのか」


彼も横向きになって私の髪を耳かけた


「ん?」


「俺、昔歌ってたんだ。だから、プロデューサーになった今もそこそこ顔が割れてんの」


「もう、歌わないの?どうして?」


「どうして?って。別に大した理由はないけど、今はやりたいように自分の音を作り上げていくのが、楽しいんだ」


「聞いてみたいなぁ、瞬の歌」


「また、自分の声で伝えたい歌が出来たら

歌うよ」


そう、言った彼の歌をいつか私が聞く頃、

隣で寄り添っていれるのだろうか



その夜、

父に問われた


卒業後、叔父の法律事務所に就職するのか、

それとも...

答えなんて、出るはずもない


私は瞬と離れることなんて、考えられなかったから


自分の部屋に戻ろうとすると廊下で呼び止められた



「お嬢様、少しいいですか?」

「葉山、何?急ぎ?もう遅いから明日にして」

「急ぎです」

「え?」


「旦那様がお嬢様が近頃、帰りが遅いことを心配されて、お調べになっております。行動は気をつけてください」


「...そう。でも、葉山、それを私に言っては」


「そうですね。まぁ、もう、勤務は終わってますので...。

お嬢様...幸せそうに笑ってらっしゃいますからね。今まで、そんな顔を見たことはありませんでした」


「...ありがとう」



満月に暗雲が立ち込めてきたのかもしれない


季節は秋から冬へと移ろい始めた頃だった

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