世界改変
翌日のこと。いつもより早く出社すると、人の少ないオフィスに瑞嘉がいたので早速話しかけた。
無論、リライトの経緯は伏せておく。正直に話したところで、瑞嘉から精神科を紹介されるか『現実とゲームを混同してしまうほど、疲れているの?』と、悲しい眼で見られるだろう。
「ちょっと訊きたいことがあってさ」
「おはよう。朝から真面目なお仕事の話?」
コンビニで買った百円コーヒーを啜っている瑞嘉に、レヴァルシアの白兎は会社側から見て成功した案件かどうかを訊くと、
「なにそれ? クライアントとトラブルでもあったの?」
質問の意図を読み取ってもらえず、不思議な顔をされてしまった。
「いや……そうじゃなくって」
「順調そうじゃなかった? 舞於のシナリオ企画、クライアントから喜ばれて実際にユーザーからも好評だったじゃない。主人公がキャラクターの良さや強みを上手く引き出して、面白い戦い方をしているってことで」
なるほど……世界改変はゲームだけでなく、僕とクライアントのやり取りも都合良く変えられている訳か。
「書きたいシナリオを書けて……リリース時も舞於、満足そうにしていたよね。ああいう案件が増えると、私達ライターのモチベーションも上がっていいんだけどなあ」
羨ましそうに話す瑞嘉に微笑み返し、まあねと短く呟いた。
しばらくして、朝のメールチェックを終えてから再度、スマホでリターニャ達と会話をした。人目を憚るため、外の非常階段で。
「きみ達と出会って、僕は優秀なディレクターになっていたらしい」
「良かったです。マオ様のご期待に応えられるリライトで……」
画面上のディオネは、シックな雰囲気のカフェにいた。コンビニコーヒーよりずっと香ばしい匂いが漂いそうなカプチーノを味わっている。
「ちなみに、今の二人はレヴァルシアの白兎にいるキャラクターとは別物になるのか?」
「そうね。リライトされたシナリオには、ソーシャルゲームで登場する私達がいるけど、この私達は『クローラー』として独立した存在だと思ってちょうだい」
リターニャはナイフでパンケーキを切り分け、ホイップクリームをつけてゆっくりと咀嚼している。クールな女騎士とのギャップを作る好物の設定は、ちゃんと実現されているみたいだ。
「そのクローラーって前も言っていたけど……」
「みなまで言わないで。マオの知りたいこと、キッチリと答えてあげるわ。あなたがリライターとしての素質が非常にあると判った以上、あなたを信頼した上でのコミュニケートをしないとね」
パンケーキに合いそうなカフェオレを一口飲んでから、リターニャが高らかに宣言した。
「シナリオの価値が低いソーシャルゲームはまだまだあるわ。ゆえに、私達とマオで協力して、間違ったソーシャルゲームのシナリオリライトをしていきましょ!」
「あ、リターニャ様……口元にクリームが付いたままですよ……」
カッコつけて言ったはずが、どうも締まりが悪かった。ディオネにティッシュでクリームを拭きとってもらい、ポケットから取り出した手鏡で顔と髪型をチェックしてから、彼女は僕と目線を合わせる。
「もう一回、言い直した方が良いかしら?」
「いや、大丈夫だ……」
一連の行動を真面目にこなしている彼女の姿が可笑しく思えて、本題について訊くまで多少のタイムラグがあっただろう。
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