第4話

「もう睡眠薬も麻酔も効かないのよ」と母は言った。

 麻酔と言う時、イントネーションが強張っていたので、モルヒネかそれ以上の薬が投与されているのだろう。

 母は昔、病気か怪我でモルヒネを処方され、危うく中毒になりかけたそうだ。



「手を握ってあげて」母は言った。

「数日前から寝れないけど、分かると思うよ」と妹が言って、シマッタという顔をした。


 この病室の人は、この階の人は、いや、この病棟の人達は四六時中この鼓膜が破れそうな叫び声を聴き続けているのか。


 よくクレームが来ないものだ。



 父はベッドの上で僅かに仰け反り、ひたすら叫び続けていた。


 父の手を握ると、ゴツゴツしていてコンクリートか鉄骨を握っているようだった。


 ふくよかだった顔も体もやせ細っていた。


 この病院に連れて行く時、少し抱きかかえたが、その時はまだ体重も重く、関節も柔らかかった。しかし、今は硬直していて、「硬直」と云う言葉が死の匂いを漂わせていた。

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