第39話 神殺しのススメ・2

 結局、シャイアから何の連絡も無いまま戴冠式を明日に控える事になった。


 リユニアとナタリアも流石に困惑したが、力ある伯爵以上の貴族も城に集まっている。


 此方からシャイアに連絡する術も無い。カレンやニシナ、ソルテスもシャイアの側に付いている。


 リユニアはルルイエに食糧流出問題について親書を出したが、戴冠式が近いため、節約の為に前日に伺います、と返事が返って来た。国全体で節約を謳っている現状、この言い分では強く呼びつける事もできない。


 了解の旨を返し、今日を待った。


 ナタリアは何度か西に斥候に出ようかと申し出てくれたが、リユニアはこれを断った。


 あくまでアシュタロスの軍勢を欺く事が主目的でこうしているのだ。ナタリアが動くことはそれを台無しにする行為であると判断し、ナタリアも不承不承ながら従ったのだ。


 ナタリアはリユニアをよく助けていた。


 彼女は政治経済にも明るく、シャイアのやり方も知っていたので、リユニアにとっては『返すつもりの国』なので実に的確に助言を受けた。


 親書という形での催促も彼女の提言である。あくまで断わる隙を作っておく事で、リユニアから見たルルイエは一アシュタロスの軍勢であると仄めかす。


 平素のリユニアならば自分で西に赴く位はやってのけるからだ。


 ローザはナタリアの内面を心配していた。


 シャイアとの仲睦まじい様子を知っていた使用人一同は、執事長の失踪(ということになっている)に続き、あの王が亡くなられるなど、とリユニアに対してあまり良い顔をしていなかった。


 ただ、それを表に出すような素人はいない。


 それがナタリアへの心配に向いてた。


「王妃様、リユニア様はよいお方です。きっと悪くはなさりません。あまりお気を落としにならないでくださいね」


 ローザが泣きそうな顔でそう言うたびに、ナタリアは罪悪感を胸に秘めながら、えぇ、と曖昧に頷いて誤魔化している。


 そんな事を思い返していると、ロダスが執務室にやってきた。


「どうした?」


「アッガーラの方々がお見えです。急ぎの用とかで……」


「すぐに通せ」


「はっ」


 リユニアは実に王らしい王だ。ロダスや政を行う書官たちには高く評価されている。


 シャイアを討った事についてはやり過ぎだと思っているのだが、ここにもそれを顔に出すような素人は居ないため、多少のぎこちなさがあるもののうまく回っていた。


 ロダスがアッガーラを控えの間に呼びにいく。


 バルクを筆頭に六人からなる狩猟の民は一斉に立ち上がり執務室へ向かう。


 その際、ひとりのローブを被った男とロダスの肩がぶつかった。


 男は頭を軽く下げる。その時ロダスと目があった。


 ロダスが声を上げそうになる瞬間、男は片目を瞑って人差し指を口に当てた。


 内緒だぞ、という意味である。


 ロダスはすんでのところで悲鳴をこらえると、アッガーラについて執務室に向かった。


 途中、リアンにも声を掛けた。そうすべきだと思ったからだ。


 執務室に入ると男はローブを脱いだ。


「待たせた。時は来たれり、だ」


 茶目っ気たっぷりに男……シャイアは、執務室の面々に告げた。

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