エピローグ
翌朝、王都に帰還する諸将軍達の元へと向かうオルドを見送るためにムラン達が街の出口に集まっていた。
「それでは大変お世話になりました。貴方がたのことは王都のしかるべきお方に報告しておきますので」
「ありがとうございます。道中、どうか怪我等なさらないように気をつけてください」
馬上のオルドにそういって小さく頭を下げる。
習うようにスアピやイヨンも頭を下げて貴族であるオルドに最大限の敬意を表するポーズをとる。
彼ら主従をまるで親のような微笑ましい顔で見下ろして、オルドが馬にムチを入れて進ませ……ようとして、一度馬を止めて振り返り、
「そうそうスアピ殿、昨夜に私に突きつけた槍の一撃は見事でした。次に会う時にもう一度見せてくださいね……もっとも突きつける先は私にではなく敵にお願いしますよ」
言い残してさっと馬を走らせて今度は振り返らず去っていった。
とんでもない別れの言葉にムランの顔が一瞬で青くなり、そのまま後ろに倒れてしまう。
ここしばらくの緊張や驚き、そして大盤振る舞いした物資をいかに税を上げずに不足を補うかという戦後の悩みを抱えていた彼の精神はとうとう限界を迎えてしまったのだ。
「あのやろう…しっかり報復してきやがった」
してやられたぜ…それにしても…。
気絶した主を見下ろしながらどう言い訳をしようかスアピは冷や汗を流しながら普段使わない頭を使って考えるのだった。
ちなみにイヨンは倒れたムランの頭をよしよしと撫でながらニコニコしていました。
ヨシュウの街を出て、およそ数キロの辺りでいつの間にかオルドの後ろには彼の忠実な家臣たちが後ろについていた。
「やあ、お帰り……首尾はどうだい?」
「……こちらをどうぞ」
渡された羊皮紙を片手で広げながら、器用に馬上で胡坐をかく。
「なるほど……これは予想以上の量だね」
グラムの隠し財宝の目録を見たオルドは興味無さげにつぶやいた。
「それで彼は死んだのかい?」
羊皮紙を少年に返し、ニッコリと問いかける。
「はい…少々ぐずっておりましたが…」
ニヤリと少年たちが答えた。
其の返事を聞いて満足そうにオルドは頷くと、
「素晴らしい…ああいった反逆者は末路を人々に見せて悪辣の結果を見せるべきなのです」
まるで演説するような口調でオルドは馬上で話しつづける。
「そしてさらに素晴らしい。私は望み通りに有能な武人、そうだな名前はムガールにしよう! 強そうだしね! それを一人我が貴下に入れることができました!」
そう叫んだオルドが向かう先には大柄で虎のような髭を生やした男が馬に乗って彼らを待っていた。
「だが、理想を叶える為にはまだまだ様々な才能が必要!ムラン、イヨン、そしてスアピ!いずれ彼らも僕の理想の仲間にしてあげよう……きっとその方が喜ぶし、彼らにとっても幸運に違いないよ……そう思うだろ?」
振り返って同意を呼び掛けるオルドに少年二人が最高の笑顔で、
「はい、その通りでございます」
「はい、そう思いま~す」
同意する二人にまるで夢を語る少年のようなキラキラとした瞳でオルドは答える。
「うん!その通りだ!彼らをこんな田舎から脱出させてあげないと…今回は失敗したが次こそは絶対仲間にするぞ~」
ムランの望みを勘違いして、まるで少年のように笑うオルドを実際に少年であるはずの二人は尊敬するような眼差しをしていた。
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