もう一つのエピローグ
「なるほど……こんなところに隠していたのですね」
山の奥深く、狭い隠し通路を通った先にそれは隠してあった。
積み上げられた様々な貴金属類を見上げながらあどけない顔の少年が素直に驚嘆する。
「ふん!いまとなっては無駄なものになったがな」
投げやりな言葉とは裏腹に表情は妙に達観したものだった。
「そうですか……ところでこれからどうするおつもりなんですか?」
目の前の財宝に視線を動かさず、かつて『アッサーム』だった少年は横目でグラン将軍を見る。
右手は懐に入れ、さりげなく距離をとりながら……。
「全て持っていけ……そのままどこかで自死でもするわ」
一瞬驚きながらも油断なく距離を取った少年は問いかける。
「本当によろしいのですか?約束は半分だったはずなのですが]
「……空しい」
「はっ……?」
「カンバルの仇も討てず、自身のつまらない欲で部下達を撒きこみ死地へと送りこんでしまった……そしてそれを今更ながら思い知った。これだけの生き恥を晒してもう生きようとは思わん」
近くの岩に腰掛け、まるでこの数時間で何年も歳をとったかのようにグラムは疲れきっていた。
そう、何十年も働き続けた老人のようだ。
「どうせこの場所を聞いたら俺を始末する気だったんだろう?手間が省けてよかろう、この首を持って主の手柄にすればよい」
そう言うと腰についていた剣を投げ捨て項垂れるように首を差し出す。
「……諦めたら全て終わりなんですよ?」
「ふん、ガキが悟ったようなことを言う……俺に今更何が出来る?帝国に生涯終われ続け、武人としての矜持も失った……これ以上惨めな状況になるとは思えんな」
すっとカンバルの前に誰かが膝を着く。
それは彼が『アッサーム』と名乗っていた少年で、得体の知れない薄気味悪い瞳をまっすぐに伸ばし彼を見上げている。
「……何のつもりだ?」
まるで拗ねた少年のような言葉のグラムに『アッサーム』は射抜くような目で未だ彼を見据えている。
「グラム将軍には死んでもらいますが、あなたもこのまま終わりたくはないのではないですか?」
「……?」
「我が主から託された命は二つありました。ひとつはグラム将軍の隠し財産を手に入れること、そしてグラム将軍の死亡、もしくは行方不明になってもらうことです」
「ならばそうすれば良いだ……行方不明だと?」
驚愕して問い返すグラムに少年はニンマリと笑って返す。
「はい、我が主は有能な部下を探しているのですよ、そのためには手段を選びませんし、どんなことでも許します」
「……俺はお前の主の手の上で踊っていただけなのか」
「いえいえ……グラム将軍はあまりにもよく動くので手のひらからこぼれ落とさないように私も主も必死でしたよ」
「……俺の部下はどうなってる?」
「今は降伏を許されています」
「今は……か」
確かに降伏した兵達の立場は微妙だ。
許されて降伏を受け入れられてもそんなものは後で幾らでも反故にできる。
中央で肥え太った連中なら腹いせにそれくらいのこともするだろう……いや、しないはずがない!
「……ここで死んで部下を巻き添えにするのですか?」
なるほど、脅迫か……。
だがこの立場で言えば『救い』なのかもしれない。
「それにあなたの邪魔をした彼らとの決着もついていませんよ」
瞬間、血が滾る。
ある意味部下達の身の安全よりもそれはグラムの心を刺激した。
あの何も考えていないような若造に一杯食らわされ、その隣にいた者たちに自分の部下や戦術を台無しにされたことを思い出したのだ。
それが最後の一押しだった。
「もはや他に道は無し……好きにこの愚物を使えばいい」
「はい、きっと我が主も喜びますよ」
カンバルよ、いま少しだけ待っていてくれ……このままでは終わることは出来ないのだ……すまんな。
空を仰ぎ、皮肉に晴れ渡っている空を彼はずっと見上げるのだった。
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