2.遠いあの星
ボムはどこに行ってしまったのか。
トリップ的な感覚で、ボムの魂は宇宙空間を通り過ぎて行った。いや、決められた場所に流れていった。
ボムは死んでから蘇るまでは、まるで眠っているように夢を見るのだが、今回のは夢ではない。
近い場所には小惑星が浮かんで、通り過ぎていき、たまにその中をすり抜けた。
気分の悪さは悪夢の比ではない。
体に重さがないので自分がそこにいるのかも正直怪しい。
やっぱり、どこかで薬でも打たれて、ほんとは死んでないんじゃないか?
ない口元を緩めてみたりする。
一つやけに青い星が端の方を光らせながら近づいてきた。
きれいな星だなあー。バイサーバに似ている。
この感じだと、またすり抜けていくな。すり抜けた側は何か感じるんだろうか。ところで自分はどこまで行くんだ?ああ、建物が見える。
あの建物にぶつかるな。まちがいない。この星の住民の姿が見れるな。ああ、バイサーバと本当に変わらないな。全く変わらない。
え、いや、ちょっと待ってくれ。あの妊婦のなかに?いや、止まってくれ。止まれ!
止まれ!!
止まれえええええええええええええ!!
視界が赤い。ほんのりと明かりが入ってくるのがわかる。温かい?手や、足の感覚がある。狭いな。膝が伸びない…。
「あ、蹴ったわ。お腹の子。きっと、この子もお兄ちゃんのことを悲しんでいるんだわ」
…なんと、なんとなんと、なんてことだ。転生ってやつか?勘弁してくれ。そんな流れに乗った覚えはないぞ。
「なあ、この子の名前、あの子からとってはダメかい?」
「女の子でも?」
「できることなら。」
一点が暗くなる。
急に眠気が…。体を手に入れた弊害か?
また…視界が遠くに…。
次に目が覚めた時は別の場所だ。
「うぅ、ああーう」
歯がないからか、喋れない。ちっちゃい手。安定しない曲がった足。体中水が注入されたみたいに動かない。
いまはガラスの中にいるようだ。隣のベットに母親と思われる人物が私の方を見ている。安らかな顔をしているようで、どこかおびえている。
「あなたは、誰にも似ていないわ」
風が吹いてしまったら、消えてしまいそうな声で言った。
子供にいうセリフか?
奥の男性が悲しそうな顔をする。
「かの救世主も、いつの間にか生まれた子。のような表現をされているところもある。だから、そんなことを言わないでくれ」
また眠っていた。いつの間にやら体はすっかり大きくなっている。この体。他に誰かいるな。
「おーう」
声かけてみる。
(おーう)
おお、答えた。
(はじめまして。)
私はディ・ボムっていうんだけど、君は?
(ニコラス。パパはアレクサンドル。)
そうか、ママは?
(ママは嫌い。お姉ちゃんも。)
パパは何やってるの?
(神父さん。いろんなこと教えてくれるの)
それじゃあ、昔お姉さんの他に兄弟がいたのを知ってる?
(知らない)
君と同じ名前のお兄さんがいて、君はその名前をもらったんだよ。
その名前は、女の子の物じゃないけど、しっかりとした家族の願いがこもった名前だよ。その名前は好きかい?
(うん、大好き)
この星の時の流れは早い。
ニコラスもいつの間にか高等教育を受けられるような年になっていた。今日初めて顔を見てみる。ニコラスの家族の写真と見比べながら。
確かに、写真に写る誰とも似ていない。どちらかといえば、ピラのきれいな顔の部分に似ている。うん?だとしたら私が、ニコがニコの家族に似ていない原因なのか?
(あ、ボム。ひさしぶり。何見てるの?)
いや、初めて私は鏡みたから…。
(そうなの。私の顔、どう?)
私に似てる。
(ボムに?どういうこと?)
私は魂だけがここに来たんだ。それでニコの体にに間借りしてるみたいな感じ。なのに顔が私に似ている。
(じゃあ、この顔はボムのお陰なのね)
私を怒らないの?
(なんでおこるのよ。逆に私はやっと、私に似ている人に出会えたのよ。しかも、あなたなら離れることもないじゃない。)
そうかい?
(うん。だから、私が呼んだらあなたは起きてくれる?)
もちろんいいよ。
(ボム、ボム)
ただ眼を開くみたいに目が覚めた。金縛りにあったみたいで、体は動かせない。
どうしたの?
(私、これからずっと東に行くの。ここから近いんだけど、回り道しないといけない大陸に行くの。)
なんで?
(私にとっての自由を見つけるため。)
ニコラスが窓の方を向くと、私もニコラスの中から窓の外を眺めた。地上が馬より早く駆け抜けていく。
あの場所にはなかったのかい?
(名前にも、性別にも縛られた。ボムがいたところはどうだった?)
…どうしよ、ホムンクルスで元は屠られるために生まれてきたとは言えないし、かといって変な答えをしてもな…。うーん。
私は、体が弱かったから誰かに頼っていないと生きてらんなかった。私のことを確かに護ってくれてたけど、時にはひどいこと言われたりした。
「それ、ボムはどういう人だったんだ?」
絶対にまねしてはいけないものだよ。
本当は生きてちゃいけないんだ。それは、生きてる全ての物を侮辱することだから。
城上町。あれから4年程。テレビ塔がたったり、下の城に撮影用の部屋が作られたり、テーマパークが建設中であったりと、目まぐるしくその姿を変えていた。未だ、風は吹いている。
城の中から、番組の撮影が終わったためコロとスイセイが出てきた。スイセイは片手年ほどコロの友人として見張っているが、もう、限界である。
この人、次から次に新しいこと始めやがる!!
いつの間にやら熱されても丁寧であった口調は、熱されれば熱されるほど感情的になり、最悪、チンピラ同然まで行くようになった。早急に氷らせる必要がある。
精神をかなりすり減らされているが、何とかコロを一度も殴らずに済んでいる。
「なあ、番組司会を今度増やそうと思うんだけど、ミキ・ツルホはダメかな」
【なあ】の【あ】の部分を大きく甲高くして言う。
「ダメ」
おそらく目を細めて笑っているであろうコロの顔に団扇が被るように仰ぐ。
「なんでダメなんだい?君あの子と仲良かっただろ?」
「最近会えてないんですよ、それにまず会いたくない」
湧き出そうな怒りを噛み殺しながら言う。
「映画でみたが、それは思春期というらしいぞ。」
「だったら相手の方法も分かるでしょ?」
ひらひらと手を振り返される。
「これから君に読んでほしいものがあったっていうのに、イライラしているようなら別にいいよ。」
「読む?」
「うん。お客さんが来てるんだ。」
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