1.電波塔

「次は天気予報です。シスイくーん。」

「はーい。触手も凍える日々が続きますが、今日の占いですとー、日中晴れ!ですが、夜中は風が吹き荒れます!そろそろ季節の変わり目ですね!ですが、油断は禁物!今年の花の開花時期は極めて遅れるようです。去年が暑かった分が跳ね返ってきてる感じですねー。え?占いでそんなに分かるのかって?一つの結果は必ず原因があるのですよ。それを全て手中に収めて、因果律などを踏まえていくと、はっきりとした結果が現れるんです。ちなみに、私の恋愛運は現在もうなぎのぼり!」


 天気の操作方法を失ったライトビは、ずっと隠していた機械技術を明らかにし、テレビジョンを作りだし、既に電波放送を開始していた。これまで天気が安定していた分、不安定な天気は混乱を呼んだが、優秀な海の占い師、シスイによる天気占いをテレビを用いて広く知らせることで混乱はすっかり収まった。


 ベイズ、シルヴィアはそれを静かに眺めた。幕間での話にはなるのだが、海を出たシスイはそのままシルヴィアに気に入られて、このログハウスに住んでいる。このログハウスもシルヴィアの体の一部みたいなものであるから部屋の増築などたやすい。

「恥ずかしいことを言ってくれるな」

 数年前、マルーリから頂いた眼鏡を身に着け、相変わら銀髪を上に結んでいる。ベイズもとりあえず14歳ぐらいにはなったので、ただの世間知らずの少年ではなくなった。

 この、のろけているシルヴィアに苦言の一つぐらいは吐けるようになった。

 そりゃ、周りにいる大人が王族ばかりであるし。

「やめてほしいですねぇ。公共でそういうことするの…」

 はやく天気予報が終われと、呪詛のようにつぶやいた。

「フフフ、君にもそういう人が現れるかもしれないだろう?」

「僕は異形じゃないんで。」

 そう言って、自身のオレンジの髪にも負けないくらいのオレンジ色の紅茶をグビッと飲み干した。

 画面からシスイが姿を消すと、元の司会者に画面が戻った。


 長い黒髪に、細長い瞳。コロ王の普段の姿だ。アヴソウル・コロとは名乗らず、コロ丸と名乗っている。

 あれから、呼ばれることはないに等しいが、司会をするコロの隣にいるスイセイはよく会う。ツキヨが消えたことで、グリマラに唯一残る親戚になったのもあるし、ライ族のことを教えてもらうためだ。

 テレビが出回ってからベイズはすっかりテレビっ子だ。

 邪魔さえなければいつもテレビにかじりついている。いつか自分で自分を守れるようになったら城上町に移り住むんだ、と思いながら。城上町には、ヤマメがいるから。

 テレビには映らないが、ヤマメが城上町、テレビで映っている場所に近いところにいるというのは前会ってから知っている。


 ライトビの発明した品物をいくつか紹介しよう。

 映像と音声を映し出すのがテレビで、それと同じように情報を発信する機器、ラジオ。

 個人同士のやり取りが、遠く離れていても可能になる【ドコデモ】。

 だが、これらの機器、仕組みさえ分かっていれば誰でも作れる。特に元素魔法が得意でなおかつ、構造を一目見ただけで分かるようなヤマメやマモリは買わずとも作れた。

 ベイズは自身の体で作り出すことでこのドコデモを手にしている。


 いつもベイズの体の中に埋まっているドコデモが突然鳴り出した。

 シルヴィアは手に持ったコップを揺らした。

 右手から取り出して、耳元に当てる。

「なんですか?」

 スイセイは今現在連絡が取れるような状態ではない。今、連絡してきているのは、かのマルーリである。

「すまないがシルヴィアにかわってくれ」

 シルヴィアに渡す。

「はい、いかがしました?」

「ヤマメがベイズ君を連れて行きたがっているんだ。その、ちょっとした旅にね」

「ヤマメさんが?」

 ベイズの方に目をやる。ヤマメの名前を聞いた途端目を輝かせている。

「うん。それで保護者である君の了承を受けるべきだとかんがえてね」

「そんなことしなくても、ベイズならヤマメさんと聞くだけでそちらに出かけていきますよ。」

「そうかい。なら今日の昼当たり、連れてきてくれ。君にも紹介しておきたい人がいる。」

 通話を切り、ベイズに目を向ける。                               

「お呼び出しだ。昼には出ていくから準備しておけ」

「あ、はい」

 ベイズは、ほっとしたような顔をした。

 よかった、ついてきてくれるんだ。と。

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